特許第5790774号(P5790774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790774
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】超音波センサ
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20150917BHJP
   G01S 7/521 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H04R17/00 330J
   H04R17/00 330G
   G01S7/521 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-541654(P2013-541654)
(86)(22)【出願日】2012年7月10日
(86)【国際出願番号】JP2012067538
(87)【国際公開番号】WO2013065359
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2014年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-239339(P2011-239339)
(32)【優先日】2011年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健宏
【審査官】 武田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−266498(JP,A)
【文献】 特開2003−302384(JP,A)
【文献】 特開2010−118957(JP,A)
【文献】 特開2008−309512(JP,A)
【文献】 実開平07−026732(JP,U)
【文献】 古川 睦久,緒方 元範,横山 哲夫,セグメンティドポリウレタンの動的粘弾性,長崎大学工学部研究報告,(5),日本,長崎大学,1974年12月,135−141ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
G01S 7/521
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に振動領域を有する有底筒状のケースと、
前記ケースの開口内で前記振動領域に貼り付けられている圧電素子と、
前記ケースの開口内に先端が配置され、前記ケースの開口内から外部に引き出されている端子部と、
ウレタン樹脂を主材としていて、前記ケースの開口内に充填されている制振材と、
を備え、
前記制振材は、ガラス転移点が実使用温度範囲の下限温度よりも低温側である材料からなり、その損失弾性率−温度特性において、ガラス転移点を中心とするピークの高温側に位置する変曲点が実使用温度範囲から外れ、
前記制振材は、実使用温度範囲の全域に亘って、損失弾性率が1.5Mpaを超え、53.5Mpa未満であることを特徴としている、超音波センサ。
【請求項2】
前記制振材は、損失弾性率‐温度特性において、ガラス転移点を中心とするピークの3dB幅となる温度範囲が、実使用温度範囲の下限温度よりも低温側である、請求項1に記載の超音波センサ。
【請求項3】
前記実使用温度範囲は、−40℃乃至85℃である、請求項1または請求項2に記載の超音波センサ。
【請求項4】
前記制振材は、ポリオール系ウレタンを主材とし、無機系フィラーを混成して硬化させたものであり、ポリオールを前記ガラス転移点および前記損失弾性率−温度特性を実現するように構成した、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の超音波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧電素子をケースに接合した構成の超音波センサ、たとえば、自動車のコーナーソナーやバックソナーなどに用いられる超音波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波センサは、超音波パルス信号を間欠的に送信し、反射波を受信することにより障害物や物標を検知するものである(例えば特許文献1参照。)。自動車のバックソナー、コーナーソナー、さらには、縦列駐車における側壁等の障害物とのスペースの有無を検知するパーキングスポットセンサ等には超音波センサが用いられている。
【0003】
図5(A)は、従来の超音波センサの構成例を示す断面図である。超音波センサ101は、ケース102と、圧電素子103と、吸音材106と、ダンピング材104と、ピン端子107A,107Bと、リード線108A,108Bと、を備えている。ケース102は、有底筒状であり、導電性を持つ金属等の材料で構成されている。圧電素子103は、ケース102の開口内底面に、導電性接着剤などによって接着されている。図5(B)は、圧電素子103の構成例を示す斜視図である。圧電素子103は、両主面に駆動電極103A,103Bが形成されたものである。
