特許第5791507号(P5791507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791507
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/25 20060101AFI20150917BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   A61K8/25
   A61Q11/00
【請求項の数】12
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2011-536175(P2011-536175)
(86)(22)【出願日】2010年10月14日
(86)【国際出願番号】JP2010068070
(87)【国際公開番号】WO2011046179
(87)【国際公開日】20110421
【審査請求日】2013年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2009-237785(P2009-237785)
(32)【優先日】2009年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-99954(P2010-99954)
(32)【優先日】2010年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 広志
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−509897(JP,A)
【文献】 特開2001−003034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/25
A61Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融シリカを〜4.5質量%、及び沈降シリカを1522質量%含有する口腔用組成物。
【請求項2】
溶融シリカのBET比表面積が10(m2/g)以下である、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
溶融シリカの吸油量が20(mL/100g)以下である、請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
溶融シリカ及び沈降シリカを合わせて1726.5質量%含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項5】
口腔用組成物に含有される沈降シリカ及び溶融シリカの質量比(沈降シリカ/溶融シリカ)が2.5〜11である、請求項1〜4のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項6】
歯牙に付着したステイン除去用である、請求項1〜5のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項7】
溶融シリカが、60μmより大きい粒径を有する粒子が実質的に除去された溶融シリカである、請求項1〜6のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項8】
溶融シリカが、目開き60μmメッシュで篩過された溶融シリカである、請求項1〜6のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項9】
RDA値が90〜140である、請求項1〜8のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項10】
異なる平均粒子径を有する2種又はそれ以上の溶融シリカを含有する、請求項1〜9のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項11】
平均粒子径が0.1〜10μmの溶融シリカ、及び平均粒子径が10μmより大きく45μm以下の溶融シリカを含有する、請求項10に記載の口腔用組成物。
【請求項12】
平均粒子径0.1〜10μmの溶融シリカ質量が、全溶融シリカ質量の10〜90%である、請求項10又は11に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は口腔用組成物に関し、より詳細には、溶融シリカ及び歯牙研磨剤を含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙の着色は、ステインと呼ばれる色素沈着物が歯牙へ沈着することで生じ、これは審美上の大きな問題となる。ステインを除去するための手段としては、歯牙研磨剤が配合された歯磨組成物等の口腔用組成物を歯ブラシなどの用具を介して口に含み、歯牙を刷掃するという方法が一般的である。主に研磨によりステインが除去されるため、高い研磨力を有する歯牙研磨剤を用いるほど、高いステイン除去効果があると考えられている。この観点からは、硬い歯牙研磨剤ほどステイン除去のために好ましいことになる。硬い歯牙研磨剤ほど、歯牙表面を物理的に研磨する力が強く、ステイン除去効果が高いと考えられるからである。
【0003】
しかし、高い研磨力を有する歯牙研磨剤を配合した口腔用組成物を用いると、歯牙を必要以上に摩耗してしまうおそれがある。歯牙表面が摩耗されると、象牙質が露出してしまい、知覚過敏を引き起こすおそれが生じる。また露出した象牙質は耐酸性が低いため、う蝕を助長することにもなりかねない。例えば、代表的な硬い歯牙研磨剤であるアルミナは、ステイン除去力には優れるが研磨により歯牙も傷つけてしまう。歯牙を傷つけないように様々な工夫がなされてきているが、問題の解消には至っておらず、現在ではアルミナは口腔用組成物にはほとんど配合されなくなっている。
【0004】
このため、適度な研磨力を有しながらもステイン除去力の高い口腔用組成物、すなわち、研磨力に対してステイン除去力の割合が高い(研磨力とステイン除去力のバランスが良好な)口腔用組成物の開発が望まれている。
【0005】
例えば、特許文献1には、歯牙研磨剤として研磨性の異なる2種のシリカ(研磨性の高いシリカ及び研磨性の低いシリカ)を含むことを特徴とする口腔用組成物が、歯を傷つけずにステインを除去するために有用である旨が記載されている。しかしながら、当該口腔用組成物にも研磨性の高いシリカは含有されており、歯牙が傷つくおそれは必ずしも解消していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−238321号公報
【特許文献2】特開2009−1638号公報
【特許文献3】特開昭62−241541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、研磨力に対するステイン除去効率が高い口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、驚くべき事に、溶融シリカを含有する口腔用組成物が、それほど高い研磨力ではないにもかかわらず高いステイン除去力を有すること、すなわち研磨力に対するステイン除去力が高いことを見出した。そして、溶融シリカ及び歯牙研磨剤を含有する口腔用組成物であれば、さらに、研磨力に対するステイン除去力が高いことを見出した。これらの知見を基に、本発明者らは、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
溶融シリカは半導体分野で使用されるシリカであり、例えば半導体封止剤用熱効果樹脂への充填等に主に用いられている(例えば特開2009−1638号公報参照)。しかし、溶融シリカを含有した口腔用組成物は知られていない。また、溶融シリカはシリカ粉末を高温で溶融させて製造されることから、密度が高くなり、非常に硬度が高い。上述の通り、硬い歯牙研磨剤ほど研磨力が高く、このような歯牙研磨剤は歯牙を必要以上に摩耗してしまうおそれがあるため、非常に硬度が高い溶融シリカを含有する口腔用組成物が、それほど高い研磨力ではないにもかかわらず高いステイン除去力を有することは全く意外であった。
【0010】
すなわち、本発明は例えば以下の項に係る口腔用組成物を包含する。
項1.
