【実施例】
【0011】
負極板以外の点は定法に従い、単セルの制御弁式鉛蓄電池を試作した。負極格子はPb-Ca-Sn合金を用い、菱形のマス目(開口)を備えたエキスパンド格子である。
図1にマス目のサイズと、マス目の有効直径との関係を示し、aは長径、bは短径で、マス目の開口面積は1/2・abで与えられ、周囲長は2(a
2+b
2)
1/2
で与えられるので、有効直径Dは 2ab/2(a
2+b
2)
1/2=ab/(a
2+b
2)
1/2 で与えられる。実施例では、有効直径Dが5mm,10mm,12mm,16mm,20mmの5種類の負極格子を作製した。なお負極格子の厚さ、格子の太さ、材質等は任意で、実施例では負極格子の厚さは1.0mm、格子(桟)の太さは0.8mmである。エキスパンド格子でのマス目は菱形であるが、鋳造格子では
図2のように長方形になり、長径をa、短径をbとすると、有効直径Dは 2ab/(a+b) で与えられる。なお、格子のマス目の形状は例として長方形や菱形を示したが、パンチング格子やラジアル格子などの場合は円形、楕円形、長円、略台形、多角形(六角形、八角形など)などでもよい。
【0012】
ボールミル法で製造した鉛粉と、リグニンと硫酸バリウムとポリプロピレン繊維と、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック(ここではアセチレンブラック)とを含む負極活物質を調製した。リグニン含有量は0.2質量%、硫酸バリウム含有量は0.6質量%、ポリプロピレン繊維含有量は0.1質量%としたが、これらの成分は含まなくても良く、含有量は任意で、かつ他の成分を含んでいても良い。カーボンブラック含有量は0.2質量%,1質量%,1.5質量%,3質量%,5質量%の5種類とし、残りは不可避不純物を含む鉛粉で、鉛粉の製造条件は任意である。
【0013】
鉛粉とカーボンブラック等を水と硫酸とで練ってペースト状にし、水と硫酸の量を調整することにより、化成後の負極活物質の密度が4.0g/cm
3〜5.0g/cm
3となるようにした。なお化成後の負極活物質の密度が6.0g/cm
3となるように水と硫酸の量を定めると、流動性に乏しいペーストとなり、負極板を作製できなかった。また開口面積当たりの化成済みの負極活物質の質量が負極活物質の密度によらずに一定となるように、ペーストを負極格子のマス目に充填した。ペーストの充填後に、50℃相対湿度50%で50時間熟成した後、50℃相対湿度20%以下で30時間乾燥し、未化成の負極板とした。
【0014】
定法に従い正極板を作製した。正極格子にはPb-Ca-Sn合金を用い、正極活物質は鉛粉に補強材を加え、硫酸とイオン交換水とを加えて混練した正極活物質ペーストを正極格子に充填したものを、熟成、乾燥させて未化成の正極板とした。正極格子と負極格子は有効直径が同じでも異なっても良く、また正極格子の材質、形状等は任意である。
【0015】
未化成の負極板1枚をガラスセパレータで包み、未化成の正極板2枚で挟んで、圧迫しながら電槽に挿入し、蓋を溶着して希硫酸を加え、3.0A×20時間の電槽化成により単セルの制御弁式鉛蓄電池とした。各鉛蓄電池の5時間率放電容量は6Ahである。なお負極活物質の密度は化成後の値を意味し、以下のようにして測定する。負極板から負極活物質を分離して、水洗と乾燥とを施すことにより負極活物質中の電解液を除く。次いで見掛けの容積当たりの質量を測定し、水銀圧入法で負極活物質の細孔容積を測定し、見掛けの容積から細孔容積を引いて真の容積を求める。そして負極活物質の質量を真の容積で除すことにより、負極活物質の密度を求める。
【0016】
各鉛蓄電池を3個ずつ用い、最初に充電受入性能試験を行った。この試験では、25℃で、0.1CA×60分の放電の後に12時間放置し、最大電流が3CAの条件で2.4Vで5秒間定電圧充電し、この時の充電電気量を充電受入性能として測定した。次いで0.1CAで10時間充電した後、次の重負荷寿命試験を行った。重負荷寿命試験は40℃で行い、0.5CAで1時間の放電と、0.1CAで5時間の充電から成るサイクルを25サイクル行う毎に、0.5CAで端子電圧が1.70V未満に低下するまで時間を測定することにより、放電容量を測定した。そして放電容量が初期容量の50%以下になると寿命とした。試験結果を表1〜表3に示し、寿命性能は重負荷寿命性能を表し、結果は3個の鉛蓄電池の平均で、試料12(負極活物質密度が4.0g/cm
3,カーボン含有量が1.5質量%、マス目の有効直径が10mm)を基準例として、試料12での性能を100とする相対値で性能を表した。性能により試料を比較例と実施例とに分け、
・ 負極板の軽量化の観点から、有効直径が10mm以上で、
・ 充電受入性能が95以上で、
・ 重負荷寿命性能が120以上の電池を実施例、それ以外の電池を比較例とした。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
表1〜表3から以下のことが分かる。
1) カーボン含有量を1質量%以上にすることにより、充電受入性能を目標の95以上にできる。
2) 負極活物質の密度を4.3g/cm
3以上にすることにより、重負荷寿命性能を目標の120以上にできる。しかしカーボン含有量が5質量%では、負極活物質の密度をどのようにしても重負荷寿命性能を目標の120以上にできない。
3) 有効直径を増すと充電受入性能も重負荷寿命性能も低下するが、有効直径が16mmまでは低下は緩やかで、16mmを越えると急激になる。なお菱形のマス目の場合、有効直径が5mmと10mmとで、負極格子の質量は1.5倍程度異なる。
4) 負極活物質密度が4.3g/cm
3〜5.0g/cm
3では、4.0g/cm
3の場合よりも、充電受入性能等の有効直径への依存性が小さい。従ってより大きな有効直径の格子を用いることができる。
5) 負極活物質の密度が4.5g/cm
3及び5.0g/cm
3では、4.3g/cm
3の場合よりも高い性能が得られる。従って負極活物質の密度は4.5g/cm
3以上5.0g/cm
3以下がより好ましい。
6) カーボン含有量を1質量%及び1.5質量%とすると、3質量%の場合よりも、充電受入性能が極く僅かに低下し、重負荷寿命性能が有意に向上する。従ってカーボン含有量は1質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0021】
実施例では制御弁式の鉛蓄電池を製作したが、液式の鉛蓄電池でも良い。また電池の各要素の内で、負極板の有効直径及び負極活物質と無関係な要素は任意である。