(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
レーザ光を利用することによって加工、測定、核融合等を実施するレーザ照射器には、複数のレーザ光を高分解能かつ高精度で対象物に照射する性能等が要求される場合がある。例えば、特許文献1には、フェムト秒単位の時間差でレーザ光を照射可能とするような分解能を有するレーザ照射器が開示されている。また、核融合においては、特に、このような性能を要求されることが多くなっている。
【0003】
核融合については、発電等に用いられるエネルギーの生成に関して化石燃料に依存しない技術として、開発が進められている。このような核融合技術では、高温かつ高圧のプラズマを発生させ、発生したプラズマを一箇所に留めている間に核融合反応を誘起している。核融合の方式の一つとして、高温かつ高圧のプラズマを一箇所に留めるために、プラズマ自体の慣性を利用する方式が存在する。このような方式は「慣性閉じ込め方式」と呼ばれている。
【0004】
慣性閉じ込め方式の核融合の一つでは、「ターゲット」と呼ばれる(又は、「ペレット」若しくは「ホーラム」と呼ばれる)部材に、高強度のレーザ光を照射することによって、爆縮(圧縮)を生じさせて、この爆縮によって高密度(すなわち、高温かつ高圧)のプラズマを生成して、このプラズマがターゲット内の一箇所に留まっている間に核融合反応を誘起している。このような核融合は「レーザ核融合」と呼ばれている。
【0005】
レーザ核融合に用いられるターゲットは、一般的に円筒形状又は球形状に形成されており、このようなターゲットの外周には表面層が設けられている。この表面層の外周表面に複数のレーザ光を均一に照射することによって、ターゲットを急激に加熱、爆発、及び放射化して、その結果、ターゲットの内部が、その固体密度に対して約100倍〜10000倍に爆縮されることとなる。
【0006】
このようなレーザ核融合の一例が、特許文献2に開示されている。特許文献2では、高強度のレーザ光を用いて高エネルギー粒子を発生させ、高エネルギー粒子をターゲットに照射し、ターゲットにて核融合反応を誘起している。
【0007】
また近年、レーザ核融合については、超高強度かつ超短パルスのレーザ光(ペタワットレーザ光)を利用した方式が開発されている。この方式は「高速点火方式」と呼ばれている。
【0008】
このような高速点火方式のレーザ核融合の一例が、特許文献3に開示されている。特許文献3では、ターゲットに、中空の球形状に形成された主燃料部が設けられており、さらに、ターゲットには、中空の円錐形状に形成された点火用燃料部が設けられている。点火用燃料部の先細りした先端と、先端に対向する基端とのそれぞれには、開口が形成されている。この点火用燃料部が、その先端を主燃料部に挿入し、かつ主燃料部の中心に接近した状態で、主燃料部に取付けられている。主燃料部には、その中空部分の周囲に核融合燃料層が設けられ、さらに、この核融合燃料層の外周表面上に第1アブレータ層が設けられている。点火用燃料部の基端の開口を塞ぐように点火用燃料層が設けられ、かつ点火用燃料層の外周表面上に第2アブレータ層が設けられている。このようなターゲットにおいて、主燃料部の外周表面にペタワットレーザ光を照射することによって主燃料層を圧縮しており、さらに、点火用燃料部の基端の開口に別のペタワットレーザ光を照射することによって、点火用燃料層を、加速するとともに圧縮された主燃料層に衝突させている。その結果、エネルギーが生成されることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のレーザ照射器は、複数のレーザ光を、さらに短いフェムト秒〜ピコ秒単位の時間差を有するように、高分解能かつ高精度で照射することはできない。特に、レーザ核融合で用いられるようなフェムト秒〜ピコ秒単位の高速で移動する複数のレーザ光同士を、高分解能かつ高精度で照射可能とするレーザ照射器は、従来存在していなかった。
【0011】
また、レーザ核融合についても、特許文献2及び特許文献3に示されるような従来の技術では、発電のように多くのエネルギーを連続的に供給する必要性に応じて、効率的にエネルギーを生成することが達成できていない。また、レーザ核融合では、密度の異なる流体間の境界に生じる凹凸によって発生する擾乱に起因して、流体の運動が不安定となる現象が発生する。このような現象は「レイリー・テイラーの不安定性」と呼ばれている。このような「レイリー・テイラーの不安定性」の影響のために、従来のレーザ核融合技術では、ターゲットの内部を効率的かつ均一に断熱かつ圧縮することが難しくなっており、このことを克服することが大きな課題となっている。そこで、このような課題を避けて、従来のレーザ核融合の手法とは異なる新たなレーザ核融合の手法を提案することもまた望まれている。
【0012】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、複数のレーザ光を高分解能かつ高精度で
ターゲットに照射可能とする性能を有するサイドレーザ照射器を提供し、さらには、このような性能に基づいて、効率的にエネルギーを生成可能とすべく提案される新たなレーザ核融合に用いられるサイドレーザ照射器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
課題を解決するために、本発明のサイドレーザ照射器は、
レーザ核融合に用いられると共に核融合のための反応物質を有する長尺形状の
ターゲットの側方からレーザ光を照射する
サイドレーザ照射機構を備えるサイドレーザ照射器において、
前記サイドレーザ照射機構が、供給されるレーザ光の断面における幅方向の長さを拡大
するように構成されるパルス幅増幅部と、前記拡大されたレーザ光を前記幅方向に分割し、
かつ該分割されたレーザ光のそれぞれを屈折させることによって前記分割されたレーザ光同士の間に光路差をもたら
