特許第5791057号(P5791057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791057
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】環境に優しい木材処理方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 3/02 20060101AFI20150917BHJP
   B27K 3/20 20060101ALI20150917BHJP
   B27K 3/32 20060101ALI20150917BHJP
   B27K 3/52 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   B27K3/02 C
   B27K3/02 B
   B27K3/20
   B27K3/32
   B27K3/52 A
   B27K3/52 B
【請求項の数】30
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-540412(P2013-540412)
(86)(22)【出願日】2011年11月28日
(65)【公表番号】特表2013-543808(P2013-543808A)
(43)【公表日】2013年12月9日
(86)【国際出願番号】EP2011071204
(87)【国際公開番号】WO2012072592
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2013年5月29日
(31)【優先権主張番号】1051256-4
(32)【優先日】2010年11月29日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】514020530
【氏名又は名称】オルガノウッド エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヘルブリング、マーティン
(72)【発明者】
【氏名】オールン、アンナ
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−152773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 − 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防火特性を改善し、腐敗、菌類、カビおよび昆虫に対する木材の耐性を高める木材処理方法であって、
木材は、水性製剤で処理され、
a)木材を用意する段階と、
b)室温または摂氏15度から摂氏35度の範囲内の温度で安定している水性製剤であって、アルカリ金属ケイ酸塩、水および不溶化剤を含む水性製剤を用意する段階と、
c)前記水性製剤を前記木材に塗布する段階と、
d)余分な水を除去するべく、前記水性製剤で処理した前記木材を任意の所定の温度で乾燥させる段階と、
e)前記アルカリ金属ケイ酸塩を不溶化するべく、乾燥させた前記木材を高温で硬化させる段階と
を備え、
前記不溶化剤は、有機酸、無機酸または無機多価イオンから選択され、前記不溶化剤は、前記水性製剤がゲル化点に到達するために必要な不溶化剤の量より少ない量で添加され、前記無機多価イオンは、Al3+、Mg2+、Fe2+、Fe3+、Ca2+、Ba2+、または、対イオンを持つCaCl2、MgCl2、FeCl2あるいはこれらの組み合わせから選択され、前記水性製剤の総重量パーセントに対する前記アルカリ金属ケイ酸塩の重量パーセントが、1%w/wから50%w/wであり、前記水性製剤は、さらに、湿潤剤および/またはレオロジー調整剤を含む木材処理方法。
【請求項2】
前記水性製剤の総重量パーセントに対する前記アルカリ金属ケイ酸塩の重量パーセントは、5%w/wから30%w/wである請求項1に記載の木材処理方法。
【請求項3】
前記水性製剤の総重量パーセントに対する前記アルカリ金属ケイ酸塩の重量パーセントは、10%w/wから20%w/wである請求項2に記載の木材処理方法。
【請求項4】
防火特性を改善し、腐敗、菌類、カビおよび昆虫に対する木材の耐性を高めるべく加圧含侵法を利用する木材処理方法であって、木材は、水性製剤で処理され、
a)木材を用意して、前記木材を真空加圧含侵容器内に載置する段階と、
b)室温または摂氏15度から摂氏35度の範囲内の温度で安定している水性製剤であって、実質的にアルカリ金属ケイ酸塩、水、不溶化剤から成る水性製剤を用意する段階と、
c)前記水性製剤を前記真空加圧含侵容器に追加することによって、前記水性製剤を前記木材に塗布する段階と、
d)前記真空加圧含侵容器および内容物を、90%を超える真空で10分間から40分間にわたって処理する段階と、
e)前記真空加圧含侵容器および内容物を、6バールから16バールの圧力で20分間から12時間にわたって処理する段階と、
f)前記真空加圧含侵容器および内容物を、90%を超える真空で10分間から40分間にわたって処理する段階と、
g)余分な水を除去するべく、前記水性製剤で処理された前記木材を任意の所定の温度で乾燥させる段階と、
h)前記アルカリ金属ケイ酸塩を不溶化するべく、乾燥させた前記木材を高温で硬化させる段階と
を備え、
前記不溶化剤は、有機酸、無機酸または無機多価イオンから選択され、前記不溶化剤は、前記水性製剤がゲル化点に到達するために必要な前記不溶化剤の量より少ない量で添加され、前記水性製剤は、さらに、湿潤剤および/またはレオロジー調整剤を含む木材処理方法。
【請求項5】
前記水性製剤におけるアルカリ金属と、ケイ酸塩とのモル比(XM:SiO4−)は、0.1:1から2:1の範囲内である請求項1から4の何れか一項に記載の木材処理方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属と、前記ケイ酸塩とのモル比(XM:SiO4−)は、0.5:1から0.8:1の範囲内である請求項5に記載の木材処理方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属と、前記ケイ酸塩とのモル比(XM:SiO4−)は、0.6:1である請求項6に記載の木材処理方法。
【請求項8】
前記不溶化剤は、有機酸であり、分子量は、40g/molから500g/molである請求項1から7の何れか一項に記載の木材処理方法。
【請求項9】
前記不溶化剤は、有機酸であり、分子量は、40g/molから300g/molである請求項8に記載の木材処理方法。
【請求項10】
前記不溶化剤は、酢酸、マンデル酸、クエン酸、酒石酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、蟻酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、シュウ酸、マレイン酸、こはく酸またはグルタル酸、メタンスルホン酸(または、メシル酸、CHSOH)、エタンスルホン酸(または、エシル酸(esylic acid)、CHCHSOH)、ベンゼンスルホン酸(または、ベシル酸(besylic acid)、CSOH)、pトルエンスルホン酸(または、トシル酸(tosylic acid)、CHSOH)または、トリフルオロメタンスルホン酸(または、トリフリン酸(triflic acid)、CFSOH)から選択された有機酸である請求項1からのいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項11】
前記不溶化剤は、無機酸、例えば、塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)といったハロゲン化水素、または、次亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、および、対応する臭素化合物およびヨウ素化合物といったハロゲンオキソ酸のうちいずれかから選択される鉱酸、または、硫酸(HSO)、フルオロ硫酸、硝酸(HNO)、リン酸(HPO)、フルオロアンチモン酸、フルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、クロム酸(HCrO)またはホウ酸(HBO)のうちいずれかから選択される鉱酸である請求項1からのいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属ケイ酸塩は、ケイ酸ナトリウムである請求項5から7の何れか一項に記載の木材処理方法。
