(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790880
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】過電流検出装置及びこれを使用したインテリジェントパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
H03K 17/08 20060101AFI20150917BHJP
H03K 17/56 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
H03K17/08 Z
H03K17/56 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-520873(P2014-520873)
(86)(22)【出願日】2013年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2013002262
(87)【国際公開番号】WO2013190752
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2014年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-140931(P2012-140931)
(32)【優先日】2012年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】皆川 啓
【審査官】
柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−51456(JP,A)
【文献】
特開2004−312924(JP,A)
【文献】
国際公開第2001/063765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/00−17/70
H02M 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ゲートバイポーラトランジスタのセンスエミッタから出力されるセンスエミッタ電流をセンスエミッタ電圧として検出するセンスエミッタ電流検出部と、該センスエミッタ電流検出部で検出したセンスエミッタ電圧と閾値電圧とを比較して過電流を検出する比較部とを備えた過電流検出装置であって、
前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタのゲート及びセンスエミッタ間の電流に対応する補正用電流を補正電圧として検出する補正用電流検出部と、
前記センスエミッタ電流検出部で検出したセンスエミッタ電圧から前記補正用電流検出部で検出した補正用電圧を減じてセンスエミッタ補正電圧を算出し、当該センスエミッタ補正電圧を前記比較部に供給する電圧補正部と
を備えていることを特徴とする過電流検出装置。
【請求項2】
前記センスエミッタ電流検出部及び前記補正用電流検出部は、電流検出用抵抗を有し、電流を電圧値として検出するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の過電流検出装置。
【請求項3】
前記補正用電流検出部は、前記ゲートに供給する電流路に介挿したカレントミラー回路と、該カレントミラー回路の電流出力部と接地との間に介挿した前記電流検出用抵抗とで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の過電流検出装置。
【請求項4】
前記補正用電流検出部は、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタのゲート電流を制御する第1の半導体電流制御素子と並列に配置した前記第1の半導体電流制御素子のセルサイズに比較して小さいセルサイズの第2の半導体電流制御素子と、該第2の半導体電流制御素子の出力側と接地との間に介挿した前記電流検出用抵抗とで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の過電流検出装置。
【請求項5】
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ及び当該絶縁ゲートバイポーラトランジスタと逆並列に接続されたフリーホイールダイオードと、前記請求項1乃至4の何れか1項に記載の過電流検出装置と、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタの駆動と少なくとも前記過電流検出装置の過電流検出値に基づく前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタの保護とを行う駆動用ICとを1つのパッケージに集約したこと特徴とするインテリジェントパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下、IGBTと称す)に過電流が流れたときに、IGBTを破壊から保護する過電流検出装置及びこれを使用したインテリジェントパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置を構成する三相のインバータ回路は、6個のIGBTと、これらIGBTと逆並列に接続されたフリーホイールダイオード(FWD)とが2つずつ直列に接続された直列回路が直流電源に並列に接続された構成を有し、各直列回路のIGBT間の接続点に電動モータなどのインダクタンス負荷が接続されている。
