(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原燃料ガスを改質するための改質器と、前記改質器にて改質された改質燃料ガス及び酸化材の酸化及び還元により発電を行うための複数の燃料電池セルを備えたセルスタックと、前記改質器に原燃料ガスを供給するための燃料ポンプと、前記セルスタックに酸化材を供給するための酸化材ブロアと、前記燃料ポンプ及び前記酸化材ブロアを制御するための制御手段とを備えた固体酸化物形燃料電池システムであって、
前記セルスタックの第1の部位間の電圧を検出するための第1電圧検出手段と、前記セルスタックの第2の部位間の電圧を検出するための第2電圧検出手段とを備え、前記制御手段は、前記セルスタックの劣化状態を判定する劣化判定モードに切り換えるための劣化判定モード切換手段と、仮想開回路電圧を演算するための仮想開回路電圧演算手段と、前記セルスタックの劣化状態を判定するための劣化判定手段を含んでおり、
前記劣化判定モード切換手段により前記劣化判定モードに切り換えられると、前記制御手段は、前記セルスタックの出力電流が低くなる側に挿引制御し、前記第1電圧検出手段は、挿引制御時の前記セルスタックの前記第1の部位間の出力電圧を検出し、前記第2電圧検出手段は、挿引制御時の前記セルスタックの前記第2の部位間の出力電圧を検出し、前記仮想開回路電圧演算手段は、前記第1電圧検出手段の検出電圧に基づいて第1仮想開回路電圧を演算するとともに、前記第2電圧検出手段の検出電圧に基づいて第2仮想開回路電圧を演算し、前記劣化判定手段は、前記第1及び第2仮想開回路電圧に基づいて前記セルスタックの劣化状態を判定することを特徴とする固体酸化物形燃料電池システム。
前記セルスタックの三つ以上の部位の各々に対応して電圧検出手段が設けられ、各電圧検出手段は対応する部位間の電圧を検出し、前記制御手段の前記劣化判定手段は、前記電圧検出手段の検出電圧を利用して前記セルスタックの劣化状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
前記制御手段は、更に、運転モードを切り換えるためのモード切換手段を含み、前記劣化判定手段が劣化状態であると判定すると、前記モード切換手段は劣化モードの運転に切り換え、前記劣化モードの運転において、前記制御手段は前記セルスタックにおける燃料利用率が下がるようにシステムを運転制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した劣化診断方法では、セルスタックの推定I−V特性の傾き及び無負荷時の出力電圧(所謂、推定切片)を求めて劣化を診断しているが、セルスタックのガスシール性の低下による劣化を正確に検知することができないという問題がある。例えば、推定I−V特性の傾きは、燃料ガスや酸化材ガスの供給量に起因しても変動し、燃料ガス及び酸化材ガスの供給量が不足したときにはこの勾配が上昇する。また、推定I−V特性の推定切片は、燃料ガスと改質水との組成比の変動や改質器などの温度変動に起因しても変動する。従って、セルスタックの推定I−V特性の傾き及び推定切片を単に求めてもセルスタックの劣化によるものか、燃料ガス、酸化材ガスの供給量に起因するものか、又は燃料ガスと改質水との組成比の変動などに起因するものかを正確に判断するのが難しく、セルスタックの劣化を正確に診断することができない。加えて、セルスタック全体の劣化状態を診断しているために、セルスタックの局部的な劣化状態を診断することができない。
【0008】
一般に、セルスタックの劣化によってセル電圧が低下した場合、セルスタックの出力電流の制御上限を減らす制御を行うことが有効である。特に、I−V特性のプロットの勾配が増加する(内部抵抗が増大する)と、劣化の進行によりその電流値に比例した劣化部位の発熱が増大し、その温度上昇によりさらに劣化が速まることから、これを防止するためには、最大出力の抑制は有効となる。
【0009】
しかし、出力電流の制限上限を減らす制御では、劣化による出力電圧の低下が発生している上に出力電流を下げること、即ちシステムの最大発電電力を積極的に下げることであり、顧客優先の制御とならない。
【0010】
一方、セルスタックの劣化のうちガスシール性の低下によるI−V特性の切片(開回路電圧)が低下する場合には、出力電流の制御上限を減らすことよりも、システムの燃料利用率を下げ、余剰の燃料を加えることが有効である。このようにした場合、セルスタックの発電効率は低下するが、このような燃料電池は、排熱を回収利用するコージェネレーションシステムに適用されることが多く、コージェネレーションシステムにおいては余剰燃料ガスは燃焼させて温水として回収するために、発電効率の低下分は熱として回収することができ、その結果、システム全体を考えたときに省エネ性の大きな低下は生じない。従って、ガスシール性の低下を正確に検知することができれば、この劣化にふさわしい延命の措置を行うことができるとともに、システム全体の省エネ性も大きく損なわない措置を行うことが
できる。
本発明の目的は、ガスシール性によるセルスタックの劣化を正確に検知することができる固体酸化物形燃料電池システムを提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、顧客メリットを優先して発電出力を極力維持しながら長期の寿命を確保することができる固体酸化物形燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システムは、原燃料ガスを改質するための改質器と、前記改質器にて改質された改質燃料ガス及び酸化材の酸化及び還元により発電を行うための複数の燃料電池セルを備えたセルスタックと、前記改質器に原燃料ガスを供給するための燃料ポンプと、前記セルスタックに酸化材を供給するための酸化材ブロアと、前記燃料ポンプ及び前記酸化材ブロアを制御するための制御手段とを備えた固体酸化物形燃料電池システムであって、
