特許第5790903号(P5790903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5790903
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】インサート及び刃先交換式回転切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/20 20060101AFI20150917BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   B23C5/20
   B23C5/10 D
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-522813(P2015-522813)
(86)(22)【出願日】2015年1月26日
(86)【国際出願番号】JP2015052066
【審査請求日】2015年4月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-13424(P2014-13424)
(32)【優先日】2014年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-171909(P2014-171909)
(32)【優先日】2014年8月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】三菱日立ツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】當麻 昭次郎
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−279519(JP,A)
【文献】 特開2006−82168(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065393(WO,A1)
【文献】 特開2008−254129(JP,A)
【文献】 特表2013−536094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/20
B23C 5/10
B23C 5/06
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ平行四辺形状の上面及び下面と、前記上面から前記下面まで貫通するネジ挿通穴とを有するインサートであって、
前記上面の一対のコーナー部にコーナー刃を有し、
前記コーナー刃に隣接する長辺稜線及び短辺稜線の一部に、それぞれ下方に傾斜する主切れ刃及び副切れ刃を有し、
前記上面は前記主切れ刃及び前記副切れ刃のすくい面を有し、
前記側面は前記主切れ刃及び前記副切れ刃の逃げ面を有し、
前記主切れ刃は第一〜第三の直線状切れ刃からなり、
前記第一〜第三の直線状切れ刃は、前記第二の直線状切れ刃が最も外側に位置するように、平面視で内側に鈍角の交差角で折れ線状に連結しており、
前記第一の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β1、前記第二の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β2、及び前記第三の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β3は、β1>β2>β3の関係を満たし、
前記第一の直線状切れ刃の長さL1及び前記第二の直線状切れ刃の長さL2がL1≦L2の関係を満たすことを特徴とするインサート。
【請求項2】
請求項1に記載のインサートにおいて、前記主切れ刃が前記長辺稜線の全長の1/3〜3/4の長さを有することを特徴とするインサート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインサートにおいて、
前記長辺稜線は、前記第三の直線状切れ刃に連結する切れ刃のない第一及び第二の繋ぎ稜線部を有し、
前記第一の繋ぎ稜線部は、前記第三の直線状切れ刃に平面視で内側に鈍角に連結していることを特徴とするインサート。
【請求項4】
請求項3に記載のインサートにおいて、前記第一の繋ぎ稜線部の上面と側面とがなす角度θ1はθ1>β1の関係を満たすことを特徴とするインサート。
【請求項5】
請求項4に記載のインサートにおいて、前記第二の繋ぎ稜線部に接する切欠き面と側面とがなす角度θ2がθ2>β1の関係を満たすことを特徴とするインサート。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載のインサートにおいて、
前記第一の繋ぎ稜線部は、側面視で点Sで第三の直線状切れ刃と滑らかに連結するとともに上方に緩やかに凸の曲線状であり、
前記第三の直線状切れ刃との連結点Rにおける前記第二の直線状切れ刃と垂線との交差角α3、及び前記第三の直線状切れ刃との連結点Sにおける前記第一の繋ぎ稜線部と垂線との交差角α4は、α3<α4≦90°の関係を満たすことを特徴とするインサート。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載のインサートにおいて、前記第一の繋ぎ稜線部の両端部における上面と側面との交差角が90°より大きくなるように、前記第一の繋ぎ稜線部の両端部間の上面部に、前記ネジ挿通穴の側が高い傾斜面が形成されていることを特徴とするインサート。
【請求項8】
請求項3〜6のいずれかに記載のインサートにおいて、
側面視で前記第一の繋ぎ稜線部の端部Sで最も高くなるように前記端部Sから前記第二の繋ぎ稜線部の端部Uまで延在する傾斜面が、前記上面に設けられており、
前記傾斜面に、前記第一及び第二の繋ぎ稜線部に接する切欠き面が形成されており、
前記切欠き面の幅は、前記端部S及び前記端部Uでほぼ0で、前記第一及び第二の繋ぎ稜線部の連結点Tで最大となるように、前記端部Sから前記連結点Tまで連続的に増大し、前記連結点Tから前記端部Uまで連続的に減少していることを特徴とするインサート。
【請求項9】
