【実施例1】
【0024】
本発明の実施例1に係る蓄冷器について
図1乃至
図7を参照しながら詳細に説明する。
本発明に係る蓄冷器は、先の
図12に示されるような冷凍機1に代表される冷却機構を有する装置や機構に利用されるものであり、先の
図12に示すもの以外にも、例えば、パルスチューブ冷凍機、スターリングサイクル冷凍機、ビルミエサイクル冷凍機、ソルベイサイクル冷凍機、エリクソンサイクル冷凍機、又は、これを予冷段に使った冷凍システム等に用いるのに好適な、極低温蓄冷器及び冷凍機、並びに、これを用いた超伝導電磁石装置、MRI装置、クライオポンプ等に利用可能である。
また、本発明に係る蓄冷器は、従来技術に係る蓄冷器に比べて特に、蓄冷器を構成する筒体内に収容される複数種類の粒状蓄冷材の配置の仕方に特徴を有するものである。
図1(a)は本発明の実施例1に係る蓄冷器の断面図であり、(b)は本発明の実施例1に係る蓄冷器の内部における粒状蓄冷材の配置を示す斜視図であり、(c)は
図1(b)中のA−A線矢視断面図である。
図1(a)〜(c)に示すように、実施例1に係る蓄冷器100Aは、金属製の第1の筒体9の高温端側(
図1(a)中の符号Pで示す側)の端部側に粒状蓄冷材のPb粒14が第1の筒体9の中ほどまで充填され、このPb粒14上で,かつ,第1の筒体9の低温端側(
図1(a)中の符号Qで示す側)の端部側には粒状蓄冷材のHoCu
2粒15が充填され、さらに、第1の筒体9の軸上で,HoCu
2粒15中に粒状蓄冷材であるGOS粒16からなる棒状の塊が内包されるものである。なお、GOSとは粒状蓄冷材を構成するGd
2O
2Sの略称である。
このように、第1の筒体9内に収容される粒状蓄冷材集合体101は、Pb粒14,HoCu
2粒15及びGOS粒16により構成されている。
【0025】
また、実施例1に係る蓄冷器100Aでは、
図1(a)に示すように、第1の筒体9内における高圧ガス(熱交換ガス)の流動を可能にしながら,第1の筒体9中に粒状蓄冷材集合体101を収容保持するために、第1の筒体9の高温端側(
図1中の符号Pを参照)、及び、低温端側(
図1中の符号Qを参照)のそれぞれに、目の粗い第1のメッシュ体11と、不織繊維層であるフェルト13と、第1のメッシュ体11よりもより目の細かい第2のメッシュ体12とからなる通気積層体102が設けられている。
さらに、第1の筒体9の軸方向に積層される2種類の粒状蓄冷材の境界には、第1の筒体9内における高圧ガスの流動を可能にしながら、2種類粒状蓄冷材を分離するために、不織繊維層であるフェルト13の上下面に第2のメッシュ体12を配設した通気分離層103を配置している。
なお、通気積層体102の構成は、あくまでも一例であり、通気積層体102の構造については,粒状蓄冷材集合体101を第1の筒体9内に収容保持することが可能で,かつ,第1の筒体9への高圧ガスの流入や第1の筒体9からの高圧ガスの排出を可能にするものであれば、通気積層体102を構成する個々の要素やその組み合わせ方を自由に変更することが可能である。また、通気分離層103の構成についても第1の筒体9の軸方向に積層して収容される複数種類の粒状蓄冷材を確実に分離しながら,第1の筒体9内の高圧ガスの流動を妨げないよう構成されるのであれば、通気分離層103を構成する個々の要素やその組み合わせ方を自由に変更することが可能である。
【0026】
さらに、実施例1に係る蓄冷器100Aでは、
図1(a)に示すように、第1の筒体9内に収容されるHoCu
2粒15とその内部に内包されるGOS粒16との分離は、第1の筒体9よりも小さい直径を有する第2の筒体10により行っている。
