(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
画像データの色域と、その画像データに基づく画像を出力する出力デバイスの色域とが異なる場合、画像データの色値を、出力デバイスの色域の色値へ変換する。
【0003】
ある画像処理装置では、L*a*b*座標系において、目標色を中心とした、 所定の主観評価によって得られた境界を示す制御色を通る弁別用楕円を作成し、作成した楕円のパラメーターおよび目標色と再現色との色相差に基づく重み係数を使用して、目標色と再現色との色差を求めている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
別の画像処理装置では、ユーザー操作で画像の色調を変化させるときに、画像内の対象色の色差を指定し、その色差に対応して、CIE1994色差式に基づき色属性値(明度、彩度、および色相)の指定可能範囲を決定している(例えば特許文献2参照)。
【0005】
その他、さらに別の画像処理装置では、画像の背景部の色相に基づいて前景部の色相を補正している(例えば特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の画像処理装置では、画像データの色域または色再現範囲で可能なすべての目標色(つまり、色変換の対象色)について主観評価で制御色を特定する必要があり、目標色が多くなると、主観評価の作業が膨大となり、現実的ではない。また、弁別用楕円の作成についても計算が複雑になり、現実的ではない。
【0008】
特許文献2に記載の画像処理装置では、ユーザーが色属性値(明度、彩度、および色相)を指定しているものであり、所定の出力デバイスに適した色への変換を自動的に行うことは困難である。また、ユーザーが指定した色差が、許容される色差を超える可能性もある。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、対象色の属性(明度、彩度、および色相)についての主観的な感度の違いを考慮して、比較的簡単な計算で、対象色の色値を出力デバイスの色域の色値へ適切に変換する画像処理装置および画像形成装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明では以下のようにした。
【0011】
本発明に係る画像処理装置は、対象色の第1色域での第1色値を、第2色域での第2色値へ変換する画像処理装置であって、少なくとも明度を含む複数の属性の座標系における2つの色値の色差を評価する色差式を使用して、前記第1色値から前記第2色値を計算する色変換部と、前記複数の属性のそれぞれについて、その属性値に対応する所定の許容色差を示す許容色差データを記憶する記憶装置と
、前記対象色についての背景色の色値を特定する背景色特定部とを備える。そして、前記第2色域は、所定の出力デバイスの色域であり、前記色変換部は、前記対象色が前記出力デバイスの色再現範囲内の色であるか否かを判定する内外判定部と、前記色差式を使用して前記対象色の前記第1色値に対する前記第2色値を特定する探索部とを有する。前記探索部は、前記対象色が前記出力デバイスの色再現範囲内の色である場合、(a)前記第1色値について前記色差式が最小となる前記第2色域での色値を探索して前記第2色値とし、前記対象色が前記出力デバイスの色再現範囲内の色ではない場合、(b1)前記色再現範囲内の色値のうち、前記第1色値について前記色差式が最小となる色値を基礎色値として探索し、(b2)前記基礎色値の所定の周辺領域において、前記許容色差データに基づき、前記第1色値において前記許容色差が最小である属性について、前記第1色値との属性値の差が最小となる前記第2色域での色値を前記第2色値とする。
そして、前記色差式は、前記背景色の色値をパラメーターとして、前記第1色域での色値と前記第2色域での色値との間の彩度差、明度差、および色相角差から色差を求める式である。
【0012】
また、本発明に係る画像処理装置は、上記の画像処理装置に加え、次のようにしてもよい。この場合、前記周辺領域は、前記基礎色値から、前記色差式による色差が所定の値以下である領域である。
【0014】
また、本発明に係る画像処理装置は、上記の画像処理装置に加え、次のようにしてもよい。この場合、前記色差式は、前記背景色の明度値に基づく係数を前記明度差に乗算して色差を求める式である。
【0015】
また、本発明に係る画像処理装置は、上記の画像処理装置に加え、次のようにしてもよい。この場合、前記第1色域は、RGB色域であり、前記第2色域は、CMYK色域である。
【0016】
本発明に係る画像形成装置は、上記の画像処理装置のいずれかと、前記対象色を含む原稿画像を読み取る画像読取装置と、前記出力デバイスである印刷装置とを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象色の属性(明度、彩度、および色相)についての主観的な感度の違いを考慮して、比較的簡単な計算で、対象色の色値が出力デバイスの色域の色値へ適切に変換される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る画像形成装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す画像形成装置1は、複写機である。ただし、画像形成装置1は、複合機などでもよい。
【0021】
この画像形成装置1は、印刷装置11と、画像読取装置12と、画像処理装置13と、記憶装置14とを備える。
【0022】
印刷装置11は、出力デバイスの一例であって、画像処理装置13による色変換後の画像データに基づいて原稿画像を、CMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)色のトナーを使用して電子写真プロセスで印刷する内部装置である。