請求項8に記載のインサートにおいて、前記第一の繋ぎ稜線部と前記第二の繋ぎ稜線部とがなす側面視での角度γ(直線STと直線TUとの交差角と定義する)が160〜176°であることを特徴とするインサート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のインサートをインサート取付座にクランプねじにより着脱自在に固定した刃先交換式回転切削工具であって、前記第二の直線状切れ刃が最外周に位置するとともに、回転軸心Oと平行であることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難削材の切削加工に好適なインサート、及びこのインサートを着脱自在に装着した刃先交換式回転切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金製インサートを工具本体に着脱自在に装着した刃先交換式回転切削工具は被削材を高能率で切削できるが、切削加工負荷による切れ刃のすくい面及び逃げ面の早期の摩耗や切れ刃のチッピング及び欠損により、インサートの寿命が低下するという問題がある。特に、ステンレス鋼、Ni基合金(例えばインコネル、登録商標)等の耐熱合金、Ti合金等の難削材の切削加工では、インサートの寿命低下が著しかった。インサートの寿命を延ばすために、インサートに対して種々の改善が提案されている。
【0003】
特開2003-260607号は、刃先強度を十分確保しつつ切削抵抗が低減されたインサートとして、図25に示すように、ほぼ平行四辺形平板状のインサート本体の角部にノーズ部112を有し、ノーズ部112を挟んで隣り合う一対の逃げ面113,114と上面とがなす稜線に長辺側切れ刃115と短辺側切れ刃116が形成されたインサートであって、長辺側切れ刃115はノーズ部112から離れるに従って底面117方向に傾斜するとともに、ノーズ部112から順に緩やかな凸円弧状切れ刃118及び直線状切れ刃119からなり、凸円弧状切れ刃118は上段逃げ面121及び下段逃げ面120とを有するインサートを提案している。下段逃げ面120は上段逃げ面121より大きな逃げ角を有するので、大きな切削加工負荷がかかる凸円弧状切れ刃118の強度を低下させないで、十分な逃げ角を確保できる。しかし、長辺側切れ刃115全体に円弧状切れ刃118及び直線状切れ刃119からなる切れ刃を有するので、特に直線状切れ刃119の部分で十分な強度を確保できない。また、凸円弧状切れ刃118を精度良く仕上げ加工するには、加工コストが高いという問題がある。
【0004】
特開2008-213078号は、図26に示すように、上面及び側面にすくい面202及び逃げ面204を有するほぼ平行四辺形平板状のインサート本体201と、すくい面202と逃げ面204の間にコーナー刃206から鈍角コーナー部209まで延びる緩やかな凸曲線状の主切れ刃207と、クランプネジを挿通するために上面から側面まで貫通する取付孔205と副切れ刃208とを有し、逃げ面204は主切れ刃207側から順に捩れ面部204A、凹曲面部204B及び平面部204Cからなり、切れ刃207の強度を高めるために凹曲面部204Bの曲率半径がコーナー側より中央部で大きいインサートを提案している。このインサートでは、捩れ面部204Aによりコーナー刃206から鈍角コーナー部209に向かうに従い主切れ刃207の逃げ角は漸次大きくなっている。しかし、このような主切れ刃207では、最も切削加工負荷が大きいコーナー刃206付近で十分な逃げ角を有さないので、切れ刃強度が十分でない。また、凸曲線状の主切れ刃207を精度良く仕上げ加工するには、加工コストが高いという問題がある。
【0005】
特開2006-75913号は、図27に示すように、ほぼ正三角形平板状のインサート本体301の各コーナー刃307の一端に主切れ刃309及び副切れ刃310が連結しており、上面302に主切れ刃309及び副切れ刃310のすくい面306を有するとともに、側面に逃げ面304を有し、主切れ刃309が第一及び第二の直線状切れ刃部309A及び309Bからなり、副切れ刃310が第三の直線状切れ刃部からなり、もって主切れ刃309が鈍角で交差する複数の直線状切れ刃部が折れ線状に連結した形状であるインサートを提案している。このような形状により、切れ刃の全長を短くすることができて切削抵抗の低減や変動抑制を図るとともに、直線状切れ刃の交点で切屑の分断を図ることもできる。しかし、主切れ刃309を構成する第一及び第二の直線状切れ刃309A、309Bの逃げ角について何の記載もない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の第一の目的は、切削抵抗の増大及び変動を防ぐとともに切れ味が良く、かつ切れ刃の強度を向上させたインサートを提供することである。
【0007】
本発明の第二の目的は、かかるインサートを着脱自在に装着した刃先交換式回転式切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第一の実施形態によるインサートは、ほぼ平行四辺形状の上面及び下面と、前記上面から前記下面まで貫通するネジ挿通穴とを有し、
前記上面の一対のコーナー部にコーナー刃を有し、
前記コーナー刃に隣接する長辺稜線及び短辺稜線の一部に、それぞれ下方に傾斜する主切れ刃及び副切れ刃を有し、
前記上面は前記主切れ刃及び前記副切れ刃のすくい面を有し、
前記側面は前記主切れ刃及び前記副切れ刃の逃げ面を有し、
前記主切れ刃は第一〜第三の直線状切れ刃からなり、
前記第一〜第三の直線状切れ刃は、前記第二の直線状切れ刃が最も外側に位置するように、平面視で内側に鈍角の交差角で折れ線状に連結しており、
前記第一の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β1、前記第二の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β2、及び前記第三の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β3は、β1>β2>β3の関係を満たすことを特徴とする。
【0009】
前記主切れ刃は前記長辺稜線の全長の1/3〜3/4の長さを有するのが好ましい。
【0010】
前記第一の直線状切れ刃の長さL1及び前記第二の直線状切れ刃の長さL2はL1≦L2の関係を満たすのが好ましい。
【0011】
前記長辺稜線は、前記第三の直線状切れ刃に連結する切れ刃のない第一及び第二の繋ぎ稜線部を有し、前記第一の繋ぎ稜線部は、前記第三の直線状切れ刃に平面視で内側に鈍角に連結しているのが好ましい。
【0012】
