特許第5791681号(P5791681)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791681
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】長時間滞空型水素駆動車両
(51)【国際特許分類】
   B64C 39/02 20060101AFI20150917BHJP
   B64D 37/04 20060101ALI20150917BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20150917BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   B64C39/02
   B64D37/04
   F02D19/02 B
   F02M37/00 P
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-209200(P2013-209200)
(22)【出願日】2013年10月4日
(62)【分割の表示】特願2009-518104(P2009-518104)の分割
【原出願日】2007年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-40240(P2014-40240A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2013年10月29日
(31)【優先権主張番号】11/428,706
(32)【優先日】2006年7月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ミラー,ジェラルド・ディ
(72)【発明者】
【氏名】アトレヤ,シャイレシュ
(72)【発明者】
【氏名】ビッグビー−ハンセン,ウィリアム・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ビーソレアヌ,エイドリアン
(72)【発明者】
【氏名】オルセン,アルバート
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,ウェスリー・エフ
(72)【発明者】
【氏名】デイビッドソン,ロナルド・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】モリス,ラッセル・ダブリュ
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−530268(JP,A)
【文献】 米国特許第03243150(US,A)
【文献】 特開平01−309899(JP,A)
【文献】 特開平07−196098(JP,A)
【文献】 米国特許第03040520(US,A)
【文献】 特開2005−233068(JP,A)
【文献】 Shailesh Atreya, Marianne Mata, Russ Jones, Lisa Kohout,Power System Comparisons for a High Altitude Long Endurance(HALE) Remotely Operated Aircraft(ROA),AIAA 5TH AVIATION, TECHNOLOGY, INTEGRATION, AND OPERATIONS CONFERENCE (ATIO), 26-28 SEPTEMBER 2005,,2005年10月26日,P933-945
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 39/02
B64D 37/04
F02D 19/02
F02M 37/00
F17C 3/04 − 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体(110)、および前記胴体(110)から延びている翼(120)を備える航空機であって、
胴体に対する翼幅の長さ比が3.0以上であり、
前記航空機が、
液体水素を含むように適合されている1以上の低温タンク(300)と;
前記1以上の低温タンク(300)の内部と流体連通している熱交換器(320)であって、前記熱交換器(320)は前記1以上の低温タンク(300)からの液体水素を受けるように適合されている熱交換器(320)と;
