特許第5791773号(P5791773)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5791773
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】流体式動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 45/02 20060101AFI20150917BHJP
   F16H 41/24 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   F16H45/02 Y
   F16H41/24 B
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-175223(P2014-175223)
(22)【出願日】2014年8月29日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河原 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 悠祐
(72)【発明者】
【氏名】岡町 悠介
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0287844(US,A1)
【文献】 特開2011−58557(JP,A)
【文献】 実開平5−34339(JP,U)
【文献】 特開平9−53700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/16
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからトランスミッションへ流体を介して動力を伝達するための流体式動力伝達装置であって、
フロントカバーと、
前記トランスミッションの入力シャフトと一体回転可能に設けられたタービンを含み、前記エンジンからの動力を前記トランスミッションに流体を介して伝達する流体継手本体と、
前記フロントカバーと前記タービンとの間に設けられ、前記フロントカバーからの動力を伝達又は遮断するクラッチ部と、前記クラッチ部から動力が伝達され前記タービンに連結された出力側部材と、を有するロックアップ装置と、
前記エンジンからの回転速度変動を減衰するためのダイナミックダンパと、
を備え、
前記ダイナミックダンパは、
前記ロックアップ装置の出力側部材に固定されたベースプレートと、
前記ベースプレートと回転方向に相対移動が可能な慣性体と、
前記ベースプレートと前記慣性体との相対回転角度差に応じて可変のヒステリシストルクを発生可能であり、前記ベースプレートと前記慣性体とを回転方向に弾性的に連結する弾性ユニットと、
を有し、
前記弾性ユニットは、可変のヒステリシストルクを発生する可変ヒステリシストルク発生部と、複数の弾性部材を有する弾性連結部と、を有し、
前記慣性体は、前記ベースプレートの軸方向一方側に配置された第1イナーシャリングと、前記ベースプレートを挟んで前記第1イナーシャリングと対向して配置された第2イナーシャリングと、を有し、
前記可変ヒステリシストルク発生部は、
前記第1及び第2イナーシャリングの互いに対向する側面に設けられた1対の摩擦部材と、
前記ベースプレートの外周部に径方向外方に突出して設けられ、前記ベースプレートと前記第1及び第2イナーシャリングとの相対回転角度差が大きい領域において前記1対の摩擦部材に摺接する摺接部と、
を有する、
流体式動力伝達装置。
【請求項2】
前記ダイナミックダンパは前記ロックアップ装置の出力側部材に固定されている、請求項1に記載の流体式動力伝達装置。
【請求項3】
前記弾性ユニットは、前記ベースプレートと前記慣性体との相対回転角度差が大きいときは、前記相対回転角度差が小さいときに比較して大きいヒステリシストルクを発生する、請求項1又は2に記載の流体式動力伝達装置。
【請求項4】
前記弾性連結部は、前記ベースプレートと前記慣性体との相対回転角度差が小さい第1領域では低剛性捩じり特性を有するとともに、前記第1領域より大きい第2領域では前記低剛性捩じり特性より高剛性の高剛性捩じり特性を有する、請求項に記載の流体式動力伝達装置。
【請求項5】
前記弾性連結部は、
