(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゲイン値生成手段は、前記要求制御量が所定値以下の場合、前記ゲイン値として1を生成し、前記要求制御量が該所定値を超える場合、前記要求制御量の大きさに応じて1未満で減少する前記ゲイン値を生成する請求項1から請求項3の何れか1項記載の航空機。
操縦者が機体を操縦するための操縦桿と、前記操縦桿の中立位置の角度を調整する調整手段と、前記操縦桿に対する操作量を操舵手段へ機械的に伝達する操舵量伝達手段と、前記操作量を検知する検知手段と、前記検知手段によって検知された前記操作量に応じた機体の制御量を算出する制御量算出手段と、前記制御量算出手段によって算出された前記制御量を、前記検知手段から出力された前記操作量で減算する減算手段と、前記操舵量伝達手段で伝達される前記操作量に、前記減算手段から出力された減算値に応じた操作量を加算するアクチュエータと、を具備した航空機の制御方法であって、
機体の姿勢を目標値にするための目標姿勢制御量を、前記検知手段によって検知された前記操作量に基づいて算出する第1工程と、
1以下であり、機体に要求する制御量を示した要求制御量が大きいほど減少するゲイン値を生成する第2工程と、
生成した前記ゲイン値を、前記姿勢制御算出手段から出力された前記目標姿勢制御量に乗算する第3工程と、
前記ゲイン値を乗算した前記目標姿勢制御量に、機体を安定させるための安定化制御量を加算して、前記減算手段へ出力する第4工程と、
前記ゲイン値が乗算されることによって減少した前記目標姿勢制御量に応じて、前記操縦桿の中立位置の角度を補正するための補正信号を生成し、前記調整手段へ出力する第5工程と、
を含む航空機の制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PAFCS方式では、FBW方式とは異なり、操縦桿と操舵機構とが機械的に接続されているため、操縦桿の操作量(操縦桿操作量)に応じて舵面も動く。そのため、引用文献1にも記載されているように、SASアクチュエータを駆動させるためのSASコマンドを(1)式に示されるようにFBW制御則コマンドから操縦桿操作量を減算することで算出する。
SASコマンド=FBW制御則コマンド−操縦桿操作量 ・・・(1)
【0007】
しかしながら、操縦桿操作量が大きすぎ、(1)式から算出されたSASコマンドの大きさがSASアクチュエータの作動範囲を超えてしまうと、SASアクチュエータが一方向に伸張又は収縮したままとなり、それ以上動作しない状態(飽和状態)となる。この状態となると、舵面の制御、すなわち機体の制御ができなくなる。
【0008】
特に、機体の姿勢制御において、操縦桿に対する操作量が大きすぎ、生成される目標姿勢制御コマンドが過大となり、アクチュエータが飽和状態となると、機体を安定させるための制御コマンドが利かなくなる。この結果、機体の姿勢が発散する危険性が生じる。
【0009】
図8は、操縦桿に対する操作量が大きすぎ、アクチュエータが飽和状態となる場合の各コマンドの変化及び機体の姿勢を示したグラフである。
図8では、機体を安定させる制御コマンドを、一例として、機首が上がり過ぎた場合や下がり過ぎた場合等に、ブレーキをかけて機体を安定化させるレート・ダンピング制御コマンドとしている。すなわち、レート・ダンピング制御コマンドと目標姿勢制御コマンドとの和が、FBW制御則コマンドとなる。
図8(A)は、レート・ダンピング制御コマンドの時間変化を示している。
図8(B)は、目標姿勢制御コマンドの時間変化を示している。
図8(C)は、FBW制御則コマンドの時間変化を示している。そして、
図8(D)は、機体の姿勢を示している。
【0010】
図8(C)に示されるように、操縦桿に対する操作量が大きすぎると、目標姿勢制御コマンドが過大となる。このため、FBW制御則コマンドも、過大となり、SASアクチュエータの作動範囲(SASオーソリティ)を超えることとなる。この結果、SASアクチュエータは、SASアクチュエータの作動範囲の上限で飽和状態となり、それ以上動作しなくなる。この場合、レート・ダンピング制御コマンドは、レート・ダンピング制御コマンドに対して逆方向の目標姿勢制御コマンドが大きくなり過ぎているため、利かなくなっている。このため、機体は、レート・ダンピング制御コマンドで示されるダンピング方向へは動かないこととなる。
【0011】
この結果、機体の姿勢(現在姿勢)は、