すように構成される分割及び屈折部と、前記屈折されたレーザ光の
それぞれを前記幅方向の長さを縮小するように構成され
る縮小部とを有し、前記サイドレーザ照射機構が、複数の前記縮小されたレーザ光を前記
ターゲットの側方から照射する
ように配置されている。
【0015】
本発明のサイドレーザ照射器では、
前記サイドレーザ照射機構が、互いに時間差を有する複数のパルスを含んだパルスレーザ光から
レーザ光をパルス毎に取り出す
ように構成されるサイドレーザ取り出し部であって、該取り出したレーザ光を、前記サイドレーザ照射機構に供給するように構成されるサイドレーザ取り出し部をさらに有している。
【0016】
本発明のサイドレーザ照射器は、前記パルスレーザ
光の複数のパルス中で1番目のパルス
のレーザ光を取り出すように構成されるレーザ取り出し部であって、該取り出したレーザ光を、前記ターゲット
の反応物質に送られるイオンを生成する
ためにサブターゲットに照射するように構成されるレーザ取り出し部をさらに備え、前記サイドレーザ取り出し部にて取り出したレーザ光が、前記パルスレーザ
光の複数のパルス中で2番目以降のパルス
のレーザ光となっている。
【0017】
本発明のサイドレーザ照射器では、前記サイドレーザ照射機構が、前記縮小されたレーザ光の断面で前記幅方向に直交する厚さ方向を前記対象物の長手方向に対して直交させるように所定の角度で回転させる回転部をさらに有し、前記回転部によって回転されたレーザ光が前記対象物の側方から照射されるように構成されている。
【0018】
本発明のサイドレーザ照射器では、前記所定の角度が90度となっている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明のサイドレーザ照射器は、
レーザ核融合に用いられると共に核融合のための反応物質を有する長尺形状の
ターゲットの側方からレーザ光を照射する
サイドレーザ照射機構を備えるサイドレーザ照射器において、
前記サイドレーザ照射機構が、供給されるレーザ光の断面における幅方向の長さを拡大
するように構成されるパルス幅増幅部と、前記拡大されたレーザ光を前記幅方向に分割し、
かつ該分割されたレーザ光のそれぞれを屈折させることによって前記分割されたレーザ光同士の間に光路差をもたら
すように構成される分割及び屈折部と、前記屈折されたレーザ光の
それぞれを前記幅方向の長さを縮小するように構成され
る縮小部とを有し、前記サイドレーザ照射機構が、複数の前記縮小されたレーザ光を前記
ターゲットの側方から照射する
ように配置されている。
そのため、レーザ光の幅方向の長さを拡大することによって、レーザ光が幅方向に容易に分割され、さらに、この分割されたレーザ光同士の間に光路差がもたらされるので、分割された状態のレーザ光のそれぞれを、フェムト秒〜ピコ秒単位の時間差を有するように、高分解能、かつ高精度で前記
ターゲットの側方から照射できる。
【0020】
かかるサイドレーザ照射器について、前記ターゲットにおける長手方向の一端から核融合燃料のイオンを注入することによって、前記ターゲットの一端から前記他端に向かって前記ターゲットの反応物質に送られる前記イオンに同期するように、前記複数の縮小されたレーザ光を順次照射する
場合には、前記ターゲットの側方からのレーザ光によって前記ターゲットの反応物質にはさらなるイオンが加えられ、さらに、前記ターゲットの反応物質では、前記レーザ光の照射によって電子が移動する一方でイオンが残されることとなる。その結果、前記ターゲットの反応物質に電場が形成されること等によって、イオンが加速されることとなり、核融合反応が、前記ターゲットの一端側の反応物質部分から他端側の反応物質部分に向かって増幅するとともに連続して発生することとなる。
また、このような核融合においては、従来のレーザ核融合とは異なり、ターゲット内にてイオンを効率的に生成かつ均一な方向に加速させることが重要となる。特に、前記ターゲットが平面状の複数の反応物質部分を有する場合、前記ターゲットの反応物質部分にてイオンを加速させる電場等の方向は、反応物質部分の平面に対して垂直になる傾向がある。そこで、イオンの加速方向に一致するターゲットの長手方向に対して、複数の反応物質部分の平面を垂直に配置すれば、反応物質部分にて電場等により加速されたイオンが、前記ターゲットの他端側で隣接する反応物質部分に効率的に送られることとなる。従って、ターゲットの内部を効率的かつ均一に断熱かつ圧縮するという従来のレーザ核融合の課題を避けて、前記ターゲット内にてイオンを効率的に生成かつ均一な方向に加速させることによって、効率的にエネルギーを生成できる。
このようなレーザ核融合に用いられる本発明のサイドレーザ照射器では、レーザ光の幅方向の長さを拡大することによって、レーザ光が幅方向に容易に分割され、さらに、この分割されたレーザ光同士の間に光路差がもたらされるので、分割された状態のレーザ光のそれぞれを、時間差で前記ターゲットに容易に照射できる。そのため、前記ターゲットの一端から他端に向かうイオンの移動に同期するように、前記ターゲットの側方からレーザ光を連続的に照射することが確実にでき、効率的に核融合反応を発生させることができる。
【0021】
本発明のサイドレーザ照射器では、
前記サイドレーザ照射機構が、互いに時間差を有する複数のパルスを含んだパルスレーザ光から
レーザ光をパルス毎に取り出す
ように構成されるサイドレーザ取り出し部であって、該取り出したレーザ光を、前記サイドレーザ照射機構に供給するように構成されるサイドレーザ取り出し部をさらに有しているので、前記ターゲットの一端から他端に向かうイオンの移動に対してパルスの時間差を利用して正確に同期するように、前記ターゲットの側方からレーザ光をさらに連続的に照射することができ、効率的に核融合反応を発生させることができる。
【0022】
本発明のサイドレーザ照射器は、前記パルスレーザ
光の複数のパルス中で1番目のパルス
のレーザ光を取り出すように構成されるレーザ取り出し部であって、該取り出したレーザ光を、前記ターゲット