前記第一の繋ぎ稜線部の上面と側面とがなす角度θ1はθ1>β1の関係を満たすのが好ましい。
【0013】
前記第一の繋ぎ稜線部は、側面視で点Sで第三の直線状切れ刃と滑らかに連結するとともに上方に緩やかに凸の曲線状であり、前記第三の直線状切れ刃との連結点Rにおける前記第二の直線状切れ刃と垂線との交差角α3、及び前記第三の直線状切れ刃との連結点Sにおける前記第一の繋ぎ稜線部と垂線との交差角α4は、α3<α4≦90°の関係を満たすのが好ましい。
【0014】
前記第二の繋ぎ稜線部に接する切欠き面と側面とがなす角度θ2はθ2>β1の関係を満たすのが好ましい。また、前記第二の繋ぎ稜線部に接する切欠き面と側面とがなす角度θ2はθ2>β1の関係を満たすのが好ましい。
【0015】
本発明の第二の実施形態によるインサートでは、前記第一の繋ぎ稜線部の両端部における上面と側面との交差角が90°より大きくなるように、前記第一の繋ぎ稜線部の両端部の間の上面部に、前記ネジ挿通穴の側が高い傾斜面が形成されている。
【0016】
本発明の第三の実施形態によるインサートでは、
側面視で前記第一の繋ぎ稜線部の端部Sで最も高くなるように前記端部Sから前記第二の繋ぎ稜線部の端部Uまで延在する傾斜面が、前記上面に設けられており、
前記傾斜面に、前記第一及び第二の繋ぎ稜線部に接する切欠き面が形成されており、
前記切欠き面の幅は、前記端部S及び前記端部Uでほぼ0で、前記第一及び第二の繋ぎ稜線部の連結点Tで最大となるように、前記端部Sから前記連結点Tまで連続的に増大し、前記連結点Tから前記端部Uまで連続的に減少している。
【0017】
前記第一の繋ぎ稜線部と前記第二の繋ぎ稜線部とがなす側面視での角度γ(直線STと直線TUとの交差角と定義する)は160〜176°であるのが好ましい。
【0018】
本発明の刃先交換式回転切削工具は、上記インサートをインサート取付座にクランプねじにより着脱自在に固定したもので、前記第二の直線状切れ刃が最外周に位置するとともに、回転軸心Oと平行であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のインサートは、第一〜第三の直線状切れ刃を折れ線状に連結した主切れ刃を有し、平面視で第二の直線状切れ刃が最も外側に位置し、かつ第一の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β1、第二の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β2、及び第三の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β3がβ1>β2>β3の関係を満たすので、切削抵抗を小さくしても主切れ刃の強度が高く、難削材のように切削負荷が大きい被削材の垂直壁面を高品位に切削加工することができる。また、主切れ刃を折れ線状にすることにより、被削材との接触長さを短くでき、インサートへの熱の流入を抑制でき、もって長寿命化できる。
【0020】
また、第一の繋ぎ稜線部に接する上面と側面との角度θ1を主切れ刃の最大刃物角β1より大きくすることにより、主切れ刃と第一の繋ぎ稜線部との連結部S近傍の強度が向上するので、耐チッピング性が向上する。
【0021】
主切れ刃の長さを長辺稜線の全長Aの1/3〜3/4と短くすることにより、主切れ刃にかかる切削抵抗を低減でき、またインサートへの熱の流入を抑制できる。
【0022】
第一及び第二の繋ぎ稜線部に接する上面にそれぞれ切欠き面を形成し、かつ切欠き面の幅を、第一の繋ぎ稜線部の端部S及び第二の繋ぎ稜線部の端部Uでほぼ0で、第一及び第二の繋ぎ稜線部の連結点Tで最大となるように、端部Sから連結点Tまで連続的に増大させ、連結点Tから端部Uまで連続的に減少させると、主切れ刃と第一の繋ぎ稜線部との連結部S近傍の強度がさらに上がり、耐チッピング性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施形態によるインサートを示す斜視図である。
図2】本発明の第一の実施形態によるインサートを示す平面図である。
図3】本発明の第一の実施形態によるインサートを示す側面図である。
図4】本発明の第一の実施形態によるインサートを示す正面図である。
図5】本発明の第一の実施形態によるインサートの点M1における刃物角β1’を示す部分断面図である。
図6】本発明の第一の実施形態によるインサートの点M2における刃物角β2’を示す部分断面図である。
図7】本発明の第一の実施形態によるインサートの点M3における刃物角β3’を示す部分断面図である。
図8】本発明の第一の実施形態によるインサートのβ1〜β4及びθ1〜θ3の変化を示すグラフである。
図9】本発明の第一の実施形態によるインサートの点M4における第一の繋ぎ稜線部の稜線角θ1’を示す部分断面図である。
図10】本発明の第一の実施形態によるインサートの点M5における第一の繋ぎ稜線部の稜線角θ2’を示す部分断面図である。
図11図3の円Fに示す部分における切れ刃及び第一及び第二の繋ぎ稜線部を示す部分拡大図である。
図12】本発明の第二の実施形態によるインサートを示す平面図である。
図13】本発明の第二の実施形態によるインサートの点M4における第一の繋ぎ稜線部の稜線角θ1’を示す部分断面図である。
図14】本発明の第二の実施形態によるインサートのβ1〜β4及びθ1〜θ3の変化を示すグラフである。
図15】本発明の第三の実施形態によるインサートを示す斜視図である。
図16】本発明の第三の実施形態によるインサートを示す平面図である。
図17】本発明の第三の実施形態によるインサートを示す側面図である。
図18】本発明の第三の実施形態によるインサートを示す正面図である。
図19】本発明の第三の実施形態によるインサートの点M4における第一の繋ぎ稜線部の稜線角θ1’を示す部分断面図である。
図20】本発明の第三の実施形態によるインサートの点M5における第一の繋ぎ稜線部の稜線角θ2’を示す部分断面図である。
図21】本発明の第三の実施形態によるインサートの一例のβ1〜β4及びθ1〜θ3の変化を示すグラフである。
図22】本発明の第三の実施形態によるインサートの他の例のβ1〜β4及びθ1〜θ3の変化を示すグラフである。
図23】本発明の刃先交換式回転切削工具を構成する工具本体の一例を示す斜視図である。
図24図23に示す工具本体に本発明のインサートを装着してなる刃先交換式回転切削工具を示す斜視図である。