図8(D)に示されるように、舵面の制御ができずに目標姿勢に対し大きくオーバーシュートする。そして、目標姿勢に対してオーバーシュートしてしまうと、レート・ダンピング制御コマンド利かないまま再び目標姿勢に近づく際に、今度は目標姿勢に対してアンダーシュートを起こす。この結果、機体の姿勢が発散する危険性が生じる。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、機体の操縦方式がPAFCS方式であっても、操縦桿に対する操作量が大きすぎるために、機体の姿勢が不安定となることを防止する、航空機及び航空機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の航空機及び航空機の制御方法は以下の手段を採用する。
【0014】
本発明の第一態様に係る航空機は、操縦者が機体を操縦するための操縦桿と、前記操縦桿の中立位置の角度を調整する調整手段と、前記操縦桿に対する操作量を操舵手段へ機械的に伝達する操舵量伝達手段と、前記操作量を検知する検知手段と、前記検知手段によって検知された前記操作量に応じた機体の制御量を算出する制御量算出手段と、前記制御量算出手段によって算出された前記制御量を、前記検知手段から出力された前記操作量で減算する減算手段と、前記操舵量伝達手段で伝達される前記操作量に、前記減算手段から出力された減算値に応じた操作量を加算するアクチュエータと、を具備し、前記制御量算出手段は、機体の姿勢を目標値にするための目標姿勢制御量を、前記検知手段によって検知された前記操作量に基づいて算出する姿勢制御算出手段と、1以下であり、機体に要求する制御量を示した要求制御量が大きいほど減少するゲイン値を生成するゲイン値生成手段と、前記ゲイン値生成手段によって生成された前記ゲイン値を、前記姿勢制御算出手段から出力された前記目標姿勢制御量に乗算する乗算手段と、前記乗算手段によって前記ゲイン値が乗算された前記目標姿勢制御量に、機体を安定させるための安定化制御量を加算して、前記減算手段へ出力する加算手段と、前記ゲイン値が乗算されることによって減少した前記目標姿勢制御量に応じて、前記操縦桿の中立位置の角度を補正するための補正信号を生成し、前記調整手段へ出力する補正信号生成手段と、を備える。
【0015】
本構成によれば、操舵量伝達手段によって、操縦桿に対する操作量が操舵手段へ機械的に伝達される。また、検知手段によって操縦桿に対する操作量が検知され、該操作量に応じた機体の制御量が制御量算出手段によって算出される。制御量算出手段は、検知手段で検知された操作量に基づいて、機体の姿勢を目標値にするための目標姿勢制御量を算出し、目標姿勢制御量に機体を安定させるための安定化制御量を加算して、機体の制御量を算出する。
【0016】
そして、減算手段によって、制御量算出手段で算出された制御量が検知手段で検知された操作量で減算される。すなわち、減算手段から出力された減算値が、アクチュエータへの制御コマンドとなる。
アクチュエータは、操舵量伝達手段で伝達される操作量に、減算手段から出力された減算値(制御コマンド)に応じた操作量を加算する。つまり、本構成による航空機の操縦方式は、操舵量伝達手段で伝達される操作量とアクチュエータによる操作量との和によって、操舵手段を駆動させるPAFC方式である。
【0017】
ここで、従来のPAFC方式では、操縦桿に対する操作量が大きすぎると、制御量算出手段で算出された制御量が大きいため、減算値(制御コマンド)がアクチュエータの作動範囲を超える場合がある。この場合、アクチュエータが一方向へ伸張又は収縮したままとなり、それ以上動作しない状態(飽和状態)となる。なお、操縦桿に対する操作量が大きすぎる場合とは、例えば操縦桿を一方向へ最大にまで傾かせた場合である。特に、機体の姿勢制御において、操縦桿に対する操作量が大きすぎて目標姿勢制御量が過大となり、アクチュエータが飽和状態となると、機体を安定させるため安定化制御量が利かなくなる場合がある。この結果、機体の姿勢が発散する危険性が生じる。
【0018】
そこで、本構成は、ゲイン値生成手段によって、1以下であり、機体に要求する制御量を示した要求制御量が大きいほど減少するゲイン値を生成し、生成したゲイン値を目標姿勢制御量に乗算する。そして、ゲイン値が乗算された目標姿勢制御量と安定化制御量とが加算されて、制御量算出手段で算出される機体の制御量とされる。これにより、要求制御量が大きいほど目標姿勢制御量が小さくなるので、目標姿勢制御量が過大となりアクチュエータが飽和状態となることが抑制され、安定化制御量が利く余地が生まれる。
