特許第5791683号(P5791683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5791683シリンジ用ガスケットおよびそれを備えたシリンジ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791683
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】シリンジ用ガスケットおよびそれを備えたシリンジ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/31 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   A61M5/31
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-215812(P2013-215812)
(22)【出願日】2013年10月16日
(62)【分割の表示】特願2009-548095(P2009-548095)の分割
【原出願日】2008年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-36876(P2014-36876A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2013年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2007-339649(P2007-339649)
(32)【優先日】2007年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089060
【弁理士】
【氏名又は名称】向山 正一
(72)【発明者】
【氏名】堀内 愛子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 英二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】下田 雅美
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−244606(JP,A)
【文献】 特表2002−506694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジの外筒内を液密に摺動可能に接触するよう形成されたガスケットであって、
該ガスケットは、弾性体からなり、前記外筒の内径より若干大きい環状リブを有するガスケット本体と、少なくとも前記環状リブ部分に設けられた被覆層とを備え、
前記被覆層は、末端シラノール基を有する反応性シリコーンの縮合物からなり前記シラノール基に由来するシロキサン結合を有するシリコーン系樹脂を含有する組成物からなるとともに固体微粒子を含まないものであり、
かつ、前記組成物は、シロキサン結合を有する前記シリコーン系樹脂と異なる第2のシリコーン系化合物としてアルキルアルコキシシランまたはフェニルアルコキシシランを、第3のシリコーン化合物としてアミノアルキルアルコキシシランまたはグリシドキシアルキルアルコキシシランを含有していることを特徴とするシリンジ用ガスケット。
【請求項2】
前記組成物は、第3のシリコーン系化合物としてアミノアルキルアルコキシシランを含有し、第4のシリコーン系化合物としてグリシドキシアルキルアルコキシシランを含有している請求項1に記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項3】
前記反応性シリコーンは、両末端シラノール基を有するポリジメチルシロキサンである請求項1または2に記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項4】
前記アミノアルキルアルコキシシランは、3−アミノプロピルトリエトキシシランである請求項1ないし3のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項5】
前記グリシドキシアルキルアルコキシシランは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである請求項1ないし4のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項6】
前記アルキルアルコキシシランは、メチルトリメトキシシランである請求項1ないし5のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項7】
前記フェニルアルコキシシランは、フェニルトリエトキシシランである請求項1ないし5のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項8】
前記反応性シリコーンは、両末端シラノールポリジメチルシロキサンであり、前記アミノアルキルアルコキシシランは、3−アミノプロピルトリエトキシシランであり、前記グリシドキシアルキルアルコキシシランは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである請求項1ないし3のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項9】
前記被覆層は、両末端シラノール基を有する前記反応性シリコーン、アルキルアルコキシシランまたはフェニルアルコキシシラン、アミノアルキルアルコキシシランまたはグリシドキシアルキルアルコキシシランを精製水に分散、懸濁させた被覆液を前記ガスケット表面に塗布させた後、硬化させることにより得られたものである請求項1ないし8のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項10】
前記被覆層は、厚さが1〜30μmであり、前記ガスケット本体の外面全体に形成されている請求項1ないし9のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項11】
前記ガスケットは、前記環状リブとして、前記ガスケット本体の先端部側面に設けられた先端側環状リブと、前記ガスケット本体の後端部側面に設けられた後端側環状リブを備え、前記先端側環状リブおよび前記後端側環状リブには、前記被覆層が設けられている請求項1ないし10のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項12】
外筒と、該外筒内に摺動可能に収納された請求項1ないし11のいずれかに記載のガスケットと、該ガスケットに取り付けられた、あるいは取り付け可能なプランジャーとを有することを特徴とするシリンジ。
【請求項13】
前記シリンジは、薬液が充填されたものである請求項12に記載のシリンジ。
【請求項14】
前記外筒内での前記ガスケットの低速摺動時(100mm/min)における動的摺動抵抗値が20N以下である請求項12または13に記載のシリンジ。
【請求項15】
前記外筒は、プラスチック製外筒である請求項12ないし14のいずれかに記載のシリンジ。
【請求項16】
前記ガスケットは、初期摺動抵抗値が、動的摺動抵抗値の最高値以下である請求項12ないし15のいずれかに記載のシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定した摺動性を有するシリンジ用ガスケット、および該ガスケットを備えたシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬剤取り違え、院内感染防止、廃棄性、病院業務の効率などの理由から薬液を予め充填したプレフィルドシリンジが使用されている。プレフィルドシリンジに使用されるシリンジに拘わらずシリンジは、一般に、外筒と、シリンジ内で摺動し得るガスケットと、このガスケットを移動操作するプランジャーとで構成されている。シリンジの多くは、ガスケットの摺動性を高め、薬液の吐出におおきな乱れが発生せずに高い流動精度を得るため、ガスケットの外面の摺動部若しくはシリンジの内面にシリコーンオイル等が潤滑剤として塗布されている。しかし、薬液によってはこのシリコーンオイル等の潤滑剤との相互作用が生じることが知られている。また、薬液を充填後長期間にわたって保管すると当該相互作用によって薬液が変質してしまうため、プレフィルド化が困難な薬剤もある。
