特許第5790871号(P5790871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5790871電動車両の駆動力制御装置および電動車両の駆動力制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790871
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】電動車両の駆動力制御装置および電動車両の駆動力制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   B60L15/20 S
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-504860(P2014-504860)
(86)(22)【出願日】2013年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2013056628
(87)【国際公開番号】WO2013137189
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2014年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-54731(P2012-54731)
(32)【優先日】2012年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【弁理士】
【氏名又は名称】野末 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敬介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 春樹
【審査官】 武市 匡紘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−204436(JP,A)
【文献】 特開2006−256454(JP,A)
【文献】 特開2011−130629(JP,A)
【文献】 特開2006−34053(JP,A)
【文献】 特開2010−166740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪又は後輪のどちらか一方の左右駆動輪にそれぞれ独立して駆動力を発生させる2つのモータと、
前記2つのモータのトルクを制限可能なモータトルク制限部と、
左右輪のうち、どちらの駆動力が大きいかを判定する駆動力判定部と、
車両の旋回時に、左右輪のうちの駆動力が大きい車輪に対応するモータにトルク制限がかかった場合には、トルク制限がかかったモータのトルク指令値からトルク制限値を減算した値を他方のモータのトルク指令値に加算することによって、他方のモータのトルクを増加補正するモータトルク制御部と、
を備える電動車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の駆動力制御装置において、
モータトルク制御部は、駆動力が小さい車輪に対応するモータにトルク制限がかかった場合には、左右輪のトルク差を維持するように他方のモータトルクを減少補正させる。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動車両の駆動力制御装置において、
前記駆動力判定部は、前記左右輪のうち、どちらの駆動力が大きいかを、左右のモータトルクの絶対値で判定する。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一つに記載の電動車両の駆動力制御装置において、
前記左右輪のうちの駆動力が大きい車輪に対応するモータにトルク制限がかかった場合に、そのトルク制限がかかったモータのトルクの制限計算を先にする。
【請求項5】
前輪又は後輪のどちらか一方の左右駆動輪にそれぞれ独立して駆動力を発生させる2つのモータを備えた電動車両の制御方法において、
左右輪のうち、どちらの駆動力が大きいかを判定する工程と、
車両の旋回時に、左右輪のうちの駆動力が大きい車輪に対応するモータにトルク制限がかかった場合には、トルク制限がかかったモータのトルク指令値からトルク制限値を減算した値を他方のモータのトルク指令値に加算することによって、他方のモータのトルクを増加補正する工程と、