の反応物質に送られるイオンを生成する
ためにサブターゲットに照射するように構成されるレーザ取り出し部をさらに備え、前記サイドレーザ取り出し部にて取り出したレーザ光が、前記パルスレーザ
光の複数のパルス中で2番目以降のパルス
のレーザ光となっているので、前記ターゲットの一端から他端に向かうイオンの注入タイミング及びこのようなイオンの移動にさらに正確に同期するように、前記ターゲットの側方からのレーザ光を連続的に照射することができ、さらには、効率的に核融合反応を発生させることができる。
【0023】
本発明のサイドレーザ照射器では、
前記サイドレーザ照射機構が、前記縮小されたレーザ光の断面で前記幅方向に直交する厚さ方向を前記対象物の長手方向に対して直交させるように所定の角度で回転させる回転部をさらに有し、前記回転部によって回転されたレーザ光が前記対象物の側方から照射されるように構成されている。
また、前記所定の角度が90度となっている。
そのため、分割された状態のレーザ光のそれぞれを、さらに高分解能、かつ高精度で前記対象物の側方から照射できる。特に、前記ターゲットの一端から他端に向かうイオンの移動方向に沿って、分割されたレーザ光が時間差で正確に照射されて、前記ターゲットの側方からのレーザ光を、イオンの移動に対してさらに正確に同期させることができ、さらに効率的に核融合反応を発生させることができる。また、前記回転部により回転される前のレーザ光については、拡大される幅方向が前記ターゲットの長手方向に直交するので、このような複数のレーザ光の照射に用いられる複数の機構を互いに接近して配置できる。よって、サイドレーザ照射器が小型化可能となり、さらには、効率的に核融合反応を発生させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係るサイドレーザ照射器を有するレーザ核融合装置について説明する。
図1を参照すると、レーザ核融合装置1は、長尺形状のターゲット2を備えている。レーザ核融合装置1はサブターゲット3を有しており、このサブターゲット3は、イオンの束であるイオンバンチBを、ターゲット2の長手方向の一端(以下、「入射端」という)2aに送ることができるように構成されている。このイオンバンチBのイオン(以下、「シードイオン」という)は、レーザ照射器4から照射されるパルスレーザ光Lをサブターゲット3に照射することによって生成される。レーザ核融合装置1は第1のサイドレーザ照射器5、及び第2のサイドレーザ照射器6を有しており、第1のサイドレーザ照射器5、及び第2のサイドレーザ照射器6は、それぞれパルスレーザ光M,Nをターゲット2の側方から照射可能とするように構成されている。レーザ核融合装置1は発電器7を有しており、この発電器7は、ターゲット2の入射端2aに対向する他端(以下、「出射端」という)2bから供給されるエネルギーを電力に変換可能とするように構成されている。レーザ核融合装置1は電圧印加器8を有しており、この電圧印加器8はターゲット2に接続されている。レーザ核融合装置1は、内部を真空にできる真空容器9を備えている。この真空容器9の内部に、ターゲット2と、サブターゲット3と、発電機7とが配置されている。レーザ照射器4と、第1のサイドレーザ照射器5と、第2のサイドレーザ照射器6と、電圧印加器8とは、制御器10に接続されている。制御器10は、レーザ照射器4と、第1のサイドレーザ照射器5と、第2のサイドレーザ照射器6と、電圧印加器8とを制御可能に構成されている。
【0026】
図2を参照すると、レーザ核融合装置1はレーザ発振器11を有しており、このレーザ発振器11は、パルスレーザ光Pを第1のサイドレーザ照射器5と、第2のサイドレーザ照射器6とに供給可能とするように構成されている。さらに、レーザ核融合装置1はパルス電圧発生器12を有している。なお、特に図示しないが、レーザ発振器11及びパルス電圧発生器12もまた、制御器10に接続されている。
【0027】
ターゲット2について、
図1〜
図3を参照して説明する。
図2を参照すると、ターゲット2は複数の反応部21を有しており、これらの反応部21は、核融合燃料となる反応物質により構成されている。核融合がDT反応系である場合、反応部21の反応物質は重水素、三重水素、又は重水素及び/若しくは三重水素を構成元素として含む炭化水素の分子若しくは高分子(例えば、CxDy、CxTy)等であるとよく、核融合がpB反応系である場合、反応部21の反応物質は固体のデカボラン(B
10H
14)となっているとよい。このような複数の反応部21は、ターゲット2の長手方向に並んで配置されている。
図3を参照すると、ターゲット2の長手方向の中間部2cより入射端2a側の領域(以下、「入射側領域」という)2dでは、ターゲット2の長手方向に直交する各反応部21の横断面の面積が、互いに等しくなっている。一方で、ターゲット2の中間部2cより出射端2b側の領域(以下、「出射側領域」という)2eでは、ターゲット2の長手方向に直交する各反応部21の横断面の面積が、ターゲット2の中間部2cから出射端2bに向かうに連れて増加している。また、特に図示はしないが、各反応部21には、電圧印加器8によって別々に電圧が印加されるように構成されている。このような電圧の印加によって、各反応部21には電界が発生することとなり、この電界によって、正の電荷を有するシードイオンに対して、反応部21の外周から中心に向かう力が作用することとなる。さらに、
図1に示すように、ターゲット2の入射側領域2dには、第1のサイドレーザ照射器5からのパルスレーザ光Mと、第2のサイドレーザ照射器6からのパルスレーザ光Nとが照射される。
【0028】
サブターゲット3について、
図1及び
図2を参照して説明する。
