(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態のジルコニア質焼結体の一例について説明する。
【0015】
本実施形態のジルコニア質焼結体は、ジルコニア質焼結体全体を100質量%としたとき
、安定化剤を含むジルコニア85質量%以上95質量%以下、AlをAl
2O
3換算で0.1質
量%以上0.5質量%以下、NiをNiO換算で0.1質量%以上1質量%以下、CrをCr
2O
3換算で0.5質量%以上5質量%以下、FeをFe
2O
3換算で0.5質量%以上5質量%以下、SiをSiO
2換算で0.05以上0.5質量%以下含むことを特徴とするものである。
【0016】
本実施形態のジルコニア質焼結体は、安定化剤を含むジルコニア,Al,Ni,Cr,FeおよびSiを上記範囲で含有することにより、機械的特性を高く維持しつつ、優れた加工性を得ることができる。なお、機械的特性を高く維持するとは、例えば、抗折強度,硬度および破壊靱性の値が、それぞれ500MPa以上,10GPa以上および3.5MPa√m以上であることをいう。なお、破壊靱性は値が高くなるにつれて研削加工に時間がかかるため、カケが発生しやすくなる傾向がある。しがって、破壊靱性は5.6Mpa√m未満と
することがより好ましい。また、優れた加工性とは、ジルコニア質焼結体を研削加工したとき、焼結体を構成するジルコニア粒子等の結晶粒子のカケが発生しないことをいう。ここで、カケが発生するとは、研削加工して、ジルコニア質焼結体の表面を金属顕微鏡を用いて観察したとき、ジルコニア粒子等の塊が脱落して、最大径が0.1mm以上の開口部を
有する凹みが発生することをいう。
【0017】
なお、本実施形態のジルコニア質焼結体の機械的特性の値については、抗折強度はJIS R 1601−1995に準拠する3点曲げ強度で測定でき、硬度はJIS R 1601−1995に準拠するビッカース硬度(Hv)で測定でき、破壊靱性についてはJIS R 1607−1995で規定する圧子圧入法(IF法)に準拠する破壊靱性値で測定することができる。
【0018】
ここで、安定化剤を含むジルコニアの含有量が85質量%以上95質量%以下とすることで機械的特性を高く維持することができる。
【0019】
また、AlをAl
2O
3換算で0.1質量%以上0.5質量%以下、NiをNiO換算で0.1
質量%以上1質量%以下、CrをCr
2O
3換算で0.5質量%以上5質量%以下、Feを
Fe
2O
3換算で0.5質量%以上5質量%以下、SiをSiO
2換算で0.05以上0.5質量%以下の割合で含むことにより、ジルコニア質焼結体の結晶粒界の脆さを補強することが可能であると考えられ、研削加工時にジルコニア粒子等の結晶粒子のカケが発生するのを防
止できる。
【0020】
ここで、Alはジルコニアの結晶相の間にAl
2O
3相として存在し、ジルコニア結晶の粒界に生じる亀裂が伝播するのを防ぐことができるため、研削加工時にジルコニア等の結晶粒子のカケが発生するのを防止できると考えられる。
【0021】
また、Ni,CrおよびFeはジルコニア相の間にそれぞれNiO相,Cr
2O
3相およびFe
2O
3相として存在し熱伝導性を向上することができるため、研削加工時に加工ツールとジルコニア質焼結体との摩擦によって生じる摩擦熱の伝搬を促進することができる。この摩擦熱の伝搬の促進によって、ジルコニア質焼結体にかかる熱応力を軽減でき、内部応力の発生を抑制できると考えられ、研削加工時に内部応力が開放されたときにジルコニア等の結晶粒子のカケが発生するのを防止する効果があると考えられる。
【0022】
また、Siはジルコニアの結晶相の間(粒界)にSiO
2相として存在し、ジルコニア,Al
2O
3,NiOおよびCr
2O
3などの結晶粒子の結合材として作用するため、研削加工時にジルコニア等の結晶粒子のカケが発生するのを防止することができる。
【0023】
