特許第5791189号(P5791189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791189
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】加工工具
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20150917BHJP
   B23Q 3/12 20060101ALI20150917BHJP
   B23B 31/00 20060101ALI20150917BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   B23Q11/00 B
   B23Q3/12 Z
   B23B31/00 C
   B23Q11/10 D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-212669(P2011-212669)
(22)【出願日】2011年9月28日
(65)【公開番号】特開2013-71211(P2013-71211A)
(43)【公開日】2013年4月22日
【審査請求日】2014年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】仙石 一生
(72)【発明者】
【氏名】是繁 誠
【審査官】 五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−122541(JP,A)
【文献】 特開2000−130940(JP,A)
【文献】 特開2001−138174(JP,A)
【文献】 特開2006−007396(JP,A)
【文献】 米国特許第06280126(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00−13/00
B23B 31/00
B23Q 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工設備の主軸に脱着可能に取り付けられ、加工刃を有する加工工具であって、
前記主軸に取り付けた状態で、前記主軸に設けられたクーラント供給口と連通する連通路と、前記連通路と連通し、クーラントを充填可能な充填室と、前記充填室と連通し、外部に開口した排出路と、前記排出路を閉塞可能な閉塞手段とを備え
前記閉塞手段が、前記排出路の内部で前記主軸の回転半径方向に移動可能な閉塞部材で構成され、前記主軸の回転時の遠心力により、前記閉塞部材を前記回転半径方向外方に移動させて前記排出路を閉塞する加工工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工設備の主軸に取り付けられる加工工具(以下、単に「工具」とも言う。)に関し、特に、自動工具交換装置(オートツールチェンジャー、以下、「ATC」と言う。)を有するマシニングセンタで使用される加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の生産工場では、排出される二酸化炭素やエネルギー削減の観点から工場の省スペース化や生産ラインの簡略化が図られ、これに伴って設備の小型化への取り組みが行われている。例えば、機械加工ラインの小型化及び簡略化を図るべく、マシニングセンタを小型化すると、マシニングセンタに設けられたATCも小型化され、ATCにより保持可能な工具の許容重量が低下する。このため、使用できる工具のサイズが制限されてしまい、加工時間の長期化を招く恐れがある。
【0003】
例えば特許文献1では、工具の一部を樹脂化することで軽量化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−159349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、工具を軽量化すると、工具交換の負担が減る一方で、加工時の負荷により工具自体に微小振動(いわゆる「ビビリ」)が生じてしまい、加工精度が低下する恐れがある。このように、工具交換の負担を減らすべく加工工具を軽量化すると、加工時にビビリが生じて加工精度が低下し、加工時のビビリを防止すべく加工工具の重量を増やすと、工具交換の負担が増大するというジレンマが生じる。
【0006】
以上のような事情から、工具交換の負担を軽減すると共に、加工時の工具のビビリを防止することが、本発明が解決すべき技術的課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた本発明は、加工設備の主軸に脱着可能に取り付けられ、加工刃を有する加工工具であって、主軸に取り付けた状態で、主軸に設けられたクーラント供給口と連通する連通路と、連通路と連通し、クーラントを充填可能な充填室と、充填室と連通し、外部に開口した排出路と、排出路を閉塞可能な閉塞手段とを備えたものである。
【0008】
上記の加工工具を加工設備の主軸に脱着する際には、充填室と連通した排出路を外部と連通することにより、充填室のクーラントが外部に排出されて充填室が空となり、加工工具が軽量化されて工具交換の負担を軽減できる。一方、上記の加工工具により加工を行う際には、閉塞手段により排出路を閉塞した状態で、連通路から充填室にクーラントを供給して充填室をクーラントで満たすことにより、加工工具が中実のような状態となって重量及び剛性が増大し、加工時のビビリを防止することができる。
【0009】
