【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、従来技術の欠点を解消し、車両の防音にとって重要な周波数範囲にわたって作用する防音トリム部品を得ることにある。本発明の目的は、特に、防音に用いられる質量を最適化することにある。
【0022】
本発明の目的は、請求項1に記載の防音トリム部品によって達成され、この防音トリム部品は、音響質量ばね特性を有する少なくとも1つの遮音領域を具える防音トリム部品であって、遮音領域は、質量層と、質量層に隣接したデカップリング層と、を少なくとも具え、質量層は、多孔質繊維層とバリア層とからなり、バリア層は、多孔質繊維層とデカップリング層との間に配置され、すべての層は、ともに積層され、少なくとも遮音領域の多孔質繊維層は、少なくとも約、
【数1】
の動的ヤング率(Pa)を有するように調整され、AWbは、バリア層の面積質量(g/m
2)であり、AWpは、多孔質繊維層の面積質量(g/m
2)であり、tpは、多孔質繊維層の厚み(mm)であり、νは、放射周波数(Hz)であり、放射周波数νは、少なくとも3000Hzであり、バリア層は、少なくとも400g/m
2の面積質量を有する。
【0023】
車室にとって、800Hzから3000Hzの周波数範囲は、遮音トリム部品が最も効果的である領域である。理想的な質量ばね系は、12dB/オクターブの増加率を有するIL曲線を示す。質量層において使用される実際の質量のみが、得られた全体の遮音を決定する。ABA系を用いてこの同じ増加率を得るために、放射周波数νは、対象の周波数範囲の周波数上限を上回らなければならず、この場合、少なくとも3000Hz超であり、好ましくは4000Hz超であり、より好ましくは5000Hz超である。ただし、上限は用途に依存する。
【0024】
驚くべきことに、多孔質繊維層を構成している材料の動的ヤング率と放射周波数との間に関係があることが判明した。この関係は、多孔質繊維層の面積質量および厚みと、バリア層の面積質量と、にパラメータ的に依存する。下部の質量ばね系の全体の遮音性能を悪化させないために放射周波数が十分に高い、好ましくは少なくとも3000Hz超の多孔質繊維層の材料を使用するために、動的ヤング率Eは、少なくとも、約
【数2】
でなければならない。これは、例えば、材料、材料の面積質量、材料の厚み、および、必要な圧縮のレベルの適切な選択によって達成可能である。すべての材料が、必要なヤング率を達成するというわけではない。
【0025】
多孔質繊維層を構成している材料の動的ヤング率を、請求項にて規定したように、放射周波数が対象の周波数範囲外に存在するのに必要な最小のヤング率を上回るように調整することによって、12dB/オクターブの増加率が、系のIL曲線において得られる。このようにして、本発明によるABA系のIL曲線は、下部の質量ばね系のIL曲線と質的に同様の挙動を示す。同時に、本発明によるABA系のIL曲線が下部の質量ばね系のIL曲線より高いこともまた観察され、この違いは、多孔質繊維層の追加の質量によるものである。このように、多孔質繊維層は系の遮音機能に関与し、バリア層および多孔質繊維層からなる質量層の完全な質量可能性はトリム部品の遮音特性のために用いられる。同時に、調整されたヤング率を有する多孔質繊維層は、吸音特性を維持する。
【0026】
本発明では、本発明のヤング率を有する多孔質繊維層の形態での吸音上層は、質量ばね効果に積極的に関与する材料の量を増加させる。
【0027】
本発明のABAを用いて、任意の特定の車両用途、特に、内部ダッシュまたは床仕上げ材のためのトリム部品を調整することができる。調整は、例えば同じ総重量でより良好な遮音性能を得られるという性能の観点、または、例えばより軽量で同じ全体的遮音性能を得られるという質量の観点で得られる。
【0028】
冒頭で説明した質量ばね系の共振周波数と、本発明において説明した、上部の多孔質繊維層およびバリア層によって形成される質量層の放射周波数とは、種々の独立した影響をIL曲線に与える。両方は、本発明による多層のIL曲線に現れ、遮音性能に悪影響を与え、IL曲線に下落を発生させる。しかし、2つの下落は、通常、IL曲線の2つの別個の領域にて観察される。検討されているタイプの多層では、質量ばねの共振周波数は、通常、200Hzから500Hzの範囲で観察され、質量層の放射周波数は、約800Hz超の範囲で観察される。明確にするために、2つの異なる用語「共振」周波数および「放射」周波数を使用して、2つの異なる周波数を区別する。
【0029】