溶融シリカ及び歯牙研磨剤を含有する口腔用組成物。
項2−1.
溶融シリカを0.25〜8.5質量%含有する、項1に記載の口腔用組成物。
項2−2.
溶融シリカを0.5〜8.5質量%含有する、項1に記載の口腔用組成物。
項3−1.
溶融シリカのBET比表面積が10(m2/g)以下である、項1〜2−2のいずれかに記載の口腔用組成物。
項3−2.
歯牙研磨剤のBET比表面積が20〜1000(m2/g)である、項1〜3−1のいずれかに記載の口腔用組成物。
項4−1.
溶融シリカの吸油量が20(mL/100g)以下である、項1〜3−2のいずれかに記載の口腔用組成物。
項4−2.
歯牙研磨剤の吸油量が20〜400(mL/100g)である、項1〜4−1のいずれかに記載の口腔用組成物。
項5.
歯牙研磨剤が、沈降シリカ、ゲル法シリカ、ヒュームド法シリカ、ジルコノシリケート、ケイ酸アルミニウム、リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム・無水和物、第2リン酸カルシウム・2水和物、第3リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム・無水和物、リン酸水素カルシウム・2水和物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、第3リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、ポリメタクリル酸メチル、ベントナイト、ハイドロキシアパタイト、結晶セルロース、ポリエチレンビーズ、及びポリプロピレンビーズからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜4のいずれかに記載の口腔用組成物。
項6.
歯牙研磨剤が沈降シリカである、項5に記載の口腔用組成物。
項7.
沈降シリカを5〜26質量%、好ましくは7.5〜26質量%含有する、項6に記載の口腔用組成物。
項8.
溶融シリカ及び沈降シリカを合わせて10〜34.5質量%含有する、項6又は7に記載の口腔用組成物。
項9.
口腔用組成物に含有される沈降シリカ及び溶融シリカの質量比(沈降シリカ/溶融シリカ)が2.5〜11である、項6〜8のいずれかに記載の口腔用組成物。
項10−1.
歯牙清掃用である、項1〜9のいずれかに記載の口腔用組成物。
項10−2.
歯牙に付着したステイン除去用である、項1〜9のいずれかに記載の口腔用組成物。
項11.
溶融シリカが、60μmより大きい粒径を有する粒子が実質的に除去された溶融シリカである、項1〜10−2のいずれかに記載の口腔用組成物。
項12.
溶融シリカが、目開き60μmメッシュで篩過された溶融シリカである、項1〜11のいずれかに記載の口腔用組成物。
項13.
RDA値が90〜140である、項1〜12のいずれかに記載の口腔用組成物。
項14.
異なる平均粒子径を有する2種又はそれ以上の溶融シリカを含有する、項1〜13のいずれかに記載の口腔用組成物。
項15.
平均粒子径が0.1〜10μmの溶融シリカ、及び平均粒子径が10μmより大きく45μm以下の溶融シリカを含有する、項14に記載の口腔用組成物。
項16.
平均粒子径0.1〜10μmの溶融シリカ質量が、全溶融シリカ質量の10〜90%である、項14又は15に記載の口腔用組成物。
項17.
歯牙研磨剤のRDA値が20〜200である、項1〜16のいずれかに記載の口腔用組成物。
項18.
溶融シリカ粒子の円形度が0.89以上である、項1〜17のいずれかに記載の口腔用組成物。
また、本発明は、例えば以下の項に記載のステイン除去方法も包含する。
項A−1.
項1〜13のいずれかに記載の口腔用組成物を口腔内に適用する工程を含む、ステインが付着した歯牙からステインを除去する方法。
項A−2.
項1〜13のいずれかに記載の口腔用組成物を用いて歯牙をブラッシングする工程を含む、ステインが付着した歯牙からステインを除去する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の口腔用組成物は、高いステイン除去力を有する一方、研磨力が低い。このため研磨により歯を傷つけるおそれが低い。よって本発明の口腔用組成物を用いることにより、ほとんど歯を傷つけることなくステインを高効率に除去することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の口腔用組成物は、溶融シリカ及び歯牙研磨剤を含有し、歯牙清掃用組成物として用い得る。特に、本発明の口腔用組成物を用いて歯牙をブラッシングすること等により、ステインを高効率に除去することができる。しかも、この際、懸念される研磨による歯牙の損傷は、非常に起こりにくい。
【0014】
溶融シリカは、上述のように半導体分野で用いられており、公知であるか、又は公知の方法で製造することができる。そのようなものを、本発明に用いることができる。溶融シリカは、例えば、二酸化ケイ素粉末原料(例えば珪石粉末)を高温(例えば2000〜3000℃)の火炎により溶融させて得ることができる。また、例えば、シリコンの粉末又は環状シロキサンを高温の火炎により酸化及び溶解させて得ることができる。このように、溶融シリカは、高温処理により製造されるため、不純物が混在するおそれが小さい。また、一度溶融して固まるため、シリカ粒子の密度が高くなり、硬度が高くなる。特に、破砕粉末シリカを原料として、高温火炎を噴射するバーナーと溶射技術を用いて得られる溶射溶融シリカは、本発明の口腔用組成物に含有される溶融シリカとして好ましく用いることができる。溶射溶融シリカは、特に、粒子の大部分が溶融した後、固まって得られるため、硬度が高くなるうえ真球度が高くなるので、下述するように、本発明の口腔用組成物に含有される溶融シリカとして特に好ましい。特に制限されないが、このような溶射溶融シリカは、例えば特開昭62−241541号公報に記載の方法等により好ましく製造され得る。
【0015】