を備える電動車両の駆動力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の駆動力を制御する技術、特にモータ温度が、モータに不具合を与えない温度範囲である許容温度域に収まるようにする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
4つの車輪を個々のモータで駆動する電動車両において、車両の旋回中に例えば左前輪のモータの温度が許容温度を超えることで駆動力を減少させた場合、車両のヨーモーメントを維持するために、左後輪のトルクを増加させる技術がある(JP2005−204436A参照)。
【発明の概要】
【0003】
ところで、JP2005−204436Aに記載の技術は、4輪全てにモータが配置された電動車両だからこそ可能である。このため、前後輪のうちどちらか一方のみが駆動輪である電動車両にJP2005−204436Aの技術を適用し、ヨーモーメントを維持しようとすると、一律に右前輪の駆動力を減少せざるを得ず、トータルの駆動力が減少してしまう。
【0004】
本発明は、前後輪のうちどちらか一方のみが駆動輪の電動車両においても、モータの温度が許容温度を超えないようにししつ、車両の旋回中に発生しているヨーモーメント以上のヨーモーメントの発生を防止し得る技術を提供することを目的とする。
【0005】
一実施形態における駆動力制御装置は、前輪又は後輪のどちらか一方の左右駆動輪にそれぞれ独立して駆動力を発生させる2つのモータと、前記2つのモータのトルクを制限可能なモータトルク制限部と、左右輪のうち、どちらの駆動力が大きいかを判定する駆動力判定部と、車両の旋回時に、左右輪のうちの駆動力が大きい車輪に対応するモータにトルク制限がかかった場合には、左右輪のトータル駆動力を維持するように他方のモータのトルクを増加補正するモータトルク制御部とを備える。
【0006】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面とともに以下に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態の電動車両の概略構成図である。
図2A図2Aは,車両コントローラで行われる制御を説明するためのフローチャートである。
図2B図2Bは、車両コントローラで行われる制御を説明するためのフローチャートである。
図3図3は、モータ最大トルクの特性図である。
図4図4は、左輪モータの温度制限率の特性図である。
図5図5は、左輪モータの温度制限率の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1の実施形態における電動車両1の概略構成図である。
【0010】
図1に示すように、電気自動車1は、前輪2、3、操舵機構6、後輪4、5、後輪駆動部11を備える。車両前方側に一対設けられる前輪2、3は、操舵機構6のステアリングホイール6aによって操舵される。この操舵機構6には、前輪2、3の操舵角度を検出する舵角センサ6bが設置されている。
【0011】
車両後方側に一対設けられる後輪4、5は、後輪駆動部11によって駆動される。後輪駆動部11は、バッテリ12、インバータ13、14、モータ15、16、車両コントローラ17を備える。
【0012】
モータ15、16は、左右の後輪4、5を独立して駆動することができるように、左右の後輪4、5ごとに設けられている。以下、右後輪4を駆動するモータ15を「右後輪モータ」、左後輪5を駆動するモータ16を「左後輪モータ」という。バッテリ12に充電された電力は、各後輪モータ15、16ごとに設けられたインバータ13、14を介して各後輪モータ15、16に供給される。各後輪モータ15、16は、インバータ13、14からの交流電圧値に応じた駆動力を発生させ、その駆動力が出力軸18、19を介して後輪4、5(駆動輪)に伝達される。なお、インバータ13、14からの交流電圧値は、車両の運転状態に応じて車両コントローラ17によって制御される。
【0013】
車両コントローラ17は、CPU、ROM、RAM及びI/Oインタフェースを有する。車両コントローラ17には、車速センサ21、アクセルペダル開度センサ22、ブレーキペダル開度センサ23、ポジションセンサ24、加速度センサ25、舵角センサ6bなどの各種センサの出力が入力される。車速センサ21は、車両の速度、つまり車速VSPを検出する。アクセルペダル開度センサ22は、アクセルペダル開度APO(アクセルペダルの踏み込み量)を検出する。ブレーキペダル開度センサ23は、ブレーキペダル開度(ブレーキペダル踏み込み量)を検出する。ポジションセンサ24は、セレクトレバーのポジションを検出する。加速度センサ25は、車両の加速度を検出する。車両コントローラ17は、これらの検出値に基づいて、インバータ13、14からモータ15、16に出力される交流電圧値を制御して、各後輪モータ15、16の駆動力を調整する。
