特許第5791342号(P5791342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791342
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】摩擦抵抗低減型船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/38 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   B63B1/38
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-90803(P2011-90803)
(22)【出願日】2011年4月15日
(65)【公開番号】特開2012-224111(P2012-224111A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102864
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】川淵 信
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 真一
(72)【発明者】
【氏名】川北 千春
【審査官】 中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−024891(JP,A)
【文献】 特開平11−059563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
舶の船底に設けられ、気体を吹き出し可能な船底気体吹き出し部と、
前記船底気体吹き出し部とは水深が異なる位置である、前記船舶の両舷の船側に設けられ、気体を吹き出し可能な右舷気体吹き出し部及び左舷気体吹き出し部と
記船底気体吹き出し部に、船底用気体流路を介して気体を供給する船底気体供給装置と、
前記右舷気体吹き出し部及び前記左舷気体吹き出し部に前記船底用気体流路と異なる船側用気体流路を介して気体を供給し、前記船底気体供給装置と異なる船側気体供給装置と
を備え
前記船底気体供給装置は、
気体を送出する船底気体送出部と、
前記船底気体送出部から送出された気体の流量を調整する船底気体流量調整部と、
前記船底気体流量調整部で調整された気体を前記船底気体吹き出し部に供給する船底供給部と
を備え、
前記船側気体供給装置は、
前記船底気体送出部から送出された気体を調圧して送出する圧力調整部と、
前記圧力調整部から送出された気体のうち右舷側への気体の流量を調整する右舷気体流量調整部と、
前記右舷気体流量調整部で調整された気体を前記右舷気体吹き出し部に供給する右舷供給部と、
前記圧力調整部から送出された気体のうち左舷側への気体の流量を調整する左舷気体流量調整部と、
前記左舷気体流量調整部で調整された気体を前記左舷気体吹き出し部に供給する左舷供給部と
を備える
摩擦抵抗低減船舶。
【請求項2】
請求項に記載の摩擦抵抗低減船舶において、
前記船底気体供給装置は、
前記船底気体送出部から送出された気体を貯蔵する第1タンクを更に備え、
前記第1タンクに貯蔵された気体が前記船底気体流量調整部及び前記圧力調整部に供給され、
前記船側気体供給装置は、
前記圧力調整部から送出された気体を貯蔵する第2タンクを更に備え、
前記第2タンクに貯蔵された気体が右舷気体流量調整部と前記左舷気体流量調整部に供給される
摩擦抵抗低減船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関し、特に摩擦抵抗低減型船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の船体に作用する抵抗を低減する一手法として、船底や船側から空気(気泡)を吹き出し、船底全体を気泡で覆う方法が知られている。このような手法を用いた船舶は、摩擦抵抗低減船舶とも言われている。その摩擦抵抗低減船舶において、空気を吹き出すための空気吹き出し部は、船底又は船側に設けられている。空気吹き出し部から空気を吹き出すためには、ブロアやコンプレッサなどにより圧縮された空気を用いる必要がある。これは、空気が、船底や船側の位置での水圧に対応した圧力を有する必要があるからである。
【0003】
関連する技術として、特開2010−120612号公報(特許文献1)に船体摩擦抵抗低減装置が開示されている。この船体摩擦抵抗低減装置は、複数の空気吹き出し口と、空気供給手段と、空気供給量調整手段と、水圧検出推定手段と、制御手段とを備えている。複数の空気吹き出し口は、船体の底面に幅方向に沿って設けられる。空気供給手段は、該複数の空気吹き出し口に空気を供給する。空気供給量調整手段は、該空気供給手段による前記複数の空気吹き出し口への空気供給量を調整する。水圧検出推定手段は、複数の空気吹き出し口での水圧を検出または推定する。制御手段は、該水圧検出推定手段の検出推定結果に基づいて前記複数の空気吹き出し口での空気吹き出し流量が一定となるように前記空気供給量調整手段を制御する。
【0004】
この特許文献1の技術では、船底の幅方向における複数の空気吹き出し口での水圧が、船体の傾きにより互いに異なることに鑑み、複数の空気吹き出し口での空気吹き出し流量が一定となるように流量調整弁(空気供給量調整手段)を用いて空気供給量を調整する。それにより、船舶の航行状態に拘わらず、船底部の外面に沿って流れる空気の分布を幅方向で均一化にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−120612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、発明者の最近の研究により以下の事実が今回初めて明らかとなった。
