(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光ファイバー通信における情報伝送に対する需要の増大に対処し、光ファイバー通信への投資を最適化する方法の一つは、一通信回線で利用できる帯域幅をより効率的に使用してその容量を増加させることである。波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)技術によれば、異なる波長を用いる多数の送信器および受信器を追加することにより、送信チャンネル数を増加することができる。しかしながら、WDM方式の特性は、通信回線に含まれる増幅器の帯域幅および通信回線に含まれる能動および受動構成部品の波長依存性によって制限される。したがって、WDM方式の実用的な利用は光スペクトルにおけるSバンド(Short band)、Cバンド(Convbentional band)またはLバンド(Long band)に制限されている。
【0003】
通信回線の容量を増加させるもう一つの方法は、送信される情報に対してより効率的な変調方式を使用することによって、スペクトル効率(SE)を増加させることである。この方法はWDMと共に使用することができる。伝送速度が10Gb/sまでの光通信システムでは、変調方式としてオンオフキーイング(OOK)が主に用いられるが、この場合、情報は光信号上の2つの振幅レベルに符号化される。また、より大容量のシステムでは4位相偏移変調(QPSK)に基づいた変調方式が用いられるが、この場合、情報は4つの位相レベルに符号化される。したがって、送信される1シンボル当たり、2ビットの2値信号を符号化することができる。このような技術が、例えば非特許文献1(NPL1)に記載されている。このように、情報を送信するのに必要とされる光スペクトルの必要帯域幅は、より効率的に用いられている。
【0004】
1チャンネルのスペクトル効率、従って通信回線容量をさらに増加させる他の方法は、直交振幅変調(QAM)を用いることであり、この場合、シンボルは位相レベルと振幅レベルに符号化され、直交位相における多値振幅の組み合わせとして構成される。QAM方式の一例が非特許文献2(NPL2)に開示されている。非特許文献2において変調方式は16QAMであり、この場合、情報は16レベルに、すなわち1シンボル当たり4ビットの2値信号に符号化される。これによって、スペクトル効率をQPSKと比較して増大させることができる。さらに非特許文献3(NPL3)には、512QAMを用いることが開示されており、この場合、情報は512レベルに、すなわち1シンボル当たり9ビットの2値信号に符号化され、スペクトル効率は16QAMと比較してさらに増大する。したがって、QAM方式は通信回線容量を増加させる効率的な方法である。
【0005】
NPL2とNPL3に示されているように、達成可能なスペクトル効率(SE)と達成可能な伝送距離の間にはトレードオフの関係がある。したがって、信号が送信されるファイバー回線の距離に応じて、このトレードオフを最適化するために、QAM方式の指数、つまりコンステレーション上の変調されたシンボルの数、あるいは言い換えると1シンボルに符号化される2進ビット数である2のべき乗、を選択することができれば好都合である。設定によって異なるQAM指数で変調された光を出射することができる送信器を使用することは、このトレードオフを最適化するための経済的に有効な方法である。
【0006】
QAM方式は光IQ変調器を用いて実施することができるが、これは出典によって、カーテシアン型変調器、ベクトル変調器、2重並列変調器、あるいは入れ子型変調器とも呼ばれる。IQ変調器においては、電気信号によって2つの独立したマッハ・ツェンダーデバイスが駆動されるが、これらは子マッハ・ツェンダー変調器(MZM)と呼ばれる。子MZMは同じ光搬送波の位相および振幅を変調する。それらの出力のうちの1つにおける位相は、再結合される前に相対的に90度だけ遅らせられる。子MZMの出力間の位相遅れは直交位相角と呼ばれ、理想的には180度を法として90度である。これらのIQ変調器はNPL2およびNPL3においてはQAM方式に用いられ、NPL1ではQPSK変調に使用されている。これらのIQ変調器は、QAM方式を実行するための効率的で実証された方法を提供する。
【0007】
しかしながら、IQ変調器には温度変化あるいは装置の経年劣化によるDC(直流)バイアスのドリフトが存在することが知られている。影響を受ける3種類のバイアスが存在する。すなわち、2つの子MZMのそれぞれのDCバイアス、および角度を直交位相角に設定するために用いられるDCバイアスである。このことはQPSK変調について既に知られており、また、同じ構造を有する変調器を使用する場合には、QAM方式についても知られている。バイアスにドリフトが生じると、変調器を不正確に設定する結果となり、これによって送信信号の劣化が引き起こされ、したがって受信信号品質の低下、あるいは最悪の場合には受信信号の復号が不可能になる。この問題は、変調器の生産段階あるいは変調器が使用される送信器の組み立て段階における変調器の特性検査で明らかになる可能性が高く、また、この変調器がデータの変調に最初に使用されるときに、すなわち各起動時または再起動動作時に明らかになる可能性が高い。この同じ問題が変調器の動作中にも起こる可能性もある。OOK、位相偏移(PSK)変調、およびQPSKに対しては、変調器のバイアスを制御し、DCバイアスの変化を補償する自動バイアス制御(ABC)回路を使用することにより、これらの問題は解決されている。このように、ABC技術によって、起動時あるいは再起動時および動作中に、DCバイアスのドリフトを制御することができる。
【0008】
