【実施例】
【0028】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明する。以下の実施例は注型成型によるものであるが、本発明はSMCやBMCを用いたプレス成型や射出成型など何れの成型方法により成されてもよく、成型方法に応じて樹脂及び撥水剤の形態も公知の方法で適宜変更すればよい。
【0029】
(実施例1)
不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、両末端メタクリル変性シリコーンを4重量部添加し、十分に撹拌した。その後、硬化剤としてメチルエチルケトンパーオキサイドを樹脂100重量部に対して0.5〜2.5重量部添加してさらに所定時間撹拌した。その後、無機充填剤として水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、ガラス繊維を樹脂100重量部に対してそれぞれ70重量部、120重量部、25重量部を添加して真空撹拌を行い、樹脂組成物を得た。
【0030】
(
参考例1)
不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、両末端水酸基変性シリコーンを4重量部添加し、シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランを0.4重量部添加し、十分に攪拌した。その後、硬化剤としてメチルエチルケトンパーオキサイドを樹脂100重量部に対して0.5〜2.5重量部添加してさらに所定時間攪拌した。その後、実施例1と同様に無機充填剤として水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、ガラス繊維を樹脂100重量部に対してそれぞれ70重量部、120重量部、25重量部を添加して真空攪拌を行ない、樹脂組成物を得た。
【0031】
実施例1、
参考例1で得られた樹脂組成物は、予め離型剤処理を施したFRP型に注入し、所定時間経過後に硬化した樹脂組成物を脱型し、さらに65℃で2時間加熱することで完全に硬化させた。得られた硬化物をサンドブラストにより#800で表面を研磨することによって樹脂成形体を得た。
【0032】
(
参考例2)
アクリルポリオール樹脂100部とヘキサメチレンジイソシアネート25部とシンナー50部と両末端に水酸基を有するシリコーン2.5部を撹拌した後、その混合溶液をアクリル基材上にスプレー塗布した。塗布後、室温に放置した混合溶液を、熱風乾燥炉を用いて、110℃、40分間熱硬化することにより、膜厚が約30μmからなる樹脂成形体を得た。
【0033】
(
参考例3)
参考例2で使用した両末端に水酸基を有するシリコーンを、それよりもシリコーン鎖長
が短い両末端に水酸基を有するシリコーンに置き換え、実施例1と同様の条件で、製膜を
行い、膜厚が約30μmからなる樹脂成形体を得た。
【0034】
(比較例1)
実施例1において、両末端メタクリル変性シリコーンに変えて一端がメタクリル変性しているがもう一端は官能基を有しない(メチル基を有した)片末端変性シリコーンを樹脂100重量部に対して4重量部添加した点以外においては、実施例1と同様に成型することによって樹脂成形体を得た。
【0035】
(比較例2)
実施例1において、両末端メタクリル変性シリコーンに替えて何れの末端基にも官能基を有しないポリジメチルシリコーンを樹脂100重量部に対して4重量部添加した点以外においては、実施例1と同様に成型することによって樹脂成形体を得た。
【0036】
(比較例3)
実施例1において、何らシリコーンを添加せずに樹脂成形体を得た。
【0037】
(比較例4)
参考例2において、両末端に水酸基を有するシリコーンを、主鎖がアクリル、側鎖がジメチルシリコーンである反応性グラフトシリコーンに置き換え、
参考例2と同様の条件で、製膜をおこない、膜厚が約30μmからなる樹脂成形体を得た。
【0038】
評価1:摺動試験前後の水に対する静的接触角およびIRスペクトルの測定
実施例及び比較例で得られた樹脂成形体に日常の清掃を長期間行った際の撥水性維持、回復性能を摺動試験前後の水に対する静的接触角およびIRスペクトルをにて評価した。
