【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
[試験例1−1]ジルコニア原料未焼成粉による細胞培養担体
平均粒子径が0.6〜0.9μmであるジルコニア原料粉を所望のウェル形状より若干小さいサイズとなるパターン化された複数の凸形状を有する特殊鋳型を用いて、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、室温で静置後、前記鋳型から成型体を取り出し、これを所定の温度で24時間乾燥し、1050℃、1150℃、1250℃、1350℃、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々82μm、78μm、64μm、60μm、55μmであった。
上記開口径の算出方法は、まず、ウェルの中心点を通る8本の直径線をランダムに引き、ウェルの開口径の平均値を算出する。これを、ウェル20個についてそれぞれ実施した後、ウェル1個あたりの開口径の平均値を算出した。
なお、ウェルの開口径は、マイクロスコープ(VHX−1000:キーエンス)を用いて測定した。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格の電子顕微鏡(SEM)写真を
図1、水銀圧入法で測定した細孔径分布を
図2に示す。
なお、平均粒子径は、セラミックス原料を純水に懸濁後、超音波処理を10分おこなった後、大塚電子(株)ELSZ-2を用いて粒度分布の平均値を算出(レーザードップラー法)した。
【0047】
図1に示したSEM写真から分かるように、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、
図2のグラフに示したように、焼成温度が高くなるにつれて、緻密化が進み、微細孔が小さくなることが確認された。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.17μm、1150℃で焼成したものは0.15μm、1250℃で焼成したものは0.17μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0048】
また、上記において作製した各担体を、滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたヒト間葉系幹細胞(hMSC)を1×10
4個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を
図3に示す。
【0049】
図3に示したSEM写真から分かるように、1050℃及び1150℃で焼成した担体を用いた場合、hMSCは、ウェル内に集まり、球状の細胞が凝集塊を形成していることが認められ、該担体の上面(ウェル外)には、細胞は接着していなかった。1250℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内で細胞の凝集塊が形成されているが、該担体の上面に扁平な細胞が接着していた。1350℃及び1500℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0050】
[試験例1−2]ジルコニア原料1150℃仮焼粉による細胞培養担体
試験例1−1で用いたジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成して、粒子径の平均値が0.75〜1.2μmの2次粒子を得た。この2次粒子を用いて、試験例1−1と同様にして、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1050℃、1150℃、1250℃、1350℃、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々90μm、85μm、75μm、65μm、55μmであった。上記開口径の算出方法は上記のとおりである。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を
図4、水銀圧入法で測定した細孔径分布を
図5に示す。
【0051】
図4に示したSEM写真から分かるように、1150℃仮焼成の2次粒子で作製した担体は、未焼成原料粉で作製した担体(試験例1−1)と比較して、大きい粒子で構成されており、また、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、
図5のグラフに示したように、試験例1−1と同温度で焼成した担体は、微細孔が若干大きくなることが認められた。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.25μm、1150℃で焼成したものは0.22μm、1250℃で焼成したものは0.20μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0052】
また、上記において作製した各担体を用いて、試験例1−1と同様にして、hMSCを培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を
図6に示す。
【0053】
図6に示したSEM写真から分かるように、1050℃、1150℃及び1250℃焼成した担体を用いた場合、hMSCは、ウェル内に集まり、球状の細胞が凝集塊を形成していることが認められ、該担体の上面(ウェル外)には、細胞は接着していなかった。1350℃及び1500℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0054】
[試験例1−3]ジルコニア原料1250℃仮焼粉による細胞培養担体
試験例1−1で用いたジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成して、粒子径の平均値が0.8〜1.2μmの2次粒子を得た。この2次粒子を用いて、試験例1−1と同様にして、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1050、1150、1250、1350、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々92μm、88μm、77μm、65μm、57μmとなる。上記開口径の算出方法は上記のとおりである。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を
