【実施例】
【0012】
図1は、本発明の実施例に係る半導体片の製造工程の一例を示すフローである。同図に示すように、本実施例の半導体片の製造方法は、発光素子を形成する工程(S100)、レジストパターンを形成する工程(S102)、半導体基板の表面に微細溝を形成する工程(S104)、レジストパターンを剥離する工程(S106)、半導体基板の表面にダイシング用テープを貼付ける工程(S108)、半導体基板の裏面からハーフダイシングをする工程(S110)、ダイシング用テープに紫外線(UV)を照射し、半導体基板の裏面にエキスパンド用テープを貼付ける工程(S112)、ダイシング用テープを剥離し、エキスパンド用テープに紫外線を照射する工程(S114)、半導体片(半導体チップ)をピッキングし、回路基板等にダイマウントする工程(S116)を含む。
図2(A)ないし(D)、および
図3(E)ないし(I)に示す半導体基板の断面図は、それぞれステップS100ないしS116の各工程に対応している。
【0013】
発光素子を形成する工程(S100)では、
図2(A)に示すように、GaAs等の半導体基板Wの表面に、複数の発光素子100が形成される。発光素子100は、例えば、面発光型半導体レーザー、発光ダイオード、発光サイリスタ、等である。なお、図面には、発光素子100として1つの領域を示しているが、1つの発光素子100は、個片化された1つの半導体片に含まれる素子を例示しており、1つの発光素子100の領域には、1つの発光素子のみならず、複数の発光素子やその他の回路素子が含まれ得ることに留意すべきである。
【0014】
図4は、発光素子の形成工程が完了したときの半導体基板Wの一例を示す平面図である。図面には、便宜上、中央部分の発光素子100のみが例示されている。半導体基板Wの表面には、複数の発光素子100が行列方向にアレイ状に形成されている。1つの発光素子100の平面的な領域は、概ね矩形状であり、各発光素子100は、一定間隔Sを有するスクライブライン等で規定される切断領域120によって格子状に離間されている。
【0015】
発光素子の形成が完了すると、次に、半導体基板Wの表面にレジストパターンが形成される(S102)。
図2(B)に示すように、レジストパターン130は、半導体基板Wの表面のスクライブライン等で規定される切断領域120が露出されるように加工される。レジストパターン130の加工は、フォトリソ工程によって行われる。
【0016】
次に、半導体基板Wの表面に微細な溝が形成される(S104)。
図2(C)に示すように、レジストパターン130をマスクに用い、半導体基板Wの表面に一定の深さの微細な溝(以下、便宜上、微細溝または表面側の溝という)140が形成される。このような溝は、例えば、異方性エッチングにより形成でき、好ましくは、異方性ドライエッチングである異方性プラズマエッチング(リアクティブイオンエッチング)により形成される。厚みの薄いダイシングブレードや等方性エッチング等で形成してもよいが、異方性ドライエッチングを用いることで、等方性エッチングで表面側の溝を形成するよりも、幅が狭くても深い溝を形成することができ、かつダイシングブレードを使用したときよりも微細溝周辺の発光素子100に振動や応力等が影響するのを抑制することができるため、好ましい。微細溝140の幅Saは、レジストパターン130に形成された開口の幅とほぼ等しく、微細溝140の幅Saは、例えば、数μmから十数μmである。また、その深さは、例えば、約10μmから100μm程度であり、少なくとも発光素子等の機能素子が形成される深さよりも深く形成される。微細溝140を一般的なダイシングブレードによって形成した場合には、切断領域120の間隔Sが、ダイシングブレード自体の溝幅及びチッピング量を考慮したマージン幅の合計として40ないし60μm程度と大きくなる。一方、微細溝140を半導体プロセスで形成した場合には、溝幅自体が狭いだけでなく切断のためのマージン幅もダイシングブレードを使用した場合のマージン幅より狭くすることが可能となり、言い換えれば、切断領域120の間隔Sを小さくすることができ、このため、発光素子をウエハ上に高密度に配置して半導体片の取得数を増加させることができる。なお、本実施例における「表面側」とは発光素子等の機能素子が形成される面側をいい、「裏面側」とは「表面側」とは反対の面側をいう。
【0017】
次に、レジストパターンを剥離する(S106)。
図2(D)に示すように、レジストパターン130を半導体基板の表面から剥離すると、表面には切断領域120に沿って形成された微細溝140が露出される。なお、微細溝140の形状の詳細については後述する。
【0018】
次に、紫外線硬化型のダイシング用テープを貼り付ける(S108)。
図3(E)に示すように、発光素子側に粘着層を有するダイシング用テープ160が貼り付けられる。次に、基板裏面側からダイシングブレードにより微細溝140に沿ってハーフダイシングが行われる(S110)。ダイシングブレードの位置決めは、基板裏面側に赤外線カメラを配置し、基板を透過して間接的に微細溝140を検知する方法や、基板表面側にカメラを配置し、直接、微細溝140の位置を検知する方法や、その他の公知の方法が利用できる。このような位置決めによって、
図3(F)に示すように、ダイシングブレードによりハーフダイシングが行われ、半導体基板の裏面側に溝170が形成される。溝170は、半導体基板の表面に形成された微細溝140に到達する深さを有する。ここで、微細溝140はダイシングブレードによる裏面側に溝170よりも狭い幅で形成されているが、これは、微細溝140を裏面側の溝170よりも狭い幅で形成すれば、ダイシングブレードのみで半導体基板を切断する場合と比較し、一枚のウエハから取得できる半導体片の数が増やせるためである。なお、
図2(C)に示す数μmから十数μm程度の微細溝を半導体基板の表面から裏面に至るまで形成できれば、そもそもダイシングブレードを用いて裏面側の溝を形成する必要なないが、そのような深さの微細溝を形成することは容易でない。よって、
図3(F)に示すように、ダイシングブレードによる裏面からのハーフダイシングを組み合わせている。
【0019】
次に、ダイシング用テープへ紫外線(UV)を照射し、またエキスパンド用テープを貼り付ける(S112)。
図3(G)に示すようにダイシング用テープ160に紫外線180が照射され、その粘着層が硬化される。その後、半導体基板の裏面にエキスパンド用テープ190が貼り付けられる。
【0020】
次に、ダイシング用テープを剥離し、エキスパンド用テープに紫外線を照射する(S114)。
図3(H)に示すように、ダイシング用テープ160が半導体基板の表面から剥離される。また、基板裏面のエキスパンド用テープ190に紫外線200が照射され、その粘着層が硬化される。エキスパンド用テープ190は、基材に伸縮性を有し、ダイシング後に個片化した半導体片のピックアップが容易になるようにテープを伸ばし、発光素子の間隔を拡張する。
【0021】
次に、個片化された半導体片のピッキングおよびダイマウントを行う(S116)。
図3(I)に示すように、エキスパンド用テープ190からピッキングされた半導体片210が、接着剤やはんだ等の導電性ペーストなどの固定部材220を介して回路基板230上に実装される。
【0022】
次に、ダイシングブレードによるハーフダイシングの詳細について説明する。
図5(A)は、
図3(F)に示すダイシングブレードによるハーフダイシングをしたときの断面図である。
【0023】
半導体基板Wの表面には、上記したように、複数の発光素子100が形成され、各発光素子100は、間隔Sのスクライブライン等で規定される切断領域120によって離間されている。切断領域120には、異方性ドライエッチングにより幅Saの微細溝140が形成されている。他方、ダイシングブレード300は、
図5(A)に示すように、軸Qを中心に回転する円盤状の切削部材であり、カーフ幅Sbの溝170に対応した厚みを有している。ダイシングブレード300は、半導体基板Wの外側で、半導体基板Wの裏面と平行な方向の位置合わせがされる。更に、半導体基板Wの裏面と垂直な方向Yに所定量だけ移動されることで、段差部400が所望の厚みTを有するように半導体基板Wに対する厚み方向の位置合わせがなされる。そして、位置合わせがなされた後、ダイシングブレード300を回転させた状態で、ダイシングブレード300または半導体基板Wの少なくとも一方を、半導体基板Wの裏面と水平な方向に移動させることで、半導体基板Wに溝170を形成する。カーフ幅Sbは、微細溝140の幅Saよりも大きいため、溝170が微細溝140に到達したとき、切断領域120には、幅Sbと幅Saの差によって、厚さTの片持ち梁状の庇形状の段差部400が形成される。もし、ダイシングブレード300の中心と微細溝140の中心が完全に一致しているならば、段差部400の横方向に延在する長さは、(Sb−Sa)/2である。
【0024】
A) 先端部の説明
図5(B)ないし
図5(F)は、本発明の実施例における一例としてのダイシングブレード300の先端部Aの拡大断面図、
図5(G)は、一般的なフルダイシングに使用されるダイシングブレードの先端部Aの拡大断面図である。一般的なフルダイシングに使用されるダイシングブレード300Aの先端部は、
図5(G)に示すように、一方の側面310と、当該一方の側面に対向する側面320と、両側面310、320とほぼ直角に交差する平坦な頂面340とを有している。すなわち、回転方向から見た断面が矩形形状の先端部を有している。これに対し、本実施例のダイシングブレード300の先端部は、例えば、
図5(B)ないし
図5(F)に示すように、ダイシングブレード300の先端部における頂部に向けて徐々にダイシングブレード300の厚みが薄くなる先細りした形状を有している。
【0025】
本実施例においては、「頂部」とは、ダイシングブレードの最も先端の部分であり、
図5(B)、
図5(D)及び
図5(E)のような形状であれば、頂部は最も先端の一点である。また、
図5(C)や
図5(F)のような形状であれば、微細な凹凸を除き、頂部は平坦な面で構成されており、この平坦な面を「頂面」と言う。また、「先細り」とは、ダイシングブレード300の先端部が頂部に向けて厚みが徐々に薄くなる部分を有している形状を言い、
図5(B)ないし
図5(F)はいずれも先細りした形状の一例である。
【0026】
ここで、
図5(B)ないし
図5(G)の各形状は、量産工程において半導体基板の切削を行う際の初期の形状を示している。つまり、
図5(B)ないし
図5(F)に示す本実施例のダイシングブレード300は、量産工程における初期の形状として予めこのような形状を有している。また、一般的なフルダイシングに使用される
図5(G)の矩形形状の先端部は、初期状態では矩形の形状を有しているものの、使用し続けるのに伴い、
図5(B)ないし
図5(D)に示すような湾曲面330を有する先細りした形状に摩耗する。
【0027】
図5(B)に図示する例では、一対の側面310、320と、当該一対の側面310、320の間に湾曲面330とを有している。具体的には、一対の側面310と320との間の距離がカーフ幅Sbに対応する幅であり、先端部は、両側面310、320の間に半円状の湾曲面330を含み、