本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカのシリカ粒子は、真球度が高い(真球に近い形をしたもの)ものが好ましい。真球度は、球の輪郭がどの程度真円に近いかを表す「円形度」により評価できる。円形度の算出は次のように行うことができる。(i)まず、円形度を測定したい粒子の画像を撮影し、当該粒子の輪郭をトレースして輪郭長及び面積を算出する。(ii)次に、撮影した粒子の輪郭が占める面積と同じ面積を有する円を描き、当該円の円周長を算出する。このとき、円形度は以下の式で求めることができる。なお、円形度は粒子の輪郭が真円のとき1になり、円形度が1より大きくなることはない。
【0016】
【数1】
【0017】
円形度は、真円度測定機(JIS B7451:1997)を用いて測定できる。粒子を水等の液体に分散し、フローセルを通過させることでリアルタイムに粒子画像を撮影及び解析を行う装置が好ましい。シスメックス社の粒子像解析装置(FPIA-3000)を好ましく用い得る。
【0018】
本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカの粒子は、円形度が好ましくは0.89以上、より好ましくは0.93以上、さらに好ましくは0.95以上である。
【0019】
また、溶融シリカは、公知の歯牙研磨剤(例えば、沈降シリカ、ゲル法シリカ等の湿式シリカ)に比べ、BET比表面積が小さい。本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカは、BET比表面積(m2/g)が通常15以下であり、10以下のものが好ましく、8以下のものがより好ましく、5以下のものがさらに好ましい。シリカのBET比表面積はマックソーブ(Macsorb HM model-1201:株式会社マウンテック製)により測定できる。
【0020】
また、本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカは、吸油量(あまに油吸油量 JISK5101)が少ないものが好ましい。具体的には、吸油量(mL/100g)が通常20以下であり、10以下のものが好ましく、8以下のものがより好ましく、5以下のものがさらに好ましい。
【0021】
BET比表面積が小さいほど、その溶融シリカのシリカ粒子の密度は高く、当該溶融シリカ粒子の硬度は高いと考えられる。また、溶融シリカの吸油量が小さいほど、その溶融シリカのシリカ粒子の密度は高く、当該溶融シリカ粒子の硬度は高いと考えられる。すなわち、溶融シリカのBET比表面積及び吸油量が小さいほど、当該溶融シリカのシリカ粒子の硬度は高いと考えられる。
【0022】
本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカとして、市販の溶融シリカを購入して用いてもよい。例えば、電気化学工業株式会社(デンカ溶融シリカ・FB、FBXとして市販されている)、株式会社マイクロン社(球状シリカとして市販されている)等から購入することができる。
【0023】
硬度が高い溶融シリカを口腔用組成物に配合して口腔内に適用すると、口腔内にジャリジャリした感触を使用者に与えるおそれがある。このような感触を問題にしない使用者も存在するが、このような感触は使用者に対して石や砂が口腔内に入ったかのような不快感を与えるおそれがあるため、好ましくなく、できるだけ低減することが望ましい。
【0024】
この不快感は、例えば、口腔用組成物に配合する溶融シリカ量を減らすこと、及び口腔用組成物に配合する溶融シリカのシリカ粒子の粒径を小さくすること、によって低減することができる。
【0025】
よって、特に制限されないが、本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカは、比較的大きな粒径を有するシリカ粒子が除去されていることが好ましい。当該除去は、例えばメッシュを通過させることにより行うことができる。
【0026】
具体的には、60μmより大きい粒径を有する粒子が実質的に除去された溶融シリカが好ましく、55μmより大きい粒径を有する粒子が実質的に除去された溶融シリカがより好ましい。なお、ここでの「実質的に除去された」とは、全く含まないようにしたという意味ではなく、例えばメッシュ等を使用して除去操作を行い、実質的に含まないようにしたという意味である。
【0027】
言い換えれば、本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカの粒子の粒径は60μm以下が好ましく、55μm以下がより好ましい。これも、例えば、特定の数値の目開きのメッシュ等を用いて除去操作を行い、実質的に特定数値以下の粒径を有するシリカとしたということを意味する。例えば、目開き53μmのメッシュを用いれば、実質的に粒径53μm以下の粒子からなる溶融シリカを得ることができる。本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカは、好ましくは実質的に粒径60μm以下(より好ましくは55μm以下、さらに好ましくは53μm以下、よりさらに好ましくは45μm以下)である。
【0028】
つまり、本願発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカは、好ましくは目開き60μmのメッシュ、より好ましくは目開き55μmのメッシュ、さらに好ましくは目開き53μmのメッシュ、よりさらに好ましくは目開き45μmのメッシュ、により篩過された溶融シリカである。例えば、市販される溶融シリカを特定の目開きのメッシュにより篩過処理して得ることができる。また、市販の溶融シリカは、このような篩過処理済みのものもあり、当該溶融シリカも本発明に好ましく用いることができる。
【0029】
また、本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカは、平均粒子径(50%累積径;d50)が、好ましくは約0.1〜45μm、より好ましくは約1〜20μm、さらに好ましくは約3〜17μmである。大きい粒径を有するシリカ粒子が除去された後の溶融シリカにおいて、平均粒子径(d50)が当該範囲であることが、好ましい。