ターゲット2の入射端2a側に配置されたサブターゲット3は、ターゲット2と同じ種類の反応物質から構成されている。また、サブターゲット3は、略半球面薄膜状に形成されており、ターゲット2の出射端2bから入射端2aに向かう方向に突出するように湾曲している。また、特に図示はしないが、サブターゲット3は、ターゲット2の横断面中心を通ってターゲット2の入射端2aから出射端2bに向かって長手方向に延びる中心軸2f上に配置されている。
【0029】
レーザ照射器4、第1のサイドレーザ照射器5、第2のサイドレーザ照射器6、レーザ発振器11、及びパルス電圧発生器12について、
図1、
図2、及び
図4〜
図6を参照して説明する。
図2を参照すると、レーザ照射器4はポッケルスセル41を有しており、ポッケルスセル41は、レーザ発振器11により供給されるパルスレーザ光Pから、1つのパルスを含むパルスレーザ光L1を取り出すレーザ取り出し部として構成されている。
図4(a)を参照すると、レーザ発振器11から供給されるパルスレーザ光Pは、周期T1(周波数f1)で励起された複数のパルスを含んでいる。一例として、パルスレーザ光Pは、TW(テラワット)単位の出力レベルを有するピコ秒レーザ光又はフェムト秒レーザ光であると好ましい。再び
図2を参照すると、レーザ照射器4はパルスストレッチャ42を有しており、パルスストレッチャ42は、ポッケルスセル41により取り出されたパルスレーザ光L1のパルス幅を増幅するパルス幅増幅部として構成されている。レーザ照射器4はアンプ43を有しており、このアンプ43は、パルスストレッチャ42によりパルス幅を増幅したパルスレーザ光L2の強度を増幅させるレーザ増幅部として構成されている。レーザ照射器4はパルスコンプレッサ44を有しており、このパルスコンプレッサ44は、アンプ43により強度を増幅させたパルスレーザ光L3のパルス幅を圧縮するパルス幅圧縮部として構成されている。レーザ照射器4は集光ミラー45を有しており、この集光ミラー45は、パルスコンプレッサ44によりパルス幅を縮小したパルスレーザ光L4を集光する集光部として構成されている。このような集光ミラー45により集光されたパルスレーザ光Lが、サブターゲット3に照射されることとなる。
【0030】
図2を参照すると、第1のサイドレーザ照射器5は、複数のサイドレーザ照射機構50を有している。サイドレーザ照射機構50は、それぞれターゲット2の複数の反応部21にパルスレーザ光を照射可能とするように、ターゲット2の長手方向に並んで配置されている。なお、本発明の実施形態では、25個のサイドレーザ照射機構50が設けられており、特に、
図2では、25個のサイドレーザ照射機構50の内でターゲット2の出射端2aから1番目、2番目、及び25番目に配置された3個のサイドレーザ照射機構50が示されている。なお、第2のサイドレーザ照射器6は第1のサイドレーザ照射器5と同様に構成されているので、第2のサイドレーザ照射器6に関する説明は省略する。
【0031】
図2を参照すると、サイドレーザ照射機構50はポッケルスセル51を有しており、このポッケルスセル51は、レーザ発振器11により供給されるパルスレーザ光Pから、1つのパルスを含むパルスレーザ光M1(
図4(b)を参照)を取り出すサイドレーザ取り出し部として構成されている。このポッケルスセル51には電圧増幅器51aが設けられている。各電圧増幅器51aは、パルス電圧発生器12に接続されている。パルス電圧発生器12は、周期T2(周波数f2)で励起された複数の矩形パルスを含む矩形パルス波(
図5を参照)に基づいて、電圧を発生させることができるように構成されている。サイドレーザ照射機構50は調整領域50aを有しており、この調整領域50aは、ポッケルスセル51により取り出されたパルスレーザ光M1を、ターゲット2に照射するために調整する構成となっている。
【0032】
調整領域50aの詳細について、
図6、
図7、及び
図8(a)〜
図8(d)を参照して説明する。
図6を参照すると、調整領域50aはパルスストレッチャ52を有しており、このパルスストレッチャ52は、ポッケルスセル51により取り出されたパルスレーザ光M1のパルス幅を増幅するパルス幅増幅部として構成されている。調整領域50aはアンプ53を有しており、このアンプ53は、パルスストレッチャ52によりパルス幅を増幅したパルスレーザ光M2の強度を増幅させるレーザ増幅部として構成されている。調整領域50aはエキスパンダ54を有しており、このエキスパンダ54は、アンプ53により強度を増幅させたパルスレーザ光M3の断面一方向(以下、「幅方向」という)の幅w1(
図8(a)を参照)を拡大する拡大部として構成されている。調整領域50aはミラーパスランパ55を有している。
図7を参照すると、ミラーパスランパ55は、エキスパンダ54により幅を増加されたパルスレーザ光M4を幅方向にi分割(i=2,3,・・・)し、かつ分割されたパルスレーザ光同士の間に屈折させることによって光路差D(=1/2D×2)をもたらす分割及び屈折部として構成されている。
【0033】
再び
図6を参照すると、調整領域50aは縮小モジュール56を有しており、この縮小モジュール56は、ミラーパスランパ55により分割かつ屈折された複数のパルスレーザ光m5(以下、「分割レーザ光」という)を有するパルスレーザ光M5について、その幅w2(
図8(b)を参照)を縮小する縮小部として構成されている。調整領域50aは回転モジュール57を有しており、この回転モジュール57は、縮小モジュール56により縮小された複数の分割レーザ光m6を有するパルスレーザ光M6について、その幅方向に直交する断面の厚さ方向を、ターゲット2の長手方向に対して角度z1で回転させる回転部として構成されている。一例として、角度z1は、パルスレーザ光M6の厚さ方向をターゲット2に直交させるように設定されるとよく、詳細には、角度z1は90度であると好ましい。調整領域50aはパルスコンプレッサ58を有しており、このパルスコンプレッサ58は、回転モジュール57により回転した複数の分割レーザ光m7を有するパルスレーザ光M7について、そのパルス幅を縮小するパルス幅圧縮部として構成されている。調整領域50aは集光ミラー59を有しており、この集光ミラー59は、パルスコンプレッサ58によりパルス幅を増幅した複数の分割レーザ光m8を有するパルスレーザ光M8を集光する集光部として構成されている。このような集光ミラー59により集光されたパルスレーザ光Mが、ターゲット2に照射されることとなる。