より具体的には、実施例1に係る蓄冷器100Aでは、第1の筒体9の高温端側に通気積層体102を設けてからPb粒14を充填した後,Pb粒14上に通気分離層103を設け,この通気積層体102上に,第1の筒体9よりも小さい口径を有する第2の筒体10を第1の筒体9に内挿して、第1の筒体9と第2の筒体10の間にHoCu
2粒15を充填し、第1の筒体9の低温端側に通気積層体102を取り付けている。なお、第2の筒体10の中空部にはGOS粒16が充填され、その両端部に通気積層体102がそれぞれ設けられて、第2の筒体10からのGOS粒16の流出を防止している。つまり、実施例1に係る蓄冷器100Aでは、第2の筒体10により、第1の筒体9中のHoCu
2粒15とGOS粒16の分離が行われている。
なお、第1の筒体9内において第2の筒体10を用いて複数種類の粒状蓄冷材の分離を行う場合、第2の筒体10の両端部のそれぞれにも上述のような通気積層体102を設けて、第2の筒体10内に高圧ガスの流動を可能にしながら粒状蓄冷材を収容保持するとよい。
また、
図1(a)には第1の筒体9の端部に設けられる通気積層体102と,第2の筒体10の端部に設けられる通気積層体102との間に粒状蓄冷材を設けない場合を例に挙げているが、第1の筒体9の端部に設けられる通気積層体102と,第2の筒体10の端部に設けられる通気積層体102との間に粒状蓄冷材(実施例1に係る蓄冷器100Aの場合には、例えば、HoCu
2粒15)を設けてもよい。
【0027】
このような実施例1に係る蓄冷器100Aでは、
図1(c)に示すように、第1の筒体9内に収容される粒状蓄冷材集合体101は、第1の筒体9の中心軸17の軸方向断面において、Pb粒14上にHoCu
2粒15のみならずGOS粒16もが積層された状態になる。このとき、第1の筒体9の軸方向断面において、HoCu
2粒15とGOS粒16とは第1の筒体9の軸方向に並列している。
すなわち、実施例1に係る蓄冷器100Aの軸方向断面は、少なくとも2種類の粒状蓄冷材が,蓄冷器100A(第1の筒体9)の軸方向に並列して配置される領域を有した状態になる。
また、この状態を別の言葉で言い換えると、実施例1に係る蓄冷器100Aは、蓄冷器100A(第1の筒体9)の軸方向における領域の少なくとも一部において、第1の筒体9の軸方向垂直断面に少なくとも2種類の粒状蓄冷材が分離されて配置されている,とも表現することができる(
図1(b)を参照)。
【0028】
ここで、実施例1に係る蓄冷器100Aに使用される粒状蓄冷材について説明を加える。
図2は各蓄熱材の温度と比熱の関係を示すグラフである。なお、
図2中のX軸は温度(K)を、Y軸は比熱(J/cm
3K)を示している。
図2に示す3種類の蓄熱材のうち、Pb,HoCu
2はいずれも10Kを超えた領域において温度が高くなるにつれて比熱が高くなる傾向が認められた。
他方、5〜10Kの温度領域では、HoCu
2の比熱が比較的高く、GOSは4〜5K程度のときに特に高い比熱を有している。
また、先の
図12に示す冷凍機1に代表される冷却機構においては、2段蓄冷器3aの高温端側(
図12中の符号Pで示す側)における高圧ガス(熱交換ガス)の温度は40K程度であり、2段蓄冷器3aの内部を高温端側から低温端側に向かって流動する際に、2段蓄冷器3a内に収容される蓄冷材により熱交換されて2段蓄冷器3aの低温端側(
図12中の符号Qで示す側)では、2段蓄冷器3a内に収容される蓄冷材の材質にもよるが高圧ガス(熱交換ガス)の温度を7Kにまで冷却することが可能である。
従って、上述のような冷却機構を考慮すれば、
図12に示す2段蓄冷器3aの高温端側(
図12中の符号Pで示す側)にPb粒14を収容し、次いで、2段蓄冷器3aの低温端側(
図12中の符号Qで示す側)に向かうにつれてHoCu