【0030】
なお、溶融シリカの平均粒子径(d50)は、水を分散液として用いてレーザー回折散乱式測定装置により求めた値であり、LA−920(株式会社堀場製作所製)により測定できる。
【0031】
また、本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカは、RDA(Relative Dentine Abrasivity)値が、好ましくは60〜160、より好ましくは80〜140である。なお、溶融シリカのRDAはISO11609:1995「A.3.6基準研磨剤スラリー」に記載の方法で溶融シリカのスラリーを調製し、これをHefferenらの方法(J. Dent. Res., Vol. 55, No.4,563−573,1976年)により測定したものである。
【0032】
また特に、本発明の口腔用組成物の製造には、平均粒子径の異なる溶融シリカを組み合わせて用いるのが好ましい。つまり、本発明の口腔用組成物に配合される溶融シリカは、平均粒子径の異なる2種(又はそれ以上)の溶融シリカを混合したものが好ましい。平均粒子径の異なる溶融シリカを混合して用いると、さらに高いステイン除去力を有し、かつ研磨力に対するステイン除去力が高い口腔用組成物を得ることができる。
【0033】
例えば、異なる平均粒子径を有する2種の溶融シリカを混合して用いる場合、当該2種の溶融シリカのうち、平均粒子径が小さい方を微粉溶融シリカ、大きい方を粗粉溶融シリカと称するとすると、微粉溶融シリカの平均粒子径は、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.1〜6μm、さらに好ましくは0.2〜3μmであり、粗粉溶融シリカの平均粒子径は、好ましくは10μmより大きく45μm以下、より好ましくは12〜30μm、さらに好ましくは15〜20μmである。また、この場合、微粉溶融シリカの配合量割合は、全溶融シリカを100%とすると、10〜90%であることが好ましく、30〜90%(又は30〜80%)であることがより好ましい。
【0034】
本発明の口腔用組成物に配合される歯牙研磨剤は、公知の歯牙研磨剤である。このような歯牙研磨剤としては、例えば沈降シリカ(特に研磨性沈降シリカ)、ゲル法シリカ、ヒュームド法シリカ、ジルコノシリケート、ケイ酸アルミニウム、リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム・無水和物、第2リン酸カルシウム・2水和物、第3リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム・無水和物、リン酸水素カルシウム・2水和物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、第3リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、ポリメタクリル酸メチル、ベントナイト、ハイドロキシアパタイト、結晶セルロース、合成樹脂(例えばポリエチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ)等が挙げられる。これらのなかでも、特に沈降シリカが好ましい。また、このような歯牙研磨剤は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
これら公知の歯牙研磨剤は溶融シリカに比べてBET比表面積が大きい。本発明の口腔用組成物に配合される歯牙研磨剤は、BET比表面積(m2/g)が通常20〜1000であり、好ましくは20〜400である。また、公知の歯牙研磨剤は溶融シリカに比べて吸油量(あまに油吸油量 JISK5101)が多い。本発明の口腔用組成物に配合される歯牙研磨剤は、当該吸油量(mL/100g)が通常20〜400である。また、本発明の口腔用組成物に配合される歯牙研磨剤は、RDA(Relative Dentine Abrasivity)値が20〜200であることが好ましい。なお、当該歯牙研磨剤のRDAはISO11609:1995「A.3.6基準研磨剤スラリー」に記載の方法で歯牙研磨剤のスラリーを調製し、これをHefferenらの方法(J. Dent. Res., Vol. 55, No.4,563−573,1976年)により測定したものである。
【0036】
本発明の口腔用組成物には、組成物全体に対して、溶融シリカが、好ましくは0.25〜8.5質量%、より好ましくは0.5〜8.5質量%、さらに好ましくは2〜5質量%、よりさらに好ましくは3〜4.5質量%含有される。当該範囲であれば、研磨力及びステイン除去力のバランスの観点から好ましいのみならず、上述の、溶融シリカを用いることで石や砂が口腔内に入ったかのような不快感を与えるおそれが少ないという点でも好ましい。
【0037】
また、本発明の口腔用組成物に配合される歯牙研磨剤量は、歯牙研磨剤の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、組成物全体に対して、歯牙研磨剤は、好ましくは2〜70質量%、より好ましくは5〜60質量%含有される。特に、歯牙研磨剤として沈降シリカを用いる場合は、組成物全体に対して沈降シリカは好ましくは5〜26質量%、より好ましくは7.5〜26質量%、さらに好ましくは7.5〜22質量%、よりさらに好ましくは15〜22質量%、特に好ましくは17〜22質量%含有される。
【0038】
また、歯牙研磨剤として沈降シリカを用いる場合、沈降シリカ及び溶融シリカを合わせて(すなわち合計配合量として)、組成物全体に対して、10〜34.5質量%含有することが好ましく、15〜34.5質量%含有することがより好ましい。さらにまた、歯牙研磨剤として沈降シリカを用いる場合、沈降シリカ及び溶融シリカの配合質量比(沈降シリカ/溶融シリカ)は、2.5〜11であることが好ましく、3〜11であることがより好ましく、4〜8であることがさらに好ましい。
【0039】