【0004】
また、図5(A)に示すように、ピン端子107A,107Bは、ケース102の開口内に先端が挿入されている。ダンピング材104は、ケース102の開口内でピン端子107A,107Bの先端を封止している。リード線108Bは、ピン端子107Bの先端とケース102との間に接続されていて、ケース102を介して圧電素子103の下面に設けられた駆動電極103Aに電気的に接続されている。リード線108Aは、ピン端子107Aの先端と圧電素子103の上面に形成された駆動電極103Bとの間を接続している。
【0005】
このような構成の超音波センサ101において、ダンピング材104は、ケース102の残響を抑え、ピン端子107A,107Bに不要な振動が伝わることを防ぐ目的で設けられている。ダンピング材104の材質には、通常、シリコーン樹脂やウレタン樹脂などの粘弾性体が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−123603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車のバックソナー、コーナーソナー、パーキングスポットセンサ等の超音波センサでは、一般に、−40〜85℃程度の温度範囲で要求性能を満足することが要求されている。超音波センサに対する要求性能の一つには残響特性があり、残響時間の最大値を抑制することが一般には求められている。なお、超音波センサの残響特性(残響時間の最大値)は、ダンピング材の材質と物性、特に損失弾性率によって影響を受けることが知られている。
【0008】
ダンピング材を構成する粘弾性体の損失弾性率には温度依存性があり、極低温のガラス転移点に温度が近づく(低下する)ほど、損失弾性率が増加して固くなる。そのため、ある温度で損失弾性率が適正なものになって良好な残響特性が得られていたとしても、実使用温度範囲(例えば、−40〜85℃)の全域で良好な残響特性が得られるとは限らない。例えば、ウレタン樹脂は、ガラス転移点が−40℃近傍にあるため、室温から低温になるにつれて次第に損失弾性率が増加していき、−40℃に近づくにつれて急激に損失弾性率が増加する。また、シリコーン樹脂は、ガラス転移点が−40℃よりも低温側に存在し、実使用温度範囲の全域で損失弾性率が略一定となる。
【0009】
仮に、良好な残響特性が得られる損失弾性率が実使用温度範囲の全域に亘って一定であれば、シリコーン樹脂を利用することで、実使用温度範囲の全域に亘って良好な残響特性を得ることが可能になる。しかしながら、本願の発明者が見出した知見によれば、実際には良好な残響特性が得られる損失弾性率自体にも温度依存性がある。そのため、シリコーンを利用して室温での残響特性を良好なものにできても、実使用温度範囲の全域(特に極低温域)では、損失弾性率が低すぎて、良好な残響特性を得ることは困難である。
【0010】
ウレタン樹脂は、混成されるフィラーの含有量や組成、硬化条件などにより、損失弾性率のレベルを調整可能である。そのため、極低温で良好な残響特性が得られるように、それらを制御できるが、その場合には、室温で良好な残響特性を得ることができない。しかしながら、ウレタン樹脂はシリコーン樹脂に比べて水分を透過させにくく、低コストであり、この点でシリコーン樹脂よりもウレタン樹脂を制振材に利用するほうが好ましい。
【0011】
そこで、本発明の目的は、ウレタン樹脂を主とする制振材を用いながら、実使用温度範囲の略全域に亘って良好な残響特性が得られる超音波センサを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の超音波センサは、ケースと、圧電素子と、端子部と、制振材と、を備えている。ケースは、有底筒状であり、底面に振動領域を有する。圧電素子は、ケースの開口内で振動領域に貼り付けられている。端子部は、ケースの開口内に先端が配置され、前記ケースの開口内から外部に引き出されている。制振材は、ウレタン樹脂を主材としていて、ケースの開口内に充填されている。このような構成であって、制振材は、ガラス転移点が実使用温度範囲の下限温度よりも低温側である材料からなり、その損失弾性率−温度特性において、ガラス転移点を中心とするピークが実使用温度範囲から外れることを特徴としている。ガラス転移点を中心とするピークが実使用温度範囲から外れるとは、例えば、その損失弾性率−温度特性において、ガラス転移点を中心とするピークの高温側に位置する変曲点が実使用温度範囲よりも低温側に位置することを指している。
なお、実使用温度範囲は、超音波センサの用途などによって異なることもあるが、例えば、自動車用である場合には、−40〜85℃である。