2粒15、GOS粒16の順でそれぞれの粒状蓄冷材を2段蓄冷器3aの軸方向に積層した状態で収容することが最も合理的でかつ最良であるとも考えられる。
【0029】
しかしながら、
図12に示す2段蓄冷器3aにおいて、Pb粒14、HoCu
2粒15、GOS粒16の3種類の粒状蓄冷材をこの順序で、第1の筒体9の軸方向断面における高温端側から低温端側に向かって積層してなる2段蓄冷器3aと、Pb粒14とHoCu
2粒15の2種類の粒状蓄冷材をこの順序で高温端側から低温端側に向かって積層してなる2段蓄冷器3aの冷凍能力を比較すると、後者の2段蓄冷器3aの冷凍能力の方が広範囲の温度領域において優れている。
その一方で、HoCu
2(HoCu
2粒15)は極めて高価な蓄冷材であるにもかかわらず、Pb粒14とHoCu
2粒15の2種類の粒状蓄冷材を用いた2段蓄冷器3a(後者の蓄冷器)が一般に普及している。
よって、このような事情からPb粒14と、HoCu
2粒15と、GOS粒16の3種類を用いた2段蓄冷器3aの冷凍能力の向上が望まれていた。
これに対して発明者らは鋭意研究の結果、
図12に示す冷凍機1に代表される冷却機構に用いられる蓄冷器の第1の筒体9内に収容される粒状蓄冷材集合体101の配置を変えることにより、従来と同じPb粒14と、HoCu
2粒15と、GOS粒16を用いながら蓄冷器の冷凍能力を向上させることに成功した。
【0030】
図3は本発明の実施例1に係る蓄冷器と比較例に係る蓄冷器における各温度における冷凍能力を比較したグラフである。また、
図4(a),(b)はいずれも本発明の実施例1に係る蓄冷器の冷凍能力試験に用いた比較例に係る蓄冷器内の粒状蓄冷材の種類と第1の筒体内における配置を示す概念図である。なお、
図1に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
まず、
図1(b),(c)及び
図4を参照しながらこの度の冷凍能力試験に使用した実施例1に係る蓄冷器内における粒状蓄冷材の配置について説明する。
本発明の実施例1に係る蓄冷器100Aに収容される各粒状蓄冷材の配置は
図1(b),(c)に示す通りである。
また、
図4(a)は比較例1に係る蓄冷器に収容される粒状蓄冷材集合体101における各粒状蓄冷材の配置を示している。比較例1に係る蓄冷器では、第1の筒体9の高温端側(
図4(a)中の符号Pで示す側)から第1の筒体9の中ほどまでPb粒14が充填され,このPb粒14上から第1の筒体9の低温端側(
図4(a)中の符号Qで示す側)までHoCu
2粒15が充填されて,第1の筒体9の軸方向断面の高温端から低温端に向かって2層から成る粒状蓄冷材集合体101が形成されている。
他方、
図4(b)は比較例2に係る蓄冷器に収容される粒状蓄冷材集合体101における各粒状蓄冷材の配置を示したものである。比較例2に係る蓄冷器では、第1の筒体9の高温端側(
図4(b)中の符号Pで示す側)から第1の筒体9の中ほどまでPb粒14が充填され,このPb粒14上から第1の筒体9の低温端側(
図4(a)中の符号Qで示す側)に向かって,第1の筒体9の下端から3/4の高さまでHoCu
2粒15が充填され,さらに,HoCu
2粒15上から第1の筒体9の低温端(
図4(a)中の符号Qで示す側)までGOS粒16が充填されて,第1の筒体9の軸方向断面における高温端から低温端に向かって3層から成る粒状蓄冷材集合体101が形成されている。
【0031】
上述のような本発明の実施例1に係る蓄冷器100Aと、比較例1,2に係る冷凍能力を比較すると、
図3に示すように、比較例1に係る蓄冷器の冷凍能力が最も高く、次いで、本発明の実施例1に係る蓄冷器100A、比較例2に係る冷却器の順で冷凍能力が高かった。
このため、従来公知の蓄冷材であるPb粒14、HoCu
