【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の強化板ガラスは、無機酸化物ガラスからなり、板厚方向に相対向する板表面にそれぞれ化学強化による圧縮応力層を有し、板端面に、圧縮応力が形成されている領域と圧縮応力が形成されていない領域とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明では、無機酸化物換算でその組成が表示できる板ガラスについて、板表面及びその表面近傍バルクについて特定のイオン種の密度分布を増加させるためのエネルギーを板ガラスに付与することによって、板表面及びその表面近傍バルクの原子密度を向上させ、その結果、板表面に平行な圧縮応力層を形成している。また、板端面については、圧縮応力が形成されている領域と圧縮応力が形成されていない領域とを設けている。ここで、圧縮応力が形成されていない領域とは、より具体的には圧縮応力がゼロ、あるいは引張応力が働いている領域である。
【0012】
板端面において、圧縮応力が形成されている領域は板表面と連続し、圧縮応力が形成されていない領域は、圧縮応力が形成されている領域と連続している。
【0013】
板ガラスの化学強化法としては、例えば必要に応じて低温型イオン交換法、高温型イオン交換法、表面結晶化法、脱アルカリ法などを適宜採用してよく、複数の方法を併用してもよい。ただ、経済的な観点から低温型イオン交換法、脱アルカリ法が好ましく、より好ましくは低温型イオン交換法を採用することである。
【0014】
板端面は、物理的な加工によって形成された面であることが好ましい。ここで物理的な加工とは、切断加工、切削加工、研磨加工等の機械的応力をガラス表面に印加する加工のことである。例えば、表面に化学強化による圧縮応力層を形成した板ガラスを切断加工によって分割すると、当該分割面によって形成される板端面は、圧縮応力が形成されている領域と圧縮応力が形成されていない領域とを有するものとなる。この圧縮応力が形成されていない領域は、言い換えれば、上記の化学強化が施されていない表面である。
【0015】
尚、切断加工に用いる装置としては、外周刃切断装置、内周刃切断装置、バンドソー、ワイヤーソー、レーザー切断装置、スクライブ割断装置等を採用することができる。
【0016】
板端面の形状は、板ガラスの用途や目的に応じて様々な形態を採用することが可能であり、例えば、板表面に直角な平坦面のほか、板表面に対して傾斜して傾斜面、あるいは湾曲面、凹凸面、多角面、さらにはこれらを複合化させた形状とすることができる。
【0017】
また板表面の外観形状やその寸法、さらに板厚についても、所要の強度性能を満足する限り、どのようなものであってもよい。例えば、板表面の外観形状は、矩形以外に円形、楕円形、三角形、五角形、六角形などの多角形等が可能である。また角のある外観を呈する形状とする場合に、板表面の角部についても様々な形状を採用してよい。例えばC面(隅切り、コーナーカットともいう)、R面、逆R面、エグリ、切り欠き等の形状としてよい。C面は、角部を直線状におとした形状であり、R面は板ガラス外側に凸状に湾曲したようにおとす形状、逆R面は板ガラス内側に湾曲したようにおとす形状、エグリはコの字状あるいは半円形状におとす形状、切り欠きは、角の頂点から一辺側に所定長さだけ他辺側にも所定長さだけの位置から直線状に、すなわちL字状になるようにおとす形状を表している。また必要に応じて糸面取りなどを施してもよい。板表面の寸法については、mmオーダーからmオーダーの外形寸法に適用してよい。板厚についても0.05mmから10mmまでの各種の板厚が可能である。ただし、強化処理を施す必要性や、精密機器、電子機器等に搭載する薄板ガラスとする場合には、軽薄短小化が望まれることになるため、このような観点からより好ましくは、0.05〜2mmの範囲の板厚とするのがよく、さらに好ましくは0.06mmから1.5mm、一層好ましくは0.07mmから1.4mm、さらに一層好ましくは0.08から0.6mmの範囲の板厚とするのがよい。