このような電力変換装置に使用されるIGBTでは、過電流が流れたときにIGBTを破壊から保護するために過電流保護回路が設けられている。
【0003】
この過電流保護回路としては、
図5に示す構成が知られている。
IGBT100には、コレクタ100cと、エミッタ100eと、センスエミッタ100seとが設けられている。センスエミッタ100seは、コレクタ100cとエミッタ100eの間を流れる電流に対して数千分の1又は数万分の1程度のセンス電流を出力する。この過電流保護回路は、センスエミッタ100seと接地との間に電流検出用抵抗101を介挿し、この電流検出用抵抗101の高電位側のセンス電圧Vseを過電流検出用コンパレータ102の非反転入力端子に入力する。
【0004】
この過電流検出用コンパレータ102の反転入力端子には、過電流を判断する閾値電圧Vthが入力され、この過電流検出用コンパレータ102からセンス電圧Vseが閾値電圧Vth以上となったときにオフ状態からオン状態に反転する過電流検出信号Socが出力される。
この過電流検出信号Socは、ローパスフィルタ回路103に供給されて所定の時定数を持って積分されることにより、IGBT100のターンオン時に生じるセンス電圧Vseが閾値電圧Vthを超える値となる過渡的な増加状態で過電流の誤検出を防止するようにしている。
【0005】
なお、IGBT100は、ゲート駆動回路105から供給されるゲート電流によって駆動制御される。このゲート駆動回路105は、制御電源106及びグランド107間に直列に接続されたPチャネルMOSFET108及びNチャネルMOSFET109を有し、これらPチャネルMOSFET108及びNチャネルMOSFET109の接続点がIGBT100のゲート100gに接続されている。そして、PチャネルMOSFET108及びNチャネルMOSFET109が保護機能付きドライバIC110によって、一方がオン状態であるときに他方がオフ状態となるように制御される。
【0006】
上記過電流保護回路の動作を
図6の信号波形図を用いて説明する。
IGBT駆動回路のPチャネルMOSFET108がオンすると、制御電源106の電圧Vcc(例えば15V程度)と等しい制御電圧VgccがIGBT100のゲート100gに印加される。
IGBT100は、絶縁ゲート型の半導体デバイスであり、いわゆる電圧駆動型のデバイスであるが、IGBT100のゲート100gにはゲート電流Igが流れ、ゲート容量(ここではゲート・エミッタ間容量のこと)を充電する。ゲート容量が充電されると
図6(b)に示すようにゲート電圧Vgが立ち上がる。ゲート電圧Vgが立ち上がりゲート閾値電圧に達すると、
図6(a)に示すようにコレクタ電流Icが立ち上がり、コレクタ・エミッタ間電圧Vceは
図6(a)に示すように立下がり始める。
【0007】
また、コレクタ電流Icの数千分の1〜数万分の1程度であるセンス電流Iseが
図6(c)に示すように立ち上がり、センス電流Iseが流れるセンス抵抗Rsの両端の電圧、つまりセンス電圧Vseも
図6(d)に示すように上昇する。ゲート電圧Vgがゲート閾値電圧に達すると、コレクタ・エミッタ間電圧Vceが低下し、IGBT100のミラー容量(ゲート・コレクタ容量)が増大して、ゲート電圧Vgはほぼ一定となる領域に移行する。
【0008】
この間に、センス電流Iseも
図6(c)に示すように上昇し、これに伴ってセンス電圧Vseも
図6(d)に示すように上昇し、過電流と判断する過電流閾値電圧Vth(これは基準電圧Eで決まる)に達すると、過電流検出用コンパレータ102の出力はHレベルの過電流検出信号Socを出力する。
この過電流検出信号Socはローパスフィルタ回路103に供給されるので、ローパスフィルタ回路103の出力は、緩やかに上昇する。このとき、ローパスフィルタ回路103の時定数をセンス電圧Vsが過電流閾値電圧Vthを超えてから過電流閾値電圧Vth以下となるまでの誤検出防止時間T1よりも大きく設定されている。
【0009】
このため、センス電圧Vseが過電流閾値電圧Vthを超えている誤検出防止時間T1の間にローパスフィルタ回路103のフィルタ出力が過電流検出用コンパレータ102のHレベルに達することはない。
このため、ローパスフィルタ回路103のフィルタ出力が保護機能付きドライバIC110に供給されたときに、フィルタ出力が過電流検出用コンパレータ102のHレベルに達することがない。したがって、保護機能付きドライバIC110でゲート電流Igが遮断されることはない。