【0019】
さらに、目標姿勢制御量は、ゲイン値が乗算されることにより必要とする値よりも減少する。そのため、補正信号生成手段によって、ゲイン値が乗算されることによって減少した目標姿勢制御量に応じて、操縦桿の中立位置の角度を補正する補正信号が生成され、操縦桿の中立位置の角度を調整する調整手段へ入力される。
【0020】
ここで、操縦桿の中立位置は、例えば垂直とされている。操縦桿は、機体の操作のために傾かせられた場合に、操縦桿の付け根に接続されているバネが生じさせる付勢力の作用により反力が与えられ、中立位置へ戻るように構成されている。調整手段は、上記バネの中心位置をずらすことにより、操縦桿の中立位置の角度、換言すると、操縦桿に与える反力中心を調整する。調整手段による調整によって、操縦桿に作用する反力中心が、機体を目標姿勢へ向かわせる側へシフトする。これにより、操縦者による機体の操作が、機体が目標姿勢へ向かうように促されることとなる。
【0021】
以上のように、目標姿勢制御量が過大となっても、安定化制御量が利く余地が生まれ、かつ減少した目標姿勢制御量に応じた操作量が、操縦桿に対する操縦反力という形で操縦者に促される。従って、本構成は、操縦桿に対する操作量が大きすぎるために、機体の姿勢が不安定となることを防止することができる。
【0022】
上記第一態様では、前記ゲイン値生成手段が、前記要求制御量として、前記検知手段によって検知された前記操作量を用いることが好ましい。
【0023】
本構成によれば、操縦桿に対する操作量を要求制御量としてゲイン値を生成するので、簡易に適切なゲイン値を生成することができる。
【0024】
上記第一態様では、前記ゲイン値生成手段が、前記要求制御量として、機体の現在の姿勢と目標姿勢との偏差を用いることが好ましい。
【0025】
本構成によれば、機体の現在の姿勢と目標姿勢との偏差を要求制御量としてゲイン値を生成するので、簡易に適切なゲイン値を生成することができる。
【0026】
上記第一態様では、前記ゲイン値生成手段が、前記要求制御量が所定値以下の場合、前記ゲイン値として1を生成し、前記要求制御量が該所定値を超える場合、前記要求制御量の大きさに応じて1未満で減少する前記ゲイン値を生成することが好ましい。
【0027】
本構成によれば、要求制御量が該所定値を超える場合に、ゲイン値が要求制御量の大きさに応じて1未満で減少するので、要求制御量が大きい場合にのみ、目標姿勢制御量を減少させ、機体を安定させるための安定化制御量を利かせることができる。
【0028】
本発明の第二態様に係る航空機の制御方法は、操縦者が機体を操縦するための操縦桿と、前記操縦桿の中立位置の角度を調整する調整手段と、前記操縦桿に対する操作量を操舵手段へ機械的に伝達する操舵量伝達手段と、前記操作量を検知する検知手段と、前記検知手段によって検知された前記操作量に応じた機体の制御量を算出する制御量算出手段と、前記制御量算出手段によって算出された前記制御量を、前記検知手段から出力された前記操作量で減算する減算手段と、前記操舵量伝達手段で伝達される前記操作量に、前記減算手段から出力された減算値に応じた操作量を加算するアクチュエータと、を具備した航空機の制御方法であって、機体の姿勢を目標値にするための目標姿勢制御量を、前記検知手段によって検知された前記操作量に基づいて算出する第1工程と、1以下であり、機体に要求する制御量を示した要求制御量が大きいほど減少するゲイン値を生成する第2工程と、生成した前記ゲイン値を、前記姿勢制御算出手段から出力された前記目標姿勢制御量に乗算する第3工程と、前記ゲイン値を乗算した前記目標姿勢制御量に、機体を安定させるための安定化制御量を加算して、前記減算手段へ出力する第4工程と、前記ゲイン値が乗算されることによって減少した前記目標姿勢制御量に応じて、前記操縦桿の中立位置の角度を補正するための補正信号を生成し、前記調整手段へ出力する第5工程と、を含む。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、機体の操縦方式がPAFCS方式であっても、操縦桿に対する操作量が大きすぎるために、機体の姿勢が不安定となることを防止できる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係る航空機及び航空機の制御方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0032】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