図25】特開2003-260607号に記載のインサートを示す側面図である。
図26】特開2008-213078号に記載のインサートを示す斜視図である。
図27】特開2006-75913号に記載のインサートを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を添付図面を参照して以下詳細に説明するが、一実施形態の説明は特に断りがなければ他の実施形態にも適用される。いずれの実施形態にも共通の部位には同じ参照番号を付与する。
【0025】
[1] インサート
本発明のインサートは、超硬合金、セラミックス等の硬質材料により形成するのが好ましい。例えば、超硬合金製のインサートは、WC粉末及びCo粉末を主成分とする混合粉末をプレス成形し、次いで約1300℃の温度で焼結することにより製造することができる。
【0026】
(A) 第一の実施形態
図1図4は本発明の第一の実施形態によるインサート1を示す。このインサート1は、対向する上面2及び下面3と、上面2と下面3を繋ぐ一対の長側面4a,4a及び一対の短側面4b,4bと、インサート1のほぼ中央部において上面2から下面3まで貫通するネジ挿通穴5とを具備するほぼ平行四辺形の平板状の外形を有する。インサート1の下面3は、後述するように工具本体の着座面に密着する平面状底面である。ネジ挿通穴5は、インサート1をクランプネジ38で工具本体のインサート取付座33(図23参照)に固定するときにクランプネジ38が貫通する穴である。クランプネジ38の締め付けによりインサート1をインサート取付座33に固定したとき、インサート1の平坦な下面3はインサート取付座33の着座面34に密着する。
【0027】
図2に示すように、上面2と側面との稜線6は、長側面4a、4aに接する一対の対向する長辺稜線6a,6aと、短側面4b,4bに接するとともに長辺稜線6a,6aと交差する一対の対向する短辺稜線6b,6bとからなる。各長辺稜線6a,6aの全長Aは、ネジ挿通穴5の中心C0を通る中心線H1に平行な一対の短側面4b,4bの間隔を表す。
【0028】
図2に示すように、長辺稜線6a,6aと短辺稜線6b,6bが交差する4つのコーナー部は、それぞれネジ挿通穴5の中心C0に関して対称な一対の第一の円弧状コーナー部7a1,7a2及び一対の第二の円弧状コーナー部7b1,7b2からなる。各第一の円弧状コーナー部7a1,7a2では長辺稜線6aと短辺稜線6bは鋭角で交差しており、各第二の円弧状コーナー部7b1,7b2では長辺稜線6aと短辺稜線6bは鈍角で交差している。
【0029】
(1) 切れ刃
図2に示すように、長辺稜線6aと短辺稜線6bが鋭角で交差する各第一の円弧状コーナー部7a1,7a2の稜線には、円弧状コーナー刃8が形成されており、コーナー刃8の一端Pから延びる長辺稜線6aに主切れ刃9が形成されている。一方、長辺稜線6aと短辺稜線6bが鈍角で交差する第二の円弧状コーナー部7b1,7b2の稜線は切れ刃を備えていない。各長辺稜線6aは主切れ刃9を有し、各短辺稜線6bは副切れ刃15を有する。
【0030】
(a) 主切れ刃
主切れ刃9は、長辺稜線6aに沿って点P(コーナー刃8の一端)から点Qまで延びる長さL1の第一の直線状切れ刃10と、点Qから点Rまで延びる長さL2の第二の直線状切れ刃11と、点Rから点Sまで延びる長さL3の第三の直線状切れ刃12とからなる折れ線状の切れ刃である。なお、長さL1,L2,L3は中心線H1に沿った長さである。第一の直線状切れ刃10は、コーナー刃8側の端部Pが第二の直線状切れ刃11側の端部Qよりネジ挿通穴5側に位置するように、中心線H1に平行な直線H1’に対して内側に傾斜しており、点Qにおいて鈍角の交差角δ1(ネジ挿通穴5側)で第二の直線状切れ刃11と連結している。また、第二の直線状切れ刃11は、点Rにおいて鈍角の交差角δ2(ネジ挿通穴5側)で第三の直線状切れ刃12と連結している。第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12のうち第二の直線状切れ刃11がインサート1の最も外側に位置する。
【0031】
最も切削加工負荷がかかる第一の直線状切れ刃10はコーナー刃8から外側に傾斜している。第一の直線状切れ刃10の直線H1’に対する傾斜角δ3は1.0〜3.0°が好ましく、1.5〜2.5°がより好ましい。
【0032】
第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12の交差角δ1,δ2はδ1≦δ2<180°の関係を満たすのが好ましい。具体的には、交差角δ1は176.1〜179.5°であるのが好ましく、177.6〜178.0°であるのがより好ましい。また、交差角δ2は176.1〜179.5°であるのが好ましく、178.5〜178.9°であるのがより好ましい。このような交差角δ1,δ2で接続する直線状の第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12からなる折れ線状の主切れ刃9は、切削加工により生成された切屑の分断及び後方(上方)への安定した排出を可能とする上に、凸曲線状の主切れ刃より短くでき、切削抵抗の変動幅も小さくできる。切屑の容易な排出になり、工具本体31や被削材の加工面の損傷防止が図られる。このような主切れ刃9を有するインサート1を装着した刃先交換式回転切削工具は、主として被削材の立ち壁面、特に垂直な壁面の切削に好適である。
【0033】
図2に示すように、第三の直線状切れ刃12の端部Sから続く切れ刃を有さない長辺稜線部6a1は、点Sから点Tまで延びる第一の繋ぎ稜線部13と、点Tから点U(第二のコーナー部7b1の一端)まで延びる第二の繋ぎ稜線部14からなる。第一及び第二の繋ぎ稜線部13,14は切れ刃を有さないので、第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12より内側(中心線H1の側)に位置する。
【0034】
主切れ刃9を有するインサート1を装着した工具を被削材(例えば、難削材)の立ち壁の切削加工に使用する場合、長辺稜線6aの全長にわたって主切れ刃9が形成されていると、主切れ刃9にかかる切削加工の負荷が大きすぎ、主切れ刃9が損傷したり、びびり振動により切削加工面の精度が低下したりする。従って、本発明のインサート1では、長辺稜線6aの全長にわたって主切れ刃9が延在しない。
【0035】