上述の特許文献1の技術では、複数の空気吹き出し口はいずれも船底に設けられている。すなわち、静水面に浮いている場合での喫水線からの水深は、複数の空気吹き出し口において同じである。そのため、船体が傾くことによる空気吹き出し口同士での水圧の相違はそれほど大きくないと考えられる。従って、各流量調整弁(空気供給量調整手段)による流量(圧力)の調整で発生するエネルギの損失はそれほど多くないと考えられる。結果として、一つのブロア(空気供給手段)から複数の空気吹き出し口へ空気を分配しても、複数の流量調整弁(複数の空気供給量調整手段)での流量調整(又は圧力調整)によるエネルギの損失はそれほど大きくならないと考えられる。
【0007】
ここで、複数の空気吹き出し口のうち、一部を船側に設け、他を船底に設ける場合について考えてみる。この場合、船側の空気吹き出し口と船底の空気吹き出し口との間で、静水面に浮いている場合の喫水線からの水深は大きく異なる。そのため、船体の傾きに拘わらず、船側の空気吹き出し口と船底の空気吹き出し口との間で水圧が大きく異なる。その結果、一つのブロア(空気供給手段)から船側の空気吹き出し口と船底の空気吹き出し口へ空気を分配する場合、何ら調整をしなければ、船側の空気吹き出し口から空気が吹き出し易くなり、船底の空気吹き出し口から空気が吹き出し難くなると考えられる。この状態を回避すべく、船側の空気吹き出し口用の流量調整弁で、船側の空気吹き出し口から空気が吹き出し難くなるように調整すると、流量調整によるエネルギ損失が大きくなると考えられる。供給される空気の圧力が、船底の深い水深(高水圧)に合わせて設定されるため、低水深(低水圧)の船側の流量調整弁で管路抵抗を増大させて、空気圧力を低下させるためである。
【0008】
本発明の目的は、静水面の喫水線からの水深が異なる複数の位置にそれぞれ気体吹き出し部が設けられている船舶において、各気体吹き出し部へ空気を供給するとき、消費エネルギを抑え効率的に実施可能な摩擦抵抗低減船を提供することにある。また、静水面の喫水線からの水深が異なる複数の位置にそれぞれ気体吹き出し部が設けられている船舶において、各気体吹き出し部から気体をバランスよく送出することが可能な摩擦抵抗低減船を提供することにある。静水面の喫水線からの水深が異なる複数の位置にそれぞれ気体吹き出し部が設けられている船舶において、船体が傾いて海面からの水深が異なるようになっても、消費エネルギを抑えて各気体吹き出し部から気体をバランスよく送出することが可能な摩擦抵抗低減船を提供することにある。
【0009】
この発明のこれらの目的とそれ以外の目的と利益とは以下の説明と添付図面とによって容易に確認することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係を明らかにするために括弧付きで付加されたものである。ただし、それらの番号・符号を、特許請求の範囲に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0011】
本発明の摩擦抵抗低減船舶は、複数の気体吹き出し部(41、51)と複数の気体供給装置(60、70)とを具備している。複数の気体吹き出し部(41、51)は、船舶(1)における静水面の喫水線からの水深が異なる複数の位置に設けられ、気体を吹き出し可能である。複数の気体供給装置(60、70)は、複数の気体吹き出し部(41、51)に対応して設けられ、複数の気体吹き出し部(41、51)に気体を供給する。
【0012】
上記の摩擦抵抗低減船舶において、複数の気体吹き出し部(41、51)は、船底気体吹き出し部(41)と、右舷気体吹き出し部(51a)及び左舷気体吹き出し部(51b)とを備えていることが好ましい。船底気体吹き出し部(41)は、船舶(1)の船底(5)に設けられ、気体を吹き出し可能である。右舷気体吹き出し部(51a)及び左舷気体吹き出し部(51b)は、船底気体吹き出し部(41)とは水深が異なる位置である、船舶(1)の両舷の船側(4a、4b)に設けられ、気体を吹き出し可能である。複数の気体供給装置(60、70)は、船底気体供給装置(60)と、船側気体供給装置(70)とを備えていることが好ましい。船底気体供給装置(60)は、船底気体吹き出し部(41)に、船底用気体流路(43)を介して気体を供給する。船側気体供給装置(70)は、右舷気体吹き出し部(51a)及び左舷気体吹き出し部(51b)に船底用気体流路(43)と異なる船側用気体流路(53/53a・53b/53)を介して気体を供給し、船底気体供給装置(60)と異なる。
【0013】
上記の摩擦抵抗低減船舶において、船側気体供給装置(70)は、船側気体送出部(55)と、右舷気体流量調整部(54a)と、右舷供給部(52a)と、左舷気体流量調整部(54b)と、左舷供給部(52b)とを備えていることが好ましい。船側気体送出部(55)は、気体を送出する。右舷気体流量調整部(54a)は、船側気体送出部(55)から送出された気体のうち右舷側への気体の流量を調整する。右舷供給部(52a)は、右舷気体流量調整部(54a)から調整された気体を右舷気体吹き出し部(51a)に供給する。左舷気体流量調整部(54b)は、船側気体送出部(55)から送出された気体のうち左舷側への気体の流量を調整する。左舷供給部(52b)は、左舷気体流量調整部(54b)で調整された気体を左舷気体吹き出し部(51b)に供給する。
【0014】
上記の摩擦抵抗低減船舶において、船底気体供給装置(60)は、船底気体送出部(45)と、船底気体流量調整部(44)と、船底供給部(42)とを備えていることが好ましい。船底気体送出部(45)は、気体を送出し、船側気体送出部(55)と異なる。船底気体流量調整部(44)は、船底気体送出部(45)から送出された気体の流量を調整する。船底供給部(42)は、船底気体流量調整部(44)で調整された気体を船底気体吹き出し部(41)に供給する。
【0015】