【0033】
図1は、本第1実施形態に係る航空機10の制御に関する構成を示すブロック図である。なお、一例として、本第1実施形態に係る航空機10をヘリコプタとする。また、本第1実施形態に係る航空機10は、操縦方式がPAFCS方式である。
【0034】
図1に示されるように、航空機10は、操縦者が機体を操縦するための操縦桿12に対する操作量を、舵面14を有する操舵機構16へ機械的に伝達する機械的リンケージ18を備える。機械的リンケージ18は、一端に操縦桿12が接続され他端に操舵機構16を駆動させるSASアクチュエータ20が接続されている。
【0035】
また、操縦桿12には、操縦桿12の中立位置の角度を調整する調整機構21が設けられている。
【0036】
ここで、操縦桿12の中立位置は、例えば垂直とされている。操縦桿12は、機体の操作のために傾かせられた場合に、操縦桿12の付け根に接続されているバネ21Aが生じさせる付勢力の作用により反力が与えられ、中立位置へ戻るように構成されている。調整機構21は、不図示のアクチュエータでバネ21Aの中心位置をずらすことにより、操縦桿12の中立位置の角度、換言すると、操縦桿12に与える反力中心を調整する。
【0037】
さらに、航空機10は、操縦桿12に対する操作量(以下、「操縦桿操作量」という。)を検知する操作量センサ22、操作量センサ22によって検知された操縦桿操作量に応じた機体の制御量(以下、「FBW制御則コマンド」という。)を算出するFBW制御則算出部24を備える。
【0038】
FBW制御則演算部24は、目標値演算部30及びコマンド演算部32を備えている。
目標値演算部30は、操作量センサ22で検知された操縦桿操作量に基づいて、機体の各種回転角速度の目標値を示す目標レート量、及び機体の姿勢の目標値を示す目標姿勢量を算出する。コマンド演算部32は、目標レート量及び目標姿勢量、並びに各種センサで検知されたレート信号や姿勢信号等のセンサ信号に基づいて、FBW制御則コマンドを算出する。また、コマンド演算部32は、操縦桿12に与える反力中心を補正する反力中心補正値を算出し、調整機構21へ出力する。
【0039】
操作量センサ22によって検知された操縦桿操作量は、操作量相殺ライン28を伝送され減算部26へ入力され、FBW制御則コマンドも減算部26へ入力される。
【0040】
そして、減算部26は、FBW制御則コマンドから操作量相殺ライン28を伝送された操縦桿操作量を減算する。減算部26による減算値は、SASアクチュエータ20を制御するためのSASコマンドとして出力され、SASアクチュエータ20へ入力される。
【0041】
SASアクチュエータ20は、機械的リンケージ18で伝達された操縦桿12に対する操作量と減算部26から出力されたSASコマンドとを加算した値に基づいて、操舵機構16を駆動させる。
【0042】
図2は、第1実施形態に係るFBW制御則演算部24の機能を示した機能ブロック図である。
FBW制御則演算部24は、レート・ダンピング制御コマンド演算部40、目標姿勢制御コマンド演算部42、及びゲイン値生成部44を備える。
【0043】
レート・ダンピング制御コマンド演算部40は、機体を安定させるためのレート・ダンピング制御コマンドを、操縦桿操作量に基づいて算出する。
具体的には、減算部46によって、検知されたレート信号が目標値演算部30から出力された目標レート量で減算され、レート偏差量が算出される。そして、レート・ダンピング制御コマンド演算部40にレート偏差量が入力される。レート・ダンピング制御コマンド演算部40は、レート偏差量に基づいてレート・ダンピング制御コマンドを算出し、加算部48へ出力する。
【0044】
目標姿勢制御コマンド演算部42は、機体の姿勢を目標値にするための目標姿勢制御コマンドを、操縦桿操作量に基づいて算出する。
具体的には、減算部50によって、検知された姿勢信号が目標値演算部30から出力された目標姿勢量で減算され、姿勢偏差量が算出される。そして、目標姿勢制御コマンド演算部42に姿勢偏差量が入力される。目標姿勢制御コマンド演算部42は、姿勢偏差量に基づいて姿勢制御コマンドを算出し、乗算部52へ出力する。
【0045】
ゲイン値生成部44は、1以下であり、機体に要求する制御量を示した要求制御量が大きいほど減少するゲイン値を生成し、生成したゲイン値を乗算部52へ出力する。なお、本第1実施形態では、要求制御量として操縦桿操作量を用いる。
