特許第5791640号(P5791640)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5791640ニッケル・クロム・コバルト・モリブデン合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791640
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ニッケル・クロム・コバルト・モリブデン合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20150917BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20150917BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20150917BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20150917BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20150917BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150917BHJP
【FI】
   C22C19/05 C
   C22F1/10 H
   F01D5/28
   F02C7/00 C
   F02C7/00 D
   F01D25/00 L
   F01D25/00 X
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 650D
   !C22F1/00 611
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 641A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691B
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-557406(P2012-557406)
(86)(22)【出願日】2011年3月15日
(65)【公表番号】特表2013-522465(P2013-522465A)
(43)【公表日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】DE2011000259
(87)【国際公開番号】WO2011113419
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2013年2月15日
(31)【優先権主張番号】102010011609.2
(32)【優先日】2010年3月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399009918
【氏名又は名称】ファオデーエム メタルズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VDM Metals GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【復代理人】
【識別番号】100188569
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 ゆう
(72)【発明者】
【氏名】ユタ クレーヴァー
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン テーヴェス
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ−ウード フーゼマン
【審査官】 蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−170084(JP,A)
【文献】 特開平08−003666(JP,A)
【文献】 特開2002−212634(JP,A)
【文献】 J.Chapovaloff, D.Kaczorowski, G.Girardin,Parameters governing the reduction of oxide layers on Inconel 617 in impure VHTR He atmosphere,Materials and Corrosion,ドイツ,Wiley-VCH,2008年 7月,Vol.59, Issue7,p.584-590
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管、薄板、ワイヤ、ロッド、ストリップ又は鍛造品の形の、以下(質量%):
Cr 21%以上、23%以下
Fe 0.05%以上、1.5%以下
C 0.05%以上、0.08%以下
Mn 0.5%以下
Si 0.25%以下
Co 11%以上、13%以下
Cu 0.15%以下
Mo 8.0%以上、10.0%以下
Ti 0.3%以上、0.5%以下
Al 0.8%以上、1.3%以下
P 0.012%未満
S 0.008%未満
B 0.002%超、0.006%未満
Nb 0%超、1%以下
N 0.015%以下
Mg 0.025%以下
Ca 0.01%以下
V 0.005%以上、0.6%以下
選択的にW含分0.02%以上、2以下
Ni 残分並びに溶融に起因する不純物
からなるニッケル・クロム・コバルト・モリブデン合金であって、その際、該合金は以下の式:
【化1】
を満たすものとする、合金。
【請求項2】
以下(質量%):
B 0.002%超、0.005%未満
を含有する、請求項1記載の合金。
【請求項3】
以下(質量%):
Mn 0.3%以下
を含有する、請求項1又は2記載の合金。
【請求項4】