2粒15、GOS粒16を組み合わせてなる蓄冷器において、第1の筒体9内におけるHoCu
2粒15とGOS粒16の配置を変更することで蓄冷器の冷凍能力を向上できることが確認された。
したがって、実施例1に係る蓄冷器100Aによれば、従来と同じ蓄冷材を用いてより高い冷凍能力を有する蓄冷器を提供することができる。また、比較例1に近い冷却能力を有する蓄冷器をより安価に提供できるという効果も有する。
【0032】
そして、実施例1に係る蓄冷器100Aにおいては、HoCu
2粒15内にGOS粒16を分離した状態で収容する手段として、例えば、第1の筒体9とは別に第2の筒体10を設け、この第2の筒体10内にGOS粒16を収容したものをHoCu
2粒15内に内包させるという手段を採用することで、実施例1に係る蓄冷器100Aの構造をシンプルなものにすることができる。
なお、本願明細書では第2の筒体10として中空部の断面形状が円形であるものを用いた場合を例に挙げて説明しているが、第2の筒体10の断面形状は三角形以上の多角形でもよいし、楕円形やその他不定形な環状でもよい。すなわち、内部に粒状蓄冷材を充填可能な筒体であればその中空部の断面外形は特に問題としない。
また、この場合、第1の筒体9内における高圧ガス(熱交換ガス)の流動性を確保するために、第1の筒体9と第2の筒体10の軸方向は一致(略一致の概念も含む)させておくことが望ましい。
実施例1に係る蓄冷器100Aでは、耐久性や強度を考えて第1の筒体9及び第2の筒体10の材質としてステンレスを用いているが、ステンレス以外にもステンレスと同等の,あるいは,ステンレスよりも熱伝導率が低く、十分な強度や耐久性を有し、加工性のよい金属や合金あるいは合成樹脂からなる筒体であれば実施例1に係る蓄冷器100Aに支障なく使用することができる。なお、第1の筒体9及び第2の筒体10の材質としてステンレスと同等あるいはステンレスよりも熱伝導率が低いものが望ましいのは、熱伝導率のよい材質を使用すると、高温端から低温端へ熱伝導による熱が多量に伝わり、低温側の熱損失となるためである。従って、この熱損失を極力抑えるために、熱伝導率は小さい材質で、肉厚の薄いものが望ましいと言える。本実施例におけるステンレス以外であれば、例えばベークライトが該当する。
【0033】
ここで、本発明の実施例1に係る蓄冷器の冷凍能力に関する詳細な試験結果を参照しながら本発明の実施例1に係る蓄冷器の効果についての説明を加える。
図5は本発明の実施例1に係る蓄冷器と比較例に係る蓄冷器における各温度での冷凍能力を比較したグラフである。
図6は本発明の実施例1に係る蓄冷器の冷凍能力試験に供試した蓄冷器内に収容されるそれぞれの粒状蓄冷材の配置とその割合を示した図である。なお、
図6中のY軸方向における原点O側が、第1の筒体9における高温端側である。
本試験に用いた3種類の実施例1に係る蓄冷器、及び、比較例3乃至7に係る蓄冷器について説明する。なお、本試験では、3種類の実施例1に係る蓄冷器、及び、比較例3乃至7に係る蓄冷器の第1の筒体9として、軸方向垂直断面において中空部の直径が15mmのステンレス製の円筒を用いた。
また、3種類の実施例1に係る蓄冷器における第2の筒体10として、中空部の直径が9mmで、肉厚が0.5mmのステンレス製の円筒を用いた。
さらに、この度の試験に用いた全ての蓄冷器に収容する粒状蓄冷材のうちの50容積%をPb粒14とし、本試験に供試する全ての蓄冷器においてPb粒14を第1の筒体9の高温端側に配置した。
よって、ここでは本試験に供試する3種類の実施例1に係る蓄冷器、及び、比較例3乃至7に係る蓄冷器の相違点のみを記載する。また、以下の本試験に供試する蓄冷器に関する説明において、平均粒径に関する記載がなされない粒状蓄冷材の平均粒径は全て0.2mmである。
