(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791711
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】イソブチレンからターシャリブチルアミンへの改良型転換方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/60 20060101AFI20150917BHJP
C07C 209/86 20060101ALI20150917BHJP
C07C 211/07 20060101ALI20150917BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20150917BHJP
B01J 29/70 20060101ALN20150917BHJP
【FI】
C07C209/60
C07C209/86
C07C211/07
!C07B61/00 300
!B01J29/70 X
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-514841(P2013-514841)
(86)(22)【出願日】2011年6月17日
(65)【公表番号】特表2013-532150(P2013-532150A)
(43)【公表日】2013年8月15日
(86)【国際出願番号】IN2011000406
(87)【国際公開番号】WO2011158258
(87)【国際公開日】20111222
【審査請求日】2014年5月30日
(31)【優先権主張番号】1419/DEL/2010
(32)【優先日】2010年6月18日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】596020691
【氏名又は名称】カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】100081318
【弁理士】
【氏名又は名称】羽切 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100122541
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 友彰
(74)【代理人】
【識別番号】100132458
【弁理士】
【氏名又は名称】仲村 圭代
(72)【発明者】
【氏名】ボーカーデー、ヴィジャヴ ヴァサント
(72)【発明者】
【氏名】ジョーシー、プラプーラ ナーラーハル
(72)【発明者】
【氏名】ニファードカール、プラシャーント スレーシュ
【審査官】
吉田 直裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−004948(JP,A)
【文献】
特表2003−532699(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1436768(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 209/60
C07C 211/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.温度を200〜300℃の範囲内とし、アンモニアまたはアンモニアと水素との混合圧を20〜33barの範囲内とし、重量空間速度(WHSV,h−1)を3〜5の範囲内とし、イソブチレンに対するアンモニアのモル比を3〜5の範囲内とし、時間を15〜100時間の範囲内として、Si:Al比が12.5:1〜125:1の範囲内のBEAゼオライト触媒の存在下でイソブチレンとアンモニアとを接触させる工程と、
b.ステップ(a)の反応混合物を10〜30℃の範囲内の温度まで冷却する工程と、
c.未反応のイソブチレン、アンモニア、および副生成物を、ステップ(b)で得られた前記反応混合物から蒸留により分離し、ターシャリブチルアミンを得る工程と、を含むイソブチレンからターシャリブチルアミンへの改良型転換方法。
【請求項2】
前記ターシャリブチルアミンの選択率は、93〜100%の範囲内である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ターシャリブチルアミンの収率は、12〜45%の範囲内である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イソブチレンの転換率は、12〜50%の範囲内である請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧かつ低温で50%まで転換される高収率かつ高転換率のイソブチレンからターシャリブチルアミンへの改良型転換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プロセスに携わる化学者やエンジニアの間では、オレフィンのアミン化によるアミン製造での課題について、弛むことなく研究が進められてきた。このような課題は、多くの特許においても対象とされてきた。ここ数年もの間、種々の調査に基づく改良が継続的に行われている。しかしながら、収率や転換率、触媒の選択には、未だ多大な改善の余地が残されている。