前記ベースプレートと前記慣性体とを回転方向に弾性的に連結する複数の第1弾性部材と、
前記ベースプレートと前記慣性体とが相対回転した際に、前記複数の第1弾性部材より遅れて作動し、前記ベースプレートと前記慣性体とを回転方向に弾性的に連結する複数の第2弾性部材と、
を有する、
請求項に記載の流体式動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体式動力伝達装置、特に、エンジンからトランスミッションへ流体を介して動力を伝達するための流体式動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体式動力伝達装置として、例えば、ロックアップ装置を備えたトルクコンバータが知られている。ロックアップ装置は、フロントカバーとタービンとを機械的に連結するための機構であり、タービンとフロントカバーとの間の空間に配置されている。
【0003】
ロックアップ装置は、クラッチ部と、ダンパ機構と、を有している。クラッチ部は、例えば摩擦部材を有するピストンを有している。この装置では、ピストンが移動して摩擦部材がフロントカバーに押し付けられると、動力がフロントカバーからピストンを介してダンパ機構に伝達される。ダンパ機構は、複数の弾性部材と、弾性部材を介して動力が伝達される出力側部材と、を有している。出力側部材はタービンに固定されている。
【0004】
このようなロックアップ装置において、ダイナミックダンパを設けることが従来から行われている。ダイナミックダンパを設けることによって、ダンパ機構の持つ共振周波数付近で発生するトルク変動のピークを低減することができる。
【0005】
以上のように、ダイナミックダンパを設けることによって、1つの大きなトルク変動のピークを抑えることができるが、一方で、1つの大きなピークが現れる回転数より低い回転数と高い回転数の2個所においてトルク変動のピークが現れることになる。2つのピークのうち、低回転数側のピークは常用回転数より低い回転数域に現れるので、使用に際して問題になることはない。一方、高回転数側のピークは、通常は常用回転数域に現れるので、この高回転数側のピークを減衰する必要があり、そのための装置が、特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−58557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の装置では、所望の回転数領域でダイナミックダンパの作動を制限するロック機構を設けている。ここでは、所望の回転数に達するまではダイナミックダンパの作動によって減衰性能を高めている。そして、所望の回転数に達すると、ダイナミックダンパの作動を制限することによって、ダイナミックダンパを単なるイナーシャとして機能させている。これにより、この回転数域での減衰性能が高まる。
【0008】
しかし、特許文献2の装置では、ロック機構の作動を制限する回転数がバラツキ、減衰性能を安定させることが困難である。
【0009】
ここで、高回転数側のトルク変動のピークを抑える方法として、ダイナミックダンパの出力側にダンパ機構を設ける方法がある。本件発明者らは、このような方法を実現する装置をすでに開発し、出願している。しかし、このような装置は、装置構成が複雑になる場合がある。
【0010】
本発明の課題は、ダイナミックダンパを有する流体式動力伝達装置において、簡単な構成で、常用回転数域の全域にわたって安定して高い減衰性能を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る流体式動力伝達装置は、エンジンからトランスミッションへ流体を介して動力を伝達するための装置である。この装置は、フロントカバーと、流体継手本体と、ロックアップ装置と、ダイナミックダンパと、を備えている。流体継手本体は、トランスミッションの入力シャフトと一体回転可能に設けられたタービンを含み、エンジンからの動力をトランスミッションに流体を介して伝達する。ロックアップ装置はフロントカバーとタービンとの間に設けられている。ロックアップ装置は、フロントカバーからの動力を伝達又は遮断するクラッチ部と、クラッチ部から動力が伝達されタービンに連結された出力側部材と、を有している。ダイナミックダンパは、ロックアップ装置の出力側部材に固定され、エンジンからの回転速度変動を減衰する。また、ダイナミックダンパは、ベースプレートと、慣性体と、弾性ユニットと、を有している。ベースプレートはロックアップ装置の出力側部材に固定されている。慣性体はベースプレートと回転方向に相対移動が可能である。弾性ユニットは、ベースプレートと慣性体との相対回転角度差に応じて可変のヒステリシストルクを発生可能であり、ベースプレートと慣性体とを回転方向に弾性的に連結する。