図5(C)や
図5(F)に示すような頂面340を含んでいない。
図5(C)に図示する例は、
図5(B)と
図5(G)の中間的な形状であり、頂面340とともに先端角部に湾曲面330を有している。
図5(D)に図示する例は、頂面340は有さず、
図5(B)や
図5(C)における先端角部の曲率半径より大きい曲率半径の湾曲面330を有するとともに、頂部の位置には湾曲面330よりも小さな曲率半径を有する湾曲面370が形成される。なお、
図5(B)ないし
図5(D)における湾曲面330は、ダイシングブレード300の頂部に近づくほどダイシングブレード300の厚みが薄くなる割合が大きくなっている。
【0028】
図5(E)に図示する例では、2つの面取り350と360間に、湾曲面370が形成される。この場合も、
図5(C)と同様に頂面340は形成されない。
図5(F)に図示する例では、対向する側面310、320と、側面310、320間に頂面340とを含み、側面310、320と頂面340との間に面取り350および360が形成されている。そして、面取り350と頂面340との間の角部には、湾曲面352が形成され、面取り360と頂面340間の角部には、湾曲面362が形成される。
【0029】
なお、本実施例に係るダイシングブレードの先端部は、
図5(B)ないし
図5(F)のように、
図5(G)に示すような矩形形状の先端部よりも先細りした形状であればよく、特に記載がない限り、頂面を有していても有していなくてもよい。また、
図5(B)ないし
図5(F)に示した本実施例に係るダイシングブレード300の先端部は、
図5(D)に示したようにダイシングブレード300の厚みの中心Kを基準とした線対称の形状をしている。しかしながら、特に記載がない限り、必ずしも線対称な形状である必要はなく、頂部(頂面)の位置が、ダイシングブレード300の厚み方向にずれていてもよい。
【0030】
B) シミュレーション及び実験結果の説明
次に、数μm〜数十μmの微細な溝幅同士を連通させる場合において、どのような原因でどのような破損が発生するかについて確認するために行ったシミュレーション及び実験について説明する。
【0031】
B−1) 先端形状に関するシミュレーションの説明
図6ないし
図8は、ダイシングブレードの先端角部の曲率半径と段差部にかかる応力との関係を把握するために行ったシミュレーション及びその結果を説明するための図である。シミュレーションに用いたダイシングブレード302の一例を
図6(A)に示す。
図6(A)はダイシングブレード302の回転方向から見た先端部の断面形状である。ダイシングブレード302の先端部は、
図6(A)に示すように、側面310、320と、一定の長さの頂面340と、側面310、320と頂面340との間に形成された曲率半径rの湾曲面330とを含み、先端部は、回転軸と直交する線に関し対称に構成される。
【0032】
図6(B)は、
図6(A)に示す先端形状のダイシングブレード302を使用した場合に半導体基板に形成される溝の形状を示している。ここで、基板の表面側の溝140の側面と基板の裏面側の溝170の側面の位置の差によって、表面側の溝140と裏面側の溝170の垂直な側面との間に幅Wの段差が生じ、この段差によって厚みTの庇形状の領域、すなわち段差部400が形成される。段差部400は、言い換えると、表面側の溝140と裏面側の溝170の接続部に形成される段差と半導体基板の表面との間の部分である。
【0033】
今回のシミュレーションでは、ダイシングブレード302における湾曲面330の曲率半径r(μm)を、r=0.5、r=2.5、r=5.0、r=7.5、r=10.0、r=12.5に変化させたとき、段差部400に印加される応力値をシミュレーションにより算出した。ダイシングブレード302の厚みは25μmであり、
図6(C)はr=0.5の先端部を、
図6(D)はr=12.5の先端部の形状を示しており、
図6(D)の先端部は、先端角部の曲率半径がダイシングブレード302の厚みの1/2である半円状となっている。なお、加工対象の基板はGaAs基板とし、表面側の溝140の溝幅は5μm、段差部400の厚みTを40μmとし、段差部400に対して、裏面側の溝170から基板の表面側に向けて2mNの荷重がかかるように設定した。また、表面側の溝140の幅の中心とダイシングブレード302の厚みの中心は一致させた状態で行った。
【0034】
図7に示すグラフは、シミュレーションの結果であり、先端角部の曲率半径を変化させたときに段差部400にかかる応力値の変化を示している。ここでは、縦軸に応力値[Mpa]、横軸に、
図6(B)に示す表面側の溝140の中心を原点としたときのX座標を示している。同グラフから、いずれの曲率半径rにおいても、X座標が12.5μmに近づくほど、つまり、裏面側の溝170の中心側から段差部400の根元側に近づくにつれて応力が大きくなっている。また、曲率半径rの値が大きくなると、段差部400の根元側にかかる応力が低下し、かつ、応力の立ち上がり方も緩やかになることがわかる。言い換えると、今回のシミュレーションで使用した先端形状の範囲、つまり、
図6(D)のような半円状の先端部よりも先細りの度合が小さい先端形状の場合は、段差部400の根元側において最大応力が生じている。また、
図6(C)のような矩形に近い形状よりも
図6(D)のような半円状の先端形状の方が段差部400の根元側にかかる応力が小さくなっている。つまり、先細りの度合が大きいほど段差部400の根元側にかかる応力が小さくなっている。また、
図6(C)のような矩形に近い形状の場合、例えばr=0.5の場合、X座標が11μm程度までの範囲においては曲率半径rが大きい場合よりも応力は小さいものの、それを超えた範囲、つまり、根元により近い部分では急激に応力が大きくなっており、応力がX座標で12.5μm近くに集中していることが分かる。
【0035】
次に、
図8に横軸に曲率半径と縦軸に最大応力値との関係を示す。同グラフでは、
図7に示した曲率半径rの値に加え、r=25μm、r=50μmについてもシミュレーションを実施し、その結果も含めて示している。曲率半径rが25μmや50μmのように半円状となる曲率半径12.5μmを超える場合の先端形状は、例えば
図5(D)のように、より先細りの度合が大きい形状となる。同グラフから、曲率半径rが小さいほど、つまり先端形状が矩形形状に近いほど最大応力値が高くなるとともに、曲率半径rの変化に対する最大応力の変化の度合も急激に大きくなる。逆に、曲率半径rが増加すると最大応力値が低下し、曲率半径が5μm程度から、曲率半径rの変化に対する最大応力の変化の度合が鈍化し、曲率半径が12.5〜50μmの範囲、つまり
図6(D)や
図5(D)に示すような頂面を有さない先細りした形状の範囲においては、最大応力値の変動がほぼ一定していることがわかる。
【0036】
以上のシミュレーション結果から、半導体片が破損するメカニズムについて
図9及び
図11で説明する。
図9(A)に示すように、ダイシングブレード300Aのように先端部が矩形形状の場合(曲率半径rの値が非常に小さい場合)は、半導体基板の裏面からカーフ幅Sbの溝170を形成する際に、ダイシングブレード300Aの頂面340で基板を押圧する。段差部400には、ダイシングブレード300Aによる力Fが全体に加わるが、てこの原理により、段差部400に加わった力Fが段差部400の根元側の領域(根元領域410)に集中すると考えられる。そして、根元領域410へ集中した応力がウエハの破壊応力を超えたとき、
図9(B)に示すように段差部400の根元領域410に破損(欠け、亀裂あるいはピッキング等)を生じさせる。もし、段差部400に破損が生じるならば、段差部400の切断のためのマージンMを確保しなければならず、これは、切断領域120の間隔SをマージンMと等しいかそれよりも大きくしなければならないことを意味する。
図8のシミュレーションの結果からは、r=0.5の場合とr=12.5の場合を比較すると段差部400の根元領域410にかかる応力が4倍近くも異なっている。これは、
図5(B)や
図6(D)に示すような半円状の先端部よりも曲率半径rの値が小さい範囲、つまり、頂面を有する先端形状の範囲においては、その先端角部の曲率半径rの値によって、段差部400の根元領域410にかかる応力が大きく変動することを示している。なお、本実施例における「根元領域」とは、
図5(C)、(F)、及び(G)のような頂面を有する先端形状を使用することで基板面と水平な段差部分が形成される場合は、表面側の溝の両側にそれぞれ形成される、基板面と水平な段差部分の幅Whの1/2の位置よりも裏面側の溝170の垂直な側面に近い側の領域をいう。また、
図5(B)、(D)、及び(E)のような頂面を有さない先細りした先端形状を使用した場合など、基板面と水平な段差部分が形成されない場合においては、段差部の幅Wtの1/2の位置よりも裏面側の溝170の垂直な側面に近い側の領域をいう。なお、幅Whと幅Wtとの関係は、
図6(B)に示す。
【0037】
図10は、
図5(B)に示す本実施例のダイシングブレード300により溝170を形成したときの段差部400への応力の印加を説明する断面図である。
図10は、ダイシングブレード300の先端部が半円状の例であり、この場合、これに倣うように溝170の形状も半円状となる。その結果、ダイシングブレード300の先端部が段差部400に与える力Fは、溝の半円状に沿う方向に分布されることになる。よって、段差部400には、
図9(A)のときのように、段差部400の根元領域410に応力が集中することが抑制され、これにより段差部400の欠けや割れが抑制されると考えられる。
【0038】
B−2) 位置ずれに関するシミュレーション
次に、ダイシングブレードの溝幅方向への位置ずれ量について説明する。
図11(A)、(B)は、基板表面に形成された表面側の溝140の幅Saとダイシングブレードにより形成される溝170のカーフ幅Sbとの位置関係を説明する図である。カーフ幅Sbの中心は、
図11(A)に示すように、表面側の溝140の幅Saの中心に一致することが理想的である。しかし、実際には、製造上のばらつきにより、カーフ幅Sbの中心は、
図11(B)に示すように、表面側の溝140の幅Saの中心から位置ずれを生じる。そして、位置ずれが生じた結果、左右の段差部400の幅Wtにも差が生じる。表面側の溝140の幅Saの中心と、カーフ幅Sbの中心との差を、位置ずれ量Dsとする。なお、製造上のばらつきは、主に、使用する製造装置の精度に起因するものであり、例えば、ダイシング装置の加工精度や表面側の溝140の位置を検知する検知手段(カメラ等)の精度等で決まる。
【0039】
次に、ダイシングブレードの溝幅方向への位置ずれ量Dsと段差部400にかかる応力との関係を把握するために行ったシミュレーションと、ダイシングブレードのカーフ幅Sbと段差部400にかかる応力との関係を把握するために行ったシミュレーションとについて説明をする。このシミュレーションにおいては、ダイシングブレードの頂部から12.5μmの位置でのカーフ幅Sb(μm)を、Sb=25、Sb=20.4、Sb=15.8、Sb=11.2の4種類とし、それぞれのカーフ幅について、表面側の溝140との位置ずれ量Ds(μm)をDs=0、Ds=2.5、Ds=7.5に変化させたときの応力値をシミュレーションにより算出した。今回のシミュレーションに使用した先端形状は