前記胴体(110)または翼(120)に取り付けられているエンジン(122)であって、前記エンジン(122)は燃料としてガス状の水素の燃焼に適合されている、エンジン(122)と;
を備えることを特徴とし、
前記胴体が、前記1以上の低温タンクの形状及び寸法に一致する断面形状を有し、
前記1以上の低温タンク(300)が球形であり、前記胴体(110)によって囲まれていて、前記胴体(110)のフレーム(160)に取付けられてい
前記熱交換器(320)が、前記エンジン(122)のための空気圧縮タービンからの熱を備える冷却液と流体連通していて、
前記熱交換器(320)が、前記冷却液から液体水素へ熱を伝達して、かつ液体水素を前記エンジン(122)の燃料であるガス状の水素に転換するように構成されている、航空機。
【請求項2】
前記エンジン(122)に圧縮された吸気を供給する圧縮システム(171〜175)をさらに備える、請求項1に記載の航空機。
【請求項3】
前記冷却液は再循環する冷却液である、請求項1又は2に記載の航空機。
【請求項4】
前記1以上の低温タンク(300)の内部と流体連通している吸入部と、前記熱交換器(320)と流体連通している排出口とを有するポンプ(310)をさらに備えるので、前記航空機が使用中である場合、前記ポンプ(310)が液体水素を前記熱交換器(320)に充填し、前記熱交換器(320)が前記エンジン(122)にガス状の水素を供給する、請求項1からのいずれか一項に記載の航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援調査または開発に関する陳述
米国政府は本発明に一括払いライセンス、および、限られた状況において、特許権者に当該契約の期間によって与えられるような妥当な期間で他者にライセンスするよう求める権利を有する。
【0002】
技術分野
本発明は、一般に航空宇宙技術に関し、より詳細には、本発明は、水素駆動の高高度航空機に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
特定の特殊航空機が、遠距離を飛行し、空中に長時間滞在するように設計されている。これらは、時には略語「HALE」、すなわち、高高度長時間滞空型で知られている。しかし、航空機は、必ずしも高高度で飛行しなければならないというわけではない。これらの航空機は、典型的に、無人であり、遠隔制御され、様々な応用分野において有用であるか、潜在的に有用である。たとえば、国境に沿って、または、国もしくは州の海岸に沿って空中パトロールを実施する監視において、あるいは、携帯通信用の「携帯基地局」の代替として作用する遠隔領域において、である。このように使用するために、これらの航空機は、空中に長期間(約3日を超えて)とどまり、その時間中に重要な領域を横断する能力を有することが望ましい。したがって、航空機は、高高度か低高度で展開されるかどうかに関係なく、長時間滞空を可能にするために比較的多量の燃料を運搬する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、これらの航空機は、大きな外表面積を示す。すなわち、これらは、胴体長さに対して典型的に約3.0を超える極めて大きな翼を有する傾向がある。燃料は典型的に翼に貯蔵されるので、これらの大きな翼の設計は一般に、発射のための「揚力」および航空機を空中に維持する要件と、燃料貯蔵のための要件との折衷案である。この種の航空機では、ミッション能力を拡張するための減量(したがって、燃料要件)と、長時間滞空に十分な燃料を運搬するために必要な増加した重量との間に、さらなる相反関係が存在する。これらの競合する要求を満たすための1つの提案は、太陽熱発電を使用することであり得るが、約24時間よりも長い飛行を実証する技術がまだ開発されていない。空気成層圏の飛行船より軽いものを使用することが提案されているが、これらは高高度を達成し、何日も空中に存在することができる一方、これらは高価で横風を受けやすいので、固定された飛行路を必要とするミッションを実行するのに求められる路の安定性に欠く。
【0005】