上記の摩擦抵抗低減船舶において、船側気体供給装置(70)は、右舷気体送出部(55a)と、右舷気体流量調整部(54a)と、右舷供給部(52a)と、左舷気体送出部(55b)と、左舷気体流量調整部(54b)と、左舷供給部(52b)とを備えていることが好ましい。右舷気体送出部(55a)は、気体を送出する。右舷気体流量調整部(54a)は、右舷気体送出部(55a)から送出された気体の流量を調整する。右舷供給部(52a)は、右舷気体流量調整部(54a)で調整された気体を右舷気体吹き出し部(51a)に供給する。左舷気体送出部(55b)は、気体を送出する。左舷気体流量調整部(54b)は、左舷気体送出部(55b)から送出された気体の流量を調整する。左舷供給部(52b)は、左舷気体流量調整部(54b)で調整された気体を左舷気体吹き出し部(51b)に供給する。
【0016】
上記の摩擦抵抗低減船舶において、船底気体供給装置(60)は、船底気体送出部(45)と、船底気体流量調整部(44)と、船底供給部(42)とを備えていることが好ましい。船底気体送出部(45)は、気体を送出し、船側気体送出部(55)と異なる。船底気体流量調整部(44)は、船底気体送出部(45)から送出された気体の流量を調整する。船底供給部(42)は、船底気体流量調整部(44)で調整された気体を船底気体吹き出し部(41)に供給する。
【0017】
上記の摩擦抵抗低減船舶において、船底気体供給装置(60)は、船底気体送出部(45)と、船底気体流量調整部(44)と、船底供給部(42)とを備えていることが好ましい。船底気体送出部(45)は、気体を送出する。船底気体流量調整部(44)は、船底気体送出部(45)から送出された気体の流量を調整する。船底供給部(42)は、船底気体流量調整部(44)で調整された気体を船底気体吹き出し部(41)に供給する。船側気体供給装置(70)は、圧力調整部(58)と、右舷気体流量調整部(54a)と、右舷供給部(52a)と、左舷気体流量調整部(54b)と、左舷供給部(52b)とを備えていることが好ましい。圧力調整部(58)は、船底気体送出部(45)から送出された気体を調圧して送出する。右舷気体流量調整部(54a)は、圧力調整部(58)から送出された気体のうち右舷側への気体の流量を調整する。右舷供給部(52a)は、右舷気体流量調整部(54a)で調整された気体を右舷気体吹き出し部(51a)に供給する。左舷気体流量調整部(54b)は、圧力調整部(61)から送出された気体のうち左舷側への気体の流量を調整する。左供給部(52b)は、左舷気体流量調整部(54b)で調整された気体を左舷気体吹き出し部(51b)に供給する。
【0018】
上記の摩擦抵抗低減船舶において、船底気体供給装置(60)は、船底気体送出部(45)から送出された気体を貯蔵する第1タンク(47)を更に備えていることが好ましい。第1タンク(47)に貯蔵された気体が船底気体流量調整部(44)及び圧力調整部(58)に供給されることが好ましい。船側気体供給装置(70)は、圧力調整部(58)から送出された気体を貯蔵する第2タンク(57)を更に備えていることが好ましい。第2タンク(57)に貯蔵された気体が右舷気体流量調整部(54a)と左舷気体流量調整部(54b)に供給されることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、静水面の喫水線からの水深が異なる複数の位置にそれぞれ気体吹き出し部が設けられている船舶において、各気体吹き出し部へ空気を供給するとき、消費エネルギを抑え効率的に実施可能となる。また、静水面の喫水線からの水深が異なる複数の位置にそれぞれ気体吹き出し部が設けられている船舶において、各気体吹き出し部から気体をバランスよく送出することが可能となる。静水面の喫水線からの水深が異なる複数の位置にそれぞれ気体吹き出し部が設けられている船舶において、船体が傾いて海面からの水深が異なるようになっても、消費エネルギを抑えて各気体吹き出し部から気体をバランスよく送出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A図1Aは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略側面図である。
図1B図1Bは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略底面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施の形態に係る気体吹き出し装置の構成の詳細を示す概略図である。
図3図3は、ローリングの傾斜角θを示す概略図である。
図4図4は、本発明の第2の実施の形態に係る気体吹き出し装置の構成の詳細を示す概略図である。
図5図5は、本発明の第3の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略側面図である。
図6図6は、本発明の第3の実施の形態に係る気体吹き出し装置の構成の詳細を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶に関して、添付図面を参照して説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成について説明する。
図1A及び図1Bは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略側面図及び概略底面図である。本図において、摩擦抵抗低減型船舶1の船体20の船長方向(前後方向)、船幅方向(左右方向)及びそれらいずれにも垂直な方向が、それぞれx方向、y方向及びz方向として示されている。静水面に浮いている船体20の水面と接する線を喫水線DLとする。船体20の船長方向(x方向)の中心線を船体中心線Cとする。
【0023】
この摩擦抵抗低減型船舶1は、船体20と、気体吹き出し装置30とを備えている。船体20は、先端部6を含む船首部2と、中間部8と、船尾部3と、プロペラ21と、舵22とを備えている。ここでは、船体20を船体中心線Cの方向に略3等分し、船首側の部分を船首部2とし、船尾側の部分を船尾部3とし、その間の部分を中間部8としている。プロペラ21と舵22は船体中心線C上の船尾部3に設けられている。気体吹き出し装置30は、その船体20の内部に設けられている。
【0024】