特に薬液を充填した状態で長期間保管するプレフィルドシリンジにおいては、薬液の安定性を維持し続けられる、潤滑剤不要のものが望まれている。
【0003】
そこで、上記の課題を解決するものとして、特許文献1(特開昭62−32970号公報)、特許文献2(特開2002−089717号公報 米国特許7111848号公報)など、ガスケットの表面をガスケット本体材料より摩擦係数の低い材料であるフッ素系樹脂で被覆することにより、潤滑剤を不要としたプレフィルドシリンジが提案されている。
また、本出願人は、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂により構成された被覆層を有するガスケットに関する特許文献3(特開2004−321614号公報)、摺動性付与成分と柔軟性付与成分とを含有する組成物により形成された被膜と、ガスケットに粗面表面を形成するため該被膜に保持された微粒子とからなる被覆層を有するガスケットに関する特許文献4(特開2006−167110号公報)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−32970号公報
【特許文献2】特開2002−089717号公報,米国特許7111848号公報
【特許文献3】特開2004−321614号公報
【特許文献4】特開2006−167110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1(特開昭62−32970号公報)及び特許文献2(特開2002−089717号公報 米国特許7111848号公報)に示されたガスケットは、使用条件によっては効果が期待できる。しかし、高い圧力をかけて薬液を吐出させたり、シリンジポンプ等を用いて薬液を極めて高い精度で長時間にわたって少量ずつ安定して吐出させる性能が求められるプレフィルドシリンジ製剤においては、シリンジに対して求められる基本性能である液密性と摺動性とがいまだトレードオフの関係にある。これらの性能を高い次元で両立させるとともに、更なる高機能を有するシリンジが必要とされている。
すなわちシリンジポンプを用いた薬液投与においては、目視では確認できない程の極低速条件下(例えば、直径約24mmのシリンジにおいて、1mL/時間で吐出させた場合の移動速度は約2mm/時間程度である)において薬液を吐出させた場合、脈動と呼ばれる不安定な吐出の状態が生じがちであり、薬液の正確な投与が妨げられるおそれがあった。
【0006】
また、特許文献3(特開2004−321614号公報)及び特許文献4(特開2006−167110号公報)に示されたガスケットは、液密性を備えかつ、摺動面に潤滑剤を付与することなく、安定した摺動性を有するものである。しかし、前者においては被覆層を形成する材料が多種にわたり製造上およびコスト上の問題がある。後者においてはさらに被覆層に保持された微粒子に起因する被覆層形成の際に生じる困難性が問題となっていた。
そこで、本発明は、上記問題点を解決するものであり、摺動面に潤滑剤を付与することなく安定した摺動性を有するガスケットおよびそれを備えたシリンジを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を解決するものは、以下のものである。
シリンジの外筒内を液密に摺動可能に接触するよう形成されたガスケットであって、該ガスケットは、弾性体からなり、前記外筒の内径より若干大きい環状リブを有するガスケット本体と、少なくとも前記環状リブ部分に設けられた被覆層とを備え、前記被覆層は、末端シラノール基を有する反応性シリコーンの縮合物からなり前記シラノール基に由来するシロキサン結合を有するシリコーン系樹脂を含有する組成物からなるとともに固体微粒子を含まないものであり、かつ、前記組成物は、シロキサン結合を有する前記シリコーン系樹脂と異なる第2のシリコーン系化合物としてアルキルアルコキシシランまたはフェニルアルコキシシランを、第3のシリコーン化合物としてアミノアルキルアルコキシシランまたはグリシドキシアルキルアルコキシシランを含有しているシリンジ用ガスケット。
また、上記目的を解決するものは、以下のものである。
外筒と、該外筒内に摺動可能に収納された上記のガスケットと、該ガスケットに取り付けられた、あるいは取り付け可能なプランジャーとを有することを特徴とするシリンジ。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施例であるガスケットの正面図である。
図2図2は、図1に示すガスケットの断面図である。
図3図3は、図1に示すガスケットの平面図である。
図4図4は、図1に示すガスケットの底面図である。
図5図5は、図1に示すガスケットを使用するプレフィルドシリンジの断面図である。
図6図6は、本発明の実施例のシリンジの吐出特性結果を示す図である。
図7図7は、比較例のシリンジの吐出特性結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施例であるガスケットについて説明する。
図1は、本発明の実施例であるガスケットの正面図である。図2は、図1に示すガスケットの断面図である。図3は、図1に示すガスケットの平面図である。図4は、図1に示すガスケットの底面図である。図5は、図1に示すガスケットを使用するプレフィルドシリンジの断面図である。
本発明のガスケット1は、シリンジの外筒内に摺動可能に接触するガスケットであって、シリンジと接触する部分に設けられた被覆層3を備えており、かつ、被覆層3は、後述する特定のシリコーン系樹脂を含有する組成物により形成されている。
本発明のガスケットをシリンジ用ガスケットおよびシリンジに応用した実施例を用いて説明する。
【0010】
この実施例のガスケット1は、シリンジ用ガスケット1であり、シリンジ用外筒11の内部に液密かつ摺動可能に収納されるものである。また、ガスケット1は、外筒11と接触する部分に設けられた被覆層3を備えており、かつ、被覆層3は、後述する特定のシリコーン系樹脂を含有している。このガスケット1は、コア部2と、少なくともコア部2の外面であって外筒内面と接触する部分に設けられた被覆層3とを備えている。なお、コア部2の外面全体に被覆層3を設けてもよい。
シリンジ用ガスケット1のコア部2は、図1図2図5に示すように、ほぼ同一外径に延びる本体部5と、本体部5の先端側に設けられ先端側に向かってテーパー状に縮径するテーパー部6と、本体部5の基端から先端側に向かって内部に設けられたプランジャー取付部4と、本体部5の先端部側面に設けられた先端側環状リブ7aと、本体部5の後端部側面に設けられた後端側環状リブ7bを備えている。プランジャー取付部4は、図2図4に示すように、本体部5の内部において基端から先端部付近まで延びる略円柱状の凹部となっており、凹部側面には、プランジャーの先端部に形成された螺合部と螺合可能な螺合部8が設けられている。凹部の先端面は、ほぼ平坦に形成されている。なお、プランジャー取付部は、螺合部に限定されず、プランジャーの先端部と係合する係合部であってもよい。
【0011】
環状リブ7a,7bは、シリンジ用外筒11の内径より若干大きく作製されているため、外筒11内で圧縮変形するものとなっている。また、実施例において、環状リブは、2つ設けられているが、1つあるいは3つ以上設けられていてもよい。