前記セルスタックの第1の部位間の電圧を検出するための第1電圧検出手段と、前記セルスタックの第2の部位間の電圧を検出するための第2電圧検出手段とを備え、前記制御手段は、前記セルスタックの劣化状態を判定する劣化判定モードに切り換えるための劣化判定モード切換手段と、仮想開回路電圧を演算するための
仮想開回路電圧演算手段と、前記セルスタックの劣化状態を判定するための劣化判定手段を含んでおり、
前記劣化判定モード切換手段により前記劣化判定モードに切り換えられると、前記制御手段は、前記セルスタックの出力電流が低くなる側に挿引制御し、前記第1電圧検出手段は、挿引制御時の前記セルスタックの前記第1の部位間の出力電圧を検出し、前記第2電圧検出手段は、挿引制御時の前記セルスタックの前記第2の部位間の出力電圧を検出し、
前記仮想開回路電圧演算手段は、前記第1電圧検出手段の検出電圧に基づいて第1仮想開回路電圧を演算するとともに、前記第2電圧検出手段の検出電圧に基づいて第2仮想開回路電圧を演算し、前記劣化判定手段は、前記第1及び第2仮想開回路電圧に基づいて前記セルスタックの劣化状態を判定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項
2に記載の固体酸化物形燃料電池システムでは、前記セルスタックの三つ以上の部位の各々に対応して電圧検出手段が設けられ、各電圧検出手段は対応する部位間の電圧を検出し、前記制御手段の前記劣化判定手段は、前記電圧検出手段の検出電圧を利用して前記セルスタックの劣化状態を判定することを特徴とする。
【0016】
更に、本発明の請求項
3に記載の固体酸化物形燃料電池システムでは、前記制御手段は、更に、運転モードを切り換えるためのモード切換手段を含み、前記劣化判定手段が劣化状態であると判定すると、前記モード切換手段は劣化モードの運転に切り換え、前記劣化モードの運転において、制御手段は前記セルスタックにおける燃料利用率が下がるようにシステムを運転制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、セルスタックが一定の出力電流で発電を行っている発電状態のときに劣化判定モードに切り換え、この劣化判定モードによりセルスタックの劣化状態を診断するので、システムを起動、稼動停止することなくセルスタックの劣化状態を診断することができる。特に、高温で作動する固体酸化物形燃料電池システムでは、耐久性や省エネ性の観点から起動、稼動停止の頻度を多くすることは好ましくなく、起動と稼動停止の回数は、例えば、1ヶ月に1〜2回というように低頻度であり、そのために、起動、稼動停止時のみの診断では劣化診断の頻度が少なくなるが、発電状態で行うようにすることによって、劣化診断の頻度を多くして対応遅れがないようにすることができる。
【0023】
この劣化判定モードにおいては、通常の発電中(例えば、最大出力に相当する電流値を取り出し始めて所定の時間が経過した後)に、発電電流を低い側に挿引する制御を行い、第1電圧検出手段はこの挿引制御時のセルスタックの第1の部位間の出力電圧を検出し、第2電圧検出手段はこの挿引制御時のセルスタックの第2の部位間の出力電圧を検出する。そして、第1及び第2電圧検出手段の検知電圧に基づいて第1及び第2の部位間における電流−電圧特性(I−V特性)を取得し、
仮想開回路電圧演算手段はこの電流−電圧特性を利用して第1及び第2仮想開回路電圧を演算し、これら第1及び第2仮想開回路電圧に基づいてセルスタックの劣化を診断するもので、このようにして劣化状態を診断することによって、発電中においても温度の変動や燃料ガスの組成変動の影響を受けることなくセルスタックの局部的な劣化状態を診断することができる。
この仮想開回路電圧の考えの元となる開回路電圧は、セルスタックのガスシール性が良好であるときにはほぼ決まった電圧値となるが、ガスシール性が悪化すると低下する傾向にある。一般に、セルスタックは数10〜数100もの燃料電池セルを連結して構成されており、このようなセルスタックでは、セルスタック全体間の開回路電圧を検出したのでは、例えば、一つの燃料電池セルの開回路電圧が低下したとしてもその劣化を検知することが難しく、この開回路電圧の低下が温度の変動や燃料ガスの組成変動に起因したものであるかを判断することも難しい。
このようなことから、セルスタックの二つの部位(即ち、第1及び第2の部位)間の出力電圧を検出し、電流−電圧特性を利用してこれらの部位の仮想開回路電圧を演算し、これらの仮想開回路電圧に基づいてセルスタックの劣化を診断するもので、このようにして劣化状態を診断することによって、温度の変動や燃料ガスの組成変動の影響を受けることなくセルスタックの局部的な劣化状態を判定することができる。
尚、
この場合、第1及び第2の部位における燃料電池セル一つ当たりの単位検出電圧を演算し、かかる単位検出電圧を用いて1セル当たりの第1及び第2仮想開回路電圧(第1及び第2仮想単位開回路電圧)を用いるのが望ましい。
【0024】
劣化判定モードにおける発電電流の挿引制御は、必ずしもゼロにまで変化させる必要は無く、最大出力電流の例えば30%程度にまで低下させればよく、このように挿引制御することによって、セルスタックの第1及び第2の部位間における電流−電圧特性の取得が可能となる。また、最大出力電流から低下側に挿引する時の最小電流への挿引時間は、例えば数10秒以内でよく、挿引制御後に再度もとの電流値に復帰させるため、省エネ性も損なうことなくセルスタックの劣化状態を診断することができる。
【0025】
