特許第5790893号(P5790893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5790893膜形成方法および薄膜トランジスタの作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5790893
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】膜形成方法および薄膜トランジスタの作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20150917BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20150917BHJP
   C23C 16/02 20060101ALI20150917BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20150917BHJP
   C23C 16/56 20060101ALI20150917BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H01L29/78 617T
   H01L29/78 617V
   H01L29/78 618B
   C23C16/02
   C23C16/42
   C23C16/56
   H01L21/316 X
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-26255(P2015-26255)
(22)【出願日】2015年2月13日
【審査請求日】2015年2月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088661
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 恵二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英治
【審査官】 岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−084725(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0184315(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/02
C23C 16/42
C23C 16/56
H01L 21/316
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に酸化物半導体膜を有するものを準備して、酸素と水素の混合ガスであって水素の割合が5.7%以下(0は含まない)の混合ガスを用いてプラズマを生成して、当該プラズマによって前記酸化物半導体膜の表面を処理する表面処理工程と、
その後、四フッ化シリコンガスおよび窒素ガスを含む原料ガスを用いてプラズマを生成するプラズマCVD法によって、前記酸化物半導体膜上に、シリコン窒化膜中にフッ素を含むフッ素化シリコン窒化膜を形成する成膜工程と、
その後、前記基板およびその上の膜を加熱するアニール工程とを備えていることを特徴とする膜形成方法。
【請求項2】
前記表面処理工程および前記成膜工程において、誘導結合によってプラズマを生成する誘導結合型のプラズマ生成方法を用いて前記プラズマを生成する請求項1記載の膜形成方法。
【請求項3】
基板上に酸化物半導体膜が形成され、その上にゲート絶縁膜が形成され、その上にゲート電極が形成された構造を有しているトップゲート型の薄膜トランジスタを作製する方法において、
請求項1または2記載の膜形成方法を用いて、前記ゲート絶縁膜として前記フッ素化シリコン窒化膜を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの作製方法。
【請求項4】
基板上にゲート電極が形成され、その上にゲート絶縁膜が形成され、その上に酸化物半導体膜が形成され、その上に保護膜が形成された構造を有しているボトムゲート型の薄膜トランジスタを作製する方法において、
