(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車やトラック・バスでは、
図10の構成図に駆動系2xを模式的に示すように、駆動源となるエンジン(入力側装置)80と、負荷となるタイヤ・車両(出力側装置)82との間に、変速機11が接続されている。変速機11は、歯車対の切り替えにより、入力側(エンジン80側)の回転速度と出力側(タイヤ・車両82側)の回転速度の比率を変える。
【0008】
1速歯車対→2速歯車対→3速歯車対のような変速を、アップシフトと呼ぶ。変速を行うと、エンジン回転速度と車両速度の間の比率が変化する。通常、車両の速度は短時間では変化しないため、実質的にはエンジンの回転速度が変化することとなる。すなわち、アップシフトの変速を行うと、変速前に対して変速後にはエンジンの回転速度が遅くならなければならないこととなる。
【0009】
駆動系2xの変速機11に、上述した非円形歯車を用いる変速機を採用すると、アップシフトの際の変速作業が短時間で完了する場合がある。このため、エンジンの回転速度を急激に低下させる必要がある。通常、エンジンの回転速度はエンジン用コンピュータが制御するが、このエンジン用コンピュータの制御動作が遅れると、変速の際にエンジンの慣性に起因する大きなトルクが発生する。
【0010】
例えば
図9は、変速機にかかるトルクのシミュレーション結果を示すグラフである。符号92は変速開始時点、符号96は変速終了時点を示す。変速機にかかるトルクは、変速開始後に急激に増加した後、変速終了まで低下し、変速終了後は一定となる。
【0011】
このように、非円形歯車を備えた変速機には、変速開始後に大きなトルクが伝達されるため、変速機は十分な強度設計が必要となり、変速機の大型化、重量増加につながる。
【0012】
したがって、本発明が解決しようとする第1の課題は、変速の際に大きなトルクがかからない、非円形歯車を備えた変速機を提供することである。
【0013】
また、1速、2速、3速・・・の順で減速比は小さくなっていく。エンジントルクが一定であっても減速比が大きいほど自動車の加速度は大きく、減速比が小さいほど自動車の加速度が小さくなる。1速よりも2速、2速よりも3速の方が、自動車の加速度は小さくなる。このため、アップシフト変速において、1速から2速や、2速から3速に変速すると、変速前に比べて変速後の自動車の加速度は小さくなる。
【0014】
このことは自動車としては適切な性質であるが、運転者は「加速したいのに加速が悪くなった」と感じることとなる。特に短時間で加速度が低下するほど、運転者は「加速が悪くなった」という印象を感じやすい。
【0015】
例えば
図11(a)及び(b)は、1速から2速に変速したときの車両の加速度を模式的に示すグラフである。1速区間90から、変速区間94を経て、2速区間98に移行する場合、
図11(a)のように変速時間(変速区間94の時間)が長い場合は「加速が悪くなった」と感じにくく、
図11(b)のように変速時間(変速区間94の時間)が短い場合には「加速が悪くなった」と感じやすい。なお、
図11(a)及び(b)では、変速区間94の車両の加速度の線は、1速区間90の加速度と2速区間98の加速度を直線的に接続しただけの線であり、正確に車両の加速度を示しているわけではない。
【0016】
上述した非円形歯車対を備えた変速機では、アップシフトの際の変速作業が短時間で完了する場合がある。このため、変速に伴う加速度低下が短時間で発生するので、運転者が変速の際に感じる加速フィーリングが悪化する場合がある。
【0017】
したがって、本発明が解決しようとする第2の課題は、運転者の加速フィーリングを向上させることができる非円形歯車対を備えた変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記第1の課題を解決するために、以下のように構成した変速機を提供する。
【0019】
変速機は、(a)回転可能に支持された入力部材と、(b)回転可能に支持された出力部材と、(c)前記入力部材と前記出力部材との間に配置された少なくとも2つの第1及び第2の歯車対と、(d)前記入力部材と前記出力部材との間に、前記歯車対をそれぞれ解除可能に連結する、少なくとも2つの第1及び第2のクラッチと、(e)前記入力部材と前記出力部材との間に配置された非円形歯車対と、(f)前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対を解除可能に連結する非円形歯車対用クラッチとを備える。