【0034】
ここで、ミラーパスランパ55の詳細な構成について、
図7を参照して説明する。
ミラーパスランパ55は複数のミラーを有している。
図7では、一例として、ミラーパスランパ55が4つのミラー55a,55b,55c,55dを有している場合について説明する。4つのミラー55a〜55dは等間隔に配置されており、ミラー55a〜55dの反射面は同一方向を向き、かつ互いに平行となっている。ミラー55a〜55dの反射面は、入射されるパルスレーザ光M4に対して角度z2とするように配置されている。このようなミラーパスランパ55に入射したパルスレーザ光M4は、ミラー55a〜55dによって、4つの分割レーザ光m5に分割されるとともに角度2×z2で屈折することとなる。
【0035】
発電器7について、
図1を参照して説明する。
ターゲット2の出射端2a側に配置された発電器7は、ターゲット2の中心軸2f上に配置されている。発電器7は、ターゲット2の出射端2bから供給されるイオンバンチBのエネルギーを電力に変換可能とするように構成されている。
【0036】
電圧印加器8について、
図1を参照して説明する。
電圧印加器8は、ターゲット2に接続されており、ターゲット2の各反応部21に別々に電圧を印加できる。そのため、各反応部21に別々に電界が生じることとなる。
【0037】
制御器10について、
図1を参照して説明する。
制御器10は、レーザ照射器4によるパルスレーザ光Lの照射と、第1のサイドレーザ照射器5による分割レーザ光mを含むパルスレーザ光Mの照射と、第2のサイドレーザ照射器6によるパルスレーザ光Nの照射と、電圧印加器8によるターゲット2の反応部21への電圧印加とを同期させるような制御が可能となっている。
【0038】
本発明の実施形態のレーザ核融合装置1におけるレーザ核融合の動作について、
図1を参照して説明する。なお、レーザ照射器4、第1のサイドレーザ照射器5、第2のサイドレーザ照射器6、レーザ発振器11、及びパルス電圧発生器12の詳細な動作については後述する。
制御器10の制御によって、レーザ照射器4からのパルスレーザ光Lをサブターゲット3に照射して、サブターゲット3によってシードイオンを生成する。生成されたシードイオンの束であるイオンバンチBが、ターゲット2の入射端2aに送られる。入射端2aに送られたイオンバンチBは、ターゲット2の入射端2aから出射端2bに向かって順次各反応部21に送られる。シードイオンのイオンバンチBが反応部21に到達する前に、制御器10の制御によって、この反応部21に第1のサイドレーザ照射器5からのパルスレーザ光Mを照射し、さらに、イオンバンチBが反応部21に到達すると同時に、制御器10の制御によって、この反応部21に第2のサイドレーザ照射器6からのパルスレーザ光Nを照射し、かつこの反応部21に電圧印加器8により電圧を印加する。このような第1のサイドレーザ照射器5からのパルスレーザ光M、及び第2のサイドレーザ照射器6からのパルスレーザ光Nを、ターゲット2の入射端2aから出射端2bに向かって順次各反応部21に照射する。また、電圧印加器8によって、ターゲット2の入射端2aから出射端2bに向かって順次反応部21に電圧を印加する。その後、ターゲット2を通過してターゲット2の出射端2bから送られるイオンバンチBのエネルギーを、発電器7によって電力に変換する。
【0039】
ここで、レーザ発振器11の詳細な動作について、
図2を参照して説明する。なお。第2サイドレーザ照射器6の詳細な動作については、第1のサイドレーザ照射器5と同様であるので、省略する。
制御器10に制御されたレーザ発振器11によって、周期t1(周波数f1)で励起された複数のパルスを含むパルスレーザ光P(
図4(a)を参照)を発振し、このパルスレーザ光Pをレーザ照射器4に供給する。その後、パルスレーザ光Pを第1のサイドレーザ照射器5に供給する。第1のサイドレーザ照射器5では、パルスレーザ光Pを、ターゲット2の入射端2aのサイドレーザ照射機構50から出射端2bのサイドレーザ照射機構50に向かって順次供給する。特に図示はしないが、第2のサイドレーザ照射器6でもまた、パルスレーザ光Pを、ターゲット2の入射端2aのサイドレーザ照射機構から出射端2bのサイドレーザ照射機構に向かって順次供給する。
【0040】
レーザ照射器4の詳細な動作について、
図2を参照して説明する。
レーザ照射器4のポッケルスセル41が、供給されたパルスレーザ光Pの複数のパルスの内1番目のパルスに相当するパルスレーザ光L1を取り出す。パルスストレッチャ42が、この取り出したパルスレーザ光L1のパルス幅を増幅する。アンプ43が、パルス幅を増幅したパルスレーザ光L2の強度を増幅する。パルスコンプレッサ44が、強度を増幅したパルスレーザ光L3のパルス幅を圧縮する。集光ミラー45が、パルス幅を圧縮したパルスレーザ光L4を集光して、集光されたパルスレーザ光L5がサブターゲット3に照射される。
【0041】
第1のサイドレーザ照射器5の詳細な動作について、
図2、
図6、及び
図7を参照して説明する。
図2を参照すると、第1のサイドレーザ照射器5における最もターゲット2の入射端2a側に配置されたサイドレーザ照射機構50において、ポッケルスセル51が、供給されたパルスレーザ光Pの複数のパルスの内2番目のパルスに相当するパルスレーザ光M1を取り出す。続けて、最もターゲット2の入射端2aを基準として2番目に配置されたサイドレーザ照射機構50において、ポッケルスセル51が、供給されたパルスレーザ光Pの複数のパルスの内3番目のパルスに相当するパルスレーザ光M1を取り出す。さらに、ターゲットの入射端2aを基準として3番目〜25番目に配置されたサイドレーザ照射機構50において、ポッケルスセル51が、それぞれ供給されたパルスレーザ光Pの複数のパルスの内4番目〜26番目のパルスを順次取り出す。
