特許第5791026号(P5791026)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

<>
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000002
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000003
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000004
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000005
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000006
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000007
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000008
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000009
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000010
  • 特許5791026-紫外光検出デバイス及びその製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791026
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】紫外光検出デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/108 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   H01L31/10 C
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-45788(P2011-45788)
(22)【出願日】2011年3月3日
(65)【公開番号】特開2012-182396(P2012-182396A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2014年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】角谷 正友
(72)【発明者】
【氏名】サン リウエン
(72)【発明者】
【氏名】リャオ メイヨン
(72)【発明者】
【氏名】小出 康夫
【審査官】 堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−302928(JP,A)
【文献】 特開平11−195810(JP,A)
【文献】 特開2000−58942(JP,A)
【文献】 特開2010−181373(JP,A)
【文献】 特開平7−153989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/08 − 31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族化合物薄膜からなり、紫外光照射面を有する紫外光検出層と、前記紫外光検出層の一面に形成された絶縁部と、前記絶縁部の一面に形成された第1及び第2の電極部と、を有する紫外光検出デバイスであって、前記絶縁部がII族フッ化物であり、前記絶縁部の厚さが20nm以下であり、前記2つの電極部はそれぞれ平面視くし形とされ、くし部がそれぞれ相互に互い違いになるように対向配置されており、前記電極部間の最短間隔が10μmとされていることを特徴とする紫外光検出デバイス。
【請求項2】
前記II族フッ化物がCaF、MgF又はBaFのいずれか一の化合物であることを特徴とする請求項に記載の紫外光検出デバイス。
【請求項3】
前記III−V族化合物がIII族窒化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外光検出デバイス。
【請求項4】
前記III族窒化物がInGaN、GaN、AlGaN、AlInN又はAlInGaNのいずれか一の化合物であることを特徴とする請求項に記載の紫外光検出素子。
【請求項5】
前記第1及び第2の電極部が、仕事関数が4.5eV以上であり、融点が1000℃以上である金属又は合金を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の紫外光検出デバイス。