前記非円形歯車対は、前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対が連結され、前記非円形歯車対の一方が1回転し、前記非円形歯車対の他方が1回転以上回転して前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、(i)前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が、前記入力部材と前記出力部材との間に少なくとも2つの前記第1及び第2の歯車対がそれぞれ連結されたときの減速比と同じになる、少なくとも2つの第1及び第2の定速噛み合い区間と、(ii)隣り合う前記定速噛み合い区間の間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が、隣り合う前記定速噛み合い区間の一方の減速比から隣り合う前記定速噛み合い区間の他方の減速比まで増加又は減少する、複数の変速噛み合い区間とを含む。変速機は、(g)
変速の開始時点から変速の終了時点までの変速区間において、入力側装置と前記入力部材との間又は前記出力部材と出力側装置との間に接続され、入力トルクの大きさが
所定値以下のときには前記入力トルクと同じ大きさのトルクを出力し、前記入力トルクの大きさが前記
所定値を超えるときには前記
所定値の大きさのトルクを出力する限定トルク伝達装置をさらに備える。
【0020】
上記構成によれば、
変速の開始時点から変速の終了時点までの変速区間において変速機にかかるトルクの大きさは
所定値以下となり、変速機には不必要に大きなトルクが伝達されないので、変速機の強度設計が容易になり、変速機を小型軽量化することができる。
【0021】
前記限定トルク伝達装置は、前記所定値を変速の開始時点の入力トルクよりも大きな値に設定する。
【0023】
好ましくは、前記入力部材と前記出力部材とは、それぞれ、第1部分と第2部分とを含む。前記歯車対は、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に配置される。前記非円形歯車対は、前記入力部材の前記第2部分と前記出力部材の前記第2部分との間に配置される。前記変速機は、(h)前記入力部材の前記第1部分と前記入力部材の前記第2部分とを回転伝達可能に結合する第1の増減速装置と、(i)前記出力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第2部分とを回転伝達可能に結合する第2の増減速装置とをさらに備える。前記非円形歯車対用クラッチは、前記第1の増減速装置と前記入力部材の前記第2部分と前記非円形歯車対と前記出力部材の前記第2部分と前記第2の増減速装置とを介して前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間を解除可能に連結する。前記非円形歯車対は、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に前記非円形歯車対が連結され、前記非円形歯車対の一方が1回転し、前記非円形歯車対の他方が1回転以上回転して前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、(a)前記定速噛み合い区間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に前記歯車対が連結されたときの前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比と同じになり、(b)前記変速噛み合い区間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が、隣り合う前記定速噛み合い区間の一方の減速比から隣り合う前記定速噛み合い区間の他方の減速比まで変化する。
【0024】
この場合、入力部材の第1部分と出力部材の第1部分との間に連結する歯車対を切り換える際に、増減速装置により、非円形歯車対が入力部材の第1部分と出力部材の第1部分との間に連結されている時間を長く(又は、短く)することができ、それに伴って、クラッチを作動させる時間を長く(又は、減速比の切り替えに要する時間を短く)することができる。
【0025】
入力が高速回転であっても、適宜な減速比の増減速装置により非円形歯車対の回転を遅くすることで、クラッチの切り換え動作をすべき時間を長くすることができるので、容易に減速比を変えることができる。入力が低速回転である場合には、適宜な減速比の増減速装置により非円形歯車対の回転を速くすることで、減速比の切り換えに要する時間を短縮することができる。
【0026】
また、非円形歯車対の設計の自由度を高くできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、不必要に大きなトルクが変速機に伝達されなくなるので、変速機の強度設計が容易になり、変速機を小型軽量化できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0031】