溶融シリカ及び歯牙研磨剤を当該範囲で含有する本発明の口腔用組成物は、特に、低い研磨力にもかかわらず高いステイン除去力を有しており、当該口腔用組成物を用いることで、歯牙を必要以上に摩耗することなくステインをより高効率に除去することができる。
【0040】
本発明の溶融シリカ及び歯牙研磨剤を含有する口腔用組成物は、公知の方法により製造することができる。
【0041】
またさらに、本発明の口腔用組成物は、歯牙用、義歯用のいずれにおいても使用でき、常法に従い、ペースト状歯磨剤、粉状歯磨剤、クリーム状歯磨剤、ジェル状歯磨剤、液状歯磨剤、パスタ剤、等の各剤型にすることができる。特にペースト状歯磨剤、粉状歯磨剤、クリーム状歯磨剤、又はジェル状歯磨剤とするのが好ましい。
【0042】
例えば、薬学的又は口腔衛生学的に許容される基材、溶融シリカ、及び歯牙研磨剤(並びに必要に応じてその他の成分)を混合することにより、本発明の口腔用組成物を製造できる。このような基材としては、例えば、水、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ソルビット、キシリット、ラクチット、マンニトール、エタノール等が例示できる。
【0043】
本発明の口腔用組成物には、一般に口腔用組成物に添加されるその他の成分(任意成分)を配合することもできる。
【0044】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、ノニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグリコシド、セバシン酸ジエチル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、N−アシルアミノ酸塩、N−アシルタウリン塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、脂肪酸モノグリセライド硫酸塩、アルキルスルホ酢酸塩等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、N−アシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N−アルキルアミノエチルグリシン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1〜10質量%である。
【0045】
増粘剤として、例えば、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム、トラガカントガム、カラヤガム、アラビアガム、ジェランガム等のガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン等の合成粘結剤、増粘性シリカ、アルミニウムシリカゲル、ビーガム等の無機粘結剤、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、大豆多糖類、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等を配合することができる。これらの増粘剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。増粘剤の通常配合量は0.01〜20質量%である。
【0046】
香味剤として、例えば、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネール、α−テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d−カンフル、d−ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して通常0.01〜1質量%配合することができる。
【0047】
また、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p−メトキシシンナミックアルデヒド等の甘味剤を、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して通常0.01〜1質量%配合することができる。
【0048】
さらに、湿潤剤として、例えば、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3―ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、パラチニット、ポリエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0049】
なお、本発明の口腔用組成物には、薬効成分として、例えば、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン等のカチオン性殺菌剤、酢酸dl−α−トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、ヒノキチオール、硝酸カリウム等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0050】
また、本発明の口腔用組成物を充填する容器も、特に制限はされない。例えば、ガラス製、金属製、プラスチック製、又はラミネートタイプ等の材質の容器を用いることができる。また、容器の形態も特に制限されず、例えば、ボトル容器、カップ容器、パウチ容器、又はチューブ容器等を用いることができる。
【0051】
上述のように、本発明の口腔用組成物であれば、研磨力がそれほど高くないにもかかわらずステインを高効率に除去することができる。研磨力は、具体的にはRDA(Relative Dentine Abrasivity)値で示すことができる。本発明の口腔用組成物の研磨力(RDA値)は好ましくは200以下であり、150以下であることがより好ましい。特に、90〜140であることが好ましく、100〜140であることがより好ましい。なお、RDA値は象牙質に対する研磨性の程度を示す値であり、Hefferenらの方法(J. Dent. Res., Vol. 55, No.4,563−573,1976年)により求めることができる。