【請求項13】
前記有機酸と前記ケイ酸ナトリウムとの間の適切なモル比は、1:18から1:100である請求項12に記載の木材処理方法。
【請求項14】
前記ケイ酸ナトリウムは、Na対SiO4−のモル比が0.6:1であり、前記水性製剤はpHが11より高い請求項13に記載の木材処理方法。
【請求項15】
利用される前記不溶化剤の量は、前記水性製剤が前記ゲル化点に到達するために必要な前記不溶化剤の量より少なくとも10重量パーセント少ない請求項1から14のいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項16】
前記水性製剤で用いられる前記不溶化剤の量は、処理すべき前記木材の酸性度に応じて選択または調整し、前記木材の酸性度が高くなると、前記水性製剤に必要な前記不溶化剤の量は少なくなる請求項1から15のいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項17】
前記木材は、前記乾燥させる段階の後、前記木材処理方法における前記硬化させる段階が開始される前の時点において、乾燥度が70%以上である請求項1から16のいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項18】
安定した製剤とは、摂氏15度から摂氏35度の範囲内の温度における保存可能期間が1か月よりも長い製剤である請求項1から17のいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項19】
前記乾燥させる段階は、摂氏15度から摂氏70度で実行される請求項1から18の何れか一項に記載の木材処理方法。
【請求項20】
前記乾燥される段階は、摂氏20度から摂氏50度で実行される請求項19に記載の木材処理方法。
【請求項21】
前記硬化させる段階は、摂氏40度と摂氏250度との間の温度で実行される請求項1から20の何れか一項に記載の木材処理方法。
【請求項22】
前記硬化させる段階は、摂氏70度から摂氏120度の範囲内の温度で実行される請求項21に記載の木材処理方法。
【請求項23】
前記硬化させる段階は、摂氏75度から摂氏100度の範囲内の温度で実行される請求項22に記載の木材処理方法。
【請求項24】
前記硬化させる段階は、10分間から60分間にわたって実行される請求項1から23のいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項25】
前記木材は、トウヒ材、マツ材、カンバ材、オーク材、セコイア材、ヒマラヤ杉材、または、合板、ファイバーボード、パーティクルボード等の複合材料、または、ボール紙、段ボール、石膏グレードのボール紙、特殊紙、例えば、ろ紙または印刷用紙、または、パルプモールド等のパルプベースの材料から選択される請求項1から24のいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項26】
前記木材を前記水性製剤に浸漬または浸すことによって、前記木材の表面に対して前記水性製剤を噴射、塗布または塗ることによって、または、通常の真空加圧含侵方式に応じて真空および/または圧力を用いて前記木材に前記水性製剤を含侵させることによって、前記木材に前記水性製剤を塗布する請求項1から25のいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項27】
前記水性製剤はさらに、0.05%から5%(w/w)の濃度で湿潤剤、および/または、0.05%から5%(w/w)の濃度でレオロジー調整剤を含む請求項1から26のいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項28】
防火特性が改善し、腐敗、菌類、カビおよび昆虫に対する耐性が高くなった、請求項1から27のいずれか一項に記載の木材処理方法で処理された木材。
【請求項29】
前記水性製剤は粘度が水よりも高い請求項から27のいずれか一項に記載の木材処理方法。
【請求項30】
前記真空加圧含侵容器および内容物に、0.1atm未満の圧力を加える請求項に記載の木材処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しい木材処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材製品は、建築物および家具を初めとして、数多くの分野で広く利用されている。木材は、再生可能な資源であるので、建築物およびその他の用途で木材の利用を普及させることが強く望まれている。しかし、木材を建築物および屋外用途で利用する際に大きな問題となるのが、木材は本質的に生分解性であり、耐火性が低い点である。腐敗、菌類および昆虫による木材の劣化を食い止め、および/または、耐火性を高めるべく、木材産業はさまざまな化学薬品で木材を処理する。従来、さまざまな殺生物剤および駆除剤、例えば、銅をベースとする塩(例えば、ヒ酸クロム銅(CCA))、ホウ酸塩、コールタールクレオソート等が木材防腐剤として利用されている。同様に、現在広く利用されているさまざまな防火剤は、臭素化化合物またはリン酸塩をベースとしている。しかし、これらの化合物はいずれも、木材から浸出すると、環境に悪影響を与える可能性がある。
【0003】
このため、新しい木材保護手段が過去数十年にわたって研究者の注目を集めている。シリコンは、最も一般的な自然由来の元素の1つであり、本質的に環境に優しい物質であり、多くの用途で人気が高い。このため、アルカリ金属ケイ酸塩で木材を処理する方法が広く研究されている。アルカリ金属ケイ酸塩で処理した木材の難燃性は、19世紀から公知である(例えば、米国特許第63,618号を参照されたい)。最近20年間の間に、さまざまな研究で菌類による腐食に対する木材防腐剤としてのアルカリ金属ケイ酸塩の特性を調査してきた。(マイ・シー(Mai C.)およびエイチ・ミリッツ(H. Militz.)2004、シリコン化合物、無機シリコン化合物およびゾルゲルシステムによる木材の改良(Modification of wood with silicon compounds、inorganic silicon compounds and sol gel systems)レビュー、ウッドサイエンステクノロジー、37:339−348)、を参照されたい。)しかし、アルカリ金属ケイ酸塩を木材防腐剤として利用する場合には、水溶性が大きな問題となる。特に、ケイ酸ナトリウム(一般的には、水ガラスとして知られている)は、水溶性が非常に高い。ケイ酸ナトリウムは、雨などの屋外条件にさらされる場合、または、水中に配置される場合、溶解して処理済みの木材から浸出してしまう。
【0004】
このため、関連技術分野における最近の研究は、浸出の問題を解決することに重点が置かれている。ケイ酸ナトリウムを不溶性にする手段としては、ケイ酸ナトリウムのモノマーをポリマー化してポリマー鎖を長くすることが挙げられる。この反応は、ケイ酸ナトリウムの溶液が酸性化されれば、容易に発生させることができる。木材を最初にケイ酸ナトリウムで処理した後に酸性溶液で処理する方法がいくつか開発されている。(例えば、フルノ・ティー(Furuno T.)およびワイ・イマムラ(Y.Imamura)(1998)、木材およびケイ酸塩の組み合わせ(Combinations of wood and silicate)パート6、水ガラス−ホウ素化合物システムを用いた木材−鉱物合成物の生物学的耐性、ウッドサイエンステクノロジー23:161−170、米国特許第1,900,212号、米国特許第4,612,050号、米国特許第5,205,874号を参照されたい)。別の方法として、ケイ酸ナトリウムモノマーおよび多価イオンの錯体形成を促進することが挙げられる。特に、ホウ酸、アルミニウム、カルシウム、および、マグネシウムの塩が利用される。酸性溶液の場合と同様の二段階方式を利用しており、木材は最初にケイ酸塩溶液で処理し、その後で複合バインダを含む溶液で処理する(例えば、米国特許第3,974,318号、米国特許出願公開広報第2005/0129861 A1号を参照されたい)。
