(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791399
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】AlN層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20150917BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/44 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-151137(P2011-151137)
(22)【出願日】2011年7月7日
(65)【公開番号】特開2013-21028(P2013-21028A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100087000
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 淳一
(72)【発明者】
【氏名】武内 道一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 克信
【審査官】
境 周一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−064911(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/077541(WO,A1)
【文献】
特開2010−205933(JP,A)
【文献】
特開2003−252700(JP,A)
【文献】
特開2012−031027(JP,A)
【文献】
特開2007−059850(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0045662(US,A1)
【文献】
特開2006−290662(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/108381(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0093124(US,A1)
【文献】
特開2010−010613(JP,A)
【文献】
特開2007−266559(JP,A)
【文献】
特開2006−335607(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0050929(US,A1)
【文献】
黒内正仁(他3名),極性混在AINバッファ層のアニール処理による新しい核形成法,2010年秋季第71回応用物理学会学術講演会講演予稿集,日本,応用物理学会,2010年 8月30日,Vol.15,p.226
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/00−21/98
H01L 31/00−33/64
C23C 14/00−16/56
C30B 29/00−29/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlN層の製造方法において、
c面Al2O3基板をAlN成長に先んじてAlN成長を行う1000℃以上1200℃以下の成長温度にまで昇温する第1のステップと、
前記第1のステップにより1000℃以上1200℃以下で加熱されている前記c面Al2O3基板上に、1000℃以上1200℃以下の成長温度でAlN層を成長する第2のステップと、
前記第2のステップで形成したAlN層を、H2またはN2またはそれらが混入されたキャリアガス中、または該キャリアガスにNH3が混入されたプロセスガス中で1000℃以上1250℃未満の温度でアニールする第3のステップと、
前記第3のステップでアニールされたAlN層上に1000℃以上1250℃未満の成長温度でAlN層を成長する第4のステップと
を有するAlN層の製造方法において、
前記第1のステップは、前記c面Al2O3基板をAlN成長に先んじてAlN成長を行う1000℃以上1200℃以下の成長温度にまで昇温する過程にて、前記c面Al2O3基板より部分的に酸素を脱離するようにした
ことを特徴とするAlN層の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のAlN層の製造方法において、
前記第2のステップは、Al極性面とN極性面との極性が混じった構造を備えたAlN層を成長する
ことを特徴とするAlN層の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載のAlN層の製造方法において、
前記第3のステップは、アニールを少なくとも1分間おこなう
ことを特徴とするAlN層の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3のいずれか1項に記載のAlN層の製造方法において、