【0012】
ここでは、ロックアップ装置の出力側部材に固定されたダイナミックダンパが作動し、回転速度変動を減衰させることができる。また、ダイナミックダンパにおいては、ダイナミックダンパの捩じり角度(ベースプレートと慣性体との相対回転角度差)が大きくなったときに、トルク変動のピークが生じることが判明している。
【0013】
そこで、本発明では、ダイナミックダンパの弾性ユニットにおいて、ベースプレートと慣性体との相対回転角度差に応じて可変のヒステリシストルクを発生するようにしている。このため、トルク変動のピークが現れる捩じり角度において大きいヒステリシスを発生するようにすれば、高回転数側に現れるトルク変動のピークを簡単な構成で抑えることができる。
【0014】
本発明の別の側面に係る流体式動力伝達装置では、ダイナミックダンパはロックアップ装置の出力側部材に固定されている。
【0015】
本発明のさらに別の側面に係る流体式動力伝達装置では、弾性ユニットは、可変のヒステリシストルクを発生する可変ヒステリシストルク発生部と、複数の弾性部材を有する弾性連結部と、を有する。
【0016】
本発明のさらに別の側面に係る流体式動力伝達装置では、弾性ユニットは、ベースプレートと慣性体との相対回転角度差が大きいときは、相対回転角度差が小さいときに比較して大きいヒステリシストルクを発生する。
【0017】
本発明のさらに別の側面に係る流体式動力伝達装置では、慣性体は、ベースプレートの軸方向一方側に配置された第1イナーシャリングと、ベースプレートを挟んで第1イナーシャリングと対向して配置された第2イナーシャリングと、を有している。また、可変ヒステリシストルク発生部は、1対の摩擦部材と、摺接部と、を有している。1対の摩擦部材は、第1及び第2イナーシャリングの互いに対向する側面に設けられている。摺接部は、ベースプレートの外周部に径方向外方に突出して設けられ、ベースプレートと第1及び第2イナーシャリングとの相対回転角度差が大きい領域において1対の摩擦部材に摺接する。
【0018】
本発明のさらに別の側面に係る流体式動力伝達装置では、弾性連結部は、ベースプレートと慣性体との相対回転角度差が小さい第1領域では低剛性捩じり特性を有するとともに、第1領域より大きい第2領域では低剛性捩じり特性より高剛性の高剛性捩じり特性を有する。
【0019】
本発明のさらに別の側面に係る流体式動力伝達装置では、弾性連結部は、複数の第1弾性部材と、複数の第2弾性部材と、を有する。第1弾性部材は、ベースプレートと慣性体とを回転方向に弾性的に連結する。第2弾性部材は、ベースプレートと慣性体とが相対回転した際に、第1弾性部材より遅れて作動し、ベースプレートと慣性体とを回転方向に弾性的に連結する。
【発明の効果】
【0020】
以上のような本発明では、ダイナミックダンパを有する流体式動力伝達装置において、簡単な構成で、常用回転数域の全域にわたって安定して高い減衰性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態によるトルクコンバータの断面図。
図2図1のロックアップ装置を抽出して示す図。
図3図1のダイナミックダンパを抽出して示す図。
図4】ダイナミックダンパの正面部分図。
図5】可変ヒステリシストルク発生部の構成を示す図。
図6】ダイナミックダンパのストップピンを示す図。
図7】ヒステリシストルク発生機構を示す図4の矢視P図。
図8】エンジン回転数と回転速度変動の特性図。
図9】本発明の他の実施形態によるダイナミックダンパの捩じり特性線図。
図10】本発明の他の実施形態による図5に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[全体構成]
流体式動力伝達装置としてのトルクコンバータ1を図1に示す。図1の左側にエンジン(図示せず)が配置され、図1の右側にトランスミッション(図示せず)が配置されている。図1に示す線O−Oは、トルクコンバータ1の回転軸線である。