【0010】
しかしながら、過電流検出用コンパレータ102から出力される過電流検出信号SocのHレベルが誤検出防止時間T1を超えて継続される場合には、ローパスフィルタ回路103のフィルタ出力がHレベルに達する。このため、保護機能付きドライバIC110でIGBT100のゲート100gに対するゲート電流Igの出力が停止されて、IGBT100の過電流保護機能が動作する。
【0011】
また、上記
図5の構成では、ローパスフィルタ回路103を使用してIGBT100のターンオン時の過電流誤検出を防止するようにした場合について説明したが、特許文献1に記載されているように構成することもできる。
すなわち、特許文献1では、ローパスフィルタ回路を省略してIGBTを動作させる入力信号の立ち上がりのエッジを検出してタイマーを動作させるようにしている。したがって、前述した誤検出防止時間T1の間通常の基準電圧より高い基準電圧を過電流検出用コンパレータに供給して、センス電圧Vseが過電流閾値電圧Vthを超えている期間過電流検出用コンパレータから出力される過電流検出信号がLレベルを維持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−120787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記従来例によると、ローパスフィルタ回路を使用して過電流検出用コンパレータ102から出力されるHレベルの過電流検出信号SocのHレベルの立ち上がりをなまらせるか、タイマーを使用して誤検出防止時間T1の間過電流検出用コンパレータに通常の基準電圧より高い基準電圧を加えるようにしている。これにより、IGBTのターンオン時に生じるセンス電圧Vseが過電流閾値電圧Vthを超えている期間での誤検出を防止するようにしている。
【0014】
しかしながら、上記従来例では、ローパスフィルタ回路を使用する場合には、IGBTの誤検出防止時間T1が4〜5μsecと比較的長く、この誤検出防止時間T1が経過してから過電流判断を行うことになる。このため、過電流状態となったときに、過電流状態と判断するまでの判断時間が長くなるという未解決の課題がある。しかも、誤検出防止時間T1はIGBTによって異なるので、ローパスフィルタ回路の時定数を長めに設定せざるを得ず、この点でも過電流状態と判断する判断時間が長くなるという未解決の課題がある。このため、短時間の判断を必要とする短絡電流の検出を同時に行うことはできない。
【0015】
これに対して、特許文献1に記載された発明では、タイマーを使用して過電流検出用コンパレータの基準電圧を変更する場合には、ローパスフィルタを使用しないので、時定数の設定の必要はない。しかしながら、特許文献1に記載された発明では、タイマーに誤検出防止時間T1に相当する比較的長いタイムアップ時間を設定する必要がある。この誤検出防止時間T1はIGBTによって異なるので、タイムアップ時間を長めに設定する必要があるという未解決の課題がある。さらに、特許文献1に記載された発明では、タイマー、スイッチ回路、2種類の基準電圧源等を設ける必要があり、回路構成が大型化するという未解決の課題もある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、誤検出防止時間を短縮することができる過電流検出装置及びこれを使用したインテリジェントパワーモジュールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタのセンスエミッタから出力されるセンスエミッタ電流をセンスエミッタ電圧として検出するセンスエミッタ電流検出部と、該センスエミッタ電流検出部で検出したセンスエミッタ電圧と閾値電圧とを比較して過電流を検出する比較部とを備えた過電流検出装置である。そして、過電流検出装置は、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタのゲート及びセンスエミッタ間の電流に対応する補正用電流を補正電圧として検出する補正用電流検出部と、前記センスエミッタ電流検出部で検出したセンスエミッタ電圧から前記補正
用電流検出部で検出した補正用電圧を減じてセンスエミッタ補正電圧を算出し、当該センスエミッタ補正電圧を前記比較部に供給する電圧補正部とを備えている。
【0017】
また、本発明に係る過電流検出装置の第2の態様は、前記センス
エミッタ電流検出部及び前記補正
用電流検出部が、電流検出用抵抗を有し、電流を電圧値として検出するように構成されている。
また、本発明に係る過電流検出装置の第3の態様は、前記補正用電流検出部が、前記ゲートに供給する電流路に介挿したカレントミラー回路と、該カレントミラー回路の電流出力部と接地との間に介挿した前記電流検出用抵抗とで構成されている。
【0018】