気体吹き出し装置30は、航行時に、船体20の船底5や船側4を気泡で覆うように、船首部2の船側4や船底5に設けられた気体吹き出し部から水中へ気体(例示:空気、主機等からの排出ガス)を吹き出す。気体吹き出し装置30は、複数の気体供給装置を備えている。複数の気体供給装置は、船体外板10における静水面の喫水線DLからの水深が異なる複数の位置に設けられた複数の気体吹き出し部に対応して設けられ、当該複数の気体吹き出し部へ気体を供給する。本実施の形態では、気体吹き出し装置30は、船側気体供給装置70と船底気体供給装置60とを備えている。船側気体供給装置70は、船側4に設けられた船側気体吹き出し部51に対応して設けられている。船底気体供給装置60は、船底5に設けられた船底気体吹き出し部41に対応して設けられている。船側気体吹き出し部51と船底気体吹き出し部41とは、互いに、喫水線DLからの水深が異なる位置に設けられ、その水深の差がH0である。気体吹き出し装置30は、船側気体供給装置70と船底気体供給装置60を制御する制御装置59を更に備えている。制御装置59は、例えば、摩擦抵抗低減型船舶1のコントロールルーム(又は操舵室)に設けられる。
【0025】
船側気体吹き出し部51は、船首部2における両舷の船側4の船体外板10に設けられ、水中へ気体を吹き出し可能である。右舷船側4aに設けられた右舷気体吹き出し部51aは、右舷船側4aの水中へ気体を吹き出し可能である。左舷船側4bに設けられた左舷気体吹き出し部51bは、左舷船側4bの水中へ気体を吹き出し可能である。船側気体吹き出し部51は、船側4に設けられていれば、特に制限はない。例えば、気体が吹き出し可能な一つ又は複数のスリット状、円状、楕円状、長円状などの孔を有していても良い。船側気体供給装置70は、船側気体送出部55と、船側用気体流路53と、船側気体供給部52とを備えている。船側気体送出部55は、気体を圧縮し送出する。船側用気体流路53は、船側気体送出部55からの気体を船側気体供給部52へ供給する配管である。船側気体供給部52は、船側気体吹き出し部51上に設けられた気体供給チャンバである。気体供給チャンバは、一つ又は複数の孔ごとに設けられている。船側用気体流路53を介して供給された気体を船側気体吹き出し部51から水中へ吹き出す。
【0026】
船底気体吹き出し部41は、船首部2における船底5の船体外板10に設けられ、水中へ気体を吹き出し可能である。船底気体吹き出し部41は、船底5に設けられていれば、特に制限はない。例えば、気体が吹き出し可能な一つ又は複数のスリット状、円状、楕円状、長円状などの孔を有していても良い。船底気体供給装置60は、船底気体送出部45と、船底用気体流路43と、船底気体供給部42とを備えている。船底気体送出部45は、気体を圧縮し送出する。船底用気体流路43は、船底気体送出部45からの気体を船底気体供給部42へ供給する配管である。船底気体供給部42は、船底気体吹き出し部41上に設けられた気体供給チャンバである。気体供給チャンバは、一つ又は複数の孔ごとに設けられている。船底用気体流路43を介して供給された気体を船底気体吹き出し部41から水中へ吹き出す。
【0027】
図2は、気体吹き出し装置30の構成の詳細を示す概略図である。
船側気体供給装置70は、船側気体送出部55と、流量計56と、右舷気体流量調整部54aと、左舷気体流量調整部54bと、船側気体供給部52としての右舷供給部52a及び右舷供給部52bと、船側用気体流路53を備えている。気体吹き出し装置30は、更に傾斜センサ80を備えていても良い。
【0028】
船側気体送出部55は、コンプレッサ、ブロア又はファンに例示され、気体を圧縮し送出する。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。船側用気体流路53は、船側気体送出部55と右舷気体供給部52a及び左舷気体供給部52bとに接続された配管である。船側気体送出部55からの気体を右舷気体供給部52a及び左舷気体供給部52bへ供給する。船側用気体流路53は、途中のノードN1で右舷気体供給部52a及び左舷気体供給部52bへ分岐している。流量計56は、船側用気体流路53の途中に設けられている。船側用気体流路53を流れる気体の流量を計測し、船側用制御部59Sへ出力する。右舷気体流量調整部54aは、右舷側に分岐した船側用気体流路53の途中に設けられている。船側気体送出部55から送出された気体のうち右舷側への気体の流量を調整する。バタフライ弁、ニードル弁又はゲート弁に例示される。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。右舷供給部52aは、右舷気体吹き出し部51a上に設けられた気体供給チャンバである。右舷気体流量調整部54aで調整された気体を右舷気体吹き出し部51aに供給し、そこから水中へ吹き出す。左舷気体流量調整部54bは、左舷側に分岐した船側用気体流路53の途中に設けられている。船側気体送出部55から送出された気体のうち左舷側への気体の流量を調整する。バタフライ弁、ニードル弁又はゲート弁に例示される。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。左舷供給部52bは、左舷気体吹き出し部51b上に設けられた気体供給チャンバである。左舷気体流量調整部54bで調整された気体を左舷気体吹き出し部51bに供給し、そこから水中へ吹き出す。
【0029】
船底気体供給装置60は、船底気体送出部45と、流量計46と、船底気体流量調整部44と、船底供給部42と、船底用気体流路43とを備えている。
【0030】