【0005】
しかし、木材防腐剤としてのケイ酸ナトリウムの特性がずいぶん昔から知られているとはいえ、関連産業内で幅広く受け入れられているとは言えない。主な理由として、多段階処理のためにコストが高くなる点が挙げられる。木材に対する真空加圧含侵処理等の大規模な産業向け用途では、処理コストを最小限に抑えなければならない。これを鑑みると、上述した二段階処理は、それぞれの段階の間で木材を乾燥させる必要があり、コストを押し上げるので、実現が困難でありコスト効果が低い。
【0006】
この問題を解決するべくいくつかの研究が行われた。例えば、米国特許第7,297,411号は、木材をケイ酸ナトリウムで処理した後、高温で木材を乾燥させてケイ酸ナトリウムを不溶性にする方法を開示している。しかし、この方法を利用する場合、全てのケイ酸ナトリウムを不溶性にするためには非常に高い温度(>摂氏200度)が必要となり、当該方法のコストが高くなると共に、エネルギー消費が増える。国際特許出願WO02/078865号では、ホウ酸およびケイ酸ナトリウムを一の溶液で混合させる方法が開示されている。本発明によると、ケイ酸ナトリウムに添加されるホウ酸の量は、当該製剤の保存可能期間が長くなる(ゲル化または析出が発生しない)が、処理した木材を乾燥させるとポリマー化が開始されるように調整される。
【0007】
しかし、ホウ酸は、殺生物剤であるので、生態系には有害である。このため、非毒性の有機酸(例えば、クエン酸、酒石酸等)をアルカリ金属ケイ酸塩を不溶性とするために利用することは、環境に対してはるかにより優しい解決策となる。米国特許第4,612,050号によると、ケイ酸ナトリウム、クエン酸および粘土を一の溶液で混合させる。ケイ酸ナトリウム塩に添加するクエン酸の量は、当該製剤を初期ゲル化状態と説明される状態で維持する量に調整されている。当該溶液を木材に塗布すると、ケイ酸ナトリウムの一部がポリマー化するので不溶性となる。しかし、この溶液で処理することで処理済みの木材でケイ酸ナトリウムの一部が不溶性になったとしても、ケイ酸ナトリウムの大部分は、依然として溶解性であり、水に濡れると浸出する可能性がある。
【0008】
本明細書で説明しているように、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶性に関する問題に対処する多くの方法が存在する。しかし、産業的に実現可能で、且つ、完全に環境に優しく、ケイ酸ナトリウムを木材防腐剤として利用する方法はいまだに開発されていない。依然として、木材の耐水性を良好なものとするケイ酸ナトリウムを含む木材防腐剤を利用する産業上の方法、および、木材防腐剤が処理後の木材から浸出しないようにする方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、環境に優しく産業的に実現可能な新しい木材処理方法、および、当該方法で処理された木材に関する。
【0010】
特に、本発明は、産業的に実現可能であり、完全に環境に優しく、木材防腐剤が処理後の木材から浸出しない木材処理方法に関する。
【0011】
本発明に係る方法で処理された木材は、シロアリ、菌類および火に対する耐性を持つことを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、防火特性を改善し、腐敗、菌類、カビおよび昆虫に対する木材の耐性を高める木材処理方法を開示する。本発明に係る木材処理方法は、以下の段階を備える。
a)木材を用意して、室温または摂氏15度から摂氏35度の範囲内の温度で安定している水性製剤を用意する段階
b)アルカリ金属ケイ酸塩、水、および、不溶化剤から実質的に成る本発明に係る水性製剤を用意する段階、不溶化剤は、有機酸、無機酸または無機多価イオンから選択され、水性製剤がゲル化点に到達するために必要な不溶化剤の量より少ない量で添加される
c)水性製剤を木材に塗布する段階
d)水性製剤で処理した木材を任意の所定の温度で乾燥させて余分な水を除去する段階
e)乾燥させた木材を高温で硬化させてアルカリ金属ケイ酸塩を不溶化する段階
【0013】
別の実施形態によると、本発明は、防火特性を改善し、腐敗、菌類、カビおよび昆虫に対する木材の耐性を高める木材処理方法を開示している。本発明に係る木材処理方法は、以下の段階を備える。
【0014】
防火特性を改善し、腐敗、菌類、カビおよび昆虫に対する木材の耐性を高めるべく加圧含侵法を利用する木材処理方法を開示する。尚、木材は、水性製剤で処理する。当該木材処理方法は以下の段階を備える。
a)木材を用意して、当該木材を真空加圧含侵容器内に載置する段階
b)室温または摂氏15度から摂氏35度の範囲内の温度で安定している水性製剤を用意する段階、当該水性製剤は、実質的にアルカリ金属ケイ酸塩、水、不溶化剤から成り、不溶化剤は、有機酸、無機酸または無機多価イオンから選択され、水性製剤がゲル化点に到達するために必要な不溶化剤の量より少ない量で添加される
c)水性製剤を真空加圧含侵容器に追加することによって、水性製剤を木材に塗布する段階
d)真空加圧含侵容器および内容物を90%を超える真空で10分間から40分間にわたって処理する段階
e)真空加圧含侵容器および内容物を、6バールから16バールの圧力で、20分間から12時間にわたって処理する段階
f)真空加圧含侵容器および内容物を90%を超える真空で10分間から40分間にわたって処理する段階
g)水性製剤で処理された木材を任意の所定の温度で乾燥させて、余分な水を除去する段階
h)乾燥させた木材を高温で硬化させてアルカリ金属ケイ酸塩を不溶化する段階
【0015】
<その他の実施形態>
本発明の実施形態はさらに、任意で以下に記載する特徴を組み合わせる。
水性製剤の総重量パーセントに対するアルカリ金属ケイ酸塩の重量パーセントが、1%w/wから50%w/wであってよく、より好ましくは、5%w/wから30%w/wであり、最も好ましくは、10%w/wから20%w/wである木材処理方法。
【0016】
水性製剤におけるアルカリ金属、例えば、ナトリウムまたはカリウムと、ケイ酸塩(M:SiO4−)とのモル比は、0.1:1から2:1の範囲内であり、より好ましくは0.5:1から0.8:1であり、最も好ましいモル比は、0.6:1(これは、SiOとNaOとの間の重量比が3.22に対応する)である木材処理方法。
【0017】
不溶化剤は、有機酸であり、分子量は、例えば、40−500g/molまたは40−300g/molである木材処理方法。
【0018】
不溶化剤は、酢酸、マンデル酸、クエン酸、酒石酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、蟻酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、シュウ酸、マレイン酸、こはく酸またはグルタル酸、メタンスルホン酸(または、メシル酸、CHSOH)、エタンスルホン酸(または、エシル酸(esylic acid)、CHCHSOH)、ベンゼンスルホン酸(または、ベシル酸(besylic acid)、CSOH)、pトルエンスルホン酸(または、トシル酸(tosylic acid)、CHSOH)または、トリフルオロメタンスルホン酸(または、トリフリン酸(triflic acid)、CFSOH)から選択された有機酸である木材処理方法。
【0019】
不溶化剤は、無機酸、例えば、塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)といったハロゲン化水素、または、次亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、および対応する臭素化合物およびヨウ素化合物といったハロゲンオキソ酸から選択される鉱酸、または、硫酸(HSO)、フルオロ硫酸、硝酸(HNO)、リン酸(HPO)、フルオロアンチモン酸、フルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、クロム酸(HCrO)またはホウ酸(HBO)のいずれかから選択される鉱酸である木材処理方法。