図7、水銀圧入法で測定した細孔径分布を
図8に示す。
【0055】
図7に示したSEM写真から分かるように、1250℃仮焼粉で作製した担体は、未焼成原料粉又は1150℃仮焼粉で作製した担体(試験例1−1、1−2)と比較して、大きい粒子で構成されており、また、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、
図8のグラフに示したように、試験例1−1、1−2と同温度で焼成した担体は、微細孔が若干大きくなることが認められた。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.45μm、1150℃で焼成したものは0.34μm、1250℃で焼成したものは0.42μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0056】
また、上記において作製した各担体を用いて、試験例1−1と同様にして、hMSCを培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を
図9に示す。
【0057】
図9に示したSEM写真から分かるように、1050℃、1150℃及び1250℃焼成した担体を用いた場合、hMSCは、ウェル内に集まり、球状の細胞が凝集塊を形成していることが認められ、該担体の上面(ウェル外)には、細胞は接着していなかった。1350℃及び1500℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0058】
[試験例1−4]ジルコニア原料1350℃仮焼粉による細胞培養担体
試験例1−1で用いたジルコニア原料粉を1350℃で仮焼成して、粒子径の平均値が1.0〜2.5μmの2次粒子を得た。この2次粒子を用いて、試験例1−1と同様にして、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1050、1150、1250、1350、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々85μm、82μm、75μm、67μm、58μmであった。上記開口径の算出方法は上記の通りである。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を
図10、水銀圧入法で測定した細孔径分布を
図11に示す。
【0059】
図10に示したSEM写真から分かるように、1350℃仮焼成の2次粒子で作製した担体は、未焼成原料粉、1150℃仮焼成の2次粒子又は1250℃仮焼成の2次粒子で作製した担体(試験例1−1、1−2、1−3)と比較して、大きい粒子で構成されており、また、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、
図11のグラフに示したように、試験例1−1〜1−3と同温度で焼成した担体は、微細孔が若干大きくなることが認められた。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.64μm、1150℃で焼成したものは0.91μm、1250℃で焼成したものは0.72μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0060】
また、上記において作製した各担体を用いて、試験例1−1と同様にして、hMSCを培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を
図12に示す。
【0061】
図12に示したSEM写真から分かるように、すべての焼成温度で、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0062】
また、上記試験例1−1〜1−4で作製した各担体で培養された細胞の形状について、各担体上面の2乗平均粗さRqとの関係を表1に、各担体上面の線密度との関係を表2に示す。
なお、2乗平均粗さRqは、JIS B 0601により測定したものである。
また、線密度は、原子間力顕微鏡(AFM)により、スケール0.8μm、スキャンサイズ10μm×10μmにて測定したものである。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1及び2で示した結果から、担体上面の2乗平均粗さRqが100nm以上280nm以下の場合、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6以上3以下の場合にhMSCは凝集塊を形成する傾向が認められた。
【0066】
さらに、上述した構成に加え、ウェルの少なくとも底面の2乗平均粗さRqが100nm以上280nm以下の場合、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6以上3以下の場合、hMSCは凝集塊をより形成する傾向が認められた。
【0067】
[実施例1]hMSCの培養
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1150℃で焼成して作製した、開口径及び深さが78μm、175μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体に、試験例1−1と同様にして、0.5×10
4、1×10
4、2.5×10
4、5×10
4個のhMSCを播種して培養した。
播種して7日経過後のSEM写真を
図13に示す。
【0068】
図13に示したSEM写真から分かるように、ウェル開口径78μmの場合、hMSCを1×10
4個以上播種すると、ウェル内で凝集化する傾向が認められた。
また、ウェル開口径175μm以上の場合、播種細胞数を5×10
4個以上にすると、細胞が凝集化しやすくなる傾向が認められた。
【0069】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。その結果、これらの各培養担体においても、ウェル内で凝集化する傾向が認められた。