【0023】
画像読取装置12は、原稿から原稿画像を光学的に読み取り、原稿画像の画像データをRGBデータとして生成する内部装置である。
【0024】
画像処理装置13は、画像読取装置12などで生成された画像データに対して、色変換などの画像処理を行う。
【0025】
また、記憶装置14は、フラッシュメモリーなどの、書き換え可能な不揮発性の記憶装置であり、各種データを記憶している。
【0026】
画像処理装置13は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やマイクロコンピューターで実現される、制御部21、背景色特定部22、および色変換部23を有する。また、記憶装置14は、許容色差データ24を記憶している。
【0027】
制御部21は、印刷装置11および画像読取装置12を制御して、原稿の画像データの取得や原稿画像の印刷を実行させる。
【0028】
背景色特定部22は、色変換部23による色変換の対象色についての背景色の色値を特定する。具体的には、画像データ内のオブジェクトの色が対象色とされ、そのオブジェクトの背景の色(つまり、原稿の紙の色)が背景色とされ、背景色の色値(ここでは、明度Lpaper)が特定される。
【0029】
色変換部23は、複数の属性(ここでは、明度、彩度、および色相角)の座標系における2つの色値の色差を評価する色差式を使用して、色変換の対象色の元の色域での第1色値(ここでは、RGB値)から、印刷装置11の色域での第2色値(ここでは、CYMK値)を計算する。
【0030】
許容色差データ24は、上述の複数の属性(明度、彩度、および色相角)のそれぞれの属性について、その属性値に対応する所定の許容色差を示すデータである。
【0031】
色変換部23は、内外判定部31、探索部32、および色差計算部33を有する。
【0032】
内外判定部31は、対象色が印刷装置11の色再現範囲内の色であるか否かを判定する。なお、内外判定部31は、印刷装置11の色再現範囲のデータを予め有している。
【0033】
探索部32は、所定の色差式(後述)を使用して対象色の第1色値に対する第2色値を特定する。探索部32は、対象色が印刷装置11の色再現範囲内の色である場合、(a)対象色の第1色値について色差式が最小となる第2色域での色値を探索して第2色値とし、対象色が出力デバイスの色再現範囲内の色ではない場合、(b1)色再現範囲内の色値のうち、対象色の第1色値について色差式が最小となる色値を基礎色値として探索し、(b2)基礎色値の所定の周辺領域において、許容色差データ24に基づき、第1色値において許容色差が最小である属性について、第1色値との、その属性の値の差が最小となる第2色域での色値を第2色値とする。
【0034】
この実施の形態では、上述の周辺領域は、基礎色値から、色差式による色差が所定の値以下である領域である。例えば、基礎色値についての色差式による色差の値以上であり、かつ基礎色値についての色差式による色差+0.5の値以下の色値を有する領域が、上述の周辺領域とされる。
【0035】
色差計算部33は、上述の色差式の値を計算する。
【0036】
図2は、
図1における画像処理装置において使用される色差式を示す図である。この色差式は、CIEDE2000の色差式を、主観評価に基づき改良したものである。
【0037】
なお、主観評価は、色評価用蛍光灯の光源を用い、暗室で行った。背景には、PPC(Plain Paper Copier)用紙(ISO白色度84パーセント)を使用し、色票は、縦横20ミリメートルのサイズとし、明度、彩度、および色相角のいずれかを等間隔で変化させて複数作成し、それらを5ミリメートルの間隔を空けて横に並べて提示した。そして、このような色票を使用して、基準の色に対して許容される色(つまり、基準の色として出力デバイスで出力されても許容できる色)の範囲(つまり限界値)を評価した。評価は、複数人で行い、各人が複数回行った。
【0038】
この色差式において、ΔL’は、第1色域での色値と第2色域での色値との間の明度差であり、ΔC’は、第1色域での色値と第2色域での色値との間の彩度差であり、ΔH’は、第1色域での色値と第2色域での色値との間の色相角差である。
【0039】
また、Lavは、第1色域での色値と第2色域での色値の明度の平均値であり、Cavは、第1色域での色値と第2色域での色値の彩度の平均値である。
【0040】
さらに、Lpaperは、背景色特定部22により特定された背景色の明度である。
【0041】
つまり、この実施の形態で使用される色差式は、背景色特定部22により特定された背景色の色値をパラメーターとして、第1色域での色値と第2色域での色値との間の彩度差、明度差、および色相角差から色差を求める式である。具体的には、この色差式は、背景色の明度値に基づく係数を明度差に乗算して色差を求める式である。
【0042】
図3は、
図1における画像処理装置において使用される許容色差データ24を説明する図である。
図3(A)は、彩度の許容色差データを説明する図である。
図3(B)は、明度の許容色差データを説明する図である。
図3(C)は、色相角の許容色差データを説明する図である。
【0043】
許容色差データ24は、彩度、明度、および色相角のそれぞれの属性について、その属性値に対応する所定の許容色差を示すデータである。
【0044】
許容色差データ24は、上述の主観評価から
図3に示すように得られるものであり、主観評価では、許容色差については、
図4に示す色差式に基づいて、許容される色差の限界値が、彩度、明度、および色相角のそれぞれの属性の各値について特定される。
【0045】