また、本発明の請求項
2に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、セルスタックの三つ以上の部位の各々に対応して電圧検知手段を設けるので、セルスタックの三つ以上の部位についての局部的な劣化を正確に診断することができ、電圧検知手段の設置個数を増やすことによって、より細かい部位についての局部的な劣化を診断することができる。
【0026】
更に、本発明の請求項
3に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、劣化判定手段がセルスタックが局部的に劣化状態であると判定すると、モード切換手段は劣化モードを設定し、劣化モードの稼動運転が行われる。この劣化モードにおいては、セルスタックにおける燃料利用率が下がるようにシステムの稼働運転が行われる。この燃料利用率とは、燃料ガス(アノードガス)に含まれる価電子の供給速度に対して、どれだけの発電電流として取り出しているかの割合である。
【0027】
固体酸化物形燃料電池システムでは、投入した燃料ガスの全てをセルスタックで電気的エネルギーに変換するものではなく、意図的に余剰の燃料ガスを残し、この余剰の燃料ガスを燃焼させて改質器(改質触媒)における改質熱、改質水を水蒸気に気化する気化熱に利用し、またセルスタックを動作温度に維持するための熱に利用している。この燃料利用率を高くすると発電効率が高くなることが期待できるが、一方において作動温度の低下により内部抵抗が増大したり、燃料電池セル間への燃料分配の差が生じて一部の燃料電池セルに供給不良を生じるおそれがある。この燃料利用率は70〜75%程度に設定されており、ガスシール性が低下した状態において燃料利用率を一定のまま維持すると急速に燃料電池セルの劣化が進むおそれがあるが、ガスシール性の劣化したときに劣化モードに切り換えて燃料利用率を下げる、例えば65〜70%に下げる動作を行うことで、急激な燃料電池セルの劣化を抑えながら延命運転を継続することができる。また、この燃料利用率を下げることにより余剰燃料ガスの燃焼熱量が大きくなるが、コージェネレーションシステムと組み合わせることにより、この燃焼熱量を温水として貯えることができ、システム全体を考えたときに省エネ性の大きな低下も生じることはない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して、
本発明を適用する固体酸化物形燃料電池システムの参考実施形態及び本発明に従う固体酸化物形燃料電池システムの
一実施形態ついて説明する。
【0030】
〔
固体酸化物形燃料電池システムの参考実施形態〕
図1〜
図4を参照して、
本発明が適用される固体酸化物形燃料電池システムの
参考実施形態について説明する。
図1において、図示の固体酸化物形燃料電池システム2は、改質器4及びセルスタック6を備えている。改質器4は、改質触媒として例えばアルミナにルテニウムを担持させたものが用いられ、この改質触媒によって、原燃料ガスが後述するようにして水蒸気改質される。原燃料ガスとしては、天然ガス(例えば、都市ガス)などが用いられる。
【0031】
セルスタック6は、電気化学反応によって発電を行うための複数個の固体酸化物形燃料電池セル8を集電部材を介して積層することにより構成されている。この燃料電池セル8は、酸素イオンを伝導する固体電解質10と、固体電解質10の片側に設けられた燃料極(図示せず)と、固体電解質10の他側に設けられた酸素極(図示せず)と、を備え、固体電解質10として例えばイットリアをドープしたジルコニアが用いられる。
【0032】
セルスタック6の各燃料電池セル8の燃料極側12の導入側は、改質燃料ガス送給ライン16を介して改質器4に接続され、また各燃料電池セル8の酸素極側14の導入側は、空気供給ライン18を介して空気ブロア20(酸化材ブロアとして機能する)に接続されている。空気ブロア22は、酸化材としての空気を空気供給ライン18を通してセルスタック6(各燃料電池セル8)の空気極側14に供給し、その回転数を制御することによって、セルスタック6に供給される空気の供給量が制御される。
【0033】
改質器4は、燃料ガス送給ライン22を介して脱硫装置24に接続され、この脱硫装置24は、燃料ガス供給ライン26を介して原燃料ガス供給源(図示せず)(例えば、埋設管、燃料ガスタンクなど)に接続されている。燃料ガス供給ライン26には、燃料ポンプ28が配設されている。燃料ポンプ28は、燃料ガス供給ライン26を通して原燃料ガスを脱硫装置24に供給し、脱硫器34は、燃料ガス中に含まれる硫黄成分を除去し、硫黄成分が除去された原燃料ガスが燃料ガス送給ライン22を通して改質器4に送給され、燃料ポンプ28の回転数を制御することによって、改質器4に供給される原燃料ガスの供給量が制御される。
【0034】
この
参考実施形態では、燃料ガス送給ライン22に水蒸気送給ライン30の一端側が接続され、その他端側が気化器32に接続され、この気化器32は、改質水供給ライン34を介して改質水供給源(図示せず)(例えば、水タンク、水道管など)に接続されている。改質水供給ライン34には、改質水ポンプ36が配設されている。改質水ポンプ36は、改質水供給ライン34を通して改質水を気化器32に供給し、その回転数を制御することによって、気化器32に供給される改質水の供給量が制御される。気化器32は、改質水を気化して水蒸気を生成し、生成された水蒸気が水蒸気送給ライン30を通して燃料ガス送給ライン22に送給され、この燃料ガス送給ライン22を通して原燃料ガスとともに改質器4に送給される。
【0035】