【0034】
実施例1Aに係る蓄冷器では、Pb粒14上にHoCu
2粒15を積層し、このHoCu
2粒15の内に挿設される第2の筒体10中に平均粒径が0.25mmのGOS粒16を収容した。
実施例1Bに係る蓄冷器では、Pb粒14上にHoCu
2粒15を積層し、このHoCu
2粒15の内に挿設される第2の筒体10中に平均粒径が0.1mmのGOS粒16を収容した。
実施例1Cに係る蓄冷器は、実施例1Aに係るHoCu
2粒15とGOS粒16の配置を置き換えたものである。
比較例3に係る蓄冷器では、Pb粒14上に40容積%のHoCu
2粒15を積層し、その上に平均粒径が0.25mmのGOS粒16を10容積%積層した。
比較例4に係る蓄冷器では、Pb粒14上に40容積%のHoCu
2粒15を積層し、その上に平均粒径が0.1mmのGOS粒16を10容積%積層した。
比較例5に係る蓄冷器では、Pb粒14上に50容積%のHoCu
2粒15を積層した。
比較例6に係る蓄冷器では、Pb粒14上に30容積%のHoCu
2粒15を積層し、その上に平均粒径が0.25mmのGOS粒16を20容積%積層した。
比較例7に係る蓄冷器では、Pb粒14上に30容積%のHoCu
2粒15を積層し、その上に平均粒径が0.1mmのGOS粒16を20容積%積層した。
【0035】
上述のような10種類の供試用の蓄冷器(3種類の実施例1に係る蓄冷器1A〜1C、及び、比較例3乃至7に係る蓄冷器)の冷凍能力を比較したグラフが
図5である。
図5に示すように、平均粒径が0.25mmのGOS粒16を10容積%収容した比較例3に係る蓄冷器と、平均粒径が0.1mmのGOS粒16を10容積%収容した比較例4に係る蓄冷器とでは、GOS粒16の平均粒径が小さい比較例4に係る蓄冷器の冷却能力が高かった。
その一方で、平均粒径が0.25mmのGOS粒16を20容積%収容した比較例6に係る蓄冷器と、平均粒径が0.1mmのGOS粒16を20容積%収容した比較例7に係る蓄冷器をとでは、GOS粒16の平均粒径が大きい比較例6に係る蓄冷器の冷却能力が高かった。
従って、上記結果から、複数種類の粒状蓄冷材を第1の筒体9内においてその軸方向に単純に積層させた従来例に係る蓄冷器では、特定の粒状蓄冷材を一定以上収容する際に、その粒状蓄冷材による特定の温度領域の蓄冷効率を向上しようとして粒状蓄冷材の平均粒径を小さくすると、かえって蓄冷効率が低下することが明らかになった。これは、従来例に係る蓄冷器では、特定の粒状蓄冷材の平均粒径を小さくした場合に、第1の筒体9の軸方向垂直断面の全ての領域において平均粒径の小さい粒状蓄冷材が密に充填されることになり、この結果、第1の筒体9内における高圧ガス(熱交換ガス)の流動性が低下すると考えられる。この場合、平均粒径の小さい粒状蓄冷材の相対的な容積が小さければ、第1の筒体9内における高圧ガスの流動性が大幅に妨げられることはないが、平均粒径の小さい粒状蓄冷材の相対的な容積が大きくなるにつれ第1の筒体9内における高圧ガスの流動性の低下が顕著になると考えられる。
【0036】
他方、第2の筒体10中に平均粒径が0.25mmのGOS粒16を収容した実施例1Aに係る蓄冷器と、第2の筒体10中に平均粒径が0.1mmのGOS粒16を収容した実施例1Bとでは、蓄冷能力に差はほとんど認められなかった。
この結果から、実施例1に係る蓄冷器100Aのように、例えば2種類の粒状蓄冷材を第1の筒体9の軸方向に分離して収容した場合、いずれか一方の粒状蓄冷材の平均粒径を小さくして密に充填した場合でも、第1の筒体9内における高圧ガスの流動性の低下を抑制することができる。
従って、粒状蓄冷材の平均粒径を小さくすることにより生じる蓄冷効率の低下というデメリットが生じるのを抑制することができる。