請求項1または2記載の膜形成方法を用いて、前記保護膜として前記フッ素化シリコン窒化膜を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化物半導体膜上にフッ素化シリコン窒化膜(SiN:F膜)を形成する方法および当該方法を用いて薄膜トランジスタを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四フッ化シリコンガス(SiF4 )および窒素ガス(N2 )を含む原料ガスを用いたプラズマCVD法によって、酸化物半導体膜(例えばIGZO膜)上に、直接または他の要素を介在させて、フッ素化シリコン窒化膜(SiN:F膜)を形成する膜形成方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
フッ素化シリコン窒化膜は、安定した電気絶縁特性を有していると共に、絶縁膜として従来から良く用いられているシリコン酸化膜(SiO2 )に比べて緻密であるので不純物の拡散防止効果が大きいという特長を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5454727号公報(段落0050−0055、0062、0065)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の膜形成方法において、酸化物半導体膜上に直接(即ち、他の膜等の要素を介在させることなく。以下同様)フッ素化シリコン窒化膜を形成すると、酸化物半導体膜の電気抵抗が大きく低下するという課題のあることが分った。
【0006】
これは、酸化物半導体膜中の酸素が、成膜時の原料ガスに含まれているフッ素によって還元されて、酸化物半導体膜中に酸素欠損が生じ、それによって生じた空孔に電子がトラップされ、このトラップされていた電子がドナーとなって電気抵抗を大きく低下させるからであると考えられる。
【0007】
酸化物半導体膜の電気抵抗が大きく低下すると、例えば、当該酸化物半導体膜を有する薄膜トランジスタがトランジスタとしての特性を示さなくなる。
【0008】
そこでこの発明は、酸化物半導体膜上に直接フッ素化シリコン窒化膜を形成しても、当該酸化物半導体膜の電気抵抗の低下を抑制することができる膜形成方法を提供することを一つの目的としている。
【0009】
また、そのような膜形成方法を用いている薄膜トランジスタの作製方法を提供することを他の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る膜形成方法は、基板上に酸化物半導体膜を有するものを準備して、酸素と水素の混合ガスであって水素の割合が5.7%以下(0は含まない)の混合ガスを用いてプラズマを生成して、当該プラズマによって前記酸化物半導体膜の表面を処理する表面処理工程と、その後、四フッ化シリコンガスおよび窒素ガスを含む原料ガスを用いてプラズマを生成するプラズマCVD法によって、前記酸化物半導体膜上に、シリコン窒化膜中にフッ素を含むフッ素化シリコン窒化膜を形成する成膜工程と、その後、前記基板およびその上の膜を加熱するアニール工程とを備えていることを特徴としている。
【0011】
この膜形成方法によれば、表面処理工程によって酸化物半導体膜の表層部に酸素および水素が適度に入り、更にアニール工程によって、上記酸化物半導体膜の表層部に入っていた酸素および水素が当該酸化物半導体膜中に拡散して、酸化物半導体膜の電気抵抗を回復させる働きをする。その結果、酸化物半導体膜上に直接フッ素化シリコン窒化膜を形成しても、当該酸化物半導体膜の電気抵抗の低下を抑制すると共に、当該電気抵抗を酸化物半導体膜が半導体特性を示す範囲に保つことができる。
【0012】
前記表面処理工程および前記成膜工程において、誘導結合によってプラズマを生成する誘導結合型のプラズマ生成方法を用いて前記プラズマを生成しても良い。
【0013】
前記膜形成方法を用いて、薄膜トランジスタを構成するゲート絶縁膜または保護膜として前記フッ素化シリコン窒化膜を形成しても良い。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、酸化物半導体膜上に直接フッ素化シリコン窒化膜を形成しても、当該酸化物半導体膜の電気抵抗の低下を抑制すると共に、当該電気抵抗を酸化物半導体膜が半導体特性を示す範囲に保つことができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、誘導結合型のプラズマ生成方法によれば、大きな誘導電界をプラズマ中に発生させることができるので、高密度のプラズマを生成して、表面処理工程における表面処理を効率良く行うことができる。