また、本発明に係る過電流検出装置の第4の態様は、前記補正用電流検出部が、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタのゲート電流を制御する第1の半導体電流制御素子と並列に配置した前記第1の半導体電流制御素子のセルサイズに比較して小さいセルサイズの第2の半導体電流制御素子と、該第2の半導体
電流制御素子の出力側と接地との間に介挿した前記電流検出用抵抗とで構成されている。
【0019】
また、本発明に係るインテリジェントパワーモジュールの第1の態様は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ及び当該絶縁ゲートバイポーラトランジスタと逆並列に接続されたフリーホイールダイオードと、上記第1〜第4の態様の何れか1つの態様を備えた過電流検出装置と、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタの駆動と少なくとも前記過電流検出装置の過電流検出値に基づく前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタの保護とを行う駆動用ICとを1つのパッケージに集約している。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、センスエミッタ電流検出部で検出したIGBTのセンスエミッタ電圧から補正
用電流検出部で検出したIGBTのゲート及びセンスエミッタ間の電流に対応する補正用電圧を減算して算出したセンスエミッタ補正電圧を過電流閾値電圧と比較するようにしている。このため、IGBTのコレクタ電流に相当する正味のセンスエミッタ電圧で過電流判断を行うので、IGBTのターンオン時の誤検出防止時間を短縮することができる。このため、過電流検出に加えて短絡電流検出にも適用することができる。
さらに、上記過電流検出装置と、IGBT、FWD、IGBTの駆動用ICとを1つのパッケージに集約してインテリジェンパワートモジュールを構成するので、全体の構成を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明を適用し得る電力変換装置を示す回路図である。
【
図2】本発明の過電流検出装置を含むインテリジェントパワーモジュールを示す回路図である。
【
図3】
図2の過電流検出装置の動作の説明に供する信号波形図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態を示す
図2に対応する回路図である。
【
図5】従来のIGBTの過電流検出装置を示す回路図である。
【
図6】
図5の動作の説明に供する信号波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を伴って説明する。
図1は、本発明を適用し得る電力変換装置を示す回路図、
図2には、本発明の第1の実施形態における過電流検出装置を含むインテリジェントパワーモジュールの回路である。
本発明を適用し得る電力変換装置は、
図1に示すように、例えば直流電力を三相交流電力に変換するインバータ回路で構成されている。このインバータ回路は、主直流電源1の正極側に接続された正極側ライン2pと主直流電源1の負極側に接続された負極側ライン2nとを有する。
【0023】
これら正極側ライン2p及び負極側ライン2n間に、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下、IGBTと称す)3A及び3Bを直列に接続した直列回路4と、IGBT3C及び3Dを直列に接続した直列回路5と、IGBT3E及び3Fを直列に接続した直列回路6とが並列に接続されている。各IGBT3A〜3Fには、フリーホイールダイオード(以下、FWDと称す)7A〜7Fが逆並列に接続されている。
そして、直列回路4のIGBT3A及び3Bの接続点、直列回路5のIGBT3C及び3Dの接続点並びに直列回路6のIGBT3E,3Fの接続点が電動モータ等のインダクタンス負荷
9に接続されている。
【0024】
このインバータ回路の動作を
図3の信号波形図を伴って説明する。
あるタイミングでIGBT3AとIGBT3Dがオンして負荷9に主直流電源1から電流I1が供給されているものとする。つぎに、IGBT3AとIGBT3Dがオフすると負荷9に流れている電流I1はFWD7B,7Cを通して主直流電源1に還流電流となって流れ込む。このように、IGBT3A〜IGBT3Fが順次オン・オフすることで、負荷9に三相の電力を供給する。
【0025】
ところで、IGBT3Aがオンからオフへ遷移し、電流I2がFWD7Cを流れている状態で、IGBT3Dがオンすると、一瞬、FWD7CとIGBT3Dの直列回路がアーム短絡状態になる。このアーム短絡はFWD7Cが逆回復した時に解消されるものの、IGBT3Dがターンオンするとき、このFWD7Cの逆回復電流がIGBT3Dのコレクタ電流に重畳して流れる。そのため、