非特許文献4(NPL4)には、マッハ・ツェンダーデバイスの出力間の90度位相を制御するABCに用いることができる方式が開示されている。この方式は、変調信号のRFパワースペクトルを最小化することに基づいている。その基本原理は、IおよびQデータ成分間の干渉がRFパワースペクトルを増強し、したがって、RFパワースペクトルを最小化することによって直交位相角を制御することができる、ということにある。この方式と子MZMのDCバイアスを制御するために用いられる既知の方法を結合することによって、QPSK変調に用いるIQ変調器のDCバイアスを制御することができる。
【0009】
特許文献1(PTL1)ではNPL4と同じ原理が用いられており、さらにディザ周波数が付加されているが、これはディザ周波数に関連するスペクトル成分のモニタ信号を制御することによって、直交位相角を制御するためである。さらに、PTL1には、マッハ・ツェンダーデバイスのDCバイアスを制御するためのディザリングに基づいたABC回路についても詳細に記載されている。NPL4と同じように、このような方法はQPSKに対して有効である。これにより、QPSKに用いられる変調器の動作中および起動前におけるバイアス変化を補償することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、IQ変調器110と自動バイアス制御(ABC)回路120を有する光送信器1000の概略図である。
図1に示した光送信器1000は、論理2値データ列100に従ってIQ変調器110によって変調された光信号199を出射する。符号器101は、光送信器1000の変調方式と論理2値データ列100に従って、IQ変調器110のI成分およびQ成分に対する信号を生成する。符号器101によって生成された2つの電気信号は、その振幅がIQ変調器110に対して最適となるように、ドライバ102および103によって増幅される。レーザ104は連続波(Continuous Wave:CW)光を出射し、このCW光はドライバ102および103で生成された駆動信号に従ってIQ変調器110によって変調される。
【0021】
IQ変調器110は、I成分とQ成分にそれぞれ用いられる2つの子マッハ・ツェンダー変調器(MZM)111および112を備える。IQ変調器110はさらに、位相シフト素子113および集積モニタ光検出器(Photo−Detector:PD)114を備える。その代わりに、集積モニタPD114をIQ変調器110とは独立して備えることができ、IQ変調器の出力光信号の一部を取り出して受光することができる。位相シフト素子113によって、IQ変調器110における直交位相角を制御することが可能である。モニタPD114は変調された光信号の強度に比例した電気信号を生成し、IQ変調器110の状態をモニタするために用いることができる。
【0022】
ABC回路120は子MZM111および112のDCバイアスを制御するとともに、モニタPD114によって与えられるモニタ信号に従って、位相シフト素子113によって直交位相角を調整するバイアスも制御する。ABC回路120は、それぞれ独立した周波数f1、f2およびf3の正弦信号を生成する発振器131、132および133によって生成されるディザを用いて、MZM111、MZM112および位相シフト素子113のバイアスをそれぞれ制御する。これらの周波数は数キロヘルツから数メガヘルツまでの範囲とすることができる。モニタPD114によって生成されたモニタ信号は増幅器121によって増幅され、その後に分配器122によって3つの等しい信号に分岐される。
【0023】
制御回路140は、分配器122の出力および発振器131によって生成された周波数f1の正弦波電圧に従って、I−子MZM111に対するDCバイアスを生成する。バンドパスフィルタ141は中心周波数がf1であり、また、周波数がf2およびf3である他の周波数成分を除去するために十分狭い帯域幅を有している。バンドパスフィルタ141の出力の振幅は、モニタPD114によって生成されるモニタ信号のf1における周波数成分に比例する。位相比較器142はバンドパスフィルタ141の出力の振幅に比例し、バンドパスフィルタ141によって抽出されたf1近傍の信号と発振器131によって生成されたf1の正弦波信号との間の位相差に比例する誤差信号を生成する。バイアス回路143は、位相比較器142によって生成され、周波数f1のディザ成分を有する誤差信号を最小にするため、I−子MZM111のバイアスを制御するDC電圧を生成する。
【0024】
もう一つの制御回路150は制御回路140と同様であり、中心周波数がf2であるバンドパスフィルタを備えている。制御回路150は、制御回路140と同様に、モニタPD114によって生成されたモニタ信号に比例する分配器122の出力に応じて、Q−子MZM112のDCバイアスを制御する。
【0025】
分配器122の第3の出力は包絡線検知器160に与えられ、この包絡線検知器160は出力として、中心周波数がf3であるバンドパスフィルタ161によってフィルタされる。包絡線検知器160の出力は、モニタPD114によって生成されるモニタ信号のRFパワースペクトルを反映した信号を生成する。ロック回路162はバンドパスフィルタ161の出力に比例した誤差信号を、ディザ周波数f3を用いて生成する。最後に、角度バイアス回路163は、ロック回路162によって生成されディザ周波数f3を含む誤差信号を最小化する電圧を生成する。角度バイアス回路163によって生成された電圧は、位相シフト素子113によってIQ変調器110の直交位相角を制御する。
【0026】
最初に、QPSK方式に対するシミュレーション結果を説明する。
図2は、ボーレートが32GbaudであるQPSK方式に対する、
図1に示した光送信器1000のシミュレーション結果の集合である。モニタPD114の帯域幅は1GHzである。周波数f1、f2およびf3はそれぞれ、4MHz、9MHzおよび7.5MHzに設定されている。バンドパスフィルタ141、161、および制御回路150に含まれるバンドパスフィルタはそれに応じて設計される。ドライバ102および103から出力される駆動信号は、それぞれVpiの2倍のピーク・トゥ・ピーク振幅を有する。Vpiは、無変調状態における、子MZM111、112の最大伝搬条件と最小伝搬条件との間の電圧差を表わす。Vpiのシミュレーション値は3Vである。この駆動条件はQPSK変調にとって理想的である。