コア部2の構成材料としては、弾性材料であることが好ましい。弾性材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム材料(特に、加硫処理したもの)や、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、及びこれらスチレン系エラストマーにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンや、流動パラフィン、プロセスオイル等のオイルやタルク、キャスト、マイカなどの粉体無機物を混合したものが挙げられる。さらに、ポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーや、それら混合物等が構成材料として使用できる。構成材料としては、特に、弾性特性を有し、γ線滅菌、電子線滅菌、高圧蒸気滅菌が可能などの観点からジエン系ゴム、スチレン系エラストマーが好ましい。
【0012】
被覆層3は、少なくとも環状リブ部分に設けられていればよい。具体的には、被覆層3は、先端側環状リブ7aと基端側環状リブ7b部分に設けられていればよい。被覆層3の厚さは、1〜30μm、特に、3〜10μmであることが好ましい。1μm以上であれば、必要な摺動性能を発揮し、30μm以下であれば、ガスケットの弾性に影響を与えることがない。被覆層3は、微粒子を含まないものとなっている。シリコーン系樹脂としては、有機溶剤で溶解した溶剤系、および水に乳化、分散した水系のいずれも適用できるが、ガスケット材料への影響の点、あるいは薬液収納容器としての適性の点から、水系のものが好ましい。被覆層3は、ガスケット本体1を構成している前記弾性材料よりも、摩擦係数の低い材料で構成される樹脂で構成されている。
被覆層3は、末端シラノール基を有する反応性シリコーン系樹脂を含有する組成物からなるとともに固体微粒子を含まないものとなっている。
また、被覆層3は、末端シラノール基を有する反応性シリコーンの縮合物からなりシラノール基に由来するシロキサン結合を有するシリコーン系樹脂を含有する組成物からなるとともに固体微粒子を含まないものとなっている。
そして、反応性シリコーン系樹脂を含有する組成物は、熱硬化性型シリコーン系樹脂、常温硬化型シリコーン系樹脂であることが好ましく、特に、作業性などの点より、熱硬化性型シリコーン系樹脂であることが好ましい。
反応性シリコーンとしては、末端シラノール基を有するポリジメチルシロキサンであることが好ましい。特に、反応性シリコーンは、両末端にシラノール基を有するものであることが好ましい。そして、反応性シリコーンとして、上述した末端シラノール基を有するポリシロキサン系シリコーンを用いた場合、この反応性シリコーンの縮合物は、主鎖の全体にシロキサン結合を有するものとなる。
【0013】
そして、末端シラノール基を有する反応性シリコーンとしては、具体的には、両末端シラノールポリジメチルシロキサン、両末端シラノールポリジフェニルシロキサン、両末端シラノールジフェニルシロキサン−ジメチルシロキンサンコポリマーなどの両末端にシラノール基を有するポリシロキサン系シリコーンが好適である。また、反応性シリコーンの形態としては、特に限定されないが、上記のような反応性シリコーンシロキサン化合物、又はその縮合物からなるポリシロキサンを水性媒体に分散、乳化、溶解したもの、さらにアルコキシシリル基含有ビニルモノマ−を必要に応じて他のビニルモノマ−と共重合してなる共重合体エマルジョン、有機重合体にポリシロキサンを複合化させてなるエマルジョンなども使用できる。
そして、被覆層3を形成する樹脂組成物は、シラノール基もしくはシロキサン結合を有する反応性シリコーン系樹脂と異なる第2のシリコーン系化合物を含有していることが好ましい。第2のシリコーン系化合物としては、アルキルアルコキシシラン、フェニルアルコキシシラン、アルキルフェノキシシラン、アミノアルキルアルコキシシランまたはグリシドキシアルキルアルコキシシランなどが好適である。
さらに、被覆層3を形成する組成物は、アルキルアルコキシシランまたはフェニルアルコキシシランを第2のシリコーン系化合物として含有し、さらに、アミノアルキルアルコキシシランまたは/およびグリシドキシアルキルアルコキシシランを第3のシリコーン系化合物として含有していることが好ましい。
より好ましくは、被覆層を形成する樹脂組成物は、アルキルアルコキシシランまたはフェニルアルコキシシランを第2のシリコーン系化合物として含有し、さらに、アミノアルキルアルコキシシランを第3のシリコーン系化合物として含有し、グリシドキシアルキルアルコキシシランを第4のシリコーン系化合物として含有していることが好ましい。
【0014】
また、第2のシリコーン系化合物としては、アルキルアルコキシシラン、アルキルフェノキシシラン、フェニルアルコキシシランなどが好ましい。アルキルアルコキシシランとしては、炭素数が1〜20の少なくとも一個のアルキル基および炭素数が1〜4の少なくとも一個のアルコキシ基を有する。メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソブトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルsec−トリオクチルオキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、n−オクチルメトキシシロキサン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルトリ(アクリロイルオキシエトキシ)シラン、オクチルトリエトキシシラン、ラウリルトリエトキシシラン、ステアリルトリメトキシシラン、ステアリルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、トリデシルトリメトキシシラン、トリデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリメトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリメトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ノナデシルトリメトキシシラン、ノナデシルトリエトキシシラン、エイコシルトリメトキシシラン、エイコシルトリエトキシシランなどが好適である。
アルキルフェノキシシランとしては、例えば、メチルトリフェノキシシランなどが好適である。また、フェノキシアルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどが好適である。
さらには、第2のシリコーン系化合物として、メチルトリ(グリシジルオキシ)シラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、テトラプロポキシランなども使用できる。
【0015】
さらに、第2のシリコーン系化合物として、アミノアルキルアルコキシシランを用いてもよい。アミノアルキルアルコキシシランとしては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどが好適である。
さらに、第2のシリコーン系化合物として、グリシドキシアルキルアルコキシシランを用いてもよい。グリシドキシアルキルアルコキシシランとしては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが好適である。
さらに、第2のシリコーン化合物としては、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、n−オクチルジメチルクロロシラン、テトラエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランのシラン系化合物などを用いてもよい。
