特許第5791232号(P5791232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791232
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】航空用ガスタービン
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/24 20060101AFI20150917BHJP
   F01D 25/12 20060101ALI20150917BHJP
   F01D 25/26 20060101ALI20150917BHJP
   F02C 7/18 20060101ALI20150917BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   F01D25/24 K
   F01D25/12 E
   F01D25/26 D
   F02C7/18 B
   F02C7/18 E
   F02C7/00 E
   F02C7/00 F
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-39413(P2010-39413)
(22)【出願日】2010年2月24日
(65)【公開番号】特開2011-174419(P2011-174419A)
(43)【公開日】2011年9月8日
【審査請求日】2013年1月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】北村 剛
(72)【発明者】
【氏名】眞▲崎▼ 信一郎
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−226653(JP,A)
【文献】 特開平06−159099(JP,A)
【文献】 特開昭62−182444(JP,A)
【文献】 特表2001−526347(JP,A)
【文献】 特開2010−001890(JP,A)
【文献】 特開2008−121685(JP,A)
【文献】 特開2006−063982(JP,A)
【文献】 特開昭53−017814(JP,A)
【文献】 特開昭64−123609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 13/00−15/12
F01D 23/00−25/36
F02C 1/00− 9/58
F23R 3/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状をなすケーシング内に圧縮機と燃焼器とタービンが収容されて構成される航空用ガスタービンにおいて、
前記ケーシングにおける動翼の外周側に設けられる厚肉部と、
該厚肉部内に設けられて前記圧縮機で圧縮された圧縮空気を流通させて冷却する冷却通路と、
該冷却通路を流通した圧縮空気を燃焼ガス通路に排出する排出通路と、
を設け、
前記ケーシングは、本体ケーシングと該本体ケーシングの内側に位置するシュラウドとを有し、前記本体ケーシングと前記シュラウドとの間に前後方向に沿って前記排出通路が設けられ、前記冷却通路は、他端部が前記排出通路の後端部に開口し、該排出通路は、前端部が前記シュラウドに設けられる開口を介して前記燃焼ガス通路における前記動翼より上流側に位置する静翼の上流側に連通することで、前記冷却通路を流通した圧縮空気を排出通路により前記厚肉部の内側に沿って前記静翼の上流側に流通し、前記燃焼ガス通路における前記静翼の上流側に排出する、
ことを特徴とする航空用ガスタービン。
【請求項2】
前記冷却通路は、一端が前記燃焼器における圧縮空気の吸入部に開口することを特徴とする請求項1に記載の航空用ガスタービン。
【請求項3】
前記排出通路は、前記冷却通路を流通した圧縮空気を前記燃焼ガス通路における静翼の上流側に排出することを特徴とする請求項1または2に記載の航空用ガスタービン。
【請求項4】
前記冷却通路は、前記ケーシングの厚肉部にタービンロータの軸芯方向に沿って設けられると共に、周方向に等間隔で複数配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の航空用ガスタービン。
【請求項5】
前記冷却通路は、サーペンタイン形状をなすことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の航空用ガスタービン。
【請求項6】