【0037】
さらに、実施例1Aに係る蓄冷器と実施例1Cに係る蓄冷器とでは、第1の筒体9内におけるHoCu
2粒15とGOS粒16の配置を置き換えた点のみが異なっているが、HoCu
2粒15を第2の筒体10の外に配置した実施例1Aに係る蓄冷器の方が冷凍能力が高かった。
この結果から、同じ種類の粒状蓄冷材を用いた場合でも、第1の筒体9内における粒状蓄冷材配置が変わることで、蓄冷器の冷凍能力に差が出ることが明らかになった。
このことは、既存の粒状蓄冷材の組み合わせからなる蓄冷器であっても、粒状蓄冷材の配置を変えるだけで蓄冷効率が改善される可能性があり、結果的に、蓄冷器の冷凍能力を向上できる可能性があることを示唆している。
【0038】
最後に、比較例5に係る蓄冷器と、実施例1A,1Bに係る蓄冷器の冷凍能力を比較すると、HoCu
2粒15中に第2の筒体10を用いてGOS粒16を収容した場合には、GOS粒16の平均粒径が0.25mmの場合でも,0.1mmの場合でも、優劣なく比較例5に係る蓄冷器の冷凍能力に近づけることができた。
従って、実施例1に係る蓄冷器100Aによれば、従来の粒状蓄冷材を用いながら、その配置を変えるだけでより高い冷凍能力を有する蓄冷器を提供することができることが確認された。
よって、実施例1に係る蓄冷器100Aによれば、第1の筒体9内における複数種類の粒状蓄冷材の配置の自由度を高めることができ、これにより、より冷凍能力の高い蓄冷器を提供できる可能性があることが示された。
そして、この場合、特定の粒状蓄冷材の平均粒径を小さくした場合でも、蓄冷器の冷凍能力は低下しないので、蓄冷材の平均粒径の変更を容易にすることができる。これにより、複数種類の粒状蓄冷材を用いて蓄冷器を構成する際の、第1の筒体9内における粒状蓄冷材の配置の自由度のみならず、粒状蓄冷材の平均粒径の設定の自由度も高めることができることが示された。
【0039】
ここで、実施例1に係る蓄冷器100AのHoCu
2粒15内におけるGOS粒16の配置の他の例について
図7を参照しながら説明する。
図7(a)〜(e)はいずれも本発明の実施例1に係る蓄冷器の内部におけるHoCu
2粒とGOS粒の配置の他の例を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図6に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。また、
図7では、
図1(b)におけるGOS粒16が収容されるHoCu
2粒15の収容部分のみを示している。
先の
図1では、実施例1に係る蓄冷器100Aの一例として、第1の筒体9内の低温端側(
図1中の符号Qで示す側)に配置されるHoCu
2粒15収容領域の軸上で,かつ,この軸の全域にGOS粒16が配置される場合を例に挙げて説明したが、
図7(a)に示すように、HoCu
2粒15の収容領域における低温端側(
図7中の符号Qで示す側)にのみGOS粒16を収容してもよい。あるいは、特に図示しないが、HoCu
2粒15の収容領域における高温端側(
図7中の符号Pで示す側)にのみGOS粒16を収容してもよい。また、
図7(b)に示すように、HoCu
2粒15の収容領域における軸方向の中央部にGOS粒16を収容してもよい。
また、
図1及び
図7(a),(b)では、HoCu
2粒15中にGOS粒16からなる棒状の塊を1つのみ収容する場合を例に挙げて説明したが、HoCu
2粒15中に収容するGOS粒16からなる棒状の塊は2つ以上でもよい。
より具体的には、
図7(c)に示すように、HoCu
2粒15中に第1の筒体9の軸方向と平行にGOS粒16からなる棒状の塊を3つ収容してもよい。また、この場合、
図7(d),(e)に示すように、GOS粒16からなる棒状の塊は、HoCu