【0023】
トルクコンバータ1は、エンジンのクランクシャフト(図示せず)からトランスミッションの入力シャフトに動力を伝達するための装置である。トルクコンバータ1は、主に、動力が入力されるフロントカバー2と、インペラ3と、タービン4と、ステータ5と、ロックアップ装置6と、ダイナミックダンパ7と、を備えている。インペラ3、タービン4、及びステータ5によってトルクコンバータ本体(流体継手本体)8が構成されている。
【0024】
[フロントカバー2]
フロントカバー2にはインペラ3が固定されており、フロントカバー2とインペラ3とにより流体室が形成されている。タービン4は流体室内でインペラ3に対向するように配置されている。タービン4は、タービンシェル10と、タービンシェル10の内部に設けられた複数のタービンブレード11と、リベット12によりタービンシェル10に固定されたタービンハブ13と、を有している。ステータ5は、タービン4からインペラ3への作動油の流れを調節するための機構であり、インペラ3の内周部とタービン4の内周部との間に配置されている。
【0025】
タービンハブ13は、中心部にスプライン孔13aを有しており、このスプライン孔13aにトランスミッションの入力シャフト15が係合可能である。また、タービンハブ13は、外周側に延びるフランジ部13bと、フランジ部13bの外周部からフロントカバー2側に延びる筒状部13cと、を有している。フランジ部13bには、前述のようにリベット12によってタービンシェル10の内周部が固定されている。また、筒状部13cには、外周面からさらに外周側に突出する突起13dが形成されている。
【0026】
[ロックアップ装置6]
図2にロックアップ装置6を抽出して示している。ロックアップ装置6は、必要に応じてフロントカバー2とタービン4とを機械的に連結するための装置であり、フロントカバー2とタービン4との間に配置されている。ロックアップ装置6は、ピストン18と、ドライブプレート19と、出力プレート20(出力側部材)と、複数のコイルスプリング21と、を有している。
【0027】
<ピストン18>
ピストン18はフロントカバー2とタービン4との間に軸方向移動自在に配置されている。ピストン18は、円板状の本体部18aと、本体部18aの内周端からタービン4側に延びる内周筒状部18bと、本体部18aの外周端からタービン4側に延びる外周筒状部18cと、を有している。
【0028】
本体部18aはフロントカバー2に対向して配置されている。本体部18aの外周部において、フロントカバー2側の側面には、環状の摩擦部材23が固定されている。内周筒状部18bはタービンハブ13の筒状部13cの外周面に軸方向及び回転方向に移動自在に支持されている。タービンハブ13の筒状部13cの外周面にはシール部材24が配置されている。これにより、ピストン18の内周筒状部18bとタービンハブ13の筒状部13cの外周面との間はシールされている。なお、内周筒状部18bの先端は、タービンハブ13の突起13dに当接可能であり、この突起13dによってピストン18のタービン4側への移動が規制されている。
【0029】
<ドライブプレート19>
ドライブプレート19は、ピストン18のタービン4側において、ピストン18の外周部に配置されている。また、ドライブプレート19はピストン18の外周筒状部18cの内周側に配置されている。ドライブプレート19は、環状に形成されており、固定部19aと、複数のスプリング収容部19bと、複数の係合部19cと、を有している。
【0030】
固定部19aは、ドライブプレート19の内周端部に形成され、リベット26によってピストン18に固定されている。スプリング収容部19bと係合部19cとは円周方向に交互に配置されている。スプリング収容部19bは、断面C形状であり、内部にコイルスプリング21が収容されている。係合部19cは、断面C形状であり、内周側の一部と外周側の一部とがコイルスプリング21の両端に係合している。この係合部19cによって、ピストン18に伝達された動力は、ドライブプレート19を介してコイルスプリング21に伝達される。
【0031】
<出力プレート20>