【0027】
図2Aは、Vpiによって正規化された子MZM111のDCバイアスに対するバンドパスフィルタ141の出力を表わす折れ線グラフである。MZM111の最大伝搬または最小伝搬特性を表わすすべての点に極小値が存在する。
図2Bは、バンドパスフィルタ141の出力と、発振器131によって生成されたディザリング正弦波信号との間の位相差を表わす折れ線グラフである。この位相は、
図2Aに示した曲線のすべての極小点で反転している。
【0028】
次に、MZM111のDCバイアスを制御する例について説明する。光送信器1000の起動または再起動時においては、規格化されたバイアスの異なる条件を考慮することができる。装置の温度および状態に依存して、変調器の電圧特性は、
図2Aおよび
図2Bで示した横軸上で移動しやすい。しかしながら、確立されている理由および研究の容易さから、この特性は固定されているものとみなし、反対の量だけ電圧を移動させることにする。したがって、このような慣行において変調器の特性の周期性を考慮すると、起動時または再起動時における規格化された電圧は、0Vと2Vの間のいずれかの値をとる可能性が高い。この値が0Vと0.5Vの間にある場合、最も近い極小値は0Vである。しかしながら、モニタされた信号と基準正弦波信号は同相であるので、位相比較器142によって生成される誤差信号は正確に正であり続け、バイアス回路143によって生成されるバイアスは0Vからさらに離れて増大し続ける。
【0029】
電圧は0.5Vを通り越えて1Vに達するまで増加する。その場合、1つの極小値に到達可能である。さらに1Vを越えると、信号と基準正弦波信号は逆位相になるので、バイアス回路143によって生成される誤差信号は減少する。その結果、バイアス回路143によって生成されるバイアスは1Vに維持されることになる。従って、1V(バイアスはVpiと等しい)はこの位相関係により安定な極小点であるのに対して、0Vは不安定である。同じメカニズムに従って、ABC回路120は1Vのバイアスを生成する。同様にして、動作中の温度変化による電圧の変動を追随する場合、生成された規格化されたバイアスは1Vに維持される。このことは、MZM111がQPSKに対する最適なバイアス条件であるVpiにバイアスされていることを意味する。MZM112のバイアスを制御する動作は上述したものと同様である。
【0030】
図2Cは、位相シフト素子113によって0度から360度まで制御される直交位相角に対する、バンドパスフィルタ161の出力を表わす折れ線グラフである。この信号は、直角位相角の直交性が得られる各点で、すなわち、直角位相角が180度を法として90度である点で極小となる。これは、I成分の信号とQ成分の信号との間の干渉が、このような構成において最小になるということによる。ロック回路162は、バンドパスフィルタ161の出力を最小にするように、角度バイアス回路163によって生成されるバイアスを制御する。このような構成において、直交位相角がQPSK変調に対して最適化される。
【0031】
図2A、2Bおよび2Cの特性は、ABC回路120によって制御されるIQ変調器110の3つのバイアスと、どんな条件であっても、一致する。このことは、ABC回路120は起動時または再起動時におけるQPSK変調に対する最適条件を見つけることができることを意味する。さらに、
図1に示した光送信器1000の動作中におけるバイアスの変動に対して、ABC回路120はこれらの変動を補償し、IQ変調器110のバイアスを最適条件に維持することができる。
【0032】
図2Dは、
図1に示した光送信器1000によって生成されるQPSK光信号199のシミュレーションしたアイダイアグラムであり、この時の条件は、光送信器1000は最適なバイアス状態で32GbaudのQPSK信号を出射しており、IQ変調器110はABC回路120によって制御されているというものである。
【0033】
図2Eは、光信号199のシミュレーションした軌跡を表わすコンスタレーション図である。
図2Fは、シンボルの中心でサンプリングした、
図2Eに示した軌跡の点を表わすコンスタレーション図である。QPSK変調の4つの可能なシンボルは、正しく位置付けられ分離されている。ABC回路120によって、起動時または再起動時および動作中において、IQ変調器110を最適条件に制御することができる。
【0034】
次に、QAM方式に対するシミュレーション結果を以下に説明する。
図3は、ボーレートが32Gbaudである64QAMとした変調方式に対する、
図1に示した光送信器1000のシミュレーション結果の集合である。IQ変調器110およびABC回路120のディザ周波数は、
図2に示したQPSK方式に対するものと同じものを選んだ。しかしながら、符号器101は2つのディジタル・アナログ変換器(DAC)を備えている。DACは論理2値データ列100を8レベルの電気信号に変換する。この多値電気信号はドライバ102および103によって増幅され、そして64QAMによってCW光を変調するために、多値駆動信号がIQ変調器110に供給される。ドライバ102および103により出力される駆動信号は、Vpiの2倍のピーク・トゥ・ピーク振幅を有する。この駆動条件は、異なるレベル間の適切な差異を備えた場合、64QAM方式にとって理想的である。
【0035】
図3Aは、Vpiによって規格化した子MZM111のDCバイアスに対するバンドパスフィルタ141の出力を表わす折れ線グラフである。このシミュレーションの条件は、Q側のDCバイアスはVpiであり、直角位相角度は90度である。
図3Bは、バンドパスフィルタ141の出力と発振器131によって生成されたディザリング正弦波信号との間の位相差を表わす折れ線グラフである。
図3Cは、DCバイアスがIおよびQ−子MZMにおけるVpiに設定されている場合の直交位相角に対する、バンドパスフィルタ161の出力を表わす折れ線グラフであ。これらの結果は