船底気体送出部45は、コンプレッサ、ブロア又はファンに例示され、気体を送出する。船側気体送出部55とは異なり、別途設けられている。制御装置59の船底用制御部59Bにより制御される。船底用気体流路43は、船底気体送出部45と船底気体供給部42とに接続された配管である。船底気体送出部45からの気体を船底気体供給部42へ供給する。流量計46は、船底用気体流路43の途中に設けられている。船底用気体流路43を流れる気体の流量を計測し、船底用制御部59Bへ出力する。船底気体流量調整部44は、船底用気体流路43の途中に設けられている。バタフライ弁、ニードル弁又はゲート弁に例示される。制御装置59の船底用制御部59Bにより制御される。船底気体送出部45から送出された気体の流量を調整する。船底供給部42は、船底気体吹き出し部41上に設けられた気体供給チャンバである。船底気体流量調整部44で調整された気体を船底気体吹き出し部41に供給し、そこから水中へ吹き出す。
【0031】
船底気体供給装置60は、相対的に水深の深い位置の船底気体吹き出し部41に気体を供給するため、相対的に高い圧力で気体を供給する。一方、船側気体供給装置70は、相対的に水深の浅い位置の船側気体吹き出し部51(右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51b)に気体を供給するため、相対的に低い圧力で気体を供給する。このとき、船底気体吹き出し部41と船側気体吹き出し部51との水深の差がH0であるので、例えば、その水深の差H0に対応する圧力差となるように、船底気体供給装置60及び船側気体供給装置70の気体の圧力を制御することが好ましい。
【0032】
傾斜センサ80は、船体20のローリング傾斜角θを検出する。例えば、鉛直方向に対する船体20のローリング傾斜角θを検出する。図3に示すように、左舷船側4bが下がるように船体20がローリングしたときローリング傾斜角θが正となるように定義する。検出されたローリング傾斜角θは、制御装置59へ出力される。
【0033】
制御装置59は、上述のように船側用制御部59S及び船底用制御部59Bを備えている。船側用制御部59Sは、航行条件や海象条件に基づいて、所望の気体流量を右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51bへ供給するように船側気体送出部55と、右舷気体流量調整部54aと、左舷気体流量調整部54bとを制御する。同様に、船底用制御部59Bは、航行条件や海象条件に基づいて、所望の気体流量を船底気体吹き出し部41へ供給するように船底気体送出部45と、船底気体流量調整部44とを制御する。船側用制御部59S及び船底用制御部59Bは、互いに協働して制御をおこなっても良いし、それぞれ独立して制御をおこなっても良い。
【0034】
例えば、船側用制御部59Sは、航行速度v(船舶1の速度計)やローリング傾斜角θ(傾斜センサ80)や波高h(船舶1の観測機器や乗員の入力)に基づいて、予め設定されたテーブル又は関数における(v、θ、h)の値に対応した気体流量を右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51bへ供給するように、船側気体送出部55のモータ回転数や、右舷気体流量調整部54aの弁の開度や、左舷気体流量調整部54bの弁の開度を制御する。流量計56の気体流量値を用いて、船側用制御部59Sは、フィードバック制御を行う。同様に、船底用制御部59Bは、航行速度vやローリング傾斜角θや波高hに基づいて、所定テーブル又は関数における(v、θ、h)の値に対応した気体流量を船底気体吹き出し部41へ供給するように、船底気体送出部45のモータ回転数や、船底気体流量調整部44の弁の開度を制御する。流量計46の気体流量値を用いて、船底用制御部59Bは、フィードバック制御を行う。
【0035】
制御としては、摩擦抵抗低減船舶1の航行速度vが上昇するほど、気体の供給量(気体流量)を増加させて、右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51bと船底気体吹き出し部41から吹き出される気泡を増加させるようにすることが好ましい。また、摩擦抵抗低減船舶1がローリングにより傾斜した場合、傾斜の下側における船側の気体吹き出し部での水圧が相対的に高くなり、傾斜の上側における船側の気体吹き出し部での水圧が相対的に低くなる。その結果、右舷気体吹き出し部51aから送出される気体の量と左舷気体吹き出し部51bから送出される気泡の量とがアンバランスとなる。したがって、それを防ぐために、傾斜の下側における船側の気体吹き出し部につながる気体流量調整部を相対的に開いて気体の供給量を増加させるか、傾斜の上側における船側の気体吹き出し部につながる気体流量調整部を相対的に閉じて気体の供給量を減少させるか、その両方を行うことが好ましい。
【0036】
摩擦抵抗低減船舶1は、例えば以下のように動作する。
摩擦抵抗低減船舶1の運航時において、船側用制御部59Sは、航行速度vやローリング傾斜角θや波高hに基づいて、予め設定されたテーブルから(v、θ、h)の値に対応した右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51b用の気体流量を抽出する。そして、船側気体供給装置70が右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51bへ抽出された気体流量の気体を供給するように、船側気体送出部55のモータ回転数や、右舷気体流量調整部54aの弁の開度や、左舷気体流量調整部54bの弁の開度を制御する。そのとき、船側用制御部59Sは、流量計56から気体流量の計測値をフィードバック信号として取得して、フィードバック制御を行う。例えば、流量計56の流量を所定の流量となるように制御し、上記テーブルはその所定の流量に対応したテーブルを用いる。同様に、船底用制御部59Bは、航行速度vやローリング傾斜角θや波高hに基づいて、所定テーブルから(v、θ、h)の値に対応した船底気体吹き出し部41用の気体流量を抽出する。そして、船底気体供給装置60が船底気体吹き出し部41へ抽出された気体流量の気体を供給するように、船底気体送出部45のモータ回転数や、船底気体流量調整部44の弁の開度を制御する。そのとき、船底用制御部59Bは、流量計46から気体流量の計測値をフィードバック信号として取得して、フィードバック制御を行う。例えば、流量計46の流量を所定の流量となるように制御し、上記テーブルはその所定の流量に対応したテーブルを用いる。それにより、右舷気体吹き出し部51aから送出される気体の量と左舷気体吹き出し部51bから送出される気泡の量とがバランスするとともに、船底気体吹き出し部41から送出される気泡の量も右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51bからの気泡の量との関係で適正な値に制御される。