【請求項6】
前記金属又は合金が、Ni、Au、Pt、Pd、W、Cr、Ir又はMoのいずれか一の金属又は前記金属を含む合金であることを特徴とする請求項に記載の紫外光検出デバイス。
【請求項7】
MOCVD、MBE、HVPE又はLPEのいずれか一の方法を用いて、基板にIII−V族化合物薄膜からなる紫外光検出層を形成する工程と、
スパッタ法又はCVD法を用いて、前記紫外光検出層の一面にII族フッ化物を20nm以下の膜厚で形成して、絶縁部を形成する工程と、
電子ビーム法又は蒸着法を用いて、前記絶縁部の一面に第1及び第2の電極部をそれぞれ平面視くし形で、くし部がそれぞれ相互に互い違いになるように対向配置し、最短間隔が10μmとなるように形成する工程と、を有することを特徴とする紫外光検出デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光検出デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外光検出デバイスは、紫外光検出層に接続されたショットキー電極を介して得られる光電流電圧特性から、紫外光検出層に入射された紫外光の強度を算出可能なデバイスである。
紫外光検出デバイスとして、従来、紫外光検出部にSiを用いたフォトダイオードがある。しかし、Siはバンドギャップの点から、紫外光に対して感度が低く、紫外光検出デバイスとして適当でないという問題があった。
【0003】
近年、紫外光検出層にInGaN薄膜のようなIII−V族窒化物薄膜を用いることが検討されている。III−V族窒化物薄膜からなる半導体薄膜は、紫外光を検出するのに適したバンドギャップを有しているためである。
【0004】
しかし、InGaN薄膜は転位密度及び残留キャリア濃度が高く、リーク電流が大きいという問題があった。大きなリーク電流は、破壊電圧を低下させてデバイスとしての信頼性を低下させるという問題を発生させた。
また、InGaN薄膜の高い転位密度及び高い残留キャリア濃度は、紫外光照射をした場合としない場合の電流値の差を小さくして、SN比を低下させるという問題を発生させた。
【0005】
また、InGaN薄膜の高い転位密度及び高い残留キャリア濃度は、紫外光照射した場合と可視光照射した場合の感度(Responsivity(A/W))の差を小さくしてon/off比を低下させるという問題も発生させた。
なお、感度は、光電流(A/cm)を光量(W/cm)で割った値である。また、感度をエネルギー(eV単位)の逆数で割った値をゲイン(Gain)と呼称する。ゲインは、デバイスに印加する電圧によって変化する。
【0006】
また、InGaN薄膜の高い転位密度及び高い残留キャリア濃度は、紫外光検出デバイスに対して紫外光照射をやめた後でも、光電流の流れを完全に止めることなく、一定時間光電流を流し続けるという問題もあった。一般に、この電流は永久光電流(persistent photocurrent:PPC)と呼称される。
永久光電流の流れ続ける時間が長いと、光電流の応答速度を速めることができないという問題を発生させた。
【0007】
紫外光検出デバイスの特性改善に関して、以下の報告がある。
例えば、非特許文献1には、InGaN/GaN量子井戸構造の薄膜と電極との間にSiOの絶縁層を挿入することが記載されている。また、非特許文献2、3には、InGaN/GaN量子井戸構造の薄膜と電極との間にSiの絶縁層を挿入することが記載されている。更に、非特許文献4、5には、InGaN/GaN量子井戸構造の薄膜と電極との間にMgをドープしたGaNの絶縁層を挿入することが記載されている。
【0008】
非特許文献6には、pn接合中にInGaN−GaN量子井戸構造を使うことで、−5Vのときに暗電流を10−5Aと極端に抑制できることが記載されている。また、非特許文献7には、n−GaNとショットキー電極(Ni/Au)との間にp−GaNを使うことで、5Vのときに感度が0.37A/Wと向上することが記載されている。更に、非特許文献8には、CFプラズマでAlGaN/GaN界面を処理すると永久光電流が抑制できることが記載されている。
しかし、これらの文献に記載された技術を用いても、先に記載した問題を解決できず、特性を十分改善することはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】P.C.Chang,et al.,Jpn.J.Appl.Phys.,43,2008(2004)
【非特許文献2】D.J.Chen,et al.,IEEE Electron Dev.Lett.,6,605(2009)
【非特許文献3】J.J.Zhou,et al.,Chinese Phys., 16,2120(2007)