【0046】
図3は、本第1実施形態に係るゲイン値の変化を示したグラフである。
ゲイン値生成部44は、操縦桿操作量が所定値以下の場合、ゲイン値として1を生成し、操縦桿操作量が該所定値を超える場合、操縦桿操作量の大きさに応じて1未満で減少するゲイン値を生成する。なお、所定値は、任意の値として予め定められている。ゲイン値の最小値は0(零)である。また、本第1実施形態に係るゲイン値生成部44は、操縦桿操作量が該所定値を超える場合、操縦桿操作量の大きさに応じてゲイン値を直線的に減少させているが、これに限らず、ゲイン値を曲線的又は段階的に減少させてもよい。
【0047】
乗算部52は、ゲイン値生成部44によって生成されたゲイン値を、目標姿勢制御コマンド演算部42から出力された目標姿勢制御コマンドに乗算し加算部48へ出力する。
【0048】
加算部48は、乗算部52によってゲイン値が乗算された目標姿勢制御コマンドに、レート・ダンピング制御コマンドを加算してFBW制御則コマンドとし、減算部26へ出力する。
【0049】
さらに、本第1実施形態に係るコマンド演算部32は、目標姿勢制御コマンドから乗算部52によってゲイン値が乗算された目標姿勢制御コマンドを減算する減算部54を備える。減算部54から出力される値は、ゲイン値が乗算されることによって減少した目標姿勢制御コマンドの値であり、反力中心補正値として調整機構21へ出力される。
【0050】
具体的には、調整機構21は、不図示のアクチュエータによってバネ21Aの中心位置を反力中心補正値に基づいて調整することにより、操縦桿12の中立位置の角度(反力中心)を変え、操縦桿12に作用する反力中心を機体が目標姿勢へ向かう側へシフトさせる。これにより、操縦者による機体の操作が、機体が目標姿勢へ向かうように促されることとなる。
【0051】
次に、本第1実施形態に係る航空機10の制御方法について説明する。
【0052】
まず、従来のPAFCS方式の操縦方式を採用している航空機では、機体の姿勢制御において、操縦桿12に対する操作量が大きすぎて、機体の姿勢を目標値にするために生成される目標姿勢制御コマンドが過大となり、SASアクチュエータの作動範囲を超える場合がある。このような場合には、SASアクチュエータが飽和状態となり、舵面14の制御ができずに機体の姿勢が目標姿勢に対し大きくオーバーシュートする。この場合、SASアクチュエータが飽和状態にあるため、機体を安定させるためのレート・ダンピング制御コマンドが利かなくなる。そして、目標姿勢に対してオーバーシュートしてしまうと、レート・ダンピング制御コマンド利かないまま再び目標姿勢に近づく際に、今度は目標姿勢に対してアンダーシュートを起こす場合がある。この結果、機体の姿勢が発散する危険性が生じる。
【0053】
一方、本第1実施形態に係る航空機10では、ゲイン値生成部44によって、1以下であり、操縦桿操作量が大きいほど減少するゲイン値を生成し、生成したゲイン値を目標姿勢制御コマンドに乗算する。そして、ゲイン値が乗算された目標姿勢制御コマンドとレート・ダンピング制御コマンドとが加算されて、FBW制御則コマンドとされる。これにより、操縦桿操作量が大きいほど目標姿勢制御コマンドが小さくなるので、目標姿勢制御コマンドが過大となりSASアクチュエータ20が飽和状態となることが抑制され、レート・ダンピング制御コマンドが利く余地が生まれる。
【0054】
図4を参照して、本第1実施形態に係る航空機10の制御方法をより具体的に説明する。
図4は、本第1実施形態に係る各コマンドの変化及び機体の姿勢を示したグラフである。
【0055】
図4(A)は、レート・ダンピング制御コマンドの時間変化を示している。一般的に、レート・ダンピング制御コマンドは、目標姿勢制御コマンドよりも出力の継続時間は短い。
【0056】
図4(B)は、目標姿勢制御コマンドの時間変化を示している。
図4(A)において一点鎖線は、ゲイン値が乗算される前の目標姿勢制御コマンドを示している。一方、実線は、ゲイン値が乗算された後の目標姿勢制御コマンドを示している。このように、操縦桿操作量が所定値を超えると、目標姿勢制御コマンドの値は、操縦桿操作量の大きさに応じて0(零)にまで減少されることとなる。
【0057】