【0018】
また本発明の強化板ガラスは、上述に加え、板端面の圧縮応力が形成されている領域が板表面と平行に分布しているものであるならば、板表面の所望の強度を実現でき、高い安定した機械的強度を有する強化板ガラスとなる。
【0019】
上述のように、板端面において、圧縮応力が形成されている領域は板表面と連続し、圧縮応力が形成されていない領域は、圧縮応力が形成されている領域と連続している。従って、板端面において、圧縮応力が形成されていない領域は、圧縮応力が形成されている領域によって両板表面の側から挟まれた状態となる。このような構成とすることにより、板表面ばかりでなく、板端面の強度についても安定した性能を有する状態となる。
【0020】
本発明の強化板ガラスを構成するガラス材質としては、無機酸化物ガラスの中から、適用する化学強化法や用途に適したガラス材質を適宜選択することができる。例えば硼珪酸ガラス、アルミノシリケートガラス等の各種無機ガラス材質を使用してよい。また必要に応じて、適用する化学強化法を限定すれば、結晶化ガラスや鉛ガラスなどを使用することもできる。ただし、精密機器、電子機器等に搭載する場合耐候性が低下するガラス材質は好ましくなく、具体的にガラス組成範囲で限定するならば、酸化物換算表示で表されるガラス組成中のAl
2O
3含有量が質量百分率表示で10%未満である一般的なソーダ石灰ガラス以外のガラス材質が好ましい。Al
2O
3含有量が10%以上であれば、ナトリウムやカリウム等の耐候性を低下させる成分が含有している場合であっても、板端面の圧縮応力が形成されていない領域における耐候性の低下を抑止する効果が著しく大きくなるからである。
【0021】
本発明者は、化学強化が不要である部位にまで強化処理を施す必要性がない場合、あるいは化学強化を施しているために製造上、用途上等の問題があり、板ガラスの特定の表面には化学強化を施さない方がよい場合には、切断等の物理的加工を採用し、予め大型の板ガラスをイオン交換した後に切断できることができるならば、化学強化処理に要する不要な設備や管理項目を少なくし、製造効率を大幅に向上させることが可能となり、化学強化の適用範囲を大幅に拡げることができるということに注目し、このような観点から各種の研究を重ね、ある特定の強化処理条件を満足する場合には、切断時にも予め化学強化された板ガラスが良好に加工することが可能であり、引張応力がガラスに印加されることで破損したり破壊したりすることがなく、しかも切断後の板ガラスは十分に高い強度性能を有するものとなることを見出した。この特定の条件は、板ガラスの応力状態に関わるものであり、いくつかの応力状態に関する主要な値相互の関係を適正に管理することで実現することができる。
【0022】
すなわち本発明の強化板ガラスは、上述に加え、圧縮応力層の板厚方向の応力分布が、板表面の圧縮応力値、圧縮応力層の厚み寸法、及び圧縮応力が形成されていない領域の厚み寸法により表される圧縮応力関数に従い制限されているものであれば、化学強化された板ガラスに物理的な加工を施すための外力を引加した場合であっても板ガラスの物理的加工面にガラスの強度を著しく低下させる微細なクラックや欠損部を生じることがなく、加工された強化板ガラスは高い加工表面品位を有するものとなる。
【0023】
また本発明の強化板ガラスは、上述に加え、圧縮応力関数が、圧縮応力値と圧縮応力層の厚み寸法の積を上記圧縮応力が形成されていない領域の厚み寸法により除した関数であり、該関数によって算出される値が40MPa以下となるものであれば、強化板ガラスの板厚方向に相対向する表面は充分に強化され、しかも板ガラスの端面を形成するために物理的な外力を板ガラスに印加しても板ガラスが欠損、あるいはクラック等の欠陥を生じ難いものとできる。
【0024】
ここで、圧縮応力関数をF、圧縮応力値をP、圧縮応力層の厚み寸法をT、圧縮応力が形成されていない領域の厚み寸法をLと表した場合に下記の数1に示した式の様にあらわすことができる。