上記の加工工具に、充填室と外部とを連通し、加工刃にクーラントを供給するクーラント供給路を設ければ、クーラント供給路から供給されるクーラントで、加工刃の冷却及び加工屑除去を行うことができる。
【0010】
上記の閉塞手段は、例えば排出路の内部で、主軸の回転半径方向(以下、単に「回転半径方向」と言う)に移動可能な閉塞部材を有する構成とすることができる。この場合、主軸の回転時の遠心力により閉塞部材を回転半径方向外方に移動させて排出路を閉塞するようにすれば、別途の駆動手段を設けることなく簡単な機構で排出路を閉塞することができる。
【0011】
閉塞部材としてボールを使用する場合、排出路に、ボールの直径よりも内径が大きい大径部と、大径部の回転半径方向外方に設けられ、ボールの直径よりも内径が小さい小径部とを設ければ、主軸の回転による遠心力でボールが排出路の内部で回転半径方向外方に移動し、ボールと小径部とが嵌合して密着することにより、排出路を閉塞することができる(閉塞位置)。一方、ボールが回転半径方向内方に移動して排出路の大径部に配置されることで、ボールと大径部との間に隙間が形成され、排出路が連通される(連通位置)。
【0012】
排出路の底面を、小径部から大径部に向けて下方に傾斜させれば、主軸を停止して遠心力を解放したときに、重力によりボールが大径部側、すなわち連通位置側に移動するため、別途の駆動手段を設けることなく排出路を連通することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の加工工具は、充填室にクーラントを充填及び排出可能であり、加工工具の重量及び剛性を変更可能であるため、工具交換の負担軽減及び加工時のビビリ防止の双方を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る加工工具の断面図である。
図2】上記加工工具の排出路付近を拡大した断面図である。
図3】上記加工工具の充填室にクーラントを充填した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に示す加工工具1は、加工設備の主軸Sに対して脱着可能に取り付けられる。本実施形態の加工設備は、主軸Sを鉛直方向とした縦型のマシニングセンタであり、加工工具を自動で交換するATC(図示省略)を有する。加工工具1は、本体部10と、主軸Sに固定される固定部20と、加工刃30とを備える。尚、以下では、説明の便宜上、主軸Sの方向を「上下方向」、主軸Sと直交する方向を「水平方向」、主軸Sの回転半径方向を「回転半径方向」と言う。
【0017】
固定部20は、テーパ部21と、テーパ部21の上方に設けられた被チャック部22とを有する。テーパ部21のテーパ状外周面は、主軸Sに設けられたテーパ状内周面S1と嵌合する。被チャック部22は、主軸Sに設けられたチャック装置S2でチャックされ、これにより加工工具1の主軸Sからの抜け止めが行われる。
【0018】
加工刃30は、例えば切削工具であって、図示例では穴明け加工に用いられるものであり、具体的には、ドリル、リーマ、あるいはボーリング等である。加工刃30はこれに限らず、平面切削加工や溝加工、あるいは研磨などを行うものでもよい。
【0019】
加工工具1の内部には、クーラントが流通可能な流通経路が設けられる。本実施形態では、流通経路として、連通路41、充填室42、排出路43、及びクーラント供給路44が設けられる。
【0020】
連通路41は、加工工具1を主軸Sに取り付けた状態で、主軸Sに設けられたクーラント供給口S3と連通している。図示例の連通路41は、固定部20(テーパ部21及び被チャック部22)の軸心を貫通し、充填室42に達している。
【0021】
充填室42は、連通路41の下端と連通している。図示例の充填室42は、本体部10の内部に設けられた円柱状の空間であり、その上部に連通路41が開口している。充填室42の水平方向の断面積は、連通路41の水平方向の断面積よりも十分に大きく、例えば直径比で5〜10倍程度、水平方向の断面積比で20〜100倍程度の差がある。
【0022】
排出路43は、充填室42と外部とを連通している。図示例では、排出路43が本体部10の円筒状の側壁11を半径方向に貫通している。排出路32の外径端は本体部10の外周面に開口している。排出路43の内径端は充填室42に連通し、図示例では充填室42の下端部に開口している。排出路43は円周方向に離隔した複数箇所に設けられ、例えば円周方向等間隔の4箇所に設けられる。
【0023】
加工工具1には、排出路43を閉塞可能な閉塞手段が設けられる。本実施形態の閉塞手段は、閉塞部材としてのボール50で構成される。ボール50は、排出路43の内部で回転半径方向に自由に移動可能とされる。排出路43は、図2に拡大して示すように、ボール50の直径Dよりも内径寸法が大きい大径部43aと、大径部43aより回転半径方向外方(充填室42から離反する側)に設けられ、ボール50の直径Dよりも内径寸法が小さい小径部43bとを有する。図示例では、排出路43の断面が円形であり、その直径は回転半径方向外方に向けて徐々に小さくなっている。排出路43の小径部43bの断面積は、連通路41やクーラント供給路44よりも十分に大きく、例えば直径比で2〜4倍程度、面積比で4〜15倍程度に設定される。排出路43の底面43cは、回転半径方向内方に向けて下方に傾斜している。排出路43の回転半径方向内方に隣接した位置には、ストッパ51が設けられる。ストッパ51は、ボール50が排出路43から飛び出して充填室42に進入することを防止するものであり、例えば充填室42の底面の外周端に環状に設けられる。排出路43の大径部43aの上面とストッパ51との間に設けられる隙間Lは、ボール50の直径Dよりも小さい(D>L)。