図6に係るシミュレーションで使用した先端形状とは異なるものの、先細りの度合が異なる複数の先端形状を用いて実施している点では共通している。なお、加工対象の基板はGaAs基板とし、ダイシングブレードの厚みは25μm、先端角部の曲率半径はいずれもr=5μm、半導体基板の表面側の溝140の幅Saは5μm、段差部400の厚みTを40μmに設定した。また、段差部400及び裏面側の溝170の側面の法線方向に合計10mNの荷重がかかるように設定した。裏面側の溝170の側面への荷重は、実際の切削時におけるダイシングブレードの横方向への振動を考慮したものである。
【0040】
図12(A)ないし
図12(D)は、シミュレーションに使用した4種類のカーフ幅(ダイシングブレードの先端形状)について、位置ずれ量Dsがゼロの状態における形状を示している。
図12(A)がSb=25μmの形状であり、
図12(B)がSb=20.4μmの形状であり、
図12(C)がSb=15.8μmの形状であり、
図12(D)がSb=11.2μmの形状である。なお、いずれの形状においても先端角部の湾曲面以外の面については直線形状とし、
図12(D)のSb=11.2μmの場合については、図のように頂部の領域における曲率半径を5μmとし先端角部を有さない形状とした。
【0041】
図13に、位置ずれ量Ds及びカーフ幅Sbが段差部へ与える影響をシミュレーションした結果を示す。縦軸が段差部400にかかる最大応力値を、横軸がカーフ幅Sbを示している。横軸のカーフ幅Sbは、ダイシングブレードの頂部から12.5μmの位置での幅であり、位置ずれ量Ds(μm)がDs=0、Ds=2.5、Ds=7.5のそれぞれの場合の結果についてプロットしている。
【0042】
図13のグラフから明らかなように、いずれのカーフ幅Sbにおいても、ダイシングブレードの溝幅方向への位置ずれ量Dsが大きいほど、段差部400にかかる最大応力が大きくなっていることが分かる。また、
図13では表現していないが、最大応力は、ダイシングブレードの位置ずれによって段差部400の幅Wtが大きくなった側の根元領域410に発生している。これは、位置ずれ量Dsが大きくなると、段差が大きくなった側の段差部400の根元領域410に、てこの原理によってより大きな応力がかかりやすくなるためと考えられる。
【0043】
また、カーフ幅Sbが狭い方(先細りの度合が大きい方)が最大応力値が小さくなる傾向があるが、これは、先細りの度合が大きいことによって、段差部400を基板表面側に押圧する応力が弱くなるため、段差部400の根元領域410に応力が集中しにくくなるためと考えられる。また、カーフ幅Sbが非常に狭く(Sb=11.2)、位置ずれ量Dsが大きいとき(Ds=7.5μm)、最大応力値が発生する箇所が急激に変わりその応力値(約7.2)が増大することが分かる。これは、カーフ幅Sbが広いダイシングブレード(先細りの度合が小さいダイシングブレード)では、広い面で段差部400に応力を与えることになるが、カーフ幅Sbが非常に狭いダイシングブレード(先細りの度合が非常に大きいダイシングブレード)では、頂部(頂点)が半導体基板の表面側の溝140の範囲から外れた場合に、先細りした頂部(頂点)の領域に応力が集中するためと考えられる。
図13では表現していないが、シミュレーション結果によると、カーフ幅Sbが非常に狭く(Sb=11.2)、位置ずれ量Dsが大きいとき(Ds=7.5μm)の最大応力は、頂部(頂点)の領域で発生しており、
図14にこの位置をPとして示す。なお、本実施例における「頂部の領域」とは、頂部を含む領域であって、段差部400の根元領域410よりも裏面側の溝の中心側の領域をいう。
【0044】
B−3) 第1の実験結果の説明
次に、先細り度合の異なる複数のダイシングブレードを準備し、実際の基板を切断した際の実験結果を
図15に示す。この実験では、厚みが25μmのダイシングブレードの先端を加工して、先端角部の曲率半径rが1μm〜23μm、頂部から5μmの位置でのカーフ幅が5μm〜25μmの範囲の複数のダイシングブレードを準備した。曲率半径とカーフ幅の具体的な組み合わせは
図15に示すとおりで、複数のダイシングブレードの先細りの度合がほぼ均等になるよう準備した。また、GaAs基板を使用し、表面側の溝140の幅は約5μm、段差部400の厚みTは約40μmに設定し、ダイシングブレードの溝幅方向への位置ずれ量Dsは±7.5μm未満とした。なお、ダイシングブレードの厚みは25μmであるため、先端角部の曲率半径rが12.5μm以上の範囲では先端部が頂面を有さない先細りした形状となり、一方、曲率半径が12.5μmよりも小さい範囲では、小さくなるほど先細りの度合も小さくなり、曲率半径が1μmの場合はほぼ矩形の先端形状となる。
【0045】
図15における「○」は、段差部400の破損が十分に抑制されており量産工程で使用可能な先細りの度合であることを示し、「×」は、段差部400の破損が十分に抑制されておらず量産工程では使用不可能な先細りの度合であることを示している。
図15では、先細り度合が小さい範囲(曲率半径rが8μm以下)と大きい範囲(曲率半径rが22μm以上)の両方において、使用不可能な範囲が存在し、両者の間に適切な先細りの範囲が存在している。これは、先のシミュレーション結果の通り、先細り度合が小さい範囲では段差部400の根元領域410に応力が集中して段差部400が破損し、先細り度合が大きい範囲では、ダイシングブレードの頂部(頂点)の位置に応力が集中し段差部400を破損させるためである。なお、曲率半径rが8μm以下は、先細りの度合が小さいために段差部が破損する範囲であり、曲率半径rが22μm以上は、先細りの度合が大きいために段差部が破損する範囲と言える。
【0046】
図8のシミュレーションで示した通り、先端部の先細りの度合によって段差部400が受ける最大応力は非常に大きく変化する。よって、矩形の先端形状やその他の任意の先端形状を使用した場合には破損してしまう場合であっても、
図15における実験に示すように、適切な先細りの範囲を確認し、その範囲内に納まるように先端形状を管理すれば、段差部の強度が強くなるように段差部400の厚みTを厚くする(表面側の溝140の幅を広く深くする)などの製造条件の変更をしなくても、量産工程で問題ないレベルに段差部の破損が抑制されることが分かる。
【0047】
B−4) 第2の実験結果の説明
次に、表面側の溝幅の違いによる段差部の破損への影響、及び段差部の厚みの違いによる段差部の破損への影響を確認するために行った実験結果を
図16に示す。この実験では、GaAs基板を使用し、段差部400の厚みTは25μm、40μmで、先端部から5μmの位置でのカーフ幅が16.7μmのダイシングブレードを使用した。そして、表面側の溝140の幅Saごと、また段差部400の厚みTごとに、ダイシングブレードの溝幅方向の位置ずれに対して、どの程度の位置ずれまでなら段差部400の破損が抑制されて量産工程で使用可能かを確認した。
図16における「A」〜「D」は、段差部400の破損が十分に抑制された結果が得られた位置ずれ量Dsの範囲を示している。
【0048】
例えば、段差部の厚みTが25μmで表面側の溝幅Saが7.5μmの場合は「B」であり、これは、ダイシングブレードが溝幅方向に±5μm〜±7.5μm未満の範囲でばらついた場合であっても、段差部400の破損が十分に抑制されて量産工程で使用可能な条件であることを示しているとともに、±7.5μm以上の位置ずれに対しては段差部400の破損が十分に抑制されなかったことを示す。また、段差部400の厚みTが45μmで表面側の溝幅Saが5μmの場合は「A」であり、これは、ダイシングブレードが溝幅方向に±7.5μm以上ずれた状態においても段差部400の破損が十分に抑制されて量産工程で使用可能な条件であることを示している。また、段差部400の厚みTが25μmで表面側の溝幅Saが5μmの場合は「D」であり、これは、ダイシングブレードの溝幅方向のずれが±3μm未満の場合のみ段差部400の破損が十分に抑制され、±3μm以上ずれた場合は段差部400の破損が十分に抑制されなかったことを示している。
【0049】
図16の実験結果から、段差部400は、表面側の溝140の幅Saが広いほどダイシングブレードの溝幅方向の位置ずれに対して強いことを示している。つまり、表面側の溝140の幅Saが広いほどダイシングブレードからの応力に対して段差部400が破損しにくい。これは、表面側の溝140の幅Saが広いほど段差部400の幅Wが狭くなるため、てこの原理が働きにくくなるためと考えられる。また、段差部400の厚みTが厚い方がダイシングブレードの溝幅方向の位置ずれに対して強いことを示している。つまり、段差部400の厚みTが厚い方がダイシングブレードからの応力に対して段差部400が破損しにくくなっている。これは、段差部400の厚みTが厚い方が応力に対する強度が強くなるためである。
【0050】
C) 先端部の設計方法
次に、以上のシミュレーション及び実験の結果をもとにしたダイシングブレードの先端形状の設計方法及び半導体片の製造方法について説明する。なお、特に記載がない限り、以下の各実施例は、
図1に示した実施例の製造フローを前提としている。
【0051】
図17は、本発明の実施例に係る半導体片の製造方法に使用するダイシングブレードの先端形状の設計方法を説明するフローである。
図17の一連の工程は、実際の半導体基板を使用して実施してもよく、また、実際の半導体基板を使わずにシミュレーションを使って実施してもよい。
【0052】
図17のフローでは、まずS200において、先端形状の先細りの度合が異なる複数のダイシングブレードを準備する。例えば、
図15に示した実験のように、先細りの度合が一定の間隔で異なるように複数のダイシングブレードを準備する。ここで、一般的なダイシング方法であるフルダイシングに使用される先端形状は、
図5(G)に示すような矩形形状である。よって、このような矩形形状のダイシングブレードを利用して先細りの度合が異なる複数のダイシングブレードを準備するためには、この矩形形状を予め加工する必要がある。例えば、矩形形状のダイシングブレードを複数入手し、ダミーウェハなどの先端加工用の部材を実際にダイシングすることで、ダイシングブレード毎に、切削による先端形状の摩耗度合を異ならせればよい。ダイシングブレードを先細りさせる方法の詳細は後述する。
【0053】
S200では、自ら先端形状の加工を行わず、他の主体から入手することで先細りの度合が異なる複数のダイシングブレードを準備してもよい。また、S200は、段差部400の根元領域410に与える応力の度合が異なる複数のダイシングブレードを準備する工程と読み替えることができる。また、ダイシングブレードの準備は一度にまとめて実施する必要はなく、例えば、まずは1種類の先細りの度合を準備し、後に説明するS204まで実施し、その後に他の先細りの度合を準備し、再度S204まで実施するなどの方法で実施してもよい。
【0054】