【0020】
不溶化剤は、Al3+、Mg2+、Fe2+、Fe3+、Ca2+、Ba2+から選択される無機多価イオンか、または、対イオンを持つ無機多価イオンCaCl2、MgCl2、FeCl2あるいはこれらの組み合わせである木材処理方法。
【0021】
木材は、トウヒ材、マツ材、カンバ材、オーク材、セコイア材、ヒマラヤ杉材、または、合板、ファイバーボード、パーティクルボード等の複合材料、または、ボール紙、段ボール、石膏グレードのボール紙、特殊紙、または、パルプモールド等のパルプベースの材料から選択される木材処理方法。不溶化剤は有機酸であり、アルカリ金属ケイ酸塩はケイ酸ナトリウムである木材処理方法。
【0022】
不溶化剤は有機酸であり、有機酸とケイ酸ナトリウムとの間の適切なモル比は、1:18から1:100である木材処理方法。
【0023】
不溶化剤は有機酸であり、有機酸とケイ酸ナトリウムとの間の適切なモル比は、1:18から1:100であってよく、ケイ酸ナトリウムは、Na対SiO4−のモル比が0.6:1であり、水性製剤はpHが11より高い木材処理方法。
【0024】
利用される不溶化剤の量は、水性製剤がゲル化点に到達するために必要な不溶化剤の量より少なくとも10重量パーセント少ない木材処理方法。
【0025】
水性製剤で用いられる不溶化剤の量は、処理すべき木材の酸性度に応じて選択または調整し、木材の酸性度が高くなると、水性製剤に含まれる不溶化剤の量は少なくする必要がある木材処理方法。
【0026】
木材は、乾燥段階の後、木材処理工程における硬化段階が開始される前の時点において、乾燥度が70%以上である木材処理方法。
【0027】
安定した製剤とは、室温以下または摂氏15度から摂氏35度の範囲内の温度における保存可能期間が1か月よりも長い製剤である木材処理方法。
【0028】
乾燥段階は、室温以下、または、わずかに高い温度、例えば、摂氏15度から摂氏70度、特に、摂氏20度から摂氏50度で実行される木材処理方法。
【0029】
硬化段階は、摂氏40度以上の温度、または、摂氏50度と摂氏250度との間の温度、または、摂氏70度から摂氏120度の範囲内の温度で、または、摂氏75度から摂氏100度の範囲内の温度で実行される木材処理方法。
【0030】
硬化段階は、10分間から60分間にわたって実行される木材処理方法。
【0031】
木材を水性製剤に浸漬または浸すことによって、木材の表面に対して水性製剤を噴射、塗布または塗ることによって、または、通常の真空加圧含侵方式に応じて真空および/または圧力を用いて木材に水性製剤を含侵させることによって、木材に水性製剤を塗布する木材処理方法。
【0032】
水性製剤はさらに、0.05%から5%(w/w)の濃度で湿潤剤、および/または、0.05%から5%(w/w)の濃度でレオロジー調整剤を含む木材処理方法。
【0033】
防火特性が改善し、腐敗、菌類、カビおよび昆虫に対する耐性が高くなった、本発明に係る方法で処理された木材。
【0034】
水性製剤は粘度が水よりも高い本発明に係る方法。
【0035】
真空加圧含侵容器および内容物に0.1atm未満の圧力を加える本発明に係る方法。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】さまざまな無機不溶化剤または多価イオン不溶化剤について、硬化温度および再分解後に残った物質を示す図である。
図2】濃度および再分解後に残った物質を示す図である。
図3】浸出に対して硬化処理が与える影響を説明するための図である。
図4】再分解後に残った物質および硬化温度を示す図である。
図5】硬化温度および浸出を説明するための図である。
図6】さまざまな製剤について、硬化温度および浸出を説明するための図である。
図7】硬化温度を変化させた場合に、本発明に係るケイ酸カリウム製剤が再分解後に残る物質に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<序論>
本発明は、環境に優しい新しい木材処理方法および当該方法で処理された木材に関する。特に、本発明は、アルカリ金属ケイ酸塩および不溶化剤を含む水性製剤を利用することで、ワンポット型の製剤で木材を処理する、木材処理方法に関する。
【0038】
当該木材処理方法によると、木材を水性製剤で処理して、防火特性を改善するとともに、腐敗、菌類、カビおよび昆虫に対する木材の耐性を高める。当該方法は、木材を用意する段階と、保存可能期間が長く、実質的にアルカリ金属ケイ酸塩、水および不溶化剤から成る水性製剤を用意する段階とを備える。不溶化剤は、有機酸、無機酸または無機多価イオンから選択される。水性製剤について、保存可能期間を長くすると共に、輸送中、保管中および工場での取扱中に安定(ゲル化または析出が発生しない)させるべく、不溶化剤は、水性製剤においてアルカリ金属ケイ酸塩のゲル化を開始するために必要な量よりも少ない量で添加される。これは、ゲル化点と呼ばれる。
【0039】
任意で、本発明に係る水性製剤は、湿潤剤および/またはレオロジー調整剤を含むとしてもよい。
【0040】
本発明に係る水性製剤は、木材を水性製剤に浸漬または浸すことによって、または、水性製剤を木材の表面に噴射、塗布または塗ることによって、または、通常の真空−圧力含浸方式にしたがって真空および/または圧力を利用して木材に水性製剤を含浸させることによって、そしてその後に、処理済みの木材を任意の所定の温度で乾燥させて余分な水を除去して、その後で最後の段階として、処理済みの木材を高温で硬化させて、処理済みの木材の内部または表面でアルカリ金属ケイ酸塩を不溶化させることによって、木材に塗布される。
【0041】
本発明に係る方法で処理された木材は、シロアリ、菌類、カビおよび火に対して耐性を持つという特徴を持つ。木材処理用の組成物に含まれるアルカリ金属ケイ酸塩は、本発明に係る木材処理方法を用いて木材に塗布された後であれば水に対する不溶性が高く、木材から簡単に浸出しないであろう。本発明に係る木材処理方法によれば、処理済みの木材は、屋外または高湿度の環境で利用されたとしても、木材に対してシロアリ、菌類および火に対して耐性を持つようになる。本発明に係る方法にしたがって木材に塗布される場合、アルカリ金属ケイ酸塩の耐水性は十分に高くなる。言い換えると、木材からアルカリ金属ケイ酸塩が浸出する可能性は十分に低く、処理済みの木材が水に暴露されたり、屋外で利用されたとしても、シロアリ、菌類および火に対する耐性を維持する。本発明に係る方法を用いて処理した木材は、腐敗の原因となる菌類およびシロアリによる劣化に対して耐性を持つ。当該木材はさらに、耐火性を持つと共に、カビ防止特性も持つ。
【0042】
処理済みの木材からのアルカリ金属ケイ酸塩の浸出は、木材を水に暴露した場合に除去されるアルカリ金属ケイ酸塩の量を測定することによって、算出される。この計算は、処理済みの木材の重量を、処理前、処理後、および、水中で処理済みの木材を保存した後で測定する実験によって行う。以下に示す式を用いて上記の計算を行う。(尚、W=重量とする。)
浸出していないアルカリ金属ケイ酸塩(%)=[(W浸出後木材−W処理前木材)/(W処理後木材−W処理前木材)]×100
処理後=本発明に係る方法で処理した木材の乾燥重量
浸出後=本発明に係る方法で処理した後の木材の、上述した浸出手順を実行した後の乾燥重量
処理前=木材の、本発明に係る方法で処理する前の乾燥重量
浸出していないアルカリ金属ケイ酸塩(%)=浸出手順を実行した後の処理済みの木材に残っているアルカリ金属ケイ酸塩の量(%)
【0043】
浸出していないアルカリ金属ケイ酸塩の割合は常に、出来る限り高いことが望ましい。浸出していないアルカリ金属ケイ酸塩の割合が高いということは、アルカリ金属ケイ酸塩が処理後の木材に残っていることを意味する。アルカリ金属ケイ酸塩のうち70%より高い割合が、水で処理した後であっても、木材に残る(浸出していないアルカリ金属ケイ酸塩の割合が70%を超える)ことが望ましい。
【0044】