【0014】
4つの車輪を個々のモータで駆動する電動車両において、車両の旋回中に例えば左前輪のモータの温度が許容温度を超えることで駆動力を減少させた場合、車両のヨーモーメントを維持するために、左後輪のトルクを増加させる従来装置がある。
【0015】
しかしながら、従来装置は、4輪全てにモータが配置された電動車両において可能になる技術である。このため、図1に示すように、後輪4、5を駆動輪とする電動車両1(前後輪のうちどちらか一方のみが駆動輪の電動車両)には従来装置を適用することができない。
【0016】
そこで第1実施形態では、車両1の旋回時に、左右後輪4、5のうちいずれか一方の駆動力が大きい側のモータにトルク制限がかかった場合には、左右後輪のトータル駆動力を維持するように、他方のモータのトルクを増加補正する。例えば、右後輪モータ15にトルク制限がかかった場合には、2つの各後輪モータ15、16のトータル駆動力を維持するように、左後輪モータ16のトルクを増加補正する。
【0017】
車両コントローラ17で行われるこの制御を図2Aおよび図2Bのフローチャートに基づいて説明する。図2A図2Bのフローチャートは、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0018】
ステップS1では、モータ温度センサ26、27により検出される右後輪モータ15のモータ温度Tmr 、左後輪モータ16のモータ温度Tmlを読み込む。ここで、モータ温度には、磁石温度、巻線温度等の概念を含むものとする。ただし、読み込む温度はモータ温度に限定されず、オイル温度やインバータ温度であってもよい。
【0019】
ステップS2では、右後輪モータ温度Tmrと許容温度T0、および左後輪モータ温度Tmlと許容温度T0を比較する。Tmr≧T0である場合やTml≧T0である場合にはトルク制限を行う必要があると判断し、ステップS3以降に進む。それ以外の時にはそのまま今回の処理を終了する。
【0020】
ステップS3では、モータ最大トルクに各後輪モータの温度制限率を乗算することにより、つまり次式により、各後輪モータ16、15のトルク制限値LMT_L、LMT_Rを算出する。
LMT_L=TRQ_MAX×RATE_L …(1)
LMT_R=TRQ_MAX×RATE_R …(2)
ただし、LMT_L:左後輪モータのトルク制限値、
LMT_R:右後輪モータのトルク制限値、
TRQ_MAX:モータ最大トルク、
RATE_L:左後輪モータの温度制限率、
RATE_R:右後輪モータの温度制限率、
【0021】
ここで、(1)式、(2)式のモータ最大トルクTRQ_MAXは、モータ回転速度から、図3に示すテーブルを検索することによって算出する。モータ回転速度はモータ回転速度センサ28により検出する。(1)式の左後輪モータ16の温度制限率RATE_Lは、モータ温度センサ27により検出される左後輪モータ16のモータ温度から、図4に示すテーブルを検索することによって算出する。(2)式の右後輪モータの温度制限率RATE_Rは、モータ温度センサ26により検出される右後輪モータ15のモータ温度から、図5に示すテーブルを検索することによって算出する。図4図5に示すように、温度制限率RATE_L、RATE_Rはそれぞれ、許容温度T0以下では1.0であり、許容温度T0を超える温度範囲では、モータ温度が高くなるほど減少し、最終的にゼロとなる。
【0022】
ステップS4では、2つの各後輪モータ15、16の指令トルクTRQ_R、TRQ_Lの各絶対値を比較する。右後輪モータ15の指令トルクTRQ_Rの絶対値が左後輪モータ16の指令トルクTRQ_Lの絶対値以上である場合には、主に車両1の旋回方向によらず、車両を車両上方から見て左(反時計)周りに、モータトルクによるモーメントを付加している状態である。この場合、右後輪モータ15の温度上昇に起因して右後輪モータ15のトルクを制限する必要があり得ると判断し、ステップS5以降に進む。一方、右後輪モータ15の指令トルクTRQ_Rの絶対値が左後輪モータ16の指令トルクTRQ_Lの絶対値未満である場合には、主に車両1の旋回方向によらず、車両を車両上方から見て右(時計)周りに、モータトルクによるモーメントを付加している状態である。この場合、左後輪モータ16の温度上昇に起因して左後輪モータ16のトルクを制限する必要があり得ると判断し、図2BのステップS13〜S20に進む。
【0023】