【非特許文献4】P.C.Chang,et al.,Appl.Phys.Lett.,91,141113(2007)
【非特許文献5】C.L.Yu,et al.,IEEE Photonic Tech L.,19,846(2007).
【非特許文献6】Yu−Zung Chiou,et.al,“High Detectivity InGaN−GaN Multiquantum Well p−n Junction Photodiodes”,IEEE Journal of quantum electronics,39 681(2003)
【非特許文献7】S.J.Chang,C.L.Yu,R.W.Chuang,P.C.Chang,Y.C.Lin,Y.W.Jhan,and C.H.Chen,“Nitride−Based MIS−Like Photodiodes With Semiinsulation Mg−Doped GaN Cap Layers”IEEE SENSOR JOURNAL,6,1043(2006)
【非特許文献8】B.K.Li,W.K.Ge,J.N.Wang,and K.J.Chen,“Persistent photoconductivity and carrier transport in AlGaN/GaN heterostructures treated by fluorine palsma”,Appl.Phys.Lett.92,082105(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、破壊電圧及び感度を高め、永久光電流を抑制して、SN比、on/off比及び応答速度を高めた紫外光検出デバイス及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成を有する。
本発明の紫外光検出デバイスは、III−V族化合物薄膜からなり、紫外光照射面を有する紫外光検出層と、前記紫外光検出層の一面に形成された絶縁部と、前記絶縁部の一面に形成された第1及び第2の電極部と、を有する紫外光検出デバイスであって、前記絶縁部がII族フッ化物であり、前記絶縁部の厚さが20nm以下であり、前記2つの電極部はそれぞれ平面視くし形とされ、くし部がそれぞれ相互に互い違いになるように対向配置されており、前記電極部間の最短間隔が10μmとされていることを特徴とする。
【0012】
発明の紫外光検出デバイスは、前記II族フッ化物がCaF、MgF又はBaFのいずれか一の化合物であることが好ましい
【0013】
本発明の紫外光検出デバイスは、前記III−V族化合物がIII族窒化物であることが好ましい。
本発明の紫外光検出デバイスは、前記III族窒化物がInGaN、GaN、AlGaN、AlInN又はAlInGaNのいずれか一の化合物であることが好ましい。
本発明の紫外光検出デバイスは、前記第1及び第2の電極部が、仕事関数が4.5eV以上であり、融点が1000℃以上である金属又は合金を有することが好ましい。
【0014】
本発明の紫外光検出デバイスは、前記金属又は合金が、Ni、Au、Pt、Pd、W、Cr、Ir又はMoのいずれか一の金属又は前記金属を含む合金であることが好ましい。
本発明の紫外光検出デバイスの製造方法は、MOCVD、MBE、HVPE又はLPEのいずれか一の方法を用いて、基板にIII−V族化合物薄膜からなる紫外光検出層を形成する工程と、スパッタ法又はCVD法を用いて、前記紫外光検出層の一面にII族フッ化物を20nm以下の膜厚で形成して、絶縁部を形成する工程と、電子ビーム法又は蒸着法を用いて、前記絶縁部の一面に第1及び第2の電極部をそれぞれ平面視くし形で、くし部がそれぞれ相互に互い違いになるように対向配置し、最短間隔が10μmとなるように形成する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の効果】
【0015】
本発明の紫外光検出デバイスは、III−V族化合物薄膜からなり、紫外光照射面を有する紫外光検出層と、前記紫外光検出層の一面に形成された絶縁部と、前記絶縁部の一面に形成された第1及び第2の電極部と、を有する紫外光検出デバイスであって、前記絶縁部がII−VII族化合物である構成なので、破壊電圧及び感度を高め、永久光電流を抑制して、SN比、on/off比及び応答速度を高めることができる。
【0016】