【0013】
また、制振材は、損失弾性率‐温度特性において、ガラス転移点を中心とするピークの3dB幅となる温度範囲が、実使用温度範囲の下限温度よりも低温側であると好適である。より好ましくは、ガラス転移点を中心とするピークの5dB幅となる温度範囲やそれよりも広い温度範囲が、実使用温度範囲の下限温度よりも低温側にあると好適である。
【0014】
上述の超音波センサにおいて、制振材は、実使用温度範囲の下限温度(約−40℃)で、損失弾性率が1.5Mpaを超え、室温(約25℃)で、損失弾性率が0.2Mpaを超えると好適である。また、制振材は、実使用温度範囲の全域に亘って、損失弾性率が53.5Mpa未満であると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波センサの構成例を示す図である。
図2】損失弾性率と残響時間との関係について説明する図である。
図3】実施例と比較例とにおける温度特性について説明する図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る超音波センサの構成例を示す図である。
図5】従来の超音波センサの構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《第1の実施形態》
図1(A)は、本発明の第1の実施形態に係る超音波センサ1の、図1(B)にA−A’で示す位置での断面構成を示す断面図である。また、図1(B)は、超音波センサ1の背面図である。
【0017】
超音波センサ1は、ケース2と、圧電素子3と、吸音材4と、補強材5と、支持材6と、緩衝材7と、封止材8と、フレキシブル基板9と、端子保持材10と、ピン端子11A,11Bと、を備えている。
【0018】
ケース2は、図1(A)における下端面(正面)が閉塞し、図1(A)における上端面(背面)が開口する有底筒状のものであり、筒状の側壁2Aと、円板状の底板2Bとを備えている。このケース2は、例えば高弾性で軽量なアルミニウムの鍛造成形体として構成されている。なお、ケース2の材料は、アルミニウムのような導電性材料に限られず、絶縁性材料であってもよい。
側壁2Aは、開口側を薄肉にして内径を大きく、底板側を厚肉にして内径を小さくしている。底板2Bは、凹部2B1と段部2B2とを備えている。凹部2B1は、所定方向(図1(B)における横方向)が短手方向となり、短手方向に直交する方向が長手方向となるように形成している。より具体的には、凹部2B1は、長手方向の両端を側壁2Aまで到達させている。また、段部2B2は、凹部2B1の短手方向の両脇に設けていて、凹部2B1から立ち上がるように形成している。この凹部2B1の底面が、ケース2の主たる振動領域となり、超音波センサ1は、凹部2B1の長手方向に狭く、短手方向に広い指向性を持つことになる。
【0019】
圧電素子3は、平板状であり、上下面間に駆動電圧が印加されると面内方向に広がり振動する。この圧電素子3は、ケース2の凹部2B1の内部に配置されていて、底板2Bに貼り付けられている。圧電素子3および底板2Bは、互いに接合されてユニモルフ振動子を構成していて、圧電素子3の広がり振動によって、底板2B(凹部2B1)は、図1(A)における上下方向に屈曲振動することになる。
【0020】
吸音材4は、例えばポリエステルフェルトなどからなる平板状のものであり、圧電素子3からケース2の開口側に抜けようとする不要な音波を吸収するために設けられている。吸音材4は、ケース2の凹部2B1内に配置されていて、圧電素子3に積層して接着されている。
【0021】
補強材5は、中央に開口を設けたリング状の成形体であり、高い音響インピーダンスとなるように構成されている。即ち、いわゆる錘となるように、SUS、亜鉛等、ケース2よりも密度や剛性が高い材料で構成されている。なお、厚み等のサイズを調整することによってケース2と同じ材料(アルミニウム)で構成されてもよい。また補強材5は、側壁2Aの厚肉部の内周面に接して、ケース2の底板2B上に配置されている。このように補強材5を設けることにより、ケース2の凹部2B1を囲む周囲の剛性が高まり、ケース2の底板2Bにおける振動がケース2の側壁2Aへ伝わることを抑制できる。
【0022】
支持材6は、粘弾性体であるウレタン樹脂からなる中央に開口を設けたリング状であり、形状の型となる型部材をケース内部に装填した状態で、ケース内に樹脂を充填して硬化させ、型部材を引き抜くことで成形されている。この支持材6は、本実施形態における制振材の一部として機能する。支持材6は、後述する緩衝材7をケース2に接触させずに支持するために設けられている。この支持材6を設けることにより、側壁2Aを介して振動が緩衝材7に伝わることを抑制できる。
【0023】