かつ成膜工程において、四フッ化シリコンガスおよび窒素ガスを効率良く放電分解させて、フッ素化シリコン窒化膜を効率良く形成することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、トップゲート型の薄膜トランジスタは酸化物半導体膜とゲート絶縁膜とが接している構造であるけれども、このゲート絶縁膜として、上記膜形成方法を用いて上記フッ素化シリコン窒化膜を形成すると、当該膜中のSi −Fの結合が強くて、フッ素が分離して酸化物半導体膜中に拡散することが起こりにくいので、特性安定性の良い薄膜トランジスタを得ることができる。
【0017】
しかも、ゲート絶縁膜としての上記フッ素化シリコン窒化膜は安定した電気絶縁特性を有しているので、この観点からも特性安定性の良い薄膜トランジスタを得ることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、ボトムゲート型の薄膜トランジスタは酸化物半導体膜と保護膜とが接している構造であるけれども、この保護膜として、上記膜形成方法を用いて上記フッ素化シリコン窒化膜を形成すると、当該膜中のSi −Fの結合が強くて、フッ素が分離して酸化物半導体膜中に拡散することが起こりにくいので、特性安定性の良い薄膜トランジスタを得ることができる。
【0019】
しかも、保護膜としての上記フッ素化シリコン窒化膜は緻密であり、大気中から酸化物半導体膜への水蒸気の拡散防止効果が大きいので、この観点からも特性安定性の良い薄膜トランジスタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明に係る膜形成方法の一実施形態を示す工程図である。
図2】誘導結合型のプラズマ生成方法を実施するプラズマ処理装置の一例を示す概略断面図である。
図3】基板上の酸化物半導体膜上にフッ素化シリコン窒化膜を形成した試料の一例を示す概略断面図である。
図4】表1の測定結果をグラフ化した図である。
図5】トップゲート型の薄膜トランジスタの一例を示す概略断面図である。
図6】ボトムゲート型の薄膜トランジスタの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)膜形成方法
図1に、この発明に係る膜形成方法の一実施形態の工程を示す。
【0022】
この膜形成方法は、表面処理工程40、その後の成膜工程42およびその後のアニール工程44を備えている。
【0023】
表面処理工程40は、基板上に酸化物半導体膜を有するものを準備して、酸素(O2 )と水素(H2 )の混合ガス(O2 +H2 )であって水素の割合(H2 /(O2 +H2 ))が8%以下(0は含まない)の混合ガスを用いて酸素と水素から成るプラズマを生成して、当該プラズマによって上記酸化物半導体膜の表面を処理する工程である。
【0024】
基板は、例えば、半導体基板、ガラス基板、樹脂基板等であるが、これに限られるものではない。
【0025】
基板上の酸化物半導体膜は、例えば、IGZO(In −Ga −Zn −O)膜、ITZO(In −Sn −Zn −O)膜 、IWZO(In −W−Zn −O)膜、IZO(In −Zn −O)膜、ITO(In −Sn −O)膜等であるが、これに限られるものではない。酸化物半導体膜は、基板の表面に直接形成されていても良いし、他の膜等を介在させて形成されていても良い。
【0026】
プラズマによる処理時間は、特に限定されないが、例えば60秒以下にする。そのようにすると、処理時間が短いのでスループットを向上させることができる。
【0027】
成膜工程42は、四フッ化シリコンガス(SiF4 )および窒素ガス(N2 )を含む原料ガスを用いてプラズマを生成するプラズマCVD法によって、上記酸化物半導体膜上に、シリコン窒化膜中にフッ素を含むフッ素化シリコン窒化膜(SiN:F膜)を形成する工程である。
【0028】
この成膜工程42は、例えば、上記表面処理工程40を実施する装置(例えばプラズマ処理装置)と同一の装置において、上記表面処理工程40に引き続いて、プラズマを消滅させることなく導入ガスを上記混合ガスから原料ガスに切り替えることによって行っても良い。そのようにすると、プラズマを消滅させた後に再度発生させる手間を省くことができるので、処理時間を短縮してスループットを向上させることができる。
