特許第5791064号(P5791064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791064
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】医薬用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20150917BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20150917BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   A61K33/00
   A61P9/00
   A61P27/02
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2010-128057(P2010-128057)
(22)【出願日】2010年6月3日
(65)【公開番号】特開2011-37830(P2011-37830A)
(43)【公開日】2011年2月24日
【審査請求日】2013年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2009-168928(P2009-168928)
(32)【優先日】2009年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064746
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 久郎
(74)【代理人】
【識別番号】100085132
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100083703
【弁理士】
【氏名又は名称】仲村 義平
(74)【代理人】
【識別番号】100096781
【弁理士】
【氏名又は名称】堀井 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100109162
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 將行
(74)【代理人】
【識別番号】100111246
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 伸夫
(74)【代理人】
【識別番号】100124523
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 眞人
(72)【発明者】
【氏名】藤森 順也
(72)【発明者】
【氏名】馬場 秀運
(72)【発明者】
【氏名】村田 敏規
【審査官】 田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−273450(JP,A)
【文献】 特表平09−508892(JP,A)
【文献】 特表2003−506394(JP,A)
【文献】 国際公開第1998/043621(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/105731(WO,A1)
【文献】 特表2002−537810(JP,A)
【文献】 PNAS,2008年,Vol.105, No.21,pp.7540-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00
A61K 31/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体における血管新生を伴う疾患を治療・予防するために用いられる血管新生を制御する組成物であって、硝酸塩および亜硝酸塩のうち少なくとも一つを有効量含有する、医薬用組成物。
【請求項2】
被検体における硝酸イオン濃度を有効濃度域に維持することで血管新生を制御する、請求項1に記載の医薬用組成物。
【請求項3】
被検体に投与した際に、8μmol/L〜1000μmol/Lの範囲内の血漿中硝酸イオン濃度を与える量で硝酸塩および亜硝酸塩のうち少なくとも一つを含有する、請求項1または2に記載の医薬用組成物。
【請求項4】
血管新生を伴う疾患が、未熟児網膜症、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、血管新生緑内障から選ばれる少なくともいずれかの眼科疾患である、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生を伴う疾患を治療・予防するために用いられる血管新生を制御する組成物、ならびに血管新生を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生(angiogenesis)とは、組織の成熟血管からの内皮細胞増殖および遊走・リモデリングを基本とした新しい娘血管枝の形成を指す。近年、血管新生に対する細胞生物学的な研究アプローチから、そのメカニズムについて飛躍的な解明がなされている。血管新生は、虚血状態に基づく低酸素に応答して転写因子HIF(hypoxia-inducible factor)が活性化され、VEGF(vascular endothelial growth factor) mRNAが発現誘導されることにより開始される。産生された血管内皮増殖因子VEGFは、血管内皮細胞に局在化するVEGFレセプター(VEGFR)に結合し、細胞内シグナル伝達系を活性化する。その結果、細胞外基底膜の分解が起こり、血管内皮細胞の遊走・増殖、血管内皮細胞の管腔形成、基底膜の形成と周皮細胞の取り囲みという段階を経て血管が新生される。
【0003】