したがって、望ましいのは、空中時に起こるほとんどの予想される条件下で、長時間滞空および方向安定性を有する、高高度または低高度で展開されることのできる航空機を開発することである。その上、必要な燃料運搬能力を翼に備えて、翼が折衷案としてではなく飛行条件のために最適に設計されることができると、これは利点となるであろう。さらに、本発明の他の望ましい特徴および特性は、添付の図面および上述の技術分野および背景とともに、後続の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本発明は、いくつかの実施形態において、多くとも2,000ポンドの有意なペイロードを運搬し、極めて長い滞空時間(10日以上)を、60,000フィートを超える高度で飛行することのできる無人の水素駆動の航空機を提供するものである。実施形態は、胴体に対する大きな翼幅(3.0以上)や、軽量および強度のためのすべてが複合材の構造物、または、部分的に複合材の構造物などの特徴を含んでいてもよい。航空機の一実施形態は、水素燃焼のために適合される1つ以上の内燃エンジンを使用しており、各エンジンはプロペラを駆動する。水素燃料は、胴体内に設置されている容器に低温液体として機内で貯蔵され、内燃エンジンに充填する前に熱交換器内で蒸発する。いくつかの実施形態では、これらの特徴によって、航空機が10日を超える滞空時間を提供することできるようになる。
【0007】
航空機の実施形態は、いくつかの固有の特徴、すなわち、水素駆動エンジンと;たとえば真空デュワー燃料タンクなどの低温容器にある機内の液体水素の燃料貯蔵部と;高性能の層流エーロフォイルを組み入れている高アスペクト比の翼;主として複合材であり、極めて軽量の機体構造;多くとも約10日間、無人で独立した飛行車両としての連続運転と、のうちの1つ以上の組合せまたはすべてを含んでもよい。
【0008】
本発明の実施形態は、略1,000ポンドの重さであるミッション通信装置およびペイロード一式を運搬する間ずっと、海面に近い高度での30日の滞空時間能力から65,000フィートの高度で10日までおよぶ、先例のない飛行滞空時間を提供することができる。さらに、航空車両の実施形態は、この複数日の飛行滞空時間にわたり、必要であれば90%を超える極めて高いミッション信頼度を維持するために、このシステムの十分な信頼性および/または冗長度を含んでいてもよい。高高度での長時間の滞空時間によって、航空車両が、その有意なペイロード許容荷重に結びつけて、通信、監視、データ中継、およびその他の応用分野において、大幅な低コストの解決策を提供することができるようになる。
【0009】
本発明の上述した態様および他の態様は、液体水素を含むように適合されている低温容器と、容器の内部と流体連通している熱交換器であって、この熱交換器は容器から液体水素を受けるように適合されている熱交換器と、熱交換器と流体連通しているエンジンであって、このエンジンは燃料としてガス状の水素を燃焼させるよう適合されているエンジンと、を囲む胴体を備えた翼のある航空機である一実施形態によって、1つの形態で実施されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下の図面とともに考慮する場合、詳細な説明および特許請求の範囲を参照することによって、本発明をより完全に理解することができる。ここでは、同じ参照番号は、図面全体を通して同一の要素を表す。
【0011】
詳細な説明
以下の詳細な説明は、事実上単に例示的なものであり、本発明または応用分野、および本発明の用途を制限することを意図するものではない。さらに、前述の技術分野、背景、概要、または以下の詳細な説明に示されている、いかなる述べられているか示されている理論によって結びつけられる意図もない。
【0012】
液体水素を含むように適合されている低温容器と、容器の内部と流体連通しており、容器から液体水素を受けるように適合されている熱交換器と、燃料としてのガス状の水素を燃焼させるように適合されており、熱交換器と流体連通しているエンジンと、を囲む胴体を備えた翼のある航空機である一実施形態によって、本発明が1つの形態で実施されてもよい。
【0013】
図1は、本発明において有用なタイプの航空機100を概略的に表す。すなわち、航空機100は、胴体110と、胴体110から延びている対向した翼120とを有する。航空機はさらに、方向舵126および1対の後部安定板128(図2でより明確に見られる)を含む尾部125を有する。航空機の翼120は、長時間滞空型高高度航空機において典型的であるように、胴体110の長さと比較すると長い。典型的には、このタイプの航空機100は、胴体に対する翼幅の長さ比が3.0から約4.0であるが、必ずしもそうである必要はない。これらは、海面より上に約35,000フィート以上、たいてい65,000フィートの高さで飛行することを目的とすることを意味する「高高度」航空機として特徴づけられるものであるが、これらはまた、より低い高度で、海面により近くでも有用である。胴体は、航空機の中心部分を備えてもよく、混合された翼の本体または全翼機を含む種々の実施形態は、本発明の範囲から逸脱するものではない。