2粒15が収容される領域の軸方向の全域でなく一部にのみ配置されてもよい。より具体的には、HoCu
2粒15が収容される領域の高温端側又は低温端側にのみGOS粒16からなる棒状の塊を複数収容してもよいし、HoCu
2粒15が収容される領域の中ほどにGOS粒16からなる棒状の塊を複数収容してもよい。
【実施例2】
【0040】
本発明の実施例2に係る蓄冷器について
図8乃至11を参照しながら説明する。
先の実施例1に係る蓄冷器100Aでは、第1の筒体9内に複数種類の粒状蓄冷材を収容する際に、粒状蓄冷材同士の配置を変えるだけで蓄冷器100Aの冷凍能力の向上に成功した。
本願発明に係る技術内容は、粒状蓄冷材としてPb粒14と,HoCu
2粒15と、GOS粒16とからなる蓄冷器に対してだけ適用できるものではなく、粒状に成形可能な蓄冷材を複数種類収容してなる全ての蓄冷器に適用可能な技術である。
この実施例2では、本願発明の技術思想を利用した新たな蓄冷器の構成の一例について説明する。
図8(a)は本発明の実施例2に係る蓄冷器の内部における粒状蓄冷材集合体の外形を示す概念図であり、(b)〜(d)はいずれも本発明の実施例2に係る蓄冷器の内部における粒状蓄冷材の配置例を示す断面図である。
図9乃至11の(a)〜(c)はいずれも本発明の実施例2に係る蓄冷器の内部における粒状蓄冷材の配置例を示す断面図である。なお、
図1乃至
図7に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
また、実施例2では粒状蓄冷材を構成する材質を特定する必要がないので、任意の粒状蓄冷材として仮に第1の粒状蓄冷材20,第2の粒状蓄冷材21,第3の粒状蓄冷材22を使用して蓄冷器を構成する場合を例に挙げて説明するが、実施例2に係る蓄冷器において第1の筒体9内に収容される粒状蓄冷材の種類は3種類以上でもよい。
【0041】
図8(a)に示すように、実施例2に係る蓄冷器の第1の筒体9内に収容される,複数種類の粒状蓄冷材からなる粒状蓄冷材集合体19は円柱状である。なお、第1の筒体9の中空部は必ずしも円柱である必要はないが、第1の筒体9内における高圧ガスの流動が妨げられないよう、粒状蓄冷材集合体19の任意の位置における軸方向垂直断面の面積は一定であることが望ましい。
実施例2に係る蓄冷器では、例えば、
図8(b)に示すように、第1の筒体9の軸方向垂直断面において中心から外縁に向かう方向に同心円状の層をなすように3種類の粒状蓄冷材(第1の粒状蓄冷材20,第2の粒状蓄冷材21,第3の粒状蓄冷材22)を配置してもよい。この場合の第2の粒状蓄冷材21,第3の粒状蓄冷材22の具体的な収容方法としては、例えば、第1の筒体9内に直系の異なる2つの第2の筒体10を,軸方向を一致させながら収容させ,それぞれの筒体の中空部又は筒体同士の隙間に粒状蓄冷材を充填すればよい。
また、実施例2に係る蓄冷器では、
図8(c),(d)に示すように、
図8(b)に示す粒状蓄冷材集合体19の軸方向断面において中央に配置される第3の粒状蓄冷材22を、第1の筒体9の低温端側(又は低温端側)にのみ配置してもよいし、第1の筒体9の軸方向の中央部にのみ配置してもよい。
図8では、第3の粒状蓄冷材22を、第1の筒体9の低温端側に配置する場合を図に示している。
【0042】
実施例2に係る蓄冷器では、例えば、
図9(a)に示すように、第1の筒体9の軸方向垂直断面において同心円状に3層が形成される領域を、第1の筒体9の軸方向の一部にのみ、例えば、第1の筒体9の低温端側(又は高温端側)にのみ形成してもよい。
図9では、第1の筒体9の軸方向垂直断面において同心円状に3層が形成される領域が、第1の筒体9の低温端側に配置される場合を図示している。