図2に示された結果と等しく、Q側のDCバイアスがVpiに設定され、直角位相角度が90度に設定されている場合には、ABC回路120はVpiの近傍でDCバイアスを制御することができることを示している。
【0036】
図3Dは、IQ変調器がABC回路120に対する理想的な条件に設定される場合における、64QAM光信号199のシミュレーションした光波形である。
図3Eは、同じ条件で光信号199のシンボルの中心でサンプリングしたポイントを表すコンスタレーション図である。
図3Eに示すように、64個の異なる取り得るシンボルが存在し、これらは均等に分離して8×8の格子状に位置している。これらの結果は、DCバイアスがIQ変調器の動作中に理想的な条件に近接している場合には、ABC回路120は64QAM方式に従って動作しているIQ変調器110を制御することができることを示す。
【0037】
しかしながら、QAM方式ではQPSKと比較して振幅が一定ではないことから、バイアス条件が理想的な条件とは異なる場合、モニタ信号に他の極小点が現われる。このようなケースは光送信器の起動時または再起動時に生じる可能性が高い。
【0038】
以下に、極小点が現われる条件の1つを説明する。
その条件は、I−MZMに対するバイアスは0V、Q−MZMに対するバイアスはVpiの2倍であり、直角位相角度は45度に等しく、これらのバイアスがこれらの点の近傍で変動するというものである。
図3Fは、バンドパスフィルタ141の出力の振幅を表わす折れ線グラフである。
図3Gは、バンドパスフィルタ141の出力と発振器131による基準正弦波信号出力との間の位相差を表わす折れ線グラフである。
図3Fに示すように、モニタ信号の振幅はバイアス条件が0Vである時に極小となる。この点における位相の変化によれば、これはABC回路に対して安定した状態である。
【0039】
同様に、
図3Hは、もう一つの制御回路150が備えるバンドパスフィルタの出力の振幅を表わす折れ線グラフである。
図3Iは、発振器132によって生成される基準正弦波信号とバンドパスフィルタの出力との間の位相差を表わす折れ線グラフである。この場合、
図3Hに示すように、Vpiの2倍のバイアス条件において振幅は極小となる。この点における位相変化は、この点がABC回路にとって安定した状態であることを示している。最後に、
図3Jは、直交位相角に対するバンドパスフィルタ161の出力を表わす折れ線グラフである。この場合、45度の角度で特性が極小となるので、45度の角度が安定条件となる。したがって、QAM方式とすることにより、モニタ信号の局所的な極小点が現われるが、このときの条件はI−MZMに対するバイアスが0Vであり、Q−MZMに対するバイアスが2Vpiであり、また、直交位相角が45度に等しいというものである。
【0040】
図3Kは、理想的な条件とは異なる上述したバイアス条件における64QAM光信号199のシミュレーションした光波形である。
図3Lは、同じ条件において64QAM光信号199のシンボルの中心でサンプリングした点を表すコンスタレーション図である。いくつかのシンボルは重なっており、これらの信号は正しく復調することができないので、64QAM方式はこれらの条件では正しく機能しないことは明らかである。したがって、光送信器がこれらのバイアスの周辺で起動または再起動したときには、温度条件および変調器の状態によって、ABC回路がバイアスを局所的な極小点に収束させ、変調が正しく行なわれないことになる。
【0041】
局所的な極小点が存在するのは、これらの条件に制限されない。
図3Mは、別の局所的な極小点を有するコンスタレーション図であり、このときの条件は、I−MZMに対するバイアスが0.5Vpiであり、Q−MZMに対するバイアスが0.2Vpiであり、また、直交位相角は45度に等しいしいというものである。また、これらの極小点が存在することは64QAM方式に限らない。振幅レベルが多数ある16QAM、32QAM、128QAM、256QAMおよび512QAMなどの種々の指数を持ったQAM方式に対しても、他の局所的な極小点が存在する。
【0042】
次に、本実施形態による光送信器について説明する。
図4は、本実施形態による光送信器の概略図である。光送信器400は、論理2値データ列498に従って、送信器の変調方式で変調された光信号499を出射する。光送信器400は、論理2値データ列498に従ってxQAM方式で変調された光信号499を出射するxQAM送信器とすることができる。ここで、xはQAM指数を表わし、xは例えば64QAM方式に対しては64である。レーザ404は、光変調器としてのIQ変調器410によって変調される連続波(CW)光を出射する。IQ変調器410は、
図1に示したIQ変調器110と同じものとすることができる。自動バイアス制御(ABC)回路420はIQ変調器410の3つのDCバイアスを、IQ変調器410に含まれる集積モニタPDの出力に従って制御する。3つのDCバイアスとは、I−子MZMを制御するDCバイアス、Q−子MZMを制御するDCバイアス、および直角位相角度を制御するDCバイアスである。符号器401は、データ符号部405およびディジタル・アナログ変換器(DAC)406、407を備える。データ符号部405は、論理2値データ列498を2つのサブストリームに分岐し、このサブストリームは、DAC406および407に与える多値信号を生成するために符号化される。DAC406および407の出力は、IQ変調器410が備えるIおよびQ−子MZMをそれぞれ駆動する電気信号を生成するために、それぞれのドライバ402および403よって増幅される。
【0043】