【0070】
[比較例1]HepG2の培養
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが175μmのウェルが配列したジルコニア製細胞培養担体を作製した。この担体表面は、2乗平均粗さRq=103.22nm、線密度=2.71であった。
この担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、ヒト肝ガン由来細胞(HepG2)を5×10
4個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
播種して7日経過後のSEM写真を
図14に示す。
【0071】
図14に示したSEM写真から分かるように、本発明に係る構成を備えた細胞培養担体では、HepG2はウェル内(凹部)で凝集塊を形成せず、また、凸部(上面)にも接着していた。
【0072】
[比較例2]hMSCのシャーレでの通常培養
ゼラチンがコーティングされた直径10cmのシャーレに、不死化されたhMSCを3×10
5個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
播種して3日後のシャーレ表面の透過型顕微鏡写真を
図15に示す。
【0073】
図15に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、シャーレ上では、hMSCは凝集塊を形成せず、扁平形状に接着していた。
【0074】
[比較例3]hMSCのジルコニア製平板での培養
成形型を凸形状のないフラットな面を有するものとしたことを除いて、比較例1と同様に、ジルコニア製平板を作製した。この平板表面は、2乗平均粗さRq=100.8nm、線密度=2.01であった。
この平板を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSCを1×10
4個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を
図16に示す。
【0075】
図16に示したSEM写真から分かるように、ジルコニア製平板でhMSCを培養すると、細胞が球状化したが、凝集塊の形成は認められなかった。
このことから、hMSCの凝集化には、ウェル構造が必要であり、また、効率的な凝集化のためには、ウェル底部も平面でなく、湾曲形状であることが好ましいと考えられる。
【0076】
[実施例2]hMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して、開口径及び深さが70μmの担体を作製した。
この担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSCを5×10
4個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
播種してから3日目に、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)に変え、3週間分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて1、2、3週間経過後、それぞれ、担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出には、RNAisoPlus(Takara社)を用い、そのプロトコルに従って、mRNAを抽出・精製した。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、軟骨分化マーカーであるCD29、CD44、CD105、TypeXコラーゲン、TypeIIコラーゲン、COMP、アグリカン、Sox9、lunx2及びchM1の発現をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって確認した。
これらの軟骨分化マーカーを
図17に示す。なお、比較のため、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織、及び、硝子軟骨由来正常細胞についてのマーカーも併せて示す。
【0077】
ここで、各マーカーの発現は、+:発現、−:非発現として表すと、hMSCは、CD29+、CD44+、CD105+、TypeXコラーゲン−、TypeIIコラーゲン−、COMP−、Aggrecan−、Sox9−、lunx2−、chM1−であり、ヒト由来軟骨細胞(硝子軟骨細胞)は、CD29+、CD44+、CD105−、TypeXコラーゲン−、TypeIIコラーゲン+、COMP+、Aggrecan+、Sox9+、lunx2−、chM1−であり、成熟・肥大軟骨細胞は、TypeXコラーゲン+、TypeIIコラーゲン−、COMP−、Aggrecan−、Sox9−、lunx2+、chM1+である。
【0078】
図17に示した結果から分かるように、細胞培養担体のウェルによってサイズを制御して培養したhMSCの凝集塊を分化誘導した場合、CD29、CD44、TypeIIコラーゲン、COMP、アグリカン、Sox9が発現し、誘導期間が長くなるほど発現量が多くなった。また、TypeXコラーゲン、lunx2、chM1の発現は確認されず、ヒト体内から採取した硝子軟骨細胞の発現遺伝子と同じであることが確認された。
【0079】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが175μm及び550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが175μm及び550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが175μm及び550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、これらを用いて、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。これらの培養細胞についても、軟骨分化マーカーによって確認したところ、ヒト体内から採取した硝子軟骨細胞の発現遺伝子と同じであることが確認された。