改質器4は、原燃料ガスを気化器32からの水蒸気により水蒸気改質し、水蒸気改質された改質燃料ガスが改質燃料ガス送給ライン16を通してセルスタック6(燃料電池セル8)の燃料極側12に送給される。尚、水蒸気送給ライン30を改質器4に接続し、気化器32からの水蒸気30を改質器4に直接的に送給するようにしてもよく、或いは気化器32と改質器4とを一体的に構成し、脱硫装置24からの原燃料ガスを気化器32を通して改質器4に送給するようにしてもよい。
【0036】
セルスタック6では、改質器4からの改質燃料ガスが各燃料電池セル8の燃料極側12に供給され、空気ブロア20からの空気(酸化材)が各燃料電池セル8の空気極側14に供給され、各燃料電池セル8における改質燃料ガスの酸化及び酸化材の還元により発電が行われる。セルスタック6の発電出力は、発電出力ライン38を介してインバータ41に接続され、インバータ41にて直流の発電電力が交流電力に変換された後に電力負荷(図示せず)(例えば、家庭内の各種電化製品など)に供給される。
【0037】
セルスタック6の燃料極側12及び酸素極側14の各排出側には燃焼室40が設けられ、セルスタック6(各燃料電池セル8)の燃料極側12から排出された余剰の燃料ガス(即ち、セルスタック6での発電に使用されなかった燃料ガス)と酸素極側14から排出された空気(酸素を含む)とがこの燃焼室40に排出されて燃焼される。燃焼室40は排気ガス排出ライン42が接続され、燃焼室40からの排気ガスが排気ガス排出ライン42を通して大気に排出される。
【0038】
このような固体酸化物形燃料電池システム2をコージェネレーションシステムに適用する場合、図示していないが、この燃料電池システム2に関連して貯湯装置が設けられるとともに、この排気ガス排出ライン42に熱交換器が配設される。貯湯装置は、貯湯するための貯湯タンクと、貯湯タンク内の水を熱交換器を通して循環するための循環ラインとを備え、この循環ラインには循環ポンプが配設される。このようなコージェネレーションシステムでは、排気ガス排出ライン42を通して排出される排気ガスと循環ラインを通して循環される水との熱交換が熱交換器で行われ、熱交換にて加温された温水が貯湯タンクに貯えられ、このようにして排気ガス中の熱が温水として回収され、このように熱回収を行うことによって、省エネ性を高めることができる。
【0039】
この固体酸化物形燃料電池システム2においては、セルスタック6の局部的な劣化を診断するために、更に、次のように構成されている。
図1とともに
図2を参照して、この
参考実施形態では、セルスタック6の片側の第1の部位(
図1において左部)に対応して第1電圧検出手段52が設けられ、その他側の第2の部位(
図1において右部)に対応して第2電圧検出手段54が設けられている。第1電圧検出手段52は、セルスタック6の第1の部位間の電圧(後述する第1開回路電圧)を検出し、第2電圧検出手段54は、セルスタック6の第2の部位間の電圧(後述する第2開回路電圧)を検出する。
【0040】
また、セルスタック6に近接して温度検出手段56が設けられ、また発電出力ライン42には電流検出手段58が設けられる。温度検出手段56はセルスタック6の温度を検出し、電流検出手段58は発電出力ライン42を通して出力される発電電力の電流を検出する。第1及び第2電圧検出手段52,54、温度検出手段56及び電流検出手段58からの検出信号は、システム全体を制御するための制御手段60に送給される。
【0041】
制御手段60は、例えばマイクロプロセッサなどから構成され、作動制御手段62、電圧差演算手段64、劣化判定手段66、モード切換手段68及びメモリ70を含んでいる。作動制御手段62は、システムの各種構成要素(燃料ポンプ28、改質水ポンプ36、空気ブロア20及びインバータ38など)を作動制御し、電圧差演算手段64は、第1電圧検出手段52の検出電圧(第1の部位間の電圧)と第2電圧検出手段54の検出電圧(第2の部位間の電圧)との電圧差を演算し、演算した電圧差が劣化状態の判定に用いられ、このように電圧差を用いることによって、温度の変動や原燃料ガスの組成変動の影響を実質上なくしてセルスタック6の後述する劣化判定を行うことができる。
【0042】
セルスタック6の第1の部位における燃料電池セル8の個数と第2の部位における燃料電池セル8の個数とが同じである場合には、第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧をそのまま用いることもできるが、第1及び第2の部位における燃料電池セル8の個数が異なるときには、第1及び第2の部位における検出電圧をそれらの部位の個数で除算した燃料電池セル8の一つ当たりの検出電圧(単位検出電圧)を、電圧差演算手段64により演算する検出電圧として用いるのが好ましく、この場合、制御手段60に単位電圧演算手段(図示せず)が含まれ、この単位電圧演算手段は、第1の部位については第1電圧検出手段52の検出電圧を第1の部位の燃料電池セル数で除算して燃料電池セル8の一つ当たりの単位検出電圧を演算し、また第2の部位については第2電圧検出手段54の検出電圧を第2の部位の燃料電池セル数で除算して燃料電池セル8の一つ当たりの単位検出電圧を演算し、このように単位検出電圧を演算することによって、燃料電池セル数の異なる二つの部位における劣化状態の診断を容易に行うことが可能となる。
【0043】
また、劣化判定手段66は、電圧差演算手段64により演算した電圧差とメモリ手段70に登録された設定電圧値とを比較する。セルスタック6において劣化状態が進行しないときにはこの電圧差はほとんどなく、局部的な劣化状態が進行するとこの電圧差が大きくなる傾向にある。このようなことから、劣化判定手段66は、電圧差演算手段64の電圧差が設定電圧値を超えると劣化状態が進行したとして劣化状態と判定し、劣化信号を生成する。
【0044】