表面全体にABAタイプの構成を有するトリム部品を作ることは可能であるが、異なる音響機能(例えば、吸音のみ、遮音のみ)に専用の異なる領域を有する、または、複合領域を有するトリム部品を有することも可能である。
【0030】
本発明の好適なトリム部品は、遮音領域および吸音領域の両方が、車両の防音を微調整するのに必要であるという考えに基づく。遮音領域および吸音領域の両方ために、トリム部品の全領域にわたって同一の多孔質繊維層を用いることによって、トリム部品において、好ましくは個別の領域において、両方の機能を統合することができる。当業者は、経験から、どの領域がどんなタイプの音響機能を必要とするかを知っており、この知識を用いて、同時に、1つの部品に少ない数の材料を用いて、部品を供給することができ、ニーズに従って部品を設計することができる。本発明のトリム部品は、少なくとも1つの吸音領域および1つの遮音領域を有するが、各音響機能(遮音または吸音)当たりの領域の実際数または領域のサイズは、部品および部品の使用位置に応じて、および、大事なことに、実際の要件に応じて異なりうる。
【0031】
吸音領域は、主に吸音材として機能するトリム部品の領域として定義される。
【0032】
遮音領域は、少なくとも良好な遮音材として機能するトリム部品上の領域として定義される。
【0033】
多孔質繊維層
フェルトまたは不織布のような多孔質繊維様材料を、吸音部品の構造のために使用することは、特にABA系の上部の吸音材の場合周知である。繊維層が厚いほど、吸音は良好である。しかしながら、遮音性能全体の吸音上層の負の影響は、従来技術において周知ではなく、特に、どのように多孔質繊維層の特性を調整し、遮音に対するこの負の影響を回避し、遮音目的のために多孔質繊維層の質量を完全に利用するべきかについては周知ではない。
【0034】
驚くべきことに、多孔質繊維層の動的ヤング率が、以下の通り、多孔質繊維層およびバリア層によって形成される質量層の放射周波数に関連することが判明した。
【数3】
(式1)
ここで、Eは、多孔質繊維層を構成している材料の動的ヤング率(Pa)であり、νは、放射周波数(Hz)であり、AWbは、不浸透性のバリア層の面積質量(kg/m
2)であり、AWpは、多孔質繊維層の面積質量(kg/m
2)であり、tpは、多孔質繊維層の厚み(m)である。この関係によれば、多孔質繊維材料の動的ヤング率の適当な値によって、対象の周波数範囲外の放射周波数を有するトリム部品の設計が可能になり、したがって、対象の周波数範囲における挿入損失に影響を与えない。特に、多孔質繊維層の動的ヤング率が、ν0=3000Hzのとき、
【数4】
によって定義される最小値より高い場合、質量ばね系の放射周波数は、車両内、特に車室内のトリム部品の用途の対象の周波数範囲を上回るように現れる。
【0035】
特に質量ばね系から所定の質量が必要とされるとき、車両内の遮音のための対象の周波数範囲は、ほとんどの場合、最高3000Hzであるが、周波数範囲は、実際の用途およびノイズレベル要件に応じて、4000Hzまで、または、5000Hzまでになりうる。例えば、遮音が3000Hzまでの周波数範囲において必要であるとき、ν0は3000Hzに等しくなければならず、結果として、動的ヤング率は少なくとも
【数5】
でなければならない。ここで、AWbは、不浸透性の質量層の面積質量(g/m
2)であり、AWpは、多孔質繊維層の面積質量(g/m
2)であり、tpは、多孔質繊維層の厚み(mm)である。この式は、繊維材料がもはや容易に圧縮不可能なときの高い動的ヤング率を与える。
【0036】
本発明のトリム部品は、デカップリング層および質量層を具え、質量層は、少なくとも
【数6】
の動的ヤング率を有する多孔質繊維層と、少なくとも400g/m
2の面積質量AWb(g/m
2)を有する不浸透性のバリア層と、から構成される。
【0037】
すべての層がともに積層され、1つの部品を形成すると、このトリム部品は、約12dB/オクターブの増加率を有する音響質量ばね系と等価であり、バリア層および多孔質繊維層の複合面積質量の質量に従うILを有する。
【0038】
さらに、多孔質繊維層は、ABA系を導入する最初の理由であった吸音機能を追加し、この吸音機能は、不浸透性の材料のみから構成された質量層を有する従来の質量ばね系では利用することができない。多孔質繊維層のヤング率の調整のおかげで、多孔質繊維層およびバリア層の放射周波数は、対象の周波数範囲を上回り、系の全体の遮音性能をもはや妨げない。
【0039】