炭化物の割合が0.9%超である、請求項1から3までのいずれか1項記載の合金。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の合金を含有する、ガスタービン又は蒸気タービン内の部品のための鍛造品。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項記載の合金を含有する、ガスタービン又は蒸気タービンのための溶接構造物。
【請求項7】
請求項1から4までのいずれか1項記載の合金を含有する、エネルギー工学の発電所のためのボイラー部品。
【請求項8】
請求項1から4までのいずれか1項記載の合金を含有する、炉建造物又は発電所建造物。
【請求項9】
請求項1から4までのいずれか1項記載の合金を含有する、石油化学工業設備又は核エネルギー工業設備における装置。
【請求項10】
請求項1から4までのいずれか1項記載の合金を含有する、ガスタービン若しくは蒸気タービンのための鋳造部品、又は、炉建造物若しくは発電所建造物における鋳造部品。
【請求項11】
請求項1から4までのいずれか1項記載の合金を含有する、ガスタービン若しくは蒸気タービンのための遠心鋳造部品、又は、炉建造物若しくは発電所建造物における遠心鋳造部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傑出した強度及びクリープ特性並びに抜群の耐高温腐蝕性を有するニッケル・クロム・コバルト・モリブデン合金に関する。
【0002】
EP2039789A1には、以下のものを含有する蒸気機関のためのタービンローターのためのニッケルベース合金が開示されている:C 0.01〜0.15%、Cr 18〜28%、Co 10〜15%、Mo 8〜12%、Al 1.5〜2%、Ti 0.1〜0.6%、B 0.001〜0.006%、Ta 0.01〜0.7%、残分 ニッケル及び不可避の不純物。前記組成物は、同時に鍛造特性を保持しながらも高められた機械的強度を有するとされている。
【0003】
EP0358211B1又はEP2204462A1によって、特別な炭化物モルホロジーを有するニッケル・クロム・モリブデン・コバルト合金が公知となった。該モルホロジーは、高められた温度でのより良好な経時的耐久性を該合金に付与している。該合金は以下のものからなる(質量%):クロム 15〜30%、モリブデン 6〜12%、コバルト 5〜20%、アルミニウム 0.5〜3%、チタン 〜5%、炭素 0.04〜0.15%、ホウ素 〜0.02%、ジルコニウム 〜0.5%、タングステン 〜5%、ニオブ又はタンタル 〜2.5%、鉄 〜5%、希土類金属 〜0.2%、窒素 〜0.1%、銅 〜1%、硫黄 〜0.015%、リン 〜0.03%及びマグネシウム又はカルシウム 〜0.2%、残分 不純物及びニッケル。
【0004】
該合金はNb又はTa 2.5%までを含有し得るものの、これらの元素は耐サイクル酸化性を損ね、このことは、同時にクロム及びアルミニウムが存在している場合には特に強く現れる。
【0007】
このような合金は数十年来、実地で使用されており、「alloy 617」の名称で公知である。このような合金から製造された部品は、550〜850℃の温度範囲内である程度の応力亀裂傾向を示すことが明らかになっている。このような傾向は特に、肉厚の部品の溶接接合部において現れる。この原因は、炭化物の析出と関連する自己応力であると考えられる。このような自己応力は、約1000℃で数時間の熱処理によってある程度排除することができたが、このような熱処理は若干のケースでは実施が不可能であるか、又は可能ではあるものの極めて困難であった。
【0008】
本発明は、公知でありかつ有用性も実証されているこの合金を、個々の合金元素の意図的な改質によって、指摘した欠点がもはや生じないように改良する、という課題に基づく。
【0009】
前記課題は、管、薄板、ワイヤ、ロッド、ストリップ又は鍛造品の形の、以下(質量%):
【化2】
からなるニッケル・クロム・コバルト・モリブデン合金により解決され、その際、該合金は以下の式:
【化3】
を満たすものとする。
【0010】
有利な合金組成を以下の通り表す(質量%):
【化4】
【0011】
Bの含分を以下のように調節した場合には、特に有利である:
B 0.002〜0.005%。
【0012】
Mn含分は、有利には≦0.3%である。必要であれば、該合金は他の元素としてWを0.02〜2%の含分で含有することができる。
【0013】
本発明による合金中のバナジウム含分を0.005〜≦0.6%に調節した場合には、さらに有利である。
【0014】
意想外にも、Nb及び/又はV並びにBの意図的な合金化によって炭化クロム系列の析出を抑制できることが判明した。それにより、運転中の溶接の際の応力亀裂形成傾向が著しく低減される。
【0015】
発明による合金は、以下の式:
【化5】
を満たす。
【0016】
必要に応じて、延性を向上させ、かつ応力を排除するために、本発明による合金を800〜1000℃の温度範囲内での、有利には980℃での熱処理下に置くことができる。この場合、炭化物の割合は有利には>0.9%である。特に、Nb、V及びBの含分を意図的に調節することによって、このような熱処理を容易に実施することができる。
【0017】
本発明の対象によって、500〜1200℃の運転温度のための高耐熱性合金が提供される。
【0018】
本発明による合金は、管、薄板、ワイヤ、ロッド、鍛造品又は鋳造品及びストリップの形で使用可能であり、また溶接構造物のために使用可能である。有利な適用分野は、ガスタービン、炉建設及び発電所建設、石油化学工業、並びに核エネルギー工業の分野である。
【0019】
第1表において、従来技術に分類すべき合金と、本発明による5つのバリエーションV1〜V5とを対比する。
【0020】
【表1】
【0021】
第2表において、従来技術に分類すべき合金と、本発明による5つのバリエーションV1〜V5とを、炭化物の溶解挙動に関して対比する。
【0022】
【表2】
【0023】
第3表において、従来技術に分類すべき合金と、本発明による5つのバリエーションV1〜V5とを、延性(700℃でのSSRT試験)に関して対比する。
【0024】
【表3】