本発明の紫外光検出デバイスの製造方法は、MOCVD、MBE、HVPE又はLPEのいずれか一の方法を用いて、基板にIII−V族化合物薄膜からなる紫外光検出層を形成する工程と、スパッタ法又はCVD法を用いて、前記紫外光検出層の一面にII−VII族化合物を20nm以下の膜厚で形成して、絶縁部を形成する工程と、電子ビーム法又は蒸着法を用いて、前記絶縁部の一面に第1及び第2の電極部を形成する工程と、を有する構成なので、破壊電圧及び感度を高め、永久光電流を抑制して、SN比、on/off比及び応答速度を高めた紫外光検出デバイスを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の紫外光検出デバイスの一例を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は平面図であり、(c)は側面図である。
図2】実施例1の紫外光検出デバイスを示す斜視図である。
図3】InGaN層の(0002)面のX線回折(XRD)の2θ−ωスキャンである。
図4】InGaN層の(0002)面のXRDロッキングカーブである。
図5】InGaN層の(10−11)面XRDロッキングカーブである。
図6】実施例1及び比較例1の紫外光検出デバイスの暗電流−電圧特性である。
図7】実施例1の紫外光検出デバイスのI−V特性であって、紫外光(338nm)照射下の光電流及び暗電流を示すグラフである。挿入図は光電流の感度−電圧特性である。
図8】紫外光(338nm)照射下の、メカニカルチョッピング(mechanical chopping)法で得られた光電流の時間応答依存性である。
図9】100Hzのchopping周波数、0.1Vのバイアス電圧での過渡反応時間測定である。
図10】キセノン光照射下、1Vの印加電圧時の実施例1の紫外光検出デバイスの光電流スペクトルの波長依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である紫外光検出デバイス及びその製造方法について説明する。
【0019】
(本発明の実施形態)
<紫外光検出デバイス>
図1は、本発明の実施形態である紫外光検出デバイスの一例を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は平面図であり、(c)は側面図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11は、基板21と、基板21に形成された紫外光検出層22と、紫外光検出層22の一面22aに形成された絶縁部23と、絶縁部23の一面23aに形成された第1及び第2の電極部31、32と、を有して概略構成されている。なお、紫外光検出層22は、紫外光照射面35を有しており、紫外光照射可能とされている。
紫外光検出デバイス11は、金属−半導体−金属(metal−semiconductor−metal:MSM)型のデバイスである。
【0020】
絶縁部23は、II−VII族化合物からなる絶縁層である。II−VII族化合物はワイドギャップ材料であるので、ショットキー電極と半導体層との間で、絶縁層たる絶縁部23を形成することができる。絶縁部23を形成することにより、リーク電流を抑え、光電流の流れを効率的に制御し、破壊電圧を高めることができる。
また、II−VII族化合物を用いることにより、界面準位を低減することができるとともに、空乏層内に存在する欠陥を制御することができ、光電流−電圧特性を向上させることができる。
【0021】
前記II−VII族化合物がII族フッ化物であることが好ましい。より具体的には、前記II族フッ化物がCaF、MgF又はBaFのいずれか一の化合物であることが好ましい。これにより、よりリーク電流を抑え、より破壊電圧を高めることができる。
【0022】
絶縁部23をII−VII族化合物からなる絶縁層で形成することにより、紫外光照射をしていない状態では、絶縁性を高く保ち、暗電流の発生を抑制するとともに、紫外光照射下においては光電流を容易に流すことが可能となる。これにより、紫外光照射下の光電流と暗電流の電流値の差を大きくすることができ、S/N比を向上させることができる。
【0023】
絶縁部23の厚さが20nm以下であることが好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましい。絶縁部23の厚さが20nm以下とすることにより、紫外光照射をしていない状態では、絶縁性を高く保ち、暗電流の発生を抑制するとともに、紫外光照射下においては光電流を容易に流す効果を高めることができる。
絶縁部23は完全な膜として形成されていてもよいが、アイランド状に形成されていてもよい。アイランド状に形成されていても、紫外光照射をしていない状態では、絶縁性を高く保ち、暗電流の発生を抑制するとともに、紫外光照射下においては光電流を容易に流す効果を高めることができる。
【0024】
なお、図1では、絶縁部23は、第1及び第2の電極部31、32の紫外光照射層22側のみに形成されているが、紫外光照射層22の一面を覆うように形成されていてもよい。紫外光照射層22の一面を覆うように形成しても、厚さが20nm以下であるので、紫外光照射面35への紫外光照射を妨げることがなく、紫外光検出デバイスの光電流−電圧特性等を低下させることはない。