【0025】
【数1】
【0026】
具体的に圧縮応力関数Fを求めるためには、圧縮応力値P、圧縮応力層の厚み寸法T、圧縮応力が形成されていない領域の厚み寸法Lのそれぞれを計測する必要がある。まず圧縮応力値Pと圧縮応力層の厚み寸法Tについては、例えば数ある応力の計測方法の内、屈折率計法を適用した表面応力計を使用することにより計測することができる。また圧縮応力が形成されていない領域の厚み寸法Lについては、圧縮応力層の厚み寸法Tが板ガラスの厚み寸法が充分に小さい場合には、対向する板表面について同じ寸法であることから、数2の式により算出することができる。数2の式で、Xは板ガラスの板厚寸法を表している。板ガラスの板厚寸法Xは、マイクロゲージやレーザー計測装置等の校正された計測機器を使用して計測することができる。
【0027】
【数2】
【0028】
すなわち、数1式は、数2式を代入することによって、数3式のように表してもよい。
【0029】
【数3】
【0030】
また、板ガラスの板厚が厚い場合や、意図的に板表面に異なる厚み寸法を有する圧縮応力層を設ける必要がある場合には、数4の式を適用してよい。数4の式でT1とT2は相対向する板表面のそれぞれについての圧縮応力層の厚み寸法を表している。
【0031】
【数4】
【0032】
強化板ガラスの圧縮応力関数Fは、板ガラスの物理的加工を施す前の計測値により算出することができる。実際に圧縮応力関数Fに従う所定の条件で強化板ガラスを製造する場合には、強化処理に使用する各種設備によって板ガラスに施す強化処理条件が異なるものとなるため、上記した数1〜数4の式により予め製造条件を設定することによって、温度や時間等の最適な製造条件を設定する必要がある。また物理的加工を施す前に板ガラスの板表面に有機樹脂や無機材等を使用して被覆処理を施す場合には、被覆処理によって生じる影響を加味した評価を行う必要がある。
【0033】
圧縮応力関数Fが40MPa以下である場合には、その結果として板ガラス内部に働く引張応力が許容値を超えることがなくなり、このため物理的加工時に意図せぬクラックの伸張が生じることがなくなり、安定した加工を実現できるようになる。圧縮応力関数Fが40MPaを超えると、例えば物理的加工として強化板ガラスに切断加工を行う場合に、その切断方向から逸脱した方向へ意図せぬクラックが発生し易く、引張応力が大きすぎると強化板ガラス中をクラック破面が急激に進むことになり、板ガラスが瞬時に破裂したような症状を示す場合もある。強化板ガラスの圧縮応力関数Fが40MPaを僅かに超える場合であっても、意図せぬクラックの発生頻度が急激に大きくなる場合もあり、板ガラスの加工歩留まりを低下させることに繋がるため好ましいものではない。
【0034】
また本発明の強化板ガラスは、上述に加え、相対向する板表面のうち少なくとも一方の表面の圧縮応力が200〜1500MPaの範囲内にあるものであれば、各種情報端末に使用する場合であっても充分な強度性能を発揮することができる。
【0035】
板ガラスの板表面の圧縮応力値は200MPa以上であると、未強化ガラスに比べて、十分な機械的強度を示すものとなるが、一方、圧縮応力値が1500MPaを超えると、板端面に物理的加工を施す際に、板表面に生じる圧縮応力のために生じる引張応力の値が大きなものとなり過ぎ、その結果、物理的加工が円滑に行いがたくなる。例えば切断加工を行おうとする場合には、切断方向とは異なる方向に微細なクラックが生じ、引張応力が一層大きいと、引張応力に従ってクラックが意図せぬ方向に急激に伸張し、ガラスが破砕してしまう場合もある。また、圧縮応力層の厚さが大きいほど、引張応力値は大きくなり、同様に物理的加工が困難となる。例えば、板ガラスの切断方法としてスクライブ切断法を採用する場合には、圧縮応力層の厚さが100μmを超える場合には、ホイールチップによって板表面の切断箇所に所定深さのきり筋(傷、スクライブラインともいう)を形成する際に、傷の先端から伸張するクラックが圧縮力によって阻まれて容易に形成されない状態となり、スクライブ加工に支障が生じることとなる。上述のような観点から、板ガラスの板表面の圧縮応力値の好ましい範囲は200〜1500MPaの範囲であり、好ましい圧縮応力層厚さは100μm以下とすることである。そしてさらに好ましい圧縮応力値の範囲は、500〜1100MPaであり、さらに好ましい圧縮応力層の厚み寸法は40μm以下とすることである。