従来技術で見られるABA系と比較して、本発明は上層、すなわち、多孔質繊維層が、吸音機能に加えて、系の遮音機能に積極的に関与するという事実において異なる。これは、式(1)で示され、実施例にて説明されたように、多孔質繊維層の材料特性の適切な選択および材料設計に基づいてのみ可能である。
【0040】
多孔質繊維層は、任意の種類のフェルトとすることができる。多孔質繊維層は、天然繊維および/または合成繊維を含む熱成形可能な繊維材料から形成することができる。フェルトは、再生コットンのようなリサイクルされた繊維材料や、ポリエステルのような他の再生繊維から作られることが好ましい。
【0041】
通常、繊維材料はブランクで、すなわち、繊維がともに集められた半仕上げの製品で製造される。ブランクは、均質であると適切に近似される。ブランクは、初期厚さを有する材料シートから構成され、面積質量に特徴を有している。なぜなら、繊維は領域に均一に分布するためである。ブランクが、例えば圧縮により形成されると、最終形状が想定される。最終的に、ある厚さを有する層が得られる。面積質量、すなわち、単位面積当たりの材料の質量は、形成工程後維持される。同一のブランクから、圧縮のレベルに応じて、複数の最終的な厚さが得られる。
【0042】
繊維材料の動的ヤング率は、複数のパラメータに依存する。第一は、材料自体の特性、すなわち、材料組成、繊維の種類と量、結合材の種類と量等である。さらに、同一の繊維処方に対して、動的ヤング率は、層の厚さに関連する材料の密度に依存する。それゆえ、所定の組成のフェルトに対して、種々の厚さで動的ヤング率を測定し、その結果として種々の値が想定され、厚さが減少すると通常動的ヤング率は増加する(同一の初期ブランクに対して)。
【0043】
繊維フェルト材料は、結合繊維として、あるいは、樹脂材料、例えば、熱可塑性または熱硬化性の高分子の結合材料を含むことが好ましい。少なくとも30%のエポキシ樹脂、あるいは、少なくとも25%の複合結合繊維が好ましい。本発明の多孔質繊維層を達成する他の結合繊維あるいは結合材料も可能であり除外されない。多孔質繊維層材料は、ニードリングプロセスまたは材料の動的圧縮剛性を増加させる任意の他のプロセスによって得られる。
【0044】
多孔質繊維層の面積質量が500g/m
2から2000g/m
2であることが好ましく、800g/m
2から1600g/m
2であることがさらに好ましい。
【0045】
さらなる制約は、通常、音響トリム部品が設置可能な車内の利用できる空間である。この制約は、通常、自動車メーカーによって与えられ、最大20mmから25mmの範囲である。トリム部品の全層は、この空間を共有しなければならない。それゆえ、多孔質繊維層の厚さは、1から10mmであることが好ましく、1mmから6mmであることがさらに好ましい。これにより、デカップリング層のための十分な空間が残される。特に、デカップリング層は、厚さが変化し、車内の利用できる空間に適用しなければならない部品の三次元形状に従うことができる。
【0046】
従来技術では、高圧縮領域が、ケーブルあるいは装着具用に必要な、トリム部品の穴の周囲に存在する。穴という音響的な弱点が、穴の付近における遮音特性を低下させるため、これらの高圧縮領域は、通常、遮音に使用されない。
【0047】
バリア層
多孔質繊維層とデカップリング層との間の質量層は、理想的な音のバリアとして機能するために、不浸透性(空気不浸透性)でなければならない。バリア層が空気不浸透性である場合だけ、調整されたヤング率を有する多孔質繊維層は、バリア層とともに、ばね質量系のための質量層として機能する。実施例では厚層が与えられるが、代わりの不浸透性の質量バリア材料を用いることもできる。
【0048】
厚層が不浸透性のバリア層として用いられる場合、厚層の厚みは、0.2mmから5mmであることが好ましく、0.8mmから3mmであることがより好ましい。不浸透性の質量層の面積質量は、少なくとも0.4kg/m
2であり、0.5kg/m
2から2kg/m
2であることが好ましい。しかしながら、不浸透性のバリア層の質量の選択は、多孔質繊維層およびバリア層によってともに形成される質量層の設計に関連する。
【0049】
不浸透性のバリア層は、熱硬化プラスチックを含む高充填密度材料から作ることができ、熱硬化プラスチックは、エチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマ/ゴム、ポリ塩化ビニル(PVC)または前述の任意の組合せを含む。
【0050】