【0029】
アニール工程44は、上記基板およびその上の膜を加熱する(即ちアニールする)工程である。
【0030】
このアニール工程44は、真空雰囲気中で行う必要はなく、例えば、大気中で行えば良い。また、例えば上記プラズマ処理装置を構成する真空容器内に大気を導入して、当該真空容器内で行っても良い。このアニール工程44における基板等の加熱温度は、例えば150℃〜350℃の範囲にすれば良い。加熱時間は、例えば30分〜60分程度にすれば良い。
【0031】
この膜形成方法によれば、酸化物半導体膜上に直接フッ素化シリコン窒化膜を形成しても、当該酸化物半導体膜の電気抵抗の低下を抑制すると共に、当該電気抵抗を酸化物半導体膜が半導体特性を示す範囲に保つことができる。これは次の作用によるものと考えられる。
【0032】
即ち、上記表面処理工程によって、酸化物半導体膜の表層部に酸素および水素が適度に入る。この酸素は、膜形成工程において生じる酸化物半導体膜中の酸素欠損を補償する働きをする。上記水素は、酸化物半導体膜中の欠陥を終端(ターミネート)させる働きをする。更に上記アニール工程によって、上記酸化物半導体膜の表層部に入っていた酸素および水素が当該酸化物半導体膜中に拡散して、酸化物半導体膜の電気抵抗を回復させる働きをする。その結果、酸化物半導体膜上に直接フッ素化シリコン窒化膜を形成しても、当該酸化物半導体膜の電気抵抗の低下を抑制すると共に、当該電気抵抗を酸化物半導体膜が半導体特性を示す範囲に保つことができる。
【0033】
但し、表面処理工程における混合ガス中の水素の割合が8%を超えると、アニール工程を経ても酸化物半導体膜の電気抵抗は殆ど回復しない。これは、膜中の水素が過剰になり過剰水素がドナーとなって電気抵抗を低下させるからであると考えられる。
【0034】
上記作用効果については、以下において実施例を参照して更に説明する。
【0035】
上記表面処理工程40および成膜工程42において、誘導結合によってプラズマを生成する誘導結合型のプラズマ生成方法を用いて上記プラズマを生成しても良い。誘導結合型のプラズマ生成方法を実施するプラズマ処理装置の一例を図2に示す。
【0036】
このプラズマ処理装置は、真空排気装置12によって真空排気され、かつガス導入口14を経由してガス16が導入される真空容器10を有しており、その内部に、上記酸化物半導体膜4を有する基板2を保持する基板ホルダ18が設けられている。この例のように、基板ホルダ18にバイアス電源20からバイアス電圧(例えば負のバイアス電圧)を印加するようにしても良い。
【0037】
真空容器10内における基板ホルダ18の上方に、この例では直線状の高周波アンテナ24が、基板ホルダ18の表面に沿うように配置されている。この高周波アンテナ24の両端部付近は、真空容器10の相対向する壁面に設けられた二つの開口部22をそれぞれ貫通しており、各開口部22には絶縁物(例えば絶縁フランジ)26が設けられている。真空容器10内に位置する部分の高周波アンテナ24は、この例では絶縁カバー28によって覆われている。なお、絶縁物26と真空容器10との間および高周波アンテナ24と絶縁物26との間には真空シール用のパッキン(例えばOリング)が設けられているが、これらの図示を省略している。
【0038】
高周波アンテナ24には、高周波電源30から整合回路32を介して高周波電流IR が流される。高周波電流IR の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0039】
このプラズマ処理装置においては、高周波アンテナ24に高周波電流IR を流すことによって、高周波アンテナ24の周囲に高周波磁界が発生し、それによって高周波電流IR と逆方向に誘導電界が発生する。この誘導電界によって、真空容器10内において、電子が加速されて高周波アンテナ24の近傍のガス16を電離させて高周波アンテナ24の近傍にプラズマ(即ち誘導結合型のプラズマ)34が発生する。このようにしてプラズマ34を発生させる方法は誘導結合型のプラズマ生成方法と呼ばれる。上記プラズマ34は基板2の近傍まで拡散し、このプラズマ34によって基板2上の酸化物半導体膜4に所望の処理を施すことができる。
【0040】