そして、被覆層3を形成する組成物は、第2および第3のシリコーン系化合物を含有するものであってもよい。第2のシリコーン化合物としては、アルキルアルコキシシラン、アルキルフェノキシシラン、フェニルアルコキシシランより選択することが好ましい。また、第3のシリコーン系化合物としては、アミノアルキルアルコキシシランまたはグリシドキシアルキルアルコキシシランを用いることが好ましい。さらに、被覆層を形成する組成物は、第2、第3および第4のシリコーン系化合物を含有するものであってもよい。第2のシリコーン化合物としては、アルキルアルコキシシラン、アルキルフェノキシシラン、フェニルアルコキシシランより選択することが好ましい。また、第3のシリコーン系化合物としては、アミノアルキルアルコキシシランが好ましく、第4のシリコーン系化合物としては、グリシドキシアルキルアルコキシシランを用いることが好ましい。
【0016】
なお、本発明のガスケットに形成された被覆層3では、「固体微粒子」を含まないものなっている。ここでいう「固体微粒子」とは、被覆層3を形成した場合にその外表面の粗度に影響を与える程度の大きさを有する粒子をいい、具体的には被覆層3の厚みに対して10%より大きい粒径を有するものをいう。
以上のように被覆層3を有することにより、本発明のガスケット1は、摺動面に潤滑剤を付与することなく安定した摺動性を有するとともに、薬剤収納空間内の密封性を維持することができる。そして、被覆層(言い換えれば、被膜層を有するガスケット)は、初期摺動抵抗値が動的摺動抵抗値の最高値以下であることが好ましい。このようなものであれば、良好な初期摺動が開始できかつ、過剰な初期移動を起こすこともない。
さらに、水性シリコーン系樹脂としては、架橋重合体であるコア部とそれを被覆する非架橋重合体であるシェル部とを有し、シェルの表面近傍にポリシロキサンを有するポリシロキサン複合水性エマルジョンが好適に使用できる。
【0017】
次に、被覆層3の形成方法について説明する。被膜層の形成方法は、上述のシリコーン系樹脂を所要組成にて所要量配合したものを精製水に分散、懸濁させた被覆液を調製する。そして、この被覆液を清浄なガスケット表面に対して塗布させた後、硬化させることで得られる。このとき、ガスケット表面に塗布させる方法としては、浸漬法、噴霧法等、従来公知の方法で行うことができる。特に、被覆対象物を回転(具体的には、100〜600rpm)させた状態にて、被覆液を噴霧塗布(スプレー塗布)することが好ましい。さらに、噴霧塗布を行う場合には、ガスケットの被覆対象部位を60〜120℃程度に加熱処理した後に行うことが好ましい。このようにすることにより、被覆対象表面に対して、撥水することなく、速やかに被覆液が定着する。
硬化方法としては、常温放置でもよいが、加熱硬化が好ましい。加熱硬化させる方法としては、ガスケット基材を変質、あるいは変形させない方法であれば特に限定されるものではないが、熱風乾燥、赤外線を使用した乾燥炉などが挙げられる。あるいは減圧乾燥機を用いる方法など従来公知の方法で行うことができる。形成される被覆層の厚さは、1〜30μm程度で良く、好ましくは3〜10μmである。このような被膜層を形成するにあたっては、混合液の濃度、あるいは浸漬手法、噴霧手法を適当に制御することで、容易に形成可能である。
【0018】
なお、シリコーン系樹脂を含有する被覆液の調製には、熱硬化を促進させるための触媒を添加剤として用いてもよい。
触媒としては、酸、アルカリ、アミン、金属の有機塩、チタネート、ボレートが用いられるが、オクチル酸亜鉛、オクチル酸鉄、またはコバルト、スズ、鉛などの有機酸塩類が好ましい。
特に、スズの有機酸塩としては、ビス(2-エチルヘキサノエート)スズ、ビス(ネオデカノエート)スズ、ジ-n-ブチルビス(2-エチルヘキシルマレート)スズ、ジ-n-ブチルビス(2,4-ペンタンジオネート)スズ、ジ-n-ブチルブトキシクロロスズ、ジ-n-ブチルジアセトキシスズ、ジ-n-ブチルジラウリル酸スズ、ジメチルジネオデカノエートスズ、ジメチルヒドロキシ(オレエート)スズ、ジオクチルジラウリル酸スズなどが使用できる。
【0019】
また、シリコーン系樹脂を含有する被覆液の調製には、液を均一に乳化、懸濁、分散させておくために、界面活性剤や、アルコール等の添加剤を用いてもよい。
界面活性剤としては、陰イオン(アニオン)界面活性剤であることが好ましい。陰イオン(アニオン)界面活性剤としては、どのようなものでもよいが、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルサルコシン酸塩、N−アシルグルタミン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、分子鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリン、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが使用できる。
また、非イオン(ノニオン)界面活性剤を用いてもよい。非イオン(ノニオン)界面活性剤としては、どのようなものでもよいが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミドなどが使用できる。
【0020】
また、本発明のシリンジ10は、外筒11と、外筒11内に摺動可能に収納されたガスケット1と、ガスケット1に取り付けられた、あるいは取り付け可能なプランジャー17とを有する。
具体的には、シリンジ10は、図5に示すように、先端部に注射針取付部15が設けられ後端部にフランジ16が対向して設けられたシリンジ用外筒11と、シリンジ用外筒11の内面12を液密かつ気密に摺動可能なシリンジ用ガスケット1と、シリンジ用ガスケット1に取り付けられもしくは取り付け可能なプランジャー17と、シリンジ用外筒11の注射針取付部15を封止する封止部材18と、封止部材18と外筒内面12とシリンジ用ガスケット1との間に形成された薬剤26を収納する薬剤収納部19からなる。なお、注射針取付部15には、封止部材18ではなく、注射針が取り付けられていてもよい。また、封止部材としては、図5に示すように、両頭針を直接挿通可能な刺通部を有するタイプであっても良いし、封止部材を外すことではじめて薬剤の排出が可能になるタイプであっても良い。また、ガスケット1は、上述した被覆層3を備えている。そして、このシリンジ10では、外筒11内でのガスケット1の低速摺動時(100mm/min)における動的摺動抵抗値が20N以下であることが好ましい。このような低動的摺動抵抗値は、ガスケット1が上述した被覆層3を有することにより得ることができる。特に、外筒11内でのガスケット1の低速摺動時(100mm/min)における動的摺動抵抗値は、1N〜20Nであることが好ましい。
【0021】
特に、この医療用具は、プレフィルドシリンジ25であり、図5に示すように、シリンジ10と薬剤26からなる。
シリンジ用外筒11は、先端部に注射針取付部15が設けられ、後端部にフランジ16が設けられた円筒状部材である。シリンジ用外筒11は、透明もしくは半透明材料により形成されている。好ましくは、酸素透過性、水蒸気透過性の少ない材料により形成されている。また、形成材料としては、110℃以上のガラス転移点、または融点を有する材料であることが好ましい。
外筒11の形成材料としては、汎用される各種硬質プラスチック材料、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、非晶性ポリアレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、非晶性ポリエーテルイミドなどが好ましく、特に、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート、及び非晶性ポリエーテルイミドが透明性、熱滅菌耐性の点で好ましい。これらの樹脂はバレルに限らず、薬剤を収納可能な容器に共通して使用可能なものである。さらに、ガラスを形成材料として用いてもよい。