【0003】
米国特許第4,307,250号および米国特許第4,375,002号(Peterson等)は、気相触媒アミン化によるアミンの製造プロセスに関し、アミンは効率的に形成されるがポリマ形成は阻害されるに足る温度および圧力にてオレフィンを反応させている。温度は200℃〜450℃であり、圧力は300〜6000psigであり、ゼオライト触媒等のアルミノ珪酸塩を用いる。95%を超える選択率が得られ、また、転換率は3〜20%である。
【0004】
また、欧州特許第0305564号は、C2〜8オレフィンのアミン化における改良型触媒プロセスに関する。係る触媒は、脱アルミニウム処理したゼオライトであり、元となるゼオライトからSi:Alのモル比を増加させている。脱アルミニウム処理したH−モルデナイト触媒は、600〜1100psigの圧力でイソブチレンをアミン化してターシャリブチルアミンを得る際、特に有用である。
【0005】
また、米国特許第6,809,222号(欧州特許第1289925号)には、ZSM−5型のようなゼオライト触媒等の不均一系もしくは均一系触媒の存在下で、C
2〜C
8アルケン(特に、イソブチレン)に、継続的にアンモニアを添加して得られる脂肪族アミンについて開示されている。このとき、圧力を300〜1200psig(2〜8MPa,20〜80bar)とし、温度を220〜320℃とし、アルケンに対するアンモニアのモル比を1.5〜20とする。イソブチレンからターシャリブチルアミンへの転換率は5%であり、選択率は99.5%である。アルミナに対するシリカの比率については触れられていない。
【0006】
「触媒」(October 1996, Vol 163, Issue 2, page 255-261)の、表題を「プロトン型ゼオライトを用いたブタンのアミン化」(M. Lequitte等)とする論文では、アンモニア
を用いた1−ブテンとイソブテンとの反応について研究がなされている。標準条件下(アンモニア/オレフィンのモル比=1、全圧4Mpa,600psig)で温度を異ならせ、数種類のゼオライトの比較を行っている。イソブテンの反応による主生成物はターシャリブチルアミンであり、低温にて高選択率をもって形成することができる。係る反応条件(4MPa)において、250℃で熱力学的に平衡となった状態では、ターシャリブチルアミンへの転換率は約20%である。
【0007】
継続出願(CA)に係る米国特許第2,092,964号は、アンモニアまたはアミンと、1分子中の炭素数が2〜10であるオレフィンとを反応させる工程を含むアルキルアミンの調整方法に関し、オレフィンはイソブチレンであり、モル比を1:1〜10:1、好ましくは2:1とし、シリカ−アルミナのモル比が10:1〜100:1のベータゼオライトを含む触媒の存在下で、温度を100℃〜350℃、特に260℃〜300℃とし
、圧力を1000psig〜5000psig(68.95〜344.74bar)、好ましくは1500psig〜3500psigとし、液空間速度を0.1〜10.0h
−1とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主要な目的は、従来技術に係る方法と比較して、転換率を50%にまで向上させたイソブチレンからターシャリブチルアミンへの改良型転換方法を提供することである。
【0009】
また、本発明の他の目的は、選択率が少なくとも90%となるイソブチレンからターシャリブチルアミンへの改良型転換方法を提供することである。
【0010】
本発明の上記目的は、低温かつ低圧で、イソブチレンをターシャリブチルアミンに転換する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
a)温度を200〜300℃の範囲内とし、アンモニアまたはアンモニアと水素との混合圧を20〜33barの範囲内とし、重量空間速度(WHSV,h
−1)を3〜5の範囲内とし、イソブチレンに対するアンモニアのモル比を3〜5の範囲内とし、15〜100時間の間、触媒の存在下でイソブチレンとアンモニアとを接触させ、
b)ステップ(a)の反応混合物を10〜30℃の範囲内の温度まで冷却し、
c)未反応のイソブチレン、アンモニア、および副生成物を、ステップ(b)で得られた反応混合物から蒸留により分離し、ターシャリブチルアミンを得る
イソブチレンからターシャリブチルアミンへの改良型転換方法である。
【0012】