【0042】
ここで、各ポッケルスセル51にて順次パルスレーザ光M1を取り出す際には、制御器10に制御されたパルス電圧発生器12によって、周期t2(周波数f2)で励起された複数の矩形パルスを含む矩形パルス波(
図5を参照)を各ポッケルスセル51の電圧増幅器51aに印加する。各ポッケルスセル51の電圧増幅器51aでは、各ポッケルスセル51のパルスレーザ光M1を取り出すタイミングに一致する矩形パルス波の矩形パルスの電圧を増幅する。これによって、ターゲット2の入射端2aを基準として1番目〜25番目のサイドレーザ照射機構50において、ポッケルスセル51によって、供給されたパルスレーザ光Pの複数のパルスの内2番目〜26番目のパルスが順次取り出されることとなる。
【0043】
さらに、
図6〜
図8を参照して、サイドレーザ照射機構50の調整領域50aの動作について、ターゲット2の入射端2aを基準として1番目のサイドレーザ照射機構50を用いて説明する。ターゲット2の入射端2aを基準として2番目〜25番目のサイドレーザ照射機構50については、1番目のサイドレーザ照射機構50と同様の構成であるので、説明を省略する。
【0044】
図6を参照すると、パルスストレッチャ52が、取り出したパルスレーザ光M1のパルス幅を増幅する。アンプ53が、パルス幅を増幅したパルスレーザ光M2の強度を増幅する。このように強度を増幅したパルスレーザ光M3の断面は、幅w1及び厚さtとなっている(
図8(a)を参照)。エキスパンダ54が、このパルスレーザ光M3の断面の幅w1を拡大する。断面の幅を拡大したパルスレーザ光M4は、幅w2及び厚さtとなっている(
図8(b)を参照)。ミラーパスランパ55が、このパルスレーザ光M4を分割し、かつ分割された分割レーザ光m5のそれぞれに光路差Dをもたらす(
図7を参照)。縮小モジュール56が、分割レーザ光m5を含むパルスレーザ光M5の断面の幅w2を縮小する。縮小されたパルスレーザ光M6の断面は、幅w3及び厚さtとなっている(
図8(c)を参照)。なお、一例として、幅w3は厚さtより大きくなっているが、幅w3は厚さtより小さくなっていてもよい。回転モジュール57が、このパルスレーザ光M6の厚さ方向をターゲット2の長手方向に対して直交させるように、角度z1で回転させる(
図8(d)を参照)。パルスコンプレッサ58が、回転した複数の分割レーザ光m7を含むパルスレーザ光M7のパルス幅を圧縮する。集光ミラー59が、圧縮した複数の分割レーザ光m8のパルスレーザ光M8を集光する。集光された複数の分割レーザ光mを含むパルスレーザ光Mが、ターゲット2の最も入射端2a側に配置された反応部21に照射される。複数の分割レーザ光mのそれぞれは、互いに時間差をもって順次反応部21に照射されることとなる。
【0045】
このような動作によってターゲット2内で発生する核融合の作用について、
図1を参照して説明する。
サブターゲット3から送られたイオンバンチB内のシードイオンは、ターゲット2の最も出射端2a側の反応部21に到達する前に、この反応部21に第1のサイドレーザ照射器5からのパルスレーザ光Mが照射され、その結果、プラズマが発生して、反応部21におけるイオン(以下、「反応物質イオン」という)及び電子の温度が上昇する。反応物質イオンの温度が上昇することによって、反応物質の核的阻止能が低下することとなり、電子の温度が上昇することによって、反応物質の電子的阻止能が低下することとなる。そのため、シードイオンがターゲット2を通過する際に、シードイオンのエネルギーが反応物質イオン及び電子に奪われることが防止される。また、このような第1のサイドレーザ照射器5からのパルスレーザ光Mが反応部21に照射されることによって、近年研究報告されている「クラスタ粒子のクーロン爆発現象」、「薄膜形状物質の高電場シース加速」等の現象のように、反応物質イオンが加速される。
【0046】
シードイオンがターゲット2の最も出射端2a側の反応部21に到達すると同時に、この反応部21に第2のサイドレーザ照射器6からのパルスレーザ光Nを照射することによってプラズマが発生して、イオンをターゲット2の入射端2aから出射端2bに向かって加速させるレーザ光圧が生じる。このとき、第1のサイドレーザ照射器5からのパルスレーザ光Mの照射、及び第2のサイドレーザ照射器6からのパルスレーザ光Nの照射によって加速された反応物質イオンと、シードイオンとの間で、「クーロン弾性散乱」が生ずる。ここで、反応部21とサブターゲット3とは同じ物質であるために、シードイオンと反応物質イオンとは同じ物質のイオンとなるので、「クーロン弾性散乱」によって、シードイオンの運動エネルギーが反応部21内で核融合反応に伴って増加し、この運動エネルギーが反応物質イオンに引き渡されることとなる。また、加速された反応物質イオンが、シードイオンのイオンバンチBに取り込まれて、イオンバンチBの運動エネルギーが増加することとなる。すなわち、「クーロン弾性散乱」によって、核融合反応によって生じた運動エネルギーが、次に発生する核融合反応に寄与するイオンに与えられることとなる。
【0047】
また、シードイオンがターゲット2の最も出射端2a側の反応部21に到達すると同時に、この反応部21に電圧印加器8によって電圧を印加する。この電圧印加によって反応部21に電界が生じ、この電界によって、正の電荷を有するシードイオンに対して、反応部21の外周から中心に向かう力が作用することとなる。そのため、ターゲット2の中心軸2fに沿って移動するシードイオンの移動方向が、「クーロン弾性散乱」等によって、ターゲット2外に散逸することが抑制されることとなる。
【0048】
このような作用が、ターゲット2の入射端2aから中間部2cに向かって、ターゲット2の入射側領域2dの各反応部21で順次繰り返されて、シードイオンの核融合反応がターゲット2の入射端2aから中間部2cに向かって連続的に発生することとなる。