ただし、上述したAl,Ni,Cr,FeおよびSiの添加量が過剰であると機械的統制、特に破壊靱性が高くなりすぎて研削加工に時間がかかりすぎるようになり、さらに研削加工時の加工治具との摩擦熱で熱膨張しやすくなる。すなわち、前述の成分の添加が過剰であると、研削加工に時間がかかりすぎてジルコニア焼結体の研削部と、研削加工治具との間に高い摩擦熱が生じ、その摩擦熱により研削部周辺が熱膨張してジルコニア粒子等の結晶粒子のカケが発生するため各成分の含有割合が重要であった。そこで、本発明者は、上述したAl,Ni,Cr,FeおよびSiの最適な含有量の範囲について鋭意研究した結果、ジルコニア質焼結体全体を100質量%としたとき、安定化剤を含むジルコニア85
質量%以上95質量%以下、AlをAl
2O
3換算で0.1質量%以上0.5質量%以下、NiをNiO換算で0.1質量%以上1質量%以下、CrをCr
2O
3換算で0.5質量%以上5質量%以下、FeをFe
2O
3換算で0.5質量%以上5質量%以下、SiをSiO
2換算で0.05以上0.5質量%以下含むことが、機械的特性を高く維持しつつ、優れた加工性を得るために重要であることを見出した。
【0024】
また、本実施形態のジルコニア質焼結体はTiを含有しないことが好ましい。Tiの酸化物であるTiO
2は熱伝導率が低いため、ジルコニア質焼結体にTiが含有されていると、研削加工時に加工ツールとジルコニア質焼結体との摩擦によって生じる摩擦熱が外部に放出されにくくなり、ひいては研削加工時にジルコニア粒子等の結晶粒子のカケが発生しやすくなるおそれがある。それゆえ、本実施形態のジルコニア質焼結体においては、ジルコニア粒子等の結晶粒子のカケが発生することを防止するにあたり、Tiを含まないことが好ましい。
【0025】
また、本実施形態のジルコニア質焼結体は、ジルコニアの安定化剤としてY
2O
3を含み、その含有量はジルコニア成分の含有量に対して2モル%以上3.5モル%以下であるこ
とが好ましい。ジルコニアの安定化剤としては、CaO,MgO,Y
2O
3,CeO
2およびDy
2O
3などが適用可能であるが、少量の添加で部分的に安定化させることにより、良好な機械的特性が得られることから、Y
2O
3を安定化剤として用いるのがよい。Y
2O
3を上記範囲内で含有すると、体積変化を伴う単斜晶(モノクリ相)の発生を抑制でき、体積変化による内部応力の発生を抑制できるため、より高い機械的特性が得られる。
【0026】
なお、本実施形態のジルコニア質焼結体として、ジルコニアの安定化剤としてY
2O
3を用いる場合には、Zr,Y,Al,Ni,Cr,FeおよびSi以外に、例えば、Hf,Ca,CuおよびZn等の不可避不純物を含むことができる。Hf,Ca,Cuおよび
Zn等の不可避不純物の含有量は、ジルコニア質焼結体全体を100質量%としたとき、合
計量で4質量%以下であることが好ましい。
【0027】
また、本実施形態のジルコニア質焼結体は、CoをCoO換算で0.5質量%以上2質量
%以下含むことが好ましい。
【0028】
Coを上記範囲で含有すると、ジルコニア質焼結体の熱伝導性をより高めることができる傾向があり、ジルコニア質焼結体にかかる熱応力を軽減でき、内部応力の発生をより抑制することができるため、研削加工時に内部応力の開放によるジルコニア粒子等の結晶粒子のカケが発生するのを防止することができる。また、Coを上記範囲内で含む場合には、ジルコニア質焼結体の熱膨張を抑制することができるため、焼成時にジルコニア質焼結体が変形しにくくなる傾向がある。
【0029】
なお、本実施形態のジルコニア質焼結体中のZr,Al,Ni,Cr,Fe,Co,Siおよび安定化剤成分の酸化物換算での各成分量については、ジルコニア質焼結体の一部を粉砕し、得られた粉体について蛍光X線分析装置(リガク製:ZSX100e)にて定量
分析を実施することで測定可能である。また粉砕後の粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100等)を用いて測定し、得られた各成分の金属量を酸化物に換算することによっても測定可能である。
【0030】
また、ジルコニア質焼結体のジルコニアが安定化剤を含むかどうかは、安定化剤がジルコニアに固溶されているかどうかを確認すればよい。この確認の方法としては、例えば、ジルコニア質焼結体の任意の表面をX線回折測定装置(PANalytical社製 X’PertPRO)にてX線回折測定を実施した後、ZrO