【0024】
クーラント供給路44は、充填室42と外部とを連通し、加工刃30に対してクーラントを供給可能な位置に設けられる。図示例では、クーラント供給路44が、充填室42から下方に延びて加工刃30の先端の切刃に開口し、本体部10及び加工刃30を上下方向に貫通している。
【0025】
上記の加工工具1は、充填室42を空にした状態で、ATCにより主軸Sに取り付けられる。このように、加工工具1の内部に充填室42を設けることで、加工工具1が軽量化されるためATCの負担が軽減される。これにより、ATCの許容重量の範囲内で従来より大きい加工工具を使用することが可能となり、加工時間の短縮を図ることができる。
【0026】
加工工具1を主軸Sに取り付けて停止させた状態では、図2に点線で示すように、排出路43の大径部43aにボール50が配され、このボール50にストッパ51が回転半径方向内方から当接して係止している。そして、加工工具1で加工を行うにあたり、主軸S及び加工工具1を回転させると、図2に実線で示すようにボール50が遠心力により回転半径方向外方に移動し、排出路43の小径部43bと嵌合して係止される。これにより、ボール50と排出路43の小径部43bとが密着し、排出路が閉塞される。この状態で、主軸Sのクーラント供給口S3からクーラントを供給すると、図3に示すように、連通路41を介して充填室42にクーラント(散点で示す)が充填されると同時に、充填室42のクーラントの一部がクーラント供給路44から加工刃30の切刃に供給され、加工刃30の冷却及び切り屑除去が行われる。
【0027】
加工工具1は、充填室42を設けることで内部が空洞となっているため、このままの状態では加工時の負荷により加工工具1(特に本体部10の側壁11)にビビリが生じる恐れがある。そこで、上記のように充填室42にクーラントを満たすことで加工工具1が中実のような状態となり、加工工具1の重量及び剛性が増大するため、加工時の負荷によるビビリを抑えることができる。
【0028】
主軸Sに装着する工具を異なる種類のもの交換する際には、主軸S及び加工工具1を停止させると共に、主軸Sのクーラント供給口S3からのクーラント供給を停止する。これにより、ボール50に遠心力が働かなくなるため、ボール50が排出路43の底面43cに沿って自重により回転半径方向内方に移動し、ストッパ51で係止されて排出路43の大径部43a(連通位置)に配される。こうして排出路43が連通され、排出路43とボール50との間の隙間から充填室42のクーラントが外部に排出される。
【0029】
尚、主軸S及び加工工具1を停止させた直後は、充填室42にクーラントが満たされて内圧が比較的高い状態となっているため、ボール50が回転半径方向内方に移動せず、閉塞位置で止まることも考えられる。本実施形態では、クーラント供給路44が充填室42から下方に延びて外部に開口しているため、充填室42の内圧が高い場合でも、充填室42のクーラントが自重によりクーラント供給路44を介して加工刃30の先端から少しずつ排出されることにより、充填室42の内圧が低下し、ボール50が回転半径方向内方に移動可能となる。ボール50が連通位置に配された後は、クーラント供給路44よりも開口面積が十分に広い排出路43から主にクーラントが排出されるため、排出に要する時間が短縮される。
【0030】
こうして、充填室42の内部のクーラントが排出されることで、加工工具1が軽量化される。この状態で、加工工具1を主軸Sから取り外す。具体的には、加工工具1の本体部10の外周面をATCのクランプアーム(図示省略)でクランプすると共に、チャック装置S2による固定部20の被チャック部22のチャックを解放し、クランプアームを加工工具1と共に下降させ、加工工具1を主軸Sから分離する。
【0031】
以上のように、加工工具1の内部にクーラントを充填可能な充填室42を設けることで、加工工具1の重量及び剛性を調整可能としたことにより、工具交換時には充填室42からクーラントを排出して加工工具1を軽量化することで工具交換の負担を軽減でき、加工時には充填室42にクーラントを満たして加工工具1の剛性を高めることでビビリを防止できる。
【0032】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では閉塞部材をボール50で構成した場合を示したが、排出路43を閉塞可能な形状であればこれに限らず、他の形状であってもよい。また、閉塞手段は、排出路の内部で移動可能な閉塞部材を用いるものに限らず、例えば、排出路を開閉する弁を設けてもよい。
【0033】
また、加工部にクーラントを供給する必要のない加工工具であれば、加工刃の先端に開口したクーラント供給路を省略してもよい。
【0034】
また、上記の実施形態では、本発明に係る加工工具1を、主軸Sを鉛直方向とした縦型のマシニングセンタに適用した場合を示したが、これに限らず、主軸Sを水平方向とした横型のマシニングセンタに適用してもよい。また、マシニングセンタに限らず、主軸に対して加工工具を脱着可能に取り付ける加工設備であれば、本発明の加工工具を適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 加工工具
10 本体部
20 固定部
30 加工刃
41 連通路
42 充填室
43 排出路
43a 大径部
43b 小径部
43c 底面
44 クーラント供給路
50 ボール(閉塞手段、閉塞部材)
S 主軸
S1 テーパ状内周面
S2 チャック装置
S3 クーラント供給口
図1
図2
図3