特許第5791495号(P5791495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791495
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】水陸両用車両の冷却装置
(51)【国際特許分類】
   B60F 3/00 20060101AFI20150917BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   B60F3/00 A
   B60K11/04 H
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-287857(P2011-287857)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136290(P2013-136290A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230111796
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 忠敬
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(72)【発明者】
【氏名】青木 泰道
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 進一
(72)【発明者】
【氏名】池田 孝
(72)【発明者】
【氏名】松永 高志
【審査官】 川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−269764(JP,A)
【文献】 特表2004−515396(JP,A)
【文献】 実開平07−038625(JP,U)
【文献】 実開平6−42562(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60F 3/00
B60K 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータに走行風を取り込んでエンジン冷却液の熱交換を促進する冷却ファンと、
前記冷却ファンを駆動する電動モータと、
車両と地面又は水底との距離を検出する距離センサと、
前記距離センサからの検出信号に基づいて車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断した際に、前記冷却ファンの駆動力が増大するように前記電動モータを駆動制御する制御手段とを備え、
平坦路を走行する場合は、前記制御手段が、距離センサの受信時間の最低値を検出し、その後、変化する受信時間の時間微分がしきい値以上になったら、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断し、
不整地を走行する場合は、前記制御手段が、距離センサの受信時間の最低値を検出し、その後、変化する受信時間の時間積分がしきい値以上になったら、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断する
ことを特徴とする水陸両用車両の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水陸両用車両の冷却装置に係り、一層詳細には、陸上走行モードから水上航行モードに移行する際におけるエンジンの冷却ファン駆動力の応答遅れを低減する水陸両用車両の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水陸両用車両はレジャー目的を主としたものであったが、震災時などに孤立した地域へ水上航行を経由して上陸する必要性も高まり、それを可能とする水陸両用車両が強く希求されている。つまり、走行(航行)条件を問わず、常に安全に走行(航行)することができる水陸両用車両が必要とされるのである。
【0003】
ところで、水陸両用車両においては、陸上走行モードから水上航行モードに移行する際に、水上航行時では陸上走行時に比べ車体(船体)の抵抗や水上推進装置(スクリュー等)への動力損失等で低速となり、走行風が十分に得られにくいため空気冷却によるエンジンの冷却効果が弱いという問題が生じる。
【0004】
そこで、特許文献1では、図6に示すように、エンジン100が設けられた機関室(エンジンルーム)101内に、ガスの発生を検知するガスセンサ102と機関室101内の温度を検知する温度センサ103を設置して、機関室101内のガス濃度が設定ガス濃度になり、又は機関室101内の温度が設定温度になると、その各々のセンサ102,103が検知信号をコントローラ104に出力して電動の冷却ファン105を作動させるようにした水陸両用車両の機関室排気装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−84123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された水陸両用車両の機関室排気装置にあっては、図7に示すように、例えば機関室101の温度が上がったことを検知してはじめて冷却ファン105の駆動力を増加し(図中(c)点参照)、実際に冷却ファン105の駆動力が増加してから機関室101の温度が低減し始める(図中(d)点参照)ので、応答遅れが生じるという問題点があった。これは、温度センサ103が水陸両用車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを直接的に判定する手段ではないことに起因する。
【0007】
そこで、本発明は、陸上走行モードから水上航行モードに移行する際におけるエンジンの冷却ファン駆動力の応答遅れを低減することができる水陸両用車両の冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる目的を達成するための本発明に係る水陸両用車両の冷却装置は、
ラジエータに走行風を取り込んでエンジン冷却液の熱交換を促進する冷却ファンと、
前記冷却ファンを駆動する電動モータと、
車両と地面又は水底との距離を検出する距離センサと、
前記距離センサからの検出信号に基づいて車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断した際に、前記冷却ファンの駆動力が増大するように前記電動モータを駆動制御する制御手段とを備え、
平坦路を走行する場合は、前記制御手段が、距離センサの受信時間の最低値を検出し、その後、変化する受信時間の時間微分がしきい値以上になったら、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断し、
不整地を走行する場合は、前記制御手段が、距離センサの受信時間の最低値を検出し、その後、変化する受信時間の時間積分がしきい値以上になったら、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る水陸両用車両の冷却装置によれば、地形の変化やエンジン出力の増大を検知して冷却ファンの駆動力を増大させるため、陸上走行モードから水上航行モードへの移行状態を直接的に判定して冷却ファンの駆動力増大を図れるので、当該時におけるエンジンの冷却ファン駆動力の応答遅れを低減することができ、水中航行時に十分な冷却効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明の実施例1を示す水陸両用車両の陸上走行時の模式的な側面図である。
図1B】同じく水陸両用車両の水上航行時の模式的な側面図である。
図2】同じく冷却ファン駆動力と地面又は水底との距離の相関図である。
図3】同じく車両運行状態に応じた冷却ファン駆動力と受信時間の相関図である。