【0022】
また、図5に示すようにプランジャー17は、断面十字状の軸方向に延びる本体部20と、プランジャー取付部4と螺合するプランジャー17の先端部に設けられたプランジャー側螺合部21と、プランジャー側螺合部21と本体部20との間に設けられた円盤状のガスケット押圧部と、本体部20の後端に設けられた押圧用の円盤部22と、本体部20の途中に設けられた円盤状のリブを備えている。
そして、この実施例のシリンジ10の内部には、薬剤26が収納されている。薬剤26としては、液剤であっても粉末剤や凍結乾燥剤などの固形剤であっても良いが、難水溶性、吸着性の高い薬液、界面活性剤を含む低粘稠、かつ浸透力の高い薬液などを収納した場合、シリコーンオイルを必要とせず、また被覆層3を収納された薬剤に接する部分に設けた場合は薬剤吸着等を防止できることからより好適に用いることができる。
そして、プランジャー17および封止部材18の構成材料としては、ポリ塩化ビニル、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の硬質もしくは半硬質樹脂を用いることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
ブチルゴムを用いて、図1および図2に示す形状のシリンジ用ガスケットのコア部を作製した。コア部の形成は、ブチルゴムに添加剤を配合した加硫性ゴム組成物をプレス成形することにより行った。得られたコア部の形状は、長さ20mm、先端側及び後端側環状リブ部分での外径23.7mm、先端側環状リブ中央と後端側環状リブ中央間の長さ10mm、先端側環状リブと後端側環状リブ間の同一外径部分での外径21.5mm、内側に雌ねじ部を有するプランジャー取付用凹部の長さ(深さ)8mm、プランジャー取付用凹部の先端側での内径14.5mm、及び後端側での内径15mmであった。
次に、精製水66重量部に、シリコーン系樹脂29重量部、ジオクチルジラウリル酸スズ1重量部を添加して、被覆液を調製した。なお、シリコーン系樹脂は以下のものを、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いて混合した。
【0024】
1)主成分が両末端シラノールポリジメチルシロキサンである製品名1501Fluid(東レ・ダウコーニング株式会社製)25重量部
2)主成分がメチルトリメトキシシランである製品名Z−6366(東レ・ダウコーニング株式会社製)0.1重量部
3)主成分が3−アミノプロピルトリエトキシシランである製品名Z−6011(東レ・ダウコーニング株式会社製)とマレイン酸無水物のエタノール溶液の混合物1重量部(樹脂率は50%)
4)主成分が3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである製品名Z−6040(東レ・ダウコーニング株式会社製)0.5重量部
【0025】
そして、室温、常圧環境下において、上述のように作製したガスケットコア部材を、90℃、30分間加熱処理した後、その中心軸を中心として回転(300rpm)させるとともに、ガスケットの回転する側面側より、上記組成の被覆液をスプレー塗布した後、150℃、30分間乾燥させることによって、本発明のガスケットを作製した。その後、作製したガスケット上の余分な被覆液を洗うために、80℃以上の精製水で、洗浄を実施した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の平均厚さは、約8μmであった。このガスケットを実施例1とした。
【0026】
(実施例2)
精製水66重量部に、実施例1と同じシリコーン系樹脂29重量部、ジオクチルジラウリル酸スズ1重量部を添加して、主剤を調製した。
主剤8重量部に対して、精製水5重量部を添加して、混合することにより、被覆液を調製した。そして、室温、常圧環境下において、上述のように作製したガスケットコア部材を、90℃、30分間加熱処理した後、その中心軸を中心として回転(300rpm)させるとともに、ガスケットの回転する側面側より、上記組成の被覆液をスプレー塗布した後、150℃、30分間乾燥させることによって、本発明のガスケットを作製した。その後、作製したガスケット上の余分な被覆液を洗うために、80℃以上の精製水で、洗浄を実施した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の平均厚さは、約5μmであった。このガスケットを実施例2とした。
【0027】
(実施例3)
精製水66重量部に、シリコーン系樹脂29重量部、ジオクチルジラウリル酸スズ1重量部を添加して、被覆液を調製した。なお、シリコーン系樹脂は以下のものを、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いて混合した。
1)主成分が両末端シラノールポリジメチルシロキサンである製品名DMS−S14(GELEST社製)25重量部
2)主成分がメチルトリメトキシシランである製品名SIP6560.0(GELEST社製)0.1重量部
3)主成分が3−アミノプロピルトリエトキシシランである製品名SIA0610.0(GELEST社製)とマレイン酸無水物のエタノール溶液の混合物1重量部(樹脂率50%)
4)主成分が3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである製品名SIG5840.1(商品名、GELEST社製)0.5重量部
そして、室温、常圧環境下において、上述のように作製したガスケットコア部材を、90℃、30分間加熱処理した後、その中心軸を中心として回転(300rpm)させるとともに、ガスケットの回転する側面側より、上記組成の被覆液をスプレー塗布した後、150℃、30分間乾燥させることによって、本発明のガスケットを作製した。その後、作製したガスケット上の余分な被覆液を洗うために、80℃以上の精製水で、洗浄を実施した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の平均厚さは、約8μmであった。このガスケットを実施例3とした。
【0028】
(実施例4)
精製水66重量部に、シリコーン系樹脂29重量部、ジオクチルジラウリル酸スズ1重量部を添加して、被覆液を調製した。なお、シリコーン系樹脂は以下のものを、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いて混合した。
1)主成分がシラノール基を有するポリアルキルフェニルシロキサンである製品名YR3204(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)25重量部
2)主成分がフェニルトリエトキシシランである製品名TSL8178(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)0.1重量部
3)主成分が3−アミノプロピルトリエトキシシランである製品名TSL8331(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)とマレイン酸無水物のエタノール溶液の混合物1重量部(樹脂率50%)
4)主成分が3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである製品名TSL8350(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)0.5重量部