本発明に係る方法で用いられる水性製剤は通常、アルカリ金属ケイ酸塩と、木材に塗布されるとアルカリ金属ケイ酸塩のポリマー化を進める特性を持つか、または、他の手段で不溶化の特性を与える不溶化剤とから構成される。不溶化剤は、アルカリ金属ケイ酸塩を不溶化して耐水性を与える物質である。適切なアルカリ金属ケイ酸塩の例として、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸カリウムがある。不溶化剤の例として、有機酸、無機酸、および、無機多価イオンがある。
【0045】
以下に記載する本発明および対応する例の詳細な説明は、本発明に係る方法を説明するとともに、対応する材料を説明する。
【0046】
<処理の詳細な説明>
<木材の用意>
適切な木材は、これらに限定されないが、トウヒ材、マツ材、カンバ材、オーク材、セコイア材、ヒマラヤ杉材等の固体である木材であってよい。または、合板、ファイバーボード、パーティクルボード等の複合材料であってよい。本発明によると、木材を原料とする材料、例えば、ボール紙、段ボール、石膏グレードのボール紙、特殊紙、例えば、ろ紙または印刷用紙、または、パルプモールド等のパルプベースの材料もまた、木材と定義され、本発明に係る水性製剤で処理することができる。
【0047】
<水性製剤>
本発明に係る木材処理方法は、予め用意されている水性製剤、または、水性均一溶液になるようにアルカリ金属ケイ酸塩、水および不溶化剤を混合させて作成する組成物を含む。水性製剤は任意でさらに、湿潤剤およびレオロジー調整剤を含むとしてもよい。組成物における不溶化剤とアルカリ金属ケイ酸塩との比率は、特定の狭い範囲内のみで選択されるとしてよく、当該溶液に添加されている不溶化剤の量は、アルカリ金属ケイ酸塩のゲル化が開始されるために必要な量よりも少なくする。不溶化剤の量は、当該溶液で木材を処理した後にアルカリ金属ケイ酸塩のゲル化が容易に開始されるために十分な量でなければならないが、当該水性製剤を木材に塗布する前にゲル化が開始されるほど多い量ではない。不溶化剤とアルカリ金属ケイ酸塩との間の比率を慎重に選択することによって、保存可能期間が長く、木材を処理した後に木材を乾燥させて硬化させると不溶化になる製剤が得られる。
【0048】
<アルカリ金属ケイ酸塩>
水性製剤の総重量%のうちアルカリ金属ケイ酸塩の重量%は、1%w/wから50%w/wであってよく、より好ましくは10%w/wから40%w/wであってよく、最も好ましくは、10%w/wから25%w/wであるとしてよい。適切なアルカリ金属ケイ酸塩の例は、ケイ酸カリウムおよびケイ酸ナトリウムである。コスト面から、水性製剤に含まれるのはケイ酸ナトリウムが好ましい。
【0049】
XNaSiO4−という一般式で表すケイ酸ナトリウムは、本発明において好ましいアルカリ金属ケイ酸塩である。ケイ酸ナトリウムは、NaOとSiOとを反応させてXNaSiO4−を形成することで得られる。ナトリウムとケイ酸塩との間(Na:SiO4−)のモル比は、任意の所定のモル比で変動するとしてよいが、0.1:1から2:1の範囲内であることが好ましく、0.5:1から0.8:1の範囲内であることがより好ましく、または、0.6:1というモル比が最も好ましい(SiOとNaOとの間の重量比が3.22であることに対応する)。本明細書で言及するモル比は全て、水溶性が高くなるように設定されている。これは、木材の含浸を効果的に進めるために製剤の粘度を低く維持する上で重要である。
【0050】
ケイ酸カリウムについても、上記と同じモル比であるとしてよい。カリウムとケイ酸塩との間(XK:SiO4−)のモル比は、任意の所定のモル比で変動するとしてよいが、0.1:1から2:1の範囲内であることが好ましく、または、0.5:1から0.8:1の範囲内であることがより好ましい。
【0051】
一般的に、本発明に係る水性製剤におけるアルカリ金属(XM)とケイ酸塩(SiO4−)との間のモル比は、任意の所定のモル比で変動するとしてよいが、0.1:1から2:1の範囲内であることが好ましい。
【0052】
<不溶化剤>
不溶化剤とは、アルカリ金属ケイ酸塩のポリマー化または錯体形成を容易にする物質を意味する。
【0053】
本発明に適切な不溶化剤は、アルカリ金属ケイ酸塩のポリマー化またはゲル化を進める物質全て、または、任意のその他の手段で、例えば、アルカリ金属ケイ酸塩のモノマーの錯体形成を進めることによって、水に対して不溶性とする物質全てである。アルカリ金属ケイ酸塩のポリマー化またはゲル化は、アルカリ金属ケイ酸塩を含む水溶液に酸または酸性化合物を添加することによって、または、アルカリ金属ケイ酸塩モノマーの錯体形成を進める無機多価イオンを添加することによって、pHが特定レベルよりも低くなった場合に発生する。
【0054】
不溶化剤の例としては、有機酸、無機酸または無機多価イオンが挙げられる。
【0055】
本発明に係る不溶化剤として用いられる有機酸は、例えば、分子量が少ない有機酸、または、分子量が、例えば、40−500g/molまたは40−300g/molである有機酸が挙げられる。有機酸は、例えば、酢酸、マンデル酸、クエン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、酒石酸、蟻酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、シュウ酸、マレイン酸、こはく酸またはグルタル酸等のカルボン酸またはこれらの組み合わせのうち任意のものから選択される。有機酸はさらに、低分子量スルホン酸のうち任意のものから選択されるとしてよく、例えば、メタンスルホン酸(または、メシル酸、CHSOH)、エタンスルホン酸(または、エシル酸(esylic acid)、CHCHSOH)、ベンゼンスルホン酸(または、ベシル酸(besylic acid)、CSOH)、pトルエンスルホン酸(または、トシル酸(tosylic acid)、CHSOH)または、トリフルオロメタンスルホン酸(または、トリフリン酸(triflic acid)、CFSOH)のうち任意のものから選択されるとしてもよい。
【0056】
本発明に係る不溶化剤として用いられる無機酸は、例えば、鉱酸である。例えば、ハロゲン化水素およびその溶液、例えば、塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)、または、次亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、および、対応する臭素化合物およびヨウ素化合物といったハロゲンオキソ酸のうち任意のものから選択される鉱酸である。または、硫酸(HSO)、フルオロ硫酸、硝酸(HNO)、リン酸(HPO)、フルオロアンチモン酸、フルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、クロム酸(HCrO)またはホウ酸(HBO)またはこれらに組み合わせのうち任意のものから選択される鉱酸である。
【0057】
錯体形成を利用してアルカリ金属ケイ酸塩を不溶化するべく、Cl2+、Mg2+、Fe2+、Fe3+、Ca2+、Ba2+等の無機多価イオンか、または、対イオンを持つ無機多価イオンCaCl2、MgCl2、FeCl2を利用することもできる。水性製剤に含まれる触媒の濃度は、アルカリ金属ケイ酸塩の濃度および不溶化剤の効率に応じて変動する。不溶化剤として酸を利用する場合、当該酸のpKaは必要な量を決定する上で不可欠な情報である。酸を利用する場合、木材自体の酸性度もまた考慮する必要がある。これは、木材中の酸は、水性製剤を木材に塗布した場合に水性製剤の総酸含有率を押し上げるためである。
【0058】
本発明に係る不溶化剤として最も好ましいものは、環境保護の観点から非毒性の有機酸であり、そして、産業用の規模で利用される場合に低コストの代替物である物質である。水溶液中のアルカリ金属ケイ酸塩は、ある時点において、ゲル化が始まる。水性製剤のゲル化点および非ゲル化範囲は、水性製剤のpHを制御することによって、または、アルカリ金属ケイ酸塩に対する不溶化剤のモル比を制御することによって、測定または制御されるとしてよい。水性製剤を木材に塗布する前に水性製剤がゲル化しないようにするためには、アルカリ金属ケイ酸塩に対する不溶化剤のモル比またはpHを正しい範囲で制御することが重要である。例えば、Na対SiO4−のモル比が0.6:1であるケイ酸ナトリウムを利用する場合、水性製剤のpHは、保存可能期間を長くすることが望ましい場合には、11を下回らないようにすべきである。