前記第3のステップは、前記N極性面の領域のみを蒸発させる
ことを特徴とするAlN層の製造方法。
【請求項5】
請求項2、3または4のいずれか1項に記載のAlN層の製造方法において、
前記第4のステップは、前記N極性面の領域が蒸発した結果残された前記Al極性面を初期構造として埋め込み成長をおこなう
ことを特徴とするAlN層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlN(窒化アルミニウム)層の製造方法に関し、さらに詳細には、高品質なAlN層を作製することのできるAlN層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、350nm以下の深紫外波長領域で発光する発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)の構造として、例えば、
図1に示す構造が知られている。
【0003】
この
図1に示すLED100は、c面Al
2O
3基板102上にAlN層104を形成し、AlN層104上にAlGaN層106を形成し、AlGaN層106上にn型AlGaN層108を形成し、n型AlGaN層108上に発光層110を形成し、発光層110上にp型AlGaN層112を形成し、p型AlGaN層112上にp型GaN層114を形成することにより構成されている。
【0004】
上記したように、350nm以下の深紫外波長領域で発光するLEDを形成する際には、c面Al
2O
3基板上に高品質なAlN層を形成する必要がある。
【0005】
ここで、350nm以下の深紫外波長領域で発光するLEDを形成する際に用いることが可能な高品質なAlN層をc面Al
2O
3基板上に形成するに際しては、一般に、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により1250℃以上の成長温度でc面Al
2O
3基板上にAlN層を成長させる必要があり、1250℃を下回る成長温度では高品質のAlN層を形成することができないことが知られている。
【0006】
しかしながら、一般に市販されているMOCVD装置は、概ね1250℃未満が成長温度の限界であって、1250℃以上の成長温度を実現できる特殊なMOCVD装置はコストが嵩むものであった。
【0007】
このため、概ね1250℃未満が成長温度の限界である一般に市販されているMOCVD装置を用いて、低コストで品質の高い優れたAlN層を形成する手法の開発が強く望まれていた。
【0008】
なお、本願出願人が特許出願のときに知っている先行技術は、文献公知発明に係る発明ではないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の技術に対する上記したような要望に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、概ね1250℃未満が成長温度の限界である一般に市販されているMOCVD装置を用いて、低コストで品質の高い優れたAlN層を製造することを可能にするAlN層の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、
AlN層の製造方法において、c面Al2O3基板をAlN成長に先んじてAlN成長を行う1000℃以上1200℃以下の成長温度にまで昇温する第1のステップと、上記第1のステップにより1000℃以上1200℃以下で加熱されている上記c面Al2O3基板上に、1000℃以上1200℃以下の成長温度でAlN層を成長する第2のステップと、上記第2のステップで形成したAlN層を、H2またはN2またはそれらが混入されたキャリアガス中、または該キャリアガスにNH3が混入されたプロセスガス中で1000℃以上1250℃未満の温度でアニールする第3のステップと、上記第3のステップでアニールされたAlN層上に1000℃以上1250℃未満の成長温度でAlN層を成長する第4のステップとを有するAlN層の製造方法において、上記第1のステップは、上記c面Al
2O
3基板をAlN成長に先んじてAlN成長を行う1000℃以上1200℃以下の成長温度にまで昇温する過程にて、上記c面Al
2O
3基板より部分的に酸素を脱離するようにしたものである。
【0012】
また、本発明は、上記第2のステップにおいて、Al極性面とN極性面との極性が混じった構造を備えたAlN層を成長するようにしたものである。
【0013】
また、本発明は、上記第3のステップにおいて、アニールを少なくとも1分間おこなうようにしたものである。
【0014】
また、本発明は、上記第3のステップにおいて、上記N極性面の領域のみを蒸発させるようにしたものである。
【0015】