なお、本実施例における「先細りの度合」とは、ダイシングブレードの先端角部の曲率半径や頂部(頂点)の曲率半径、また、頂部から所定距離におけるブレードの厚み等で決まるものである。例えば、先端角部の曲率半径が大きいほど、また、頂部(頂点)の曲率半径が小さいほど先細りの度合が大きくなる。また、頂部から所定距離におけるブレードの厚みが薄いほど、先細りの度合が大きくなるため、先細りの度合とは、頂部から所定距離におけるブレードの厚みと言い換えることができる。また、ダシングブレードが摩耗して、先端部の厚みが薄くなった場合も先細りの度合が大きくなる。先細りの度合は、段差部400の根元領域410への応力の度合と言い換えることができ、先細りの度合が大きいほど、段差部400の根元領域410への応力の度合は小さくなる関係がある。なお、特に記載がない限り、ダイシングブレードの頂部からダイシングブレードの厚みの2倍程度の距離までの先端側の形状における先細りの度合を言う。
【0055】
次に、S202において、S200で準備した複数のダイシングブレードを使用した場合の段差部の破損状況を確認するために、量産工程で採用予定の表面側の溝であって、同一形状の複数の溝を有する半導体基板を準備する。表面側の溝のピッチは、量産工程で採用予定のピッチであっても、異なるピッチであってもよい。すなわち、先細りの度合ごとに、量産工程における段差部の破損状況を推定できるようになっていればよい。また、S202では、溝が形成されていない半導体基板に対して、
図1のS104の場合と同様に表面側の溝を形成することで準備しても良いし、自ら溝の形成を行わず、他の主体から溝が形成された半導体基板を入手することで準備してもよい。なお、「同一形状」とは完全に同一であることを意味するものではなく、同一形状になるように形成した場合に生じる誤差等を含む実質的に同一の形状を言う。
【0056】
次に、S204において、S200で準備した複数のダイシングブレードのそれぞれを使用し、S202で準備した半導体基板に対して裏面側の溝170を形成する。そして、複数のダイシングブレードのそれぞれを使用した場合の段差部の破損状況を確認する。具体的には、顕微鏡等を使用して、段差部周辺のひびや割れ等の有無、及びその程度を確認する。なお、段差部を破損させない先細りの度合(量産工程で使用可能な程度に破損が抑制される形状)を特定するために、それぞれの先端形状に対して、複数回の裏面側の溝形成と破損状況の確認とを行うことが好ましい。また、ダイシングブレードの位置ばらつきを考慮して、段差部が破損しやすいよう、位置ずれした条件で実施することが好ましい。そして、このような確認の結果として、例えば、
図15に示すように、それぞれの先細りの度合と、その先細りの度合が段差部を破損させるか否か(その先細りの度合が量産工程で使用可能か否か)が一覧として得られる。
【0057】
次に、S206において、S200で準備した複数のダイシングブレードに、段差部を破損させる先細りの度合と段差部を破損させない先細りの度合との両方が含まれるかを確認する。例えば、
図15の場合は、段差部を破損させる先細りの度合と段差部を破損させない先細りの度合との両方が含まれるので、S210に進む。このように両方の度合が含まれる場合というのは、量産工程で使用可能な先細りの範囲と使用不可能な先細りの範囲のそれぞれの少なくとも一部が特定できたことを意味している。例えば、先細りの度合が小さい方において段差部が破損し、大きい方において段差部が破損していない場合は、小さい方は段差部の根元領域への応力によって破損したものと推定でき、よって、その度合いよりも先細りの度合が小さい範囲は使用不可能な範囲と判断できる。また、段差部を破損させなかった度合について少なくとも使用できる度合であると判断できる。逆に、先細りの度合が大きい方において段差部が破損し、小さい方において段差部が破損していない場合は、大きい方は先細りした頂部の領域への応力の集中によって段差部が破損したものと推定でき、よって、その度合いよりも先細りの度合が大きい範囲は使用不可能な範囲と判断できる。また、段差部を破損させなかった度合は少なくとも使用できる度合であると判断できる。このように、S206において、段差部を破損させる先細りの度合と段差部を破損させない先細りの度合との両方が含まれる場合というのは、任意の先端形状のダイシングブレードを使用した場合には段差部が破損する可能性のある、狭く浅い表面側の溝に対して、量産工程で使用可能な先細りの範囲と使用不可能な先細りの範囲のそれぞれの少なくとも一部が特定できたことを意味している。
【0058】
一方、S200で準備した全ての先細りの度合において段差部を破損させてしまう場合は、量産工程で使用可能な先細りの度合が全く特定できていないことを意味する。よって、この場合はS208に進む。また、全ての先細りの度合において段差部が破損しなかった場合は、表面側の溝が必要以上に広く深いため、結果として段差部の強度が必要以上に強く設定されているなど、適切な製造条件になっていない可能性がある。よって、この場合もS208に進む。
【0059】
S208では、例えば、表面側の溝140の形状(幅や深さ等)などの設計条件を変更する。
図16の実験結果に基づくと、表面側の溝140の深さが浅いほど、また、表面側の溝140の幅Saが狭いほど、段差部の強度が弱く破損しやすくなる。つまり、S200で準備した全ての先細りの度合において段差部を破損させてしまう場合は、表面側の溝140が浅すぎたり、狭すぎたりすることで段差部の強度が弱すぎると考えられる。よって、この場合は、表面側の溝140の形状を変更することで段差部の強度を強くするようにする。具体的には、表面側の溝140の幅Saを広くすること及び深さを深くすることの少なくとも一方を行う。
【0060】
また、
図12及び
図13のシミュレーション結果に基づくと、裏面側の溝140を形成する際のダイシングブレードの溝幅方向の位置精度が悪いほど、段差部が破損しやすくなる。よって、ダイシングブレードの溝幅方向の位置精度が良くなるように、位置精度に影響を与える製造条件を変更してもよい。例えば、ダイシングブレードの位置決め精度がよりよいダイシング装置に変更してもよい。このように、表面側の溝140の形状及びダイシングブレードの溝幅方向の位置精度の少なくとも一方を変更して、段差部が破損しにくい条件に変更する。
【0061】
また、S200で準備した全ての先細りの度合において段差部が破損しなかった場合は、表面側の溝140が必要以上に広く深いため、結果として段差部の強度が必要以上に強く設定されていると考えられる。この場合、溝幅を狭く変更し、一枚の半導体基板から取得できる半導体片の数を増やせる可能性がある。溝幅を狭くすると、深い溝を形成しにくくなり段差部の強度が弱くなるが、
図8に示した通り、先細りの度合によって応力が大きく変動するため、適切な先細り度合を特定することで、より狭く浅い表面側の溝140に対しても段差部を破損させずに裏面側の溝170を形成できる。よって、S206において、準備した全ての先細りの度合において段差部が破損しなかった場合は、表面側の溝140を狭く(又は、狭く浅く)変更することで、一枚の半導体基板から取得できる半導体片の数を増やすように設計条件をし、再度、S200からのフローを実施するとともに、S210に到達するまで、S200からS208のフローを繰り返す。なお、溝140が狭いと深い溝の形成しにくくなると説明したが、これは、例えば、表面側の溝140をドライエッチングで形成する場合、溝が狭いとエッチングガスが溝の奥まで侵入しにくく、溝の底部でのエッチング進行が妨げられ、また、薄いダイシングブレードで形成する場合、ブレードが破損しやすいためである。
【0062】
なお、S200において準備するダイシングブレードの種類が少なく、かつ先細りの度合が大きすぎる方や小さすぎる方に偏っている場合などは、S206において、段差部を破損させる先細りの度合と破損させない先細りの度合の両方が含まれる状態となりにくい。よって、このような場合は、S200において準備する先端形状の種類を増やすようにS208において設計条件を変更してもよい。
【0063】
以上説明したように、S208では設計条件を変更し、再度、S200からのフローを実施する。そして、S210に到達するまで、S200からS208のフローを繰り返す。
【0064】
S210では、段差部を破損させない先細りの度合から、量産工程で使用するダイシングブレードの初期の先端形状を選択する。また、段差部を破損させる先細りの度合については、当然ながら量産工程を通じて使用しないように選択対象から除外する。つまり選択対象の範囲から除外する。なお、必ずしも実験に使用した先細りの度合と同じ度合を量産工程で使用する先端形状として選択する必要はなく、段差部を破損させない先細りの範囲を推定し、推定した範囲に含まれる先細りの度合を選択してもよい。例えば、
図11の実験結果においては、先端角部の曲率半径rが、13μm〜21μmの範囲が段差部を破損させない先細りの範囲であると推定し、曲率半径rが14.5μmや18.5μmなどに対応する先端形状を量産工程で使用するダイシングブレードの初期の先端形状として選択し、量産工程を通じて13μm〜21μmの範囲から外れないように管理する。つまり、段差部を破損させない先細りの度合が複数ある場合は、その間の範囲は段差部を破損させない範囲と推定し、その範囲の中から先端形状を選択すればよい。
【0065】
ここで、段差部を破損させない先細りの範囲のうち、範囲の中心の先細りの度合よりも先細りの度合が小さい度合の先端形状を、量産工程で使用するダイシングブレードの初期の先端形状として選択することが好ましい。例えば、
図15の実験結果においては、先端角部の曲率半径rが、17μm〜21μmの先端形状を選択するよりも、13μm〜17μmの先端形状を選択するようにする。先細りの度合が小さいということは、先細りの度合が大きい場合と比較して先端部が摩耗していない状態であり、言い換えると、ダイシングブレードの寿命が長いためである。また、一般的な矩形形状のダイシングブレードを利用してその先端形状を加工する場合は、矩形形状を所望の先細り度合いに予め加工する時間が少なくて済むことになる。
【0066】
また、段差部を破損させない先細りの度合よりも先細りの度合が大きい側において、段差部を破損させる先細りの度合が存在する場合、ダイシングブレードの先端部が摩耗することによって、そのような先細りの度合に至らないように量産工程において管理することが好ましい。例えば、
図15において、先端角部の曲率半径が、段差部を破損させない先細りの度合である13μm〜21μmよりも先細りの大きい側(21μmを超える範囲)において、段差部を破損させる先細りの度合22μm〜23μmが存在している。よって、
図15の実験結果の場合は、ダイシングブレードの先端部が摩耗することによって、先端角部の曲率半径が21μmを超えないように量産工程において管理することが好ましい。具体的には、そのような先細りの度合に至る前に、ダイシングブレードを交換することが好ましい。なお、本実施例における「交換」とは、全く別のダイシングブレードに交換する以外に、同じダイシングブレードの先端形状を再加工(ドレッシング)することも含む。
【0067】