出力プレート20は、円板状に形成されており、ピストン18とタービン4との間に配置されている。出力プレート20の内周端部はリベット12によってタービンシェル10とともにタービンハブ13のフランジ部13bに固定されている。出力プレート20の外周端部には、フロントカバー2側に折り曲げて形成された複数の係合部20aが設けられている。複数の係合部20aはコイルスプリング21の両端に係合している。
【0032】
<コイルスプリング21>
コイルスプリング21は、ピストン18及びドライブプレート19と出力プレート20とを回転方向に弾性的に連結する。コイルスプリング21は、前述のように、ドライブプレート19のスプリング収容部19bに収容されて支持されている。
【0033】
[ダイナミックダンパ7]
ダイナミックダンパ7は、エンジンからの回転速度変動を減衰するための装置であり、図1図3図4に示すように、出力プレート20のタービン4側において、タービン4の外周部に配置されている。ダイナミックダンパ7は、ベースプレート28と、第1及び第2イナーシャリング29,30と、第1及び第2蓋部材31,32と、可変ヒステリシストルク発生部(以下、単に「ヒステリシストルク発生部」と記す)33と、弾性連結部34と、ストップピン35と、を有している。ヒステリシストルク発生部33及び弾性連結部34により、弾性ユニットが構成されている。
【0034】
なお、図4は、ダイナミックダンパ7をトランスミッション側から視た外観部分図であり、部分的に、蓋部材等の一部の部材を取り外して示している。
【0035】
<ベースプレート28>
図3に示すように、ベースプレート28は、円板状に形成されており、内周端部がリベット36によって出力プレート20の径方向中間部に固定されている。ベースプレート28の外周部は、内周端部から軸方向においてトランスミッション側に偏倚して形成されている。
【0036】
また、図4に示すように、ベースプレート28の外周端部には、外周側に突出する複数の突出部28aを有している。複数の突出部28aのそれぞれには、円周方向に延びるスプリング収容部としての開口28bが形成されている。
【0037】
<第1及び第2イナーシャリング29,30>
第1及び第2イナーシャリング29,30は、板金部材をプレス加工して形成されたものである。第1イナーシャリング29は出力プレート20の外周部とベースプレート28の外周部との間に配置されている。第2イナーシャリング30は、ベースプレート28のトランスミッション側に配置されている。第1イナーシャリング29の外径は第2イナーシャリング30と同じであるが、内径は第2イナーシャリング30よりも小径である。
【0038】
図4に第2イナーシャリング30を示す。第1イナーシャリング29と第2イナーシャリング30とは、内径寸法が異なるのみであるので、図4に第2イナーシャリング30と併せて第1イナーシャリング29の符号を示している。
【0039】
第1及び第2イナーシャリング29,30は、円周方向に所定の間隔で複数のスプリング収容部29b,30bを有している。スプリング収容部29b,30bはベースプレート28のスプリング収容部28bに対応する位置に形成されている。スプリング収容部29b,30bは、外周側が閉じて形成された開口であり、円周方向の長さは、ベースプレート28のスプリング収容部28bのそれと同じである。
【0040】
<第1及び第2蓋部材31,32>
図3から明らかなように、第1蓋部材31は第1イナーシャリング29のさらにエンジン側に配置されている。第1蓋部材31は、環状の部材であり、内径は第1イナーシャリング29の内径よりさらに小さい。第2蓋部材32は第2イナーシャリング30のさらにトランスミッション側に配置されている。第2蓋部材32は、環状の部材であり、内径は第2イナーシャリング30と同じである。
【0041】
<ヒステリシストルク発生部33>
ヒステリシストルク発生部33は、対向する2ヶ所に設けられている。図4では、1ヶ所のヒステリシストルク発生部33を示している。ヒステリシストルク発生部33は、ベースプレート28と第1及び第2イナーシャリング29,30との相対回転角度差(ダイナミックダンパ7の捩じり角度)に応じて可変のヒステリシストルクを発生する。より詳細には、ヒステリシストルク発生部33は、ベースプレート28と第1及び第2イナーシャリング29,30との相対回転角度差が大きいときは、相対回転角度差が小さいときに比較して大きいヒステリシストルクを発生する。