光送信器400は、タイマ471とスイッチ部472を含むドライバ制御部470を備える。タイマ471は、あらかじめ定められた時間Tswitchに従ってスイッチ部472を制御する。この時間Tswitchは光送信器400の起動時刻あるいは再起動時刻から測定され、ABC回路420が収束するのに十分な時間を保つように設計される。スイッチ部472は、光送信器400の起動時または再起動時にドライバ402および403が確実にオフ状態になっているようにする。タイマ471は時間Tswitchを計測した時に、スイッチ部472を起動し、続いて、スイッチ部472がドライバ402および403をオン状態にする。
【0044】
次に、本実施形態による光送信器の制御方法について説明する。
図5は、
図4に示した光送信器400の制御方法を示すフローチャートである。以下では
図5を参照して、光送信器400の動作の一例を説明する。本実施形態では、光送信器400として64QAM方式で132Gb/sの送信器を用いた。したがって、この送信器は22Gbaudで動作する。論理2値データ列498は、転送速度の総計が132Gb/sである2値データ列である。データ符号部405の各出力の転送速度の総計は66Gb/sである。DAC406および407は22Gbaudの8値の電気信号を生成する。
【0045】
起動時にはまず、光送信器400がオン状態にされ、その起動シーケンスが始動する。スイッチ部472はドライバ402および403をオフ状態に維持(
図5の中のテップS401)、すなわち、ドライバの出力電圧値を一定に維持する。その結果、連続波光の光振幅は一定に維持される。この時点で、レーザ404およびIQ変調器410と同様に、ABC回路420はオン状態である。しかしながら、ドライバ402および403がオフ状態に維持されているので、それらの出力はナル状態である。この状態で、ABC回路420はIQ変調器410のDCバイアスを制御する。上述したように、IQ変調器410の起動時には、64QAM方式で出現する局所的な極小点のために、そのDCバイアスが誤って設定されることがあり得る。しかしながら、変調データはナル状態、すなわち、一定であるので、ABC回路420は子MZMのDCバイアスをそれらの最小伝搬点Vpiに収束させることができる。このVpiはIQ変調器410の最適な動作点の値に対応する直流バイアスの電圧値であり、また64QAMに対する最適な設定点である。IおよびQの子MZMに対する最適な動作DCバイアスは2*Vpiを法とするVpiであり、これはマッハ・ツェンダー干渉計が相殺的干渉となるように設定するバイアスである。IとQ−MZMとの間の直角位相角度を制御するバイアスに対する最適な動作点は、180度を法として90度の位相差に対応する電圧である。
【0046】
タイマ471は光送信器400の起動時刻からの経過時間を計測し、経過時間がTswitchに達したかどうかを判断する(ステップS402)。Tswitch経過した時刻では(ステップS402/Yes)、ABC回路420はDCバイアスを既に収束し終えている。タイマ471はTswitchに達したことをスイッチ部472に伝達する。その後、スイッチ部472はドライバ402および403をオン状態にする(ステップS403)。この時、IQ変調器410は64QAM方式に従って光を変調し始める。子MZMのDCバイアスはそれらの最適点に既に達しているので、ABC回路420は動作中におけるDCバイアスのドリフトに追随することができる。さらに、この状態で、ABC回路420は局所的な極小に陥ることなく、直交位相角を最適な設定である90度に制御することができる(ステップS404)。このようにして、光送信器400の起動シーケンスが終了し、IQ変調器410のDCバイアスがQAM変調に対して正しく設定される。その結果、光送信器400の動作中に、ABC回路420はDCバイアスのいかなる変動にも追随することが可能である。
【0047】
また、
図5に示したシーケンスは、送信器400の再起動時に適用することができる。その場合、光送信器400の再起動シーケンスが終了してIQ変調器410のDCバイアスが正しく設定される。その結果、光送信器400の動作中に、ABC回路420はDCバイアスのいかなる変動にも追随することが可能である。
【0048】
本実施形態の別の実装形態では、データ符号器405を適切に設定することにより、
図4に示した光送信器400のQAM方式の指数を設定することができる。例えば、始動時の変調方式として256QAMを選択することができる。この実装形態において、
図5に示したフローチャートによれば、光送信器400は選択された変調方式とは関係なく、正しく始動し動作することが可能になる。
【0049】
上述したように本実施形態によれば、光送信器は、QAM方式に用いられるIQ変調器によって、安定した高信頼性の変調光信号を出射することができる。これは、起動時に一定状態またはナル状態の変調データを用いることによって、IQ変調器のDCバイアスが最小伝搬点に収束することが可能となるからである。言いかえれば、QAM方式のABC回路に用いられるモニタ信号が局所的な極小に至らないようにすることができる。したがって、本実施形態によれば、変調動作の正確で高信頼な起動が可能になる。さらに、いったん起動シーケンスが完了すると、ABC回路が制御することによって、正確な動作が可能になる。また、光搬送波と干渉し得る他の光を用いる必要がない。最後に、QPSK方式だけでなく、任意の指数のQAM方式にも本実施形態を用いることができる。
【0050】
さらに、本実施形態による光送信器を簡易な既製の電子機器によって実装することが可能であり、したがって費用効率が高い。その上、この光送信器は小さな設置面積で実装することができるので、小型化することができる。
【0051】
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態による光送信器の概略図である。光送信器600はxQAM送信器であり、論理2値データ列698に従ってxQAM方式で変調された光信号699を出射する。ここで、xはQAM指数を表わす。符号器601は