【0059】
有機酸とケイ酸ナトリウムとの間の適切なモル比は、処理する木材の酸性度および有機酸のpKaに応じて、例えば、1:18から1:100であるとしてよい。
【0060】
水性製剤の保存可能期間を長くするためには、pHは特定のレベルを下回ることはできない。特定のレベルを下回ると、水性製剤は、長期間にわたって保存されると、ゲル化または析出が発生する。アルカリ金属ケイ酸塩は、木材に塗布される前にゲル化し始めると、固体である木材に浸透しなくなる。不溶化剤とアルカリ金属ケイ酸塩との間のモル比も同様に、水性製剤を乾燥させて高温で硬化させるとアルカリ金属ケイ酸塩が不溶化されるためには、特定の範囲内に入れる必要がある。不溶化剤の量が少なすぎると、アルカリ金属ケイ酸塩製剤は、木材に塗布されて硬化された後も不溶化にならない。
【0061】
利用されている不溶化剤およびその作用方式(酸性か多価イオンか)に応じて、処理する木材を考慮する必要がある。木材の種類によっては、ロジン酸および木材が生成するその他の抽出物質によって、本来の酸性度が他のものより高い場合がある。また、Ca2+またはMg2+等のイオンの量が他よりも多いものもある。不溶化剤とアルカリ金属ケイ酸塩との間の適切なモル比を決定する場合、本来含まれる物質のさまざまな量を考慮する必要がある。
【0062】
例えば、同じ酸性度で本来の酸性度が比較的高い木材を処理する場合、酸性度が比較的低い木材よりも、アルカリ金属ケイ酸塩は、表面での局所的なpH値が低過ぎるので、木材の表面でゲル化し始める場合がある。これによって、木材に浸透し得るアルカリ金属ケイ酸塩の量が限定され、木材の防火特性および耐菌特性に関して水性製剤の効率が限定されてしまう。
【0063】
不溶化剤とアルカリ金属ケイ酸塩との間の適切なモル比を決定する場合、簡単な実験を幾つか実行するとしてよい。アルカリ金属ケイ酸塩に対する不溶化剤の濃度の最高値を求めるには、例えば、アルカリ金属ケイ酸塩のゲル化が始まるまでアルカリ金属ケイ酸塩を含む水性製剤に不溶化剤を添加するとしてよい。ゲル化濃度よりも約10%低い濃度で不溶化剤を添加することによって、保存可能期間が長く、乾燥および硬化させた場合に不溶性になる製剤が得られる。木材を当該製剤で処理して硬化させると、通常は、アルカリ金属ケイ酸塩および不溶化剤を含む溶液を木材の外部で乾燥させる場合に比べて、不溶性となるアルカリ金属ケイ酸塩の割合が高くなる。理論に限定されることなく、木材に含まれる多価イオンの濃度および/または本来の酸性度がアルカリ金属ケイ酸塩に対する不溶化剤の総濃度を押し上げることによって不溶化プロセスを促進し、不溶性となるアルカリ金属ケイ酸塩の量が増加する、というのが理由として考えられる。
【0064】
不溶化剤として好ましいのは、非毒性の有機酸であるが、他の酸も利用することができる。
【0065】
本発明の一実施形態によると、保存可能期間が長い水性製剤とは、Na対SiO4−のモル比が0.6:1でpHが11を上回るケイ酸ナトリウム含有製剤である。同じアルカリ金属ケイ酸塩を含む製剤は、pHが11を下回ると、ゲル化が始まる。
【0066】
保存可能期間が長い製剤とは、室温以下または摂氏15度から摂氏35度の範囲内の温度で特定の期間にわたって保存可能な製剤である。本発明の一実施形態によると、保存可能期間が長い製剤とは、室温以下または摂氏15度から摂氏35度の範囲内の温度で少なくとも1か月以上にわたって保存可能な製剤である。他の実施形態によると、保存可能期間が長い製剤とは、少なくとも2か月以上保存可能な製剤である。本発明に係る水性製剤は、本発明に係るプロセスまたは方法に応じて近代的な工業処理で利用されるので、保存可能期間が長く、保存可能であることが重要である。
【0067】
<湿潤剤および/またはレオロジー調整剤>任意で、湿潤剤(または表面活性剤)および/またはレオロジー調整剤を本発明に係る水性製剤に添加する。
【0068】
湿潤剤または表面活性剤は、表面張力を低減するべく、本発明に係る水性製剤に添加されるとしてよい。これは、水性製剤を木材により容易に浸透させる上で重要であるので、処理の効果が高まるとしてよい。例えば、さまざまな種類の湿潤剤としては、極性を持ち、疎水性の尾部を持ち、頭部には形式電荷基がある物質が挙げられる。さまざまな表面活性剤の例としては、「表面活性剤および界面現象(Surfactants and Interfacial Phenomena)、第三版」で言及している表面活性剤を参照されたい。非イオン性の表面活性剤は、頭部に電荷基を持たない。本発明に係る水性製剤に含まれる湿潤剤の濃度として適切なのは、例えば、0.05%から5%(w/w)であるとしてよい。
【0069】
レオロジー調整剤は、水性製剤の粘度を高めることによって、例えば、本発明に係る水性製剤をさまざまな塗布方法またはコーティング方法で木材に塗布し易くするべく、本発明に係る水性製剤に添加するとしてよい。さまざまな種類のレオロジー調整剤は、例えば、デンプンおよびその誘導体、または、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体である。本発明に係る水性製剤に含まれるレオロジー調整剤の適切な濃度は、例えば、0.5%から5%(w/w)であるとしてよい。
【0070】
<木材への水性製剤の塗布方法>
水性製剤は、木材を水性製剤に浸漬または浸すことによって、水性剤を木材の表面に噴射、塗布または塗ることによって、または、通常の真空加圧含侵方法にしたがって真空および/または圧力を利用して木材に水性製剤を含侵させることによって、現在使用されている工業プロセスのうち任意のプロセスを用いて木材に塗布される。
【0071】
<乾燥工程>
上述した塗布方法のうちいずれかを用いて木材を処理した場合、乾燥させて余分な水を木材から除去する必要がある。乾燥プロセスは、任意の所与の温度で実行されるとしてよいが、わずかに昇温させた温度で実行することが好ましい。
【0072】
木材を乾燥させる場合、木材処理プロセスの次の工程(硬化工程)に進む前に十分な乾燥が行われることが重要である。硬化工程に進む前に確実に木材を乾燥(乾燥度が70%から90%)させることによって、木材に対する硬化処理は短時間のみ、1分間と短くても、浸出低減効果が高まることが分かった。
【0073】
本発明に係る方法はこのように、木材処理中の加熱処理は最小限に抑えられるが、アルカリ金属ケイ酸塩は処理済みの木材から容易に浸出することはないので、任意の公知の木材処理方法よりも環境に優しい。
【0074】
本発明の一実施形態において、乾燥工程は、室温またはわずかに昇温させた温度、例えば、摂氏15度から摂氏70度、または、摂氏15度から摂氏60度、または、摂氏15度から摂氏50度、または、特に摂氏20度から摂氏50度で実行する。
【0075】
木材の乾燥工程は、木材の乾燥度を測定するための標準的な機器で容易に監視される。硬化工程の前に、木材の乾燥度は少なくとも70%以上であり、好ましくは80%以上であり、最も好ましくは85%以上である。昇温させた温度で行われる硬化工程の時間は、硬化工程に進む前に乾燥が完了すれば、短くなる。
【0076】
本発明に係る方法によると、木材の乾燥度は70%以上とする。例えば、木材の硬化工程の前の時点において、70%から100%、または、80%から100%とする。
【0077】
乾燥工程の温度は、摂氏10度から摂氏100度であることが好ましく、または、摂氏25度から摂氏70度がより好ましく、または、摂氏40度から摂氏60度が特に好ましい。木材用の通常の乾燥設備を用いて、木材の乾燥度を高めるとしてよい。
【0078】
<硬化工程>