図1は、自動車の駆動系2の構成を模式的に示す構成図である。
図1に示すように、駆動源となるエンジン(入力側装置)80と、負荷となるタイヤ・車両(出力側装置)82との間に、変速機50が接続されている。
【0032】
変速機50は、限定トルク伝達装置52と変速機本体10とを備えている。限定トルク伝達装置52は、エンジン80と変速機本体10との間に接続され、エンジン80の回転を変速機本体10に伝達する。変速機本体10は、限定トルク伝達装置52から伝達された回転を変速して、タイヤ・車両82に伝達する。
【0033】
変速機本体10は、
図12〜
図15に示す非円形歯車を備えた変速機である。
【0034】
すなわち、
図12の機構図に模式的に示すように、変速機本体10は、回転可能に支持されている入力軸12及び出力軸14と、第1の歯車対16と、第2の歯車対17と、非円形歯車対18と、クラッチ40,42,44とを備えている。
【0035】
各歯車対16,17,18は、それぞれ、一対の歯車20,30;22,32;24,34が噛み合い、回転角度の遅れがない。すなわち、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達する。
【0036】
入力軸12には、各歯車対16,17,18の一方の歯車(入力側歯車)20,22,24が固定され、これらの歯車20,22,24は入力軸12と一体となって回転する。
【0037】
出力軸14には、各歯車対16,17,18の他方の歯車(出力側歯車)30,32,34が、相対回転可能な状態に支持されている。出力側歯車30,32,34は、クラッチ40,42,44により、選択的に出力軸14に結合される。すなわち、クラッチ40,42,44がつながっているONのときには、対応する出力側歯車30,32,34は出力軸14に対して結合され、結合された出力側歯車30,32,34と出力軸14とは一体となって回転する。クラッチ40,42,44が切れているOFFのときには、出力側歯車30,32,34は、出力軸14の軸方向の移動が拘束されながら、出力軸14に対して相対回転可能となる。
【0038】
クラッチ40,42,44がONのとき、クラッチ40,42,44での滑り等がなければ、クラッチ40,42,44がONとなっている出力側歯車30,32,34から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0039】
クラッチ40,42,44には、ドグクラッチ、ジョークラッチ、歯形クラッチ等の噛み合いクラッチを用いることが好ましい。円板クラッチ、ドラムクラッチなどの摩擦クラッチでは滑りが発生する可能性があるのに対して、噛み合いクラッチでは、駆動側と被動側とに形成された突起や穴等の機械的構造が噛み合い、摩擦クラッチのような滑りが発生しないので、噛み合いクラッチを用いると、回転角度を極めて正確に伝達し、かつ動力を極めて効率的に伝達することができるからである。なお、クラッチ40,42,44は、ドグクラッチ等の噛み合いクラッチに限定されるものではなく、噛み合いクラッチ以外の摩擦クラッチなどを用いてもよい。
【0040】
図示していないが、クラッチ40,42,44はアクチュエータによって駆動され、アクチュエータの動作は、制御装置によって制御される。また、非円形歯車対18の位相は不図示のセンサにより検出され、検出信号は制御装置に入力される。制御装置は、回転を止めることなく減速比を切り替え、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができるように、クラッチ40,42,44のON/OFFを制御する。
【0041】
各歯車対16,17,18は、クラッチ40,42,44のONによって、入力軸12と出力軸14との間に選択的に連結される。クラッチ40のONにより第1の歯車対16が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、相対的に大きい一定の減速比R
Hとなる。クラッチ42のONにより第2の歯車対17が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、相対的に小さい一定の減速比R
Lとなる。クラッチ44のONにより非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、少なくとも減速比R
HとR
Lとを含む範囲内で変化する。
【0042】
例えば
図13に示すように各歯車対16,17,18の歯車をかみ合いピッチ円(以下、単に「ピッチ円」という。)あるいはかみ合いピッチ曲線(以下、単に「ピッチ曲線」という。)で表し、歯面の図示を省略すると、第1及び第2の歯車対16,17は、対をなす歯車20,30;22,32のピッチ円20p,30p;22p,32pが互いに接する円形歯車である。