【0014】
図1に示されている実施形態はまた、1対のエンジン122を有し、それぞれはプロペラ123を駆動し、かつそれぞれはナセル124を有する。当然ながら、他の航空機の実施形態は、単一エンジンを有してもよく、あるいは、各翼に1対のエンジンを有してもよい。したがって、1対のエンジンの使用によって、エンジン故障時における冗長度、ならびに、複数日の長いミッション用の燃料を保存するための軽量さの両方がもたらされることを除いて、エンジンの数は限定要因ではない。
【0015】
後述するように、エンジン122は、水素燃料に適合されている。燃料は、航空機100の機内で、図2において液体状態で示されている低温タンク300に、約30psiの電圧で、または、安全で有用であると考えられる他の適した電圧で、貯蔵されている。2つのタンク300が示されており、かつこれらは球形であるが、異なる形状の1つ以上のタンクが使用されてもよい。図示されているように、タンク300は、胴体110に形成されている空間またはキャビティ内に含まれる。この例において、一方のタンク300は、翼の取付け位置130より前方にあり、等寸法の他方のタンク300は、翼の取付け位置130の後方にある。このことによって、航空機100の質量の中心位置を制御して、航空機の安定した飛行を可能にする。飛行中に、航空機の安定性を保証する位置に航空機の質量の中心を維持するために、燃料が、両方のタンク300から、等しく、または、それぞれから交互に取られてもよい。図示されている特定の航空機100の機首150は、制御装置155および航空機のミッションに付属した他の装置を含むように適合されている。
【0016】
図2の実施形態において、航空機100は軽量構造であり、下にある一連の支持フレーム160によって安定化している一連の外板パネル164で構成され、長手方向の縦通材162がフレーム160の間に延びている。外板164と共に、これらのフレーム160および縦通材162は、航空機の胴体110を形成する。フレーム160および縦通材162はまた、燃料タンク、着陸装置、システムおよびペイロードを取り付けるためのハードポイントを設けており、荷重を外板164に分配する。胴体の形状は、たとえば、空気力学(抗力減少など)や、ミッション(たとえば、燃料を運ぶタンクの寸法)などの、いくつかの目的を満たす航空機の望ましい(横)断面形状に一致するように選択される。したがって、フレーム160は、いくつかの実施形態では略楕円形であるが、変化することのできる形状である。最低重量の基準を満たす一方で強度規程を満たすために、フレーム160は、たとえばポリアリールエーテルケトンまたはエポキシなどの適したエンジニアリングポリマーを含浸した炭素繊維など、複合材料で製造されてもよい。あるいは、フレーム160は、たとえばアルミニウム合金やチタン合金など、強力で軽量の金属合金から作られてもよい。必要な数の縦通材162が、胴体110のための強固な構造を作るために使用されてもよい。同様に、縦通材162が複合材料であってもよく、あるいは、たとえばアルミニウム合金やチタン合金などの強力で軽量の金属合金であってもよい。同じく、外板パネル164が、グラファイトまたはガラス繊維/エポキシ樹脂の複合材のサンドイッチ、または、別の複合材や軽量な金属であってもよい。当然ながら、より重い航空機の追加の燃料消費量や減少した範囲と釣り合うように、特性を利用して、妥当であるか許容可能なコストを満たす軽量の航空機を達成するために、材料の組合せはまた使用されてもよい。
【0017】
本発明の航空機の実施形態は、胴体内に設置されている水素タンクを有するので、翼内に燃料タンクを有する航空機を有する場合もそうであったように、翼は、燃料運搬能力に関していかなる折衷案なしで、最適性能として設計されることができる。したがって、本発明による航空機の実施形態は、別の方法では可能ではない、高性能の層流エーロフォイルを組み入れる高アスペクト比の翼を有していてもよい。
【0018】
水素適合性の内燃エンジンに関して、いかなる高信頼性の自動車用または航空機のエンジンをもまた、この目的のために、適切に改変することによって適合されることができる。さらに、いかなる現代のエンジンと同様に、このエンジンは、水素燃料の特性を考慮して改変されてもよいエンジン制御モジュール(「ECU」)を有するべきである。さらに、十分な動力を保証するために、エンジンは、望ましくは、エンジンの吸気空気圧を増大させる圧縮タービンを有するが、必ずしもその必要はなく、図4の説明において以下に示すように、これらは、圧縮熱を除去し、エンジンにより冷たい空気を供給することのできる中間冷却器を有するべきである。