以上、本実施例に係るダイシングブレードの先端形状の設計方法のフローを説明したが、この設計方法によれば、量産工程で使用するダイシングブレードの先端形状を決定する際に、先端形状の先細りの度合と半導体片の破損との関係を考慮しないで決定する場合よりも、より浅い表面側の溝140を量産工程で採用できる。従来は、数μm〜数十μmの微細な溝幅同士を連通させる場合において、どのような原因でどのような破損が発生するかについては明らかでなかったため、実際の量産工程において
図1に示す製造工程の採用が困難であり、また、仮に
図1に示す製造工程を採用する場合であっても必要以上に広く深い表面側の溝となっていた。一方、本実施例に係るダイシングブレードの先端形状の設計方法は、
図7や
図8に示す通り、先細りの度合によって段差部が受ける応力が大きく変動する点に着目し、
図17のS200において、先細り度合の異なる複数のダイシングブレードを準備するようにした。そして、
図17のS206において、段差部を破損させる先細りの度合と段差部を破損させない先細りの度合との両方が含まれる場合にのみ、先端形状を選択するようにしたため、任意の先端形状のダイシングブレードよ使用する場合と比較して設計上の手間がかかるものの、より狭く浅い表面側の溝140を量産工程で採用できる。
【0068】
次に、
図17のS200において複数の先細り度合を準備する具体的な方法について説明する。まず、GaAs等の化合物半導体を切断するダイシングブレードは、ダイヤモンドブレード、あるいはダイヤモンドブレードとアルミ基台を一体化したブレード等が使用できる。一般的に、市販等されているこれらのダイシングブレードの先端は、
図5(G)の形状のように先端部に湾曲面が形成されていない矩形形状をしている。そこで、矩形形状のように所望の形状をしていないダイシングブレードを利用するために、先端部を加工する必要がある。
【0069】
この工程は、例えば、以下のような工程を含む。すなわち、市販等されているダイシングブレードを入手するとともに、入手したダイシングブレードの先端部を加工するための材料を選択する。例えば、Si、SiC、あるいは他の化合物半導体材料の加工用基板を選択する。なお、先端部を所望の形状に加工できる材料であれば他のものであってもよい。
【0070】
次に、ダイシングブレードを用いて加工用半導体基板の切断を繰り返すことで、先端部に摩耗させながら所望の形状に近づけていく。所望の湾曲面の形状を得るために、加工用基板とダイシングブレードとの成す角度、ダイシングブレードの回転速度、研磨時間、研磨剤などを適宜選択することができる。以上のように、ダイシングの工程に先立って、先端部の加工用に準備された加工材を用いて所望の先細りの形状に加工する。このような方法によって、一般的なフルダイシングに使用される矩形形状のダイシングブレードであっても、
図17のS200で準備するダイシングブレードとして共通に利用できる。
【0071】
次に、
図17のS200において、どのような先細りの度合の先端形状を準備すべきかについて詳細に説明する。
【0072】
第1の態様として、先端部が半円状のダイシングブレードよりも先細りしたダイシングブレードを少なくとも1種類以上含むことが好ましい。言い換えると、先端部が半円状ダイシングブレードよりも段差部の根元領域に発生させる最大応力が小さい先細りの度合のダイシングブレードを少なくとも1種類以上含むことが好ましい。これは、
図8から分かるように、先端部が半円状の場合より先細りした範囲(r=12.5μmを超える範囲)では、最大応力が低位に飽和している。つまり、この範囲の先細り度合いのダイシングブレードを少なくとも1種類以上準備することで、根元領域への最大応力が最も小さくなる条件に近い条件で段差部が破損するか否かを確認できる。そして、例えば、段差部が破損した場合は、S208において、準備する先端形状の種類を増やすように設計条件を変更するのではなく、表面側の溝140の幅や深さを段差部が破損しにくくなるように変更する必要があると判断しやすくなる。
【0073】
第2の態様として、先端部が半円状のダイシングブレードよりも先細りしたダイシングブレードに加えて、先端部が半円状のダイシングブレードよりも先細りしていないダイシングブレードを含むことが好ましい。言い換えると、先端部が半円状ダイシングブレードよりも段差部の根元領域に発生させる最大応力が小さい先細りの度合と大きい先細り度合いの両方のダイシングブレードを含むことが好ましい。これは、
図8から分かるように、先端部が半円状の場合より先細りした範囲(r=12.5μmを超える範囲)では、最大応力が低位に飽和している一方、先端部が半円状の場合より先細りしていない範囲(r=12.5μm以下の範囲)では、最大応力の変動が大きい。つまり、それぞれの範囲に含まれる先細り度合いのダイシングブレードを準備することで、これらのダイシングブレードが段差部を破損させる先細りの度合と段差部を破損させない先細りの度合である可能性が高くなり、
図17のS206において、
図17のS210側に進みやすくなる。つまり、先端形状の選択が容易となる。
【0074】
第3の態様として、半円状の先端部を有する切削部よりも先細り度合が小さいダイシングブレードを複数含むことが好ましい。言い換えると、先端部が半円状ダイシングブレードよりも、大きな応力を段差部の根元領域に発生させる先細りの度合のダイシングブレードを複数含むことが好ましい。
図8から分かるように、先端部が半円状のダイシングブレードよりも大きな応力を段差部の根元領域に発生させる範囲(r=12.5μm未満)では、その範囲より先細りした範囲(r=12.5μm以上)よりも、先細りの度合に対する最大応力の変化が大きい。よって、最大応力の変化が大きいこの範囲内のダイシングブレードを複数準備することで、どの程度まで先細りの度合が小さくても段差部が破損しないかが確認しやすくなる。
【0075】
第4の態様として、半円状の先端部を有する切削部よりも先細り度合が小さいダイシングブレードを3種類以上含むことが好ましい。言い換えると、先端部が半円状のダイシングブレードよりも、大きな応力を段差部の根元領域に発生させる先細りの度合のダイシングブレードが少なくとも3種類以上含まれていることが好ましい。
図8から分かるように、先端部が半円状のダイシングブレードよりも大きな応力を段差部の根元領域に発生させる範囲(r=12.5μm未満)では、最大応力の変化が大きいことに加え、応力変化が直線的ではなく非線形に変化している。よって、よって、応力が非線形に変化するこの範囲内のダイシングブレードを少なくとも3種類以上使用することで、2種類の場合と比較し、どの程度まで先細りの度合が小さくても段差部が破損しないかが確認しやすくなる。
【0076】
第5の態様として、準備するダイシングブレードには、頂部に頂面を有さない先細りした先端形状であって、裏面側の溝を形成する際にダイシングブレードの頂部の溝幅方向の位置が表面側の溝幅を外れた場合に、表面側の溝の幅から外れた頂部の領域で最大応力が生じる先細りの度合のダイシングブレードが含まれることが好ましい。このようなダイシングブレードが含まれない場合は、頂部の溝幅方向の位置が表面側の溝幅から外れる場合において、どの程度まで先細りの度合が大きくても段差部が破損しないかが全く確認できないためである。また、このようなダイシングブレードが複数含まれるようにすることで、1種類のみの場合と比較し、どの程度まで先細りの度合が大きくても段差部が破損しないかが確認しやすくなる。なお、ダイシングブレードの頂部が表面側の溝幅から外れないことが分かっている場合は、このようなダイシングブレードが含めなくてもよい。
【0077】
第6の態様として、
図15に示すように、先細りの度合を略等間隔で準備することが好ましい。また、
図17のS200において準備する先細りの度合は少なくとも2種類必要であるが、より狭く浅い表面側の溝を使用するために、
図15に示すように、できるだけ多くの種類を準備することが好ましい。
【0078】
D) ブレード位置と溝幅との関係に基づく実施例
D−1) 加工精度と表面側の溝との関係
【0079】
次に、半導体片を製造する製造装置の加工精度と表面側の溝140の幅Saとの関係、及びその関係に基づく、ダイシングブレードの先端形状の設計方法及び半導体片の製造方法について説明する。製造装置の加工精度とは、ダイシング装置の位置決め精度等を含む加工精度のみならず、表面側の溝140の位置を検知するカメラ等の検知手段の検知精度など、製造工程で使用するその他の装置類の精度を含むものである。そして、この製造装置の加工精度が主要因となりダイシングブレードの溝幅方向の位置(ばらつきの範囲)が決まることになる。
【0080】
図13において説明した通り、先細りの度合が大きいダイシングブレードでは、頂面を有さない先細りした頂部が半導体基板の表面側の溝140の溝幅方向の範囲から外れた場合に、その頂部の領域に応力が集中し、段差部が破損する場合がある。つまり、頂面を有さない先細りした頂部の領域に応力が集中する先細り度合のダイシングブレードを使用する場合は、この頂部が半導体基板の表面側の溝140の溝幅方向の範囲から外れるような製造装置の加工精度と表面側の溝140の幅との関係であっても、段差部が破損しないように、ダイシングブレードの先端形状や表面側の溝140の形状等のその他の製造条件を決定することが好ましい。
【0081】
一方、先細りの度合が非常に大きいダイシングブレードであっても、その頂部が表面側の溝140の幅から外れないような製造装置の加工精度と溝140の幅との関係であれば段差部にかかる応力が急激変わることはない。つまり、頂面を有さない先細りした頂部が表面側の溝140の幅に包含される製造条件であれば、
図15における先端角部の曲率半径が22μmや23μmのような先細りの度合が非常に大きい場合であっても段差部が破損することはなく、逆に、先細りの度合が大きいダイシングブレードほど段差部に与える最大応力が小さくなるため、最大応力を小さくするという観点からは好ましい。
【0082】
また、頂面を有さない先細りした頂部は、通常、ダイシングブレードの厚みの中心に形成されることが多いため、頂面を有さない先細りした頂部が表面側の溝140の幅から外れない製造条件とは、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含される製造条件と言うことができる。ここで、頂面を有さない先細りした頂部は、予め先端形状を加工する際の条件や実際の製造工程における摩耗の仕方によってはダイシングブレードの厚みの中心からずれる場合もある。つまり、頂面を有さない先細りした頂部が表面側の溝140の幅から外れるか外れないかは、そのような要因によるずれにも起因する。
【0083】
よって、頂面を有さない先細りした頂部が表面側の溝140の幅から外れるか外れないかの判断が必要な場合は、そのようなずれを考慮して判断することになる。ただし、そのような要因を考慮することが困難な場合は、ダイシングブレードの厚みの中心を基準に判断すればよい。以上から、本実施例における「ダイシングブレードの厚みの中心が表面側の溝140の幅に包含される(又は、表面側の溝140の幅から外れる)製造条件」とは、特に記載がなく技術的な矛盾がなければ「頂面を有さない先細りした頂部が表面側の溝140の幅に包含される(又は、表面側の溝140の幅から外れる)製造条件」と読み替えることができる。