【0037】
船側気体吹き出し部51及び船底気体吹き出し部41から水中へ吹き出される気体によって形成される気泡は、船側4及び船底5を覆うように流れ、摩擦抵抗が低減される。このとき、本実施の形態では、喫水線からの水深(すなわち水圧)が異なる位置に設けられた船側気体吹き出し部51及び船底気体吹き出し部41に対して、異なる船側気体供給装置70と船底気体供給装置60を用いて気体を供給する。このように、水深(水圧)が異なる気体吹き出し部には異なる気体供給装置を設けることにより、一つの気体送出部(コンプレッサやブロアなど)は水圧の相違のそれほど大きくない気体吹き出し部へ気体を供給することができる。それにより、気体流量調整部での圧力損失により圧力調整をする必要が無くなり、気体送出部のエネルギ消費を抑えて効率的な気体吹き出しが可能となる。
【0038】
また、船側気体吹き出し部51(右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51b)としては、一つの気体送出部で対応でき、製造コストを低く抑えることができる。
【0039】
なお、異なる気体供給装置を設けるときの水深(水圧)が異なると判断する幅dは、気体送出部のエネルギ消費を抑えるという観点からは、小さいことが好ましい。しかし、気体供給装置の設置コストや設置に伴う船体20への影響などの観点からは、大きいことが好ましい。その両者を考慮すると、少なくとも、船側の気体吹き出し部と、船底の気体吹き出し部とは、両者の水深(水圧)の差から、異なる気体供給装置を設けることが好ましいと考えられる。また、例えば、予想される最大ローリング傾斜角をθmaxとし、摩擦抵抗低減船舶1の最大幅をWmaxとすると、d=Wmax・sinθmaxが好ましい範囲と考えられる。また、各流路には、その動作の確実性や安全性を確保すべく他の弁(例示:遮断弁、逃がし弁)を備えていても良い。
【0040】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成について説明する。
本実施の形態では、船側気体供給装置70において、船側気体送出部55と流量計56と船側用気体流路53とが、右舷側と左舷側とで別々に設けられている点で、第1の実施の形態の場合と異なっている。以下では、第1の実施の形態と相違する点について主に説明する。
【0041】
図4は、気体吹き出し装置30の構成の詳細を示す概略図である。
船側気体供給装置70は、右舷用の右舷気体供給装置70aと左舷用の左舷気体供給装置70bとを備えている。右舷気体供給装置70aは、右舷側の右舷気体送出部55a、流量計56a、右舷気体流量調整部54a、右舷用気体流路53a及び右舷供給部52aを有している。左舷気体供給装置70bは、左舷側の左舷気体送出部55b、流量計56b、左舷気体流量調整部54b、左舷用気体流路53b及び右舷供給部52bを有している。
【0042】
右舷気体供給装置70aについて説明する。右舷気体送出部55aは、コンプレッサ、ブロア又はファンに例示され、気体を圧縮し送出する。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。右舷用気体流路53aは、右舷気体送出部55aと右舷気体供給部52aとに接続された配管である。右舷気体送出部55aからの気体を右舷気体供給部52aへ供給する。流量計56aは、右舷用気体流路53aの途中に設けられている。右舷用気体流路53aを流れる気体の流量を計測し、船側用制御部59Sへ出力する。右舷気体流量調整部54aは、右舷用気体流路53aの途中に設けられている。右舷気体送出部55aから送出された気体の流量を調整する。バタフライ弁、ニードル弁又はゲート弁に例示される。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。右舷供給部52aは、右舷気体吹き出し部51a上に設けられた気体供給チャンバである。右舷気体流量調整部54aで調整された気体を右舷気体吹き出し部51aに供給し、そこから水中へ吹き出す。
【0043】
左舷気体供給装置70bについて説明する。左舷気体送出部55bは、コンプレッサ、ブロア又はファンに例示され、気体を圧縮し送出する。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。左舷用気体流路53bは、左舷気体送出部55bと左舷気体供給部52bとに接続された配管である。左舷気体送出部55bからの気体を左舷気体供給部52bへ供給する。流量計56bは、左舷用気体流路53bの途中に設けられている。左舷用気体流路53bを流れる気体の流量を計測し、船側用制御部59Sへ出力する。左舷気体流量調整部54bは、左舷用気体流路53bの途中に設けられている。左舷気体送出部55bから送出された気体の流量を調整する。バタフライ弁、ニードル弁又はゲート弁に例示される。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。左舷供給部52bは、左舷気体吹き出し部51b上に設けられた気体供給チャンバである。左舷気体流量調整部54bで調整された気体を左舷気体吹き出し部51bに供給し、そこから水中へ吹き出す。
【0044】
制御装置59は、上述のように船側用制御部59S及び船底用制御部59Bを備えている。船側用制御部59Sは、航行条件や海象条件に基づいて、所望の気体流量を右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51bへ供給するように右舷気体送出部55aと、左舷気体送出部55bと、右舷気体流量調整部54aと、左舷気体流量調整部54bとを制御する。