第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12を折れ線状に繋いだ主切れ刃9の長さA1は、長辺稜線6aの全長Aに対して、A1/A=1/3〜3/4の関係を満たすのが好ましい。A1/Aが3/4を超えると、主切れ刃9に作用する切削加工負荷が大きくなりすぎ、主切れ刃9が損傷したり、びびり振動が発生したりするおそれがある。一方、A1/Aが1/3未満であると主切れ刃9が短かすぎ、切削効率が低くなるだけでなく、切削加工負荷が短い主切れ刃9に集中しすぎる。
【0036】
第二の直線状切れ刃11が刃先交換式回転切削工具の回転軸心Oと平行になるようにインサート1を工具本体31のインサート取付座33に装着した工具を用いて被削材の立ち壁を切削加工する場合、(a) 主として第二の直線状切れ刃11が被削材の立ち壁の切削加工に使用され、(b) 3つの直線状切れ刃10,11,12の回転軌跡が回転軸心Oを中心とする円筒面に近似した面となるので、3つの直線状切れ刃10,11,12による加工面の段差が小さく抑えられ、高い精度及び面品位の切削加工を行うことができる。
【0037】
被削材の立ち壁を高精度に切削加工するには、3つの直線状切れ刃10,11,12のうち中央の第二の直線状切れ刃11を主として使用するのが良いので、第一の直線状切れ刃10の長さL1及び第二の直線状切れ刃11の長さL2はL1≦L2の関係を満し、第三の直線状切れ刃12の長さL3は第一の直線状切れ刃10の長さL1以下であるのが好ましい。
【0038】
第三の直線状切れ刃12に点Sで連結する繋ぎ稜線6a1は第一の繋ぎ稜線部13及び第二の繋ぎ稜線部14からなる。切れ刃を有さない第一の繋ぎ稜線部13が被削材の加工面に接触するのを防止するために、第一の繋ぎ稜線部13は第三の直線状切れ刃12に対して内側(ネジ挿通穴5の側)に交差角δ4だけ傾斜しているのが好ましい。交差角δ4は183〜187°が好ましく、184〜186°がより好ましい。同様に切れ刃を有さない第二の繋ぎ稜線部14が第一の繋ぎ稜線部13に対して内側に傾斜していると、被削材の加工面との接触をより確実に防止できる。第二の繋ぎ稜線部14と第一の繋ぎ稜線部13との交差角δ5は165〜178°が好ましい。なお、第一の繋ぎ稜線部13の長さL4は第三の直線状切れ刃12の長さL3の90〜110%であるのが好ましい。
【0039】
(b) 副切れ刃
図2に示すように、本発明のインサート1は短辺稜線6bにコーナー刃8の他端Vから延びる長さL5(短辺稜線6bに沿った長さ)の副切れ刃15を有する。副切れ刃15は直線状又は緩やかな凸曲線状である。インサート1を装着した刃先交換式回転切削工具により被削材を切削加工するとき、副切れ刃15は被削材の底面を切削する。副切れ刃14の他端Wは、切れ刃を有さない短辺稜線部6b1に連結しており、短辺稜線部6b1はコーナー部7b2(7b1)の一端Xに連結している。副切れ刃15はすくい面20及び逃げ面20aを有する。
【0040】
(2) インサートの上面
図1及び図2に示すように、インサート1は中央部に上面2から下面3まで貫通するネジ挿通穴5を有する。ネジ挿通穴5は、インサート1を工具本体31のインサート取付座33に固定するためのクランプネジ38が挿通する穴である。
【0041】
図1及び図3に示すように、インサート1の上面2は、各コーナー部7a1,7a2,7b1,7b2及びその近傍域が中央部(ネジ挿通5の開口部近傍)より高くなっており、各コーナー刃8から延びる主切れ刃9の第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12は下方に傾斜し(点P点よりQ点が低く、Q点よりR点が低く、R点より点Sが低い)、またコーナー刃8に連なる副切れ刃15及び短辺稜線部6b1もコーナー刃8から下方に傾斜している(点Vより点Wが低く、点Wより点Xが低い)。このため、コーナー刃8のすくい面16a、第一の直線状切れ刃10のすくい面17、第二の直線状切れ刃11のすくい面18、第三の直線状切れ刃12のすくい面19、及び副切れ刃15のすくい面20は中心C0に向けて下方に傾斜している。なお、第三の直線状切れ刃12に連結する第一の繋ぎ稜線部13も点Tまで下方に傾斜しているが、点Tから点Uまで延びる第二の繋ぎ稜線部14は下面3に平行である。図1及び図2に示すように、上面2の一部を構成する平坦な上面部22a,22bは底面3に平行であるとともに、これらのすくい面に連なる。
【0042】
(3) インサートの側面
図3及び図4に示すように、第一のコーナー部7a1はコーナー刃8に接する逃げ面16bを有し、長辺稜線6aに接する長側面4aは、平坦な拘束面23、第一の直線状切れ刃10の逃げ面24、第二の直線状切れ刃11の逃げ面25、第三の直線状切れ刃12の逃げ面26、及び第一の繋ぎ稜線部13に接する側面部27を有し、短辺稜線6bに接する側面部4bは、副切れ刃15の逃げ面20aを有する。
【0043】
拘束面23は、インサート1を工具本体31のインサート取付座33に固定したとき、インサート取付座33の長辺拘束壁面36(図23参照)に強固に密着する。各直線状切れ刃10,11,12の刃物角を大きくして、剛性(強度)を高めるために、第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12と拘束面23との間の逃げ面24,25,26は、図4に示すようにインサート1の外方に傾斜している。第一の繋ぎ稜線部13の剛性(強度)を高めるために、側面部27もインサート1の外方に傾斜している。なお、各逃げ面24,25,26は、第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12の各々に接する第一の逃げ面24a,25a,26aと、拘束面23に接する湾曲状の第二の逃げ面24b,25b,26bとからなる。また、第一の繋ぎ稜線部13の側面部27も、第一の側面部27aと第二の側面部27bとからなる。
【0044】
図4に示すように、側面部4bは、副切れ刃15の逃げ面20aであるとともに、インサート1を工具本体31のインサート取付座33に固定したときにインサート取付座33の短辺拘束壁面37(図23参照)に強固に密着する拘束面としても機能する。
【0045】
(4) 刃物角、稜線角及び傾斜角