Murohara T et al., "Nitric oxide and angiogenesis in cardiovascular disease", Antioxid Redox Signal., Vol. 4, p.825-831(2002)(非特許文献1)によれば、血管新生に関与する細胞内シグナル伝達系として、ファスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)から始まる経路が明らかにされている。PI3K経路では、内皮型−酸化窒素合成酵素(endothelial NO synthase:eNOS)の活性化、これに基づく内因性NO産生増加が確認されており、Noiri E et al., "Podokinesis in endothelial cell migration: role of nitric oxide", The American Physiological Society, Vol. 274, p.236-244(1998)(非特許文献2)、Ziche M et al., "Nitric Oxide Promotes Proliferation and Plasminogen Activator Production by Coronary Venular Endothelium Through Endogenous bFGF", Circulation Research, Vol. 80, p.845-852(1997)(非特許文献3)、Dimmeler S et al., "Upregulation of Superoxide Dismutase and Nitric Oxide Synthase Mediates the Apoptosis-Suppressive Effects of Shear Stress on Endothelial Cells", Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., Vol. 19. p.656-664(1999)(非特許文献4)によれば、現在、内因性一酸化窒素は、血管内皮細胞の増殖・遊走促進作用、アポトーシス抑制作用により、血管新生に促進的に働くと考えられている。
【0004】
臨床医学において、血管新生は創傷治癒ならびに多くの疾患の進展に大きな影響を及ぼすことが知られている。血管新生が関与する疾患として、未熟児網膜症、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、血管新生緑内障などの眼科疾患、関節リウマチなどの炎症性疾患、固形腫瘍などの悪性新生物などが知られているが、これらの疾患においては、制御機構が欠如した病的な血管新生を呈する。眼科疾患における病的血管新生の治療戦略は、一貫して血管新生の抑制・阻害であり、特開2002−284685号公報(特許文献1)、特開2008−110950号公報(特許文献2)に開示されているように、外科的治療法と薬物治療法に大別される。
【0005】
外科的治療法の代表として、レーザー光凝固が汎用されるが、これは進行した病態に対してやむなく代償的組織破壊をするものであり、周辺視力の低下、夜間視力の低下、および色覚の変化をもたらすことがある。
【0006】
薬物治療においては、血管新生機構の分子生物学的な解明から、血管新生に関与する細胞内シグナル伝達系の種々の段階をブロックする阻害薬が研究・開発されている。VEGF阻害薬として、VEGF抗体(Bevacizumab)や、特開2008−280356号公報(特許文献3)に記載されているように、VEGF特異的結合性核酸(Pegaptanib sodium)が発明・開発されている。これらは網膜症における病的血管新生の阻害や糖尿病黄斑浮腫に有効であるが、VEGF抗体による正常血管の新生阻害、全身的な創傷治癒遅延、脳出血、脳血管発作、心筋梗塞および狭心症などの重大な副作用が報告されている。
【0007】
また、Eyal B et al., "T2-TrpRS Inhibits Preretinal Neovascularization and Enhances Physiological Vascular Regrowth in OIR as Assessed by a New Method of Quantification", Investigative Ophthalmology & Visual Science, Vol. 47, p.2125-2134(2006)(非特許文献5)によれば、一酸化窒素合成酵素阻害薬を用いた内因性一酸化窒素の産生抑制による、病的血管新生の阻害が試みられているが、一酸化窒素のような生理的にも重要な役割を果たしている分子を強力に阻害することにより、網膜症の原疾患である糖尿病の悪化、血圧上昇、心筋梗塞および狭心症などの種々の全身的副作用発現が予測される。
【0008】
さらに、VEGF阻害薬などの眼血管治療薬は、全身的な副作用を軽減するために硝子体内注射により投与されるため、患者への負担も大きく、注射時の眼組織損傷はもとより、水晶体および網膜組織は常に細菌感染のリスクに曝されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−284685号公報
【特許文献2】特開2008−110950号公報
【特許文献3】特開2008−280356号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Murohara T et al., "Nitric oxide and angiogenesis in cardiovascular disease", Antioxid Redox Signal., Vol. 4, p.825-831(2002)
【非特許文献2】Noiri E et al., "Podokinesis in endothelial cell migration: role of nitric oxide", The American Physiological Society, Vol. 274, p.236-244(1998)
【非特許文献3】Ziche M et al., "Nitric Oxide Promotes Proliferation and Plasminogen Activator Production by Coronary Venular Endothelium Through EndogenousbFGF", Circulation Research, Vol. 80, p.845-852(1997)