水に対する静的接触角(水接触角)は、FACE接触角計CA−X150(協和界面科学製)を用いて、室温2μLの水滴を滴下後20秒後の静的接触角をθ/2法で測定した。
IRスペクトルは赤外分光装置(パーキンエルマー社製Spectrum2000)を用い、ATR法にて取得した。なお、摺動試験は、実施例1
、参考例1及び比較例1〜3については摺動試験1、また、
参考例2、3及び比較例4については摺動試験2を行なった。
【0039】
(摺動試験1)
摺動子としてエタノールを染み込ませた市販の布巾を摺動試験機(テスター産業株式会社製)に取り付け、荷重100gf/cm
2で、2500回摺動させる摺動試験を行った。
(摺動試験2)
摺動試験1から摺動子を住友スリーエム社製の「スコッチ・ブライト(登録商標)バスシャイン(登録商標)」のスポンジ面を含水させたものに替えて、荷重50g/cm
2で5000回の摺動試験を行った。
【0040】
図1は、摺動試験1の実施例1及び比較例1、2の結果を示したもので摺動試験前、摺動試験後のそれぞれ、さらに摺動試験後経時的に水接触角を測定した結果である。実施例では摺動試験前の水接触角は110°〜120°前後の撥水性を示した。エタノールを含浸させた布巾で摺動を行うと一時的に水接触角の低下が起こるが(対初期87%)、その後約24時間経過すると水接触角は摺動試験前とほぼ同水準の105°程度(対初期93%)に回復する。一方で、比較例1の片末端変性シリコーン及び比較例2のポリジメチルシリコーンを添加した樹脂において、摺動試験前では実施例1と同等の撥水性を示すが、摺動試験後に水接触角が著しく低下し(比較例1:対初期55%)、その後水接触角は70°程度(比較例1:対初期59%)と、比較例4の撥水処理を施していない通常の樹脂成形体と同等の水接触角であった。
【0041】
実施例1では両末端メタクリル変性シリコーンのメタクリル基のそれぞれが、不飽和ポリエステル内の不飽和炭素と結合し強固なブロック重合体を形成しているので、エタノールを含浸させた布で摺動を行っても樹脂と撥水成分のシリコーンがほとんど拭きとられず、剥離が起きなかった。これは、シリコーンの主鎖を構成するシロキサン結合の結合角は143°、結合距離は0.165nmであり、炭素−炭素(C−C)結合と比べて結合角が広く、結合距離も長いことから分子の回転障害が小さい。従って、エタノールのような極性基を持った物質に長時間曝されると両末端変性シリコーンの側鎖に置換された疎水基であるメチル基が回転し、親水基であるシロキサン結合面が表面に配向することにより樹脂表面の水接触角が一時的に低下するものと考えられる。しかしながら、摺動試験後には再度分子鎖の回転が起こり、疎水基であるメチル基が表面に配向するため、樹脂表面の撥水性が回復すると考えられる。また、24時間経過後も撥水性能は徐々に回復していることが観察された。これは、樹脂と未結合のシリコーン成分が溶出してきたことによるものと考えられる。従って、硬化剤の量等で、樹脂と両末端変性シリコーンとの結合・未結合状態を最適に制御することで、使用状況に合った撥水回復速度、回復量を制御することができる。また、未結合状態のシリコーンとして、両末端変性シリコーンと合わせて変性基を有しないストレートシリコーンを組み合わせて使用してもよい。
【0042】
比較例1の片末端メタクリル変性シリコーンでは、摺動試験の後に著しい水接触角の低下が起こる。これは、変性基が片末端にしかない場合では、樹脂とシリコーンはグラフト重合体を形成しているため、摺動による物理的な負荷による結合の切断が起こりやすいことが考えられる。また、
図2に示した比較例1の摺動試験前後のIRスペクトルをみると、Si−CH
3変角振動のピークである1260cm
−1のピークが減少し、シラノール基(Si−OH)に由来する910cm
−1のピークやOH伸縮振動に由来する3360cm
−1や3620cm
−1付近のピークが増加していることから、エタノールによる加水分解が進行したことが確認できる。比較例2のポリジメチルシリコーンを添加した樹脂についても同様である。
【0043】
実施例では、
図3に示すように摺動試験の前後でこうしたシラノール基に由来するピークの著しい増大は確認されないため清掃による摺動だけでなく、アルコールなどの薬品負荷による分解を受けにくく、撥水性を長期に維持することができる。その他、含浸する薬品をアルコールから酸やアルカリに変えた場合も同様の傾向を示した。