本発明の他の態様は、
ステップ(a)で用いる触媒は、Si:Al比が12.5:1〜125:1の範囲内のBEA構造を持つ固体のゼオライトである。
【0013】
本発明の他の態様は、
ターシャリブチルアミンの選択率は、93〜95%の範囲内である。
【0014】
本発明の他の態様は、
ターシャリブチルアミンの収率は、12〜45%の範囲内である。
【0015】
本発明の他の態様は、
ステップ(a)では、アンモニアを単独でまたは水素と混合して用いる。
【0016】
本発明の他の態様として、
本発明により、転換率が12〜50%の範囲内となるイソブチレンからターシャリブチルアミンへの改良型転換方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
従って、本発明によれば、低圧かつ低温で50%まで転換される高収率かつ高転換率のイソブチレンからターシャリブチルアミンへの改良型転換方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】BEAゼオライトのX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
イソブチレンからターシャリブチルアミンへの転換は、BEA構造を持つ固体のゼオライトを触媒とするプロセスにより行われ、12〜50%の転換率が得られる。本発明のBEA構造のゼオライト触媒は、シリカ:アルミナ比が12.5:1である。本発明に係る方法(プロセス)は、
a.温度を200〜300℃の範囲内とし、アンモニア、および/または、水素(アンモニア単独、またはアンモニアと水素との混合圧とすることができる)の圧力を20〜33barの範囲内とし、重量空間速度(WHSV,h
−1)を3〜5の範囲内とし、イソブチレンに対するアンモニアのモル比を3〜5の範囲内とし、15〜100時間の間、触媒としてのBEA構造を持つ固体のゼオライトの存在下でイソブチレンとアンモニアとを接触させる工程と、
b.ステップ(a)の反応混合物を10〜30℃の範囲内の温度まで冷却する工程と、
c.ステップ(b)で得られた反応混合物より、未反応のイソブチレン、アンモニア、および副生成物を蒸留により分離してターシャリブチルアミンを得、あるいは、ターシャリブチルアミンを未反応のイソブチレン、アンモニア、および副生成物から蒸留により単離する工程と、を含む。
【0020】
以下に例示するように、本発明のプロセスによる転換率は12〜50%であり、ターシャリブチルアミンへの選択率は93〜100%である。
【0021】
実施例1〜6では、ZSM−5型触媒(移動度(M/S)の観点からゼオライトの空孔のサイズを5μmとする)を用いることで、本発明に係るターシャリブチルアミンの調整プロセスを比較する。以下に例示するように、ZSM−5型触媒と比べ、BEAゼオライト触媒を用いることで、本発明のプロセスによるターシャリブチルアミンの転換率およびターシャリブチルアミンへの選択率が向上する。
【実施例】
【0022】
以下に挙げる実施例は、本発明のプロセスを例示するものであって、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
(触媒の合成手順の概略)
BEA構造を持つ固体のゼオライトは、過剰なアルミナを取り除いて所望のSi/Al比を得る脱アルミニウムの後処理ステップを行うことなく、水熱合成法により合成したままの状態で調整される。BEA構造を持つ固体のゼオライトを、酸化物のモル組成が6.0(TEA)
2O:2.4 Na
2O:25.0 SiO
2:Al
2O
3:840.0 H
2Oであるアルミノ珪酸塩のゲルから、水熱条件下で結晶化させて調整した。用いた試薬は、アルミン酸ナトリウム(43.8%のAl
2O
3、39.0%のNa
2O)、シリカゾル(40%のSiO
2)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH,aq.30%重量比(wt/wt)溶液)、水酸化ナトリウム(AR)およびイオン交換水である。最終的に得られた均一系反応混合物をステンレス鋼製オートクレーブに投入し、密閉した後、140℃に維持した熱風乾燥炉内に72時間保持した。72時間後、オートクレーブを炉内から取り出し、室温まで冷却した。固体の生成物を遠心分離/濾過法により分離し、イオン交換水にて充分に洗浄した後、固定式熱風乾燥炉内にて120℃で12時間乾燥させた。この乾燥させたサンプルを、更に560℃で16時間、熱風を循環させながら焼成した。温度は室温から560℃まで、2℃/分の割合で上昇させた。このように得られた焼成サンプルを、更に、80℃で6時間かけて3回、1Mの塩化アンモニウム(比率が15ml/固形g)を用いて繰り返しイオン交換した。過剰な塩を、塩化物イオンが検出されなくなるまでイオン交換水にて洗浄し、固形物を100℃で乾燥した。この