【0019】
図3、すなわち、燃料装置の一実施形態の簡略化された流れ図に示されているように、燃料タンク300が、ポンプ310の吸込み側と連通している共通の排出管302にそれぞれ供給する。ポンプ310は、たとえば通気システムなどの適切な安全機能を有する水素貯蔵器312に液体水素を充填する。貯蔵器312は、安全通気孔311を有し、いくつかの実施形態においては約225psiの圧力まで、ポンプ310によって加圧される。貯蔵器を流出する導管313内の液体水素は、温度315および圧力316をモニタされる。導管313内の流れは、1対の入口制御弁321によって、2つの熱交換器320のそれぞれに制御可能に分割される。熱交換器320では、後で詳しく述べるように、水素が加温装置の冷却液に対して加熱され、燃料としてエンジン122に充填するために暖められたガスになる。ガスは、熱交換器320から、それぞれ圧力調整器324および328の制御下で、導管323および327の出口制御弁322を通って、エンジン122、122に至る。
【0020】
図4は、ブロック図形式の、航空機の冷却システムの一例を表すものであり、冷却システムは、3つのループ、すなわち、同一であり、各エンジンのタービン圧縮機を冷却する1対のループと、アビオニクスボックスおよびペイロードボックスのための環境を維持する第3のループとを有する。表されている冷却システムは、たとえばプロピレングリコールと水との混合物など、連続的に再循環する冷却液を使用する。この冷却液は、連続的に循環して、除去されなければならない熱を回収し、ついで、回収された熱を除去するために冷却される。したがって、冷却液は、連続的な制御されたサイクルで再利用される。
【0021】
一般に、熱は、エンジン122、各々のエンジン122のターボ圧縮システム171〜175から、またさらには、環境制御システム260から、除去されなければならない一方で、熱は、液体水素に加えられ、燃焼のためにそれをガス状の形態に転換されなければならない。したがって、冷却液は、廃熱を除去して、その熱を水素気化のために加える。システムからの過剰熱は、環境に放出される。
【0022】
2エンジンの実施形態に基づく図示されている例を参照する。3段階の空気圧縮が、各エンジンのために使用される。各エンジン用の冷却システムは、他のエンジンの冷却システムと同一であるので、1つのみを詳細に説明することとする。ラムスクープの空気が低圧圧縮タービン171に入り、圧縮され加熱された空気が流出し、低圧圧縮の中間冷却器172に流れる。低温の冷却液は、低温冷却液ヘッダ202にある。ヘッダ202は、低圧圧縮の中間冷却器172に低温の冷却液を分流させる導管203と、熱を空気から冷却液まで伝達する熱交換器とを有し、導管204を介して加熱された冷却液ヘッダ220に流出する。中間冷却器172を流出する冷却された圧縮空気は、中間段階の圧縮タービン173に入り、ここで、この圧縮空気はより高圧に圧縮されて、圧縮の結果、加熱される。タービン173から流出する加熱された空気は、中圧の中間冷却器174に入り、ここで空気が導管205を介してヘッダ202から供給される低温の冷却液を用いて、熱交換によって冷却される。暖められた冷却液は、導管206内の加熱された冷却液として中間冷却器174から流出して、ヘッダ220に流れる。次に、中間冷却器174を流出する冷却された空気は、最後の高圧圧縮タービン175に入り、ここで冷却された空気がさらに圧縮されて、その結果、加熱される。タービン175からの加熱された流出する空気は、ヘッダ202から導管207を介して中間冷却器176に入る冷却液へ空気から熱を伝達する高圧の中間冷却器176に入り、加熱された冷却液として、中間冷却器176から導管208を介してヘッダ220まで流出する。中間冷却器176を流出する空気は、効率的なエンジン作動に適したある圧力および温度で、エンジン空気取入口(図示せず)に供給される。
【0023】