そして、室温、常圧環境下において、上述のように作製したガスケットコア部材を、90℃、30分間加熱処理した後、その中心軸を中心として回転(300rpm)させるとともに、ガスケットの回転する側面側より、上記組成の被覆液をスプレー塗布した後、150℃、30分間乾燥させることによって、本発明のガスケットを作製した。その後、作製したガスケット上の余分な被覆液を洗うために、80℃以上の精製水で、洗浄を実施した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の平均厚さは、約8μmであった。このガスケットを実施例4とした。
【0029】
(比較例1)
精製水66重量部に、実施例1と同じシリコーン系樹脂29重量部、ジオクチルジラウリル酸スズ1重量部を添加して、主剤を調製した。
さらに、精製水46重量部、シリコンゴムパウダー52重量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル2重量部を添加して、微粒子液を調製した。なお、シリコンゴムパウダーとしては、製品名シリコンゴムパウダーKMP−600(信越化学工業株式会社製)を用いた。主剤5重量部に対して、精製水5重量部、微粒子液3重量部を添加して、混合することにより、被覆液を調製した。
そして、室温、常圧環境下において、上述のように作製したガスケットコア部材を、90℃、30分間加熱処理した後、その中心軸を中心として回転(300rpm)させるとともに、ガスケットの回転する側面側より、上記組成の微粒子含有被覆液をスプレー塗布した後、150℃、30分間乾燥させることによって、本発明のガスケットを作製した。その後、作製したガスケット上の余分な被覆液を洗うために、80℃以上の精製水で、洗浄を実施した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の平均厚さは、約8μmであった。このガスケットを比較例1とした。
【0030】
(比較例2)
精製水66重量部に、実施例1と同じシリコーン系樹脂29重量部、ジオクチルジラウリル酸スズ1重量部を添加して、主剤を調製した。
さらに、精製水46重量部、シリコンゴムパウダーKMP−600(信越化学工業株式会社製)52重量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル2重量部を添加して、微粒子液を調製した。
主剤6重量部に対して、精製水5重量部、微粒子液2重量部を添加して、混合することにより、被覆液を調製した。
そして、室温、常圧環境下において、上述のように作製したガスケットコア部材を、90℃、30分間加熱処理した後、その中心軸を中心として回転(300rpm)させるとともに、ガスケットの回転する側面側より、上記の被覆液をスプレー塗布した後、150℃、30分間乾燥させることによって、本発明のガスケットを作製した。その後、作製したガスケット上の余分な被覆液を洗うために、80℃以上の精製水で、洗浄を実施した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の平均厚さは、約8μmであった。このガスケットを比較例2とした。
【0031】
(比較例3)
精製水66重量部に、実施例1と同じシリコーン系樹脂29重量部、ジオクチルジラウリル酸スズ1重量部を添加して、主剤を調製した。
さらに、精製水46重量部、シリコンゴムパウダーKMP−600(信越化学工業株式会社製)52重量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル2重量部を添加して、微粒子液を調製した。
主剤7重量部に対して、精製水5重量部、微粒子液1重量部を添加して、混合することにより、被覆液を調製した。
そして、室温、常圧環境下において、上述のように作製したガスケットコア部材を、90℃、30分間加熱処理した後、その中心軸を中心として回転(300rpm)させるとともに、ガスケットの回転する側面側より、上記の被覆液をスプレー塗布した後、150℃、30分間乾燥させることによって、本発明のガスケットを作製した。その後、作製したガスケット上の余分な被覆液を洗うために、80℃以上の精製水で、洗浄を実施した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の平均厚さは、約8μmであった。このガスケットを比較例3とした。
【0032】
(比較例4)
精製水100重量部に、フッ素系樹脂1重量部、ケイ素系樹脂10重量部、ウレタン系樹脂3重量部、タルク微粒子(平均粒径約3μm)20重量部、N−メチルピロリドン1重量部、ブチルカルビトール1重量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1重量部を添加して、被覆液を調製した。なお、フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレンを主成分とする製品名ポリフロン(登録商標)TFE(ダイキン工業株式会社製)を用いた。ケイ素樹脂としては、水性ケイ素樹脂(水性シリコーン化合物)である、製品名SE1980(東レ・ダウコーニング株式会社製)を用いた。ウレタン樹脂として、水性ウレタン樹脂である、製品名ローザン1100(トーヨーポリマー株式会社製)を用いた。
さらに、シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシランを主成分とする製品名TSL8310(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を準備した。
そして、主剤95重量部に対してシランカップリング剤5重量部を添加し、混合することにより、被覆液を調製した。
そして、室温、常圧環境下において、上述のように作製したガスケットコア部材を、90℃、30分間加熱処理した後、その中心軸を中心として回転(300rpm)させるとともに、ガスケットの回転する側面側より、上記の被覆液をスプレー塗布した後、150℃、30分間乾燥させることによって、本発明のガスケットを作製した。その後、作製したガスケット上の余分な被覆液を洗うために、80℃以上の精製水で、洗浄を実施した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の厚さは、約10μmであった。このガスケットを比較例4とした。
【0033】
(実験1:被覆液の安定性)
実施例1〜4及び比較例1〜4で調製した被覆液の安定性を評価した。冷蔵保存で1箇月経過後の外観は表1のような結果となった。
【0034】
【表1】
【0035】
(実験2:摩擦係数測定試験)
実施例2で調製した被覆液及び比較例1で調製した被覆液各々を、90℃、30分間加熱処理した30mm×50mm、厚み2mmのEPDMゴムシートに、刷毛塗りし、150℃、30分間乾燥させた。その後、室温で24時間静置した。このゴムシートに100〜1000gの荷重をかけ、ガラス板上を1000mm/minの速度で水平に移動させたときの応力をJIS K7125に準拠した方法で摩擦試験機(往復摩耗試験機TYPE:30、新東科学株式会社製)を用いて測定し、動摩擦係数(μd)及び静摩擦係数(μs)を求めた。結果を表2に示した。
【0036】
【表2】
【0037】
(実験3:摺動抵抗測定試験)
シリンジ用外筒の形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のシリンジ用外筒を作製した。シリンジ用外筒の円筒部分の内径は、23.5mm、長さは、95mmであった。また、プランジャーの形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のプランジャーを作製した。
そして、上記のシリンジ用外筒、実施例1及び2、比較例1〜4の各ガスケット、上記のプランジャーを組み立て、シリンジを作製した。