更に、モード切換手段68は、劣化判定手段66の劣化信号に基づいてモード切換信号を生成し、このモード切換信号に基づいて、通常モードの運転から劣化モードの運転に切り換え、固体酸化物形燃料電池システム2は劣化モードにより稼動運転される。
【0045】
次に、
図3及び
図4をも参照して、劣化判定モードの稼動について説明する。固体酸化形燃料電池システム2を起動すると、劣化判定モードに移り、
図3に示す劣化判定モードの運転が実行される。この劣化判定モードの運転においては、作動制御手段62は、燃料ポンプ28、改質水ポンプ36、空気ブロア20及びインバータ41を作動し、原燃料ガスが脱硫装置24を通して改質器4に供給されるとともに、改質水が気化器32にて気化された後に水蒸気として改質器4に供給され、この改質器4にて水蒸気を利用した原燃料ガスの水蒸気改質が行われる。そして、水蒸気改質された改質燃料ガスがセルスタック6の燃料極側12に送給されるとともに、酸化材としての空気がセルスタック6の酸素極側14に送給され、セルスタック6において発電が開始され、また燃焼室40において余剰燃料ガスの燃焼が行われ、この燃焼熱を利用してセルスタック6、気化器32及び改質器4が加熱される。このとき、セルスタック6の温度は低く、セルスタック6における発電状態が不安定であり、インバータ41は、セルスタック6からの発電出力を交流電力に変換して出力することはない。
【0046】
このように起動すると、温度検出手段56はセルスタック6の温度を検出し(ステップS1)、温度検出手段56の検出温度が測定温度(例えば、480℃程度に設定される)に達すると、ステップS2を経てステップS3に移り、第1及び第2電圧検出手段52,54は、セルスタック6の第1及び第2の部位間の電圧を検出する。このとき、インバータ41から発電電力が出力されてなく、従って、第1及び第2電圧検出手段52,54が検出する電圧は、セルスタック6の第1及び第2の部位間の第1及び第2開回路電圧となる。
【0047】
このようにして第1及び第2の部位間の電圧(即ち、第1及び第2開回路電圧)を検出すると、電圧差演算手段64は第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧の差を演算し(ステップS4)、この電圧差が所定電圧値より小さいと、セルスタック6の局部的な劣化が生じていないとしてステップS6に進む。ステップS6においては、制御手段60は通常モードを設定し、温度検出手段56の検出温度が作動温度(例えば、650℃程度に設定される)に達すると、セルスタック6における発電状態が安定したとしてステップS7からステップS8に進み、固体酸化物形燃料電池システム2は、通常モードでもって運転される。この通常モードの運転においては、セルスタック6における燃料利用率が70〜75%程度に設定され、作動制御手段62は、燃料利用率がこの範囲となるように燃料ポンプ28、改質水ポンプ36及び空気ブロア20を作動制御する。
【0048】
また、電圧差演算手段64により演算された電圧差(即ち、第1及び第2開回路電圧の電圧差)が所定電圧値以上になると、セルスタック6において局部的な劣化が生じたとしてステップS5からステップS9に移り、劣化判定手段66は、セルスタック6が劣化状態であると判定し、劣化信号を生成する。かくすると、この劣化信号に基づいてモード切換手段68はモード切換信号を生成し、このモード切換信号に基づいて劣化モードを設定する(ステップS10)。
【0049】
その後、温度検出手段56の検出温度が作動温度(例えば、650℃程度に設定される)に達すると、セルスタック6における発電状態が安定したとしてステップS11からステップS12に進み、固体酸化物形燃料電池システム2は、劣化モードでもって運転される。この劣化モードの運転においては、セルスタック6における燃料利用率が通常モードよりも低く、例えば65〜70%程度に設定され、作動制御手段62は、燃料利用率がこの範囲となるように燃料ポンプ28、改質水ポンプ36及び空気ブロア20を作動制御する。例えば、燃料利用率を低下させるために、燃料ポンプ28の回転数を幾分上昇させて原燃料ガスの供給量を増加させるようにしてもよく、或いは燃料ポンプ28の回転数の上昇に加えて、空気ブロア20の回転数を幾分上昇させて空気の供給量を増加させるようにしてもよい。
【0050】
図1〜
図3に示す固体酸化物形燃料電池システム2を用い、第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧(即ち、第1及び第2開回路電圧)の電圧差を利用して劣化状態の診断が可能であるかを耐久試験を行って確認した。尚、この試験では、第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧を第1及び第2の部位における燃料電池セル8の個数で除算した燃料電池セル一つ当たりの検出電圧(即ち、単位検出電圧であって、第1及び第2単位開回路電圧となる)を用いて電圧差を演算している。
【0051】
この確認試験において、セルスタックの温度が460〜580℃の範囲となるときに、セルスタック6の第1及び第2の部位間の電圧を第1及び第2電圧検出手段52,54で検出し、その電圧差(単位検出電圧の電圧差)を演算し、これら第1及び第2の部位間の単位検出電圧(mV/セル)及び単位検出電圧の電圧差(mV/セル)を示すと、
図4に示す通りであった。この
図4に示されるように、第1及び第2の部位間の単位検出電圧(第1及び第2単位開回路電圧)の電圧差においては、原燃料ガスと改質水との組成比の変動や改質器4の温度変動をキャンセルし、燃料電池セル8の劣化のみに起因する変化が捉えられていることが容易に理解される。
【0052】