2の格子定数の解析をリートベルト解析プログラムRIETANを用いて実施し、得られた格子定数データとZrO
2結晶のJCPDSカードに記載されている一般的な格子定数データとを比較することで安定化剤がジルコニアに固溶されているかどうかを確認することができる。
【0031】
また、本実施形態のジルコニア質焼結体は、気孔面積占有率(以下、ボイド率という)が0.5%以下(0%を含む)であることが好ましい。
【0032】
ボイド率が上記範囲内であれば、より高い硬度が得られる。さらに、ボイド率が0.5%
以下であるジルコニア質焼結体は、研削加工されて、ボイドの一部が外部の空間と繋がって開気孔となったとしても、ボイドの数が多くなることを抑制されていることから良好な耐摩耗性を維持することができる。つまり、ジルコニア質焼結体は、研削加工されたとしても開気孔がその表面に生じにくいため、開気孔による凹凸が少なく良好な耐摩耗性を維持することができる。
【0033】
なお、本実施形態のジルコニア質焼結体のボイド率については、例えば100μm×100μmの範囲が観察できるように、任意の倍率に調節した金属顕微鏡またはSEM等により、ジルコニア質焼結体の磁器表面および内部断面の数カ所を写真または画像として撮影し、この写真または画像を画像解析装置により解析することにより、数カ所のボイド率をそれぞれ算出し、それらの平均値を求めることで算出することが可能である。画像解析装置としては例えばニレコ社製のLUZEX−FS等を用いればよい。
【0034】
また、本実施形態のジルコニア質焼結体は、CIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値を45以下とすることが好ましい。
【0035】
明度指数が上記範囲内であれば、ジルコニア質焼結体の外観が黒色系になるため、ジル
コニア質焼結体を電子部品載置用台座として用いた場合に、高速測定装置や自動外観検査装置内で電子部品の検査や測定の際に照射される照明やレーザー光などの光の散乱を抑制でき、電子部品の寸法測定や外観検査を良好に実施することができるためによい。
【0036】
なお、CIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値はJIS Z 8722−2000に準拠して測定することによって求めることができる。例えば、色彩色差計(旧ミノルタ社(製)CR−221またはその後継機種)を用い、光源をCIE標準光源D65とし、
照明受光方式を条件a((45−n)〔45−0〕)に、測定径を3mmに設定して測定することができる。
【0037】
ここで、ジルコニア質焼結体において、明度指数L*の値が45以下で、さらに機械的特性を高く維持しつつ、加工性に優れたものとするためには、ジルコニア質焼結体全体を100質量%としたとき、安定化剤を含むジルコニア88質量%以上95質量%以下、AlをAl
2O
3換算で0.1質量%以上0.3質量%以下、NiをNiO換算で0.2質量%以上0.8質量%以下、CrをCr
2O
3換算で1質量%以上4質量%以下、FeをFe
2O
3換算で1質量%以上4質量%以下、SiをSiO
2換算で0.05質量%以上0.3質量%以下、CoをC
oO換算で1質量%以上2質量%以下それぞれ含有すればよい。
【0038】
次に、本実施形態のジルコニア質焼結体の製造方法の一例を示す。
【0039】
まず、安定化剤であるY
2O
3(例えば、純度99%)添加量を2モル%以上3.5モル%
以下として共沈法により製造された市販の平均粒径0.5〜3μmのジルコニア(例えば、
純度99%)粉末、平均粒径0.5〜5μmの酸化アルミニウム(例えば、純度99%)粉末、
酸化ニッケル(例えば、純度99%)粉末、酸化珪素(例えば、純度99%)粉末、酸化クロム(例えば、純度99%)粉末および酸化鉄(例えば、純度99%)粉末を準備し、それぞれの粉末を所定の割合となるように秤量する。そして秤量後の各粉末を合計100質量%とし