図4A】本発明の実施例2を示す水陸両用車両の陸上走行時の模式的な側面図である。
図4B】同じく水陸両用車両の水上航行時の模式的な側面図である。
図5】同じく冷却ファン駆動力とエンジン出力との相関図である。
図6】従来の水陸両用車両の機関室排気装置の概略構成図である。
図7】同じく冷却ファン駆動力と機関室温度との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る水陸両用車両の冷却装置を実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1Aは本発明の実施例1を示す水陸両用車両の陸上走行時の模式的な側面図、図1Bは同じく水陸両用車両の水上航行時の模式的な側面図、図2は同じく冷却ファン駆動力と地面又は水底との距離の相関図、図3は同じく車両運行状態に応じた冷却ファン駆動力と受信時間の相関図である。
【0017】
図1A及び図1Bに示すように、本実施例の水陸両用車両は、エンジン10からの駆動力が図示しない動力伝達手段を介して伝達される陸上走行手段としての3軸からなる車輪11と、エンジン10からの駆動力が図示しない動力伝達手段を介して車輪11側から切り換えて伝達される水上航行手段としての図示しない水上推進装置(スクリュー等)とを備える。尚、水上航行手段として、前記水上推進装置(スクリュー等)に代えて、車輪11(厳密にはホイール)の側面に水掻きを付設しても良い。更に、軸数は、図1A及び図1Bでは3軸を例に記載するが、特に規定しないものとする。
【0018】
また、エンジン10の前方にはエンジン10の冷却液を外気(走行風)で冷却するラジエータ12が設けられると共に、このラジエータ12の直後方にはラジエータ12に走行風を取り込んでエンジン冷却液の熱交換を促進する冷却ファン13が設置される。この冷却ファン13は電動モータ14で駆動される。
【0019】
また、車体底部(車両)には、地面又は水底との距離を検出する超音波センサ(距離センサ)15が設置され、この超音波センサ15の検出信号は電子制御ユニット(ECU:制御手段)16に入力される。
【0020】
前記電子制御ユニット16は、超音波センサ15からの検出信号に基づいて車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断した際に、図2に示すように、前記冷却ファン13の駆動力が増大するように電動モータ14を駆動制御するようになっている。
【0021】
具体的には、図3に示すように、電子制御ユニット16は、(1)の陸上走行モードから移行した(2)の水上航行モード初期(2)で、超音波センサ15の受信時間Tの最低値(minT)を検出し(図3の(a)点参照)、その後、(3)の水上航行モード中期に移行する過渡期(図3の(b)領域参照)において、変化する受信時間Tの時間微分(傾き:dT/dt)がしきい値以上になったら、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断するものである。尚、しきい値は、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行する際の検証値である。
【0022】
尚、この際、車体底から地面又は水底までの距離の設定によっては、陸上走行モードで不整地走行する場合においても同じ条件が成立する場合がある。従って前記判断方法は平坦路のみを走行する水陸両用車両に限って適用すると好適である。
【0023】
そして、水陸両用車両が不整地を走行する場合は、電子制御ユニット16は、(1)の陸上走行モードから移行した(2)の水上航行モード初期で、超音波センサ15の受信時間Tの最低値(minT)を検出し(図3の(a)点参照)、その後、(3)の水上航行モード中期に移行する過渡期(図3の(b)領域参照)において、変化する受信時間Tの時間積分(傾きの和:ΣdT/dt)がしきい値以上になったら、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断するのである。尚、水上航行モード初期(2)で受信時間Tが最低値(minT)になる理由は、車体底からの距離は変わらずに、即ち、音波が往復する距離は変わらずに、陸上走行モード(1)での音速に対して、水上航行モード初期(2)での音速が速くなるためである。また、しきい値は、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行する際の検証値である。
【0024】
このようにして本実施例によれば、地形の変化を検知して冷却ファン13の駆動力を増大させるため、陸上走行モードから水上航行モードへの移行状態を直接的に判定して冷却ファン13の駆動力増大を図れるので、当該時におけるエンジン10の冷却ファン駆動力の応答遅れを低減することができ、水中航行時に十分な冷却効果が得られる。
【0025】
また、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断するにあたって、前述した判断方法に、例えば水面着水時の水圧変化で喫水を検知する方法を組み合わせても良い。また、水上航行モードと判断した後も車両と水底との間の距離を継続的に検出し、陸上走行モードであると判断した際に冷却ファン駆動力を陸上走行モードに戻してよい。これにより、冷却ファン駆動力を必要に応じて増減させることにより、冷却ファン駆動に要するエネルギーを不必要に消費することを防ぐことができる。
【実施例2】
【0026】
図4Aは本発明の実施例2を示す水陸両用車両の陸上走行時の模式的な側面図、図4Bは同じく水陸両用車両の水上航行時の模式的な側面図、図5は同じく冷却ファン駆動力とエンジン出力との相関図である。
【0027】
これは、水上航行で高速航行を要求される車両の場合には、陸上走行時に比べて、水上航行時での要求出力が高くなるため、陸上走行モードから水上航行モードへの移行状態をエンジン出力の変化により直接的に判定しようとするものである。
【0028】
即ち、図4A図4B及び図5に示すように、電子制御ユニット16は、エンジン出力検出手段としての燃料噴射量とエンジン回転数によるエンジン出力マップからエンジン10の出力増大を検出することにより、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことを判断し、冷却ファン13の駆動力が増大するように電動モータ14を駆動制御するのである。その他の構成は実施例1と同様なので、図面において同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0029】
尚、本実施例においても、エンジン10の出力増大を検出することに加え、例えば運転者のモード切替スイッチの切替操作に連動させるとか、稼働気筒数の変化やスロットル開度検出等の各種パラメータとの組み合わせで、車両が陸上走行モードから水上航行モードに移行したことをさらに確実に判断するようにしても良い。
【0030】
これによれば、実施例1と同様の作用・効果に加えて、既設の各種センサを有効に用いることができるという利点が得られる。
【0031】
尚、本発明は上記各実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、水上航行手段や距離センサの変更等各種変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る水陸両用車両は、レジャー用に限らず、不整地走行を余儀なくされる災害救助用に適用して有効である。
【符号の説明】
【0033】
10 エンジン
11 車輪
12 ラジエータ
13 冷却ファン
14 電動モータ
15 超音波センサ
16 電子制御ユニット
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7