前記冷却通路は、前記ケーシングの厚肉部に設けられるキャビティと、圧縮空気を該キャビティに流入する複数の入口通路と、前記キャビティ内の圧縮空気を前記排出通路に流出する複数の出口通路とを有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の航空用ガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシング内に圧縮機と燃焼器とタービンが収容されて構成される航空用ガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコプターやジェット機などの航空機のエンジンとしてガスタービンが使用されている。この航空用ガスタービンは、圧縮機と燃焼器とタービンにより構成されており、空気取入口から取り込まれた空気が圧縮機によって圧縮されることで高温・高圧の圧縮空気となり、燃焼器にて、この圧縮空気に対して燃料を供給して燃焼させ、高温・高圧の燃焼ガスがタービンを駆動する。ヘリコプターの場合、タービンの駆動力によりロータを回転させ、ジェット機の場合、排気ガスのエネルギにより推力を得る。
【0003】
航空用ガスタービンを構成するタービンは、ケーシング内に複数の静翼及び動翼が交互に配設されて構成されており、燃焼ガスにより動翼を駆動することで回転駆動力を得て、圧縮機を駆動している。このようなタービンにて、動翼が何らかの原因で破損すると、破損した部材が遠心力により外側に飛散し、ケーシングを損傷させてしまうおそれがある。そのため、ケーシングは、動翼の外周側に厚肉部を設けて補強するコンテインメント構造となっている。
【0004】
ところが、航空用ガスタービンの運転時には、ケーシングは高温となるため、厚肉部の構造強度が低下し、コンテインメント構造の機能を果たさない可能性がある。また、熱容量が異なる厚肉部と薄肉部との間に温度差が生じ、これに起因する熱応力が発生する。特に、航空用ガスタービンの起動時や停止時には、急激な温度変化により、大きな熱応力が発生し、それに伴う熱変形量も大きくなる。すると、動翼の先端部とケーシングの内面とのクリアランスを適正量に維持することが困難となり、効率が低下してしまうという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するものとして、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載された二重殻タービンケーシングでは、ガスタービンの動翼部を囲むタービンケーシングに中空環状チャンバを形成する二重殻を設け、チャンバ内に冷却空気がタービン動翼を囲んで周方向に流れるようにしてケーシングを冷却すると共に、冷却空気の流量を調節して動翼隙間を制御する隙間制御装置を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−008911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の二重殻タービンケーシングにあっては、隙間制御装置により、二重殻のチャンバ内に冷却空気を供給してケーシングを冷却し、動翼隙間を制御している。この場合、冷却空気として何の空気を使用するかについて、また、チャンバに供給した冷却空気をどこに排出するかについては何ら記載されていない。この特許文献1の従来技術に記載されているように、冷却空気として、ファンから導いたベンチレーション空気を用いる場合には、その導入経路や導入のためのポンプ等が必要となり、構造が複雑化してしまう。また、冷却空気として、圧縮機からの抽気を用いる場合には、燃焼ガス量が減少して効率が低下してしまう。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するものであり、構造の簡素化及び効率の低下を防止しながらも、ケーシングの厚肉部を適正に冷却することで構造強度を向上させ、より有効なコンテインメント構造とするとともに、熱応力による熱変形を抑制し、動翼との適正なクリアランスを確保することのできる航空用ガスタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の航空用ガスタービンは、円筒形状をなすケーシング内に圧縮機と燃焼器とタービンが収容されて構成される航空用ガスタービンにおいて、前記ケーシングにおける動翼の外周側に設けられる厚肉部と、該厚肉部内に設けられて前記圧縮機で圧縮された圧縮空気を流通させて冷却する冷却通路と、該冷却通路を流通した圧縮空気を燃焼ガス通路に排出する排出通路と、を設ける、ことを特徴とするものである。
【0010】