【0036】
また本発明の強化板ガラスは、上述に加え、JIS R1601(1995)に従う4点曲げ試験により平均破壊応力が400MPa以上、JIS R1625(1996)に従うワイブル係数が3以上であるならば、強化を行わない板ガラスと比較して充分に高い安定した強度を実現することができるものとなる。
【0037】
ここでワイブル係数が3以上であるとは、1995年に「ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法」(JIS R1601)として規定された日本工業規格に従い、全長36mm以上でJIS B0601に従う0.20μRa以下の表面粗度を有するガラス試験片を作成して、この試験片にクロスヘッド速度0.5mm/minの条件で圧子を降下させて4点曲げ強度の計測を行うと、算術平均の平均破壊応力値を求めることができ、さらにこの強度の計測結果を1996年に「ファインセラミックスの強さデータのワイブル統計解析法」(JIS R1625)として規定された日本工業規格に従い、ワイブルプロットに載せ、その傾斜より求めたワイブル係数が3以上となることを意味している。ワイブル係数は、計測結果の安定性を示すためのものであり、ワイブル係数が大きくなるほど安定な計測結果となっていることを表すものであるが、この値が3に未達であると強化板ガラスの強度的な性能に関する信頼性が低くなるので好ましくない。
【0038】
また本発明の強化板ガラスは、上述に加え、酸化物換算の質量%表示でSiO
2 50〜80%、B
2O
3 0〜15%、Al
2O
3 3〜25%、Li
2O 0〜20%、Na
2O 0〜20%、Li
2O+Na
2O 3〜25%、K
2O 0〜20%、CaO+MgO+ZnO+SrO+BaO 0〜10%、TiO
2+ZrO
2 0〜10%を含有するものであれば、低温イオン交換法等の適正な化学強化処理を選択することによって、高い強度を有するものとすることができる。
【0039】
これら本発明の強化板ガラスを構成する各成分の含有率の限定理由について、以下で説明する。
【0040】
SiO
2成分は原子配列オーダーにおけるガラスの構造の骨格をなす成分であってガラス構造の主要構成成分であり、ガラス組成中のSiO
2成分の含有量が増加するほどガラス構造の強度が強固なものとなり化学的耐久性が向上する傾向を有する。一方でSiO
2成分の含有量が増加すると、高温域での熔融ガラスの粘性が高くなり過ぎるため、ガラスの成形が容易なものではなくなり、高価な設備を使用せねばならない等のガラス製造上の制約が生じる。以上のような観点からSiO
2成分の含有率が50質量%未満になると、成形された板ガラスの化学的耐久性が劣悪になる。一方SiO
2成分の含有率が80質量%を超えるとガラスを均質に熔融する上で設備面、製造効率面等で様々な問題が生じることになり好ましくない。このためSiO
2成分の含有率は、50質量%から80質量%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは60〜80質量%の範囲とすることであり、一層好ましくは60〜70質量%の範囲とすることである。
【0041】
B
2O
3成分は、SiO
2成分と同様にガラス構造の網目構造の骨格となる成分の1つであり、ガラス熔融時に融剤として働くものである。しかしながらB
2O