【0084】
なお、本実施例における「包含」とは、頂部の位置と溝幅が丁度一致する状態の場合も含み、頂部が表面側の溝140の幅に包含されるのか外れるのかの判断として必要な製造装置の加工精度は、使用する製品のカタログ等に記載された値を使用する。カタログ値が存在しない場合、実測をもとに把握した値を使用すればよく、具体的には、複数回の実測を実施し、その結果をもとに平均値と標準偏差を算出し、平均値に標準偏差の3倍(3シグマ)〜4倍(4シグマ)の値を足したものを製造装置の加工精度とする。複数の装置の精度に起因する場合は、それぞれの装置の精度の二乗平均の値を使用する。
【0085】
また、頂部が表面側の溝140の幅に包含されるのか外れるかの判断として必要な表面側の溝の幅については、表面側の溝の幅が一定でない場合は、表面側の溝の底部の位置からダイシングブレードの頂部が到達する位置までの間の最大幅を使用する。ここで、頂部が表面側の溝140の幅に包含されるのか外れるのかが微妙であって判断がつかない場合等は、包含されることを前提とした実施例と包含されないこと(外れること)を前提にした実施例とのいずれを採用しても、段差部の破損度合いに有意な影響は出ないと考えられるため、いずれか一方を任意に選択すればよい。
【0086】
D−2) ブレード頂部が表面側の溝に包含される場合
次に、製造装置の精度等に起因するダイシングブレードの溝幅方向の位置と表面側の溝140の幅との関係に基づく、ダイシングブレードの先端形状の設計方法及び半導体片の製造方法について説明する。最初に、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含される製造条件における実施の形態について説明する。
【0087】
まず、第1の態様として、ダイシングブレードの厚みの中心が表面側の溝140の幅に包含される製造条件では、以下のようにダイシングブレードの先端形状を設計してもよい。例えば、
図17のフローに従ってダイシングブレードの先端形状を設計する際に、S200において、先細りの度合が非常に大きい範囲のダイシングブレードを準備する必要はない。
図8のシミュレーション結果に基づくと、曲率半径rが25μm以上の範囲においては、最大応力が0.1MPaしか変化していないため、先端角部の曲率半径が25μm以上(先端角部の曲率半径がダイシングブレードの厚み以上)の先細りの度合のダイシングブレードを準備する意味がほとんどない。つまり、準備する複数のダイシングブレードは、先端角部の曲率半径がダイシングブレードの厚み以上のものよりも大きな応力を段差部の根元領域に発生させる先細りの度合のダイシングブレードを少なくとも含んでいればよく、それより小さい応力を段差部の根元領域に発生させる先細りの度合のダイシングブレードは含んでいなくてもよい。
【0088】
第2の態様として、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含される製造条件においては、以下のような製造方法で半導体片を製造してもよい。例えば、ダイシングブレードの先端形状の先細りの度合が小さいために段差部が破損する先細りの範囲を、例えば
図17に示したフローで確認し、この範囲よりも先細りの度合が大きい先端形状を有するダイシングブレードを使用し、逆に、この範囲よりも先細りの度合が小さいダイシングブレードは使用しないようにする。これは、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含される製造条件においては、先細りの度合が大きくても、
図13における、カーフ幅が非常に狭く(Sb=11.2)、位置ずれ量Dsが大きいとき(Ds=7.5μm)のように、段差部にかかる応力が急激変わることはないため、先細りの度合が小さい側の範囲だけを設計上考慮すればよいためである。
【0089】
なお、先細りの度合が小さいために段差部が破損する先細りの範囲とは、
図15で説明すると、先端角部の曲率半径が8μm以下の範囲である。また、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含される製造条件において、裏面側の溝の形成に伴い段差部が破損する場合は、段差部の根元領域への応力が大きすぎることを意味している。よって、ある1種類の先細りの度合で裏面側の溝を形成した結果、段差部が破損した場合は、その先細りの度合よりも先細りの度合が小さい範囲のダイシングブレードは使用しないようにすればよい。
【0090】
第3の態様として、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含される製造条件においては、切削時の初期の先端形状として、
図6(D)のような半円状の先端部を有するダイシングブレードよりも先細りした形状を有するダイシングブレードを使用するようにする。
図8からわかるように、半円状の先端部(r=12.5μm)よりも先細りの度合が小さい範囲(r<12.5μm)においては、先細りの度合が変動した場合に、最大応力が大きく変動する。一方、半円状の先端部よりも先細りした範囲(r>12.5μm)においては最大応力が低位で飽和している。よって、半円状の先端部よりも先細りした先端形状を切削時の初期の先端形状とすれば、その後にダイシングブレードが摩耗した場合も含めて、段差部への応力が低位に抑制された状態を量産工程を通じて維持できる。また、低位で飽和している領域を初期の先端形状とすることで、初期の形状を準備する際に先端形状がばらつく場合であっても、段差部への応力の変動が抑制でき、より狭く浅い表面側の溝を採用しやすくなる。結果として、半円状の先端部よりも先細りの度合が小さい先端形状を初期の先端形状とする場合と比較し、段差部の破損が抑制される。
【0091】
なお、半円状の先端部を有するダイシングブレードよりも先細りした形状を有するダイシングブレードは、
図17のS200で説明したように、矩形形状のダイシングブレードを加工することで準備してもよいし、自らは加工を行わず、他の主体から入手することで準備してもよい。また、例えば、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝幅に包含されるか否かを確認し、包含される場合には、例えば、切削の初期の先端形状として、半円状の先端部を有するダイシングブレードよりも先細りした形状を予め有するダイシングブレードを使用するようにするように決定してもよい。
【0092】
第4の態様として、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含される製造条件においては、以下の製造方法で半導体片の製造をしてもよい。例えば、段差部が、回転方向から見た断面が矩形の先端形状を有するダイシングブレードを使用した場合に破損する強度である場合において、段差部を破損させる先細りの範囲よりも先細りの度合が大きい先端形状のダイシングブレードで裏面側の溝170を形成するようにする。言い換えると、そのような場合において、段差部の根元領域に対して段差部を破損させる応力以上の応力を与えない先細りした先端形状のダイシングブレードで裏面側の溝170を形成する。この製造方法によれば、一般的に多く使用される矩形形状のダイシングブレードを使用した場合に段差部が破損してしまうような狭く浅い表面側の溝形状であっても、ダイシングブレードからの応力によって半導体片の段差部を破損させずに半導体基板を個片化ができる。
【0093】
これは、
図8から分かる通り、先端部の先細りの度合によって、段差部が受ける応力が4倍以上も変動するため、矩形の先端形状を有するダイシングブレードを使用した場合に段差部が破損してしまうような狭く浅い表面側の溝形状であっても、段差部を破損させない先細りの度合が存在しうる点と、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含される製造条件においては、先細りの度合を大きくしても段差部にかかる応力が急激変わることはない点との両方の知見に基づく実施の形態である。
【0094】
なお、半円状の先端部よりも先細りしているダイシングブレードや、半円状の先端部よりも小さな応力を段差部の根元領域に発生させる先細りの度合のダイシングブレードを使用することにより、段差部にかかる応力が低位に飽和している領域を利用できるため、応力の観点からは好ましい。
【0095】
D−3) ブレード頂部が表面側の溝から外れる場合
【0096】
以上、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含される製造条件における実施の形態について説明したが、次に、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅からはずれる製造条件における実施の形態について説明する。
【0097】
まず、第1の態様として、頂部に頂面を有さない先細りした先端形状のダイシングブレードを使用し、かつ、その頂部が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝の幅から外れる製造条件においては、以下のような製造方法で半導体片の製造することができる。例えば、その頂部の領域で最大応力を与えて段差部を破損させる先細りの範囲よりも先細りの度合が小さい先端形状を有するダイシングブレードで裏面側の溝を形成するようにする。言い換えると、量産工程を通じて、そのような形状のダイシングブレードを使用するようにする。
【0098】
このような製造方法によれば、頂面を有さない先細りした頂部が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝幅から外れる製造条件であるにもかかわらず、頂部の領域で最大応力を与えて段差部を破損させてしまう先細り度合のダイシングブレードを知らずに使用してしまうことが防止できる。その結果、予期せぬ破損が抑制でき、頂部の領域で最大応力を与えて段差部を破損させる先端形状のダイシングブレードを使用する場合と比較し、段差部の破損が抑制できる。なお、頂部の領域で段差部に最大応力を与える先細りの範囲を確認したい場合は、例えば、
図12及び
図13で示したような応力シミュレーションや実際に裏面側の溝を形成し、その破損状況を確認することで確認できる。実際に裏面側の溝を形成して破損状況を確認する場合は、例えば、狭く浅い表面側の溝に対して実際に裏面側の溝を形成し、破損した場合に、その破損が頂部の領域から発生しているのか、根元領域から発生しているかを確認すればよい。
【0099】
第2の態様として、頂部に頂面を有さない先細りした先端形状のダイシングブレードを使用し、かつ、その頂部が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝の幅から外れる製造条件においては、ダイシングブレードの摩耗により、頂部の領域で最大応力を与えて段差部を破損させる先細りの範囲になる前にダイシングブレードを交換する。このようにすれば、ダイシングブレードの摩耗に伴い、頂部の領域で最大応力が発生することによって段差部が破損することがなくなる。また、このような製造方法を使用する場合は、