【0052】
また、本発明の口腔用組成物のステイン除去力は、Stookyらの方法(J.Dent.Res.,Vol.61, No.11, 1236-1239, 1982)を改変した方法で測定することができる。具体的には、次のようにして、L***値表色系を用いた歯牙表面の色の評価を行うことで、ステイン除去力を測定できる。すなわち、ステイン付着前の歯牙表面のL*値、a*値、b*値(それぞれL0、a0、b0とする)、ステイン付着後の当該歯牙表面のL*値、a*値、b*値(それぞれL1、a1、b1とする)、及びステイン除去後の当該歯牙表面のL*値、a*値、b*値(それぞれL2、a2、b2とする)を計測したときのステイン除去力(ΔE)は、次式で算出することができる。
【0053】
【数2】
【0054】
*値、a*値、b*値の測定は、色差計により行うことができる。測定に用いる歯牙としては、例えば牛歯エナメル質歯片を用いることができる。また、ステイン着色前の歯牙表面を測定する前には、歯片表面を鏡面研磨処理しておくことが好ましい。ステイン着色後の歯牙表面は、L*値(即ちL1)が30以下であることが好ましい。口腔用組成物を用いてステイン除去を行う場合は、当該組成物又はその希釈液(例えば2又は3倍希釈)中に漬し、ブラッシング(例えば歯牙表面を100〜2000往復、好ましくは500〜1500往復の範囲における任意の値を設定して行う)することが好ましい。ブラッシングは、一般的な歯ブラシを設置したBSI準拠のブラッシングマシーンにて行う。
【0055】
より具体的には、実施例に記載する方法でステイン除去力を測定できる。
【0056】
このようにして測定できる本発明の口腔用組成物のステイン除去力は25以上であることが好ましく、27以上であることがより好ましい。
【0057】
なお、L***値表色系は、物体の色を表すのに一般的に用いられる表色系であり、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本国でもJIS(JIS Z8729)において採用されている。
【0058】
本発明の口腔用組成物の当該ステイン除去力と当該研磨力の比(ステイン除去力/研磨力)は、約0.2以上であり、約0.23以上であることが好ましく、0.25以上であることがより好ましい。
【0059】
なお、本発明の口腔用組成物は、ヒトのみならず、歯牙を有する他の動物(特に哺乳類)にも適用することができる。このような動物としては、例えば、ペットや家畜が挙げられ、具体的にはイヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ハムスター、ウサギ等が例示できる。
【0060】
本発明は、上記の口腔用組成物を口腔内に適用し、歯牙のステインを除去する方法も包含する。口腔内への適用方法は口腔用組成物の形態、剤形等に応じて適宜選択すればよい。例えば、口腔用組成物が液状(例えば液体歯磨、洗口液等)の場合は、口腔内に口腔用組成物を含み、口をすすぐ(クチュクチュする)という方法が例示できる。また、例えば、(特に固体状又はペースト状の)口腔用組成物を、歯ブラシに適当量のせ、歯牙をブラッシングする方法が例示できる。また、当該方法により、取り外した義歯のステインを除去することもできる。また、適用対象も上記の通りであり、特にヒトに限定されるわけではない。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0062】
[研磨力及びステイン除去力の検討]
口腔用組成物の調製
溶融シリカ及び歯牙研磨剤を含有する口腔用組成物を以下のようにして製造した。なお、以下では、歯牙研磨剤として沈降シリカを用いた。
【0063】
<シリカ>
口腔用組成物に配合するシリカとして、以下の溶融シリカ及び沈降シリカを用いた。なお、溶融シリカについては、以下のものを目開き53μmのメッシュで篩過したものを用いた。
〔溶融シリカ〕(株式会社マイクロンから購入)
BET比表面積:3.5(m2/g)
吸油量(あまに油吸油量 JIS K5101):5(mL/100g)
円形度:0.95
平均粒径(d50):14μm
RDA:130
〔沈降シリカ〕(日本シリカ工業株式会社から購入)
BET比表面積:104(m2/g)
吸油量(あまに油吸油量 JIS K5101):110(mL/100g)
円形度:0.69
平均粒径(d50):12μm
RDA:100
これらの溶融シリカ及び沈降シリカを、表1に記載の成分と混合し、シリカ配合量を変えた各例の口腔用組成物(ペースト状歯磨剤)を製造した(表2〜表4)。
【0064】
【表1】
【0065】
得られた各例の口腔用組成物について、下記のようにしてステイン除去力及び研磨力を検討した。
【0066】
<ステイン除去力>
Stookyらの方法(J.Dent.Res., Vol.61, No.11, 1236-1239, 1982)を改変した方法で測定を行い、ステイン除去力(ΔE)を算出した。具体的には、L***表色系を用い、次のように測定及び算出を行った。
【0067】
牛歯エナメル質歯片を切り取り、透明ポリエステルレジンに埋め込み、歯片表面を鏡面研磨した。イオン交換水で洗浄後、歯片を十分に乾燥させ、色差計(CR−241:コニカミノルタセンシング社製)にてL*値、a*値、及びb*値を測定した。得られた値は各々、L0、a0、b0とした。さらに当該歯片を0.2Mの塩酸、飽和炭酸ナトリウム水溶液、及び1%フィチン酸水溶液を順に用いて歯片表面をエッチングした後、ステイン付着装置に設置した。紅茶、コーヒー、豚胃ムチンの混合水溶液をステイン培地として7日間ステイン付着を行ない、8日目以降はこのステイン培地に塩化鉄を加え、L*値が30以下になるまでさらに着色を継続した。ステイン付着終了後、色差計にてL*値、a*値、及びb*値を測定した。得られた値は各々、L1、a1、b1とした。ステインを付着させた後の当該歯片を一般的な歯ブラシを設置したBSI準拠のブラッシングマシーンにセットして、各実施例および比較例の口腔用組成物の3倍希釈液中で1000回往復させた後、色差計にてL*値,a*値,b*値を測定した。得られた値は各々、L2、a2、b2とした。そして、以下の式で示す値をステイン除去力(ΔE)として算出(小数点以下四捨五入)し、評価した。