また、本発明は、上記第4のステップにおいて、上記N極性面の領域が蒸発した結果残された上記Al極性面を初期構造として埋め込み成長をおこなうようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上説明したように構成されているので、概ね1250℃未満が成長温度の限界である一般に市販されているMOCVD装置を用いて、低コストで品質の高い優れたAlN層を製造することを可能にするAlN層の製造方法を提供することができるようになるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、350nm以下の深紫外波長領域で発光するLEDの断面構造の一例を示す説明図である。
【
図2】
図2は、一般に市販されているMOCVD装置の概略構成説明図である。
【
図3】
図3(a)は、AlNにおけるAl極性面を示す原子配置模式図であり、また、
図3(b)は、AlNにおけるN極性面を示す原子配置模式図である。双方ともc面Al
2O
3基板上にAlN層を成長した際の成長方向を上向きとして記載されたものであり、互いに上下が反転した構造となっている。また、
図3(c)は、ステップ2の終了時におけるAl極性面とN極性面との極性が混じった構造のAlN層の断面概念図である。
【
図4】
図4は、ステップ3の終了時におけるAl極性面とN極性面とが混じった構造からN極性面の領域でのみ蒸発が生じたAlN層の断面概念図である。
【
図5】
図5(a)は、ステップ2の終了時におけるAl極性面とN極性面とが混じった構造のAlN層の表面ノマルスキ光学顕微鏡像である。また
図5(b)は、ステップ3の終了時におけるAl極性面とN極性面とが混じった構造からN極性面の領域でのみ蒸発が生じたAlN層の表面ノマルスキ光学顕微鏡像である。
【
図6】
図6は、ステップ4の終了時におけるAlN層の断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明によるAlN層の製造方法の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0020】
この本発明によるAlN層の製造方法においては、MOCVD装置として、概ね1250℃未満が成長温度の限界である一般に市販されているMOCVD装置が用いられる。
【0021】
図2には、こうした一般に市販されているMOCVD装置のうち本発明で使用したMOCVD装置の概略構成説明図が示されている。
【0022】
このMOCVD装置10は、原料ガスを内部に導入するための導入口12aと内部に存在しているガスを排出するための排気口12bとを備えた結晶成長反応炉12と、結晶成長反応炉12の内部に配置されて表面にGaN、AlNあるいはAlGaNなどの単結晶を成膜させるAl
2O
3基板などの基板14を配置するためのサセプター16と、結晶成長反応炉12の外周に巻回されてサセプター16を誘導加熱する誘導加熱コイル18とを有して構成されている。
【0023】
以下に説明するAlN層の製造方法は、上記したMOCVD装置10により単結晶成長させることにより製造される。
【0024】
本発明によるAlN層の製造方法について、c面Al
2O
3基板上にAlN層を形成する場合を例に説明する。
【0025】
この本発明によるAlN層の製造方法は、以下に説明するステップ1乃至4の4段階のステップにより構成されている。
【0026】
(1)ステップ1
ステップ1は、MOCVD装置10の結晶成長反応炉12内に配置したAlNの単結晶を成長させるc面Al
2O
3基板の温度を、c面Al
2O
3基板上におけるAlN成長に先んじて、AlN成長を行う際の成長温度である1000℃以上1200℃以下まで昇温する工程である。
【0027】
このステップ1においては、c面Al
2O
3基板をAlN成長に先んじてAlN成長を行う1000℃以上1200℃以下の成長温度にまで昇温する過程にて、H
2またはN
2またはそれらが混入されたキャリアガスを導入口12aから、200mbar以下に減圧された結晶成長反応炉12内に供給し、c面Al
2O
3基板より部分的にO原子を脱離させるものである。
【0028】
その結果、部分的に暴露されたAl原子のせいで活性な表面が形成される。
【0029】
(2)ステップ2
ステップ2は、ステップ1により1000℃以上1200℃以下で加熱されているc面Al
2O
3基板上に、1000℃以上1200℃以下の成長温度でAlN層を成長する工程である。
【0030】
具体的には、MOCVD装置10の結晶成長反応炉12内に配置したAlNの単結晶を成長させるc面Al
2O
3基板をH
2またはN
2またはそれらが混入されたキャリアガス内で1000℃以上1200℃以下まで昇温することで部分的にO原子を脱離させAl原子が暴露した活性な表面が形成されている状態で、原料ガスとしてトリメチルアルミニウムとNH
3とをH
2またはN
2またはそれらが混入されたキャリアガスとともに導入口12aから100mbar以下に減圧された結晶成長反応炉12内に供給し、AlN層を、例えば、200nmの厚さに成長させる。
【0031】
このステップ2で部分的にO原子を脱離させAl原子が暴露した活性な表面が形成されたc面Al
2O
3基板上に形成されるAlN層は、c面Al
2O
3基板表面のO原子が脱離しAl原子が暴露された部分が成長と同時に供給されるNH