導管220の加熱された冷却液は、熱い冷却液を空気冷却式のラジエータ230に注入するポンプ224の吸入部に吸い込まれる。冷却液は、液体水素を蒸発させるために十分な熱を保持し、アビオニクスボックス256およびペイロードボックス258を含んで示されている環境システム260の温度制御を可能にするのに必要なある程度にまで、冷却される。冷却された冷却液は、ラジエータ230を流出して、流れは3つの導管に分流させるように制御される。すなわち、1つの導管が、サイクルが繰り返すように、ターボ圧縮システムを冷却するのに使用するためにヘッダ202に戻る(各エンジン122に対して上述したように);環境システムを冷却するための第2の導管250;および、液体水素に熱を供給するための第3の導管270である。
【0024】
上述のように、図3を参照すると、液体水素が概して加熱され、熱交換器320においてガス状の形態になる。次に図4を参照する。冷却されているが低温ではない、ラジエータ230を流出する導管270内の冷却液は、水素液体をガス化するのに十分な熱を保持している。冷却液は、熱交換器320に入り、さらなる冷却された冷却液として導管272を流出して、液体水素に対して熱を失う。この冷却液は導管272から導管220に送られ、したがって、ポンプ224に至る。ポンプ224は、冷却液をラジエータ230に送り戻す。ラジエータ230から、冷却液のうちのいくらかが導管270に流出するので、サイクルが繰り返される。
【0025】
導管250に入るラジエータ230からの冷却液の制御部は、デュアルコアの熱交換器252に充電されるが、他のタイプの熱交換器が使用されてもよい。ラジエータの冷却されたこの冷却液は、ついで、冷却液ヘッダ255を介してポンプ254によって循環し、アビオニクスボックス256およびペイロードボックス258を含む環境制御システム260に至り、ここで冷却液が熱を受け取る。加熱された冷却液は、加熱された冷却液ヘッダ259を介して熱交換器252に戻って循環し、ここで加熱された冷却水が冷却される。熱交換器252を流出する冷却液の一部は、ポンプ254の吸入部に入り、環境260へ戻って再循環され、このサイクルを繰り返す。別の部分は、導管253を介して導管220に流れ、再循環のためにポンプ224を介して空気冷却器230に至る。より少ないかまたはより多い部品数を備えたシステムを含む冷却システムの他の装置は、本発明の範囲から逸脱するものではない。
【0026】
図5Aに示されているように、部分断面図で表されている低温タンク300の一実施形態は、内側球状壁350および周囲の外側球状壁370を有し、この2枚の壁の間に環状空隙375がある。内壁350は、外壁から離れており、中央にある垂直の2重の壁の支柱352によって外壁によって支持されている。単一の支柱352を使用することによって、外壁から内部チャンバ355までの伝導性熱伝達を最小限に抑える。内部チャンバ355は、タンク300が使用中の場合に容量ゲージ358によって測定される高さまでの液体水素を含む。環状空隙375は、1x10−6トルの低圧で完全な真空に近く、環状空隙を通って熱伝達を低減させる。さらに、図5Bに示されているように、いくつかの実施形態において、空隙375は、断熱材料を充填されていてもよく、この断熱材料は、たとえばガラス繊維やエポキシなど、または、カプトン(登録商標)376(デラウェア州のデュポン社(Dupont of Delaware)の商標、マサチューセッツ州ウィンチェスターのMPIテクノロジー株式会社(MPI Technologies Inc.of Winchester,MA)から入手可能)や、ダクロン(登録商標)(北アメリカ、カンザス州ウィチタのインヴィスタ社(Invista North America of Wichita,KS)の商標、ニューヨーク州インウッドのアペックスミルズ社(Apex Mills,of Inwood,NY)から入手可能)網(netting)378などのポリエステル網、または、望ましい低い熱伝達を有する他の適した断熱製品や製品の組合せなど、有孔の、両面をアルミニウム処理したポリイミド薄膜の交互層などである。
【0027】
液体水素低温タンク300はまた、たとえば過度の昇圧を防ぐための通気システム、接地の充填排出システム(ground fill and drain system)、再循環システムおよび給気システムなど、良好な技術的手法の要求に合わせて、他の付属品および安全装置を取り付けられるべきである。
【0028】
一実施形態において、本発明は、胴体、および胴体から延びている翼と;液体水素を含むように適合されている低温容器と;熱交換器および容器の内部と流体連通している、容器からの液体水素を受ける熱交換器と;燃料としてガス状の水素の燃焼に適合されている、胴体または翼に取り付けられているエンジンと;を有する航空機を提供する。
【0029】