【0068】
【数3】
【0069】
なお、本件等で用いたステイン培地は、約1200mlの沸騰水に4個の市販ティーバックを投入し、10分間煮沸後、室温まで冷却し、3.4gの市販インスタントコーヒー末及び2.5gのブタ胃ムチン(Sigma-Aldrich社製)を加え、均一に撹拌して調製したものである。
【0070】
<研磨力(RDA値)>
Hefferenらの方法(J. Dent. Res., Vol. 55, No.4,563−573,1976年)によりRDA値を測定した。なお、この方法は、特開昭62−87507号公報にも詳細に説明されている。具体的には、次のようにして行った。すなわち、前もって人間の歯を8本用意し、象牙質に放射性の32P(質量数32のリン)を照射し、樹脂を用いて保持し、これをブラシ荷重150gの8連式研磨機にそれぞれセットした。次に、各実施例および比較例の口腔用組成物25gに水道水40mLを加えよく混合したスラリーをそれぞれ研磨機の水槽に入れて、1500往復研磨した。研磨後のスラリー3mLを金属平板鋳型にとり、60℃で空気を循環させながら一晩乾燥した。このようにして作られたスラリー乾燥平板の表面について放射能測定を行った。同様の処理を施した象牙質を用いてピロリン酸カルシウム100g/0.5%カルボキシメチルセルロース水溶液50mLのスラリーについて同様の測定を行い、対照例とした。各々の水槽について対照例のときの放射線量を100として数値を算出し、8個の数値の平均値をRDA値とした。
【0071】
当該RDA値を研磨力の指標として用いた。以下RDA値を研磨力の値とする。
【0072】
結果を表2〜表5にまとめた。なお、表2〜表5の「沈降シリカ」及び「溶融シリカ」欄に記載の数値は、各口腔用組成物に配合されたこれらのシリカの量(質量%)を示す。
【0073】
またさらに、表2〜5には、各例の口腔用組成物における、研磨力に対するステイン除去力の比(ステイン除去力/研磨力)の値も併せて示した。研磨力に対するステイン除去力が大きい口腔用組成物(すなわち(ステイン除去力/研磨力)の値が大きい口腔用組成物)ほど、より優れた口腔用組成物と評価することができる。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
表2に示されるように、口腔用組成物全量に対して沈降シリカ17質量%を配合した際、溶融シリカを配合すると、ステイン除去力が25以上となった。特に、溶融シリカを0.5〜8.5質量%配合した場合は、ステイン除去力が25以上で、研磨力に対するステイン除去力の比(ステイン除去力/研磨力)が約0.23以上となり、より好ましい口腔用組成物が得られることがわかった。
【0079】
また、表3に示されるように、口腔用組成物全量に対して溶融シリカ3質量%を配合した際、沈降シリカを配合すると、ステイン除去力が24以上となった。特に、沈降シリカの配合量が7.5〜26質量%では、ステイン除去力が25以上で、かつ(ステイン除去力/研磨力)が約0.23以上になり、より好ましい口腔用組成物が得られることがわかった。
【0080】
また、表4に示されるように、口腔用組成物全量に対して沈降シリカ22質量%を配合した際、溶融シリカを配合すると、ステイン除去力が25以上となった。詳細には、少なくとも溶融シリカを0.25〜6質量%配合すると、ステイン除去力が25以上で、かつ(ステイン除去力/研磨力)が約0.24以上になり、好ましい口腔用組成物が得られることがわかった。
【0081】
さらに、表5の比較例3〜5を加えた全比較例から、溶融シリカ又は沈降シリカのみを配合して口腔用組成物を製造した場合は、ステイン除去力が24以上のものは得られないことがわかった。
【0082】
また、表5の実施例4〜7を加えた全実施例から、溶融シリカ及び沈降シリカを含有する口腔用組成物は、少なくともステイン除去力が24以上であり好ましく、溶融シリカ0.25〜8.5質量%(又は0.5〜8.5質量%)、沈降シリカ5〜26質量%(又は7.5〜26質量%)を含有する場合は、ステイン除去力が25以上で、かつ(ステイン除去力/研磨力)が約0.24以上になりより好ましく、溶融シリカ2〜4.5質量%、沈降シリカ15〜22質量%を含有する場合は、ステイン除去力が27以上で、かつ(ステイン除去力/研磨力)が約0.25以上になりさらに好ましいことがわかった。
【0083】
なお、表中、実施例1−4及び実施例2−4は同一の口腔用組成物であり、実施例2−6及び実施例3−4は同一の口腔用組成物である。
【0084】
[使用時の不快感解消の検討]
溶融シリカを配合した口腔用組成物は、上記のとおり口腔内に適用する際(例えば歯ブラシにのせて歯を磨く際)、口腔内にジャリジャリとした不快感(石や砂が口腔内に入ったかのような不快感)を与えるおそれがある。人によっては当該感覚を問題にしないが、あまり好ましくない。そこで、当該不快感の観点から、口腔用組成物に配合するのに好ましい溶融シリカの粒径、及び溶融シリカの配合量を検討した。
【0085】
<溶融シリカの粒径の検討>
当該検討には、上述の研磨力及びステイン除去力の検討で用いた溶融シリカを用いた。当該溶融シリカを表7に示す各目開きのメッシュを用いて篩過処理し、粒径の大きなシリカ粒子を除去した。そして、当該除去操作後の溶融シリカを用い、下記処方(表6)に示す組成に従って口腔用組成物(参考例1〜4)を調製した。なお、下記処方における研磨性沈降シリカは、上述の研磨力及びステイン除去力の検討で用いた沈降シリカと同じものである。また、下記処方における増粘性沈降シリカは吸油量335(mL/100g)、BET比表面積236(m2/g)である。
【0086】
【表6】
【0087】