図4に示した符号器401と同じである。符号器601はデータ符号器と2個のDACを備え、ドライバ602および603によって増幅された後にIQ変調器610を駆動する多値電気信号を生成する。IQ変調器610は、IおよびQ駆動信号に従ってレーザ604が出射するCW光を変調する。ドライバ602および603はスイッチ部672によってオフ状態にすることができる。スイッチ部672はドライバ602および603に電圧を供給するように命令する。スイッチ部672は制御部630によって制御される。制御部630は電気回路で作られており、マイクロプロセッサーを備えることができる。
【0052】
ABC回路620はIQ変調器610の3個のDCバイアスを制御する。IQ変調器610に集積されているモニタPDの出力は、分配器674によって分岐される。分配器674の出力の1つは、IQ変調器610のDCバイアスを制御するために、ABC回路620によって用いられる。分配器674のもう一つの出力は、IQ変調器610における直交位相角を制御するために設定されるDCバイアス値と関連付けて、角度分析器673によって記録される。角度分析器673は制御部630によって制御される。さらに、角度分析器673は、直交位相角を制御するために最も適切なDC電圧を、ABC回路620に伝達する。ABC回路620が
図1に示したABC回路120と同様である場合、直交位相角を制御するバイアスについての適切な情報は、角度バイアス回路163と同様の角度分析器673によって与えられる。
【0053】
スキャン回路675は種々のDC電圧を生成し、制御部630によって制御される。スキャン回路675の出力は角度分析器673に接続される。角度分析器673は、IQ変調器610のモニタPDから分岐された信号である分配器674の出力を受け取るのと同時点における、スキャン回路675の出力を記録する。スキャン回路675の出力スイッチ676にも接続される。スイッチ676は、スキャン回路675によって生成された電圧あるいはIQ変調器610の直交位相角を制御するためにABC回路620によって生成されるDCバイアスのいずれかを、その出力として選択することができる。スイッチ676もまた制御部630によって制御される。制御部630はまた、ABC回路620をオン状態またはオフ状態にスイッチすることができ、また、DCバイアスを制御するためにABC回路620によって生成された誤差信号をモニタする。ここで、誤差信号は、その大きさ又は位相が実際の受信値と基準値との差に比例する信号として定義される。
【0054】
図7は、本実施形態による光送信器600の制御方法を示すフローチャートである。
図7に示したシーケンスによって、
図6に示したxQAM送信器を正しく起動することができる。光送信器600に電源が供給されるか又は再起動されると、制御部630は、ドライバ602および603の電源供給を下げることによって、それらをオフ状態にするように、スイッチ部672に命じる(
図7のステップS601)。同様に、制御部630はABC回路620の電源供給を下げる(ステップS602)。制御部630はスイッチ676がスキャン回路675の出力を選択するように設定する(ステップS603)。
【0055】
その後、制御部630は、スキャン回路675に適切な電圧範囲Vqadの内のN+1個の電圧値VQのそれぞれを取るように命じる。適切な電圧範囲Vqadは、IQ変調器610における直交位相角に対して180度の位相差を生成することができるように選定することができる。これらの電圧値の数は、ほぼ5程度とすることができる。VQ値のそれぞれに対して、角度分析器673は低速アナログ・ディジタル変換器(ADC)を用いて、VQ値とIQ変調器610が備えるモニタPDの対応するレベルであるVmonを記録する。これらの値を、角度分析器673が備える揮発性メモリに記録することができる(ステップS604)。その後、制御部630は、角度分析器673に記録されたVmon値をスキャンし、最大値および最小値を求めるように命じる(ステップS605)。角度分析器673は、最大のVmonおよび最小のVmonに対応する電圧VQの平均である平均電圧VHalfを生成する(ステップS606)。この平均電圧は、IQ変調器610の直交位相角を約90度に設定するのに必要なDCバイアスにほぼ相当する。これは、IQ変調器における建設的干渉(0度の直交位相)であるという判断とIQ変調器における相殺的干渉(180度の直交位相)であるという判断との中間である。制御部630はVHalfを読み取り、VHalfをスキャン回路675に設定する(ステップS607)。
【0056】
その後、制御部630はABC回路620をオン状態に設定し(ステップS608)、スイッチ部672にドライバ602と603をオン状態にするように命令する(ステップS609)。ABC回路620はIQ変調器610のIおよびQ−子MZMに対するDCバイアスを制御するが、その一方で、IQ変調器610における直交位相角は約90度に維持される。この構成では、ABC回路620はQAM方式に起因する不適切である局所的な極小に陥ることなく、子MZMに対する適切なDCバイアスを見つけることができる。
【0057】
制御部630は、子MZMに対するDCバイアスの誤差信号をABC回路620に問い合わせる。ABC回路620が
図1に示したABC回路120と同様である場合は、問い合わされる誤差信号は、位相比較器142の出力および制御回路150における対応する信号である。制御部630はDCバイアスの誤差信号が収束したかどうかを判断する(ステップS610)。誤差信号が、DCバイアスが収束したかどうかを考慮して選定された閾値以下である場合(ステップS610/Yes)、制御部630は、IQ変調器610の直交位相角を制御するDCバイアスとしてVHalfを印加するようにABC回路620に命令する(ステップS611)。ABC回路620が
図1に示したABC回路120と同様である場合は、角度バイアス回路163の出力がVHalfに設定される。その後、制御部630は、ABC回路620の直交位相角を制御するためのDCバイアスを選択するように、スイッチ676に命令する(ステップS612)。この構成において、ABC回路620は、IQ変調器610における直交位相角を有効に制御して約90度に設定することができ、QAM方式に起因する不適切である局所的な極小が発生しないことを確実にしている(ステップS613)。