【非特許文献4】Dimmeler S et al., "Upregulation of Superoxide Dismutase and Nitric Oxide Synthase Mediates the Apoptosis-Suppressive Effects of Shear Stress on Endothelial Cells", Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., Vol. 19. p.656-664(1999)
【非特許文献5】Eyal B et al., "T2-TrpRS Inhibits Preretinal Neovascularization and Enhances Physiological Vascular Regrowth in OIR as Assessed by a New Method of Quantification", Investigative Ophthalmology & Visual Science, Vol. 47, p.2125-2134(2006)
【非特許文献6】Katsumi Y et al., "Metabolic Fate of Nitric Oxide", Int ArchOccup Environ Health, Vol. 46, p.71-77(1980)
【非特許文献7】Zhi H et al., "Enzymatic function of hemoglobin as a nitrite reductase that produces NO under allosteric control", The Journal of Clinical Investigation, Vol. 115, p.2099-2107(2005)
【非特許文献8】Lois E. H. Smith et al., "Oxygen-Induced Retinopathy in theMouse", Invest Ophthalmol Vis Sci. Vol. 35, p.101-111(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、血管新生を伴う眼科疾患の従来の治療法は、代償的組織破壊を伴う外科的治療、あるいは正常血管新生の阻害、重篤な全身的副作用、および細菌感染のリスクが高い硝子体内薬物治療が主流であり、満足のいく外科的治療法、および内科的治療法は確立されていなかった。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、血管新生を伴う疾患、特に眼科疾患における血管新生を内科的に制御し、正常な血管新生を阻害することなく治療できる、副作用が少なく、安全性が高い、血管新生疾患の治療・予防に有効な組成物、ならびにそれを用いた血管新生制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を行った結果、硝酸塩、亜硝酸塩が医薬的に許容される安全な投与量において、血管新生過程を制御する作用を有することを見出した。特に、眼科疾患における血管新生を制御し、正常な血管新生を阻害することなく病的な血管新生を抑制することを明らかにし、これらの化合物が未熟児網膜症、糖尿病網膜症(特に、増殖糖尿病網膜症)、加齢黄斑変性、血管新生緑内障などの眼科疾患治療・予防薬剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0014】
本発明は、被検体における血管新生を伴う疾患を治療・予防するために用いられる血管新生を制御する組成物であって、硝酸塩、亜硝酸塩、ならびに被検体に吸収されて硝酸塩または亜硝酸塩に変換可能な化合物のうち少なくとも一つを有効量含有することを特徴とする。
【0015】
本発明の組成物は、被検体における硝酸イオン濃度を有効濃度域に維持することで血管新生を制御するものであることが好ましい。
【0016】
本発明の組成物は、被検体に投与した際に、8μmol/L〜1000μmol/Lの範囲内の血漿中硝酸イオン濃度を与える量で硝酸塩、亜硝酸塩、ならびに前記化合物のうち少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0017】
本発明において、血管新生を伴う疾患が、未熟児網膜症、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、血管新生緑内障から選ばれる少なくともいずれかの眼科疾患であることが好ましい。
【0018】
本発明の組成物は、医薬用組成物である
【0019】
本発明はまた、硝酸塩、亜硝酸塩、ならびに被検体に吸収されて硝酸塩または亜硝酸塩に変換可能な化合物のうち少なくとも一つを有効成分として含有する組成物を被検体に投与する、血管新生制御方法について提供する。
【0020】
本発明の方法は、被検体における硝酸イオン濃度を有効濃度域に維持することで血管新生を制御することが好ましい。
【0021】
本発明の方法は、被検体における血漿中硝酸イオン濃度を8μmol/L〜1000μmol/Lの範囲内にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、血管新生を伴う疾患、特に眼科疾患における血管新生を内科的に制御し、正常な血管新生を阻害することなく治療できる、副作用が少なく、安全性が高い、血管新生疾患の治療・予防に有効な組成物、ならびにそれを用いた血管新生を制御する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実験例1の結果得られた網膜血管の蛍光造影写真であり、図1(a)は15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合、図1(b)は75μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合、図1(c)は75μmol/kgの硝酸ナトリウムを投与した場合、図1(d)は生理食塩水を投与した場合をそれぞれ示している。