【0080】
[比較例4]ペレット法によるhMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
不死化されたhMSC2.5×10
5個をDMEM5mlで懸濁させて15mlチューブに入れ、遠心分離によって該チューブの底でペレットを形成した。アスピレータでDMEMを吸引後、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)に変え、3週間分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて1、2、3週間経過後、それぞれ、担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出及びPCRによる軟骨分化マーカーの確認は、実施例2と同様にして行った。
これらの軟骨分化マーカーを、実施例2の結果と併せて、
図17に示す。
【0081】
図17に示した結果から分かるように、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導した場合、硝子軟骨細胞が特異的に発現する遺伝子であるCD29、CD44、TypeIIコラーゲン、COMP、アグリカン及びSox9が発現したが、TypeXコラーゲンの発現も確認された。
このことから、得られた軟骨細胞は、目的の硝子軟骨細胞の他に、成熟・肥大化した軟骨細胞が含まれており、分化状態が均一な軟骨組織ではないことが認められた。
【0082】
[実施例3]各ウェル開口径でのhMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが100μm、200μm、400μm、600μmのウェルが配列したジルコニア製の各細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して開口径及び深さが78μm、175μm、350μm、510μmの担体を作製した。
上記において作製した各担体を用いて、実施例2と同様にして、hMSCの培養及び分化誘導を行った。
分化誘導を始めて3週間経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出には、RNAisoPlus(Takara社)を用い、そのプロトコルに従って、mRNAを抽出・精製した。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、間葉系幹細胞マーカーであるCD105、成熟・肥大硝子軟骨細胞マーカーであるTypeXコラーゲン、硝子軟骨細胞のマーカーであるTypeIIコラーゲンの発現をPCRによって確認した。
これらのマーカーを
図18に示す。なお、比較のため、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織についてのマーカーも併せて示す。
【0083】
図18に示した結果から分かるように、ウェル開口径78〜510μmの細胞培養担体で培養したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織は、TypeIIコラーゲンが発現し、TypeXコラーゲンとCD105の発現がなかったことから、均一な硝子軟骨細胞に誘導されていることが認められた。
一方、ペレット法で得られた軟骨組織は、TypeIIコラーゲン、TypeXコラーゲン及びCD105が発現していたことから、間葉系幹細胞、硝子軟骨細胞、成熟・肥大軟骨細胞が混在した組織になっていることが確認された。
【0084】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、350μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、350μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、350μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、これらを用いて、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。これらの培養細胞について、軟骨分化マーカーによって確認したところ、ヒト体内から採取した硝子軟骨細胞の発現遺伝子と同じであることが確認された。
【0085】
[実施例4]分化誘導された軟骨組織の染色
実施例3において、分化誘導を3週間行った細胞培養担体(ウェル開口径及び深さが510μm)から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド(Wako社)を用いて固定を行った。その後、エタノールを70、80、90、100%の順で加えて脱水を行い、キシレンで置換した。
そして、この担体のウェル内から、ピペッティングにより軟骨組織を回収し、パラフィンを用いて包埋した。この包埋したブロックから、ミクロトーム(Leica社)を用いて、厚さ5μmの切片を切り出した。この切片を、スライドガラスに貼り付け、キシレン、100、90、80、70%エタノールの順で浸液させて脱パラフィン処理を行い、軟骨組織部分を染色できる状態にした。
これを3%酢酸に浸した後、軟骨細胞が産生する細胞外基質であるグリコサミノグリカンを特異的に染色するサフラニンO又はトルイジンブルー液にそれぞれ、5分間浸液させた。そして、エタノール、キシレンで脱水処理を行い、封入剤を用いて封入した。
サフラニンO染色した組織の透過型顕微鏡写真を
図19、トルイジンブルー染色した組織の透過型顕微鏡写真を
図20に示す。なお、比較のため、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織の染色状態も併せて示す。
【0086】
図19及び
図20に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、本発明に係る細胞培養担体で培養したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織は、サフラニンO染色(赤紫色)及びトルイジンブルー染色(青紫色)のいずれも、中心部まで均一に染色されており、得られた軟骨組織は内外ともに均一な軟骨細胞組織が形成されていることが認められた。