図3(a)に示すように、IGBT3Dのコレクタ電流Icはターンオン動作時には逆回復電流Irが重畳されるので跳ね上がり、その後定常状態に移行する。
【0026】
そして、インバータ回路を構成する各IGBT3i及びFWD7i(i=A〜F)のそれぞれは、
図2に示すように、IGBT駆動回路10、保護機能付きドライバIC11、過電流検出装置12を含んで1つのパッケージ化されてインテリジェントパワーモジュール13として構成されている。
ここで、IGBT駆動回路10は、制御電源15及びグランド16間に直列に接続されたPチャネルMOSFET10aと、NチャネルMOSFET10bとを有し、PチャネルMOSFET10a及びNチャネルMOSFET10bの接続点がIGBT3iのゲート3gに接続されている。
【0027】
保護機能付きドライバIC11は、IGBT駆動回路10を構成するPチャネルMOSFET10a及びNチャネルMOSFET10bを一方がオン状態であるときに他方がオフ状態となるように制御する。この保護機能付きドライバIC11は、IGBT3iをターンオンさせる場合には、PチャネルMOSFET10aをオン状態とし、NチャネルMOSFET10bをオフ状態とする。これにより、制御電源15からゲート電流IgをIGBT3iのゲート3gに供給してゲート容量(ここではゲート・エミッタ間容量を表す)を充電する。逆に、IGBT3iをターンオフさせる場合には、PチャネルMOS
FET10aをオフ状態とし、NチャネルMOSFET10bをオン状態としてIGBT3iのゲート3gをグランド16に接続してゲート容量を放電する。
【0028】
過電流検出装置12は、センスエミッタ電流検出部21と、補正用電流検出部22と、電圧補正部23、比較部24と、ローパスフィルタ回路25とを備えている。
センスエミッタ電流検出部21は、IGBT3iに形成されたコレクタ3cを流れるコレクタ電流Icの数千分1〜数万分の1程度のセンスエミッタ電流Iseを出力するセンスエミッタ3seとグランドとの間に接続された電流検出用抵抗Rs1で構成されている。そして、電流検出用抵抗Rs1の高電位側からセンスエミッタ電流Iseが電圧に変換されたセンスエミッタ電圧Vseが出力される。
【0029】
補正用電流検出部22は、IGBT駆動回路10のPチャネルMOSFET10aのドレイン側に入力部が接続されたカレントミラー回路31と、このカレントミラー回路31の出力部とグランド16との間に接続された電流検出用抵抗Rs2とを少なくとも有する。
カレントミラー回路31は、IGBT駆動回路10のPチャネルMOSFET10aのドレインとIGBT3iのゲート3gとの間に接続されたPチャネルMOSFET31aと、このPチャネルMOSFET31aのゲートにゲートが接続されたPチャネルMOSFET31bとで構成されている。
【0030】
そして、PチャネルMOSFET31a及び31bのゲート間の接続点がPチャネルMOSFET31a及びPチャネルMOSFET10aのドレイン間の接続点に接続されている。また、PチャネルMOSFET31bのドレインが定電流回路32を介して制御電源15に接続され、ソースが電流検出用抵抗Rs2の高電位側に接続されている。
【0031】
ここで、カレントミラー回路31のカレントミラー比は、IGBT3iのセンスエミッタ3seから出力されるセンスエミッタ電流Iseに重畳されているゲート電流成分に対応する電流値となる補正用ゲート電流Igaが得られるように設定されている。そして、カレントミラー回路31のPチャネルMOSFET31bのソースから出力されるセンスエミッタ電流Iseに含まれるゲート電流分に相当する補正用ゲート電流Igaが電流検出用抵抗Rs2に供給される。
したがって、電流検出用抵抗Rs2の高電位側から補正用ゲート電流Igaが電圧に変換された補正用電圧Vaが出力される。
【0032】
電圧補正部23は、差動増幅を行うオペアンプ23aで構成されている。このオペアンプ23aの非反転入力端子にはセンスエミッタ電流検出部21の電流検出用抵抗Rs1の高電位側から得られるセンスエミッタ電圧Vseが印加され、反転入力端子には補正用電流検出部22の電流検出用抵抗Rs2の高電位側から得られる補正用電圧Vaが印加されている。したがって、オペアンプ23aからセンスエミッタ電圧Vseから補正用電圧Vaを減算したセンスエミッタ補正電圧Vseaが出力される。
【0033】
比較部24は、過電流検出用コンパレータ24aで構成されている。この過電流検出用コンパレータ24aの非反転入力端子には上述した電圧補正部23から出力されるセンスエミッタ補正電圧Vseaが印加され、反転入力端子には過電流閾値電圧Vthを出力する基準電源24bが接続されている。過電流検出用コンパレータ24aからセンスエミッタ補正電圧Vseaが過電流閾値電圧Vth以上となったときにLレベルからHレベルに反転する過電流検出信号Socが出力される。
【0034】
そして、比較部24から出力される過電流検出信号Socがローパスフィルタ回路25に供給されて、このローパスフィルタ回路25でローパスフィルタ処理されたフィルタ出力Sfが保護機能付きドライバIC11に供給される。