3成分の含有量が増加しすぎると、例えばイオン交換を行う場合にアルカリ金属元素成分の固体ガラス中での易動度が低下することによってイオン交換性が低下することになる場合がある。このためB
2O
3成分の含有率は、15質量%を上限値とすることが好ましく、より好ましくは12質量%までとすることである。
【0042】
Al
2O
3成分は、例えばイオン交換を行う場合にはガラス構造中でアルカリ金属元素成分の移動を行い易くする成分であり、またガラスの化学的耐久性を安定化させるという働きも有する。このため、Al
2O
3成分は、ガラス中の含有率が3質量%未満であるとガラスの化学的耐久性に支障が生じる場合があり、またイオン交換性が低下することとなる。一方、Al
2O
3成分のガラス中の含有率が25質量%を超えると、ガラス熔融時の熔融ガラスの粘性が高くなり過ぎるため、均質な板ガラスを得るためにはAl
2O
3成分の含有率の上限は25質量%とすることが好ましい。以上のようにAl
2O
3成分はガラス中の含有率が3〜25質量%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくはガラス中の含有率が5〜23質量%の範囲とすることである。また本発明の強化板ガラスが、精密機器、電子機器等に搭載される薄板ガラスである場合、板端面の圧縮応力が形成されていない領域における耐候性を良好なものとするためにAl
2O
3成分は、好ましくは10〜25質量%、さらに好ましくは10.1〜23質量%の範囲とすることであって、一層好ましくは11〜22.8%の範囲とすることであり、最も好ましくは12〜22.8%の範囲とすることである。
【0043】
Li
2O成分、Na
2O成分は、いずれも熔融ガラスの粘性を低下させ、ガラスの熱膨張係数を増加させる働きを有する成分であるが、例えばイオン交換強化処理を行う場合には、これらイオン(Na
+やLi
+)のイオン半径より大きいK
+イオンとのイオン交換を行うことによってガラス構造の構造密度が増加し、その結果圧縮応力が働くようになるので、このような強化方法を採用する場合には必須の成分である。よってガラス構造中でこのような働きを確実に実現するためにはLi
2O成分とNa
2O成分の合量は、3質量%以上含有していることが好ましい。しかしLi
2O成分やNa
2O成分は、それぞれガラス成分として20質量%以上含有するとガラスの熱膨張係数が高くなりすぎるということと、熔融ガラス中に結晶が析出し易くなり、熔融ガラスの失透による欠陥が生じやすくなるという問題もあるので好ましくない。またLi
2O成分やNa
2O成分の合量が、25質量%以上となると化学的耐久性が低下する場合もあるので好ましくない。よってLi
2O成分やNa
2O成分の合量は、上述の観点から3〜25質量%であることが好ましい。またLi
2O成分やNa
2O成分は、それぞれ0〜15質量%含有することがより好ましく、その合量は3〜15質量%とすることがより好ましい。
【0044】
K
2O成分は、Li
2O成分やNa
2O成分程の大きな働きではないもののこれらと同様に熔融ガラスの粘性を低下させる成分であり、ガラスの熱膨張係数を増加させる成分である。またK
2O成分は、Li
2O成分やNa
2O成分に起因する失透現象を抑制する場合がある。ただしK
2O成分は、ガラス組成中に20質量%以上含有するとK
2O成分に起因する結晶が熔融ガラス中に析出し易くなり、失透することでガラスの欠陥となる場合もあるので好ましくない。このような観点からK
2O成分のガラス組成中の好ましい範囲は、0〜20質量%であり、より好ましくは0〜10質量%の範囲とすることである。
【0045】
CaO成分、MgO成分、ZnO成分、SrO成分及びBaO成分は、いずれも熔融ガラスの粘性を低下させる働きを有する成分であるが、これら成分の合量が10質量%を超えると、化学強化処理の妨げになる場合がある。例えばイオン交換強化処理の場合であれば、これら成分がイオンのガラス中での易動度を低下させることになるからである。このような観点からCaO成分、MgO成分、ZnO成分、SrO成分及びBaO成分の合量は、10質量%までの含有量とすることが好ましく、より好ましくは8質量%までの含有量とすることである。