ここで、車両の旋回方向によらずという意味について説明する。例えば右旋回中にアクセルを踏み込んで加速をすると、アンダーステアが発生し車が外に膨らむ。この場合、ふくらみを防止するために左輪のトルクを大きくすると、アンダーステア傾向が軽減され、より旋回しやすくなる。逆に旋回中にブレーキをかけると、車両はオーバステア傾向を示し、車が内側を向こうとする。この場合、右側のトルクを大きくすると、オーバステア傾向が軽減される。この様に、旋回方向によらず、左右のトルクの大きさを調整すると、車の挙動をコントロールできるので、様々な車両の挙動特性を作り出すことが可能となる。
【0024】
上記各後輪モータ15の指令トルクTRQ_L、TRQ_Rは次のようにして算出している。すなわち、基本駆動力とモーメントトルクとに分けて考える。基本駆動力は従来の電気車両と同様に、アクセルペダル開度APOと車速VSPをパラメータとして要求駆動力を算出し、それを左右の駆動輪に半分ずつ分配することで各駆動輪の要求駆動力を算出する。この各駆動輪の要求駆動力をタイヤ半径やギア比を考慮して、モータ軸トルクに変換する。一方、モーメントトルクは、アクセルペダル開度APOやブレーキペダル開度、操舵角、車速等に基づいて算出する。上記のモータ軸トルクに対してモーメントトルクをそれぞれ加減算することによって、各後輪モータ15、16の各指令トルクTRQ_L、TRQ_Rを算出する。
【0025】
ステップS4で各指令トルクの絶対値で比較するのは、各後輪モータ15、16は、駆動時(指令トルクは正)でも、制動時(指令トルクは負)でもトルクが作用すれば、各後輪モータ15、16の温度が上昇するためである。言い換えると、各後輪モータ15、16の駆動時、制動時に拘わらず、最適な制限を各後輪モータ15、16にかけるためである。ここでは、各後輪モータ15、16に制限をかけるか否かの判定に用いるパラメータとして、各後輪モータの指令トルクを用いているが、指令トルクに限定されるものでない。例えば、指令トルクに代えて各後輪モータ15、16の実トルクを用いることができる。各後輪モータ15、16の実トルクは、モータ電流から求めることができる。
【0026】
ステップS5では、右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rと右後輪モータ15の指令トルクTRQ_Rを比較する。右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rが右後輪モータ15の指令トルクTRQ_R未満である場合には、右輪モータ15のトルクを制限する必要がある。この場合には、ステップS6に進み、2つの各後輪モータ15、16の指令トルクの平均トルクTRQ_Mを次式により算出する。
TRQ_M=(TRQ_R+TRQ_L)/2 …(3)
【0027】
ステップS6では、指令トルクTRQ_Rからトルク制限値LMT_Rを差し引いた値を、右後輪モータ15に制限をかけるトルク補正量TDRとして、つまり次式により、右後輪トルクのトルク補正量TDRを算出する。
TDR=TRQ_R−LMT_R …(4)
【0028】
ステップS7では、右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rと、2つの各後輪モータ15、16の平均トルクTRQ_Mを比較する。右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rが平均トルクTRQ_M以上である場合には、ステップS8に進み、2つの各後輪モータ15、16へのトルク補正を実行する。すなわち、右後輪モータ15についてはトルク補正値TDRの分だけ減少させる(制限する)ため、右後輪モータ15の指令トルクTRQ_Rからトルク補正値TDRの分だけ差し引いた値を改めて右後輪モータ15の指令トルクTRQ_Rとする。つまり、次式により、右後輪モータ15の指令トルクTRQ_Rを減少補正する。
TRQ_R=TRQ_R−TDR …(5)
【0029】
一方、左後輪モータ16の指令トルクTRQ_Lにトルク補正値TDRを加算した値を改めて左後輪モータ16の指令トルクTRQ_Lとする。つまり、次式により左後輪モータ16の指令トルクTRQ_Lを増大補正する。
TRQ_L=TRQ_L+TDR …(6)
【0030】
ここで、トルク制限がかかる側のモータではない左後輪モータの指令トルクを増大補正するのは、2つの各後輪モータのトータルトルクを優先し、2つの各後輪モータ15、16のトータルのトルクを維持して車両挙動が不安定にならないようにするためである。