所定量の水が乾燥工程で木材から蒸発すると、本発明に係る処理済みの木材は、所定期間にわたって高温で硬化させて、アルカリ金属ケイ酸塩を反応させて、アルカリ金属ケイ酸塩が水に対して不溶性となるようにポリマーまたは錯体を形成する必要がある。本発明の一実施形態によると、処理済みの木材は、摂氏40度以上の温度、好ましくは摂氏60度以上の温度で硬化させる。本発明のより好ましい実施形態によると、木材は摂氏60度から摂氏150度の範囲内で硬化させ、さらに好ましい実施形態では、木材は摂氏70度から摂氏120度の範囲内で硬化させる。本発明の最も好ましい実施形態によると、木材は摂氏75度から摂氏100度の範囲内で硬化させる。この範囲は、産業上の利用可能性に応じて、そして、この温度範囲を利用することでアルカリ金属ケイ酸塩は所望の浸出特性を持つようになるという事実から、選択される。アルカリ金属ケイ酸塩を不溶化するために十分な期間は、硬化温度に応じて異なる。硬化温度が高くなるほど、必要な硬化時間は短くなり、硬化温度が低くなるほど、必要な硬化時間は長くなる。硬化温度が摂氏150度を超える場合、繊維の熱分解によって木材の変色が発生しないように注意が必要である。硬化時間はさらに、水性製剤におけるアルカリ金属ケイ酸塩に対する不溶化剤のモル比に応じても変化するとしてよい。モル比は、ゲル化点に近い程、必要な硬化時間が短くなり、モル比が高くなると、必要な硬化時間は長くなる。
【0079】
最も好ましい実施形態では、木材は、厚みに応じて、10分間から60分間にわたって摂氏70度から摂氏90度で硬化されるべきである。しかし、木材の種類および利用する製剤に応じて、必要な硬化時間は異なるであろう。最適な硬化時間は、当業者が幾つか簡単な実験を行うことによって、容易に決定できる。
【0080】
<本発明に係る方法で処理された木材>
本発明によると、当該方法で処理した木材をさらに提供する。木材は、任意の種類の木材であってよい。例えば、モミ材、マツ材、カンバ材、オーク材、セコイア材、ヒマラヤ杉材等の固体の木材、または、合板、ファイバーボード、パーティクルボード等の複合材料であってよい。本発明によると、木材はさらに、ボール紙、段ボール、石膏グレードのボール紙、特殊紙、または、パルプモールド等のパルプベースの材料であってよい。当該木材は、耐火性および/または耐菌性、例えば、腐敗の要因となる菌および/またはカビに対する耐性を持つことを特徴とする。また、当該木材は、シロアリ、蟻、穿孔虫等の樹木を食べる昆虫に対する耐性も改善されている。木材の表面はさらに、一部の用途で有用であるプロセスによって硬化させる。
【0081】
<本発明に係る好ましい方法の例>
本発明に係る好ましい塗布方法は、真空−圧力−真空含侵方法である。この方法において、木材は真空加圧含侵容器内に載置される。当該容器にはこの後水性製剤を充填し、その後90%を超える真空で10分間から40分間にわたって処理する。この後で、6バールから16バールの圧力で20分間から12時間にわたって処理し、その後で90%を超える真空で10分間から40分間にわたって処理する。時間および圧力は、使用する木材、および、木材に浸透する水性製剤の量に応じて変動する。木材に浸透する水性製剤の量は、所与の効果を実現させる上で重要である。浸透量が多くなると、防火特性および耐菌特性についての効果がより高くなる。
【0082】
本発明に係る製剤は、粘度が水よりも高く、水に比べて粘度が低いまたは水と同様の粘度の液体を含侵させる場合に比べると、木材への浸透が困難である。難燃性および耐腐食性を最大限に高めるためには、木材への含侵処理の浸透度を高める必要がある。本発明に係る製剤を木材に効果的に浸透させる上で最も効果的な製造プロセスは、真空−圧力−真空含侵方法である。
【0083】
上述した含侵容器は、0.1atm未満の圧力、例えば、0.1atmから0atmの圧力を印加されるとしてよい。
【0084】
本発明に係る水性製剤は、粘度が水より高いことが好ましい。
【0085】
本発明のさらなる実施形態は、対応する例から明らかになるであろう。
【0086】
<実験>
<本発明に係る水性製剤の製造例>
1000gのホウ酸/ケイ酸ナトリウム溶液を製造する例。混合ステップにおいて、588.14gの冷水に、19.76gのホウ酸を追加する。この溶液は、全てのホウ酸が溶解するように10分間にわたって混ぜ合わせる。容器内に、392.10gのケイ酸ナトリウムを追加する。混合時に、ホウ酸溶液を約200g/分のレートで追加する。完成した製剤を、さらに10分間にわたって撹拌して、製剤が均一製剤になるようにする。pHを測定した結果、11.1となる。完成品を保存のためにプラスチック容器に注ぎ込む。
【0087】
<本発明に係る水性製剤を製造する場合のその他の注意点>
有機酸または無機酸を不溶化剤として含むケイ酸ナトリウム製剤は、上記と同様の手順で用意される。不溶化剤の量は、保存中は安定した状態にあり、モル比0.6:1でケイ酸ナトリウムを含む製剤については約pH10.6であるゲル化点の近傍にpHが位置しない、保存可能期間が長い水性製剤を取得するべく、調整される。
【0088】
本発明に係る水性製剤に利用される不溶化剤の所望の量は、最初に、ゲル化点に到達するまでケイ酸塩溶液に不溶化剤を追加して溶液を形成することによって、試験で求めるとしてよい。本発明に係る、保存可能期間が長く、保存可能で安定した新型の水性製剤を得るべく、追加する不溶化剤の量は、ゲル化点に到達するために必要な不溶化剤の量よりも十分に少ない量とするとしてよい。例えば、本発明にしたがって利用される不溶化剤の量は、水性製剤がゲル化点に到達するために必要な不溶化剤の量に比べて、10重量%少ないか、または、多い。
【0089】
不溶化剤の量を算出するこの方法は、本発明に応じて利用される全ての不溶化剤について利用されるとしてよい。酸を不溶化剤として利用する場合に必要な不溶化剤の量を測定する別の方法としては、水性製剤のpHをゲル化点となるpHよりも十分に高く設定することが挙げられる。ゲル化点となるpHは、本発明に係る製剤毎に、どのアルカリ金属ケイ酸塩を利用しているかに応じて変わる。例えば、保存可能期間が長く、保存中の状態が安定している本発明に係る製剤のpHは、11以上であるとしてよく、同じアルカリ金属ケイ酸塩を利用する場合のゲル化点となるpH(含有する不溶化剤の量を増やす)は、約10.6であるとしてよい。
【0090】
<浸出を判断するための一般的な再溶解試験方法>
浸出をシミュレーションすることによって浸出特性を検査した例1、2、4および9は、以下に記載する条件で再溶解試験を行った。
本発明に係る製剤は、プラスチック容器で用意された。この後、製剤(依然としてプラスチック容器内に有り)の乾燥処理および硬化処理を、温度を変化させつつオーブンで実行した。乾燥および硬化させた製剤は、重量を計測して、マグネチックスターラを備えるビーカーに追加した。200mlの沸騰している熱湯をビーカーに追加して、3分間にわたって常に撹拌して、製剤を再溶解させた。3分後、ビーカーの内容物をろ紙およびブーフナー漏斗を利用して、真空濾過した。アルカリ金属ケイ酸塩のうち未溶解量を以下の式にしたがって算出した。
再溶解後の残留分(%)=100−[(W硬化後−W再溶解後)/W硬化後]×100
【0091】
<浸出を判断するための一般的な方法>
浸出特性を調査した例3、5および6は、以下の条件で試験を行った。
本発明に係る製剤を用意した。この後、製剤を木材に塗布した。処理後の木材の乾燥処理および硬化処理を、温度および時間を変化させつつオーブンで実行した。乾燥処理および硬化処理を実行した処理済みの木材について、重量を計測して、ビーカーに追加した。処理済みの木材は、蒸留水を用いて各容器で浸出処理を行った。蒸留水は毎日交換した。1週間後、浸出処理を行った試料について、重量を計測すると共に、一定の重量に到達するまで実験を継続した。浸出処理による重量損失は、以下の式にしたがって算出することができる。
浸出後にマツ材の試料に残留する製剤(%)=100−[(W硬化後の製材−W浸出後の製剤)/W硬化後の製剤]×100
式中において、W硬化後の製剤=W硬化後の乾燥した試料−W処理前の乾燥した試料、W浸出後の製剤=W浸出後の乾燥した試料−W処理前の乾燥した試料
【0092】
<例>
以下に記載する例の目的は、本発明に係る方法を実行した場合のケイ酸ナトリウムの可溶性、木材に含浸させたケイ酸ナトリウムの浸出、および、本発明に係る方法で処理した木材の耐火性および耐腐食性を証明することにある。
【0093】
<例1−浸出特性が改善するさまざまな不溶化剤>