【0046】
TiO
2成分とZrO
2成分は、いずれも化学強化処理を促進する働きを有する成分であるが、それに加えてガラスの耐候性も改善する成分であるが、多量にガラス中に含有すると、そのガラスの失透傾向を高める働きが著しいものとなる。このためTiO
2成分とZrO
2成分の合量は、より好ましくは2%以上の含有量とすることであり、10質量%を限度とするのが好ましく、より好ましくは6質量%までの含有量とすることであり、一層好ましくは5質量%までの含有量とすることである。
【0047】
なお本発明の強化板ガラスでは、上記に加えて、強度性能や用途上求められる化学的耐久性、ガラス熔融時の粘性、耐失透性等の性能に大きな影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて各種の成分をガラス組成中に添加することができる。本発明の強化板ガラスの構成成分として使用できるものを具体的に例示するならば、P
2O
5、Fe
2O
3、SnO
2、Sb
2O
3、As
2O
3、SO
2、Cl
2、F
2、PbO、La
2O
3、WO
3、Nb
2O
5、Y
2O
3、MoO
3、希土類酸化物、ランタノイド酸化物等を質量%表示で3%以下の含有量であれば含有してもよい。
【0048】
また上述以外にも、質量%表示で0.1%までその他の成分を含有することができる。例えば、OH、H
2、SO
3、CO
2、CO、H
2O、He、Ne、Ar、N
2等の各種微量成分が該当する。
【0049】
また本発明の強化板ガラスでは、強化板ガラスの性能に大きな影響がないならば、ガラス中に微量の貴金属元素が含有してもよい。例えばPt、Rh、Os等の白金属元素をppmオーダーまで含有してもよい。
【0050】
また本発明の強化板ガラスは、上述に加え、物理的加工が、レーザー切断、スクライブ割断の何れかであれば、強化板ガラスの製造効率を向上することができるため、大量に優れた品位の強化板ガラスを顧客に供給することが可能となる。
【0051】
また本発明の強化板ガラスは、上述に加え、板表面に各種の機能性被膜を施してもよい。このような機能性被膜としては、ガラスの表面に加えられる外力に対する保護膜としての機能や光学的な性能を確保するための薄膜、コーティング、さらにタッチパネル等に必要とされる導電膜等の機能性のコートが該当するものである。この中でも特によく利用できるものとしてはスズ含有酸化インジウム(ITO)膜や反射防止膜等をスパッタ法等による成膜がある。
【0052】
本発明の強化板ガラスの製造方法は、板ガラスの表面に化学強化による圧縮応力層を形成する圧縮強化処理工程と、圧縮強化処理工程により化学強化された板ガラスの板表面に引張応力を印加し、該板ガラスを分断して上記の強化ガラスを得る分断加工工程とを有することを特徴とする。
【0053】
圧縮強化処理工程は、板ガラスの板表面及びその近傍バルクの構造密度を向上させる工程であり、例えばイオン交換強化を行う場合には、板ガラスを加熱された熔融塩中に浸漬することでイオン交換を行う工程、板ガラスにペーストや薬剤を含浸したセラミックス不織布等の耐熱性媒体を接触させた状態で加熱処理を行う工程、板ガラスの相対向する板表面のうち一方の表面のみに薬剤を噴霧した状態でその面を上方へと向けて水平保持した状態で加熱する工程等の各種の強化を行う処理工程を表している。
【0054】
また分断加工工程は、1つの強化板ガラスを2以上の板ガラスへと分割するための操作を行う工程であり、分割するために強化板ガラスに施す具体的な操作は問わない。例えば分割のために切断を行う方法としては、スクライブブレイク法のように1回の操作で切断を行う方法であってもスクライブ等でスクライブラインを入れた後に折り割り操作を行うことで2回以上の操作を要するものであってもよく、その他に外周刃切断法、内周刃切断法、バンドソー法、ワイヤーソー法、レーザー切断法、切削加工法、ブラスト加工法等の各種方法を適宜採用してよい。