【0043】
非円形歯車対18の対をなす歯車24,34は非円形歯車であり、非円形歯車対18の対をなす歯車24,34のピッチ曲線24p,34pは、減速比R
Hの第1の歯車対16のピッチ円20p,30pの円弧と等しい第1の区間25,35と、減速比R
Lの第2の歯車対のピッチ円22p,32pの円弧と等しい第3の区間27,37と、減速比がR
HとR
Lとの間で変化する第2及び第4の区間26,36;28,38とを有する。非円形歯車対18の対をなす歯車24,34は、
図13において矢印で示す方向に回転するとき、歯車24,34のピッチ曲線24p,34pの各区間25,35;26,36;27,37;28,38同士が噛み合う。
【0044】
非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されている状況において、非円形歯車対18が、
図13(a)に示すように、第3の区間27,37で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR
Lとなり、
図13(b)で示すように、第1の区間25,35で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR
Hとなる。第1の区間25,35と第3の区間27,37は、定速噛み合い区間である。
【0045】
また、非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されている状況において、非円形歯車対18が、第2の区間26,36、第4の区間28,38で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、R
LとR
Hの間で変化する。第2の区間26,36と第4の区間28,38は、変速噛み合い区間である。
【0046】
次に、変速機本体10の動作について、
図14及び
図15を参照しながら説明する。
図14(a)及び
図15(a)は、非円形歯車対18の減速比のグラフである。横軸は入力軸12の回転角度、縦軸は入力側歯車24と出力側歯車34との間の減速比である。
図14(b)及び
図15(b)の表では、クラッチ40,42,44のONの状態を○印で示し、クラッチ40,42,44のOFFの状態は空欄としている。
図14(b)及び
図15(b)において、減速比R
Hの第1の歯車対16のクラッチ40を「クラッチ(R
H)」、減速比R
Lの第2の歯車対17のクラッチ42を「クラッチ(R
L)」、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44を「クラッチ(変速)」と表している。
【0047】
減速比R
Hの第1の歯車対16のクラッチ40がON、クラッチ42,44がOFFのときには、入力軸12と出力軸14との間は、一定の減速比R
Hとなる。減速比R
Lの第2の歯車対17のクラッチ42がON、クラッチ40,44がOFFのときには、入力軸12と出力軸14との間は、一定の減速比R
Lとなる。非円形歯車対18の減速比は、
図14(a)及び
図15(a)に示すように、入力軸12の回転に伴って減速比R
HとR
Lとを含む所定範囲内で変化する。なお、
図14(a)及び
図15(a)において、非円形歯車対18の減速比が変化するときの曲線は模式的に図示されている。
【0048】
入力軸12と出力軸14との間の減速比をR
HからR
Lに変える場合には、以下のようにクラッチ40,42,44を動作させる。
【0049】
図14(a)に示すように、減速比R
Hの第1の歯車対16のクラッチ40がONの状態で、非円形歯車対18の減速比がR
LからR
Hに変化する区間301を通過し、一定の減速比R
Hとなる区間302に入ったら、
図14(b)に示すように、減速比R
Hの第1の歯車対16のクラッチ40に加え、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44をONにする。そして、区間302において非円形歯車対18のクラッチ44がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がR
HからR
Lに変化する区間303に入る前に、減速比R
Hの第1の歯車対16のクラッチ40をOFFにする。
そして、非円形歯車対18の減速比がR
HからR
Lに変化する区間303では、非円形歯車対18のクラッチ44のみがONである。区間303では、入力軸12と出力軸14との間に非円形歯車対18が連結されているので、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、R