この保護機能付きドライバIC11では、ローパスフィルタ回路25から入力されるフィルタ出力Sfを基準電圧Vrefと比較し、Sf>Vrefであるときに過電流状態である
と判断してIGBT駆動回路10のPチャネルMOSFET10aのゲートに対するゲート信号をオフ状態とし、NチャネルMOSFET10bのゲートに対するゲート信号をオン状態としてIGBT3iの駆動を停止する。
【0035】
次に、上記第1の実施形態の動作を
図3の信号波形図を伴って説明する。
IGBT駆動回路10のPチャネルMOSFET10aがオンすると、制御電源15の電圧Vcc(例えば15V程度)と等しい制御電圧VgccがIGBT3iのゲート3gに印加される。
IGBT3iのゲート3gにはゲート電流Igが流れ、ゲート容量(ここではゲート・エミッタ間容量を表す)を充電する。ゲート容量が充電されると
図3(b)に示すようにゲート電圧Vgが立ち上がる。このとき、カレントミラー回路31のPチャネルMOSFET31bからゲート電流Igに比例し、センスエミッタ電流Iseに対応する補正用ゲート電流Igaが
図3(c)に示すように出力開始される。
【0036】
そして、ゲート電圧Vgが立ち上がりゲート閾値電圧Vgthに達すると、
図3(a)に示すようにコレクタ電流Icが立ち上がり、コレクタ・エミッタ間電圧Vceは
図3(a)に示すように立下がり始める。
また、コレクタ電流Icの数千分の1〜数万分の1程度であるセンスエミッタ電流Iseが
図3(
d)に示すように立ち上がり、センスエミッタ電流Iseが流れる電流検出用抵抗Rs1の両端の電圧、つまりセンスエミッタ電圧Vseも
図3(
f)
で点線図示のように上昇する。このとき、センスエミッタ電流Iseには、
図3(d)に示すように、本来のコレクタ電流Icの数千分の1〜数万分の1程度のコレクタ電流成分に、ゲート容量が充電されるまでの間に流れるゲート電流Igに比例するゲート電流成分が重畳されている。
【0037】
その後、ゲート電圧Vgがゲート閾値電圧Vgthに達すると、コレクタ・エミッタ間電圧Vceが低下し、IGBT100のミラー容量(ゲート・コレクタ容量)が増大して、ゲート電圧Vgはほぼ一定となる領域に移行する。
この間に、センスエミッタ電流Iseも
図3(d)に示すように上昇し、これに伴ってセンスエミッタ電圧Vseも
図3(f)で点線図示のように上昇する。
【0038】
また、補正用ゲート電流Igaは、
図3(c)に示すように上昇し、ゲート電圧Vgがゲート閾値電圧Vgthに達すると緩やかに減少をはじめる。
したがって、センスエミッタ電流Iseから補正用ゲート電流Igaを減算した補正センスエミッタ電流Iseaは、
図3(e)に示すようになり、センスエミッタ電流Iseに比較して振幅が抑制される。
【0039】
本実施形態では、センスエミッタ電流検出部21で、センスエミッタ電流Iseをセンスエミッタ電圧Vseとして検出し、このセンスエミッタ電圧Vseを電圧補正部23のオペアンプ23aの非反転入力端子に印加する。一方、補正用電流検出部22で、補正用ゲート電流Igaを補正
用電圧
Vaとして検出し、この補正
用電圧
Vaを電圧補正部23のオペアンプ23aの反転入力端子に印加する。
【0040】
したがって、オペアンプ23aでは、センスエミッタ電圧Vseから補正
用電圧
Vaを減算してセンスエミッタ補正電圧Vseaを出力する。このセンスエミッタ補正電圧Vseaは、
図3(f)で実線図示のように、センスエミッタ電圧Vseから補正
用電圧
Vaを除くことにより、ゲート電流成分を除去してコレクト電流成分のみによる振幅が抑制された電圧となる。
【0041】
このセンスエミッタ補正電圧Vseaは、
図3(f)で点線図示の前述した従来例におけるセンスエミッタ電圧Vse
′に対して振幅が大幅に小さくなるため、IGBT3iのターンオン時に過電流閾値電圧Vthを超える誤検出防止時間T2が1μsec程度と短くなり、従来例における誤検出防止時間T1の4分の1〜5分の1に短縮することができる。
【0042】
したがって、過電流検出用コンパレータ24aの出力側に接続されるローパスフィルタ回路25の時定数を前述した従来例のローパスフィルタ回路103の時定数に比較して4分の1〜5分の1に短くすることができる。
このため、IGBT3iのターンオン時を過電流時の誤検出を防止しながら、ターンオン時を除く通常スイッチング状態で、過電流状態を判断する場合に、誤検出防止時間T2及び実際に過電流状態を検出する際に必要とする検出時間Tdを含めた判断時間を十分に短くすることができ、精度の高い過電流検出が可能となる。しかも、前述した特許文献1に記載されているタイマーを必要としないので、過電流検出装置12の構成を小型化することができる。
【0043】