図2】生理食塩水、15μmol/kg硝酸ナトリウム、15μmol/kg亜硝酸ナトリウム、75μmol/kg亜硝酸ナトリウムを投与した場合に硝子体へ進入した異常血管数を比較して示すグラフであり、縦軸は異常血管数(個)である。
図3】コントロールとして生理食塩水を投与した場合の網膜断面を示す写真である。
図4】実験例3の結果得られた網膜血管の蛍光造影写真であり、図4(a)は15μmol/kgの硝酸ナトリウムを投与した場合、図4(b)は15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合、図4(c)は生理食塩水を投与した場合をそれぞれ示している。
図5】実験例4の結果得られた網膜血管の蛍光造影写真であり、図5(a)はニトロプルシドナトリウム(SNP)を投与した場合、図5(b)はニトログリセリン(NTG)を投与した場合、図5(c)は15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合をそれぞれ示している。
図6】実験例5の結果得られた網膜血管の蛍光造影写真であり、図6(a)はVEGF抗体を投与した場合、図6(b)は15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合をそれぞれ示している。
図7】実験例6の結果得られた15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムをマウスの頚部に皮下投与した場合の血漿中硝酸イオン濃度の時間推移を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
元来、硝酸塩は、土壌を含む自然界に広く分布しており、主に葉野菜の摂取によって人体に取り込まれる。硝酸塩は、消化管から良好に吸収され、体循環に入った硝酸塩の約25%は唾液中に分泌される。唾液中の硝酸塩の一部(約30%)は口腔内細菌によって亜硝酸塩に還元されそのまま、あるいは胃酸によって一酸化窒素まで還元され消化管から再吸収される。健常成人における血漿中硝酸イオン濃度は10μmol/L〜71μmol/L、血漿中亜硝酸イオン濃度は0.15μmol/L〜1μmol/Lと報告されている。
【0025】
本発明者らは、未熟児、高濃度酸素治療を受けた被検体、糖尿病患者および高血圧症患者などに共通して、血漿中硝酸イオン濃度および亜硝酸イオン濃度が低下していることを見出し、これらの血漿中イオン濃度を正常値に回復させる、あるいは、治療有効濃度に高めることにより血管新生を制御し得ることを見出した。すなわち、本発明の組成物は、血管新生の恒常性維持のために本来体内にあるべき硝酸イオンおよび亜硝酸イオンを補充するものであり、それゆえ新生児においても極めて安全に適用され得るものである。
【0026】
本発明の組成物は、被検体における血管新生を伴う疾患を治療・予防するために用いられる血管新生を制御する組成物であって、硝酸塩、亜硝酸塩、ならびに被検体に吸収されて硝酸塩または亜硝酸塩に変換可能な化合物のうち少なくとも一つ(以下、これらを「有効成分」と総称する)を、血管新生を伴う疾患の治療・予防に有効な量で含有することを特徴とする。
【0027】
本発明における硝酸塩、亜硝酸塩は、無機アニオン(硝酸イオン:NO3-、亜硝酸イオン:NO2-)とカチオンから形成される医薬的に許容される塩であればよく、たとえば、カチオンとしてアルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいは有機塩基を用いることができる。たとえば、アルカリ金属として、ナトリウム、カリウムが好ましく、アルカリ土類金属として、カルシウム、マグネシウムが好ましく、有機塩基として、アルギニン、リジンが好ましい。
【0028】
また、本発明における被検体に吸収されて硝酸塩または亜硝酸塩に変換可能な化合物とは、経口投与、非経口投与により吸収され、速やかに代謝を受け、硝酸塩または亜硝酸塩の形で全身を循環する化合物を意味する。このような化合物としては、Katsumi Y et al., "Metabolic Fate of Nitric Oxide", Int ArchOccup Environ Health, Vol. 46, p.71-77(1980)(非特許文献6)にも記載されているように、一酸化窒素などの窒素酸化物が挙げられる。
【0029】
なお、本発明の組成物に関して、硝酸塩においては、特段重大な副作用は報告されていないが、亜硝酸塩においては、急性および亜急性毒性としてメトヘモグロビン血症が報告されている。しかしながら、本発明の効果を発揮する亜硝酸塩投与量は、げっ歯類で報告されているメトヘモグロビン血症に関する最大無作用量(亜硝酸ナトリウムして84mg/kg/day)の約1/8以下であり、新生児においても安全な治療法を提供するものである。
【0030】
本発明における硝酸塩および亜硝酸塩による血管新生制御機構は、上述したように、内因性一酸化窒素が血管内皮細胞の増殖・遊走促進作用を有し、血管新生に重要な役割を担っていることから、たとえばZhi H et al., "Enzymatic function of hemoglobin as a nitrite reductase that produces NO under allosteric control", The Journal of Clinical Investigation, Vol. 115, p.2099-2107(2005)(非特許文献7)に記載されたような組織虚血状態で進む亜硝酸イオンから一酸化窒素への変換機構の関与が推察される。しかしながら、後述する実験例4において立証されるように、ニトロプルシドナトリウム(SNP)やニトログリセリン(NTG)などの汎用一酸化窒素ドナー薬において、網膜症の悪化、あるいは血管新生制御効果が認められないことから、本発明による当該効果は、硝酸塩および亜硝酸塩に限定された極めて特異的な薬理作用である。すなわち、本発明の硝酸塩および亜硝酸塩による血管新生制御効果は、単に一酸化窒素の供給量増加によるものではなく、本発明者により見出された硝酸塩による生体内一酸化窒素の産生制御および血管内皮増殖因子(VEGF)の発現制御機構が関与しているものと推察される。