従って、圧縮機で圧縮された圧縮空気が冷却通路に流通することで、ケーシングの厚肉部が適正に冷却されて構造強度が向上し、コンテインメント構造がより有効に機能する。また、熱容量の異なる薄肉部との温度差に起因した熱応力及び熱変形が抑制されることで、このケーシングと動翼の先端との適正なクリアランスを確保することができ、また、冷却通路に流通した圧縮空気が排出通路を通して燃焼ガス通路に排出されることで、冷却媒体とした圧縮空気が燃焼ガス通路に戻され、効率の低下を防止することができ、更に、圧縮空気を冷却媒体として使用することで、別途、ポンプなどを不要として構造の簡素化を可能とすることができる。
【0011】
本発明の航空用ガスタービンでは、前記冷却通路は、一端が前記燃焼器における圧縮空気の吸入部に開口することを特徴としている。
【0012】
従って、ケーシングにおける厚肉部に、一端が燃焼器における圧縮空気の吸入部に開口する冷却通路を設けるだけでよく、別途、ポンプや別の通路などを不要として更なる構造の簡素化を可能とすることができる。
【0013】
本発明の航空用ガスタービンでは、前記ケーシングは、本体ケーシングと該本体ケーシングの内側に位置するシュラウドとを有し、前記本体ケーシングと前記シュラウドとの間に前記排出通路が設けられ、前記冷却通路は、他端部が前記排出通路に開口し、該排出通路は、前記シュラウドに設けられる開口を介して前記燃焼ガス通路に連通することを特徴としている。
【0014】
従って、ケーシングにおける厚肉部に、他端が排出通路に開口する冷却通路を設けると共に、シュラウドに開口を確保するだけでよく、冷却通路に流通した圧縮空気を燃焼ガス通路に排出することが可能となり、別途、ポンプなどを不要として構造の簡素化を可能とすることができる。また、厚肉部を冷却することで構造強度が増加し、有効なコンテインメント効果を発揮すると共に、ケーシング及びシュラウドの熱変形量または熱変位量が抑制されるので、このシュラウドと動翼の先端との適正なクリアランスを確保することができる。
【0015】
本発明の航空用ガスタービンでは、前記排出通路は、前記冷却通路を流通した圧縮空気を前記燃焼ガス通路における静翼の上流側に排出することを特徴としている。
【0016】
従って、排出通路から排出された圧縮空気は、静翼の上流側に戻されるので、静翼により整流されることとなり、この戻された圧縮空気によりタービンは仕事量を増大することが可能となり、効率の低下を防止することができる。
【0017】
本発明の航空用ガスタービンでは、前記冷却通路は、前記ケーシングの厚肉部にタービンロータの軸芯方向に沿って設けられると共に、周方向に等間隔で複数配置されることを特徴としている。
【0018】
従って、冷却通路がケーシングの厚肉部に周方向に等間隔で配置されることで、この厚肉部を周方向に均一に冷却することができるので、ケーシングの周方向における温度分布が均一化され熱変形を抑制することができる。
【0019】
本発明の航空用ガスタービンでは、前記冷却通路は、サーペンタイン形状をなすことを特徴としている。
【0020】
従って、圧縮空気がサーペンタイン形状をなす冷却通路を流れることとなり、厚肉部における圧縮空気の接触面積を拡大することで、冷却効率を向上することができる。また、サーペンタイン形状とすることで、圧力損失を大きくして冷却空気の流量が過大となることを抑制して冷却空気量を低減することができる。
【0021】
本発明の航空用ガスタービンでは、前記冷却通路は、前記ケーシングの厚肉部に設けられるキャビティと、圧縮空気を該キャビティに流入する複数の入口通路と、前記キャビティ内の圧縮空気を前記排出通路に流出する複数の出口通路とを有することを特徴としている。
【0022】
従って、圧縮空気がキャビティに一時的に貯留されることとなり、厚肉部における圧縮空気の接触面積を拡大することで、冷却効率を向上することができると共に、キャビティを輻射シールドとして機能させることで、ケーシング外壁への熱の伝達を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の航空用ガスタービンによれば、ケーシングにおける動翼の外周側に設けられる厚肉部に、圧縮機で圧縮された圧縮空気を流通させて冷却する冷却通路を設けると共に、この冷却通路を流通した圧縮空気を燃焼ガス通路に排出する排出通路を設けるので、構造の簡素化及び効率の低下を防止しながらも、ケーシングの厚肉部を適正に冷却することで、動翼との適正なクリアランスを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施例1に係る航空用ガスタービンを表す概略構成図である。