【0058】
いったん光送信器600の起動シーケンスが完了すると、IQ変調器610のDCバイアスは正しく設定される。光送信器600の動作中に、ABC回路はすべてのバイアス変動に追随することができる。
【0059】
本実施形態の別の実装形態では、VHalfをABC回路620に印加するタイミングは、ABC回路620の誤差信号を問い合わせることに替えて、
図4に示したタイマ471と同様なタイマによって決定することができる。
【0060】
図8は、本実施形態による光送信器600の別の制御方法を示すフローチャートである。
図8に示すシーケンスによって、
図6に示したxQAM送信器を正しく起動することが可能になる。光送信器600の電源が投入されるか再起動されると、制御部630はドライバ602および603をオフ状態にするようにスイッチ部672に命じる(
図8のステップS621)。制御部630は、ABC回路620の電源供給を停止する(ステップS622)。制御部630は、スイッチ676がスキャン回路675の出力を選択するように設定する(ステップS623)。
【0061】
その後、制御部630は、適切な電圧範囲Vqad内にあるN+1個の電圧値VQのそれぞれ1つを取るようにスキャン回路675に命令する。各VQ値に対して、角度分析器673はVQ値とIQ変調器610が備えるモニタPDの対応するレベルVmonを記録する。これらの値を角度分析器673が備える揮発性メモリに記録することができる(ステップS624)。その後、制御部630は、記録されているVmon値をスキャンし、最大値および最小値を求めるように角度分析器673に命令する(ステップS625)。角度分析器673は、最大のVmonおよび最小のVmonに対応する電圧VQの平均である電圧VHalfを生成する(ステップS626)。この電圧は、IQ変調器610における直交位相角を約90度に設定するために必要なDCバイアスにおおよそ一致する。制御部630はVHalfを読み取り、VHalfをスキャン回路675に設定する(ステップS627)。
【0062】
次に、制御部630はABC回路620をオン状態に設定する(ステップS628)。ABC回路620は、IQ変調器610のIおよびQ−子MZMに対するDCバイアスを制御するが、その一方で、ドライバ602および603は電源が停止されているので、変調信号の振幅は一定状態あるいはナル状態に依然として維持されている。この構成では、ABC回路620はQAM方式に起因する不適切である局所的な極小に陥ることなく、子MZMに対する適切なDCバイアスを見つけることができる。
【0063】
制御部630は、子MZMに対するDCバイアスの誤差信号をABC回路620に問い合わせる。制御部630は、DCバイアスの誤差信号が収束したかどうかを判断する(ステップS629)。誤差信号が、DCバイアスが収束したかどうかを考慮して選定された閾値以下である場合(ステップS629/Yes)、制御部630は、IQ変調器610の直交位相角を制御するDCバイアスとしてVHalfを印加するようにABC回路620に命令する(ステップS630)。その後、制御部630は、ABC回路620の直交位相角を制御するためのDCバイアスを選択するようにスイッチ676に命令する(ステップS631)。この構成において、ABC回路620は、IQ変調器610における直交位相角を有効に制御して約90度に設定することができ、QAM方式に起因する不適切である局所的な極小が発生しないことを確実にしている(ステップS632)。
【0064】
その後、制御部630は、ドライバ602と603をオン状態とするようにスイッチ部672に命令する(ステップS633)。その結果、IQ変調器610は光搬送波をxQAM方式で実際に変調する。この場合も同様に、いったん光送信器600の起動シーケンスが完了すると、IQ変調器610のDCバイアスは正しく設定される。光送信器600の動作中に、ABC回路はすべてのバイアス変動に追随することができる。
【0065】
[第3の実施形態]
図9は、第3の実施形態による光送信器の概略図である。光送信器900は偏波多重(PM)xQAM送信器であり、論理2値データ列998に従ってxQAM方式で変調された光波999を出射する。
ここで、xはQAM指数を表わす。光送信器900はデータ制御部970を有し、これはタイマ971、データスイッチ972および学習パターン生成器973を備える。
【0066】
論理2値データ列998はデータスイッチ972を通過する。データスイッチ972は、論理2値データ列998あるいは学習パターン生成器973によって生成された固定データシーケンスのいずれかを、その状態に応じて出力する。データスイッチ972はタイマ971から命令を受け取る。学習パターン生成器973が出力するデータパターンは、対応する変調光波信号999が3個または4個の取り得る状態を有するように選ばれるが、これらの状態は隣接する状態の間でそれぞれ90度の位相差を有し、それらのシンボルの中心において一定の振幅を持つものである。
【0067】
データスイッチ972の出力は符号器901によって符号化され、符号器901はxQAM方式で変調するための4個の多値信号を生成する。符号器901はデータ符号器905を備え、データ符号器905は、4個のDAC906、907、908、909によって多値信号に変換される4個のデータ列を生成する。DACの出力はドライバ902、903、904、905によってそれぞれ増幅される。
【0068】
レーザ904はCW光を出射し、このCW光は偏波保存カプラ(CPL)913によって分岐される。カプラ913の出力の1つは、