バリア材料の選択は、多孔質繊維層およびデカップリング層に依存し、全層をともに結合する積層体を形成することができなければならない。また、噴霧または接着される材料を用いることもできる。しかしながら、トリム部品の結合後および/または形成後、質量バリアは、最終製品において空気に対して不浸透性でなければならない。
【0051】
必要に応じて、フィルム、粉末または液体スプレーの形態の接着層を、周知のように用いて、バリア層を、多孔質繊維層またはデカップリング層と積層することができる。
【0052】
トリム部品の複合領域
通常、車室内の音圧レベルを低減するために、車両において、音響トリム部品によって提供される遮音と吸音のバランスがよいことが必要である。種々の部品が種々の機能を有する(例えば、遮音はダッシュ内部で提供可能であり、吸音はカーペットで提供可能である)。しかしながら、現在の傾向は、1つの領域で、音響機能のより洗練された細分化を達成し、広範囲の音響性能を最適化することにある。例えば、ダッシュ内部を2つの部分に分割し、一方は高い吸音を提供し、他方は高い遮音を提供する。一般的に、ダッシュの低い部分は遮音により適している。なぜなら、エンジンおよび前輪からのノイズは、この低い領域を通るためである。一方、ダッシュの高い部分は吸音により適している。なぜなら、遮音は車の他の要素、例えば、計器パネルによってすでに提供されているためである。さらに、計器パネルの後ろ側は、計器パネル自体の後ろに隠れた上部ダッシュの部品を通って来る音波を反射する。これらの反射音波は、吸音材料を用いて効果的に低減することができる。車の他の音響部品に対しても、同様のことが考えられる。例えば、床に関して、遮音はフットウェル領域およびトンネル領域で主に使用され、一方、吸音は、前の座席の下部および後ろの床板で主に使用される。
【0053】
異なる局所要件は、主に吸音特性を有する少なくとも1つの領域(吸音領域)と、音響質量ばね特性を有する少なくとも1つの他の領域(遮音領域)と、を有する領域において分割された遮音トリム部品によってカバーすることができ、吸音領域は、少なくとも1つの多孔質繊維層を具え、遮音領域は、少なくとも1つの質量層と、デカップリング層と、からなる。本発明によれば、質量層は、少なくとも3000Hz超の対象周波数の外側の放射周波数を有するように調整された動的ヤング率を有する多孔質繊維層と、少なくとも400g/m
2を有するバリア層と、からなる。吸音領域のために、同じ多孔質繊維層を用いることができる。従って、多孔質繊維層は、吸音領域と遮音領域とで共有され、遮音領域の第1の部分は、少なくとも3000Hz超の放射周波数を有するように調整されたヤング率を有し、吸音領域の他の部分は、最大の吸音のために最適化される。一般に、多孔質繊維層の厚みは、遮音領域においてより吸音領域において大きい。
【0054】
吸音領域の多孔質繊維層の空気流抵抗(AFR)は、好ましくは300Nsm
−3から3000Nsm
−3であり、より好ましくは400Nsm
−3から1500Nsm
−3である。AFRが高いと、吸音により良い。しかしながら、AFRは、厚みの増加と共に減少するので、8mmから12mmの厚さに対して、400Nsm
−3から1500Nsm
−3であることが好ましい。
【0055】
追加の吸音層および/またはスクリム層を、吸音領域に局所的にまたは基本的にトリム部品全体の上に追加の層として追加すると、吸音をさらに強化することができる。追加の層は、多孔質繊維層および/または追加のスクリム層に用いられたのと同一類似のフェルト材料の形態とすることができる。
【0056】
吸音領域および遮音領域に隣接して、遮音領域と吸音領域の間、または、部品の端周辺の領域を形成する中間領域も存在する。これらの領域は、主に一種の中間ゾーンを形成する処理条件のため、吸音領域または遮音領域として識別するのが容易ではない。中間ゾーンは、厚みを変え、吸音ゾーンの方向に増加し、それゆえ、良好な吸音材と悪くない遮音材として機能する。
【0057】
他の種類の中間領域が、局所的に存在し、車内で利用可能な空間に整合しなければならない部分の三次元形状に従うことができる。従来技術では、高圧縮領域が、ケーブルまたは装着具用に必要な、トリム部品の穴の周囲に存在する。穴という音響的な弱点が、穴の付近における遮音特性を低下させるため、これらの高圧縮領域は、通常、遮音に使用されない。
【0058】
デカップリング層