各口腔用組成物(参考例1〜4)を歯ブラシに適量のせて歯磨きを行った際の使用感を、被験者に評価してもらった。具体的には、10名の被験者に各口腔用組成物を用いて歯磨き(ブラッシング)をしてもらい、「ジャリジャリした感触をどのように感じたか」という質問に対し、以下の3段階から選択をしてもらった。
「全く感じない」(3点)
「感じるが不快ではない」(2点)
「不快に感じる」(1点)
そして、10名の平均点を算出し、当該平均点が2.5以上を○、2以上2.5未満を△、2未満を×、と評価した。結果を表7に併せて示す。
【0088】
【表7】
【0089】
目開きが75μm以下のメッシュを用いて粒径の大きな粒子を除去した(即ち篩過処理をした)溶融シリカを配合した口腔用組成物であれば、使用感に特に問題はなく、また、目開きが53μm以下のメッシュを用いて粒径の大きな粒子を除去した(即ち篩過処理をした)溶融シリカを配合した口腔用組成物であれば、良好な使用感が得られることが分かった。
【0090】
<溶融シリカの配合量の検討>
シリカ配合量を変えた以外は、上記参考例3の口腔用組成物を調製するのと同様にして、参考例3.1、参考例3.2及び参考例3.3を調製した。すなわち、これらの参考例に配合されたシリカは目開き53μmのメッシュで粒径の大きな粒子を除去された(即ち篩過処理をした)溶融シリカである。各参考例における、組成物全量に対するシリカ配合量(質量%)を表8に示す。
【0091】
また、上記と同様にして使用感評価を行った。結果を表8に併せて示す。
【0092】
【表8】
【0093】
少なくとも溶融シリカ配合量が10質量%以下であれば、使用感に特に問題はなく、また、溶融シリカ配合量が7.5質量%以下であれば、良好な使用感を得られることがわかった。
【0094】
[粒径の異なる溶融シリカの組み合わせの検討]
粒径の異なる溶融シリカを組み合わせて用いることにより、口腔用組成物の性能がどのように変化するかを検討した。
【0095】
検討対象とする口腔用組成物は、表1に記載の組成に基づいて製造した。但し、沈降シリカの配合量(質量%)及び溶融シリカの配合量(質量%)は、以下の表9及び表10に記載する値を用いた。
【0096】
なお、当該口腔用組成物製造に用いた溶融シリカは、平均粒子径の比較的小さい溶融シリカ(粉末)と、平均粒子径の比較的大きい溶融シリカ(粉末)とを、混合したものである。以下、前者を微粉溶融シリカ、後者を粗粉溶融シリカ、と記載することがある。
【0097】
ここでの平均粒子径は、メジアン径(d50)であり、レーザー回折散乱式測定装置(LA−920:株式会社堀場製作所製)により測定した値である。微粉溶融シリカは、平均粒子径3.1μm、分布範囲0.1〜10μmであり、粗粉溶融シリカは、平均粒子径17.4μm、分布範囲10〜45μmである。微粉溶融シリカ及び粗粉溶融シリカの、口腔用組成物への配合量(質量%)も、表9及び表10にあわせて示す。
【0098】
製造した各口腔用組成物について、上記「研磨力及びステイン除去力の検討」で記載したのと同様にして、ステイン除去力、研磨力、及び(ステイン除去力/研磨力)値を測定した。これらの結果も、表9及び表10にあわせて示す。
【0099】
【表9】
【0100】
【表10】
【0101】
各口腔用組成物製造において、用いた溶融シリカ全体に対する微粉溶融シリカの配合割合は、実施例A−1〜A5はそれぞれ0、10、30、90、100%であり、実施例B−1〜B−3はそれぞれ30、80、90%である。
【0102】
表9及び表10から、微粉溶融シリカ単独又は粗粉溶融シリカ単独で用いるよりも、これらを混合して用いる方が、ステイン除去力は高まり、かつ(ステイン除去力/研磨力)値も大きくなることがわかった。特に、用いた溶融シリカ全体に対し微粉溶融シリカが30〜90%含まれると、よりステイン除去力が高くなり、かつ(ステイン除去力/研磨力)値も大きくなり、より好ましいことがわかった。
【0103】
以下に本発明の口腔用組成物の処方例を示す。なお、各処方例の配合量(%)は質量%を示す。なお、以下の処方例では、7種類の溶融シリカ(溶融シリカA〜G)が用いられているが、いずれも溶射法で製造された溶融シリカ(溶射溶融シリカ)である。溶融シリカA〜Gのメッシュ処理時の目開き、円形度、BET比表面積、及び吸油量(あまに油吸油量 JISK5101)は次の通りである。
溶融シリカA:メッシュ目開き60(μm)、円形度0.90、BET比表面積10.0(m2/g)、吸油量9.8(mL/100g)
溶融シリカB:メッシュ目開き55(μm)、円形度0.93、BET比表面積8.0(m2/g)、吸油量7.7(mL/100g)
溶融シリカC:メッシュ目開き53(μm)、円形度0.95、BET比表面積5.0(m2/g)、吸油量3.5 (mL/100g)
溶融シリカD:メッシュ目開き45(μm)、円形度0.98、BET比表面積4.6(m2/g)、吸油量3.2(mL/100g)
溶融シリカE:メッシュ目開き60(μm)、円形度0.94、BET比表面積6.0(m2/g)、吸油量5.5(mL/100g)
溶融シリカF:メッシュ目開き55(μm)、円形度0.97、BET比表面積4.8(m2/g)、吸油量3.3(mL/100g)
溶融シリカG:メッシュ目開き53(μm)、円形度0.91、BET比表面積9.1(m2/g)、吸油量8.3(mL/100g)
【0104】
【表11】
【0105】
【表12】
【0106】
【表13】
【0107】
【表14】
【0108】
【表15】
【0109】
【表16】
【0110】
【表17】
【0111】
【表18】
【0112】
【表19】
【0113】
【表20】
【0114】
【表21】
【0115】
【表22】
【0116】
【表23】
【0117】
【表24】
【0118】
【表25】
【0119】
【表26】
【0120】
【表27】
【0121】
【表28】
【0122】
【表29】
【0123】
【表30】
【0124】
【表31】
【0125】
【表32】
【0126】
【表33】
【0127】
【表34】
【0128】
【表35】
【0129】
【表36】
【0130】
【表37】
【0131】
【表38】