てバインダを1〜5質量%、溶媒を100質量%、分散剤を0.1〜1質量%の範囲内で秤量して攪拌機内に投入し混合攪拌してスラリーとした後、スプレードライヤを用いて噴霧造粒して球状顆粒からなる2次原料とする。
【0040】
その後、前記2次原料を静水圧プレス成形法(ラバープレス)や粉末プレス成形法により所定形状に成形し、必要に応じて切削加工を施し成形体を得た後、この成形体を焼成炉内で大気雰囲気中1350〜1550℃の温度で焼成し焼結体を得た後、研削加工を施すことにより、本実施形態のジルコニア質焼結体を得ることができる。
【0041】
ここで、加工性により優れたものにしたい場合には、市販の粒径0.5〜5μmの酸化コ
バルト(CoO)粉末を準備し、この粉末と、既に秤量したジルコニア粉末、酸化アルミニウム(Al
2O
3)粉末、酸化ニッケル(NiO)粉末、酸化クロム(Cr
2O
3)粉末、酸化鉄(Fe
2O
3)粉末および酸化珪素(SiO
2)粉末を合計100質量%として
、バインダを1〜5質量%、溶媒を100質量%および分散剤を0.1%以上1%以下の範囲内でそれぞれ秤量し、これら粉末、バインダ、溶媒および分散剤を攪拌機内に投入し混合攪拌してスラリーとし、このスラリーを、スプレードライヤを用いて噴霧造粒して球状顆粒からなる2次原料とした後、前記と同様の成形,焼成,研削工程を経て本実施形態のジルコニア質焼結体を得ることができる。
【0042】
また、ジルコニア質焼結体のボイド率を0.5%以下(0%を含む)とするには、スプレ
ードライヤを用いて噴霧造粒して得られる2次原料粉末の含水率を0.3〜3%の範囲とす
るのがよい。この範囲内であれば、成形時の2次原料顆粒の潰れが良好であるため粒子間の隙間なく成形でき、ジルコニア質焼結体のボイド率を0.5%以下(0%を含む)とする
ことができる。なお、2次原料粉末の含水率は、スプレードライヤの入口温度と出口温度
とを調整することで、制御することができる。
【0043】
次に、本実施形態のジルコニア質焼結体を用いて、高速測定装置や自動外観検査装置内で電子部品を保持して搬送するための電子部品載置用台座とした例を、
図1を用いて説明する。
【0044】
図1は、高速測定装置や自動外観検査装置内で電子部品を保持する保持部を有する電子部品載置用台座の一例を一部抜粋して示す部分概略模式図である。
【0045】
図1に示すように、本実施形態のジルコニア質焼結体からなる電子部品載置用台座1は、例えば全体がリング状であり、その外周部に電子部品4を保持することが可能な保持部である凹部2を有しており、この凹部2に電子部品4を保持させた形で可動して、高速測定装置や自動外観検査装置内の所定位置に電子部品4を搬送する。凹部2の底部には、例えば電子部品4を挟み込んで保持するための溝3が設けられており、電子部品4を保持する際に溝3が少し拡がることで、電子部品3を挟み込み、それにより電子部品載置用台座1が電子部品4を保持するために十分な保持力を有することとなる。電子部品載置用台座1をこのような構造とすれば、CCDカメラ等の光学機器による寸法測定や外観検査を実施しながら、次工程へ電子部品4を載置したまま搬送することができる。
【0046】
ところで、電子部品載置用台座1を上記構成とした場合に、凹部2は、電子部品4を保持する際に、電子部品4との摩擦により摩耗することとなる。従って、本実施形態のジルコニア質焼結体を電子部品載置用台座1とすれば、凹部2やその底部の溝3のような形状を精密な研削加工を施した際にもカケの発生がなく良好な電子部品載置用台座1とすることができる。また明度指数L*の値を45以下とすることで、全体的に黒色の電子部品載置用台座1とすることができ、それにより光の反射を抑えることができるため、CCDカメラ等の光学機器を用いた寸法測定や外観検査の誤認識による測定ミスや検査ミスが少なくなり、より測定精度や検査精度を向上させることが可能となる。さらには、本実施形態のジルコニア質焼結体用いた電子部品載置用台座は、機械的特性が高いとともに、加工時においてカケの発生を防止できるため、電子部品を精度よく整列させたり、搬送したりすることができるとともに、長期間にわたって電子部品の寸法測定や外観検査を実施することができる。