図2図2は、実施例1の航空用ガスタービンにおけるタービンの要部概略図である。
図3図3は、実施例1の航空用ガスタービンにおけるケーシング厚肉部の要部断面図である。
図4図4は、本発明の実施例2に係る航空用ガスタービンにおけるケーシング厚肉部を表す概略図である。
図5図5は、本発明の実施例3に係る航空用ガスタービンにおけるケーシング厚肉部を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る航空用ガスタービンの好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の実施例1に係る航空用ガスタービンを表す概略構成図、図2は、実施例1の航空用ガスタービンにおけるタービンの要部概略図、図3は、実施例1の航空用ガスタービンにおけるケーシング厚肉部の要部断面図である。
【0027】
実施例1の航空用ガスタービンは、図1に示すように、ファンケーシング11と本体ケーシング12とを有し、ファンケーシング11内にファン13を収容し、本体ケーシング12内に圧縮機14と燃焼器15とタービン16を収容して構成されている。
【0028】
ファン13は、回転軸21の外周部に複数のファンブレード22が装着されて構成されている。圧縮機14は、低圧コンプレッサ23と高圧コンプレッサ24とを有している。燃焼器15は、圧縮機14より下流側に位置し、周方向に複数配置されている。タービン16は、燃焼器15より下流側に位置し、高圧タービン25及び低圧タービン26とを有している。そして、ファン13の回転軸21と低圧コンプレッサ23とが連結され、低圧コンプレッサ23と低圧タービン26とが第1ロータ軸27により連結されている。また、高圧コンプレッサ24と高圧タービン25とが、第1ロータ軸27の外周側に位置する円筒形状をなす第2ロータ軸28により連結されている。
【0029】
従って、圧縮機14にて、空気取入口から取り込まれた空気が、低圧コンプレッサ23と高圧コンプレッサ24における図示しない複数の静翼と動翼を通過して圧縮されることで高温・高圧の圧縮空気となる。燃焼器15にて、この圧縮空気に対して所定の燃料が供給され、燃焼する。この燃焼器15で生成された作動流体である高温・高圧の燃焼ガスが、タービン16を構成する高圧タービン25及び低圧タービン26における図示しない複数の静翼と動翼を通過することで駆動回転する。この場合、低圧タービン26の回転力が第1ロータ軸27により低圧コンプレッサ23に伝達されて駆動する。また、高圧タービン25の回転力が第2ロータ軸28により高圧コンプレッサ24に伝達されて駆動する。その結果、ファン13を駆動することができると共に、タービン16から排出される排気ガスにより推力を得ることができる。
【0030】
上述したタービン16の低圧タービン26において、図2及び図3に示すように、ロータ軸27(図1参照)の外周部には、軸方向に並んで2つのタービンディスク31,32が固定されている。このタービンディスク31,32は、円盤形状をなし、軸方向に所定間隔をもって配置されており、外周部に複数の動翼33,34が周方向に所定間隔で取付けられている。
【0031】
本体ケーシング12は、円筒形状をなし、燃焼ガスの流動方向の下流側にいくに伴って大径となっている。この本体ケーシング12は、その内側に所定隙間をもって外側シュラウド35が配置されると共に、この外側シュラウド35の内側に所定隙間をもって内側シュラウド36が配置されている。外側シュラウド35は、リング形状をなす3つの外側シュラウド本体37,38,39が軸方向に連結されることで、円筒形状をなしている。内側シュラウド36は、リング形状をなす3つの内側シュラウド本体40,41,42が軸方向に所定間隔をもって配置されることで、略円筒形状をなしている。
【0032】
動翼33の上流側に位置して、外側シュラウド本体37と内側シュラウド本体40との間に複数の静翼43が周方向に所定間隔で取付けられている。また、動翼33の下流側で、且つ、動翼34の上流側に位置して、外側シュラウド本体38と内側シュラウド本体41との間に複数の静翼44が周方向に所定間隔で取付けられている。そして、外側シュラウド本体37,38は、対向する各端部が所定隙間(開口)Sをもって当接し、突起部37a,38aが本体ケーシング12の内周面に形成された支持部12aに支持されている。また、外側シュラウド本体39は、外周面に形成されたフランジ部39aが、本体ケーシング12のフランジ部12bと重ねられ、締結ボルト45により連結されている。更に、外側シュラウド本体39の後端部と内側シュラウド本体42の前端部は、複数の連結部材46により連結されている。