図17で説明した設計方法を利用して、先端形状の先細りの度合が異なる複数のダイシングブレードを用いて、それぞれの頂部における溝幅方向の位置が表面側の溝幅を外れる状態で裏面側の溝を形成し、裏面側の溝を形成した結果から、使用してよい先細り度合や使用すべきでない先細り度合を確認し、この確認結果から得られた使用すべきでない先細り度合に達する前にダイシングブレードを交換するようにしてもよい。
【0100】
第3の態様として、頂部に頂面を有さない先細りした先端形状のダイシングブレードを使用し、かつ、その頂部が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝の幅から外れる製造条件においては、以下のような製造方法で半導体片の製造をしてもよい。例えば、頂面を有さない先細りしたダイシングブレードの頂部が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝幅を外れる製造条件であって、その頂部の溝幅方向の位置が表面側の溝幅を外れたときにその頂部の領域で段差部に最大応力を与える先細り度合のダイシングブレードを使用する製造条件においては、頂部の溝幅方向の位置が表面側の溝幅を外れたときに、その最大応力によって段差部が破損しないように、表面側の溝の形状(幅や深さ)と前記頂部が達する深さとが設定された条件で製造する。このような製造方法によれば、ダイシングブレードの頂部の溝幅方向の位置が表面側の溝幅を外れる製造条件において、頂部の領域で段差部に最大応力を与える先端形状のダイシングブレードを知らずに使用した場合であっても、段差部の破損が抑制される。仮にそのように設定されていない場合は、ダイシングブレードの頂部の溝幅方向の位置が表面側の溝幅を外れた場合に、予期せぬ破損が発生しうることになる。なお、段差部の形状は、表面側の溝の形状(幅や深さ)と前記頂部が達する深さとによって決まり、この段差部の形状によって段差部の強度が決まるため、表面側の溝の形状(幅や深さ)と前記頂部が達する深さとが設定されば、段差部の強度が設定されたことになる。
【0101】
第4の態様として、頂部に頂面を有さない先細りした先端形状のダイシングブレードを使用し、かつ、その頂部が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝の幅から外れる製造条件においては、以下のような製造方法で半導体片の製造をしてもよい。例えば、ダイシングブレードの使用期間内において、その頂部の領域で段差部に最大応力を与える先細り度合いに摩耗した場合に、その最大応力によって段差部が破損しないように、表面側の溝の形状と頂部が達する深さとが設定された条件で製造する。このような製造方法によれば、ダイシングブレードの頂部の溝幅方向の位置が表面側の溝幅を外れる製造条件において、摩耗に伴い、頂部の領域で段差部に最大応力を与える先端形状のダイシングブレードを知らずに使用した場合であっても、段差部の破損が抑制される。仮にそのように設定されていない場合は、予期せぬ破損が発生しうることになる。
【0102】
第5の態様として、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅から外れる製造条件においては、以下のような製造方法で半導体片の製造をしてもよい。例えば、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝の幅から外れる製造条件においては、
図15の実験結果のように、ダイシングブレードの先端形状の先細りの度合が小さいために段差部が破損する先細りの範囲と、ダイシングブレードの先端形状の先細りの度合が大きいために段差部が破損する先細りの範囲との両方を確認し、この両者の間の先細りの範囲に含まれる先細りの度合の先端形状で裏面側の溝を形成するようにして半導体片の製造するようにすればよい。
【0103】
これは、ダイシングブレードの厚みの中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅から外れる製造条件であるにもかかわらず、ダイシングブレードの先端形状の先細りの度合が大きいために段差部が破損する先細りの範囲を確認しないでダイシングブレードの先端形状を決定した場合は、予期せぬ破損が発生しうるためである。なお、両者の間の範囲内に、段差部の根元領域に最大応力を発生させる先細りの範囲と、頂部の領域に最大応力を発生させる先細りの範囲とが含まれる場合、段差部の根元領域に最大応力を発生させる先細りの範囲に含まれる先端形状に予め加工された切削部材で前記裏面側の溝を形成することが好ましい。これは、頂部の領域に最大応力を発生させる先細りの範囲に含まれる先端形状に予め加工された切削部材を使用する場合と比較し、先細りしてない分だけ、切削部材の寿命が長くなるためである。
【0104】
D−4) 表面側の溝の幅の決定方法、製造装置の選択方法
次に、表面側の溝の幅と、ダイシングブレードの頂部(または、厚み方向の中心)が溝幅方向にばらつく範囲との関係を考慮した表面側の溝の幅の決定方法及び製造装置の選択方法について説明する。
【0105】
図18は、本発明の実施例に係る表面側の溝の幅の決定方法を説明する図である。まず、S300において、ダイシングブレードの厚み方向の中心が溝幅方向にばらつく範囲を確認する。ばらつく範囲は、主に使用する製造装置の精度に起因するものであり、例えば、ダイシング装置の加工精度や表面側の微細溝の位置を検知する検知手段(カメラ等)の精度等で決まる。よって、これらの精度を、製品カタログや実測にて確認することで、ダイシングブレードの厚み方向の中心が溝幅方向にばらつく範囲を把握する。次に、S310において、表面側の溝の幅を、S300で確認したばらつく範囲を包含する幅に決定する。このような決定方法によれば、
図13における、カーフ幅が非常に狭く(Sb=11.2)、位置ずれ量Dsが大きい場合(Ds=7.5μm)のように、頂部の領域に応力が集中することがなく、段差部の破損が抑制される。
【0106】
また、
図18のS300において、頂面を有さない先細りした頂部を有するダイシングブレードを使用する場合において、この頂部が溝幅方向にばらつく範囲を確認し、その範囲を包含するように表面側の溝の幅を決定してもよい。また、S310において、ばらつく範囲を包含する幅のうち、できるだけ狭い幅に決定することが好ましい。表面側の溝の幅が広すぎる場合は、一枚の基板から取得できる半導体片の数が少なくなってしまうためである。例えば、ダイシングブレードの厚み方向の中心が溝幅方向にばらつく範囲が±3μmの場合、10μm以上の表面側の溝の幅とするよりも、好ましくは、6〜9μm程度、つまり、ダイシングブレードのばらつく範囲の±50%程度の溝の幅になるようにするとよい。
【0107】
図19は、本発明の実施例に係る製造装置の選択方法を説明する図である。まず、S400において表面側の溝幅を確認する。より具体的には、ダイシングブレードから直接応力を受ける表面側の溝部分の幅を確認する。次に、S410において、ダイシングブレードの厚み方向の中心が溝幅方向にばらつく範囲が、確認した表面側の幅に包含されるように、使用する製造装置を選択する。具体的には、ダイシングブレードの厚み方向の中心が溝幅方向にばらつく範囲が、確認した表面側の幅に包含される精度を有するダイシング装置やカメラ等の検知手段を選択する。このような決定方法によれば、
図13における、カーフ幅が非常に狭く(Sb=11.2)、位置ずれ量Dsが大きい場合(Ds=7.5μm)のように、頂部の領域に応力が集中することがなく、段差部の破損が抑制される。
【0108】
また、
図19のS410において、頂面を有さない先細りした頂部を有するダイシングブレードを使用する場合において、この頂部が溝幅方向にばらつく範囲が、確認した幅に包含されるように、使用する製造装置を選択してもよい。
【0109】
図20は、本発明の実施例に係る表面側の溝の幅の決定方法及び製造装置の選択方法の別の実施例を説明する図である。まず、S500及びS510において、表面側の溝の幅及びダイシングブレードが溝幅方向にばらつく範囲を確認する。詳細については
図18及び
図19と同様である。次に、S520において、ダイシングブレードの厚み方向の中心(または頂部)が溝幅方向にばらつく範囲が、表面側の溝の幅から外れるか否かを確認する。外れない場合は、S540に進み、その溝幅と製造装置を使用することを決定する。一方、外れる場合は、S530に進み、表面側の溝の幅または使用する製造装置の少なくとも一方を変更し、ダイシングブレードの厚み方向の中心(または頂部)が溝幅方向にばらつく範囲が、表面側の溝の幅から外れないように変更する。このようにすれば、
図13における、カーフ幅が非常に狭く(Sb=11.2)、位置ずれ量Dsが大きい場合(Ds=7.5μm)のように、頂部の領域に応力が集中することがなく、段差部の破損が抑制される。
【0110】
以上、製造装置の精度等に起因するダイシングブレードの溝幅方向の位置と表面側の溝140の幅との関係に基づく、ダイシングブレードの先端形状の設計方法、半導体片の製造方法、表面側の溝の幅の決定方法、及び製造装置の選択方法等について説明したが、これらの実施例において、特に記載がなく、かつ、技術的な矛盾がなければ、「ダイシングブレードの厚みの中心が表面側の溝140の幅に包含される(又は、表面側の溝140の幅から外れる)製造条件」は、「頂面を有さない先細りした頂部が表面側の溝140の幅に包含される(又は、表面側の溝140の幅から外れる)製造条件」と読み替えることができる。また、特に記載がなければ、ダイシングブレードの厚みの中心や頂部が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝140の幅に包含されるか否かを確認する工程を設けてもよいし設けなくてもよい。また、各実施例のそれぞれの構成や条件は、技術的な矛盾がなければ、相互に組み合わせてよい。
【0111】
E) 事前の先端形状の加工工程の実施例
次に、実際の量産工程で使用するダイシングブレードを準備する工程について説明する。なお、この加工工程は、先に説明した各実施例に適用してもよいし適用しなくてもよい。この加工工程では、実際の量産工程で裏面側の溝を形成するのに先立ち、例えば、
図17の設計フロー等によって選択された所望の先端形状を準備する必要があるが、その準備は、
図17のS200において説明した方法と同様でよい。すなわち、一般的に入手しやすいダイシングブレードは矩形の先端形状を有しているため、これを所望の先端形状に予め加工する加工工程を設ける。そして、この加工工程において、段差部を破損させない先細りの度合に至るまで、入手したダイシングブレードを加工するようにする。なお、加工工程によって到達する所望の先細り形状は、
図17のフローによって決定されたものであってもよし、
図17のフローとは異なる方法で決定されたものであってもよい。また、この加工工程は、先に説明した各実施例に適用してもよいし適用しなくてもよい。
【0112】