【0045】
例えば、船側用制御部59Sは、航行速度v(船舶1の速度計)やローリング傾斜角θ(傾斜センサ80)や波高h(船舶1の観測機器や乗員の入力)に基づいて、予め設定されたテーブル又は関数における(v、θ、h)の値に対応した気体流量を右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51bへ供給するように、右舷気体送出部55aのモータ回転数や、左舷気体送出部55bのモータ回転数や、右舷気体流量調整部54aの弁の開度や、左舷気体流量調整部54bの弁の開度を制御する。流量計56a及び流量計56bの気体流量値を用いて、船側用制御部59Sは、フィードバック制御を行う。例えば、流量計56a、56bの流量をそれぞれ所定の流量となるように制御し、上記テーブル又は関数はその所定の流量に対応したテーブル又は関数を用いる。
【0046】
この場合にも、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
加えて、船側気体吹き出し部51における右舷気体吹き出し部51aと左舷気体吹き出し部51bとで別々の右舷気体供給装置70aと左舷気体供給装置70bとを有している。それにより、ローリングなどにより、船体20が傾いて、右舷気体吹き出し部51aと左舷気体吹き出し部51bとの間で水深(水圧)が異なる場合に、右舷舷気体送出部55aは右舷気体吹き出し部51aの水深に対応した圧力の気体を供給でき、左舷気体送出部55bは左舷気体吹き出し部51bの水深に対応した圧力の気体を供給することができる。すなわち、それにより、気体流量調整部での圧力損失により圧力調整をする必要が更に無くなり、気体送出部のエネルギ消費を更に抑えてより効率的な気体吹き出しが可能となる。
【0047】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成について説明する。
本実施の形態では、船側気体供給装置70において、船側気体送出部が、コンプレッサやブロアなどではなく、船底気体供給装置60の気体の圧力を減圧する圧力調整部58である点で、第1の実施の形態の場合と異なっている。以下では、第1の実施の形態と相違する点について主に説明する。
【0048】
図5は、本発明の第3の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略側面図である。本図において、摩擦抵抗低減型船舶1の構成は、基本的に第1の実施の形態(図1A)の場合と同様である。ただし、気体吹き出し装置30における船側気体供給装置70及び船底気体供給装置60の上流部分の構成が異なっている。
【0049】
船底気体供給装置60は、船底気体送出部45と、第1タンク47と、船底用気体流路43と、船底気体供給部42とを備えている。船底気体送出部45は、気体を圧縮し送出する。第1タンク47は、船底気体送出部45から送出された気体を貯蔵する。船底用気体流路43は、第1タンク47の気体(船底気体送出部45からの気体)を船底気体供給部42へ供給する配管である。船底気体供給部42は、船底気体吹き出し部41上に設けられた気体供給チャンバである。気体供給チャンバは、船底気体吹き出し部41に設けられた一つ又は複数の孔ごとに設けられている。船底用気体流路43を介して供給された気体を船底気体吹き出し部41から水中へ吹き出す。
【0050】
船側気体供給装置70は、圧力調整部58と、第2タンク57と、船側用気体流路53と、船側気体供給部52とを備えている。圧力調整部58は、第1タンク47の気体を減圧し、第2タンク57へ送出する。第2タンク57は、第1タンク47の気体よりも減圧された低圧の気体を貯蔵する。船側用気体流路53は、第2タンク57の気体(圧力調整部58からの気体)を船側気体供給部52へ供給する配管である。船側気体供給部52は、船側気体吹き出し部51上に設けられた気体供給チャンバである。気体供給チャンバは、船側気体吹き出し部51に設けられた一つ又は複数の孔ごとに設けられている。船側用気体流路53を介して供給された気体を船側気体吹き出し部51から水中へ吹き出す。
【0051】
図6は、気体吹き出し装置30の構成の詳細を示す概略図である。
船底気体供給装置60は、船底気体送出部45と、第1タンク47と、流量計46と、船底気体流量調整部44と、船底供給部42と、船底用気体流路43とを備えている。
【0052】
船底気体送出部45は、コンプレッサ、ブロア又はファンに例示され、気体を送出する。制御装置59の船底用制御部59Bにより制御される。第1タンク47は、船底気体送出部45から送出された気体(相対的に高圧)を貯蔵する。船底用気体流路43は、船底気体送出部45と船底気体供給部42とに接続された配管である。途中に第1タンク47が接続されている。船底気体送出部45から第1タンク47に貯蔵された気体を船底気体供給部42へ供給する。流量計46は、船底用気体流路43の途中に設けられている。船底用気体流路43を流れる気体の流量を計測し、船底用制御部59Bへ出力する。船底気体流量調整部44は、船底用気体流路43の途中に設けられている。バタフライ弁、ニードル弁又はゲート弁に例示される。制御装置59の船底用制御部59Bにより制御される。第1タンク47に貯蔵され船底供給部42へ供給される気体の流量を調整する。船底供給部42は、船底気体吹き出し部41上に設けられた気体供給チャンバである。船底気体流量調整部44で調整された気体を船底気体吹き出し部41に供給し、そこから水中へ吹き出す。
【0053】
船側気体供給装置70は、圧力調整部58と、第2タンク57と、流量計56と、右舷気体流量調整部54aと、左舷気体流量調整部54bと、右舷供給部52a及び右舷供給部52bと、船側用気体流路53を備えている。
【0054】