【0033】
動翼33は、基端部側に、内側シュラウド本体40,41に連続するようにプラットホーム33aが設けられ、先端部側にチップシュラウド33bが設けられている。そして、このチップシュラウド33bと、バックプレート47を有する外側シュラウド本体37との間には、所定のクリアランス(隙間)が確保されている。また、同様に、動翼34は、基端部側に、内側シュラウド本体41,42に連続するようにプラットホーム34aが設けられ、先端部側にチップシュラウド34bが設けられている。そして、このチップシュラウド34bと、バックプレート48を有する外側シュラウド本体38との間には、所定のクリアランス(隙間)が確保されている。なお、各チップシュラウド33b,34bは、全ての動翼33,34に装着されることで、リング形状をなすシュラウドを形成している。また、必要に応じてバックプレート47,48を設けなくてもよい。
【0034】
そのため、外側シュラウド35、内側シュラウド36、プラットホーム33a,34a、チップシュラウド33b,34bにより囲まれたドーナッツ形状をなす燃焼ガス通路Aが構成され、この燃焼ガス通路Aに動翼33,34及び静翼43,44が配置されることとなる。
【0035】
なお、実施例1では、ファンケーシング11、本体ケーシング12、外側シュラウド35などが、本発明のケーシングとして機能する。
【0036】
ところで、このように構成された航空用ガスタービンにて、ロータ軸(タービンロータ)27,28(図1参照)周りに回転している動翼33,34が何らかの原因で破損すると、この破損した動翼33,34の破片が遠心力により外側に飛散し、外側シュラウド35や本体ケーシング12を損傷させてしまうおそれがある。そのため、本体ケーシング12は、各動翼33,34の外周側に対応して厚肉部51,52が設けられることで、この部分が補強されるコンテインメント構造となっている。
【0037】
そして、一方の厚肉部52には、圧縮機14(図1参照)で圧縮された圧縮空気を流通させることで、この厚肉部52を冷却する複数の冷却通路53が設けられている。この複数の冷却通路53は、ロータ軸(タービンロータ)27,28(図1参照)の軸芯方向に沿って設けられると共に、本体ケーシング12の周方向に等間隔で配置されている。そして、各冷却通路53は、一端が燃焼器15(図1参照)における圧縮空気の吸入部54に開口している。なお、各冷却通路53は鋳造により加工してもよいし、電解加工やドリルによる機械加工などでもよい。また、周方向に等間隔でなくてもよい。
【0038】
本体ケーシング12と外側シュラウド35との間には、前後方向に沿った空間部が設けられ、この空間部が、冷却通路53を流通した圧縮空気を燃焼ガス通路Aに排出する排出通路55として機能する。冷却通路53は、他端部がこの排出通路55における後端部側に開口している。そして、排出通路55は、外側シュラウド35に設けられる開口、つまり、外側シュラウド本体37,38との隙間Sを介して燃焼ガス通路Aに連通している。本実施例では、この隙間Sは、燃焼ガス通路Aにおける静翼(最終段静翼)44の上流側に設けられており、排出通路55の圧縮空気を燃焼ガス通路Aにおける静翼44の上流側に排出することとなる。
【0039】
このように構成された航空用ガスタービンでは、本体ケーシング12は運転時に高温となるため、厚肉部51,52の構造強度が低下する。また、特に起動時や停止時など急激な負荷変化を伴う運転時において、本体ケーシング12の厚肉部51,52と、厚肉部51,52以外の薄肉部である他部位との間で温度差による熱応力を生じ、熱変形量がそれぞれ相違する。即ち、本体ケーシング12の厚肉部51,52は、本体ケーシング12の薄肉部(他部位)に比べて熱容量が大きいことから、他部位との温度差を生じ、その温度差により大きな熱応力を生じ、変形量が大きくなる。これにより本体ケーシング12と一体である外側シュラウド35の変形量も大きくなる。すると、動翼34の先端部(チップシュラウド34b)と、外側シュラウド35とのクリアランスを適正量に維持することが困難となり、このクリアランスが大きくなって効率の低下を招く。
【0040】