即ち、ガス16として前述した酸素と水素の混合ガスを用いることによって、誘導結合型のプラズマ生成方法によってプラズマ34を生成して、当該プラズマ34によって酸化物半導体膜4の表面を処理することができる。即ち前述した表面処理工程40を実施することができる。しかも、誘導結合型のプラズマ生成方法によれば、大きな誘導電界をプラズマ34中に発生させることができるので、高密度のプラズマ34を生成して、表面処理工程40における表面処理を効率良く行うことができる。
【0041】
また、ガス16として前述した四フッ化シリコンガスおよび窒素ガスを含む原料ガスを用いることによって、誘導結合型のプラズマ生成方法によってプラズマ34を生成して、当該プラズマ34によるプラズマCVD法によって酸化物半導体膜4上に前述したフッ素化シリコン窒化膜を形成することができる。即ち前述した成膜工程42を実施することができる。しかも、四フッ化シリコンガスおよび窒素ガスは、従来から良く用いられているシラン(SiH4 )およびアンモニア(NH3 )に比べて放電分解をさせにくいけれども、誘導結合型のプラズマ生成方法によれば、大きな誘導電界をプラズマ34中に発生させることができるので、成膜工程42において、四フッ化シリコンガスおよび窒素ガスを効率良く放電分解させることができる。その結果、高密度のプラズマ34を生成して、フッ素化シリコン窒化膜を効率良く形成することができる。
【実施例】
【0042】
図3に示すように、ガラス基板2上に酸化物半導体膜4として厚さ50nmのIGZO膜を形成したものを、図2に示したようなプラズマ処理装置内に配置して、ガスとして酸素(O2 )と水素(H2 )の混合ガス(水素の割合は下記)を導入して、誘導結合型のプラズマ生成方法によってプラズマを生成して、IGZO膜の表面をプラズマに曝して表面処理を行った。即ち表面処理工程を実施した。このときの処理条件は次のとおりである。
【0043】
混合ガス中の水素の割合(H2 /(O2 +H2 )):0%、5.7%、9.1%または23.1%
処理時間:60秒
真空容器内圧力:4Pa
【0044】
その後、上記プラズマ処理装置においてガスを四フッ化シリコンガス(SiF4 )および窒素ガス(N2 )から成る原料ガス(両ガスの比は下記)に切り替えて、誘導結合型のプラズマ生成方法によってプラズマを生成して、当該プラズマによるプラズマCVD法によって、IGZO膜上にフッ素化シリコン窒化膜(SiN:F膜)6を形成した。即ち成膜工程を実施した。これによって図3に示した試料を得た。このときの成膜条件は次のとおりである。
【0045】
原料ガス中の両ガスの比・・・SiF4 :N2 =1:1
真空容器内圧力:4Pa
SiN:F膜の膜厚:100nm
【0046】
その後、上記試料を大気中に取り出して、ホットプレート上にて加熱してアニール処理を施した。即ちアニール工程を実施した。このときのアニール条件は次のとおりである。
【0047】
加熱雰囲気:大気中
加熱温度:350℃
加熱時間:1時間
【0048】
上記混合ガス中の各水素割合において、アニール前後のIGZO膜のシート抵抗を測定した結果を表1に示す。また、この表1の測定結果をグラフ化したものを図4に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
IGZO膜の初めの(即ち上記処理を施す前の)シート抵抗は5E+6Ω/□であり、どの水素割合においても、アニール前のIGZO膜のシート抵抗は初めのシート抵抗に比べて大きく低下している。これは、表面処理工程においてIGZO膜の表層部に入った酸素および/または水素が表層部に多く蓄積していて、これらがドナーとなってIGZO膜のシート抵抗を大きく低下させる働きをするからであると考えられる。
【0051】
一方、アニール後のIGZO膜のシート抵抗は、水素割合が0%のときに非常に大きく増加し、水素割合が5.7%のときもかなり増加しているけれども、水素割合が9.1%以上のときは殆ど増加していない。シート抵抗が増加しているのは、IGZO膜の表層部に入った酸素および水素がアニールによってIGZO膜中に拡散して、IGZO膜のシート抵抗を回復させる働きをするからであると考えられる。水素割合が9.1%以上になるとシート抵抗が殆ど増加しないのは、IGZO膜中の水素が過剰になり過剰水素がドナーとなってシート抵抗を低下させるからであると考えられる。
【0052】