固体酸化物形燃料電池システム2の初期状態では、単位検出電圧の電圧差(
図4の右軸)は、−0.8mVであり、この電圧差は1万1000時間までは大きな変化はなかったが、1万1000時間以降からこの電圧差の連続的低下が顕著となり、その低下の速度も急激になった。このような傾向から、測定誤差による誤検知を含まないようにするため、例えば、−10mV以下を劣化状態とみなすように設定すれば、1万4000時間を経過した頃にはセルスタック6に劣化が生じたと判定し、燃料電池セル2を保護する劣化モードの運転に移行させることができる。
【0053】
上述した
参考実施形態では、第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧(第1及び第2開回路電圧)の電圧差が所定値になるとセルスタック6に局部部的な劣化が生じたとして劣化モードに移行させているが、例えば所定の幅以上の変化が所定時間継続して発生した場合に、セルスタック6に局部的な劣化が生じたと判定するようにしてもよく、或いはこの電圧差が所定値になる回数が所定回数(例えば、2〜3回)になった場合に、セルスタック6が局部的に劣化したと判定するようにしてもよい。
【0054】
このような場合、
図4を参照して説明すると、固体酸化物形燃料電池システム2の起動時毎の第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧(
図4では、第1及び第2単位開回路電圧として示している)の電圧差(第1及び第2単位開回路電圧の電圧差)が、例えば±5.0mV/1000時間の電圧差の変化速度が2回の起動で継続して確認された場合に劣化が生じたと判定するようにすると、この耐久試験では、1万3300時間経過した頃にはセルスタック6に劣化が生じたと判定し、この時点で劣化モードの運転に移行させることができる。
【0055】
上述した
参考実施形態では、固体酸化物形燃料電池システム2の駆動時に劣化判定モードを遂行してセルスタック6の劣化状態を診断しているが、このような劣化判定モードは、この燃料電池システム2の稼動終了時に行うようにしてもよい。この稼動終了時においては、出力電流をゼロとしながらもセルスタック6(燃料電池セル8)の燃料極側12及び空気極側14に燃料ガス及び空気を送りながら冷却を行うが、このときにもセルスタック6の第1及び第2の部位間の第1及び第2開回路電圧を第1及び第2電圧検出手段52,54により検出することができる。
【0056】
稼動終了時に劣化判定モードを遂行したとときの実験結果は、
図5に示す通りであった。
図5においても、第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧を第1及び第2の部位における燃料電池セル8の個数で除算した燃料電池セル一つ当たりの検出電圧(即ち、単位検出電圧であって、第1及び第2単位開回路電圧となる)を用いて電圧差を演算している。尚、この
図5では、稼動終了時から40分経過した時点での第1及び第2の部位間の第1及び第2単位開回路電圧とそれらの電圧差を示している。
【0057】
図5に示されているように、第1及び第2単位開回路電圧の電圧差(
図5の右軸)は、初期状態から3000時間にかけて若干の電圧差の変化(−2.3mVから−6.6mVの変化)が生じているが、その後、この電圧差はほぼ一定となっている。そして、6500時間を経過したころからその低下が顕著となっていることが分かる。このことは、稼動終了時の開回路電圧を用いることによって、起動時の開回路電圧を用いるときよりも早期に劣化状態を判定することができ、劣化モードの運転に対する早期の対応が可能であることが分かる。
【0058】
稼動終了時の開回路電圧の方が高感度に劣化状態を検知できる理由としては、次のことが考えられる。ガスシール性が低下した燃料電池セル6の燃料極では、その発電状態で十分な還元ガスの供給が間に合わず、部分的な酸化状態が発生するものと考えられ、稼動終了時では、発電中に生じた酸化状態が残存しているため、本来の起電力よりもやや少ない開回路電圧を生じるものと考えられる。一方、起動時では、燃料ガスが十分に燃料電池セル6の燃料極に供給されているため、ガスシール性が低下した燃料電池セル6において燃料極に酸化状態が発生していたとしても、温度上昇の過程で再度還元され、本来の起電力に復帰していると考えられる。
【0059】
この参考実施形態では、セルスタック6の片側の第1の部位間とその他側の第2の部位間の開回路電圧を検出しているが、開回路電圧を検出する部位はこのように異なる部位である必要はなく、第2の部位(又は第1の部位)を第1の部位(又は第2の部位)を含むようにしてもよく、例えばセルスタック6の片側(又は他側)の部位を第1の部位(又は第2の部位)とし、セルスタック6の全体を第2の部位(又は第1の部位)としてもよい。また、この形態ではセルスタック6の二つの部位間の開回路電圧を検出しているが、セルスタック6の三つ以上の部位間の開回路電圧を検出するようにしてもよく、検出する部位間を増やすことによって、より小さい部位間のセルスタック6の局部的な劣化状態を診断することができる。
【0060】
〔
固体酸化物形燃料電池システムの一実施形態〕
次に、
図6及び
図7を参照して、本発明に従う固体酸化物形燃料電池システムの
一実施形態について説明する。
この実施形態では、燃料電池セルスタックの第1及び第2の部位間の開回路電圧を直接的に検出するのではなく、発電中に発電電流を低い側に挿引制御して得られる電流−電圧特性(I−V特性)を利用して仮想開回路電圧を求め、この仮想開回路電圧を用いてセルスタック6の局部的な劣化状態を診断している。尚、
この実施形態において、上述した