ところが、本実施例では、本体ケーシング12の厚肉部52に複数の冷却通路53を設けている。そのため、圧縮機14で圧縮された圧縮空気が燃焼用または冷却用の空気として燃焼器15における吸入部54に供給されると、この圧縮空気が吸入部54に開口された各冷却通路53の一端部から流入する。そして、各冷却通路53に圧縮空気が流れることで厚肉部52を冷却する。この場合、吸入部54と排出通路55との圧力差により自然対流として吸入部54の圧縮空気が各冷却通路53に流入する。そのため、本体ケーシング12における厚肉部52の構造強度が向上し、コンテインメント構造が有効に機能する。また、熱容量が比較的大きい厚肉部52が冷却されることで、本体ケーシング12における厚肉部51,52以外の熱容量が比較的小さい薄肉部との温度差が緩和される。よって、本体ケーシング12の熱応力および熱変形量が抑制され、動翼34の先端部(チップシュラウド34b)と、本体ケーシング12の内側に配置され、その変位量が抑制された外側シュラウド35とのクリアランスを適正量に維持することが可能となる。
【0041】
その後、各冷却通路53を流通することで厚肉部52を冷却した圧縮空気は、排出通路55に排出された後、転向してこの排出通路55内を外側シュラウド35(外側シュラウド本体38)を冷却しながらタービン16における上流側に流れ、外側シュラウド本体37,38の隙間Sを通って燃焼ガス通路Aに流れ込む。この場合、排出通路55と燃焼ガス通路Aとの圧力差により自然対流として排出通路55の圧縮空気が隙間Sを通って燃焼ガス通路Aに流れる。そのため、燃焼器15の直前で抽気した圧縮空気を燃焼ガス通路Aに戻すことで、タービン16における仕事量の減少を抑制可能となる。
【0042】
このように実施例1の航空用ガスタービンにあっては、円筒形状をなす本体ケーシング12内に圧縮機14と燃焼器15とタービン16が収容されて構成され、本体ケーシング12における動翼34の外周側に厚肉部52を設け、この厚肉部52内に圧縮機14で圧縮された圧縮空気を流通させて冷却する冷却通路53を設けると共に、この冷却通路53を流通した圧縮空気を燃焼ガス通路Aに排出する排出通路55を設けている。
【0043】
従って、圧縮機14で圧縮された圧縮空気が各冷却通路53に流通することで、本体ケーシング12の厚肉部52が適正に冷却されて熱変形が抑制されることで、外側シュラウド35の変形量及び変位量が抑制され、動翼34と外側シュラウド35との適正なクリアランスを確保することができる。また、冷却通路53に流通した圧縮空気は、排出通路55を通して隙間Sから燃焼ガス通路Aに排出されることで、冷却媒体として圧縮機14が抽気した圧縮空気を燃焼ガス通路Aに戻し、タービン効率の低下を防止することができる。更に、圧縮機14の圧縮空気を冷却媒体として使用することで、別途、ポンプなどを不要として構造の簡素化を可能とすることができる。
【0044】
また、実施例1の航空用ガスタービンでは、冷却通路53の一端を燃焼器15における圧縮空気の吸入部54に開口している。従って、本体ケーシング12における厚肉部52に、一端が燃焼器15における圧縮空気の吸入部54に開口する冷却通路53を設けるだけでよく、別途、ポンプや別の通路などを不要として更なる構造の簡素化を可能とすることができる。
【0045】
また、実施例1の航空用ガスタービンでは、本体ケーシング12の内側に外側シュラウド35を設け、この本体ケーシング12と外側シュラウド35との間に排出通路55を設け、冷却通路53の他端部をこの排出通路55に開口し、排出通路55を外側シュラウド本体37,38の隙間Sを介して燃焼ガス通路Aに連通している。従って、本体ケーシング12における厚肉部52に、他端が排出通路55に開口する冷却通路53を設けると共に、外側シュラウド35に隙間Sを確保するだけでよく、冷却通路53に流通した圧縮空気を燃焼ガス通路Aに排出することが可能となり、別途、ポンプなどを不要として構造の簡素化を可能とすることができる。また、厚肉部52を冷却することで外側シュラウド35の熱変形量及び変位量が抑制され、この外側シュラウド35と動翼34の先端との適正なクリアランスを確保することができる。
【0046】
また、実施例1の航空用ガスタービンでは、排出通路55により冷却通路53を流通した圧縮空気を燃焼ガス通路Aにおける静翼44の上流側に排出している。従って、排出通路55から排出された圧縮空気は、静翼44の上流側に戻されるので静翼44により整流されることとなり、この戻された圧縮空気によりタービン16は仕事量を増大することが可能となり、タービン効率の低下を防止することができる。
【0047】