デカップリング層として、従来の音響質量ばね系のばね層に使用された通常の材料を、本発明のトリム部品では、同一の原理に従って用いることができる。デカップリング層は、クローズタイプおよびオープンタイプを含め、任意のタイプの熱可塑性および熱硬化性の発泡体、例えば、ポリウレタンフォームから形成することができる。デカップリング層は、繊維材料、例えば、天然繊維および/または合成繊維を含む熱成形可能な繊維材料から形成することもできる。デカップリング層は、100kPa未満の非常に低い圧縮剛性を有することが好ましい。デカップリング層は、多孔質あるいはオープンな有孔性であり、ばね効果を高めることが好ましい。最適な効果を得るために、原則として、デカップリング層は、バリア層に、部品の全表面にわたって貼り付けられるべきであるが、製造技術により、非常に局所的にしか貼り付けられない場合があってもよい。部品は、音響質量ばね系として全体的に機能すべきであるので、デカップリング層が結合していない小さい局所的な領域は、全体的な防音効果を害することはない。
【0059】
デカップリング層の厚さを最適化することができるが、厚さは車内の空間的制約に大きく依存する。厚さは、部品の領域にわたって変化して、車内の利用可能な空間に合わせられることが好ましい。厚さは、通常、1mmから100mmであり、大部分の領域で5mmから20mmである。
【0060】
追加のスクリムを、多孔質繊維層の上部に設け、吸音を強化し、および/または、下部の層を例えば水等に対して保護することができる。追加の吸音材料を、繊維の多孔質層の上部に少なくとも部分的に設け、さらに吸音特性を強化することができる。追加の層の面積質量は、500g/m
2から2000g/m
2であることが好ましい。
【0061】
吸音層は、任意のタイプの熱可塑性および熱硬化性の発泡体、例えば、ポリウレタンフォームから形成することができる。しかしながら、吸音目的のために、発泡体はオープンな有孔性および/または多孔質であり、従来知られている吸音の原則に従って音波の入力を可能にしなければならない。吸音層は、繊維材料、例えば、天然繊維および/または合成繊維を含む熱成形可能な繊維材料から形成することもできる。吸音層は、多孔質繊維質量層と同種類の材料から形成することができるが、好ましくはより上位(lofty)であり、遮音特性の干渉を防止するべきである。吸音層の空気流抵抗(AFR)は、少なくとも200Nsm
‐3であることが好ましく、500Nsm
‐3から2500Nsm
‐3であることがより好ましい。複数の吸音層を有する吸音系を、多孔質繊維層の上部に設けることもできる。
【0062】
また、追加のスクリムを、吸音材料または多孔質繊維層の上部に設け、吸音性能をさらに高め、および/または、水等に対して下部の層を保護することもできる。スクリムは、薄い不織布であり、厚さは0.1mmから約1mmであり、好ましくは0.25mmから0.5mmである。スクリムの空気流抵抗AFRは、500Nsm
‐3から3000Nsm
‐3であることが好ましく、1000Nsm
‐3から1500Nsm
‐3であることがさらに好ましい。それによって、スクリムと下部の吸音層とは、AFRが異なり、吸音性能を向上させることができる。好ましくは、スクリムのAFRは、多孔質繊維層のAFRと異なる。
【0063】
スクリム層の面積質量は、50g/m
2から250g/m
2であり、80g/m
2から150g/m
2であることが好ましい。
【0064】
スクリムは、連続繊維、短繊維(ステープルファイバ)、繊維混合物から作ることができる。繊維は、メルトブロー法あるいはスパンボンド法によって作ることができる。それらは天然繊維と混合することもできる。スクリムは、例えば、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、繊維混合物、例えば、ポリエステルとセルロースの混合物、ポリアミドとポリエチレンの混合物、ポリプロピレンとポリエチレンの混合物から作られる。
【0065】
本発明の特徴は、添付図面を参照して、以下の好適実施形態を非制限的な令として用いて説明することにより、明らかになる。
【0066】
製造方法
本発明のトリム部品は、従来一般的に知られている冷間成形法および/または熱間成形法を用いて製造可能である。例えば、バリア層の有り無しの多孔質繊維層を形成し、本発明に従って調整された所望の動的ヤング率特性を有する材料を得るとともに、同時に、必要な次元の形状での部品を形成することができる。次のステップとして、デカップリング層を射出成形で成形可能であり、発泡層あるいは繊維層をバリア層の後ろ側に追加することができる。
【0067】
機械的剛性および圧縮剛性の定義ならびに測定