3と反応することで起こる急激な窒化のせいでN極性面(
図3(b)を参照する。)領域となり、O原子未脱離部分がAl極性面(
図3(a)を参照する。)領域となり、極性が混じった構造となる(
図3(c)を参照する。)。
【0032】
つまり、ステップ2においては、Al極性面とN極性面との極性が混じった構造を備えたAlN層を成長させるものである。
【0033】
(3)ステップ3
ステップ3は、ステップ2で成長させたAlN層を、H
2またはN
2またはそれらが混入されたキャリアガス中、またはそのキャリアガスにNH
3が混入されたプロセスガス中で1000℃以上1250℃未満の温度でアニールする工程である。
【0034】
具体的には、MOCVD装置10の結晶成長反応炉12内への原料ガスであるトリメチルアルミニウムの供給を停止し、H
2またはN
2またはそれらが混入されたキャリアガス、またはそのキャリアガスにNH
3が混入されたプロセスガスを導入口12aから100mbar以下に減圧された結晶成長反応炉12内に供給する。
【0035】
そして、H
2またはN
2またはそれらが混入されたキャリアガス中、またはそのキャリアガスにNH
3が混入されたプロセスガス中で、ステップ2においてc面Al
2O
3基板上にAl極性面とN極性面との極性が混じった構造で形成したAlN層を、温度1000℃以上1250℃未満でアニールする。
【0036】
このステップ3の処理により、
図4に示すように、Al極性面とN極性面との極性が混じったAlN層においてN極性面の領域だけ蒸発し、N極性面の部分に凹みができる。
【0037】
この凹みが生じる様子はノマルスキ光学顕微鏡でも明瞭に観察でき、
図5(a)で示されるステップ2の終了時におけるAl極性面とN極性面とが混じった構造のAlN層表面が、ステップ3の処理により
図5(b)で示されるような光学的にも荒れた表面へと変化する。
【0038】
その理由は、Y.Kumagai et al.,Journal of Crystal Growth 305 (2007) 366−371, Elsevier B.V.で示されるように、AlN層の熱分解速度が、Al極性面とN極性面とを比較すると、N極性面の分解のほうが速いからである。
【0039】
なお、ステップ3においては、上記したアニールを、少なくとも1分間行うものである。具体的には、アニールする温度に応じて1分間以上行うものであり、例えば、1分以上1時間以下の間で適宜に選択するが、1時間以上アニールしてもよい。
【0040】
(4)ステップ4
ステップ4は、ステップ3でアニールされたAlN層上に1000℃以上1250℃未満の成長温度でAlN層を成長する工程である。
【0041】
具体的には、MOCVD装置10の結晶成長反応炉12内へ、再び原料ガスとしてトリメチルアルミニウムとNH
3とをH
2またはN
2またはそれらが混入されたキャリアガスとして導入口12aから100mbar以下に減圧された結晶成長反応炉12内に供給し、N極性の部分に凹みができているAlN層上にMOCVD原料流量変調法(M.Takeuchi et al., Applied Physics Express 1(2008)021102, 2008 The Japan Society of Applied Physics を参照する。)で横方向成長速度を稼いで埋め込み成長を行い、AlN層を、例えば、600nm以上の厚さに成長させる。
【0042】
このステップ4の処理により、凹んでいるN極性面を備えたAlN層上に横方向成長速度エンハンスモードでAl極性面から発展したAlN層が成長すると、
図6に示すように、Al極性面の横方向成長によりN極性面がふさがれて、N極性面が混じらないAl極性面による平坦なAlN層が形成される。
【0043】
つまり、ステップ4においては、N極性面の領域が蒸発した結果残されたAl極性面を初期構造として埋め込み成長をおこなうものである。
【0044】
こうして形成されたAlN層は、N極性面が混じらないAl極性面により構成され、かつ、横方向成長により貫通転移が対消滅することから貫通転移密度が効果的に減少されるものであって、品質の高い優れたものとなる。
【0045】
即ち、本発明によれば、概ね1250℃未満が成長温度の限界である一般に市販されているMOCVD装置を用いて、低コストで品質の高い優れたAlN層を製造することができる。
【0046】
なお、本発明によるAlN層は、
図1に示したような構造を備えたLEDのAlN層として用いることができるのは勿論であるが、
図1に示した構造とは異なる構造を備えたLEDのAlN層や、その他各種の半導体デバイスなどにおけるAlN層として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、深紫外波長領域の光を発生するデバイスの材料として利用することができるものである。
【符号の説明】
【0048】
10 結晶成長装置
12 結晶成長反応炉
12a 導入口
12b 排気口
14 結晶成長反応炉
16 サセプター
18 誘導加熱コイル