緩衝材7は、粘弾性体であるウレタン樹脂からなるカップ状の成形体であり、本実施形態における制振材の一部として機能する。緩衝材7の下部には補強材5の開口に係合する凸部が形成されていて、その上部には後述する端子保持材10が係合する開口が形成されている。この緩衝材7を設けることにより、側壁2Aを介した振動が端子保持材10に伝わることを抑制できる。
【0024】
端子保持材10は、PBTなどの樹脂によるL字状の成形体であり、後述するピン端子11A,11Bを、ケース2の開口中心を通る軸に沿う姿勢で保持している。端子保持材10の下部は前述の緩衝材7に係合するように屈曲して構成されていて、底面に凸部が形成されている。また、端子保持材10の中央部にはピン端子11A,11Bを露出させる窓が形成されている。
【0025】
ピン端子11A,11Bは、駆動電圧が印加される金属製の直線状ピンであり、端子保持材10に保持されている。ピン端子11A,11Bの下端部は、端子保持材10の窓から露出するようにケース2の開口内に配置されている。ピン端子11A,11Bの上端部は、端子保持材10の上端から突出して、ケース2の外部に配置されている。
【0026】
フレキシブル基板9は、幅広な帯状の配線部であり、ピン端子11A,11Bと圧電素子3との間を配線している。フレキシブル基板9は、第一端がピン端子11A,11Bの下端部と同方向を向き、ピン端子11A,11Bに配線されている。また、フレキシブル基板9は、第二端が第一端から屈曲してケース2の径方向に引き出され、圧電素子3の上面に導電性接着剤を介して配線されている。フレキシブル基板9を、導電性接着剤を介して圧電素子3に配線することで、リード線をはんだ付けする場合よりも配線接続部の重量を低減することができる。これにより、圧電素子3の振動をより理想的なものに近付けることができる。
【0027】
封止材8は、粘弾性体であるウレタン樹脂からなり、本実施形態における制振材の一部として機能する。封止材8は、ケース2の内部に充填されて、ケース2の開口内に配置されるピン端子11A,11Bの下端部およびフレキシブル基板9を封止している。但し、支持材6と緩衝材7とにより、ケース2の底板側の空間が覆われているので、封止材8は、ケース2の開口側の空間のみに充填されている。この封止材8は、ケース2の側壁2Aの振動を抑制する機能を有しているとともに、支持材6や緩衝材7のケース2からの抜け止めとしても機能している。
【0028】
このような構成の超音波センサ1では、ケース2の振動が、吸音材4や支持材6、緩衝材7、封止材8により減衰するため、端子保持材10およびピン端子11A,11Bに殆ど伝搬することがない。また、封止材8や、支持材6、緩衝材7がケース2の側壁2Aの振動を抑制(制振)するため、ケース2の不要な残響を抑えられる。したがって、ピン端子11A,11Bを外部基板に実装した際に発生する振動漏れが大幅に低減される。
【0029】
なお、封止材8と支持材6と緩衝材7との全てを、所望の損失弾性率−温度特性を満足するウレタン樹脂で構成して、ケース2の振動を抑制(制振)する制振材としてもよいが、少なくともそれらのうちの一つが制振材であれば、その他は、シリコーン樹脂(シリコーンゴム)などで構成してもよい。
【0030】
例えば、支持材6のみを制振材とし、封止材8や緩衝材7は、ピン端子11A,11Bへの振動の伝搬を抑制するものとしてもよい。その場合には、封止材8や緩衝材7は、支持材6に比べて弾性率が低いことが好ましい。より詳しくは、弾性率には貯蔵弾性率と損失弾性率があり、封止材8や緩衝材7は貯蔵弾性率が小さく、支持材6は損失弾性率が大きいことが好ましい。
【0031】
図2は、制振材(支持材6)における損失弾性率と残響時間との関係について説明する図である。図2(A)には、室温(25℃)における残響時間を示し、図2(B)には、極低温(−40℃)における残響時間を示している。
【0032】
制振材の材質を異ならせて様々な損失弾性率での残響時間を計測すると、室温(25℃)では、損失弾性率と残響時間とが反比例するような、損失弾性率の増加に従い残響時間が逓減する変化を示した。一方、極低温(−40℃)では、損失弾性率に応じて残響時間は極値を示す2次関数的な変化を示した。
具体的には、室温においては、損失弾性率が小さい状態から大きい状態に変化していくに従い、損失弾性率が約0.2Mpaまでは急峻に残響時間が低減し、損失弾性率が約0.2Mpaを超えると緩やかに低減して略一定の残響時間を示すようになった。
また、極低温においては、損失弾性率が小さい状態から大きい状態に変化していくに従い、損失弾性率が約1.5Mpaまでは急峻に残響時間が低減し、損失弾性率が約1.5Mpaを超えると変化が緩やかになり、損失弾性率が約6Mpaで残響時間が下限極値である1.268msを示した。そして、損失弾性率が約53.5Mpaを超えると再び残響時間が急峻な増加を示すようになった。