【0047】
なお、本実施形態のジルコニア質焼結体は、非常に繊細な模様などを研削加工によりカケの発生を防止することが可能で、しかも良好な耐摩耗性を有しているため、時計バンド、釣糸の案内部材、携帯端末の部品、生活用品、装身具、建材部品およびスポーツ用品などの各種装飾部品用の部材として好適に用いることもできる。
【実施例1】
【0048】
以下に本実施形態のジルコニア質焼結体の実施例を示す。
【0049】
リング状の焼結体の外周部に、
図1に示す形状の電子部品の保持部である凹部2と溝3とを研削加工により設けた本実施形態のジルコニア質焼結体からなる電子部品載置用台座を作製し、加工後の凹部2や溝3にカケの発生がないかどうかを確認する試験を実施した。
【0050】
まず、安定化剤であるY
2O
3の含有量をジルコニア成分に対して3モル%の配合で、共沈法により製造された市販の平均粒径1μmのジルコニア(Y−ZrO
2)粉末、平均
粒径1μmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)粉末、平均粒径1μmの酸化ニッケル(NiO)粉末、平均粒径1μmの酸化クロム(Cr
2O
3)粉末、平均粒径1μmの酸化鉄(Fe
2O
3)粉末それぞれの粉末、平均粒径1μmの酸化珪素(SiO
2)粉末を、ジ
ルコニア質焼結体に含有されるそれぞれの成分が表1に示す質量割合となるよう秤量する。そして秤量後の各粉末の合計量を100質量%として予め秤量されたバインダ3質量%と
、溶媒100質量%と、分散剤0.5質量%とを攪拌機内に投入し混合攪拌してスラリーとした後、スプレードライヤを用いて噴霧造粒して球状顆粒からなる2次原料を得る。
【0051】
その後、2次原料を粉末プレス成形機の金型内に充填し、粉末プレス成形法により所定形状に成形し成形体を得た後、成形体を連続焼成炉内で大気雰囲気中1450℃の温度で焼成し外径50mm、内径40mm、厚さ5mmのリング状の焼結体とした。その後、万能研削盤にて番手#400〜#1500の各種研削工具を用い、送り速度50〜300mm/分、切り込み量1〜20μmの範囲で、種々加工条件を変更しながら、研削加工により、リング状の焼結体の外周部に
図1に示す形状で幅3mm、奥行き2mm、深さ3mmの凹部2および幅0.5m
m、奥行き1.5mm、深さ2mmの溝3を設けた試料No.1〜47を得た。
【0052】
そして試料No.1〜47について、研削加工時のカケの発生の有無を肉眼および倍率を10倍にした金属顕微鏡で確認した。なお、カケの有無は、研削加工表面においてジルコニア粒子等の塊が脱落した跡がないかどうかを確認し、脱落した跡のうち開口部の最大径が0.1mm以上であるものがあった場合はカケが有るとし、脱粒の跡のうち開口部の最大径
が0.1mm未満のものはカケが無いとした。
【0053】
また、各試料について、リング状の焼結体とともに、JIS R 1601−1995に準拠した形の3点曲げ強度測定用試験片、JIS R 1601−1995に準拠した形のビッカース硬度測定用試験片、JIS R 1607−1995で規定する圧子圧入法(IF法)に準拠した形の破壊靱性測定用試験片を、それぞれ複数個ずつ粉末プレス成形法を用いて成形し、前記と同様の条件にて焼成して各試料を得て、抗折強度,硬度および破壊靱性の測定を実施した。
【0054】
なお、表1の値は、それぞれの試料について焼結体の一部を粉砕し、得られた粉体について蛍光X線分析装置(リガク製:ZSX100e)にて定量分析を実施して測定した値で
ある。また、安定化剤を含むジルコニア,Al,Ni,Cr,FeおよびSiの成分量を測定し、酸化物としての量を示しており、安定化剤を含むジルコニア,Al,Ni,Cr,FeおよびSiの成分以外の成分については不可避不純物として表1に記載していない。
【0055】
【表1】
【0056】
表1から、Y
2O
3を3モル%含むジルコニア85質量%以上95質量%以下、AlをAl
2O
3換算で0.1質量%以上0.5質量%以下、NiをNiO換算で0.1質量%以上1質量%