【0031】
本発明の組成物は、被検体における硝酸イオン濃度を有効濃度域に維持することで血管新生を制御することが好ましい。これにより、眼科疾患、炎症性疾患および悪性新生物における血管新生を制御することができ、特に、未熟児網膜症、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、血管新生緑内障から選ばれる少なくともいずれかの眼科疾患における血管新生の制御に有効である。このような本発明の組成物によれば、正常な血管新生を阻害することなく病的な血管新生を抑制し、網膜における無血管野の減少、硝子体内への病的血管新生を抑制することが可能となる。
【0032】
ここで、亜硝酸塩はヘモグロビンにより速やかに酸化され、大部分硝酸塩の形で血液中に存在すること(亜硝酸イオンは硝酸イオンの5%以下)、および上述したように両塩は腸−唾液腺循環など、被検体内で相互に変換可能であることにより、たとえば、本発明の組成物の治療有効濃度は血漿中硝酸イオン濃度で規定できる。すなわち、本発明の組成物は、被検体に投与した際に、8μmol/L〜1000μmol/Lの範囲内(好適には16μmol/L〜400μmol/Lの範囲内、より好適には32μmol/L〜200μmol/Lの範囲内)の血漿中硝酸イオン濃度を与える量で有効成分を含有することが好ましい。被検体に投与した際に、血漿中硝酸イオン濃度が8μmol/L未満である場合には、血管新生の制御効果が十分に発揮できずに疾患の治療・予防が不十分となるおそれがあり、逆に被検体に投与した際に、血漿中硝酸イオン濃度が1000μmol/Lを超える場合には、稀に網膜症などにおいて出血傾向が上昇する場合がある。なお、この血漿中硝酸イオン濃度は、高速液体クロマトグラフィーを用いて血漿中夾雑成分と分離し、直接吸光光度測定法によるか、またはグリース法などを応用することにより決定することができる。
【0033】
本発明の組成物は、医薬用組成物として医薬として製剤される。
【0034】
本発明の組成物は、硝酸塩、亜硝酸塩が水に溶け易く、消化管からの吸収性が良好なことから、非経口、経口を問わず多様な投与形態を使用することができる。非経口の投与経路としては、たとえば静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、肺内、鼻腔内、外用局所を含む多様な経路によって投与することができ、剤型としては注射剤、吸入剤などが挙げられる。一方、経口投与剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、内用液剤などが挙げられるが、これらの製剤を胃崩壊剤、腸溶剤、あるいは放出制御型に調製することにより、消化管の所望する部位で硝酸塩および亜硝酸塩を放出させることができる。これらの製剤は、汎用されている製剤技術を用いて、配合変化に注意し、医薬的に許容される医薬品添加物を使用して製剤化することができる。なお、硝酸塩、亜硝酸塩は生物学的半減期が3時間〜5時間と短いため、放出制御を施した製剤は、本発明の効果を引き出すのに適した剤型である。
【0035】
本発明の組成物の投与量は、年齢、体重、疾患の進行度、投与形態または投与経路によって異なるが、上記薬理作用が発揮でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されない。具体的な投与量としては、たとえば、マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルに亜硝酸ナトリウムを15μmol/kg/day皮下注射した場合、最大血漿中硝酸イオン濃度が100μmol/L前後に達し、正常な網膜血管新生を阻害することなく病的な血管新生を抑制することができる。
【0036】
また、本発明の組成物の投与期間は特に限定されないが、後述する実験例3で立証されるように、本発明の組成物は、血管新生過程を制御して正常な血管新生を阻害することなく病的な血管新生を抑制し得るものであるため、病的な血管新生が発生した後できるだけ早くに投与されることが好ましい。たとえば、治療・予防のために本発明の組成物を適用する血管新生を伴う疾患が未熟児網膜症、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、血管新生緑内障から選ばれる少なくともいずれかの眼科疾患である場合、眼科疾患に伴う病的血管新生の徴候が認められた時点から開始し、正常血管の新生が十分進み、組織虚血状態が緩和されるまで投与することが好ましい。
【0037】
さらに、本発明の組成物を予防的に使用することも効果的であり、未熟児網膜症の場合は、酸素治療中から、また、糖尿病網膜症の場合は、網膜血管の出血・浮腫が認められた時点から本薬剤を投与することにより、症状の悪化を防ぐことができる。
【0038】
本発明はまた、硝酸塩、亜硝酸塩、ならびに被検体に吸収されて硝酸塩または亜硝酸塩に変換可能な化合物のうち少なくとも一つを有効成分として含有する組成物を被検体に投与する、血管新生を制御する方法についても提供する。本発明の方法における詳細は、本発明の組成物について上述したのと同様である。
【0039】
本発明の方法において、本発明の組成物について上述したのと同様に、被検体における硝酸イオン濃度を有効濃度域に維持することで血管新生を制御することが好ましく、被検体における血漿中硝酸イオン濃度を8μmol/L〜1000μmol/Lの範囲内にすることが好ましい。
【0040】
また、本発明の方法は、血管新生を伴う疾患の治療ならびに創傷の治療に効果が期待できるが、特に血管新生を伴う疾患は、未熟児網膜症、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、血管新生緑内障から選ばれる少なくともいずれかの眼科疾患であることが好ましく、この場合、本発明の組成物の被検体への投与は、眼底検査で病的血管新生の徴候が認められた時点から開始し、正常血管の新生が十分に進み、組織虚血状態が緩和されるまで投与することが好ましい。