各シリンジの摺動抵抗値を、オートグラフ(機種名 EZ−Test、会社名 島津製作所)により測定した。具体的には、シリンジの先端およびプランジャーの後端をオートグラフの測定対象物固定部に固定し、プランジャーを100mm/minの速度で60mm降下させたときの初期摺動抵抗値及び最大摺動抵抗値(N)を計測したところ、表3に示すような結果となった。
表3に示すように、実施例1及び2、比較例1〜4の各ガスケットを用いたシリンジは、初期摺動抵抗値及び最大摺動抵抗値ともに、同様なものであった。また、初期摺動抵抗値と最大摺動抵抗値との差が少なく、プランジャーを押し始めた際に薬液が設定量以上に飛び出すおそれがほとんどなく、薬液の吐出を安全かつ正確に行うことができる。初期摺動抵抗値と最大摺動抵抗値共に10N以下の良好な結果が得られた。
JIS K7125に準拠した試験系を採用した実験2において、固体微粒子を含まない被覆液(実施例1)を用いて作製したゴムシートと固体微粒子を含む被覆液(比較例2)を用いて作製したゴムシートを比較すると、固体微粒子を含む被覆液を用いたほうが、摩擦係数が低く滑り性が良いということが示された。しかし、本実験におけるガスケットとシリンジの組み合わせの摺動測定試験の結果からは、固体微粒子を含むことが優位ではなく、固体微粒子を含まない場合も良好な滑り性が示された。
【0038】
【表3】
【0039】
また、上記のシリンジ用外筒、実施例1及び比較例4の各ガスケット、上記のプランジャーを組み立て、シリンジを作製した。その後、精製水40mLを注射筒内へ注入し、注射筒の先端部に封止部材を嵌めて密封し、オートクレーブ滅菌を行った後、上記同様、オートグラフ(機種名 EZ−Test、島津製作所株式会社製)により摺動抵抗値を測定した。試験速度20〜500mm/minにおける初期摺動抵抗値及び最大摺動抵抗値(N)を計測したところ、表4に示すような結果となった。
表4に示すとおり、実施例1のガスケットを用いたシリンジは、微粒子を含む比較例4のガスケットを用いたシリンジと比較して、100mm/minを境にして低い試験速度では摺動抵抗値が減少していることがわかり、薬剤を静脈内注射するのに適した速度における摺動性がより良好であることがわかった。
なお、各試験におけるサンプル数は10とし、表の数値はそれらの平均値である。
【0040】
【表4】
【0041】
また、シリンジ用外筒の形成材料として、ガラス(塩谷硝子株式会社製)を用いて、図5に示す形状のシリンジ用外筒を作製した。シリンジ用外筒の円筒部分の内径は、23mm、長さは、76mmであった。また、プランジャーの形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のプランジャーを作製した。
そして、上記のシリンジ用外筒、実施例1のガスケット、上記のプランジャーを組み立て、シリンジを作製した。その後、精製水20mLを外筒内へ注入し、上記同様、オートグラフ(機種名 EZ−Test、島津製作所株式会社製)により摺動抵抗値を測定した。具体的には、シリンジの先端およびプランジャーの後端をオートグラフの測定対象物固定部に固定し、プランジャーを20、50、100、500mm/minの速度で45mm降下させたときの最大摺動抵抗値(N)を計測したところ、表5に示すような結果となった。
【0042】
【表5】
【0043】
(実験4:滅菌済み注射筒基準に規定された圧力試験)
シリンジ用外筒の形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のシリンジ用外筒を作製した。シリンジ用外筒の円筒部分の内径は、23.5mm、長さは、95mmであった。また、プランジャーの形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のプランジャーを作製した。
そして、上記のシリンジ用外筒、実施例1及び2、比較例1〜4の各ガスケット、上記のプランジャーを組み立て、シリンジを作製した。
滅菌済みのプラスチック製の注射筒であり、そのまま直ちに使用でき、かつ、1回限りの使用で使い捨てる滅菌済み注射筒基準(平成10年12月11日医薬発第1079号医薬安全局長通知)における圧力試験に規定されている試験を実施した。その結果を表3に示した。
なお、試験におけるサンプル数は5とし、全て適合した場合、「適合」とした。
【0044】
(実験5:高浸透性液体密封性試験)
シリンジ用外筒の形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のシリンジ用外筒を作製した。シリンジ用外筒の円筒部分の内径は、23.5mm、長さは、95mmであった。また、プランジャーの形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のプランジャーを作製した。
そして、上記のシリンジ用外筒、実施例1及び2、比較例1〜4の各ガスケット、上記のプランジャーを組み立て、シリンジを作製した。
その後、プラスチック製軟包材ヒートシール部の密封性試験に用いられるエージレス(登録商標)チェッカー(三菱瓦斯化学株式会社製)を用い、密封性試験を実施した。室温で一晩放置し、ガスケット摺動部からの液漏れを目視観察した結果を表3に示した。
なお、試験におけるサンプル数は5とし、全て適合した場合、「適合」とした。
【0045】
(実験6:表面粗度)
実施例1及び2、比較例1〜4の各ガスケットについて、表面粗度を測定した。測定方法は、JIS B0601(1994)に従って行った。結果を表3に示した。
【0046】
(実験7:固着試験)
50mm×70mm、厚み2mmのポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を形成材料とした板を準備した。さらに、本ガスケットコア部材と同じブチルゴム製のゴムシート(10mm×50mm、厚み15mm)を90℃、30分間加熱処理した後、実施例2及び比較例1で用いた被覆液各々をゴムシートにスプレー塗布し、150℃、30分間乾燥させた試料を用意した。
そして、上記のポリプロピレン板と鉄板の間にコーティング面をポリプロピレン板側にして各々試料を挟み、クリップで固定し、40℃、60℃、80℃恒温槽内で各々1日、さらに60℃恒温槽内で10日、20日、30日各々静置した。静置後のサンプルについて、オートグラフ(機種名 EZ−Test、島津製作所株式会社製)により固着度を測定した。結果を表6に示した。
シリンジ用外筒の形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のシリンジ用外筒を作製した。シリンジ用外筒の円筒部分の内径は、23.5mm、長さは、95mmであった。また、プランジャーの形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のプランジャーを作製した。
そして、上記のシリンジ用外筒、実施例2及び比較例1の各ガスケット、上記のプランジャーを組み立て、シリンジを作製した。その後、40℃、60℃、80℃恒温槽内で各々1日、さらに60℃恒温槽内で10日、20日、30日各々静置した。静置後のサンプルについて、ガスケットのシリンジ用外筒への固着度を評価するために、各シリンジの初期摺動抵抗値を、オートグラフ(機種名 EZ−Test、島津製作所株式会社製)により測定した。具体的には、シリンジの先端およびプランジャーの後端をオートグラフの測定対象物固定部に固定し、プランジャーを100mm/minの速度で60mm降下させたときの初期摺動抵抗値(N)を計測したところ、表7に示すような結果となった。
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
表5より、固体微粒子を含まない被覆液(実施例2)を用いて作製したゴムシートと固体微粒子を含む被覆液(比較例1)を用いて作製したゴムシートを比較すると、固体微粒子を含む被覆液を用いたほうが、固着度が低いことが示された。しかし、本ガスケットとシリンジの組み合わせの摺動測定試験の初期摺動抵抗値から得られた固着試験においては(表6)、固体微粒子を含むことが優位ではなく、固体微粒子の有無による固着度に差はないことが示された。