【0049】
また、ターゲット2の出射側領域2eの反応部21では、ターゲット2の外周からパルスレーザ光が照射されないので、反応部21における反応物質イオン及び電子が冷えた状態となっている。しかしながら、反応物質の核的阻止能及び電子的阻止能によって、シードイオンのイオンバンチBの運動エネルギーが、すぐに反応物質イオンに引き渡され、その結果、ターゲット電子イオン及び電子の温度が上昇することとなる。このように核融合反応によるエネルギーの増加が、ターゲット電子イオン及び電子の加熱によって失われる損失を上回ることを「核融合反応の点火」といい、核融合反応の点火が行なわれるようになる箇所を「核融合反応の点火点」という。
【0050】
また、これらの動作及び作用を鑑みると、第1のサイドレーザ照射器5からのパルスレーザ光M、及び第2のサイドレーザ照射器6からのパルスレーザ光Nが、反応部21に照射された瞬間に、非平衡かつ超高温のプラズマが発生し、イオンバンチBは、ピコ秒単位の短い時間内に「クーロン弾性散乱」及び「核融合反応」を生じながらターゲット2内を移動することとなる。そのため、本発明の実施形態におけるターゲットを用いた核融合反応では、従来のレーザ核融合のように、プラズマに関する「レイリー・テイラーの不安定性」の影響が問題とならず、ターゲット内部を効率的かつ均一に断熱かつ圧縮するという課題が避けられることとなる。
【0051】
以上のように本発明の実施形態によれば、ターゲット2の側方から照射されるパルスレーザ光M,Nによって、ターゲット2の反応部21にはさらなるイオンが加えられ、さらに、反応部21では、パルスレーザ光M,Nの照射によって電子が移動する一方でイオンが残されることとなる。その結果、ターゲット2の反応部21に電場が形成されること等によって、イオンが加速されることとなり、核融合反応が、ターゲット2の出射端2a側の反応部21から出射端側の反応部21に向かって増幅するとともに、連続して発生することとなる。
また、このような核融合においては、従来のレーザ核融合とは異なり、ターゲット内にてイオンを効率的に生成かつ均一な方向に加速させることが重要となる。特に、ターゲット2が平面状の複数の反応部21を有する場合、ターゲット2の反応部21にてイオンを加速させる電場等の方向は、反応部21の平面に対して垂直になる傾向がある。そこで、イオンの加速方向に一致するターゲット2の長手方向に対して、複数の反応部21の平面を垂直に配置すれば、反応部21にて電場等により加速されたイオンが、ターゲット2の出射端2b側で隣接する反応部21に効率的に送られることとなる。従って、ターゲット2の内部を効率的かつ均一に断熱かつ圧縮するという従来のレーザ核融合の課題を避けて、ターゲット2内にてイオンを効率的に生成かつ均一な方向に加速させることによって、効率的にエネルギーを生成できる。
このような核融合に用いられる第1のサイドレーザ照射器5及び第2のサイドレーザ照射器6では、パルスレーザ光M3の断面の幅を拡大することによって、拡大されたパルスレーザ光M4が幅方向に容易に分割され、さらに、分割されたレーザ光m5同士の間に光路差Dがもたらされるので、分割レーザ光mのそれぞれを、時間差でターゲット2に容易に照射できる。そのため、ターゲットの一端から他端に向かうシードイオンの移動に同期するように、ターゲット2の側方からパルスレーザ光M,Nを連続的に照射することができ、効率的に核融合反応を発生させることができる。
【0052】
本発明の実施形態によれば、第1のサイドレーザ照射器5及び第2のサイドレーザ照射器6に供給されるパルスレーザ光Pが、互いに時間差を有する複数のパルスを含んだパルスレーザ光からパルス毎に取り出すことによって得られる構成となっているので、ターゲット2の入射端2aから出射端2bに向かうイオンの移動に対してパルスの時間差を利用して正確に同期するように、ターゲット2の側方からパルスレーザ光M,Nをさらに連続的に照射することができ、効率的に核融合反応を発生させることができる。
【0053】
本発明の実施形態によれば、ターゲット2に注入されるイオンを生成するためにレーザ照射器4に供給されるパルスレーザ光L1が、レーザ発振器11から送られるパルスレーザPの複数のパルス中で1番目のパルスを取り出すことによって得られ、かつ第1のサイドレーザ照射器5及び第2のサイドレーザ照射器6に供給されるパルスレーザ光が、レーザ発振器11から送られるパルスレーザPの複数のパルス中で2番目以降のパルスを取り出すことによって得られる構成となっているので、ターゲット2の入射端2aから出射端2bに向かうイオンの注入タイミング及びこのようなイオンの移動にさらに正確に同期するように、ターゲット2の側方からパルスレーザ光M,Nを連続的に照射することができ、さらに効率的に核融合反応を発生させることができる。
【0054】
本発明の実施形態によれば、第1のサイドレーザ照射器5及び第2のサイドレーザ照射器6が、ターゲット2に照射されるパルスレーザ光M,Nの厚さ方向を、ターゲット2の長手方向に対して直交させるように所定の角度z1で回転させている。そのため、ターゲット2の入射端2aから出射端2bに向かうシードイオンの移動方向に沿って、分割レーザ光mが時間差で確実に照射されて、ターゲット2の側方からのパルスレーザ光Mを、イオンの移動に対してさらに正確に同期させることができ、さらに効率的に核融合反応を発生させることができる。また、回転モジュール57により回転される前のパルスレーザ光については、拡大される幅方向がターゲット2の長手方向に直交するので、サイドレーザ機構を互いに接近して配置できる。よって、第1のサイドレーザ照射器5及び第2のサイドレーザ照射器6が小型化可能となり、レーザ核融合装置1が小型化可能となり、かつ効率的に核融合反応を発生させることができる。
【0055】