図4(C)は、FBW制御則コマンドの時間変化を示している。実線で示されるFBW制御則コマンドは、目標姿勢制御コマンドとレート・ダンピング制御コマンドとの和となる。しかし、目標姿勢制御コマンドは、操縦桿操作量に応じたゲイン値で乗算されているので、FBW制御則コマンドは、SASアクチュエータの作動範囲(SASオーソリティ)を超えることが抑制され、これに伴いSASアクチュエータ20が飽和状態となることが抑制される。そして、操縦桿操作量が大きい間は、レート・ダンピング制御コマンドが目標姿勢制御コマンドよりも利く状態となるので、レート・ダンピング制御コマンドによって舵面が制御されることとなり機体の安定性が向上する。
【0058】
また、目標姿勢制御コマンドは、操縦桿操作量に応じたゲイン値が乗算されることにより必要とする値よりも減少している。そのため、本第1実施形態に係る航空機10では、上述したように、反力中心補正値が調整機構21へ入力される。
反力中心補正値は、目標姿勢制御コマンドと乗算部52によってゲイン値が乗算された目標姿勢制御コマンドとの偏差であり、この偏差は、減少された目標姿勢制御コマンドであり、本来、機体の姿勢制御に必要な制御量である。そこで、調整機構21は、この偏差に応じた操作を、操縦者に促すように反力中心補正値に基づいて操縦桿12に与える反力中心を変える。
【0059】
これにより、レート・ダンピング制御コマンドが利く状態で、反力中心が変えられた操縦桿12に対する操作によって、
図4(D)に示されるように、アンダーシュートが抑制されつつ、目標姿勢へ姿勢が制御されることとなる。
【0060】
以上説明したように、本第1実施形態に係る航空機10は、目標姿勢制御コマンドを操縦桿操作量に基づいて算出する目標姿勢制御コマンド演算部42と、1以下であり、要求制御量として操縦桿操作量が大きいほど減少するゲイン値を生成するゲイン値生成部44と、ゲイン値を目標姿勢制御コマンドに乗算する乗算部52と、ゲイン値が乗算された目標姿勢制御コマンドに、レート・ダンピング制御コマンドを加算して、SASコマンドを算出するための減算部26へ出力する加算部48を備える。さらに、航空機10は、ゲイン値が乗算されることによって減少した目標姿勢制御コマンドに応じて、操縦桿12の中立位置の角度を補正する補正信号を生成し、操縦桿12の中立位置の角度を調整する調整機構21へ出力する減算部54を備える。
【0061】
このように本第1実施形態に係る航空機10は、目標姿勢制御コマンドが過大となっても、レート・ダンピング制御コマンドが利く余地が生まれ、かつ減少した目標姿勢制御コマンドに応じた操作量が操縦桿12に対する操縦反力という形で操縦者に促される。従って、本第1実施形態に係る航空機10は、操縦桿12に対する操作量が大きすぎるために、機体の姿勢が不安定となることを防止することができる。
【0062】
また、本第1実施形態に係る航空機10は、操縦桿操作量を要求制御量としてゲイン値を生成するので、簡易に適切なゲイン値を生成することができる。
【0063】
また、本第1実施形態に係るゲイン値生成部44は、操縦桿操作量が所定値以下の場合、ゲイン値として1を生成し、操縦桿操作量が該所定値を超える場合、操縦桿操作量の大きさに応じて1未満で減少するゲイン値を生成する。従って、本第1実施形態に係る航空機10は、操縦桿操作量が大きい場合にのみ、目標姿勢制御コマンドを減少させ、機体を安定させるためのレート・ダンピング制御コマンドを利かせることができる。
【0064】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
【0065】
なお、本第2実施形態に係る航空機10の制御に関する構成は、
図1に示す第1実施形態に係る航空機10の制御に関する構成と同様であるので説明を省略する。
【0066】
図5は、本第2実施形態に係るFBW制御則演算部24の機能を示した機能ブロック図を示す。なお、
図5における
図2と同一の構成部分については
図2と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0067】
本第2実施形態に係るゲイン値生成部44では、要求制御量として姿勢偏差量を用いる。すなわち、本第2実施形態に係るゲイン値生成部44は、1以下であり、姿勢偏差量が大きいほど減少するゲイン値を生成し、生成したゲイン値を乗算部52へ出力する。
【0068】
図6は、本第2実施形態に係るゲイン値の変化を示したグラフである。