【0041】
以下、実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
<実験例1:硝酸塩・亜硝酸塩の網膜無血管野改善効果の評価>
インビボでの網膜血管新生疾患の病態モデルとして汎用されているマウス高酸素負荷網膜血管新生モデルにより、硝酸ナトリウムあるいは亜硝酸ナトリウムの網膜無血管野改善効果を評価した。
【0043】
(被験化合物注射液の調製)
被験化合物として硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムを注射用生理食塩水に溶解し、3μmol/L〜15μmol/Lの被験化合物注射液を調製した。
【0044】
(実験方法)
実験動物はC57BL/6Jマウス(SLC)を使用した。マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルはSmithらの手法(たとえば、Lois E. H. Smith et al., "Oxygen-Induced Retinopathy in theMouse", Invest Ophthalmol Vis Sci. Vol. 35, p.101-111(1994)(非特許文献8)を参照)に準じて行った。新生仔マウスを、生後7日目(P7)から12日目(P12)まで、親マウスと共に酸素制御装置(PRO−OX110、Reming Bioinstruments Co製)によって高酸素(75±1% O2)状態に制御されたケージ内で飼育した。生後12日目(P12)に新生仔マウスを大気圧条件下(21% O2)に戻し、生後17日目(P17)まで飼育することにより網膜血管新生を惹起させた。硝酸ナトリウムあるいは亜硝酸ナトリウムは、生後7日目(P7)〜16日目(P16)までの10日間、1日1回頚部皮下注射により15μmol/kgまたは75μmol/kgを投与した。また、コントロールとして、被験化合物の代わりに注射用生理食塩水を同様に皮下注射した。
【0045】
生後17日目(P17)にマウスをペントバルビタール投与により深麻酔させ、左心室から分子量2×106のfluorescein−conjugated dextran(FITC−dextran:Sigma製)を50mg/animalで全身潅流した。潅流後、眼球を摘出し、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液中で4時間〜12時間固定した。固定後、眼球から角膜および水晶体を切除し、マイクロピンセットで残存する硝子体動脈を除去した。網膜を顕微鏡下で剥離後、フラット状態にしてVECTASHIELD(Vector Laboratories Inc製)で包埋し、網膜伸展標本を作製した。
【0046】
(網膜無血管野の評価法)
網膜フラットマウント標本は蛍光倒立顕微鏡下(オリンパスIX71)高感度CCDカメラを使って撮影された。取得した画像について、Photoshop CS4 extendedを用いて網膜総面積および網膜無血管野面積を算出し、次式により網膜無血管野面積比を算出した。
【0047】
網膜無血管野面積比=網膜無血管野面積(μm2)÷網膜総面積(μm2)×100
(結果および効果)
図1は、実験例1の結果得られた網膜血管の蛍光造影写真であり、図1(a)は15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合、図1(b)は75μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合、図1(c)は75μmol/kgの硝酸ナトリウムを投与した場合、図1(d)は生理食塩水を投与した場合をそれぞれ示している。また、それぞれの場合の網膜無血管野面積、網膜総面積および算出された網膜無血管野面積比の平均値を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
網膜血管新生疾患の病態モデルにおいて、硝酸塩に関してはコントロール群に比して約20%、亜硝酸塩に関しては、コントロール群に比して約40%〜60%の網膜無血管野の減少が認められた。これらの結果から、硝酸塩および亜硝酸塩は正常な網膜血管新生を阻害することなく病的血管新生を制御し、網膜無血管野を改善する効果を有することが明らかとなった。
【0050】
<実験例2:病的血管新生抑制効果の評価>
マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルにより、硝酸ナトリウムおよび亜硝酸ナトリウムの病的血管新生抑制効果を評価した。
【0051】
(被験化合物注射液の調製)
被験化合物として硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムを注射用生理食塩水に溶解し、3μmol/L〜15μmol/Lの被験化合物注射液を調製した。
【0052】
(実験方法)
実験動物はC57BL/6Jマウス(SLC)を使用した。マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルの作製は実験例1に準じて行った。硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムは、生後7日目(P7)〜16日目(P16)までの10日間、1日1回頚部皮下注射により15μmol/kgまたは75μmol/kgを投与した。また、コントロールとして、被験化合物の代わりに注射用生理食塩水を同様に皮下注射した。
【0053】
生後17日目(P17)にマウスをペントバルビタール投与により安楽死させ、視神経と共に眼球を摘出した。眼球は生理食塩水中で洗い余分な組織を切除し、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液中で12時間固定した。固定後、眼球を70%〜100%の上昇エタノール系列に順次浸漬して脱水し、パラフィン包埋した。得られたパラフィンブロックを視神経に平行に50μm間隔で厚さ4μmに薄切りし、ヘマトキシリン・エオシンで染色(HE染色)後、網膜薄切標本を倒立顕微鏡(オリンパスIX71)で観察し、内境界膜を破り硝子体へ進入した病的血管数をカウントした。