圧力調整部58は、圧力調整弁(レギュレーター)に例示され、第1タンク47の気体(相対的に高圧)を減圧し、その気体(相対的に低圧)を第2タンク57へ送出する。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。第2タンク57は、第1タンク47の気体を減圧した相対的に低圧の気体を貯蔵する。船側用気体流路53は、圧力調整部58と右舷気体供給部52a及び左舷気体供給部52bとに接続された配管である。圧力調整部58から第2タンク57を介して供給される気体を右舷気体供給部52a及び左舷気体供給部52bへ供給する。船側用気体流路53は、途中のノードN1で右舷気体供給部52a及び左舷気体供給部52bへ分岐している。流量計56は、船側用気体流路53の途中に設けられている。船側用気体流路53を流れる気体の流量を計測し、船側用制御部59Sへ出力する。右舷気体流量調整部54aは、右舷側に分岐した船側用気体流路53の途中に設けられている。第2タンク57から送出された気体のうち右舷側への気体の流量を調整する。バタフライ弁、ニードル弁又はゲート弁に例示される。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。右舷供給部52aは、右舷気体吹き出し部51a上に設けられた気体供給チャンバである。右舷気体流量調整部54aで調整された気体を右舷気体吹き出し部51aに供給し、そこから水中へ吹き出す。左舷気体流量調整部54bは、左舷側に分岐した船側用気体流路53の途中に設けられている。第2タンク57から送出された気体のうち左舷側への気体の流量を調整する。バタフライ弁、ニードル弁又はゲート弁に例示される。制御装置59の船側用制御部59Sにより制御される。左舷供給部52bは、左舷気体吹き出し部51b上に設けられた気体供給チャンバである。左舷気体流量調整部54bで調整された気体を左舷気体吹き出し部51bに供給し、そこから水中へ吹き出す。
【0055】
制御装置59は、上述のように船側用制御部59S及び船底用制御部59Bを備えている。船底用制御部59Bは、航行条件や海象条件に基づいて、所望の気体流量を船底気体吹き出し部41へ供給するように船底気体送出部45と、船底気体流量調整部44とを制御する。同様に、船側用制御部59Sは、航行条件や海象条件に基づいて、所望の気体流量を右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51bへ供給するように圧力調整部58と、右舷気体流量調整部54aと、左舷気体流量調整部54bとを制御する。
【0056】
例えば、船側用制御部59Sは、航行速度v(船舶1の速度計より)やローリング傾斜角θ(傾斜センサ80)や波高h(船舶1の観測機器や乗員の入力)に基づいて、予め設定されたテーブル又は関数における(v、θ、h)の値に対応した気体流量を右舷気体吹き出し部51a及び左舷気体吹き出し部51bへ供給するように、圧力調整部58の2次圧(第2タンク57の圧力)や、右舷気体流量調整部54aの弁の開度や、左舷気体流量調整部54bの弁の開度を制御する。流量計56の気体流量値を用いて、船側用制御部59Sは、フィードバック制御を行う。例えば、流量計56の流量を所定の流量となるように制御し、上記テーブル又は関数はその所定の流量に対応したテーブル又は関数を用いる。同様に、船底用制御部59Bは、航行速度vやローリング傾斜角θや波高hに基づいて、所定テーブル又は関数における(v、θ、h)の値に対応した気体流量を船底気体吹き出し部41へ供給するように、船底気体送出部45のモータ回転数や、船底気体流量調整部44の弁の開度を制御する。流量計46の気体流量値を用いて、船底用制御部59Bは、フィードバック制御を行う。例えば、流量計46の流量を所定の流量となるように制御し、上記テーブル又は関数はその所定の流量に対応したテーブル又は関数を用いる。
【0057】
この場合にも、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
加えて、気体吹き出し装置30の構成を簡素化することができる。また、気体送出部(コンプレッサやブロアなど)の台数を1台にでき、低コスト化を図ることができる。
【0058】
なお、第1タンク47に他の圧力調整部58’を接続し、左舷気体吹き出し部51b用に他の圧力調整部58’、他の第2タンク57’、他の流量計57’、左舷気体流量調整部54b及び左舷供給部52bを接続された他の船側用気体流路53’を設け、元の圧力調整部58、第2タンク57、流量計57、右舷気体流量調整部54a及び右舷供給部52aを接続された船側用気体流路53を右舷気体吹き出し部51a用とすることも可能である。その場合、本実施の形態の効果と第2の実施の形態の効果とを併せた効果を得ることができる。
【0059】
本発明は上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変形又は変更され得ることは明らかである。
【符号の説明】
【0060】
1 摩擦抵抗低減型船舶
2 船首部
3 船尾部
4 船側
4a 右舷船側
4b 左舷船側
5 船底
6 先端部
8 中間部
10 船体外板
20 船体
21 プロペラ
22 舵
30 気体吹き出し装置
41 船底気体吹き出し部
42 船底気体供給部
43 船底用気体流路
44 船底気体流量調整部
45 船底気体送出部
46 流量計
47 第1タンク
51 船側気体吹き出し部
51a 右舷気体吹き出し部
51b 左舷気体吹き出し部
52 船側気体供給部
52a 右舷供給部
52b 右舷供給部
53 船側用気体流路
53a 右舷用気体流路
54a 右舷気体流量調整部
54b 左舷気体流量調整部
55 船側気体送出部
55a 右舷気体送出部
55b 左舷気体送出部
56、56a、56b 流量計
57 第2タンク
58 圧力調整部
59 制御装置
59S 船側用制御部
59B 船底用制御部
60 船底気体供給装置
70 船側気体供給装置
70a 右舷気体供給装置
70b 左舷気体供給装置
80 傾斜センサ
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6