機械的剛性は、材料が外部応力の励起(excitation)に与える反応に関連している。圧縮剛性は、圧縮励起に関連し、曲げ剛性は、曲げ励起に関連している。曲げ剛性は、与えられた曲げモーメントを結果として生ずる偏位に関連付ける。一方、圧縮剛性および垂直剛性は、与えられた垂直抗力を結果として生ずる歪に関連付ける。等方性材料から作られた均質平板にとって、それは、材料の弾性率Eおよび平板の表面Aを有する製品である。
【0068】
等方性材料から作られた平板では、圧縮剛性および曲げ剛性の両方は、材料のヤング率に直接関連し、一方を他方から計算することができる。しかしながら、材料が非等方性の場合、大部分のフェルトはそうであるが、曲げ剛性は面内材料のヤング率に主に関連し、圧縮剛性は面外ヤング率に主に関連するため、説明した関係はもはや適用されない。それゆえ、一方を他方から計算することができない。さらに、圧縮剛性および曲げ剛性の両方は、静的状態あるいは動的状態において測定可能であり、原則として、静的状態および動的状態において異なる。
【0069】
材料層の放射は、その面に直交する方向に層が振動することに起因し、材料の動的圧縮剛性に主に関連している。多孔質材料の動的ヤング率は、リーターオートモーティブAG社が市販している装置「Elwis‐S」によって測定され、サンプルは圧縮応力によって励起される。Elwis‐Sを用いた測定は、例えば、BERTOLINI等による以下の文献に記載されている。
【0070】
「Transfer function based method to identify frequency dependent Young's modulus, Poisson's ratio and damping loss factor of poroelastic materials」Symposium on acoustics of poro-elastic materials (SAPEM), Bradford, Dec. 2008
【0071】
この種の測定は一般的に多孔質材料にはまだ使用されていないので、公式なNEN基準あるいはISO基準は存在しない。しかしながら、他の類似の測定系が知られており、詳細には、LANGLOIS等による以下の文献に記載された類似の物理的原理に基づいて使用されている。
【0072】
「Polynomial relations for quasi-static mechanical characterization of isotropic poroelastic materials」J. Acoustical Soc. Am. 2001, vol.10, no.6, p.3032‐3040
【0073】
静的方法で測定されたヤング率と、動的方法で測定されたヤング率と、の間の直接的な相関関係は、単純ではなく、大部分の場合無意味である。なぜなら、動的ヤング率は、所定の周波数範囲(例えば、300Hz〜600Hz)にわたって測定され、静的ヤング率の値は、0Hzの制限された場合に対応し、動的測定から直接得られないためである。
【0074】
本発明では、圧縮剛性は重要であり、従来技術で通常使用される機械的剛性は重要ではない。
【0075】
その他の測定
空気流抵抗は、ISO9053に準拠して測定された。
【0076】
面積質量および厚さは、従来知られている標準的な方法で測定された。
【0077】
構造の透過損失(TL)は、遮音の基準である。透過損失は、デシベルで表現され、構造に入射する音響パワーと、構造を透過して受信側に伝達される音響パワーと、の比として定義される。音響部品を備えた自動車構造の場合、透過損失は、部品の存在だけではなく、部品が設けられる鋼構造にも依存する。自動車の音響部品の吸音特性を、部品が設けられる鋼構造とは無関係に評価することが重要であるので、挿入損失が導入される。構造上に設けられる音響部品の挿入損失(IL)は、音響部品を備えた構造の透過損失と、構造だけの透過損失と、の差として以下のように定義される。
【数7】
【0078】
挿入損失および吸音係数はSISABを使用してシミュレーションされた。SISABとは、伝達行列法に基づいた、音響部品の音響性能の計算用の数値シミュレーションソフトウェアである。伝達行列法は、層状媒体中の音響伝播をシミュレーションするための方法であり、例えば、BROUARD B.等による以下の文献に記載されている。
【0079】
「A general method for modelling sound propagation in layered media」Journal of Sound and Vibration. 1995, vol.193, no.1, p.129‐142