【0054】
(結果および効果)
図2は、生理食塩水、15μmol/kg硝酸ナトリウム、15μmol/kg亜硝酸ナトリウム、75μmol/kg亜硝酸ナトリウムを投与した場合に硝子体へ進入した異常血管数を比較して示すグラフであり、縦軸は異常血管数(個)である。また、図3は、コントロールとして生理食塩水を投与した場合の網膜断面を示す写真である。図3中、矢符で示された部分において、網膜内境界膜を破り、硝子体側に進入した異常血管が発生していることが分かる。図2に示すグラフから、網膜内境界膜を破り硝子体へ進入した病的血管数は、硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムの投与により減少した。さらに、病的血管数は、亜硝酸塩投与量の増加に伴い減少する傾向にあり、75μmol/kg亜硝酸塩投与群では、コントロール群に比して約30%の病的血管の減少が認められた。これらの結果から、硝酸塩および亜硝酸塩は正常な血管新生を阻害することなく、硝子体内への病的血管新生を抑制する効果を有することが明らかとなった。
【0055】
<実験例3:硝酸塩、亜硝酸塩の網膜血管新生制御効果の評価>
マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルでは、75%酸素投与後、生後12日目(P12)から新生仔マウスをルームエアに戻し、生後17日目(P17)まで飼育することにより網膜血管新生が惹起される。そこで網膜血管新生の開始時(P12)から硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムを投与することにより、本発明の血管新生制御効果をより明確に検討した。
【0056】
(被験化合物注射液の調製)
被験化合物として硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムを注射用生理食塩水に溶解し、3μmol/mlの被験化合物注射液を調製した。
【0057】
(実験方法)
マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルの作製、網膜血管蛍光造影法および網膜伸展標本の作製法は実験例1に準じて行った。ただし、硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムは、生後12日目(P12)〜16日目(P16)までの10日間、1日1回頚部皮下注射により15μmol/kgを投与した。また、コントロールとして、被験化合物の代わりに注射用生理食塩水を同様の期間皮下注射した。
【0058】
(網膜無血管野の評価法)
実験例1に準じて算出した。
【0059】
(結果および効果)
図4は、実験例3の結果得られた網膜血管の蛍光造影写真であり、図4(a)は15μmol/kgの硝酸ナトリウムを投与した場合、図4(b)は15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合、図4(c)は生理食塩水を投与した場合をそれぞれ示している。また、それぞれの場合の網膜無血管野面積、網膜総面積および算出された網膜無血管野面積比の平均値を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
網膜血管新生開始から硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムを投与した場合、コントロール群に比して約40%の網膜無血管野の減少が認められた。この結果から、硝酸塩ならびに亜硝酸塩は、血管新生過程を制御し、正常な血管新生を阻害することなく病的な血管新生を抑制し、網膜無血管野を減少させる効果を有することが明らかとなった。
【0062】
<実験例4:亜硝酸塩と汎用一酸化窒素ドナー薬の網膜無血管野改善効果の比較>
マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルを用いて、狭心症や血圧降下剤として汎用されている一酸化窒素ドナー薬について網膜無血管野改善効果の有無を調べ、本発明の効果の特異性を明らかにした。
【0063】
(被験化合物注射液、比較例注射液の調製)
被験化合物として亜硝酸ナトリウムを注射用生理食塩水に溶解し、3μmol/mlの被験化合物注射液を調製した。比較例として、非酵素的一酸化窒素ドナー薬であるニトロプルシドナトリウム(SNP)および酵素的一酸化窒素ドナー薬であるニトログリセリン(NTG)を選択した。SNP二水和物を注射用生理食塩水に溶解し、0.4μmol/mlの比較例注射液を調製した。また、NTGに関しては、ニトログリセリン注50mg「HK」(光製薬)を原液のまま比較例注射液として使用した。
【0064】
(実験方法)
マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルの作製、網膜血管蛍光造影法および網膜伸展標本の作製は実験例1に準じて行った。亜硝酸ナトリウム、SNPおよびNTGは、生後7日目(P7)〜16日目(P16)までの10日間、1日1回頚部皮下注射により、それぞれ15μmol/kg、2μmol/kg、20μmol/kgを投与した。
【0065】
(網膜無血管野の評価法)
実験例1に準じて算出した。
【0066】
(結果および効果)
図5は、実験例4の結果得られた網膜血管の蛍光造影写真であり、図5(a)はニトロプルシドナトリウム(SNP)を投与した場合、図5(b)はニトログリセリン(NTG)を投与した場合、図5(c)は15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合をそれぞれ示している。また、それぞれの場合の網膜無血管野面積、網膜総面積および算出された網膜無血管野面積比の平均値を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