【0031】
2つの各後輪モータ15、16のトルクを同時に変化させる理由は次の通りである。すなわち、2つの各後輪モータ15、16のトルクを同時に変化させないと、車両の前後方向の駆動力や制動力が変化し、前後Gとして現れることになるので、これを避けるためである。一方、横方向の変化は、例えば横風が入って車両が流され、進路が多少ずれるなどというケースと同様に考えられる。このようなケースの場合、ドライバが多少の修正操舵で対応している。上記のトルク補正値TDRとして、上記ケースのように、ドライバが多少の修正操舵で対応できる程度のモーメント量に設定してあるので、左後輪モータ16の指令トルクを増大補正しても、車両挙動にあまり影響はないと考えられる。言い換えると、モーメント量の制限にリミッタをつけているので、車両挙動の急変を防止できる。
【0032】
一方、ステップS7で右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rが平均トルクTRQ_M未満である場合には、ステップS9に進み、左右の各後輪モータ15、16へのトルク補正を実行する。ここでは、右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rをそのまま右後輪モータ15のトルク指令値TRQ_Rとする。つまり、次式により、右後輪モータ15のトルク指令値TRQ_Rを算出する。
TRQ_R=LMT_R …(7)
【0033】
左後輪モータ16のトルク指令値TRQ_Lと右後輪モータ15のトルク指令値TRQ_Rとを等しくするため、次式により、左後輪モータ16のトルク指令値TRQ_Lを算出する。
TRQ_L=TRQ_R …(8)
【0034】
(7)式、(8)式は、一旦はモーメントをキャンセルして2つの各後輪モータ15、16の駆動力を同一にするものである。それでも指令トルクが右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rにはまだ到達していないので、モーメントをつけずに駆動力を絞る方向で、2つの各後輪モータ15、16を同一のトルク値に補正したものである。2つの各後輪モータ15、16のトータルの駆動力が下がってしまうことは、通常の1モータの電気車両の場合に、温度制限がかかるシーン・車両挙動と同一である。
【0035】
ステップS7で右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rが平均トルクTRQ_M以上である場合と、右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rが平均トルクTRQ_M未満である場合とでトルクの補正方法を異ならせた理由は次の通りである。トルク制限値LMT_Rが平均トルクTRQ_M以上の場合には、結果的にモーメントトルクが残るケースとなる。この場合は、ステップS8で前述したように、制限がかかっている方の右後輪モータ15でモーメントトルクが減少し、制限がかかっていない方の左後輪モータ16の駆動トルクを増加させる操作を行う。一方、トルク制限値LMT_Rが平均トルクTRQ_M未満である場合には、駆動力自体を減少させることになる。このように、考え方が相違するため、トルクの補正方法を切換える必要がある。
【0036】
上記ステップS5で右後輪モータ15のトルク制限値LMT_Rが右後輪モータ15の指令トルクTRQ_R以上である場合には、右後輪モータ15のトルクを制限する必要がない。この場合には、ステップS6〜S9を飛ばして、ステップS10〜S12の左後輪モータ16のトルクチェックへと進む。
【0037】
ステップS10では、左後輪モータ16の指令トルクTRQ_Lと左後輪モータ16のトルク制限値LMT_Lを比較する。左後輪モータ16の指令トルクTRQ_Lがトルク制限値LMT_L以上である場合には、左後輪モータ16のトルクを制限する必要がある。この場合にはステップS11に進み、左後輪モータの指令トルクTRQ_Lからトルク制限値LMT_Lを差し引いた値を左後輪モータ16に制限をかけるトルク補正量TDLとして、つまり次式により、左後輪トルク16のトルク補正量TDLを算出する。
TDL=TRQ_L−LMT_L …(9)
【0038】
ステップS12では、2つの各後輪モータ15、16へのトルク補正を実行する。すなわち、右後輪モータ15については、右後輪モータ15のトルク指令値TRQ_Rをトルク補正値TDLの分だけ減少させた値を改めて右後輪モータ15のトルク指令値TRQ_Rとする。つまり、次式により、右後輪モータ15の指令トルクTRQ_Rを算出する。