以下、CrをCr
2O
3換算で0.5質量%以上5質量%以下およびFeをFe
2O
3換算
で0.5質量%以上5質量%以下、SiをSiO
2換算で0.05質量%以上0.5質量%以下含む試料No.2〜6,9,10,13,14,17,18,21〜23および26〜28については、抗折強度および硬度それぞれ500MPa以上および10GPa以上、破壊靱性が3.5MPa√m以上と
機械的特性が高く、研削加工を施した際にもカケの発生がみられず加工性が良好であった。
【0057】
また、全成分のうち安定化剤を含むジルコニアの含有量(ZrO
2とY
2O
3の含有量の合計)だけが範囲外となる試料No.7および試料No.47について、安定化剤を含むジルコニアの含有量(ZrO
2とY
2O
3の含有量の合計)の多い試料No.7は、抗折強度、硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以上、10GPa以上および3.5MPa√m以上と機械的特性が高くなっているものの、研削加工を施した際にカケの発生が見られ、研削加工性が悪かった。
【0058】
また、安定化剤を含むジルコニアの含有量(ZrO
2とY
2O
3の含有量の合計)の少ない試料No.47は研削加工を施した際にカケの発生は見られないものの抗折強度、硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以下、10GPa以下および3.5MPa√m未満となりとなり機械的特性が低かった。
【0059】
また、全成分のうちAlの含有量(Al
2O
3換算)だけが範囲外となる試料No.8,11および46については、Alの含有量(Al
2O
3換算)の少ない試料No.8および46は研削加工を施した際にカケの発生が見られ、Alの含有量(Al
2O
3換算)の多い試料No.11は研削加工を施した際にカケの発生が見られないものの抗折強度、硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以下、10GPa以下および3.5MPa√m未満となり機械的特性が低かった。
【0060】
また、全成分のうちNiの含有量(NiO換算)だけが範囲外となる試料No.12,15および45については、Niの含有量(NiO換算)の少ない試料No.12および45は研削
加工を施した際にカケの発生が見られ、Niの含有量(NiO換算)の多い試料No.15は研削加工を施した際にカケの発生が見られないものの抗折強度、硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以下、10GPa以下および3.5MPa√m未満となり機械的特性が低かった。
【0061】
また、全成分のうちCrの含有量(Cr
2O
3換算)だけが範囲外となる試料No.20,24および43については、Crの含有量(Cr
2O
3換算)の少ない試料No.20および43は研削加工を施した際にカケの発生が見られ、Crの含有量(Cr
2O
3換算)の多い試料No.24は研削加工を施した際にカケの発生が見られないものの抗折強度、硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以下、10GPa以下および3.5MPa√m未満となり機械的特性が低かった。
【0062】
また、全成分のうちFeの含有量(Fe
2O
3換算)だけが範囲外となる試料No.25,29および42については、Feの含有量(Fe
2O
3換算)の少ない試料No.25および42は研削加工を施した際にカケの発生が見られ、Feの含有量(Fe
2O
3換算)の多い試料No.29は研削加工を施した際にカケの発生が見られないものの抗折強度、硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以下、10GPa以下および3.5MPa√m未満となり機械的特性が低かった。
【0063】
また、全成分のうちSiの含有量(SiO
2換算)だけが範囲外となる試料No.16,19および44については、Siの含有量(SiO