HからR
Lに変化する。この間、クラッチ44の滑りがなければ、非円形歯車対18の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0050】
非円形歯車対18の減速比がR
HからR
Lに変化する区間303を通過して、一定の減速比R
Lとなる区間304に入ったら、
図14(b)に示すように、減速比R
Lの第2の歯車対17のクラッチ42をONにする。そして、区間304において第2の歯車対17のクラッチ42がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がR
LからR
Hに変化する区間305に入る前に、非円形歯車対18のクラッチ44をOFFにする。このようにして、入力軸12と出力軸14との間に第2の歯車対17のみが連結された後は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR
Lで一定となり、第2の歯車対17の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0051】
クラッチ40,42,44は、駆動側と被動側とが同じ速度のときにON/OFFの切り替えを行うので、クラッチ40,42,44に、ドグクラッチ等の噛み合いクラッチを問題なく用いることができる。
【0052】
入力軸12と出力軸14との間の減速比をR
LからR
Hに変える場合も、上記と同様である。
【0053】
すなわち、
図15(a)に示すように、非円形歯車対18の減速比がR
HからR
Lに変化する区間401を通過し、一定の減速比R
Lとなる区間402に入ったら、
図15(b)に示すように、第2の歯車対17のクラッチ42に加え、非円形歯車対18のクラッチ44をONにする。そして、区間402において非円形歯車対18のクラッチ44がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がR
LからR
Hに変化する区間403に入る前に、減速比R
Lの第2の歯車対17のクラッチ42をOFFにする。
【0054】
そして、非円形歯車対18の減速比がR
LからR
Hに変化する区間403では、非円形歯車対18のクラッチ44のみがONである。区間403では、入力軸12と出力軸14との間に非円形歯車対18のみが連結されているので、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、R
LからR
Hに変化する。この間、クラッチ44の滑りがなければ、非円形歯車対18の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0055】
非円形歯車対18の減速比がR
LからR
Hに変化する区間403を通過して、一定の減速比R
Hとなる区間404に入ったら、
図15(b)に示すように、減速比R
Hの第1の歯車対16のクラッチ40をONにする。そして、この区間404において第1の歯車対16のクラッチ40がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がR
HからR
Lに変化する区間405に入る前に、非円形歯車対18のクラッチ44をOFFにする。このようにして、入力軸12と出力軸14との間に第1の歯車対16のみが連結された後は、入力軸12と出力軸14との間は一定の減速比R
Hとなり、第1の歯車対16の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0056】
図2は、限定トルク伝達装置52の入力トルクと出力トルクの関係を示すグラフである。
図2のグラフに示すように、限定トルク伝達装置52は、入力トルクの大きさが第1の値T
0以下のときには、入力トルクと同じ大きさのトルクを出力する。入力トルクの大きさが第1の値T
0を超えると、第1の値T
0の大きさのトルクを出力する。限定トルク伝達装置52は、例えば、摩擦伝達式カップリングなどと同様の構造により、
図2に示した入力トルクと出力トルクの関係を実現できる。
【0057】
限定トルク伝達装置52により、変速機本体10にかかるトルクの大きさは第1の値T
0以下となるため、変速機本体10は、変速の際に不必要に大きなトルクがかからない。
【0058】
なお、限定トルク伝達装置に摩擦伝達式カップリングを用いる場合は、第1の値T
0よりも大きなトルクを入力しようとしても、摩擦部に滑りが発生するため、結果的に第1の値T
0よりも大きなトルクを入力することができず、入力トルクは第1の値T
0と等しくなる。
【0059】
図3は、エンジンと変速機本体の間に限定トルク伝達装置を設けた実施例1について、変速機本体10にかかるトルクをシミュレーションした結果を示すグラフである。