【0055】
また本発明の強化板ガラスの製造方法は、より具体的には、圧縮強化処理工程が、予め圧縮強化処理を施す前の圧縮応力関数Fを決定するために行われる強化処理条件設定工程と、次いでその適正な圧縮応力関数Fを満足する条件下で圧縮強化処理を実施する適正応力印加工程よりなるものである。
【0056】
強化処理条件設定工程は、実際の処理施設の処理能力や人的な労力あるいは工程中で発生する様々な諸条件等の様々な要因を加味し、適正な処理条件を設定すべく処理温度条件や処理温度時間を設定するために行われるものである。この工程では、予め準備したガラス試料片を使用してその強化処理条件が圧縮応力関数Fを満足し、しかも得られる製品が充分に高い強度を実現するかどうかを確認することによって、強化処理条件を設定する。次いでこの強化処理条件設定工程で決定した諸条件に従い、適正応力印加工程にて化学強化処理を行うことで所望の安定した強度を有する板ガラスが製造できる。
【0057】
また本発明の強化板ガラスの製造方法は、上述に加え、圧縮強化処理工程により、板表面の圧縮応力層の板厚方向の応力分布が、板表面の圧縮応力値、圧縮応力層の厚み寸法、及び圧縮応力が形成されていない領域の厚み寸法により表される圧縮応力関数に従い制限されているものであれば、板ガラスに存在する内部の引張応力によって板ガラスが破壊される危険性が小さくなるので安定した加工が行え、製造効率が向上することになるので好ましい。さらに、圧縮応力関数が、圧縮応力値と圧縮応力層の厚み寸法の積を圧縮応力が形成されていない領域の厚み寸法により除した関数であり、該関数によって算出される値が40MPa以下となるようにするのがより好ましい。
【0058】
また本発明の強化板ガラスの製造方法は、上述に加え、分断加工工程がレーザー切断、スクライブ割断の何れかによって行われるものであれば、板ガラスの材料としての加工ロスを低減することができ、しかもこれまでに蓄積された加工技術を応用することも可能であるため安定した条件で分割加工が行える。
【0059】
また本発明の強化板ガラスの製造方法は、上述に加え、分断加工工程での切断加工が、折割工程を有しないものとすることができる。
【0060】
ここで、折割、あるいはブレイクとは、レーザーやホイールチップ等の初動加工のみで板ガラスを切断するのではなく、これらの初動加工の後にガラスに形成された傷、クラックラインに引張応力を集中することができるような応力を加えることによって板ガラスを分断するものである。このような加工方法では、それだけ工程数が増加することになるが、本発明では、このようなブレイク工程を省くことによって工程数を減らし、しかもブレイク時に発生するガラス粉によるガラスの汚染の問題や板ガラスに生じるカケ、すなわちチッピングの問題をも回避することが可能である。
【0061】
また本発明の強化板ガラスの製造方法は、上述に加え、スクライブ割断が、板表面に0.5〜1.5kgfの印加条件で行われるものであれば、強化板ガラスに過負荷を付与することなく適正な切断が行えるので様々な板ガラス厚に対応する好ましい条件を採用することが可能となる。
【0062】
スクライブ割断の際のホイールチップ等による印加条件が0.5kgfより小さいと、強化された板表面の圧縮力に抗するだけの働きを示さず、板表面に垂直なメディアンクラックがガラスバルク内へと伸張することがない。一方スクライブ割断の際のホイールチップ等による印加条件が1.5kgfを超えると、過負荷な条件となって、スクライブに伴って発生するメディアンクラック以外に、強化板ガラスに平行なラテラルクラックやそれに付随するマイクロクラックが多数発生することになり、割断後のガラス端面がクリアな面状態にならないため好ましくない。以上のような観点からスクライブ割断の際のホイールチップ等による印加条件は、より好ましくは0.8〜1.1kgfの印加条件とすることであり、さらに好ましくは1.0〜1.1kgfの印加条件とすることである。