2換算)の少ない試料No.16および44は研削加工を施した際にカケの発生が見られ、Siの含有量(SiO
2換算)の多い試料No.19は研削加工を施した際にカケの発生が見られないものの抗折強度、硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以下、10GPa以下および3.5MPa√m未満となり機械的特性が低かった。
【0064】
また、全成分のうち、2成分以上の含有量が少ない試料No.30〜33,39〜41については、研削加工を施した際にカケの発生が見られた。
【0065】
また、全成分のうち、2成分以上の含有量が多い試料No.1およびNo.34〜38については、研削加工を施した際にカケの発生が見られないものの、抗折強度、硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以下、10GPa以下および3.5MPa√m未満となり機械的特性が低かった。
【0066】
なお、全成分のうち、いずれか1成分以上を含有しない試料No.39〜46については、研削加工を施した際にカケの発生が見られ、さらに抗折強度、硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以下、10GPa以下および3.5MPa√m未満となり機械的特性が低かった。
【0067】
次に、リング状の焼結体を取り付け可能なように予め改良した自動外観検査装置に、研削加工を施した際にカケの発生が見られなかった試料No.1〜6,9〜11,13〜15,17〜19,21〜24,26〜29および34〜38を取り付け、実際に電子部品を保持させて1週間稼働させた後、凹部2の摩耗状態を、金属顕微鏡を用いて確認する耐摩耗試験を実施した。
【0068】
この結果、本実施形態の範囲内である試料No.2〜6,9,10,13,14,17,18,21〜23および26〜28は抗折強度,硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以上,10GPa
以上および3.5MPa√m以上と機械的特性が高く、また研削加工を施した際にカケの発
生が見られなかった試料はほとんど摩耗しておらず、良好な耐摩耗性を有していることがわかった。したがって、試料No.2〜6,9,10,13,14,17,18,21〜23および26〜28は電子部品載置用台座として好適に用いることができることが確認できた。また、抗折強度,硬度および破壊靱性がそれぞれ500MPa以下,10GPa以下および3.5MPa√m未満となる試料No.1,11,15,19,24,29および34〜38については、凹部2の内側に電子部品との接触による摩耗痕があることが確認された。
【実施例2】
【0069】
ジルコニアに添加する安定化剤であるY
2O
3の添加量を、ジルコニア成分に対する含有量の値が表2に示す値となるようにそれぞれ変更した以外は、実施例1の試料No.5と同様の方法で試料No.48〜53を作製した。そして作製した各試料を、実施例1と同様に、研削加工時にカケの発生の有無を確認した。また、抗折強度、硬度および破壊靱性の測定を実施した。その結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2から、安定化剤としてY
2O
3をジルコニア成分に対して2〜3.5モル%含有する
試料No.49〜52は、抗折強度、硬度および破壊靱性の値がより高まる傾向があることがわかった。さらに、研削加工を施した際にカケの発生が見られず、加工性に優れているこ
とがわかった。
【実施例3】
【0072】
次に、安定化剤を含むジルコニア,Al
2O
3,NiO,Cr
2O
3,Fe
2O
3およびSiO
2の含有割合を実施例1の試料No.21と同じとして、ジルコニア質焼結体100
質量%に対してCoをCoO換算で表3に示す量を含有するように添加した試料No.54〜59を製造した。
【0073】
各試料の製造方法については、安定化剤であるY
2O
3を含むジルコニア(Y−ZrO
2)粉末、酸化アルミニウム(Al