【0050】
(実験8:不溶性微粒子試験)
シリンジ用外筒の形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のシリンジ用外筒を作製した。シリンジ用外筒の円筒部分の内径は、23.5mm、長さは、95mmであった。また、プランジャーの形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のプランジャーを作製した。 そして、上記のシリンジ用外筒、実施例1及び比較例1の各ガスケット、上記のプランジャーを組み立て、シリンジを作製した。
その後、精製水40mLを注射筒内へ注入し、注射筒の先端部に封止部材を嵌めて密封し、オートクレーブ滅菌を行った後、10分間激しく振とう後の精製水中の不溶性微粒子を測定した。結果を表8に示した。
【0051】
【表8】
【0052】
(実験9:シリンジポンプを用いた流量精度評価試験)
シリンジポンプ(TE−331、テルモ株式会社製)を用い、シリンジの流量精度評価を実施した。シリンジ用外筒の形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のシリンジ用外筒を作製した。シリンジ用外筒の円筒部分の内径は、23.5mm、長さは、95mmであった。また、プランジャーの形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のプランジャーを作製した。
そして、上記のシリンジ用外筒、実施例1及び比較例1の各ガスケット、上記のプランジャーを組み立て、シリンジを作製した。
その後、精製水40mLを注射筒内へ注入し、注射筒の先端部に封止部材を嵌めて密封し、オートクレーブ滅菌を行った後、各シリンジをシリンジポンプへセットして、5mL/hの流量で精製水を8時間吐出させ、電子天秤を用いて、その重量を30秒間隔で経時的に測定したところ、図6(実施例1)および図7(比較例1)に示すような吐出振幅結果が得られた。図より明らかに、実施例1のほうが振幅が小さく、安定した吐出であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のガスケットは、下記(1)のものである。
(1)シリンジの外筒内を液密に摺動可能に接触するよう形成されたガスケットであって、該ガスケットは、弾性体からなり、前記外筒の内径より若干大きい環状リブを有するガスケット本体と、少なくとも前記環状リブ部分に設けられた被覆層とを備え、前記被覆層は、末端シラノール基を有する反応性シリコーンの縮合物からなり前記シラノール基に由来するシロキサン結合を有するシリコーン系樹脂を含有する組成物からなるとともに固体微粒子を含まないものであり、かつ、前記組成物は、シロキサン結合を有する前記シリコーン系樹脂と異なる第2のシリコーン系化合物としてアルキルアルコキシシランまたはフェニルアルコキシシランを、第3のシリコーン化合物としてアミノアルキルアルコキシシランまたはグリシドキシアルキルアルコキシシランを含有しているシリンジ用ガスケット。
そして、本発明のシリンジ用ガスケットは、外筒と接触する部分に設けられた被覆層を備え、被覆層は、上記の特定のシリコーン系樹脂を含有する組成物からなるものであり、このため、摺動面に潤滑剤を付与することなく安定した摺動性を有する。
そして、本発明のガスケットの被覆層は、末端シラノール基を含む反応性シリコーンとそれを硬化させる触媒を含有する水系被覆剤を用いることにより形成することができ、安定かつ容易かつ確実に作製できる。
さらに、本発明のガスケットの被覆層は、微粒子を含有する被覆層に比べ、低速摺動時に良好な摺動性を有するとともに、保存時にシリンジとガスケットの貼り付きを起こすこともないため、使用時に滑らかな初動が可能となり、急激な注入が避けられ、一定速度での注入が可能となる。
また、血管確保の確認のために行われる事の多い吸引操作を行った場合でも、微粒子を含有する被覆層を有するガスケットでは、その微粒子の離脱の可能性が皆無ではない。本願発明では、微粒子を含有しないため、ガスケットからの微粒子離脱のリスクは皆無である。
そして、本発明の実施態様は、以下のものであってもよい。
(2) 前記組成物は、第3のシリコーン系化合物としてアミノアルキルアルコキシシランを含有し、第4のシリコーン系化合物としてグリシドキシアルキルアルコキシシランを含有している上記(1)に記載のシリンジ用ガスケット。
(3) 前記反応性シリコーンは、両末端シラノール基を有するポリジメチルシロキサンである上記(1)または(2)に記載のシリンジ用ガスケット。
(4) 前記アミノアルキルアルコキシシランは、3−アミノプロピルトリエトキシシランである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
(5) 前記グリシドキシアルキルアルコキシシランは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
(6) 前記アルキルアルコキシシランは、メチルトリメトキシシランである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
(7) 前記フェニルアルコキシシランは、フェニルトリエトキシシランである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
(8) 前記シラノール基を有する反応性シリコーンは、両末端シラノールポリジメチルシロキサンであり、前記アミノアルキルアルコキシシランは、3−アミノプロピルトリエトキシシランであり、前記グリシドキシアルキルアルコキシシランは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
(9) 前記被覆層は、両末端シラノール基を有する前記反応性シリコーン、アルキルアルコキシシランまたはフェニルアルコキシシラン、アミノアルキルアルコキシシランまたはグリシドキシアルキルアルコキシシランを精製水に分散、懸濁させた被覆液を前記ガスケット表面に塗布させた後、硬化させることにより得られたものである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
(10) 前記被覆層は、厚さが1〜30μmであり、前記ガスケット本体の外面全体に形成されている上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
(11) 前記ガスケットは、前記環状リブとして、前記ガスケット本体の先端部側面に設けられた先端側環状リブと、前記ガスケット本体の後端部側面に設けられた後端側環状リブを備え、前記先端側環状リブおよび前記後端側環状リブには、前記被覆層が設けられている上記(1)ないし(10)のいずれかに記載のシリンジ用ガスケット。
(12) 外筒と、該外筒内に摺動可能に収納された上記(1)ないし(11)のいずれかに記載のガスケットと、該ガスケットに取り付けられた、あるいは取り付け可能なプランジャーとを有するシリンジ。
(13) 前記シリンジは、薬液が充填されたものである上記(12)に記載のシリンジ。
(14) 前記外筒内での前記ガスケットの低速摺動時(100mm/min)における動的摺動抵抗値が20N以下である上記(12)または(13)に記載のシリンジ。
(15) 前記外筒は、プラスチック製外筒である上記(12)ないし(14)のいずれかに記載のシリンジ。
(16) 前記ガスケットは、初期摺動抵抗値が、動的摺動抵抗値の最高値以下である上記(12)ないし(15)のいずれかに記載のシリンジ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7