また、実施例1の航空用ガスタービンでは、冷却通路53を本体ケーシング12の厚肉部52にロータ軸27,28の軸芯方向に沿って設けると共に、周方向に等間隔で複数配置している。従って、複数の冷却通路53が本体ケーシング12の厚肉部52に周方向に等間隔で配置されることで、この厚肉部52を周方向に均一に冷却することができるので、本体ケーシング12の周方向温度分布が均一化され熱変形を抑制して、外側シュラウド35と動翼34の先端とのクリアランスを周方向で均一に維持することができる。
【実施例2】
【0048】
図4は、本発明の実施例2に係る航空用ガスタービンにおけるケーシング厚肉部を表す概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0049】
実施例2の航空用ガスタービンにおいて、図4に示すように、本体ケーシング12は、動翼の外周側に対応して厚肉部52が設けられることで、この部分が補強されるコンテインメント構造となっている。そして、この厚肉部52には、圧縮機で圧縮された圧縮空気を流通させることで、この厚肉部52を冷却する複数の冷却通路61が設けられている。この複数の冷却通路61は、サーペンタイン形状をなしている。
【0050】
即ち、一つの冷却通路61は、一端部が吸入部54に開口する入口通路62と、他端部が排出通路に開口する出口通路64と、一端部が入口通路62の他端部に連通して他端部が出口通路64の一端部に連通する折り返し通路63との3経路から構成されている。なお、サーペンタイン形状をなす冷却通路61は3経路に限られることはなく、2経路でもよいし、4経路以上でもよい。また、それぞれ隣接する入口通路62、折り返し通路63、出口通路64は、本体ケーシング12の周方向に等間隔で配置されることが望ましいが、等間隔でなくてもよい。
【0051】
従って、圧縮機で圧縮された圧縮空気が吸入部54に供給されると、この圧縮空気が各冷却通路61の入口通路62から流入する。そして、入口通路62から流入した圧縮空気は、折り返し通路63を流れ、出口通路64から排出通路に排出される。ここで、各冷却通路61に圧縮空気が流れることで厚肉部52を冷却する。そのため、本体ケーシング12における厚肉部52の構造強度が向上し、コンテインメント構造が有効に機能する。また、熱容量が比較的大きい厚肉部52が冷却されることで、熱容量が比較的小さい本体ケーシング12の薄肉部との温度差が緩和される。よって、本体ケーシング12の熱応力及び厚肉部52の熱変形量が抑制され、動翼の先端部と外側シュラウドとのクリアランスを適正量に維持することが可能となる。
【0052】
このように実施例2の航空用ガスタービンにあっては、本体ケーシング12における厚肉部52内に圧縮機で圧縮された圧縮空気を流通させて冷却する冷却通路61を設け、この冷却通路61をサーペンタイン形状としている。
【0053】
従って、圧縮機14で圧縮された圧縮空気がサーペンタイン形状をなす各冷却通路61に流通することで、圧縮空気と厚肉部52との接触面積が拡大することとなり、本体ケーシング12の厚肉部52を効率的に冷却することで、本体ケーシング12及び外側シュラウド35の変形量及び変位量が抑制され、動翼34と外側シュラウド35との適正なクリアランスを確保することができる。また、冷却通路61をサーペンタイン形状とすることで、冷却通路61の圧力損失を大きくして冷却空気の流量が過大となることを抑制できるので、冷却空気量を低減してガスタービンの効率を向上することができる。
【実施例3】
【0054】
図5は、本発明の実施例3に係る航空用ガスタービンにおけるケーシング厚肉部を表す概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0055】
実施例3の航空用ガスタービンにおいて、図5に示すように、本体ケーシング12は、動翼の外周側に対応して厚肉部52が設けられることで、この部分が補強されるコンテインメント構造となっている。そして、この厚肉部52には、圧縮機で圧縮された圧縮空気を流通させることで、この厚肉部52を冷却する複数の冷却通路71が設けられている。
【0056】
この冷却通路71は、厚肉部52内に所定量の空間が確保されるキャビティ72と、一端部が吸入部54に開口して他端部がこのキャビティ72に連通する複数の入口通路73と、一端部がキャビティ72に連通して他端部が排出通路に開口する複数の出口通路74とから構成されている。なお、図5に示すように、複数のキャビティ72が本体ケーシング12の周方向に分割して配置されてもよいし、1つのキャビティ72が全周に亘って形成されてもよい。また、入口通路73および出口通路74は円形または多角形断面の孔でもよいし、スリット状にしてもよい。
【0057】