サンプルを、更に500℃で6時間、熱風を循環させながら焼成し、プロトン型へと転換させた。最終的に得られた粉末状のサンプルをゼオライト:アルミナ結着剤の比が60:40の押出成形物に成形した。
BET表面積:600m
2/gm
SEMで観た粒子サイズ:0.15μm
(SiO
2/Al
2O
3)
モル比:25
【0024】
(ターシャリブチルアミンの合成手順の概略)
発明に係る方法(プロセス)は、
a.温度を200〜300℃の範囲内とし、アンモニア、および/または、水素の圧力(アンモニア単独、またはアンモニアと水素との混合圧とすることができる)を20〜33barの範囲内とし、重量空間速度(WHSV,h
−1)を3〜5の範囲内とし、イソブチレンに対するアンモニアのモル比を3〜5の範囲内とし、15〜100時間の間、触媒としてのBEA構造を持つ固体のゼオライトの存在下でイソブチレンとアンモニアとを接触させる工程と、
b.ステップ(a)の反応混合物を10〜30℃の範囲内の温度まで冷却する工程と、
c.ステップ(b)で得られた反応混合物より、未反応のイソブチレン、アンモニア、および副生成物を蒸留により分離してターシャリブチルアミンを得、あるいは、ターシャリブチルアミンを未反応のイソブチレン、アンモニア、および副生成物から蒸留により単離する工程と、を含む。
【0025】
発明に係るプロセスにおいて、アンモニア/イソブチレンのモル比は3〜5の間で変化し、WHSV h
−1は3〜5の間で変化する。
【0026】
(実施例1)
温度を250℃、圧力を30bar、Si/Al比を125(ZSM−5)とし、NH
3/イソブチレンのモル比を3.97とし、WHSVを3.98とした場合、30時間に亘る経時変化の結果、ターシャリブチルアミンへの転換率が12.8%、選択率が100%、収率が12.8%となった。
【0027】
(実施例2)
温度を250℃、圧力を30bar、Si/Al比を125(ZSM−5)とし、NH
3/イソブチレンのモル比を4.14とし、WHSVを3.69とした場合、30時間に亘る経時変化の結果、ターシャリブチルアミンへの転換率が22.53%、選択率が97%、収率が21.85%となった。
【0028】
(実施例3)
温度を250℃、圧力を30bar、Si/Al比を125(ZSM−5)とし、NH
3/イソブチレンのモル比を4.02とし、WHSVを4.08とした場合、30時間に亘る経時変化の結果、ターシャリブチルアミンへの転換率が17.9%、選択率が96.3%、収率が17.23%となった。
【0029】
(実施例4)
温度を250℃、圧力を30bar、Si/Al比を20(ZSM−5)とし、NH
3/イソブチレンのモル比を4.27とし、WHSVを3.95とした場合、30時間に亘る経時変化の結果、ターシャリブチルアミンへの転換率が31.52%、選択率が98.7%、収率が31.11%となった。
【0030】
(実施例5)
温度を250℃、圧力を30bar、Si/Al比を20(ZSM−5)とし、NH
3/イソブチレンのモル比を3.96とし、WHSVを4.68とした場合、30時間に亘る経時変化の結果、ターシャリブチルアミンへの転換率が31.4%、選択率が98.7%、収率が30.99%となった。
【0031】
(実施例6)
温度を250℃、圧力を33bar、Si/Al比を20(ZSM−5)とし、NH
3/イソブチレンのモル比を4.01とし、WHSVを4.46とした場合、30時間に亘る経時変化の結果、ターシャリブチルアミンへの転換率が31.4%、選択率が98%、収率が30.77%となった。
【0032】
(実施例7)
温度を250℃、圧力を30bar、Si/Al比を12.5(BEAゼオライト)とし、NH
3/イソブチレンのモル比を4.11とし、WHSVを3.87とした場合、30時間に亘る経時変化の結果、ターシャリブチルアミンへの転換率が47.8%、選択率が93.7%、収率が44.78%となった。
【0033】
(実施例8)
温度を250℃、圧力を27bar、Si/Al比を12.5(BEAゼオライト)とし、NH
3/イソブチレンのモル比を3.63とし、WHSVを4.44とした場合、30時間に亘る経時変化の結果、ターシャリブチルアミンへの転換率が42.6%、選択率が95.4%、収率が40.64%となった。
【0034】
(実施例9)
温度を250℃、圧力を27bar、Si/Al比を12.5(BEAゼオライト)とし、NH
3/イソブチレンのモル比を3.79とし、WHSVを3.93とした場合、30時間に亘る経時変化の結果、ターシャリブチルアミンへの転換率が41%、選択率が95.3%、収率が39.07%となった。
【0035】
<本発明の効果>
1.プロセスが低温および低圧にて行われる。
2.低温および低圧の条件にて、転換率を改善することができる。
3.低温および低圧の条件にて、選択率の改善が認められる。