さまざまな不溶化剤を含む本発明に係る製剤を用いたケイ酸ナトリウムの可溶性に対する影響を、鉱酸としてホウ酸、無機多価イオンとして塩化カルシウムを利用する例について説明する。
【表1】
【0094】
まず不溶化剤と水とを混合させて、その後にゆっくりと、常に撹拌しながら、溶解した不溶化剤混合物をケイ酸ナトリウムに追加することによって、製剤を用意した。
【0095】
20.0グラムの製剤1、2および3を、一晩かけて摂氏50度で乾燥させるべく表面積が大きい使い捨て容器に追加した。当該製剤は、乾燥させると、摂氏20度および摂氏190度で30分間にわたって硬化させた。
【0096】
この結果は、図1に示している。
【0097】
<例2−製剤の濃度の影響>
製剤の乾燥含有量を変化させた場合の、本発明に係る製剤におけるケイ酸ナトリウムの可溶性への影響
【表2】
【0098】
最初に不溶化剤と水とを混合させた後に、常に撹拌しながら、溶解した不溶化剤混合物をゆっくりとケイ酸ナトリウムに追加することによって、製剤を用意した。
【0099】
20.0グラムの製剤4および製剤5と、当該製剤を水で希釈したものとを、一晩かけて摂氏50度で乾燥させるべく、表面積が大きい使い捨ての容器に追加した。乾燥させると、これらの製剤を摂氏100度で30分間にわたって硬化させた。
【0100】
この後、全てのサンプルは、上述した一般的な方法にしたがって再溶解試験を行った。
【0101】
この結果は図2に図示している。
【0102】
図2において、希釈した製剤の乾燥含有量は、水溶液中のケイ酸塩および不溶化剤の重量パーセントに対応する。
【0103】
<例3−含浸処理した紙材料からのケイ酸ナトリウムの浸出>
本発明に係るさまざまな製剤を含浸させた紙試料におけるケイ酸ナトリウムの浸出に対する影響
【表3】
【0104】
直径が185mmのろ紙である試料を、10秒間浸漬させることによって、含浸処理した。
【0105】
含浸処理した試料は、一晩かけて室温で乾燥させた。硬化処理は、10分間にわたって摂氏100度で実行された。
【0106】
試料は、摂氏90度の水を300ml用いて、紙材料を水中で10分間にわたって沈めておくことによって各容器で浸出処理を行った。紙を乾燥させた後、浸出処理による重量損失を以下の式にしたがって算出した。
浸出処理後の残留製剤(%)=100−[(W浸出処理後の紙−W未処理の紙)/(W浸出処理前の紙−W未処理の紙)]×100
【0107】
浸出処理の結果を参照すると、不溶化剤(クエン酸)が製剤に添加されている場合に、浸出耐性が高くなっていることが分かる。
【0108】
この結果は図3に示す。
【0109】
<例4−硬化温度>
硬化温度を変化させた場合の、本発明に係る製剤におけるケイ酸ナトリウムの可溶性への影響
【表4】
【0110】
まず不溶化剤(クエン酸)と水とを混合させて、その後にゆっくりと、常に撹拌しながら、溶解した不溶化剤混合物をケイ酸ナトリウムに追加することによって、製剤を用意した。
【0111】
20.0グラムの製剤3および6を、室温で完全に乾燥させるべく表面積が大きい使い捨て容器に追加した。乾燥が完了すると、当該製剤が入った容器に対して、摂氏20度、摂氏70度および摂氏190度で30分間にわたって硬化処理を行った。
【0112】
全てのサンプルは、この後で一般的な条件で再溶解試験を行った。
【0113】
この結果は図4に図示している。
【0114】
<例5−ケイ酸ナトリウムを含浸させたマツ材の試料からの浸出>
硬化温度を変化させた場合の、本発明に係るさまざまな製剤を含浸させたマツ材の試料におけるケイ酸ナトリウムの浸出への影響
【表5】
【0115】
サイズが0.8cm×1.5cm×7cmのマツ材の辺材の試料に、真空下で20分間にわたって含浸処理を行った後、20分間にわたって大気圧で製剤3、6および7を浸漬させた。
【0116】
含浸処理を行った試料を、一晩かけて摂氏50度で乾燥させて、30分間にわたって摂氏20度、摂氏70度、摂氏110度、摂氏150度および摂氏190度で硬化させた。
【0117】
試料は、各容器内で75mlの蒸留水を用いて浸出処理を行った。蒸留水は毎日交換した。pHは、浸出処理を行っている間継続して測定した。1週間後、浸出処理を行った試料は、重量を計測して、一定の重量に到達するまで摂氏50度で実験を継続した。浸出処理による重量損失は、以下の式にしたがって算出することができた。
浸出処理後のマツ材試料に残っている残留製剤(%)=100−[(W硬化後の製剤−W浸出後の製剤)/W硬化後の製剤]×100
式中において、W硬化後の製剤=W硬化後の乾燥した試料−W処理前の乾燥した試料
浸出後の製剤=W浸出後の乾燥した試料−W処理前の乾燥した試料
【0118】
浸出処理で得られた結果によると、不溶化剤(クエン酸)が製剤に添加されている場合には、浸出耐性が高くなることが分かる。
【0119】
この結果は図5に示す。
【0120】
<例6−含浸処理されたマツ材試料からのケイ酸ナトリウムの浸出>
【表6】
【0121】
サイズが0.8cm×1.5cm×7cmであるマツ材の辺材の試料を、真空下で20分間にわたって含浸処理した後、20分間にわたって大気圧で製剤3、6および7を用いて浸漬処理した。
【0122】
含浸処理した試料は、一晩かけて摂氏50度で乾燥させて、30分間にわたって摂氏70度で硬化させた。
【0123】
試料は、蒸留水を75ml用いて各容器内で浸出処理を実行した。蒸留水は毎日交換した。pHは、浸出処理の間継続して測定された。1週間後、浸出処理を行った試料は、重量を計測して、所定の重量に到達するまで摂氏50度で実験を継続した。浸出処理による重量損失は、以下の式にしたがって算出することができた。
浸出処理後のマツ材試料に残っている残留製剤(%)=100−[(W硬化後の製剤−W浸出後の製剤)/W硬化後の製剤]×100
式中において、W硬化後の製剤=W硬化後の乾燥した試料−W処理前の乾燥した試料
浸出後の製剤=W浸出後の乾燥した試料−W処理前の乾燥した試料
【0124】
浸出処理で得られた結果によると、不溶化剤(クエン酸)を製剤に追加した場合には、浸出耐性が高くなっていることが分かる。不溶化剤の量が大きくなると、浸出耐性が改善される。
【0125】
この結果は図6に示す。
【0126】
<例7−火に対する反応>
本発明に係る方法で処理された木材の耐火性への影響を、標準的なISO試験(ISO5660)を用いて評価した。当該試験において、処理済みの木材の火に対する反応、熱の発生、煙の発生および質量損失レートを測定した。実験では、以下の製剤を用いて木材を処理した。
【表7】
【0127】
40分間の真空95%、そして、40分間の圧力8バールという手順でファイバーボードに含侵処理を行った。この後、ファイバーボードを、均衡状態に到達するまで、摂氏23度、RH50%で乾燥させた。
【表8】
【0128】
この結果によると、ファイバーボードに製剤3、6および8を含侵させている場合にDからCへと、ファイバーボードに製剤9を含侵させている場合にDからBへと、示唆されるクラスが改善していることが分かる。
【0129】
<例8−耐腐食性>
「EN113−木材を破壊する担子菌類に対する保護効果を判断する試験方法」という手順に応じて、本発明に係る製剤の耐腐食性への効果を評価した。
【表9】
【0130】
マツ材の辺材を製剤10で処理したものを、基準に従って認可した。
【0131】
<例9−ケイ酸カリウム製剤の浸出>
硬化温度を変更した場合の、本発明に係る製剤におけるケイ酸カリウムの可溶性への影響
【表10】
【0132】
最初に不溶化剤と水とを混合させて、その後にゆっくりと、常に撹拌しながら、溶解した不溶化剤混合物をケイ酸カリウムに加えることによって、製剤を用意した。
【0133】
20.0グラムの製剤11および12を、一晩かけて摂氏50度で乾燥させるべく表面積が大きい使い捨て容器に追加した。当該製剤は、乾燥させると、摂氏20度および摂氏190度で30分間にわたって硬化させた。
【0134】
この後、全てのサンプルは、上述した一般的な条件にしたがって再溶解試験を行った。
【0135】
この結果は図7に図示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7