【0087】
また、実施例2、3で述べた各焼成温度で作製して得られた種々の開口径及び深さのジルコニア製細胞培養担体においても、同様の結果が得られた。
【0088】
[比較例5]ペレット法により分化誘導された軟骨組織の染色
比較例4において、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊からの分化誘導を3週間行った組織から分化誘導培地を除去し、その後の処理は、実施例4と同様にして、サフラニンO又はトルイジンブルーによる染色を行った。
サフラニンO染色した組織の透過型顕微鏡写真を
図19、トルイジンブルー染色した組織の透過型顕微鏡写真を
図20に、実施例4の結果と併せて示す。
【0089】
図19及び
図20に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導した軟骨組織は、組織周辺部は染色されているものの、中心部の組織があまり染色されておらず、内部と表面の軟骨分化度が全く異なり、均一な軟骨組織が形成されていないことが認められた。
【0090】
[試験例2]各ウェル開口径でのhMSCの培養
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、平均開口径及び深さが30μm、70μm、540μm、1410μmのウェルが配列したジルコニア製の各細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して担体を作製した。
上記において作製した各担体を、滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSC)を5×10
4個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を
図21に示す。
【0091】
図21に示したSEM写真から分かるように、ウェル開口径が70μm、540μmの細胞培養担体では、ウェル内にのみ細胞が集まり細胞凝集塊が形成されていた。
一方、ウェル開口径が30μmの細胞培養担体は、ウェル外(担体上面)にも扁平細胞が接着しており、細胞凝集塊は十分に形成されていなかった。また、ウェル開口径1410μmの細胞培養担体は、ウェル内に細胞が集まっていたが、凝集塊は十分に形成されていなかった。
【0092】
[比較例6]アルミナ製細胞培養担体
原料粉としてアルミナを用いた点、また、2次粒子形成にスプレードライヤーを用いた点を除き、実施例1と同様にして、開口径及び深さが100μmのウェルが配列したアルミナ製の細胞培養担体(直径15cm)を成形し、1000℃で2時間焼成して担体を作製した(特許文献1の実施例1記載のアルミナセラミックス多孔体と同等サンプル)。焼成後の担体上面に形成された開口径は、ウェル数10個の平均値で80μmであった。このアルミナ製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を
図22に示す。
また、この表面状態について、上記試験例1−1〜1−4の各担体と同様にして測定したところ、2乗平均粗さRq=47.40nm、線密度=5.01であった。
【0093】
また、この担体を、滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSCを1×10
4個播種して、FBS10%を含むDMEMで、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真(100、250、1000倍)を
図23に示す。
【0094】
図23に示したSEM写真から分かるように、間葉系幹細胞は、ウェル凹凸部に扁平形状で接着して、凝集体を形成しないことが確認された。
【0095】
[実施例5]hMSCの脂肪細胞への分化誘導
平均粒子径0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが100、200、400、600μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体を成形し、1150℃焼成で2時間焼成した。各ジルコニア製細胞培養担体は、焼成により収縮して開口径及び深さが75、175、350、510μmになった。
これらの各担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに不死化されたhMSCを1×10
5個(ウェル開口径75μm)、2×10
5個(ウェル開口径175μm)、3×10
5個(ウェル開口径350μm)、4×10
5個(ウェル開口径510μm)播種して、FBSを10%含むDMEMで37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
播種してから4日目に、脂肪細胞分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて7日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちに、RNAiso(Takara社)を用いてRNAの抽出を行った。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、初期脂肪マーカーであるPPARγ(Peroxisome Proliferator−Activated Receptor γ)、MSCマーカーであるCD105の発現をPCRによって確認した。
これらのマーカーを
図24に示す。なお、比較のため、シャーレで形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた脂肪細胞についてのマーカーも併せて示す。
【0096】
図24に示した結果から分かるように、細胞培養担体のウェルによってサイズを制御して培養したhMSCの凝集塊を分化誘導した結果、ウェル開口径が小さいほど、CD105の発現が少なく、PPARγの発現が多く、脂肪細胞へ分化誘導が進んでいることが確認された。
【0097】