TRQ_R=TRQ_R−TDL …(10)
【0039】
(10)式は、右後輪モータ15の指令トルクをいきなり左後輪モータ16のトルク制限値LMT_Lにすることを意味する。
【0040】
左後輪モータ16についても、左後輪モータ16のトルク指令値TRQ_Lをトルク補正値TDLだけ減少させた値を改めて左後輪モータ16のトルク指令値TRQ_Lとする。つまり、次式により、左後輪モータ16の指令トルクTRQ_Lを算出する。
TRQ_L=TRQ_L−TDL …(11)
【0041】
(10)式、(11)式によって各後輪モータ15、16から同じ値のトルク補正値TDLを差し引く理由は、ヨーレイト優先のためである。ここでいう「ヨーレイト優先」とは、右後輪モータ15の指令トルクTRQ_R、左後輪モータ16の指令トルクTRQ_Lから同じ値(TDL)を差し引くことによって、トルク補正の前後でヨーレイトが過大化しないようにすることをいう。この場合、左右輪のモータのトータル駆動力が低下するので、トルク補正前後でヨーレイトが過大化しない範囲であれば、トータルの駆動力に合わせたヨーモーメントを付与するよう、モータトルクの補正を行ってもよい。
【0042】
一方、ステップS13〜S20の操作は、ステップS5〜S12の操作と同様である。ステップS5〜S12の操作で右後輪モータと左後輪モータとを入れ換えたものがステップS13〜20の操作である。よって、ステップS13〜S20の説明は省略する。
【0043】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0044】
本実施形態における電動車両の駆動力制御装置は、2つの各後輪モータ15、16(前輪又は後輪のどちらか一方の左右駆動輪にそれぞれ独立して駆動力を発生させるモータ)と、各後輪モータ16、15のトルクを制限する車両コントーラ17(モータトルク制限部)と、左右輪のうち、どちらの駆動力が大きいかを判定する駆動力判定部(図2AのステップS8参照)と、車両1の旋回時に、右後輪モータ15(左右輪のうちいずれか一方の駆動力が大きい側のモータ)にトルク制限がかかった場合には2つの各後輪モータ15、16のトータル駆動力(左右輪のトータル駆動力)を維持するように左後輪モータ16(他方のモータ)のトルクを増加補正するモータトルク制御部(図2AのステップS4、S8参照)とを備えている。本実施形態によれば、右後輪モータ15のモータトルクが制限された場合でも、車両1の旋回中に発生しているヨーモーメント以上のヨーモーメントの発生を防止できるため、車両挙動の不安定化を回避できる。また、駆動力が大きい側の右後輪モータ15にトルク制限がかかった場合には、2つの各後輪モータ15、16のトータルの駆動力を維持できるため、車速を維持できる。
【0045】
本実施形態によれば、モータトルク制御部は、駆動力が小さい側の左後輪モータ16にトルク制限がかかった場合には、2つの各後輪モータ15、16のトルク差(左右輪のトルク差)を維持するように、右後輪モータ15のモータトルク(他方のモータトルク)を減少補正させるので(図2AのステップS4、S10、S12参照)、意図しないヨーモーメントの過大化を防止できる。
【0046】
本実施形態によれば、左右輪のうちいずれか一方の駆動力が大きいか否かを、2つの各輪モータ15、16のトルク(左右のモータトルク)の絶対値で判定するので(図2AのステップS4参照)、車両1の駆動時、制動時によらず、最適なトルク制限をかけることができる。
【0047】
本実施形態によれば、右後輪モータ15(左右輪のうちいずれか一方の駆動力が大きい側のモータ)にトルク制限がかかった場合に、右後輪モータ15(その大きい側のモータ)のトルク制限の計算を先にする(図2AでステップS5〜S9がステップS10〜S12より先にある点を参照)。従って、トルクの大きい右後輪モータ15の方はモーメント量が減少するが、その際、トルクが小さい左後輪モータ16の方は、モーメント量の減少によりトルクが大きくなる。その後、トルクが小さい左後輪モータ16の方の状況に応じて、2つの各後輪モータ15、16全体のトルクを調整することができるので、演算が複雑にならないようにすることができる。
【0048】
上述した実施形態では、後輪を駆動輪とする電動車両で説明したが、前輪を駆動輪とする電動車両に対しても本発明を適用できる。
【0049】
本願は、2012年3月12日に日本国特許庁に出願された特願2012−054731に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5