図9は、エンジンと変速機本体の間に限定トルク伝達装置を設けない比較例について、変速機本体にかかるトルクをシミュレーションした結果を示すグラフである。符号92は、1速から2速に変速を開始する変速開始時点を示す。符号96は、1速から2速への変速が終了する変速終了時点を示す。
【0060】
図9に示すように、エンジンと変速機本体の間に限定トルク伝達装置を設けない比較例では、3000Nm程度の大きなトルクが発生する。これに対し、
図3のように、エンジンと変速機本体の間に限定トルク伝達装置を設けた実施例1では、1740Nm程度の値にトルクを下げることができる。
【0061】
実施例1では、
図1のように、エンジン80と変速機本体10の間に限定トルク伝達装置52を設けることにより、変速機本体10に大きなトルクがかからない。そのため、変速機本体10の強度設計が容易になり、変速機本体10を小型軽量化することができる。
【0062】
<変形例1> 変速機50の限定トルク伝達装置52を、変速機本体10とエンジン80の間に設ける代わりに、変速機本体10とタイヤ・車両82との間に設けても、同様に、変速の際に変速機本体10にかかるトルクを抑制することができ、変速機本体10の強度設計が容易になり、変速機本体10を小型軽量化することができる。
【0063】
変速機の限定トルク伝達装置を変速機本体とタイヤ・車両との間に設ける場合には、次の実施例2のように構成すると、運転者の加速フィーリングを向上させることができる。
【0064】
<実施例2> 実施例2の変速機について、
図4〜
図8を参照しながら説明する。
【0065】
図4は、自動車の駆動系2aの構成を模式的に示す構成図である。
図4に示すように、駆動源となるエンジン(入力側装置)80と、負荷となるタイヤ・車両(出力側装置)82との間に、変速機60が接続されている。
【0066】
変速機60は、限定トルク伝達装置62と変速機本体10とを備えている。変速機本体10は、エンジン80から伝達された回転を変速して、限定トルク伝達装置62に伝達する。限定トルク伝達装置62は、変速機本体10とタイヤ・車両82との間に接続され、変速機本体10の回転をタイヤ・車両82に伝達する。変速機本体10は、実施例1と同じ構成である。
【0067】
図5は、限定トルク伝達装置62の入力トルクと出力トルクの関係を示すグラフである。
図5に示すように、限定トルク伝達装置62は、破線60aで示す第1の設定と、実線60bで示す第2の設定とを切り替えることができる。
【0068】
破線60aで示す第1の設定において、限定トルク伝達装置62は、入力トルクの大きさが第1の値T
1以下のときには、入力トルクと同じ大きさのトルクを出力する。入力トルクの大きさが第1の値T
1を超えると、第1の値T
1の大きさのトルクを出力する。
【0069】
実線60bで示す第2の設定において、限定トルク伝達装置62は、入力トルクの大きさが第2の値T
2以下のときには、入力トルクと同じ大きさのトルクを出力する。入力トルクの大きさが第2の値T
2を超えると、第2の値T
2の大きさのトルクを出力する。
【0070】
限定トルク伝達装置62は、例えば、摩擦部の押しつけ力を変えることができる摩擦伝達式カップリングなどと同様の構造により、
図5に示した入力トルクと出力トルクの関係を実現できる。
【0071】
次に、変速作業の手順の一例について、
図6を参照しながら説明する。
図6(a)はエンジントルクのグラフである。
図6(b)は限定トルク伝達装置62の出力トルクの最大値設定を示すグラフである。
図6(c)は、変速機本体10にかかるトルクを示すグラフである。
図6(d)は、車両の加速度のグラフである。符号90は1速区間、符号92は変速開始時点、符号94は変速区間、符号96は変速終了時点、符号98は2速区間を示す。
【0072】
(1) まず、実際に変速する前に準備を開始する変速前準備開始時点91aから、実際に変速を開始する変速開始時点92までの間の変速前準備区間91に、
図6(a)において符号80bで示すように、エンジントルクを1速の時の状態80aから緩やかに下げる。これにより、詳しくは後述するが、
図6(d)に示すように変速前後の時点92,96で車両の加速度が略一致するようにする。なお、
図6(a)には、変速前準備区間91においてエンジントルクが低下するときの曲線を、模式的に図示している。
【0073】
具体的には、変速機の制御装置は、1速から2速に変速する指令信号が入力されると、エンジン用コンピュータに、トルクを下げる指令信号を送出する。エンジン用コンピュータは、トルクを下げる指令信号を受信すると、エンジンの動作を制御し、エンジントルクを下げる。
【0074】
これにより、