図1に示したIQ変調器110と同様なIQ変調器911に供給される。カプラ913の別の出力は、IQ変調器911と同様なもう一つのIQ変調器912に供給される。IQ変調器911および912の出力は偏波ビーム結合器(PBC)914によって結合され、この偏波ビーム結合器は入力の一方の偏波を90度だけ回転させる。IQ変調器911、912とカプラ913と偏波ビーム結合器914は、1個の二重偏波(DP)IQ変調器910として1個のパッケージに集積することができる。
【0069】
CW光は、ドライバ902および903によって生成された駆動信号に従って、IQ変調器911によってX偏波で変調される。Y偏波には、ドライバ904および905によって生成された駆動信号に従ってもう一つのIQ変調器912によってCW光が変調される。IQ変調器911のDCバイアスはABC回路921によって制御され、もう一つのIQ変調器912のDCバイアスはABC回路922によって制御される。これらのABC回路921および922は、IQ変調器910のDCバイアスを制御する1個のABC回路920として集積することができる。
【0070】
図10は、本実施形態による光送信器900の制御方法を示すフローチャートである。
図10に示したフローチャートのシーケンスによって、
図9のPM−xQAM送信器900を正しく起動することが可能になる。光送信器900の電源が投入されるか再起動されると、データスイッチ972は学習パターン生成器973から出力される学習パターンを出力するように設定される(
図10のステップS901)。タイマ971は
図4に示したタイマ471と同様である。タイマ971は光送信器900の起動時刻からの経過時間を計測し、経過時間がTswitchに達したかどうかを判断する(ステップS902)。ここで、Tswitchは、Tswitchだけ経過する前にABC回路920が安定状態に達しているように設計されている。時間Tswitchが経過した後に(ステップS902/YES)、データスイッチ972は出力を切り替えて論理2値データ列998を出力する(ステップS903)。学習パターン生成器973から出力された学習パターンの特性に従って、つまり、xQAM方式に起因する局所的な極小が発生しないことを確実にする学習パターンであるならば、ABC回路920はDP−IQ変調器911および912のすべてのDCバイアスを起動時に正しく制御することができる。その時点で、光送信器900はxQAMデータを出射し、そのIQ変調器のDCバイアスは起動時における正しい値に設定される。さらに、ABC回路は動作中に生じるDCバイアスの変動に追随することができる。
【0071】
図11は、
図9に示した光送信器900から出射される信号の1つの偏波についてのコンスタレーション図である。変調方式は16QAMである。等距離にあり4X4の格子状に分布した16個の取り得る状態が存在している。各シンボルの上部における対応する4ビット列はグレイ符号化の一例を表わしている。符号器901がこの符号化に従って多値信号を生成すると、1つのコンスタレーション上の出射光シンボルは
図11に示したコンスタレーションに従う。この場合、原点から等距離のシンボルだけを選択することによって、学習パターン生成器973が生成する学習パターンを設計することができる。すなわち、これらのシンボルは、例えば、「1011」(A)、「0011」(B)、「1111」(C)および「0111」(D)の列に相当する。これら4個のシンボルの少なくとも3個のいかなる組み合わせでも使用することができる。例えば、2値PRBS(擬似ランダムビット列)11パターンの繰り返しを用いることができ、ここでは「00」列は(A)として、「01」は(B)として、「11」は(C)として、「10」は(D)として符号化される。
【0072】
光送信器900のQAM方式の指数は変更することができる。この場合、学習パターン生成器973はQAM方式の設定可能な指数のそれぞれに対して学習パターンのセットを保持しており、対応する学習パターンを出力する。さらに、光送信器900はQPSK方式で変調された光を出射することができる。したがって、適用できる変調方式のいずれに対しても、光送信器900は起動時にDCバイアスが正しく設定される。さらに、動作中にバイアスのドリフトが生じるにもかかわらず、光送信器900の動作は最適にされている。
【0073】
光送信器の動作中に、DCバイアスがいったん最適点に達すると、ABC回路はDCバイアスのドリフトに基本的には追随することができる。しかしながら別の例において、変調器の経年劣化は、ABC回路が生成することができる電圧の物理的な限界に近い値に、DCバイアスの一つがドリフトする原因となっている。ABC回路は、DCバイアスを生成することができるバイアスの範囲内でドリフトを補償することができるけれども、ABC回路がIQ変調器の最適な動作値に対応する最も低いDCバイアスに収束するように送信器を再起動することは、送信器の寿命をより長くするためには有益かもしれない。この場合、QAM変調によって引き起こされる局所的な極小点が存在すると、DCバイアスが再起動後に最適なDCバイアス値に収束するのを防げられることになる。
【0074】
この技術的問題を解決するために、送信器が動作中であり出力電圧値が一定に保たれている間に、ドライバの出力電圧値をある固定値に変更することは有効である。一例として、上述の第1、第2および第3の実施形態として記載した手段は、送信器が動作している間に適用可能である。DCバイアスが最適点に収束した後に、ドライバは通常動作を開始する。すなわち、ドライバは符号器によって生成された電気信号を増幅し、増幅された電気信号を子MZMに印加する動作を開始する。
【0075】
この例によれば、送信器の動作中におけるABC回路の再起動後に、IQ変調器のDCバイアスは最適な動作点に再び収束することができる。
【0076】
以上、実施形態を参照して本願発明を詳細に開示し説明したが、本願発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、請求項によって定義される本願発明の特徴および範囲から逸脱しない限り、様々な変更をすることができることは当業者によって了解される。