この場合、例えば、
図9(b),(c)に示すように第3の粒状蓄冷材22からなる棒状の塊を、第2の粒状蓄冷材21が配置される領域の軸方向の一部にのみ(例えば、軸方向の中央にのみ,あるいは,軸方向の低温端側(又は高温端側)にのみ配置してもよい。なお、
図9では、第2の粒状蓄冷材21内における第3の粒状蓄冷材22からなる棒状の塊が、第1の筒体9の低温端側にのみ配置される場合(
図9(c)を参照)を図示している。
【0043】
実施例2に係る蓄冷器では、例えば、
図10(a)に示すように、第1の筒体9の軸方向垂直断面において同心円状に3層が形成される領域を、第1の筒体9の軸方向の中央にのみ形成してもよい。
この場合、例えば、
図10(b),(c)に示すように第3の粒状蓄冷材22からなる棒状の塊を、第2の粒状蓄冷材21が配置される領域の軸方向の一部にのみ(例えば、軸方向の高温端側(又は低温端側)にのみ,あるいは,軸方向の中央にのみ配置してもよい。なお、
図10では、第2の粒状蓄冷材21内における第3の粒状蓄冷材22からなる棒状の塊が、第1の筒体9の高温端側にのみ配置される場合(
図10(b)を参照)を図示している。
【0044】
また、実施例2に係る蓄冷器では、例えば、
図11(a),(b)に示すように、第1の筒体9の軸方向垂直断面において同心円状に3層が形成される領域と,同心円状に2層が形成される領域を、第1の筒体9の軸方向において直列に併設してもよい。
この場合、3層が形成される領域を、第1の筒体9の軸方向の低温端側(又は高温端側のみに配置してもよいし、第1の筒体9の軸方向の中央にのみ配置してもよい。なお、
図11では、3層が形成される領域を、第1の筒体9の軸方向の低温端側に配置される場合を示している。
【0045】
なお、実施例2に係る蓄冷器における粒状蓄冷材の配置例として、
図8乃至11では、第3の粒状蓄冷材22からなる棒状の塊を,第2の粒状蓄冷材21の内部に1つのみ収容する場合を例に挙げて説明しているが、第3の粒状蓄冷材22からなる棒状の塊を第2の粒状蓄冷材21中に2つ以上収容してもよい。
また、特に図示しないが、実施例2に係る蓄冷器における粒状蓄冷材の配置の他の例として、
図8乃至11に示される粒状蓄冷材集合体19における第1の粒状蓄冷材20,第2の粒状蓄冷材21,第3の粒状蓄冷材22のそれぞれを、第1の筒体9の軸方向に複数種類の粒状蓄冷材を積層してなる粒状蓄冷材の集合体により構成してもよい。
さらに、実施例2に係る蓄冷器においては、第1の筒体9の軸方向垂直断面に配置される粒状蓄冷材が少なくとも2種類ある場合、その内の少なくとも1種類の粒状蓄冷材の平均粒径を小さくしてもよい。この場合、第1の筒体9の軸方向垂直断面の全てに平均粒径の小さい粒状蓄冷材が充填されることがないので、第1の筒体9内における高圧ガスの流動性を大幅に低下させる恐れを小さくできる。これにより、第1の筒体9内に収容される特定の粒状蓄冷材の充填密度を上げて、その粒状蓄冷材による蓄冷効率を向上させることができる。
【0046】
従って、第1の筒体9の軸方向垂直断面に複数種類の粒状蓄冷材を分離した状態で配置するという本願発明に係る技術内容に、第1の筒体9の軸方向断面に複数種類の粒状蓄冷材を積層させた状態で収容するという従来の技術内容を組み合わせることにより、これまでにない新規な粒状蓄冷材の配置を実現することができる。
この結果、従来公知の粒状蓄冷材をそのまま用いながら、第1の筒体9内における配置を変更することで、蓄冷器の冷凍能力を大幅に向上でき可能性がある。
なお、筒体9の軸方向断面に複数の粒状蓄冷材を積層してなる従来の蓄冷器において、少なくとも1つの層を構成する粒状蓄冷材中に、実施例2に示すような複数種類の粒状蓄冷材からなる配置構造を配設してもよい。