このように本実施形態によると、過電流判断時間を短縮することができるので、IGBTに短絡電流が流れた場合にも、短絡電流を即座に検出することができ、別途短絡電流検出用回路を設けることなく、短絡検出が可能となり、IGBT保護回路の回路構成を簡素化することができるとともに、小型化することができる。
しかも、補正用電流検出部22としてIGBT3iのゲート電流Igを検出するカレントミラー回路31を適用することにより、カレントミラー比を調整することができる。したがって、IGBT3iのセンスエミッタ3seから出力されるセンスエミッタ電流に対応する補正用ゲート電流Igaを正確に検出することができる。
【0044】
さらに、センスエミッタ電流検出部21及び補正用電流検出部22で電流検出用抵抗Rs1及びRs2を使用して電流を電圧値として検出している。このため、各電流検出用抵抗Rs1及びRs2の抵抗値の少なくとも一方を調整することにより、センスエミッタ電圧Vseと補正用ゲート電圧Vgaの電圧値とを適正値に調整することができる。このため、より正確な過電流検出を行うことができる。
また、上述したIGBT3iと、FWD7iと、IGBT駆動回路10、保護機能付きドライバIC11及び過電流検出装置12を1つのパッケージに集約してインテリジェントパワーモジュール13を構成することにより、インテリジェントパワーモジュール13をより小型化することができる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施形態を
図4の回路図を伴って説明する。
この第2の実施形態では、補正用電流検出部22の構成を変更したものである。
すなわち、第2の実施形態では、
図4に示すように、補正用電流検出部22において、カレントミラー回路31及び定電流回路32が省略され、これらに代えて保護機能付きドライバICのゲート制御信号によって駆動されるPチャネルMOSFET33が設けられている。このPチャネルMOSFET33は、ドレインが制御電源15に接続され、ソースが電流検出用抵抗Rs2の高電位側に接続されている。
【0046】
ここで、PチャネルMOSFET33は、IGBT駆動回路10のPチャネルMOSFET10aのセルサイズに比較して小さいセルサイズに設定されている。この場合のPチャネルMOSFET10a及び33のセルサイズ比は、前述したカレントミラー回路31のカレントミラー比と等しくなるように設定され、PチャネルMOSFET33から出力される補正用ゲート電流Ig
aがIGBT3iのセンスエミッタ3seから出力されるセンスエミッタ電流Iseに対応する値となるように設定されている。
【0047】
この第2の実施形態でも、PチャネルMOSFET33から前述したカレントミラー回路31のPチャネルMOSFET31bと同様の補正用ゲート電流Igaが出力され、この補正用ゲート電流Igaが電流検出用抵抗Rs2に供給されるので、この電流検出用抵抗Rs2の高電位側から補正用ゲート電流Igaに対応する補正
用電圧
Vaが得られる。
【0048】
したがって、前述した第1の実施形態と同様に電圧補正部
23で、センスエミッタ電圧Vseから補正
用電圧
Vaを減算し
てセンスエミッタ
補正電圧Vseaが算出され、これが比較部34に出力されることになり、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
しかも、第2の実施形態では、IGBT駆動回路10のPチャネルMOSFET10aとはサイズ比の異なるPチャネルMOSFET33と電流検出用抵抗Rs2とを設けるだけで補正用電流検出部22を構成することができ、補正用電流検出部22の構成を小型化することができる。
【0049】
なお、上記実施形態においては、過電流検出用の比較部24の出力側にローパスフィルタ回路25を設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電圧補正部23の出力側にローパスフィルタ回路25を設けて、このローパスフィルタ回路25のフィルタ出力を過電流検出用コンパレータ24aに供給するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、IGBTのセンスエミッタ電流に対応するセンスエミッタ電圧からIGBTのゲート及びセンスエミッタ間の電流に対応する補正用電圧を減算して補正センスエミッタ電圧を算出するようにしている。このため、IGBTのターンオン動作時における過電流の誤検出防止時間を短縮することができる過電流検出装置及びこれを使用したインテリジェントパワーモジュールを提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…主直流電源
3A〜3F…IGBT
3i…IGBT
3c…コレクタ
3e…エミッタ
3g…ゲート
3se…センスエミッタ
4〜6…直列回路
7A〜7F…FWD
9…負荷
10…IGBT駆動回路
10
a…PチャネルMOSFET
10b…NチャネルMOSFET
11…保護機能付きドライバIC
12…過電流検出装置
13…インテリジェントパワーモジュール
21…センスエミッタ電流検出部