【0025】
紫外光検出層22は、III−V族化合物薄膜からなる。III−V族化合物はUVA領域(波長:320−400nm)の紫外光を検出するのに適したバンドギャップ(3eV程度)を有しているので、紫外光照射下において、光電流を効率的に発生させることができる。
前記II−VII族化合物がIII族窒化物であることが好ましい。より具体的には、前記III族窒化物がInGaN、GaN、AlGaN、AlInN又はAlInGaNのいずれか一の化合物であることが好ましい。
例えば、III−V族窒化物薄膜はIII族(Al、Ga、In)の混晶比を制御することで、検出する紫外光の波長範囲を自由に制御可能である。また、In10%、Ga90%程度の混晶比を持つIn0.1Ga0.9Nからなる半導体薄膜は、紫外光の95%を占めるUVA領域(波長:320−400nm)の紫外光を検出するのに適したバンドギャップ(3eV程度)を有している。
【0026】
第1及び第2の電極部31、32が、仕事関数が4.5eV以上であり、融点が1000℃以上である金属又は合金を有することが好ましい。仕事関数が4.5eV以上の金属又は合金を有することにより、ショットキー電極を形成することができ、光電流−電圧特性を安定させることができる。また、融点が1000℃以上である金属又は合金を有することにより、温度変化に伴う特性の劣化を抑制することができる。更に、高温で使用可能なデバイスとすることができる。
【0027】
前記金属又は合金が、Ni、Au、Pt、Pd、W、Cr、Ir又はMoのいずれか一の金属又は前記金属を含む合金であることが好ましい。
これらの金属は、仕事関数はNi(5.15eV)、Au(5.1eV)、Pt(5.65eV)、Pd(5.1、5.6(111))、W(4.55eV)、Cr(4.5eV)、Ir(5.27eV)又はMo(4.6eV)であり、すべて、4.5eV以上である。また、融点はNi(1453℃)、Au(1064℃)、Pt(1772℃)、Pd(1554℃)、W(3410℃)、Cr(1857℃)、Ir(2419℃)又はMo(2617℃)であり、1000℃以上であるためである。
合金としては、例えば、WCを挙げることができる。仕事関数は4.5eVであり、融点は2800℃である。
【0028】
第1及び第2の電極部31、32は、これらの金属を含む合金から構成してもよい。
また、多層構造として形成してもよい。例えば、図1に示すように、絶縁部23の上に第1の金属24を形成し、第1の金属24上に第2の金属25を形成した2層構造として第1及び第2の電極部31、32を形成してもよい。例えば、第1の金属24としてNiを用い、第2の金属25としてAuを用いることができる。
また、第1及び第2の電極部31、32は互いに異なる材料で形成してもよい。
【0029】
なお、本実施形態では、MSM型デバイスを例示したが、これに限られるものではなく、pn型デバイス又はpin(p−intrinsic−n)型デバイスに適用してもよい。
【0030】
<紫外光検出デバイスの製造方法>
本発明の実施形態である紫外光検出デバイスの製造方法は、紫外光検出層形成工程(第1工程)と、絶縁部を形成する工程(第2工程)と、第1及び第2の電極部を形成する工程(第3工程)と、を有する。
【0031】
(第1工程)
第1工程は、有機金属化学堆積法(MOCVD)、MBE(molecular beam epitaxy)、HVPE(hydride vapor phase epitaxy)又はLPE(liquid vapor epitaxy)のいずれか一の方法を用いて、基板にIII−V族化合物薄膜からなる紫外光検出層を形成する工程である。
MOCVD法により形成することが好ましい。MOCVD法を用いることにより、III−V族化合物薄膜の平坦性を高めることができるとともに、密着性を高めて形成することができ、III−V族化合物薄膜の品質を向上させることができる。これにより、紫外光検出デバイスの光電流−電圧特性等を向上させることができる。
なお、通常、サファイア基板等の平坦性の高い基板の一面に、バッファー層としてGaN薄膜を形成してから、紫外光検出層として用いるInGaN薄膜を形成する。バッファー層を形成することにより、InGaN薄膜の平坦性を高め、品質を向上させることができる。
【0032】
(第2工程)
第2工程は、スパッタ法又はCVD法を用いて、前記薄膜の一面にII−VII族化合物を20nm以下の膜厚で形成して、絶縁部を形成する工程である。