ここまで本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【0056】
例えば、本発明の変形例として、第1のサイドレーザ照射器5及び/又は第2のサイドレーザ照射器6が、レーザ核融合装置以外に用いられても良く、レーザ光によって長尺形状の対象物を加工するレーザ加工、レーザ光によって長尺形状の対象物を測定するレーザ測定等に用いられてもよい。分割された状態のレーザ光のそれぞれを、フェムト秒〜ピコ秒単位の時間差を有するように、高分解能かつ高精度で対象物の側方から照射できる。
【0057】
[実施例]
本発明の実施形態の第1のサイドレーザ照射器5及び第2のサイドレーザ照射器6を用いた実施例を説明する。
実施例では、核融合反応はDT反応系となっている。DT反応系の場合、核融合を誘起するために必要な重水素核イオンのエネルギーは約50〜数百keVと高くなり、実施例では、運動エネルギーKは100keVとなっている。この場合、ターゲット2内のシードイオンの走行速度Vを計算すると、(式1)のような結果となる。なお、(式1)では、mはイオンの質量となっており、c
0は光速となっている。
【0059】
(式1)の計算によると、ターゲット2内のシードイオンの走行速度Vは、3.096×10
6m/sとなっており、この値は、光速c
0の約1/100の値に相当する。すなわち、このような走行速度Vで移動するシードイオンに同期させて、第1のサイドレーザ照射器5及び第2のサイドレーザ照射器6が、パルスレーザ光M,Nをターゲット2の側方から連続的に照射する必要がある。
【0060】
実施例では、第1のサイドレーザ照射器5及び第2のサイドレーザ照射器6によって照射されるパルスレーザ光M,Nのパルス幅が200fs(フェムト秒)となっており、パルスレーザ光M,Nの1パルス当たりのエネルギーが10Jとなっている。このようなパルスレーザ光M,Nの光ピークパワーP
pを計算すると、(式2)に示すような結果となる。
【0062】
(式2)の計算によると、光ピークパワーP
pは50TW(テラワット)となっている。このようなパルスレーザ光を、ターゲット2の狭い領域に対応して集光することによって、ターゲット2の反応部21にて高速で移動するイオン及び電子を発生させることができる。集光されたパルスレーザ光における断面の面積は、μm
2〜mm
2程度の単位となっており、パルスレーザ光のパワーは、(式3)に示されるような閾値P
0を超えると見積もられる。
【0064】
本発明の実施形態では、ターゲット2に照射されるパルスレーザ光は分割されて複数の分割レーザ光となっており、幅方向両端の分割された分割レーザ光の光路差Dは、(式4)に示すような結果になる。
【0066】
実施例では、ターゲット2に照射されるパルスレーザ光は1000分割されて1000個の分割レーザ光から構成されている。そのため、1000分割されたパルスレーザ光M,Nにおける分割レーザ光の1パルス当たりのエネルギーは、分割されていないパルスレーザ光の1パルス当たりのエネルギーに対して、1000倍となっており、約10kJとなっている。
【0067】
また、パルスレーザが照射された後、高速で移動するイオン及び電子は、数ps(ピコ秒)の間、高いエネルギー状態を維持するものと考えられている。そこで、高速で移動するイオン及び電子が高いエネルギー状態を維持する時間を4psと設定して、以下の(式5)及び(式6)を計算する。200fs(フェムト秒)のパルス幅を有するパルスレーザ光を「分割していない状態」で照射した場合、運動エネルギーKを100keVとする重水素核イオンが4ps間に走行する距離X
stepは、(式5)に示すような結果となる。なお、(式5)では、(式1)により得られたシードイオンの走行速度V=3.096×10
6(m/s)が用いられている。
【0069】
一方で、200fsのパルス幅を有するパルスレーザ光M,Nを「1000分割した状態で」照射した場合には、運動エネルギーKを100keVとする重水素核イオンが4ps間に走行する距離X
unitは、(式6)に示すような結果となる。なお、(式6)では、(式5)と同様に、(式1)により得られたシードイオンの走行速度V=3.096×10
6(m/s)が用いられている。
【0071】
(式6)の計算によると、X
unitは約12.4mmとなっている。そのため、パルスレーザ光M,Nを照射するターゲット2の長手方向の長さが約12.4mmとなり、パルスレーザ光M,Nの幅は12.4mmとなっているとよい。実施例では、パルスレーザ光M,Nの幅w2は、X
unitの100倍に拡大されており、このパルスレーザ光M,Nの幅w2は、(式7)に示すような結果となる。
【0073】
パルスレーザ光M,Nの幅w2がこのような大きな値であれば、パルスレーザ光M,Nを1000分割し易くなる。また、(式1)によれば、シードイオンの走行速度Vは、光速の1/100となっていることに基づけば、パルスレーザ光M,Nにおける幅方向両端の分割レーザ光の光路差Dは、(式8)に示すような結果となる。なお、パルスレーザ光M,Nは幅方向に1000分割されて、パルスレーザ光M,Nの各分割レーザ光の幅は非常に小さくなっているので、パルスレーザ光M,Nにおける幅方向両端の分割レーザ光間の距離w2’は、それぞれパルスレーザ光M,Nの幅w2と近似することとなる(
図7を参照)。そのため、パルスレーザ光M,Nにおける幅方向両端の分割レーザ光の中心間の距離w2’は、それぞれパルスレーザ光M,Nの幅w2に相当するものとして、(式8)を計算する。
【0075】
(式4)、(式7)、及び(式8)に基づいて、入射されるパルスレーザ光M4に対するミラーの反射面の角度z2を計算すると、角度z2は26.6度となる。よって、実施例では、このような角度z2=26.6度に設定されたミラーパスランパ55によって、パルスレーザ光M,Nを、100kVの重水素イオンと同じ速度でターゲット2の入射端2aから出射端2bに向かうように、ターゲット2に照射させることができる。