次に、所望の先端形状に予め加工する加工工程の、より好ましい形態について説明する。第1の態様として、一般的なダイシングにおいては矩形の先端形状やその他の任意の先端形状が使用されるが、本実施例に係る加工工程においては、例えば矩形形状のように、段差部の根元領域に対して段差部を破損させる応力以上の応力を与えてしまう先端形状のダイシングブレードを先細りさせて、段差部を破損させない先細りの度合に予め加工するようにする。例えば、段差部を破損させない先細りの度合に至るまで、予め先端部を摩耗させる。このようにすることで、段差部の根元領域に対して段差部を破損させる応力以上の応力を与えてしまう先端形状のダイシングブレードであっても、段差部の破損を抑制できるダイシングブレードとして利用できるようになる。なお、表面側の溝の幅が広く深いことで、先端部が矩形形状のダイシングブレードであっても段差部が破損しないような場合は、本実施例のように、予め加工する工程は必要はない。ただし、表面側の溝の幅が狭く浅い場合、つまり、矩形の先端形状やその他の任意の先端形状を利用した際に、段差部の根元領域に対して段差部を破損させる応力以上の応力を与えるような場合は、本実施例のように、先端部を予め加工する工程を設けることが好ましい。
【0113】
第2の態様として、先端部を予め加工する工程において、半円状の先端部を有するダイシングブレードよりも先細りさせるようにしてもよい。例えば、先端部を半円状より先細りさえなくても段差部が破損しないような場合であっても、半円状より先細りさせてよい。これは、
図8から分かるように、先端部が半円状のダイシングブレードよりも先細りの度合が大きい範囲では最大応力の変化が小さく、十分に応力が抑制された範囲であるため、加工工程において先端形状が所望の形状からばらついた場合であっても、段差部の根元領域に対する応力の変動が抑制されることになるためである。結果として、半円形状の先端部を有するダイシングブレードよりも先細りさせない場合と比較し、加工工程において先端形状がばらついた場合であっても、段差部の根元領域に対する応力の変動を抑制できる。
【0114】
第3の態様として、先端部を予め加工する加工工程が、頂部に頂面を有さない先細りした先端形状に加工する工程である場合は、その予め加工した頂部が溝幅方向にばらつく範囲と表面側の溝幅との関係が、その予め加工した頂部が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝幅に包含される関係であることが好ましい。先端部を予め加工する場合、頂部の位置がダイシングブレードの厚み方向の中心からずれる場合がある。よって、加工工程における先端形状のばらつきを考慮したとしても、頂部が表面側の溝幅に包含されるのであれば、加工工程において先端形状がばらついた場合であっても、頂部の領域に応力が集中することで段差部が破損することが抑制されるためである。
【0115】
第4の態様として、先端部を予め加工したダイシングブレードを使用する場合において、ダイシングブレードの厚み方向の中心が溝幅方向にばらつく範囲と表面側の溝幅との関係は、ダイシングブレードの厚み方向の中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝幅に包含される関係であることが好ましい。ダイシングブレードを本実施例の加工工程において先細りさせた場合、先細りした頂部はダイシングブレードの厚み方向の中心に形成されやすい。よって、ダイシングブレードの厚み方向の中心が溝幅方向にばらつく範囲が表面側の溝幅に包含されるのであれば、頂部の領域に応力が集中する先細りの度合に加工工程で加工する場合であっても、包含されない場合と比較し、頂部の領域に応力が集中することで段差部が破損することが抑制されるためである。また、頂部の領域に応力が集中する先細りの度合まで先細りさせない場合であっても、量産工程での摩耗による先細りにより、頂部の領域に応力が集中することで段差部が破損することが抑制されるためである。
【0116】
第5の態様として、予め加工する前のダイシングブレードの先端形状としては、回転方向から見た断面が実質的に矩形形状のダイシングブレードを準備することが好ましい。断面が実質的に矩形形状のダイシングブレードはフルダイシングによく使用される形状であるため入手が容易であり、また、加工工程によって任意の先細りの度合に加工しやすいためである。そして、実質的に矩形形状のダイシングブレードを利用する場合は、事前の設計工程において、実質的に矩形形状のダイシングブレードによって段差部が破損するかを確認することが好ましい。仮に、段差部が破損しない場合であって、表面側の溝の形状等を変更する意思がない場合は、実質的に矩形形状のダイシングブレードをそのまま量産工程で使用する形状とすればよい。そして、先端を予め加工する工程は、段差部が破損する先端形状に対してのみ実施するようにすればよい。本実施例によれば、量産工程で利用しようとしている先端形状が段差部を破損させるか否かを確認することで、破損させる場合のみ加工工程を実施することになるため、不要な加工工程をしなくて済むようになる。なお、「実質的に矩形形状」とは、矩形形状を意図して製造された結果、製造ばらつき等によ先端角部に多少の曲面が形成されたものを含む。例えば、カタログ等において、矩形形状を意図して製造販売されているものは、先端角部の曲面形状の大小にかかわらず、本実施例の「実質的に矩形形状」に含まれる。
【0117】
F) ブレードの交換に関する実施例
次に、ダイシングブレードの交換のタイミングについて説明する。ダイシングブレードを使用し続けると、徐々に摩耗して、
図21の形状のように、先端が先細った形状となる。このように先細った形状に摩耗した場合であっても、
図13のシミュレーション結果から理解される通り、ダイシングブレード先端の頂部が半導体基板の表面側の溝140の幅から外れない位置精度の製造条件であれば、その摩耗したダイシングブレードを使用し続けたとしても、段差部の破損は抑制される。しかしながら、ダイシングブレード先端の頂部が半導体基板の表面側の溝の幅から外れてしまうような位置精度の製造条件の場合は、ダイシングを続けていくに従い、段差部に破損が生じる割合が増えることになる。
【0118】
図中の破線500は、本実施例における初期のダイシングブレード300の一例としての形状であり、図中の実線510は、ダイシングブレード300が摩耗して先細りした形状を示している。ここで、ダイシングブレード300の形状500の場合は、製造ばらつき等により、ダイシングブレード300の頂部が半導体基板Wの表面側の溝140の幅から外れた場合であっても、先端部の湾曲面により応力が分散されるため、段差部の一点に大きな応力がかからずに、段差部が破損する可能性が低い。一方、摩耗した形状510の場合は、先端部に湾曲面があるものの、先細りしているため、段差部の一点に応力が集中しやくす、その部分を中心として、段差部に破損520が生じやすくなる。
【0119】
そこで、本実施例では、ダイシングブレードの摩耗により、ダイシングブレードの先端部が予め定めた先細りの形状に達した場合に、ダイシングブレードを新たなものに交換をする。言い換えると、ダイシングブレードの摩耗により、ダイシング時に段差部にかかる応力が、予め定めた応力に達した場合に、ダイシングブレードの寿命に到達する前であっても、ダイシングブレードを新たなものに交換する。すなわち、ダイシングブレード先端の頂部が半導体基板の表面側の溝の幅から外れてしまうような位置精度の製造条件においては、ダイシングブレードの寿命とは別に、上記のタイミングでダイシングブレードを交換する。通常のフルダイシングでは、摩耗により先端部が先細りした状態において、ダイシング時の振動や半導体基板を貫通した衝撃などにより、ダイシングブレードに欠けなどの破損を生じる。よって、通常のフルダイシングでは、このタイミングを実験的、経験的に把握することで、ダイシングブレードの寿命を決定し、この寿命に基づいて交換が行われる。一方、本実施例では、ダイシングブレードの欠けなどの破損に基づき決まる寿命に至る前であっても、交換を実施する。
【0120】
また、予め定めた先細りの形状に達したか否かの判断や、予め定めた応力に達したか否かの判断は、事前の実験やシミュレーション等により、量産工程で許容可能な破損度合い(破損率など)と先端部の形状や応力との関係を把握するとともに、そのような先端部の形状や応力に達するのに要する、ダイシングの総時間、ダイシングの総距離、ダイシングした半導体基板の総枚数などの製造条件(累積データ)を予め求めておく。そして、量産工程においては、これらのダイシングブレードの摩耗度合いを表す製造条件が予め定めた条件に達した場合に、予め定めた先細りの形状や予め定めた応力に達したと判断すればよい。
【0121】
また、事前の実験やシミュレーション等により、量産工程で許容しうる破損率に対応する具体的な先端部の形状や応力を把握しなくても、ダイシングにおける総時間、総距離、総枚数等などの摩耗度合いを表す製造条件と破損状況との関係を数多くの実験から求め、これらの実験に基づいて、量産工程で予め定めた先細りの形状や予め定めた応力に達したか否かを判断してもよい。また、別の方法として、量産工程の途中で、実際に先端の形状を計測しながら判断してもよい。この場合、ダイシングブレードの頂部から予め定めた距離における厚みや、先端部の角度等を測定し判断すればよい。
【0122】
なお、ダイシングブレード先端の頂部が半導体基板の表面側の溝の幅から外れない製造条件を選択した場合や、外れたとしても段差部が破損しないような段差部の厚みを選択した場合は段差部の破損がより抑制されることになり、この場合は、ダイシングブレードの寿命に基づいて、ダイシングブレードを交換すればよい。なお、ダイシングブレードの頂部が表面側の溝の幅から外れないようにするためには、製造装置の加工精度と半導体基板表面側の溝の幅との関係が、そのようになる組み合わせを選択すればよい。すなわち、製造装置の精度が悪い場合は、半導体基板の表面側の溝の幅を広くし、製造装置の精度がよい場合は、それに応じて、溝の幅を狭くすればよい。
【0123】
また、実施する製造条件が、溝の幅から外れる製造条件なのかはずれない製造条件なのかが不明な場合は、溝の幅から外れる製造条件と仮定して、ダイシングブレードの寿命とは無関係に交換した方が好ましい。
【0124】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、ガラスやポリマー等の半導体を含まない基板から個々の素子を個片化する場合に適用してもよい。例えば、半導体を含まないMEMS用の基板に適用してもよい。また、本発明の実施の形態における各工程は、順序的な矛盾がない限り、少なくとも一部を量産工程前の設計段階で実施してもよいし、全てを量産工程の一環として実施してもよい。また、本発明の実施の形態における各工程は、複数の主体によって実施されてよい。例えば、表面側の溝の形成を第1の主体が実施し、第1の主体によって表面側の溝が形成された基板を第2の主体が納入することによって基板を準備し、準備した基板に第2の主体が裏面側の溝を形成して基板を個片化(分割)してもよい。すなわち、表面側の溝が形成された基板を、第1の主体が準備してもよいし、第2の主体が自ら準備してもよい。