IGZO膜のような酸化物半導体膜が、薄膜トランジスタ等において正常に半導体特性を示す範囲は、通常はシート抵抗が1E+5Ω/□〜1E+8Ω/□の範囲内である。水素割合が0%のときは、IGZO膜のシート抵抗が上記上限1E+8Ω/□を少し超える。一方、図4から、水素割合が8%のときに、IGZO膜のシート抵抗は上記下限1E+5Ω/□辺りになると考えられる。このことから、混合ガス中の水素割合は8%以下(0は含まない)が好ましいと言うことができる。
【0053】
(2)薄膜トランジスタの作製方法
次に、上記のような膜形成方法を用いて薄膜トランジスタを作製する方法の例を説明する。
【0054】
図5に、トップゲート型の薄膜トランジスタの一例を示す。この薄膜トランジスタ50aは、基板52上に拡散防止膜54を介在させて酸化物半導体膜56が形成され、その上に直接ゲート絶縁膜60が形成され、その上にゲート電極62が形成され、この例では更にその上に保護膜64が形成された構造を有している。酸化物半導体膜56は、例えば、前述したようなIGZO膜等の酸化物半導体膜である。図6に示す薄膜トランジスタ50bの場合も同様である。
【0055】
酸化物半導体膜56の左右両側にこの例ではソース領域57およびドレイン領域58が形成されており、それらにはソース電極66およびドレイン電極68がそれぞれ接続されている。もっとも、ソース領域57およびドレイン領域58の代わりに、酸化物半導体膜56の左右両側上部に、チャネル領域を残して、ソース電極およびドレイン電極を重ねて配置する場合もある。図6に示す薄膜トランジスタ50bの場合も同様である。
【0056】
この薄膜トランジスタ50aは酸化物半導体膜56とゲート絶縁膜60とが接している構造であるけれども、このゲート絶縁膜60として、上記膜形成方法を用いて上記フッ素化シリコン窒化膜を形成すると、当該膜60中のSi −Fの結合が強くて、フッ素が分離して酸化物半導体膜56中に拡散することが起こりにくいので、特性安定性の良い薄膜トランジスタを得ることができる。
【0057】
しかも、ゲート絶縁膜60としての上記フッ素化シリコン窒化膜は安定した電気絶縁特性を有しているので、この観点からも特性安定性の良い薄膜トランジスタを得ることができる。
【0058】
図6に、ボトムゲート型の薄膜トランジスタの一例を示す。この薄膜トランジスタ50bは、基板52上にゲート電極62が形成され、その上にゲート絶縁膜60が形成され、その上に酸化物半導体膜56が形成され、その上に直接保護膜64が形成された構造を有している。ソースおよびドレイン周りの構造は、図5の場合と同様である。
【0059】
この薄膜トランジスタ50bは酸化物半導体膜56と保護膜64とが接している構造であるけれども、この保護膜64として、上記膜形成方法を用いて上記フッ素化シリコン窒化膜を形成すると、当該膜64中のSi −Fの結合が強くて、フッ素が分離して酸化物半導体膜56中に拡散することが起こりにくいので、特性安定性の良い薄膜トランジスタを得ることができる。
【0060】
しかも、保護膜64としての上記フッ素化シリコン窒化膜は緻密であり、大気中から酸化物半導体膜56への水蒸気の拡散防止効果が大きいので、この観点からも特性安定性の良い薄膜トランジスタを得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
2 基板
4 酸化物半導体膜
6 フッ素化シリコン窒化膜
16 ガス
24 高周波アンテナ
30 高周波電源
34 プラズマ
40 表面処理工程
42 成膜工程
44 アニール工程
50a、50b 薄膜トランジスタ
52 基板
56 酸化物半導体膜
60 ゲート絶縁膜
62 ゲート電極
64 保護膜
【要約】
【課題】 酸化物半導体膜上に直接フッ素化シリコン窒化膜を形成しても、当該酸化物半導体膜の電気抵抗の低下を抑制することができる膜形成方法を提供する。
【解決手段】 この膜形成方法は、基板上に酸化物半導体膜を有するものを準備して、酸素と水素の混合ガスであって水素の割合が8%以下(0は含まない)の混合ガスを用いてプラズマを生成して当該プラズマによって酸化物半導体膜の表面を処理する表面処理工程40と、その後四フッ化シリコンガスおよび窒素ガスを含む原料ガスを用いてプラズマを生成するプラズマCVD法によって、上記酸化物半導体膜上にフッ素化シリコン窒化膜(SiN:F膜)を形成する成膜工程42と、その後上記基板およびその上の膜を加熱するアニール工程44とを備えている。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6