2O
3)粉末、酸化ニッケル(NiO)粉末、酸化クロム(Cr
2O
3)粉末、酸化鉄(Fe
2O
3)粉末および酸化珪素(SiO
2)粉末の1次原料粉末の秤量時に、所定量の酸化コバルト(CoO)粉末を秤量し、秤量後の1次原料粉末をバインダ、溶媒、分散剤とともに攪拌機内に投入して混合攪拌することと、研削加工時の加工速度(研削ツールの送り速度)をCo添加の効果を確認するために、実施例1と同じ速度と2倍の速度とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて、同形状の
図1に示す凹部2、溝3を外周部に有するリング状の焼結体からなる試料No.54〜59を得た
。
【0074】
そして、製造後の各試料について研削加工時にカケの発生の有無を実施例1と同様にして確認した。
【0075】
また、焼成後のリング状の焼結体を定盤上に置き、定盤とリング状の焼結体の2つの端面間にできる隙間を、隙間ゲージを用いて測定し、最大隙間をリング状の焼結体の変形量とし、この値が0.5mm以下となるものを良好なものとした。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3から、CoをCoO換算で0.5質量%以上2質量%以下の範囲よりも少ない量で含
有する試料No.54については、実施例1と同じ加工速度ではカケの発生は見られなかったが、2倍の加工速度で研削加工すると凹部2や溝部5の表面にカケの発生が見られ、加工性向上の効果が低かった。
【0078】
また、CoをCoO換算で0.5質量%以上2質量%以下の範囲よりも多い量で含有する
試料No.58については、焼成後のリング状の焼結体の変形量が0.5mmを超えて大きく
なる傾向であった。
【0079】
また、Coを含有しない試料No.59については、実施例1と同じ加工速度ではカケの発生は見られなかったものの、2倍の加工速度で研削加工すると凹部2または溝部5の表面にカケの発生が見られた。
【0080】
これらの試料と比較して、CoをCoO換算で0.5質量%以上2質量%以下の範囲内で
含む試料No.54〜56については、変形量が0.5mm以下で研削加工後に凹部2や溝部5
においてカケの発生が見られなかった。
【実施例4】
【0081】
次に、実施例1の試料No.5と同様の組成であり、その製造工程においてスプレードライヤで噴霧造粒した2次原料の含水率を表4に示す値に種々変更した試料No.60〜66を製造した。
【0082】
試料は、スプレードライヤの入口温度と出口温度との差を表2に示す値に種々変更し、含水率を表4に示す値にコントロールする以外は実施例1と同様の方法を用いてリング状の焼結体を製造した。
【0083】
なお、2次原料の含水率については、湿度30%以下の部屋内で噴霧造粒後の2次原料を室温まで冷却した後、所定量の原料を取り出し乾燥前重量を測定し、測定後の原料を100
℃以上の乾燥機内で10時間以上乾燥させた後、再び湿度30%以下の部屋内で乾燥後重量を測定し、乾燥前後の重量差を算出してこの重量差を乾燥前の重量で除算し、除算後の値を100倍して求めた。
【0084】
その後、任意の焼結体表面の100μm×100μmの範囲が観察可能なSEM写真を任意に5カ所撮影し、撮影した画像を画像解析装置(ニレコ社製LUZEX−FS)により解析して、5カ所のボイド率をそれぞれ算出しこの平均値を求め、各試料のボイド率を算出した。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
表4から、2次原料の含水率が0.3〜3%の範囲内である試料No.61〜65については
ボイド率が0.5%以下と、他の試料と比較して良好な値を示した。
【0087】
その後、ボイド率が0.5%以下の試料No.61〜65と、0.5%を超える試料No.60との
リング状の焼結体について、実施例1と同様の方法により自動外観検査装置を用いての耐摩耗試験を2週間実施したところ、ボイド率が0.5%以下の試料No.61〜65はほとんど
摩耗しておらず、試料No.60に比べて摩耗しにくいことが確認された。