前記II−VII族化合物がII族フッ化物であることが好ましく、CaF、MgF又はBaFのいずれか一の化合物であることが好ましい。これにより、よりリーク電流を抑え、より破壊電圧を高めることができる。
【0033】
(第3工程)
第2工程は、電子ビーム法又は蒸着法を用いて、前記絶縁部の一面に第1及び第2の電極部を形成する工程である。
前記絶縁部の一面に所定の形状のマスクを配置して、電子ビーム法等により、仕事関数が4.5eV以上であり、融点が1000℃以上である金属、例えば、Ni、Au、Pt、Pd、W、Cr、Ir又はMoのいずれか一の金属又は前記金属を含む合金を成膜することによって、ショットキー電極となる第1及び第2の電極部を形成できる。
以上の工程により、本発明の実施形態である紫外光検出デバイスを製造することができる。
【0034】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11は、III−V族化合物薄膜からなり、紫外光照射面35を有する紫外光検出層22と、紫外光検出層22の一面22aに形成された絶縁部23と、絶縁部23の一面23aに形成された第1及び第2の電極部31、32と、を有する紫外光検出デバイスであって、絶縁部23がII−VII族化合物である構成なので、紫外光照射をしていない状態では、絶縁性を高く保ち、暗電流の発生を抑制するとともに、紫外光照射下においては光電流を容易に流すことが可能となる。これにより、紫外光照射下の光電流と暗電流の電流値の差を大きくすることができ、S/N比を向上させることができる。また、破壊電圧及び感度を高め、永久光電流を抑制して、on/off比及び応答速度を高めることができる。
【0035】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11は、前記II−VII族化合物がII族フッ化物である構成なので、紫外光照射をしていない状態では、絶縁性を高く保ち、暗電流の発生を抑制するとともに、紫外光照射下においては光電流を容易に流すことが可能となる。これにより、紫外光照射下の光電流と暗電流の電流値の差を大きくすることができ、S/N比を向上させることができる。また、破壊電圧を高め、永久光電流を抑制して、on/off比及び応答速度を高めることができる。
【0036】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11は、前記II族フッ化物がCaF、MgF又はBaFのいずれか一の化合物である構成なので、紫外光照射をしていない状態では、絶縁性を高く保ち、暗電流の発生を抑制するとともに、紫外光照射下においては光電流を容易に流すことが可能となる。これにより、紫外光照射下の光電流と暗電流の電流値の差を大きくすることができ、S/N比を向上させることができる。また、破壊電圧を高め、永久光電流を抑制して、on/off比及び応答速度を高めることができる。
【0037】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11は、絶縁部23の厚さが20nm以下である構成なので、紫外光照射をしていない状態では、絶縁性を高く保ち、暗電流の発生を抑制するとともに、紫外光照射下においては光電流を容易に流すことが可能となる。これにより、紫外光照射下の光電流と暗電流の電流値の差を大きくすることができ、S/N比を向上させることができる。また、破壊電圧を高め、永久光電流を抑制して、on/off比及び応答速度を高めることができる。
【0038】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11は、前記III−V族化合物がIII族窒化物である構成なので、紫外光を検出するのに適したバンドギャップ(3eV程度)を有し、紫外光照射下において、光電流を効率的に発生させることができ、感度を高めることができ、SN比、on/off比及び応答速度を高めることができる。また、混晶比を制御することで、検出する紫外線の波長範囲を自由に制御できる。
【0039】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11は、前記III族窒化物がInGaN、GaN、AlGaN、AlInN又はAlInGaNのいずれか一の化合物である構成なので、紫外光を検出するのに適したバンドギャップ(3eV程度)を有し、紫外光照射下において、光電流を効率的に発生させることができ、SN比、on/off比及び応答速度を高めることができる。また、混晶比を制御することで、検出する紫外線の波長範囲を自由に制御できる。