任意選択的に、この実施形態は、エンジンに圧縮された吸気を供給する中間冷却型圧縮システムなど、いくつかの特徴を含んでもよい。容器は、胴体内のキャビティに設置されていてもよい。この容器は、壁間を真空に近づける減圧領域を備えた2重の壁の容器であってもよい。容器は、アルミニウム合金の内壁を有していてもよい。内壁と周囲の外壁との間にある環状空隙は、その中に断熱材料を有していてもよい。断熱材料は、ポリイミド断熱材料とポリエステル断熱材料との交互層を含んでいてもよい。エンジンは、内燃エンジンであってもよい。熱交換器は、空気圧縮タービンから除去された熱を含む冷却液と流体連通していてもよい。熱交換器は、冷却液から液体水素へ熱を伝達して、水素液体を水素ガスに転換するように構成されてもよい。航空機が使用中である場合、ポンプが液体水素を熱交換器に充填し、熱交換器がエンジンにガス状の水素を供給するように、航空機は、容器の内部と流体連通している吸入部と、熱交換器と流体連通している排出口とを備えたポンプを有してもよい。
【0030】
別の実施形態において、本発明は、胴体、および胴体から延びている翼と;液体水素を含むように適合されている低温容器と;低温容器の内部と流体連通している吸入部を有し、液体水素を注入するよう適合されているポンプと;燃料としてガス状の水素を燃焼するよう適合されているエンジンと;空気圧縮および水素燃焼によって発生する廃熱を除去する循環冷却液を有する冷却システムと;航空機が使用中である場合に冷却液から液体水素に熱を伝達するために、ポンプの排出部および冷却液と流体連通している熱交換器と;を有する航空機を提供する。
【0031】
任意選択的に、この実施形態は、エンジンに圧縮された吸気を供給する中間冷却型圧縮システムを含む、いくつかの他の特徴を含んでいてもよい。容器は、壁間に真空を備えた2重の壁の容器であってもよい。容器は、アルミニウム合金からなる内壁を有していてもよい。内壁と外壁との間にある環状空隙は、その中に断熱材料を有していてもよい。断熱材料は、ポリイミド断熱材料とポリエステル断熱材料との交互層であってもよい。
【0032】
さらに別の実施形態では、本発明は、胴体から延びている翼を有する胴体と、液体水素を含むように適合され、胴体内に設置されている低温容器であって、この容器は、外壁に包囲され、外壁から間隔を置いて配置されている少なくとも1つの内壁を有し、環状空隙が断熱材料を有する内側と外側の壁の間にあり、外壁が内壁を支持している、低温容器と;液体水素を注入するように適合されている低温容器の内部と流体連通している吸入部を有するポンプと;燃料としてガス状の水素を燃焼させるように適合されている内燃エンジンと;エンジンに圧縮空気を供給する中間冷却型ターボ圧縮システムと;航空機が使用中である場合に熱を冷却液から液体水素に伝達するために、ポンプの排出部および冷却液と流体連通している熱交換器と、を有する航空機を提供する。
【0033】
任意選択的に、実施形態はまた、ポンプとエンジンの中間に水素貯蔵器を含んでいてもよく、ここでは、貯蔵器はポンプから液体水素を受け、熱交換器と流体連通している。
【0034】
少なくとも1つの例示的実施形態が上述の詳細な説明において示されてきたが、非常に多くの変形が存在することを理解されたい。本願明細書において記載されている例示的実施形態または実施形態は、いかなる形であれ本発明の範囲、適応性または構成を制限することを目的としないこともまた、理解されたい。むしろ、上述の詳細な説明は、記載された実施形態または実施形態を実施するための簡便な道筋を当業者に与えるであろう。添付の請求の範囲に記載の本発明の範囲およびその法的均等物から逸脱することなく、要素の機能および構成において種々の変形を施すことが可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】長い翼幅を表す高高度航空機の概略斜視図である。
図2】水素燃料貯蔵容器を表す本発明の一実施形態による航空機の胴体の部分断面図である。
図3】本発明の一実施形態によるエンジンに水素燃料を供給するための流れ図を表すブロック図である。
図4】本発明の一実施形態による、水素駆動航空機用の冷却システムの流れ図を表すブロック図である。
図5A】本発明の一実施形態による、2重の壁のある構造および支柱を表す低温タンクの部分断面図である。
図5B】内断熱を示す図5Aのタンクの一部分の断面図である。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B