インサート1を用いて被削材の立ち壁を切削加工する際、主切れ刃9にかかる切削加工負荷により、第三の直線状切れ刃12と第一の繋ぎ稜線部13との連結部Sから第一の繋ぎ稜線部13にかけて応力が集中し、大きな摩耗が発生しやすい。また、切削加工中に切り屑を噛み込んだとき、第三の直線状切れ刃12と第一の繋ぎ稜線部13との連結部S近傍に欠損が発生しやすい。このような不具合を防止するために、本発明のインサート1の各切れ刃の刃物角、繋ぎ稜線部の稜線角、及びこれらの傾斜角を以下の通り調整する。
【0046】
(a) 主切れ刃の刃物角
図5図8に示すように、本発明のインサート1は、主切れ刃9の刃物角が点Pから点Rまで連続的に(直線的に)減少することを特徴とする。従って、第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12の刃物角は点Pから点Rまで連続的に減少する。ここで、用語「刃物角」は、各切れ刃の直交断面におけるすくい面と逃げ面との交差角を意味する。各直線状切れ刃の刃物角は両端で異なるので、便宜上コーナー刃8側の端部における刃物角を各直線状切れ刃の刃物角と定義する。
【0047】
点Pにおいて第一の直線状切れ刃10のすくい面17と逃げ面24(第一の逃げ面24a)とがなす刃物角をβ1とし、点Qにおいて第二の直線状切れ刃11のすくい面18と逃げ面25(第二の逃げ面25a)とがなす刃物角をβ2とし、点R及び点Sにおいて第三の直線状切れ刃12のすくい面19と逃げ面26(第三の逃げ面26a)とがなす刃物角をβ3及びβ4とする。刃物角β1,β2,β3及びβ4を求める場合、まず図5図7に示すように点Pと点Qとの中点M1、点Qと点Rとの中点M2、点Rと点Sとの中点M3における刃物角β1’,β2’,β3’を求め、図8にプロットする。図8から刃物角β1,β2,β3及びβ4が分かる。
【0048】
第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12の刃物角β1,β2,β3はβ1>β2>β3の関係を満たす必要がある。切れ刃の強度は刃物角により確保されるので、主切れ刃9を用いて被削材の立ち壁を切削加工するときに被削材に最初に接触する第一の直線状切れ刃10は、最大刃物角β1のために最も高強度である。一方、第三の直線状切れ刃12は最小刃物角β3を有するので、切削抵抗が小さく良好な切れ味が得られる。これにより、第三の直線状切れ刃12による被削材の加工面粗さを小さくでき、また被削材との境界部に発生するバリを少なくできる。また、第二の直線状切れ刃11の刃物角β2が、第一の直線状切れ刃10の刃物角β1と第三の直線状切れ刃12の刃物角β3の中間であるので、第一〜第三の直線状切れ刃10,11,12の切削抵抗は安定的に変動する。β1>β2>β3の条件を満たした上で、具体的にはβ1は67〜82°が好ましく、β2は65〜80°が好ましく、β3は63〜78°が好ましい。
【0049】
(b) 繋ぎ稜線部
第一の繋ぎ稜線部13に接する上面部21(図2参照)と側面部27(図3参照)とがなす端部Sにおける稜線角(刃物角に相当する)をθ1とし、第二の繋ぎ稜線部14の上面部22a(図2参照)と側面部29(図3参照)とがなす端部T及びUにおける稜線角(刃物角に相当する)をθ2及びθ3とする。上記と同様に、まず点Sと点Tとの中点M4、及び点Tと点Uとの中点M5における稜線角θ1’及びθ2’を求め、図8にプロットする。図8から稜線角θ1,θ2及びθ3が分かる。
【0050】
第一の繋ぎ稜線部13に接する上面部21(図2参照)と側面部27(図3参照)とがなす端部Sにおける稜線角θ1(刃物角に相当する)を図9に示し、第二の繋ぎ稜線部14の上面部22a(図2参照)と側面部29(図3参照)とがなす端部Tにおける稜線角θ2(刃物角に相当する)を図10に示す。主切れ刃9を用いて被削材の立ち壁を切削加工するとき、第三の直線状切れ刃12と第一の繋ぎ稜線部13との連結点S及びその近傍に大きな切削負荷がかかるので、第一の繋ぎ稜線部13の端部Sにおける稜線角θ1と第一の直線状切れ刃10の刃物角β1はθ1>β1の関係を満たすのが好ましい。θ1>β1の関係を満たすために、第一の繋ぎ稜線部13の上面部21を水平な上面部22aと同一面とするのが好ましい。θ1>β1のため、第一の繋ぎ稜線部13の端部Sにおける稜線角θ1は第三の直線状切れ刃12の端部Sにおける刃物角β4より著しく大きくなり、点Sに近い主切れ刃9及び第一の繋ぎ稜線部13の部分の欠損等を防止することができる。
【0051】
第二の繋ぎ稜線部14の稜線角θ2と第一の直線状切れ刃10の刃物角β1もθ2>β1の関係を満たすのが好ましい。逃げ面(側面)は一方のコーナー部7a1から他方のコーナー部7b1にかけて徐々に内側に傾斜しているので、θ2はθ1より僅かに小さくなる。
【0052】
第一の直線状切れ刃10の端部Pにおける刃物角β1、第二の直線状切れ刃11の端部Qにおける刃物角β2及び第三の直線状切れ刃12の端部R及びSにおける最小刃物角β3及びβ4と、第一の繋ぎ稜線部13の端部Sにおける稜線角θ1及び第二の繋ぎ稜線部14の端部T及びUにおける稜線角θ2及びθ3図8に示す。図8に示す例では、β1は68°であり、β2は66°であり、β3は64°であり、β4(第三の直線状切れ刃12の端部Sにおける刃物角)は62°である。また、θ1は88°であり、θ2は85°である。
【0053】
(c) 第三の直線状切れ刃及び第一の繋ぎ稜線部の傾斜角
点Sが角張っていると切削加工負荷により欠損等が発生し易いので、図11に示すように第三の直線状切れ刃12と第一の繋ぎ稜線部13とは端部Sで滑らかに連結しているのが好ましく、第一の繋ぎ稜線部13は緩やかな凸曲線状又は円弧状(以下、まとめて「凸曲線状」という)であるのが好ましい。図11に示すように、第三の直線状切れ刃12は点Rにおいて垂線H3(インサート1の下面3に直交する)に対して角度α3だけ傾斜しており、第一の繋ぎ稜線部13は点Sにおいて垂線H4に対して角度α4だけ傾斜している。なお、傾斜角α4は、図11に示すように端部Sにおける第一の繋ぎ稜線部13の接線が垂線H4となす交差角とする。
【0054】
第一の繋ぎ稜線部13は、点Sで第三の直線状切れ刃12と滑らかに連結するとともに上方に緩やかに凸の曲線状であり、かつ端部Sにおける傾斜角α4が第三の直線状切れ刃12の点Rにおける傾斜角α3に対して、α3<α4≦90°の関係を満たすのが好ましい。傾斜角α4が90°を超えると、第三の直線状切れ刃12と第一の繋ぎ稜線部13の接続部Sが角張った形状になり、ここからチッピングが発生し易くなる。