【0040】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11は、第1及び第2の電極部31、32が、仕事関数が4.5eV以上であり、融点が1000℃以上である金属又は合金を有する構成なので、ショットキー電極を形成することができるとともに、温度変化に伴う特性の劣化を抑制することができる。更に、高温で使用可能なデバイスとすることができる。
【0041】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11は、前記金属又は合金が、Ni、Au、Pt、Pd、W、Cr、Ir又はMoのいずれか一の金属又は前記金属を含む合金である構成なので、ショットキー電極を形成することができるとともに、温度変化に伴う特性の劣化を抑制することができる。更に、高温で使用可能なデバイスとすることができる。
【0042】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス11の製造方法は、MOCVD、MBE、HVPE又はLPEのいずれか一の方法を用いて、基板21にIII−V族化合物薄膜からなる紫外光検出層22を形成する工程と、スパッタ法又はCVD法を用いて、紫外光検出層22の一面22aにII−VII族化合物を20nm以下の膜厚で形成して、絶縁部23を形成する工程と、電子ビーム法又は蒸着法を用いて、絶縁部23の一面23aに第1及び第2の電極部31、32を形成する工程と、を有する構成なので、破壊電圧及び感度を高め、永久光電流を抑制し、SN比、on/off比及び応答速度を高めた紫外光検出デバイスを容易に製造することができる。
【0043】
本発明の実施形態である紫外光検出デバイス及びその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
<紫外光検出デバイスの作製>
金属−半導体−金属(metal−semiconductor−metal:MSM)型InGaN薄膜からなる紫外光検出デバイスを、次のようにして作製した。
まず、所定の大きさのサファイア基板を用意した。
次に、有機金属化学堆積法(MOCVD)により、前記サファイア基板上にバッファー層としてGaN薄膜を成長させた。具体的には、まず、MOCVD装置のチャンバー内に、c面を上にして前記サファイア基板を配置した。次に、前記チャンバー内を減圧してから、トリメチルGaと、アンモニアガスを反応装置に導入して、c面サファイア基板上に1μm膜厚のGaN薄膜を成長した。
【0045】
続いて、有機金属化学堆積法(MOCVD)により、前記サファイア基板上に紫外線検出層としてInGaN薄膜を成長させた。具体的には、まず、前記チャンバー内を減圧した状態で、トリメチルGaと、トリメチルInと、アンモニアガスを反応装置に導入して、前記サファイア基板上のGaN薄膜の一面上に300nm膜厚のInGaN薄膜を成長した。なお、この際、トリメチルGaとトリメチルInの量を調節して、InGaN薄膜の組成をIn0.1Ga0.9Nに制御した。
【0046】
次に、スパッタ法により、InGaN薄膜上に5nm膜厚のCaF層を堆積した。
次に、電子ビーム蒸着法により、CaF層上に20nm膜厚のNi及び20nm膜厚のAuをこの順序で堆積した。これにより、Ni(厚さ20nm)/Au(厚さ20nm)からなる2層型のショットキー電極を2つ形成した。
【0047】
なお、前記2つのショットキー電極はそれぞれ幅が10μmの平面視略くし状とした。2つのくし部の凹凸を、間隔が10μmとなるように、互いに組み合わせて配置した。受光面積は5.2×10−2mmとした。
以上の工程により、図2に示す実施例1の紫外光検出デバイスを作製した。
【0048】
(比較例1)
CaF層を設けない他は実施例1と同様にして、比較例1の紫外光検出デバイスを作製した。
【0049】
<紫外光検出デバイスの評価>
次に、実施例1及び比較例1の紫外光検出デバイスの評価を行った。
図3は、実施例1の試料のInGaN層の(0002)面のX線回折(XRD)の2θ−ωスキャンである。
34.55degにGaNのピークがあり、34.2degにInGaNのピークが見られた。34.4deg付近及び34.1deg付近に干渉縞に基づくシグナルが見られた。これにより、GaNとInGaNの各層がそれぞれ平坦であり、密着して接合していることが分かった。
【0050】
図4は、InGaN層の(0002)面のXRDロッキングカーブである。InGaN層の半値幅は317(arcsec)であり、結晶性が高い膜が形成できたことを示した。
【0051】
図5は、InGaN層の(10−11)面のXRDロッキングカーブである。InGaN層の半値幅は458(arcsec)であり、結晶性が高い膜が形成できたことを示した。
【0052】
図6は、実施例1及び比較例1の紫外光検出デバイスの暗電流−電圧特性である。