また、分化誘導を始めて10日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後、すぐに固定液で細胞を固定した。固定後、脂肪細胞の脂肪滴を染色するオイルレッドOにより染色した。
これらの染色した細胞の透過型顕微鏡写真を
図25に示す。
図25に示した顕微鏡写真から分かるように、各細胞培養担体のウェル内で細胞凝集塊が染色されており、脂肪細胞が形成されていることが認められた。
【0098】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1150℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。その結果、これらの各培養担体においても、ウェル内で細胞凝集塊が染色されており、脂肪細胞が形成されていることが認められた。
【0099】
[比較例7]シャーレ上でのhMSCの脂肪細胞への分化誘導
ゼラチンがコーティングされた直径10cmのシャーレに、不死化されたhMSCを7×10
4個播種して、FBS10%を含むDMEMで、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
24時間後、脂肪分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて7日経過後、この担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出及びPCRによるマーカーの確認は、実施例5と同様にして行った。
これらのマーカーを実施例5の結果と併せて、
図24に示す。
【0100】
図24に示した結果から分かるように、シャーレで培養したhMSCを分化誘導した結果、CD105の発現が、実施例5の細胞培養担体を用いた場合に比べて多く、また、PPARγの発現は、実施例5のウェル開口径75μm、175μm、350μmの細胞培養担体を用いた場合に比べて少なかった。
このことから、本発明に係る細胞培養担体によれば、脂肪細胞へ効率よく分化誘導可能であることが確認された。
【0101】
また、分化誘導を始めて10日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後、すぐに固定液で細胞を固定した。固定後、脂肪細胞の脂肪滴を染色するオイルレッドOにより染色した。
これらの染色した細胞の透過型顕微鏡写真を
図26に示す。
【0102】
図26に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、シャーレ上でhMSCを脂肪細胞に誘導した場合、分化誘導を始めて10日経過後でも、オイルレッドOで染色された細胞はまばらであり、分化があまり進んでいないことが認められた。
【0103】
[実施例6]hMSCの骨芽細胞への分化誘導
実施例5と同様の各担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに不死化されたhMSCを1×10
5個(ウェル開口径75μm)、2×10
5個(ウェル開口径175μm)、3×10
5個(ウェル開口径350μm)、4×10
5個(ウェル開口径510μm)播種して、FBSを10%含むDMEMで37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
播種してから4日目に、骨形成分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて14日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちに、RNAiso(Takara社)を用いてRNAの抽出を行った。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、骨芽細胞マーカーであるColI(1型コラーゲン)、SppI(オステオポンチン)、MSCマーカーであるCD105の発現をPCRによって確認した。
これらのマーカーを
図27に示す。なお、比較のため、シャーレで形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた骨芽細胞についてのマーカーも併せて示す。
【0104】
図27に示した結果から分かるように、細胞培養担体のウェルによってサイズを制御して培養したhMSCの凝集塊を分化誘導した結果、ウェル開口径が大きいほど、ColI及びSppIの発現が多く、骨芽細胞への分化誘導が進んでいることが確認された。
【0105】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1150℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体を用いて、これらについても、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。その結果、これらの各細胞培養担体においても、ウェル内で骨芽細胞への分化誘導が進んでいることが確認された。
【0106】
[比較例8]シャーレ上でのhMSCの骨芽細胞への分化誘導
ゼラチンがコーティングされた直径10cmのシャーレに、不死化されたhMSCを7×10
4個播種して、FBS10%を含むDMEMで、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
24時間後、骨分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて7日経過後、この担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出及びPCRによるマーカーの確認は、実施例5と同様にして行った。
これらのマーカーを実施例6の結果と併せて、
図27に示す。
【0107】
図27に示した結果から分かるように、シャーレで培養したhMSCを分化誘導した結果、CD105の発現が、実施例6の細胞培養担体を用いた場合に比べて多く、ColI及びSppIの発現は、実施例6のウェル開口径350μm、510μmの細胞培養担体を用いた場合に比べて少なかった。
このことから、本発明に係る細胞培養担体によれば、骨芽細胞へ効率よく分化誘導可能であることが確認された。