図6(c)において符号4bで示すように、変速機本体10にかかるトルクは1速の時の状態4aから緩やかに低下し、
図6(d)において符号6bで示すように、車両の加速度は1速の時の状態6aから緩やかに低下する。
【0075】
このとき、限定トルク伝達装置62の出力トルクの最大値設定は、符号60aで示すように、1速に合わせた第1の値T
1になる第1の設定のままとする。
【0076】
(2) 次いで、変速開始時点92の直前に、限定トルク伝達装置62の出力トルクの最大値設定を、
図6(b)において符号60cで示すように、2速に合わせた第2の値T
2にする第2の設定に切り換える。限定トルク伝達装置62の出力トルクの最大値設定が、変速開始時点92に第2の値T
2に切り換わると、
図6(b)において符号60bで示すように、第2の値T
2の設定が保たれる。
【0077】
(3) 次いで、変速開始時点92から変速終了時点96までの変速区間94において、変速作業、すなわち、変速機本体10の歯車対16,17の切り替えを行う。このとき、変速に伴って、
図6(c)において符号4cで示すように、変速機本体10にかかるトルクは多少変動するものの、限定トルク伝達装置62により第2の値T
2を超えないため、変速機本体10にかかるトルクの大きな変動が抑制される。また、車両に伝わるトルクの変動も抑えることができる。そのため、車両の加速度は、
図6(d)において符号6cで示すように、略一定である。
【0078】
また、一旦下げたエンジントルクは、変速区間94では
図6(a)において符号80cで示すように大きくする。
【0079】
(4) 変速終了時点96に達し、変速作業、すなわち、歯車対の切り替えが完了したら、以後は、
図6(a)において符号80dで示すように、エンジントルクは一定とする。これにより、
図6(c)において符号4dで示すように、変速機本体10にかかるトルクは一定となり、
図6(d)において符号6dで示すように、車両の加速度は一定となる。
【0080】
以上の手順で変速すると、車両の加速度が低下するのは、
図6(d)において符号6bで示すように、変速前準備区間91の時間帯のみにすることができる。変速前準備区間91では、適切な時間をかけて緩やかにエンジントルクを下げることができるので、運転者は「加速が悪くなった」とは感じないようになる。すなわち、車両の加速度が変化する時間を適切な長さに調整できるので、運転者の加速フィ
ーリングを向上させることができる。
【0081】
また、実施例1と同様に、変速する際には、限定トルク伝達装置62によって、変速機本体10に不必要に大きなトルクはかからないようにすることができる。
【0082】
図7は、上記の手順で変速作業を行ったときに変速機本体10にかかるトルクをシミュレーションした結果を示すグラフである。
図7に示すように、変速機にかかるトルクは、変速開始時点92までの変速前準備区間91において下がっているため、変速開始時点92と変速終了時点96との間の変速区間94において上昇するものの、最大1200Nm程度であり、
図9に示した比較例の3000Nmと比べると、大きなトルクが発生しないことが分かる。
【0083】
また、
図8は、上記の手順で変速作業を行ったときの車両の加速度をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図8に示すように、歯車対を切り替える作業、すなわち、変速開始時点92と変速終了時点96との間の変速区間94において変速作業を行うとき、車両の加速度に変化がないことが分かる。このため、実際に歯車対が切り替わるときに、運転者は加速度の変化を感じない。車両の加速度が変化するのは、変速前準備区間91において意図的にエンジントルクを下げている段階のみである。変速前準備区間91でトルクを下げるためにかける時間は適切に制御できるので、この段階においても、運転者は加速度の低下を感じることがないようにすることができる。このため、運転者の加速フィーリングを向上させることができる。
【0084】
なお、変速作業の手順は、種々の態様で行うことが可能である。例えば、限定トルク伝達装置の出力トルクの最大値設定が第2の設定に切り換わるタイミングは、変速開始時点92よりも多少前にずれてもかまわない。
【0085】
<変形例2> 実施例1、2において用いる変形例2の変速機本体10aについて、
図16を参照しながら説明する。
【0086】
変形例2の変速機本体10aは、変速機本体10と略同様に構成されている。以下では、変速機本体10との相違点を中心に説明し、同じ構成部分には同じ符号を用いる。
【0087】