【0033】
このことから、室温においては損失弾性率が0.2Mpa未満では、残響時間の変化率が大きく、残響時間が大幅に劣化するため、室温においては、少なくとも損失弾性率が0.2Mpaを超える材質を制振材に採用すべきことが分かる。
【0034】
また、極低温においては損失弾性率が1.5Mpa未満では、残響時間の変化率が大きく、残響時間が大幅に劣化していた。また、損失弾性率が53.5Mpaを超えると、残響時間の変化率が大きく、残響時間が大幅に劣化していた。そのため、極低温においては、少なくとも損失弾性率が1.5Mpaを超え、53.5Mpa未満となる材質を制振材に採用すべきことが分かる。
【0035】
次に、上述の損失弾性率の条件を室温においても極低温においても満足するように、諸製造条件を異ならせて様々な損失弾性率−温度特性を実現したウレタン樹脂の実施例について説明する。また、作用効果の比較のために、上述の損失弾性率の条件を満足していない材質の比較例についても合わせて説明する。
【0036】
図3(A)は各種材質ごとの損失弾性率と温度との関係を説明する図である。なお、図示するデータは、各種材質の試験片を作製して試験片ごとに温度を変化させながら損失弾性率を測定したものである。各試験片の形状は10×12×3mm(ただし、長さ12mmは試験装置におけるチャック間距離である。)とした。試験片を周期的に変形させ、その周波数は10Hzとした。測定温度は−100℃〜130℃とした。測定は−100℃から開始し、昇温速度を4℃/minとして昇温させながら、損失弾性率を測定している。
【0037】
比較例1は、本発明の条件を満足していないウレタン樹脂であり、ポリオール系ウレタンを主材として、無機系フィラーを混成し、標準的な硬化条件のもとで硬化させたものである。この比較例1のウレタン樹脂は、−100℃から昇温させていくと、実使用温度範囲の下限温度である約−40℃がガラス転移点となり、損失弾性率−温度特性上のピークを示した。その時の損失弾性率は約125.37Mpaを示した。また、そこから、さらに昇温させていくと、損失弾性率が次第に低下していき、室温(25℃)において、損失弾性率は約1.45Mpaを示した。
【0038】
このように、比較例1のウレタン樹脂は、室温での損失弾性率が0.2Mpaを超えて適正であっても、極低温での損失弾性率が53.5Mpaを超えるほど高く、極低温においても残響を抑制するためには固すぎるものであった。
【0039】
また、比較例2は、本発明の条件を満足していないウレタン樹脂であり、ポリオール系ウレタンを主材として、無機系フィラーを混成し、標準的な硬化条件のもとで硬化させたものである。ここでは、極低温における損失弾性率の条件を満足させるために、比較例1の製造条件から、ポリオールの構成を変更することにより、ガラス転移点を低温側に、後述の実施例よりも大きく移動させている。この比較例2のウレタン樹脂は、−100℃から昇温させていくと、約−85℃がガラス転移点となり、損失弾性率−温度特性上のピークを示した。また、そこから、さらに昇温させていくと、損失弾性率が次第に低下していき、実使用温度範囲の下限温度である約−40℃において、損失弾性率は約2.06Mpaを示した。そこから、さらに昇温させていくと、室温(25℃)において、損失弾性率は約0.16Mpaを示した。
【0040】
このように、比較例2のウレタン樹脂は、極低温での損失弾性率が1.5Mpaを超え、53.5Mpa未満であるが、室温での損失弾性率が0.2Mpa未満であり、室温において残響を抑制するためには柔らかすぎるものであった。
【0041】
比較例3は、本発明の条件を満足していないシリコーン樹脂であり、シリコーンを主材として、無機系フィラーを混成し、標準的な硬化条件のもとで硬化させたものである。この比較例3のシリコーン樹脂は、−100℃から昇温させていくと、約−80℃がガラス転移点となり、損失弾性率−温度特性上のピークを示した。そこから、さらに昇温させていくと、損失弾性率が急激に低下して安定化し、実使用温度範囲の下限温度−40℃において、損失弾性率は約0.17Mpaを示した。そこから、さらに昇温していくと、室温(25℃)において、損失弾性率は約0.09Mpaを示した。
【0042】
このように、比較例3のシリコーン樹脂は、室温での損失弾性率が0.2Mpa未満であり、極低温での損失弾性率も1.5Mpa未満であり、過度に柔らかく、残響を抑制するのに適したものではなかった。
【0043】
一方、実施例は、本発明の条件を満足するウレタン樹脂であり、ガラス転移点を実使用温度範囲の下限温度から低温側にある程度シフトさせ、損失弾性率−温度特性におけるガラス転移点を中心とするピークの高温側に位置する変曲点(曲線の二回微分極性が変化する点)となる温度までを、実使用温度範囲から外したものである。または、ガラス転移点を基準とする3dB幅の温度範囲を、実使用温度範囲から十分に離れるようにしたものである。