【0055】
第一の繋ぎ稜線部13が上方に緩やかに凸の曲線状であると、連結点Sを角張らせることなく第一の繋ぎ稜線部13の部分を直線状にした場合より厚くできるので、第一の繋ぎ稜線部13の強度が向上し、連結点S近傍のチッピングの発生を防ぐことができる。第一の繋ぎ稜線部13に接する上面部21も上方に緩やかに凸にすると、第一の繋ぎ稜線部13の強度をさらに高めることができる。図11に示すように、緩やかな上方凸曲線状の第一の繋ぎ稜線部13が円弧状である場合、その半径r1は、長辺稜線6aの全長Aの1/3〜2であるのが好ましい。
【0056】
緩やかな上方凸曲線状の第一の繋ぎ稜線部13と第二の繋ぎ稜線部14との連結点Tは角張るので、図11に示すように、微小な半径r2(例えば、1.0 mm程度)の円弧で第一の繋ぎ稜線部13と第二の繋ぎ稜線部14とを滑らかに連結するのが好ましい。また、図11に示していないが、主切れ刃9が一様な角度で下方に傾斜するように、第一の直線状切れ刃10の両端部P,Qにおける傾斜角α1,α2(第一の直線状切れ刃10と垂線との交差角)は、傾斜角α3に等しいのが好ましい。
【0057】
(B) 第二の実施形態
第二の実施形態のインサート101は、図12及び図13に示すように、第一の繋ぎ稜線部13の両端部S,Tにおける上面と側面との交差角が90°より大きくなるように、第一の繋ぎ稜線部13の両端部S,T間の上面部に、ネジ挿通穴5の側が高い傾斜面21aが形成されていることを特徴とする。点Sにおける第一の繋ぎ稜線部13の傾斜面21aと側面部27(第一の側面部27a)との交差角(稜線角)θ1は、図14に示すように、90°より大きい。具体的には、稜線角θ1は100°≦θ1≦120°が好ましく、105〜115°がより好ましい。第二の実施形態でも、逃げ面(側面)は一方のコーナー部7a1から他方のコーナー部7b1にかけて徐々に内側に傾斜しているので、θ2はθ1より僅かに小さくなる。図14に示す例では、β1〜β4は図8と同じであるが、θ1は110°で、θ2は108°である。大きな稜線角θ1のために、点S近傍における第一の繋ぎ稜線部13はさらに強化され、切り屑の噛み込みによるチッピングに対して抵抗力が増大する。
【0058】
(C) 第三の実施形態
図15図18は本発明の第三の実施形態によるインサート201を示す。このインサート201は、端部Sから延びる第一の繋ぎ稜線部13及び第二の繋ぎ稜線部14の強度を向上させるために、(a) 上面部22aを点Sで最も高く点Uで最も低い傾斜面にするとともに、(b) 上面部22aに、第一及び第二の繋ぎ稜線部13,14に接する切欠き面を形成したことを特徴とする。上面部22aは側面視(図17)では傾斜しているが、図16の横方向では底面と平行である。上記点(a) 及び(b) 以外第三の実施形態のインサート201は第一の実施形態のインサート1と同じであるので、これらの点についてのみ以下詳細に説明する。
【0059】
第一及び第二の繋ぎ稜線部13,14に接するように上面部22aに形成された切欠き面は、第一の繋ぎ稜線部13に接する切欠き面部13aと、第二の繋ぎ稜線部14に接する切欠き面部14aとからなる。切欠き面部13aの幅K1は最も高い端部Sではほぼ0で、端部Tに向けて連続的に広くなり、端部Tで最大になる。端部Tでは、切欠き面部13aの幅K1と切欠き面部14aの幅K2とは等しい。切欠き面部14aの幅K2は端部Tから端部Uにかけて連続的に狭くなり、最も低い端部Uでほぼ0となる。
【0060】
切欠き面部13aの幅K1が端部Sでほぼ0であるので、第一の繋ぎ稜線部13は端部Sで最も肉厚になり、その分高強度となる。従って、主切れ刃9を用いて難削材に立ち壁の切削加工を行うときに、切り屑の噛み込みがあっても、耐チッピング性を著しく向上させることができる。また、端部Tにおいて切欠き面部14aの幅K2値を切欠き面部13aの幅K1値と等しくすることにより、切欠き面が広くなるので、切り屑の噛み込みを抑制することができる。
【0061】
第一の繋ぎ稜線部13と第二の繋ぎ稜線部14とがなす側面視での角度(切欠き角)γを直線STと直線TUとの交差角と定義すると、γは160〜176°であるのが好ましく、165〜171°であるのがより好ましい。
【0062】
図19図22に示すように、第一の繋ぎ稜線部13の切欠き面部13aと側面部27とがなす点Sにおける稜線角θ1はθ1>β1の関係を満たすのが好ましい。また、第二の繋ぎ稜線部14の切欠き面部14aと側面部29とがなす点Tにおける稜線角θ2もθ2>β1の関係を満たすのが好ましい。θ1とθ2との関係は、図21に示すようにθ1>θ2でも、図22に示すようにθ2>θ1でも良い。図21に示す場合、θ1は105〜120°が好ましく、θ2は100〜110°が好ましい。図22に示す場合、θ1は105〜120°が好ましく、θ2は110〜120°が好ましい。第二の繋ぎ稜線部14の切欠き面部14aと側面部29とがなす点Uにおける角度θ3は特に限定されず、100〜120°の範囲内で良い。
【0063】
θ1>β1の関係を満たすことにより、第一の繋ぎ稜線部13の点S近傍の強度を高く維持できる。また、θ2>β1の関係を満たすことにより、第二の繋ぎ稜線部14の点T近傍の強度を高く維持できる。θ1>β1及びθ2>β1の関係を満たすことにより、第一及び第二の繋ぎ稜線部13,14の全体が高強度化され、欠損等の発生を防止できる。
【0064】
切欠き面部13a,14aの横方向傾斜角に応じて、図19及び図20に示すように第一及び第二の繋ぎ稜線部13,14の稜線角θ1,θ2が変わる。従って、所望の稜線角θ1,θ2に応じて、切欠き面部13a,14aの横方向傾斜角を決めれば良い。
【0065】
上記の通り、本発明のいずれの実施形態のインサート1も2コーナー型であり、インサート取付座33に固定したインサート1の一方のコーナー刃8及びその両側の主切れ刃9及び副切れ刃15のいずれかが切削加工により摩耗したら、インサート取付座33への固定を解除してインサート1を180°回転した後再装着し、未使用のコーナー刃8及びその両側の主切れ刃9及び副切れ刃15を使用することができる。
【0066】
[2] 刃先交換式回転切削工具