網膜血管新生疾患の病態モデルにおいて、SNPに関しては亜硝酸塩投与群に比して約2.5倍、またNTGに関しては約3.3倍の網膜無血管野の増大が認められた。SNPおよびNTGともに、網膜症の典型的な症状である無血管野の改善が認められないことから、本発明の効果は硝酸塩、亜硝酸塩に特異的な効果であることが明らかとなった。
【0069】
<実験例5:網膜症治療薬としての亜硝酸塩とVEGF阻害薬の比較>
マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルを用いて、亜硝酸塩と進行性大腸がんや加齢黄斑変性の治療に使用されているVEGF抗体の網膜症改善効果について比較した。
【0070】
(被験化合物注射液、比較例注射液の調製)
被験化合物として亜硝酸ナトリウムを注射用生理食塩水に溶解し、3μmol/mlの被験化合物注射液を調製した。比較例として、マウスモノクローナルVEGF抗体(SANTACRUZ BIOTECHNOLOGY,INC.製)を濃縮し、500μg IgG/mlの比較例注射液を調製した。
【0071】
(実験方法)
マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルの作製、網膜血管蛍光造影法および網膜伸展標本の作製は実験例1に準じて行った。亜硝酸ナトリウムは、生後7日目(P7)〜16日目(P16)までの10日間、1日1回頚部皮下により、15μmol/kgを投与した。また、VEGF抗体は酸素投与終了時(生後12日目)にマウス瞼を切開し、33G注射針を装着したマイクロシリンジにより、角膜輪部から硝子体内へ注入した。
【0072】
(網膜無血管野の評価法)
実験例1に準じて算出した。
【0073】
(結果および効果)
図6は、実験例5の結果得られた網膜血管の蛍光造影写真であり、図6(a)はVEGF抗体を投与した場合、図6(b)は15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムを投与した場合をそれぞれ示している。また、それぞれの場合の網膜無血管野面積、網膜総面積および算出された網膜無血管野面積比の平均値を表4に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
亜硝酸塩とVEGF抗体の網膜症改善効果を網膜無血管野の減少から評価すると、VEGF抗体投与群の網膜無血管野の割合が18.7%であるのに対し、亜硝酸塩投与群は9.3%となり著しい網膜無血管野の減少が認められた。この結果から、VEGF抗体の血管新生阻害作用には選択性がなく、病的血管新生のみならず正常血管の新生も阻害することが示唆された。これに対し、亜硝酸塩は、正常な血管新生を阻害することなく病的な血管新生を抑制するため、網膜の無血管野を減少させる効果を有する。本発明は、VEGF抗体と比較して、全身的な副作用が少ないことは上述したとおりであるが、網膜に無血管野を残さず治療が行える点においても優れていることが明らかとなった。
【0076】
<実験例6:血管新生制御効果を生ずる最適血漿中硝酸イオン濃度の推定>
マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルを用い、本発明の組成物投与により血管新生を伴う眼科疾患に対し著しい治療・予防効果が認められる場合の最適な血漿中硝酸イオン濃度を推定した。
【0077】
(被験化合物注射液の調製)
被験化合物として硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムを注射用生理食塩水に溶解し、3μmol/L〜15μmol/Lの被験化合物注射液を調製した。
【0078】
(実験方法)
実験動物はC57BL/6Jマウス(SLC)を使用した。マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルの作製は実験例1に準じて行った。硝酸ナトリウムまたは亜硝酸ナトリウムは、75%酸素投与終了時の生後12日目(P12)に頚部皮下注射により、本発明において著しい治療・予防効果が認められている投与量である15μmol/kg、75μmol/kg及び150μmol/kgを単回投与した。投与後、経時的に、イソフルラン麻酔下マウス腹部大動脈から血液を150μl採血した。血漿中硝酸イオン濃度の測定は、下記条件による順相カラムを使用したイオン交換クロマトグラフィーにより行った。
【0079】
(イオン交換クロマトグラフィー条件)
・分離カラム:Asahipak NH2P−50 4E(4.6mm×250mm)
・ガードカラム:Inertsil NH2(5μm)(4mm×10mm)
・移動相:10mM リン酸二水素ナトリウム、150mM 過塩素酸ナトリウム、pH5.0
・流速:0.7ml/min
・検出波長:210nm
(結果および効果)
図7は、実験例6の結果得られた15μmol/kgの亜硝酸ナトリウムをマウスの頚部に皮下投与した場合の血漿中硝酸イオン濃度の時間推移を示している。また、硝酸ナトリウム15μmol/kg、75μmol/kg及び150μmol/kgを頚部皮下投与した場合の最高血漿中硝酸イオン濃度の平均値を表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
図7から明らかなように、亜硝酸塩は、投与後1時間以内に血中に入り、そのほとんどが速やかにヘモグロビンにより硝酸塩に酸化され全身を循環することがわかる。すなわち、本発明において、亜硝酸塩を含有する組成物を被検体に投与した場合でも、本発明の治療・予防効果を得るためには、微量な血漿中亜硝酸イオン濃度を測定する代わりに、血漿中硝酸イオン濃度の測定および管理で代用できることが明らかである。表5の結果から、本発明の治療・予防効果が得られる最適な最高血漿中硝酸イオン濃度は、硝酸ナトリウム150μmol/kgを投与した場合であり、その値は約400μmol/Lであることが明らかとなった。
【0082】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図2
図7
図1
図3
図4
図5
図6