参考実施形態と同様のものには同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0061】
この
実施形態においては、固体酸化物形燃料電池システムの基本的構成については、
上述した参考実施形態と同様であって、
図1に示す構成を有し、制御手段60Aの構成が相違している。
【0062】
図6において、
この実施形態における制御手段60Aは、作動制御手段62、電圧差演算手段64、劣化判定手段66、モード切換手段68及びメモリ手段70Aに加えて、劣化判定モード切換手段82及び仮想開回路電圧演算手段84を含んでいる。劣化判定モード切換手段82は、通常モードの運転中においてセルスタック6の劣化状態を診断するための劣化判定モードに切り換え、また仮想開回路電圧演算手段84は、劣化判定モードの運転において得られた電流−電圧特性に基づいて後述するようにして仮想開回路電圧を演算する。
この実施形態におけるその他の構成は、上述した
参考実施形態と実質上同一である。
【0063】
この実施形態における劣化判定モードの稼動は、次のようにして行われる。
図7をも参照して、固体酸化物形燃料電池システムの通常モードの運転中において劣化判定モードへの切換えが行われる。このような劣化判定モードへの切換えは、セルスタック6の発電電力が最大出力に保たれ(このときは、時間的に温度変動の少ない状態が保たれる)、このような安定状態(例えば、温度検出手段56の検出温度が所定の温度幅内に保たれている)が一定時間(例えば、2〜5時間)経過するか、或いは、電流検出手段58の検出電流が所定の電流幅内に保たれて一定時間(例えば、2〜5時間)経過するか、などの条件を満たすときに、劣化判定モード切換手段82は、劣化判定モードの運転に切り換える(ステップS22)。
【0064】
劣化判定モードの運転に切り換わると、第1及び第2電圧検出手段52及び54は、セルスタック6の第1及び第2の部位間の電圧を検出する(ステップS23)。そして、セルスタック6の出力電流を低下側に挿引する挿引制御が行われる(ステップS24)。この実施形態では、出力電流の挿引制御が5段階にわたって行われ、第1段階では出力電流が80%まで挿引され、第2段階では出力電流が60%まで挿引され、第3段階では出力電流が45%まで挿引制御され、第4段階では出力電流が35%まで挿引され、第5段階では出力電流が25%まで挿引される。第1段階の挿引制御が行われると、ステップS24からステップS25に進み、第1及び第2電圧検出手段52,54はセルスタック6の第1及び第2の部位間の電圧を検出し、この検出電圧が第1段階の挿引時の電圧としてメモリ手段70Aに記憶される。第1段階の挿引が行われると、ステップS26からステップS24に戻り、次に第2段階の挿引制御が行われ、第1及び第2電圧検出手段52,54はセルスタック6の第1及び第2の部位間の電圧を再び検出し、この検出電圧が第2段階の挿引時の電圧としてメモリ手段70Aに記憶される。このような挿引制御は、第5段階まで行われ、第5段階までの第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧がメモリ手段70Aに記憶される。
【0065】
このようにして第5段階までの挿引制御が行われると、ステップS26からステップS27に進み、メモリ手段70Aに記憶された検出電流及び検出電圧に基づいて、仮想開回路電圧演算手段84による仮想開回路電圧の演算が行われる。セルスタック6の第1の部位については、通常モードの運転における電流検出手段58の検出電流と第1電圧検出手段52の検出電圧、第1段階の挿引時の上記検出電流と上記検出電圧及び第2段階(及び第3段階、第4段階、第5段階)の上記検出電流と上記検出電圧とに基づいてセルスタック6の第1の部位における電流−電圧特性(I−V特性)のプロットを一次関数として求め、求めた一次関数を用いて第1仮想開回路電圧(即ち、第1仮想切片)が演算される。また、セルスタック6の第2の部位については、通常モードの運転における電流検出手段58の検出電流と第2電圧検出手段54の検出電圧、第1段階の挿引時の上記検出電流と上記検出電圧及び第2段階(及び第3段階、第4段階、第5段階)の上記検出電流と上記検出電圧とに基づいてセルスタック6の第2の部位における電流−電圧特性(I−V特性)のプロットを一次関数として求め、求めた一次関数を用いて第2仮想開回路電圧(即ち、第2仮想切片)が演算される。
【0066】
この
実施形態においても、
上述の参考実施形態と同様に、第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧をそれらの部位における燃料電池セル8の個数で除算した燃料電池セル8の一つ当たりの検出電圧(単位検出電圧)を演算し、第1〜第5段階の単位検出電圧を用いて燃料電池セル8の一つ当たりの第1仮想単位開回路電圧(即ち、第1仮想単位切片)及び第2仮想単位開回路電圧(即ち、第2仮想単位切片)を演算し、第1及び第2仮想開回路電圧としてこれら第1及び第2仮想単位開回路電圧を用いるのが好ましい。
【0067】
尚、この実施形態では、セルスタック6の出力電流の挿引制御時に低下側に5段階にわたって行っているが、低下側に1〜4段階、或いは低下側に6段階以上行うようにしてもよく、また挿引する出力電流についてもこの出力電流の25%まで行う必要はなく、例えば50%前後まで挿引制御するようにしてもよい。また、この挿引制御に要する時間は、例えば、10〜30秒程度でよく、その挿引制御については、例えば、インバータ41の出力電流を制限することによって行うことができる。
【0068】