本発明のインサート1を着脱自在に装着する刃先交換式回転切削工具はいかなる刃径でも良く、例えば8 mm以上にすることができる。図23に示すように、刃先交換式回転切削工具を構成する工具本体31はシャンク部32及び複数のインサート取付座33とを有し、各インサート取付座33は、インサート1の下面3が密着する平坦な着座面34と、インサート1を固定するクランプネジ38(図24参照)が螺合するように着座面34に形成したネジ穴35と、インサート1の長側面が当接する長辺拘束壁面36と、インサート1の短側面が当接する短辺拘束壁面37とを有する。図23に示す符号Oは刃先交換式回転切削工具30の回転中心軸である。
【0067】
図24は、図23に示す工具本体31にインサート1を固定した刃先交換式回転切削工具30を示す。符号Yは加工機に装着した刃先交換式回転切削工具30の回転方向を示す。刃先交換式回転切削工具30では、インサート1の主切れ刃9は工具本体31の外周側に位置し、副切れ刃15は工具本体31の先端面側に位置する。
【0068】
図24に示す刃先交換式回転切削工具30は3つのインサート取付座33を有するが、インサート取付座33の数は限定的でなく、工具本体31の刃径に応じて2〜5個にすることができる。刃先交換式回転切削工具30において、各インサート1の軸方向すくい角を18±3°程度と大きくすることにより、難削材の切削抵抗の低減できる。
【0069】
本発明のインサート1をクランプネジ38によりインサート取付座33に固定したとき、主切れ刃9を構成する3つの直線状切れ刃10,11,12のうち第二の直線状切れ刃11は、回転軸心Oと平行でかつ工具本体31の最外周に位置するのが好ましい。そのために、インサート1の各部の形状及びサイズを適宜調整する。
【0070】
刃先交換式回転切削工具30を用いて被削材の立ち壁を切削加工するとき、第二の直線状切れ刃11を主要な切れ刃として使用できるので、被削材の加工面を良好にできるとともに、切削抵抗を低減できる。さらに、主切れ刃9を3つの直線状切れ刃10,11,12を折れ線状に繋いた構成とすることにより、切削加工により生成される切屑が分断され、良好に排出される。
【0071】
通常インサート取付座33に装着したインサート1の取り付け位置が正確であるか否かを画像検出装置等を使用して確認するが、本発明の刃先交換式回転切削工具30では第二の直線状切れ刃11が回転軸心Oと平行であるので、確認作業が容易である。また、第二の直線状切れ刃11が回転軸心Oと平行であるので、刃先交換式回転切削工具30を装着したNC制御の加工機により切削工具30の動作制御が容易になるとともに、NC制御用プログムも簡素化される。
【符号の説明】
【0072】
1,101:インサート
2:上面
3:下面
4a:長側面
4b:短側面
5:ネジ挿通穴
6:稜線
6a:長辺稜線
6a1:切れ刃を有さない長辺稜線部
6b:短辺稜線
6b1:切れ刃を有さない短辺稜線部
7a1,7a2,7b1,7b2:コーナー部
8:コーナー刃
9:主切れ刃
10:第一の直線状切れ刃
11:第二の直線状切れ刃
12:第三の直線状切れ刃
13:第一の繋ぎ稜線部
13a:第一の繋ぎ稜線部に接する切欠き面部
14:第二の繋ぎ稜線部
14a:第二の繋ぎ稜線部に接する切欠き面部
15:副切れ刃
16a:コーナー刃のすくい面
16b:コーナー刃の逃げ面
17:第一の直線状切れ刃のすくい面
18:第二の直線状切れ刃のすくい面
19:第三の直線状切れ刃のすくい面
20:副切れ刃のすくい面
20a:副切れ刃の逃げ面
21:第一の繋ぎ稜線部に接する上面部
22a,22b:平坦な上面部
23:平坦な拘束面
24:第一の直線状切れ刃の逃げ面
24a:第一の直線状切れ刃の第一の逃げ面
24b:第一の直線状切れ刃の第二の逃げ面
25:第二の直線状切れ刃の逃げ面
25a:第二の直線状切れ刃の第一の逃げ面
25b:第二の直線状切れ刃の第二の逃げ面
26:第三の直線状切れ刃の逃げ面
26a:第三の直線状切れ刃の第一の逃げ面
26b:第三の直線状切れ刃の第二の逃げ面
27:第一の繋ぎ稜線部に接する側面部
27a:第一の繋ぎ稜線部の第一の逃げ面
27b:第一の繋ぎ稜線部の第二の逃げ面
29:第二の繋ぎ稜線部に接する側面部
30:刃先交換式回転切削工具
31:工具本体
32:シャンク部
33:インサート取付座
34:着座面
35:ネジ穴
36:長辺拘束壁面
37:短辺拘束壁面
38:クランプネジ
A:長辺稜線の全長
A1:主切れ刃の長さ
B:短辺稜線の全長
C0:ネジ挿通穴の中心
H3、H4、H5:インサートの下面に直交する直線(垂線)
K1:第一の繋ぎ稜線部に接する切欠き面の幅
K2:第二の繋ぎ稜線部に接する切欠き面の幅
L1:第一の直線状切れ刃の長さ
L2:第二の直線状切れ刃の長さ
L3:第三の直線状切れ刃の長さ
L4:第一の繋ぎ稜線部の長さ
L5:副切れ刃の長さ
O:刃先交換式回転切削工具の回転軸心
O1:円弧状の第一の繋ぎ稜線部の円の中心
P、Q、R、S、T、U、V、W、X:直線状切れ刃及び繋ぎ稜線部の端部(連結点)
Y:刃先交換式回転切削工具の回転方向
r1:第一の繋ぎ稜線部の円弧の半径
r2:端部Tにおける円弧の半径
α3:端部Rにおいて第三の直線状切れ刃と垂線H3がなす交差角(傾斜角)
α4:端部Sにおいて第4の直線状切れ刃と垂線H4がなす交差角(傾斜角)
β1:第一の直線状切れ刃の点Pにおける刃物角
β2:第二の直線状切れ刃の点Qにおける刃物角
β3:第三の直線状切れ刃の点Rにおける刃物角
β4:第三の直線状切れ刃の点Sにおける刃物角
δ1:第一の直線状切れ刃と第二の直線状切れ刃との交差角(ネジ挿通穴側)
δ2:第二の直線状切れ刃と第三の直線状切れ刃との交差角(ネジ挿通穴側)
δ3:第一の直線状切れ刃と直線H1’との交差角
δ4:第三の直線状切れ刃と第一の繋ぎ稜線部との交差角(ネジ挿通穴側)
δ5:第一の繋ぎ稜線部と第二の繋ぎ稜線部との交差角(ネジ挿通穴側)
θ1:第一の繋ぎ稜線部の点Sにおける稜線角
θ2:第二の繋ぎ稜線部の点Tにおける稜線角
θ3:第二の繋ぎ稜線部の点Uにおける稜線角
【要約】
上面の一対のコーナー刃に隣接する長辺稜線及び短辺稜線の一部にそれぞれ下方に傾斜する主切れ刃及び副切れ刃を有し、主切れ刃は第一〜第三の直線状切れ刃からなり、第一〜第三の直線状切れ刃は、第二の直線状切れ刃が最も外側に位置するように、平面視で内側に鈍角の交差角で折れ線状に連結しており、第一〜第三の直線状切れ刃のすくい面と逃げ面とがなす刃物角β1,β2,β3がβ1>β2>β3の関係を満たすほぼ平行四辺形状のインサート。
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