ゲイン値生成部44は、姿勢偏差量が所定値以下の場合、ゲイン値として1を生成し、姿勢偏差量が該所定値を超える場合、姿勢偏差量の大きさに応じて1未満で減少するゲイン値を生成する。なお、所定値は、任意の値として予め定められている。ゲイン値の最小値は0(零)である。また、本第1実施形態に係るゲイン値生成部44は、姿勢偏差量が該所定値を超える場合、姿勢偏差量の大きさに応じてゲイン値を直線的に減少させているが、これに限らず、ゲイン値を曲線的又は段階的に減少させてもよい。
【0069】
図7を参照して、本第2実施形態に係る航空機10の制御方法をより具体的に説明する。
図7は、本第2実施形態に係る各コマンドの変化及び機体の姿勢を示したグラフである。
【0070】
図7(A)は、レート・ダンピング制御コマンドの時間変化を示している。
【0071】
図7(B)は、目標姿勢制御コマンドの時間変化を示している。
図7(A)において一点鎖線は、ゲイン値が乗算される前の目標姿勢制御コマンドを示している。一方、実線は、ゲイン値が乗算された後の目標姿勢制御コマンドを示している。このように、姿勢偏差量が所定値を超えると、目標姿勢制御コマンドの値は、姿勢偏差量の大きさに応じて0(零)にまで減少されることとなる。そして、姿勢偏差量が小さくなると、目標生成制御コマンドの値は再び上昇することとなる。
【0072】
図7(C)は、FBW制御則コマンドの時間変化を実線で示している。目標姿勢制御コマンドは、姿勢偏差量に応じたゲイン値で乗算されているので、FBW制御則コマンドは、SASアクチュエータの作動範囲(SASオーソリティ)を超えることが抑制され、これに伴いSASアクチュエータ20が飽和状態となることが抑制される。そして、姿勢偏差量が大きい間は、レート・ダンピング制御コマンドが目標姿勢制御コマンドよりも利く状態となるので、レート・ダンピング制御コマンドによって舵面が制御されることとなり機体の安定性が向上する。
【0073】
また、目標姿勢制御コマンドは、姿勢偏差量に応じたゲイン値が乗算されることにより必要とする値よりも減少している。そのため、本第1実施形態に係る航空機10では、上述したように、反力中心補正値が調整機構21へ入力される。調整機構21は、反力中心補正値に基づいて操縦桿12に与える反力中心を変える。
【0074】
これにより、レート・ダンピング制御コマンドが減衰すると、反力中心が変えられた操縦桿12に対する操作によって、
図7(D)に示されるように、アンダーシュートが抑制されつつ、目標姿勢へ姿勢が制御されることとなる。
【0075】
以上説明したように、本第2実施形態に係る航空機10は、姿勢偏差量を要求制御量としてゲイン値を生成するので、簡易に適切なゲイン値を生成することができる。
【0076】
また、本第2実施形態に係るゲイン値生成部44は、姿勢偏差量が所定値を超える場合に、ゲイン値を姿勢偏差量の大きさに応じて1未満で減少させる。従って、本第2実施形態に係る航空機10は、姿勢偏差量が大きい場合にのみ、目標姿勢制御コマンドを減少させ、機体を安定させるためのレート・ダンピング制御コマンドを利かせることができる。
【0077】
以上、本発明を、上記各実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記各実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記各実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0078】
例えば、上記各実施形態では、要求制御量として操縦桿操作量又は姿勢偏差量を用いる形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、要求制御量として他の値を用いてもよい。
【0079】
また、上記各実施形態では、機体を安定させるために目標姿勢制御コマンドに加算するコマンドをレート・ダンピング制御コマンドする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、機体を安定させるためのコマンドとして他のコマンドを用いてもよい。他のコマンドとしては、例えば、レート信号が用いられることなく、航空機10に対する風力に応じて算出されるコマンド等である。
【0080】
また、上記各実施形態では、FBW制御則コマンドをレート・ダンピング制御コマンドと目標姿勢制御コマンドの和とする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、FBW制御則コマンドをレート・ダンピング制御コマンドと目標姿勢制御コマンドに加えて、更に他の制御コマンドとの和とする形態としてもよい。