【0044】
また、
図4は
参考例2、3及び比較例4に摺動試験2を行った摺動回数に対する水接触角の変化を示したものである。未摺動時では、いずれの場合も水接触角が約100°であり、シリコーンのメチル基の効果によって撥水性を有している。
参考例2,3は、摺動回数5000回後において、水接触角が95°以上であり撥水性を維持している。一方で、反応性グラフトシリコーン添加した比較例4は、摺動回数の増加に伴い、水接触角が低下し、摺動回数5000回後において水接触角が88°まで低下し、撥水性能が低下した。
【0045】
評価2:防汚性能評価
次に、実施例1,
参考例1及び比較例1〜3で得られた樹脂の表面に色素成分汚れとして紅茶色素の成分であるテアフラビン100ppmを100μL添加し、25℃、50RH%にて一日放置した後に水を含ませた布巾又は洗剤を含ませた布巾で拭き取りを行った。色素成分汚れの残り具合を目視で確認し、3段階による点数付けをして防汚性能評価を行った。
【0046】
◎:色素汚れが水拭きのみで完全に取れている
○:色素汚れが洗剤を用いると完全に取れている
×:色素汚れが洗剤を用いても残っていて目立つ
【0047】
また、実施例及び比較例で得られた樹脂をキッチンカウンターでの使用を想定し、継続的な清掃による表面劣化状態を再現するために、ナイロン不織布(住友スリーエム社製「スコッチ・ブライト」(登録商標))で樹脂表面の表層15μmを研磨した上で同様に防汚性能評価を行った。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から分かる通り、実施例の両末端変性シリコーンを添加した樹脂の方が、比較例1、比較例2よりも汚染試験が良好であった。樹脂特に、実施例1の両末端変性シリコーンを添加した樹脂においては、撥水性能、防汚性能共に表層の研磨を行う前と同水準の性能を維持しており、キッチンカウンターなどへの長期間の使用で樹脂表面が劣化した状態においてもその高い性能を維持することが分かった。
【0050】
さらに、実施例1で得られた樹脂成形体の表面のシリコーン分布をAgilent社製顕微赤外イメージングシステム(Agilent660−IR赤外分光光度計、Agilent620−IR赤外顕微鏡、32×32マルチチャンネルMCT検出器、100×100μm狭帯域MCT検出器)を用いてIRイメージング法にて140μm×140μmの範囲を評価した。
【0051】
図5は実施例1の樹脂成形体表面の無機充填剤成分である水酸化アルミニウムの表面分布として、水酸基由来の3350cm
−1のピークを不飽和ポリエステル樹脂のカルボニル基由来の1726cm
−1のピークで除算することで補正して得た分布である。また、
図6は、シリコーンのメチル基に由来する1260cm
−1のピークを同様に1726cm
−1のピークで補正して得られた分布である。
図5、
図6を見ると、3350cm
−1/1726cm
−1比が1.5を超える主に充填剤の水酸化アルミニウムを反映した領域と、シリコーン由来のピークが高強度である1260cm
−1/1726cm
−1比が0.2〜0.4の領域が重複していることから、両末端メタクリル変性シリコーンが無機充填剤である水酸化アルミニウムを被覆し、樹脂成形体への汚れの染み込みを抑制していることが確認できた。(例:
図5及び
図6の破線丸括弧部)また、
図5の水酸化アルミニウムが検出されない領域にも
図6では1260cm
−1/1726cm
−1比で0.1〜0.2のシリコーンピークが存在しており、シリコーンが充填剤領域だけでなく不飽和ポリエステル樹脂全体に存在していることも確認できた。
【0052】
一方で、
図7、
図8には比較例1の水酸化アルミニウムの分布及びシリコーン分布(10μm×10μm)を示したものである。
図7、
図8から比較例1では水酸化アルミニウムの存在領域と、シリコーンの高強度領域に相関性がないことから、無機充填剤へ特異的に被覆せず、主に樹脂とグラフト重合していることが確認できる。このことから、片末端メタクリル変性シリコーンでは、特に無機充填剤が加えられた樹脂成形体への汚れの染み込み抑制効果が十分でないことが確認できた。