上述したようにしてセルスタック6の第1及び第2の部位についての第1及び第2仮想開回路電圧を演算すると、ステップS28に移り、電圧差演算手段64は、第1及び第2仮想開回路電圧の電圧差を演算し、この電圧差が所定電圧値より小さいと、ステップS29からステップS30に移り、セルスタック6の局部的な劣化が生じていないとして燃料電池システムは通常モードで引き続き運転され、上述したと同様に、セルスタック6における燃料利用率が70〜75%程度となるように運転制御される。
【0069】
また、電圧差演算手段64により演算された電圧差(即ち、第1及び第2仮想開回路電圧の電圧差)が所定電圧値以上になると、セルスタック6において局部的な劣化が生じたとしてステップS29からステップS31に移り、劣化判定手段66は、セルスタック6が劣化状態であると判定し、劣化信号を生成する。かくすると、この劣化信号に基づいてモード切換手段68はモード切換信号を生成し、このモード切換信号に基づいて劣化モードを設定し、燃料電池システムは劣化モードでもって運転され、上述したと同様に、セルスタック6における燃料利用率が通常モードよりも低く、例えば65〜70%程度となるように運転制御される。
【0070】
図6及び
図7に示す固体酸化物形燃料電池システムを用い、燃料電池システムの最大出力による発電中に劣化判定モードに切り換え、挿引制御中の第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧に基づいて仮想開回路電圧を演算し、かかる仮想開回路電圧の電圧差を利用して劣化状態の診断が可能であるかを耐久試験を行って確認した。尚、この試験でも、第1及び第2電圧検出手段52,54の検出電圧を第1及び第2の部位における燃料電池セル8の個数で除算した燃料電池セル一つ当たりの検出電圧(即ち、単位検出電圧)を用い、かかる単位検出電圧に基づいて第1及び第2仮想単位開回路電圧を演算し、これら第1及び第2仮想単位開回路電圧の電圧差を演算している。
【0071】
図8は、燃料電池システムの稼働中に劣化判定モードに切り換え、セルスタック6の出力電流を低下側に挿引制御したときの第1及び第2の部位間の検出電圧の変化を示している。この実験では、定格(最大出力)時のセルスタック6の出力電流を100%とし、このようにしたときの80%、60%、45%、35%及び25%の5段階に挿引制御した。この挿引制御は10秒をかけて行い、かく挿引制御した際の第1及び第2の部位間の電圧を第1及び第2電圧検出手段52,54で検出した。
【0072】
かく挿引制御したときのセルスタック6の第1及び第2の部位間の検出電圧とセルスタック6の出力電流との関係(I−V特性)は、
図8に示す通りであり、第1及び第2の部位について得られたI−V特性に基づいて、第1及び第2仮想開回路電圧は、次のようにして算出することができる。
【0073】
即ち、第1及び第2の部位についてのI−V特性は、
図8から理解されるように、一次関数として求めることができ、求めた一次関数を用いて第1及び第2仮想切片(即ち、第1及び第2仮想開回路電圧)を算出することができる。
【0074】
尚、例えば、セルスタック6の出力電流を100%とX%(X=0〜50%)の2点を計測し、それらの検出電圧をV100、VXとすると、仮想開回路電圧Vは、
V=〔V100+(V100−VX)X100〕/(100−X)
として算出することができる。
【0075】
出力電流を低下側に挿引する挿引制御は、上述したようなセルスタック6の温度や、出力電流が安定状態にあるときに限って行う必要はなく、例えば、2時間以上の適宜の時間間隔をおいて定期的に挿引制御を行ってセルスタック6の劣化状態を診断するようにしてもよく、或いはセルスタック6の温度や、出力電流が所定の範囲にある場合のみ、切片算出の演算を行い記憶するというようにしてもよい。
【0076】
試験開始から1万8000時間程度まで稼動させたものにおける第1及び第2仮想開回路電圧(第1及び第2仮想単位開回路電圧)及びそれらの電圧差は、
図9に示すように推移した。この燃料電池システムに搭載したセルスタック6は、
上述の参考実施形態におけるセルスタック6と同一のものであり、同じ劣化が進行しているものと考えることができる。
図9から理解されるように、第1及び第2仮想開回路電圧(第1及び第2仮想単位開回路電圧)の電圧差(
図9の右軸)は、初期状態では平均として約−6mVであったが、6500時間を経過した時点から低下が大きくなっていったことが分かる。このようなことから、仮想開回路電圧を用いてもセルスタック6の劣化状態を検知することが可能であり、起動時の開回路電圧を検出する場合よりも早期に劣化状態を検知することが可能となる。
【0077】
その理由としては、次のことが考えられる。ガスシール性が低下した燃料電池セル8の燃料極では、その発電状態で十分な還元ガスの供給が間に合わず、部分的な酸化状態が発生するものと考えられ、この状態の燃料電池セル8では、電流を低電流に絞る過程で本来の起電力よりもやや少な目の起電力を生じるものと考えられる。一方、起動時では、燃料が十分に燃料極に供給されているため、ガスシール性が低下した燃料電池セル8において燃料極に酸化状態が発生していたとしても、温度上昇の過程で再度還元され、本来の起電力に復帰していると考えられる。これらのことから、発電状態から低電流側に挿引動作を行う方が、高感度な異常検知ができるものと推定される。
【0078】
以上、本発明に従う固体酸化物形燃料電池システムの実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更乃至修正が可能である。
【0079】
例えば、
上述の実施形態では、セルスタックの第1及び第2の部位間における仮想開回路電圧の電圧差を用いているが、この電圧差に代えて、それらの電圧比を用いるようにしてもよく、このようにしても上述したと同様の作用効果を達成することができる。