従って、圧縮機で圧縮された圧縮空気が吸入部54に供給されると、この圧縮空気が冷却通路71における各入口通路73から流入する。そして、各入口通路73から流入した圧縮空気は、キャビティ72に貯留され、各出口通路74から排出通路に排出される。ここで、特に、キャビティ72に圧縮空気が流れることで厚肉部52を冷却する。また、このキャビティ72に圧縮空気が貯留されて輻射シールドとして機能することで、燃焼ガスからの熱が厚肉部52の外壁へ伝わることを抑制できる。そのため、本体ケーシング12における厚肉部52の構造強度が向上し、コンテインメント構造が有効に機能する。また、熱容量が比較的大きい厚肉部52が冷却されることで、熱容量が比較的小さい本体ケーシング12の薄肉部との温度差が緩和される。よって、本体ケーシング12の熱応力及び熱変形量が抑制され、動翼の先端部と外側シュラウドとのクリアランスを適正量に維持することが可能となる。
【0058】
このように実施例3の航空用ガスタービンにあっては、本体ケーシング12における厚肉部52内に圧縮機で圧縮された圧縮空気を流通させて冷却する冷却通路71を設け、この冷却通路71として、キャビティ72と複数の入口通路73と複数の出口通路74を設けている。
【0059】
従って、圧縮機14で圧縮された圧縮空気が各冷却通路71に入ると、圧縮空気がキャビティ72に一時的に貯留されることとなり、圧縮空気と厚肉部52との接触面積が拡大し、本体ケーシング12の厚肉部52を効率的に冷却することで、本体ケーシング12及び外側シュラウド35の変形量及び変位量が抑制され、動翼34と外側シュラウド35との適正なクリアランスを確保することができる。また、キャビティ72を輻射シールドとして機能させることで、本体ケーシング12の外壁への熱の伝達を抑制することができる。
【0060】
なお、上述した各実施例では、各動翼33,34に対応して厚肉部51,52を設け、一方の厚肉部52にのみ冷却通路53,61,71を設けたが、厚肉部51にも冷却通路を設けてもよい。また、各実施例では、排出通路55の圧縮空気を静翼44の上流側に排出したが、排出する位置はここに限らず、排出通路55と燃焼ガス通路Aとの圧力差により排出通路55内に燃焼ガスが逆流しない位置であれば、静翼43の上流側、各動翼33,34の上流側、または動翼34の下流側であってもよい。この場合、排出通路55と燃焼ガス通路Aとを外側シュラウド本体37,38の隙間Sを介して連通したが、外側シュラウド本体38,39の隙間を介して連通したり、または、別途開口を形成したりして連通してもよい。
【0061】
また、上述した各実施例では、冷却通路53,61,71の一端部を燃焼器15の吸入部54に開口したが、燃焼器15が別の位置に配置された構造では、別の通路や配管などを通して圧縮空気を冷却通路53,61,71の一端部に供給するようにしてもよい。
【0062】
そして、本体ケーシング12の厚肉部52に冷却通路53,61,71を形成する場合、冷却通路53,61,71による冷却効率と燃焼ガスからの熱量に応じて、動翼33,34、外側シュラウド35、本体ケーシング12などの形状設計が行われる。一方で、タービン16の形状や燃焼ガスからの熱量に応じて、冷却通路53,61,71の形状を設定すればよい。
【0063】
また、本発明の航空用ガスタービンは、図1に示す構造のターボファン式に限らず、ターボジェット式、ターボプロップ式などにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る航空用ガスタービンは、ケーシングの厚肉部に圧縮空気を流通させて冷却する冷却通路を設け、冷却済の圧縮空気を排出通路により燃焼ガス通路に排出することで、構造の簡素化及び効率の低下を防止しながらも、ケーシングの厚肉部を適正に冷却することで、厚肉部の構造強度を確保し、有効なコンテインメント性能を確保すると共に、動翼との適正なクリアランスを確保することを可能とするものであり、いずれの種類の航空用ガスタービンにも適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
11 ファンケーシング(ケーシング)
12 本体ケーシング(ケーシング)
13 ファン
14 圧縮機
15 燃焼器
16 タービン
23 低圧コンプレッサ
24 高圧コンプレッサ
25 高圧タービン
26 低圧タービン
33,34 動翼
35 外側シュラウド(ケーシング)
36 内側シュラウド(ケーシング)
43,44 静翼
51,52 厚肉部
53,61,71 冷却通路
54 吸入部
55 排出通路
72 キャビティ
73 入口通路
74 出口通路
図1
図2
図3
図4
図5