このウレタン樹脂は、ポリオール系ウレタンを主材として、無機系フィラーを混成し、標準的な硬化条件のもとで硬化させたものである。ここでは、ポリオールの構成を変更することにより、ガラス転移点をある程度低温側にシフトさせている。この実施例のウレタン樹脂は、−100℃から昇温させていくと、約−60℃〜−70℃の間がガラス転移点となり、損失弾性率−温度特性上のピークを示した。また、そこから、さらに昇温させていくと、損失弾性率が低下していき、実使用温度範囲の下限温度−40℃において、損失弾性率は約21.40Mpaを示した。そこから、さらに昇温させていくと、損失弾性率が次第に低下していき、室温(25℃)において、損失弾性率は約0.88Mpaを示した。
【0044】
このように、実施例のウレタン樹脂は、室温での損失弾性率が0.2Mpaを超えて適正であり、かつ、極低温での損失弾性率が1.5Mpaを超え、53.5Mpa未満で適正であり、残響を抑制するために必要な適度な柔らかさを持つものであった。
【0045】
以上の実施例と比較例とからわかるように、ウレタン樹脂において、損失弾性率をコントロールすることにより、損失弾性率−温度特性において、室温側の条件も極低温側の条件も満足する物性を得ることが可能になる。
【0046】
次に、上述の実施例と比較例とのそれぞれにおける、室温での残響時間と極低温での残響時間とについて説明する。
【0047】
図3(B)は、実施例と比較例とのそれぞれにおける、室温での残響時間と極低温での残響時間とを示す図である。
【0048】
実施例のウレタン樹脂を用いた超音波センサでは、室温での残響時間が約0.75msであり、極低温での残響時間が約1.43msであった。
【0049】
一方、比較例1のウレタン樹脂を用いた超音波センサでは、室温(約25℃)での残響時間が約0.65msであり、極低温(約−40℃)での残響時間が約1.80msであった。比較例2のウレタン樹脂を用いた超音波センサでは、室温での残響時間が約1.01msであり、極低温での残響時間が約1.40msであった。比較例3のシリコーン樹脂を用いた超音波センサでは、室温での残響時間が約1.05msであり、極低温での残響時間が約2.20msであった。
【0050】
比較例1は極低温の残響特性が、比較例2は常温での残響特性が、比較例3は常温と極低温の残響特性が、それぞれ劣化した。一方、実施例のウレタン樹脂を用いた超音波センサは、極低温および常温のいずれでも、良好な、短い残響時間を実現することができた。
【0051】
以上、説明したように、本実施形態の超音波センサでは、制振材として損失弾性率をコントロールしたウレタン樹脂を用いることにより、損失弾性率−温度特性において、所望の特性を実現でき、これにより、実使用温度範囲の全域に亘り、残響時間を抑制した良好なものにすることができる。
【0052】
≪第2の実施形態≫
次に、本発明の第2の実施形態に係る超音波センサについて説明する。図4は、本実施形態に係る超音波センサ21の断面図である。超音波センサ21は、支持材16、緩衝材17、および封止材18の形状が、第1の実施形態のものと相違する。具体的には、支持材16は、リング状である点、ウレタン樹脂を硬化し成形した点では変わらないが、その長さが、ケース2の開口面にまで到達するものである。そして、緩衝材17は、支持材16の開口内に圧入して固定されたものである。また、封止材18は支持材16の開口内に充填されるものである。
【0053】
このように、超音波センサ21の具体的形状が相違しても、本発明は、第1の実施形態と同様に適用することができる。即ち、支持材16、緩衝材17、および封止材18のうちの少なくとも一つを、所望の損失弾性率−温度特性となるように、ガラス転移点をコントロールしたウレタン樹脂で構成することにより、実使用温度範囲の全域に亘り、残響時間を抑制することができる。
【0054】
以上の各実施形態で説明したように本発明は実施することができるが、本発明は実施することができる超音波センサの具体的な構成は、上述のものに限られるものではない。例えば、緩衝材や、支持材、補強材、吸音材、封止材などの具体的形状や材料はどのようなものでもよい。また、制振材となる部材は少なくとも一つ設ければ良く、その他の各種部材、緩衝材、支持材、補強材、吸音材、封止材などは必ずしも設けなくてもよい。また、ケースの構造についても上述のものに限られず、その材料や形状はどのように変更しても良い。
【符号の説明】
【0055】
1,21…超音波センサ
2…ケース
2A…側壁
2B…底板
2B1…凹部
2B2…段部
3…圧電素子
4…吸音材
5…補強材
6…支持材
7…緩衝材
8…封止材
9…フレキシブル基板
10…端子保持材
11A,11B…ピン端子
16…支持材
17…緩衝材
18…封止材
図1
図2
図3
図4
図5