比較例1の紫外光検出デバイスでは、印加電圧を0Vから3Vにすると暗電流が1E−13(A)から1E−4(A)となり、3Vから10Vでは暗電流は1E−4(A)でほとんど一定となった。
一方、実施例1の紫外光検出デバイスでは、10Vでも1E−5(A)と暗電流は流れにくくなった。
5Vの値で比較すると、比較例1の紫外光検出デバイスの暗電流値は、1.12×10−4Aであり、実施例1の紫外光検出デバイスは、1.47×10−10Aであった。
5V未満の低電圧側では熱電子放出(Thermonic field emission:TFE)理論に支配され、5V以上の高電圧側ではトラップアシストトンネリング(Trap assisted tunnelling:TAT)理論に支配されると考え、行ったシミュレーション結果と測定結果はほぼ一致した。
この暗電流の電圧依存性から、III族窒化物デバイスにおいて、CaFが絶縁層として有効に機能し、CaFは印加電圧に応じて低電圧時には絶縁層として機能し、高電圧時にはトラップを介して電流が流れる材料であることが分かった。
【0053】
図7は、実施例1の紫外光検出デバイスのI−V特性であって、紫外光(338nm)照射下の光電流及び暗電流を示すグラフである。挿入図は光電流の感度−電圧特性である。
実施例1の紫外光検出デバイスでは、紫外光(338nm)照射下の光電流は0.1Vで1E−7(A)となり、1Vで1E−6(A)となり、光電流は多く流れた。一方、暗電流は0.1Vで1E−14(A)であり、1.5Vで1E−12(A)であり、暗電流はほとんど流れなかった。これにより、SN比(signal−to−noise ratio)は大きく改善した。また、CaFを挿入することによってリーク電流が抑えられた。
また、紫外光(338nm)照射下の光電流の感度は印加電圧に対し線形に依存した。2Vのバイアス時には10.4A/W(gain 40)、6桁のon/off比を実現した。
CaFは界面に深い準位を形成しないために、AlGaNやダイヤモンドでも得られなかった高いゲインが得られたと推察した。
【0054】
図8は、紫外光(338nm)照射下の、メカニカルチョッピング(mechanical chopping)法で得られた光電流の時間応答依存性である。
紫外光が機械的に遮断されると、0.3s以内に3×E−6(A)から1E−9(A)へ電流値が下がった。
永久光電流は、図8において「スローコンポーネント」と記した部分である。
【0055】
図9は、チョッピング(chopping)周波数100Hzでの光感度を示すグラフである。1MΩのインピーダンスを有するオシロスコープ(Tektronix(TDS 5000B))を用い、350MHzで測定した。また、バイアス電圧は0.1V又は5Vとした。
バイアス電圧は0.1Vの場合、紫外光が機械的に照射されると747μs以内の立ち上がり応答時間(rising response time)で、光感度はベース値から最大値まで上昇した。バイアス電圧5Vの場合、立ち上がり応答時間は1.68msecであった。
CaFは界面に深い準位を形成しないために、AlGaNやダイヤモンドでも得られなかった早い立ち上がり応答時間(747μs)が得られたと推察した。
【0056】
図10は、キセノン光照射下、印加電圧1Vで測定された光電流スペクトルである。
高感度、高応答速度に加えて、実施例1の紫外光検出デバイスは、紫外光(338nm) の感度が4×E5(a.u.)であるのに対し、可視光での感度が4×E−1(a.u.)であり、紫外光(338nm)と可視光での感度の差が6桁以上であった。このような大きな差を有する紫外光検出デバイスについてはこれまで報告がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の紫外光検出デバイス及びその製造方法は、電極/半導体界面への絶縁層挿入の構成を有し、破壊電圧及び感度を高め、永久光電流を抑制して、SN比、on/off比及び応答速度を高めた紫外光検出デバイスに関するものであり、紫外光検出デバイスをはじめとする光デバイス製造産業において利用可能性がある。また、本構成に基づく、III−V族窒化物薄膜界面を利用した受光デバイスでの光誘起電流の輸送に関する知見は、同じ受光デバイスであるIII−V族窒化物薄膜太陽電池の高効率化に展開できる。更に、本構成は発光デバイス及びトランジスターへの応用が期待できる。
【符号の説明】
【0058】
11…紫外光検出デバイス、21…基板、22…紫外線検出層、22a…一面、23…絶縁部、23a…一面、24…第1の金属、25…第2の金属、31…第1の電極部、32…第2の電極部、35…紫外線照射面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10