変速機本体10aは、変速機本体10と異なり、増減速装置29,39を備える。入力軸12a及び出力軸14aは、第1及び第2の歯車対16,17が配置される第1部分12s,14sと、非円形歯車対18が配置される第2部分12t,14tとに分割されている。入力軸12aの第1部分12sと入力軸12aの第2部分12tとは、第1の増減速装置29を介して回転伝達可能に結合されている。出力軸14aの第1部分14sと出力軸14aの第2部分14tとは、第2の増減速装置39を介して回転伝達可能に結合されている。
【0088】
ここで、第1の増減速装置29の減速比を、入力軸12aの第1部分12sの回転速度N
i1と入力軸12aの第2部分12tの回転速度N
i2とを用いて、N
i1/N
i2と定義する。第2の増減速装置39の減速比を、出力軸14aの第2部分14tの回転速度N
o2と出力軸14aの第1部分14sの回転速度N
o1を用いて、N
o2/N
o1と定義する。第2の増減速装置39の減速比の定義は、N
o1/N
o2ではないことに留意する必要がある。
【0089】
例えば、増減速装置29,39により、非円形歯車対18側の回転速度を遅くすることができる。すなわち、入力軸12aの第1部分12sと第2部分12tの間に設けられた第1の増減速装置29の減速比をR
0とし、入力軸12aの第1部分12sの回転速度に対して、入力軸12aの第2部分12tの回転速度を遅くするとともに、出力軸14aの第2部分14tと第1部分14sとの間に設けられた第2の増減速装置39の減速比を1/R
0とし、出力軸14aの第1部分14sの回転速度に対して、出力軸14aの第2部分14tの回転速度を遅くすることで、非円形歯車対18側の回転速度を遅くする。これによって、入力軸12aの第1部分12sの回転が高速であっても、変速機本体10と同様に、非円形歯車対18側の噛み合いによって減速比を変化させながら回転を伝達することができる。
【0090】
なお、増減速装置29,39に同じ構成の増減速装置を用い、入力側と出力側を入れ替えて、一方で減速し、他方で増速してもよい。
【0091】
増減速装置29,39により、非円形歯車対18側の回転速度を速くすることも可能である。
【0092】
変速機本体10aの減速比は、増減速装置29,39と非円形歯車対18とによって全体として切り換えればよいので、入力軸12a側に設ける第1の増減速装置29の減速比R
inと、出力軸14a側に設ける第2の増減速装置39の減速比R
outとが、R
in×R
out=1とならなくてもかまわない。
【0093】
例えば、第1の歯車対16の減速比がR1、第2の歯車対17の減速比がR2、非円形歯車対18のある区間の減速比がR1'、非円形歯車対18の他の区間の減速比がR2'とすると、次の2つの式、
R1=R
in×R1'×R
out (1)
R2=R
in×R2'×R
out (2)
を満たせば、変速機本体10aの減速比を、R1からR2、又はR2からR1に切り換えることができる。
【0094】
変速機本体10では、入力が高速回転であると、クラッチの切り換え動作をすべき時間が短くなり、減速比の切り換えが困難になる場合がある。
【0095】
これに対し、変速機本体10aは、入力が高速回転であっても、適宜な減速比の増減速装置29,39により非円形歯車対18の回転を遅くすることで、クラッチの切り換え動作をすべき時間を長くすることができるので、容易に減速比を変えることができる。
【0096】
逆に、入力が低速回転である場合には、適宜な減速比の増減速装置29,39により非円形歯車対18の回転を速くすることで、減速比の切り換えに要する時間を短縮することができる。
【0097】
また、非円形歯車対18の設計の自由度を高くすることも可能である。
【0098】
非円形歯車対用クラッチは、第1の増減速装置29と入力軸12aの第2部分12tと非円形歯車対18と出力軸14aの第2部分14tと第2の増減速装置39とを介して入力軸12aの第1部分12sと出力軸14aの第1部分14sとの間を解除可能に連結すればよい。そのため、例えば、非円形歯車対用クラッチは、入力軸12aの第1部分12sと第1の増減速装置29との間、第1の増減速装置29と入力軸12aの第2部分12tとの間、出力軸14aの第2部分14tと第2の増減速装置39との間、又は第2の増減速装置39と出力軸14aの第1部分14sとの間に設けることもできる。この場合、非円形歯車対18が常に入力軸12aの第2部分12tと出力軸14aの第2部分14tとの間に連結された構成にすることができる。
【0099】
<まとめ> 以上に説明したように、非円形歯車対を備えた変速機が、限定トルク伝達装置をさらに備えることにより、変速機本体にかかるトルクが抑制されるので、変速機本体の強度設計が容易になり、変速機本体を小型化することができる。
【0100】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0101】
例えば、変速機本体は、3つ以上の歯車対や、2つ以上の非円形歯車対を備えてもよい。