そして、彩度および明度については、最小二乗法などで得られる近似式(彩度および明度の値に対する許容色差の値の式)が、許容色差データ24に含まれ、この近似式によって、対象色の彩度および明度の値に対する許容色差の値が得られる。
【0046】
また、色相角については、色相角の各値についての平均値が許容色差データ24に含まれ、対象色の色相角に対する許容色差の値が補間などで得られる。
【0047】
なお、
図4に示す色差式について主観評価に使用されるものであり、色変換部23では使用されない。
【0048】
次に、上記画像処理装置13による色変換について説明する。
図5は、
図1に示す画像形成装置における色変換について説明するフローチャートである。
【0049】
対象色のRGB値および背景色のRGB値は、画像読取装置12からの画像データより得られる。そして、背景色特定部22は、背景色のRGB値から背景色の明度を特定する。
【0050】
そして、色変換部23は、対象色のRGB値から明度L、彩度C、および色相角Hの値(以下、LCH値という)を特定する(ステップS1)。
【0051】
次に、内外判定部31は、LCH座標系において、対象色が印刷装置11の色再現範囲内の色であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0052】
対象色が印刷装置11の色再現範囲内の色である場合、
図2に示す色差式の値が最小となるCMYK値を特定し、対象色のRGB値をそのCMYK値へ変換する(ステップS3)。
【0053】
例えば、探索部32は、LCH空間において、対象色のRGB値から得られるLCH値の周辺に、対応するLCH値が位置するCMYK値を候補値として特定し、その候補値のうち、対象色のRGB値に対するLCH値と、その候補値(CMYK値)に対するLCH値とから
図2に示す色差式の値が最小となる候補値を、
図2に示す色差式の値が最小となるCMYK値として特定する。
【0054】
一方、対象色が印刷装置11の色再現範囲内の色ではない場合、探索部32は、まず、対象色の各属性(明度、彩度、色相角)についての許容色差を許容色差データ24に基づいて特定し(ステップS4)、それらの許容色差のうち、最小値の許容色差の属性を特定する(ステップS5)。
【0055】
また、探索部32は、色再現範囲内の色のうち、
図2に示す色差式の値が最小となるLCH値を基礎色値として特定する(ステップS6)。
【0056】
そして、探索部32は、基礎色値の周辺領域内に、対応するLCH値が存在するCMYK値を特定し(ステップS7)、ステップS5で特定した許容色差が最小である属性について、基礎色値からの、その属性の値の変化量が最も小さいCMYK値を選択し、対象色のRGB値をその選択したCMYK値へ変換する(ステップS8)。
【0057】
このようにして、画像データにおける各対象色についてのRGB値がCMYK値にマッピングされる。
【0058】
以上のように、上記実施の形態によれば、探索部32は、対象色が印刷装置11の色再現範囲内の色である場合、(a)対象色のRGB値について色差式が最小となるCMYK値を探索してマッピングし、対象色が印刷装置11の色再現範囲内の色ではない場合、(b1)色再現範囲内の色値のうち、対象色のRGB値について色差式が最小となる色値を基礎色値として探索し、(b2)基礎色値の所定の周辺領域において、許容色差データ24に基づき、対象色のRGB値について許容色差が最小である属性(L,C,Hのいずれか)について、対象色との、その属性の値の差が最小となるCMYK値へ、対象色のRGB値を変換する。
【0059】
これにより、対象色の属性(明度、彩度、および色相)についての主観的な感度の違い(つまり、属性間での、属性値の変化に対する感度の違い)を考慮して、比較的簡単な計算で、対象色の色値が出力デバイスの色域の色値へ適切に変換される。
【0061】
赤色領域に位置する対象色が、L*=51.4、a*=71.6、b*=47.6(すなわち、L*=51.4、C*=86.0、H*=33.6)である場合、通常の電子写真プロセスでは、この対象色は、色再現範囲外の色である。
【0062】
図4に示す一般的な色差式を使用して、この対象色の色変換を行うと、変換後の色は、L*=46.5、a*=66.6、b*=47.4となる。したがって、この場合の各属性の変化量は、ΔL*=4.9、ΔC*=4.2、ΔH*=1.8となる。
【0063】
一方、この実施の形態では、背景色の明度が94.5と特定された場合、
図2に示す色差式を使用して、上述のようにして、この対象色の色変換を行うと、変換後の色は、L*=48.7、a*=62.6、b*=44.0となる。したがって、この場合の各属性の変化量は、ΔL*=2.7、ΔC*=9.5、ΔH*=1.4となる。
【0064】
他方、
図3に示す許容色差データ24から、この対象色についての明度、彩度、および色相角の許容色差は、それぞれ、5.1、15、2.8と特定される。したがって、許容色差が最小である属性は、色相角となる。また、色相角の変化に比べ、明度、彩度の変化のほうが視覚的な印象として許容されやすいことがわかる。色相角の変化量を見ると、上述のように、一般的な色差式を使用した場合より、
図2に示す色差式を使用したほうが、色相角の変化が小さくなっており、視覚的な印象として許容されやすいことがわかる。
【0065】
なお、上述の実施の形態は、本発明の好適な例であるが、本発明は、これらに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形、変更が可能である。
【0066】
例えば、上記実施の形態において、背景色の彩度および/または色相角を、
図2に示す色差式のパラメーターとして使用するようにしてもよい。