【0063】
また本発明の強化板ガラスの製造方法は、上述に加え、スクライブ割断が、割断速度10〜1000mm/sで行われるものであれば、高い加工速度で製造が行えるので優れた品位の強化板ガラスを潤沢に市場に供給することができる。
【0064】
ここで、割断速度とは、スクライブを行う際のホイールチップ等の圧子のヘッド速度を意味している。
【0065】
スクライブ割断の割断速度が10mm/sより低速であると、生産性が低下するばかりか強化板ガラス内部の引張応力のためにスクライブによって生じたメディアンクラックが正常に進行しない場合も生じるので好ましくない。またスクライブ割断の割断速度が1000mm/sより高速であると、ホイールチップから印加される力が充分に伝播することがなく、そのため強化された板ガラス表面の圧縮力によってクラックの成長が阻まれて板ガラス表面に垂直な方向に伸びるメディアンクラックが充分な深さまで伸張することができなくなる。以上のような観点からスクライブ割断の割断速度は、より好ましくは10〜500mm/s、さらに好ましくは10〜300mm/s、一層好ましくは10〜100mm/s、さらに一層好ましくは20〜80mm/sの範囲とすることであり、最も好ましくは40〜80mm/sの範囲とすることである。
【0066】
また本発明の強化板ガラスの製造方法は、上述に加えホイールチップの刃先角度が90°〜150°の範囲にあるならば、ホイールチップ刃先の移送が強化された板表面にして円滑なものとなる。
【0067】
ホイールチップの刃先角度が90°に満たない場合には、ホイールチップ先端がガラス表面の局所のみに強い応力を生じる結果、板表面から垂直方向に伸張するメディアンクラックの伝播速度よりもホイールチップのガラス内への挿入速度が勝ってしまい、正常なクラックの伸張に伴う破断面が形成されないことになる。一方ホイールチップの刃先角度が150°を超える場合には、圧縮応力を有する板表面に充分な引張応力を印加することが困難となるので好ましくない。以上のような観点から、ホイールチップの刃先角度はより好ましくは100°〜145°、さらに好ましくは100°〜140°、一層好ましくは115°〜130°の範囲とすることである。
【0068】
また本発明の強化板ガラスの製造方法は、上述に加えレーザー切断が、10〜100Wの出力の炭酸ガスレーザー光源により照射されるレーザー光により行われるものであれば、出力条件が適正な範囲であるため、切断された板ガラスの端面に不要な負荷を与えて、微細なクラック等を生じさせることがないため好ましい。
【0069】
CO
2レーザーの出力範囲が、10Wよりも低出力である場合には、板表面に十分な深さのメディアンクラックを形成することができなくなり、切断操作に支障が生じることになるので好ましくない。一方CO
2レーザーの出力範囲が、100Wを超えると過負荷な状態となり、ガラス端面が軟化変形し易くなるので好ましくない。このような観点からCO
2レーザーの出力範囲は、より好ましくは10〜40Wの出力範囲とすることである。
【0070】
また本発明の強化板ガラスの製造方法は、上述に加え、レーザー切断が、板表面に5〜100mm/sの移送速度で照射光線を動作することで行われるものであれば、様々な強化条件にある板ガラスを円滑に切断することが可能となる。
【0071】
レーザー光の強化板ガラス表面における移動速度が5mm/sより低速になると、板表面が過加熱された状態となり、ガラスの軟化現象等が認められることになるので好ましくない。一方レーザー光の板表面における移動速度が100mm/sを超える場合には、強化された板表面に圧縮応力に抗するだけの十分なダメージを与えることができなくなり、切断が困難なものとなる。以上のような観点からレーザー光の板表面における移動速度は、より好ましくは5mm/sから25mm/sの範囲とすることである。