【0042】
ここで、ベースプレート28と第1及び第2イナーシャリング29,30とが相対回転する際には、各摺動部に機械的摩擦が発生する。各摺動部の機械的摩擦はベースプレート28が第1及び第2イナーシャリング29,30に対して回転する際の抵抗となり、この抵抗が比較的小さい低ヒステリシストルクとなる。
【0043】
ヒステリシストルク発生部33は、以上のような各摺動部に加えて、図4及び図5に示すように、1対の摩擦プレート41を有している。この1対の摩擦プレート41とベースプレート28の突出部28a(具体的には突出部28aの外周部である摺接部)とがヒステリシストルク発生部33の一部を構成している。なお、図5図4の矢視P図である。
【0044】
1対の摩擦プレート41は、図5に示すように、第1及び第2イナーシャリング29,30の互いに対向する側面(ベースプレート28に対応する面)に固定されている。1対の摩擦プレート41の軸方向間の隙間は、ベースプレート28の厚みよりも若干狭くなっている。したがって、第1及び第2イナーシャリング29,30に対してベースプレート28が大きく捩れたときには、ベースプレート28の突出部28aの外周部(摺接部)は1対の摩擦プレート41の間に入り込む。そして、摺接部が1対の摩擦プレート41の間で摺接する際には、比較的大きな抵抗、すなわち高ヒステリシストルクが発生する。
【0045】
なお、1対の摩擦プレート41において、円周方向のベースプレート28側の端部には、ベースプレート28の突出部28aが1対の摩擦プレート41の間に進入しやすいように、面取り部41aが形成されている。
【0046】
<弾性連結部34>
弾性連結部34は、図1図4に示すように、ベースプレート28のスプリング収容部28bと第1及び第2イナーシャリング29,30のスプリング収容部29b,30bとに収納された複数のコイルスプリング44を有している。このコイルスプリング44によって、ベースプレート28と、両イナーシャリング29,30及び両蓋部材31,32と、が回転方向に弾性的に連結されている。
【0047】
<ストップピン35>
図6に示すように、ストップピン35は、第1及び第2イナーシャリング29,30の貫通孔29c,30cと第1及び第2蓋部材31,32の貫通孔31c,32cに装着されている。ストップピン35は、軸方向の中央部に大径胴部35aを有し、その両側に小径胴部35bを有している。大径胴部35aは、第1及び第2イナーシャリング29,30の貫通孔29c,30cより大径である。また、大径胴部35aの厚みは、ベースプレート28の厚みより厚く形成されている。
【0048】
小径胴部35bは両イナーシャリング29,30の貫通孔29c,30c及び両蓋部材31,32の貫通孔31c,32cを挿通している。そして、小径胴部35bの頭部をかしめることによって、ベースプレート28の軸方向両側に両イナーシャリング29,30及び両蓋部材31,32が固定されている。
【0049】
以上のような構成により、ベースプレート28と両イナーシャリング29,30及び両蓋部材31,32とは、隣接するベースプレート28の突出部28aの間でストップピン35が移動し得る範囲で相対回転が可能である。そして、ストップピン35の大径胴部35aがベースプレート28の突出部28aの円周方向端面に当接することによって、両者の相対回転が規制される。
【0050】
[動作]
まず、トルクコンバータ本体の動作について簡単に説明する。フロントカバー2及びインペラ3が回転している状態では、インペラ3からタービン4へ作動油が流れ、作動油を介してインペラ3からタービン4へ動力が伝達される。タービン4に伝達された動力はタービンハブ13を介してトランスミッションの入力シャフト15に伝達される。
【0051】
トルクコンバータ1の速度比があがり、入力シャフト15が一定の回転速度になると、フロントカバー2とピストン18との間の作動油がドレンされ、ピストン18のタービン4側に作動油が供給される。すると、ピストン18がフロントカバー2側に移動させられる。この結果、ピストン18に固定された摩擦部材23がフロントカバー2に押圧され、ロックアップクラッチがオンになる。
【0052】
以上のようなクラッチオン状態では、エンジンからの動力は、フロントカバー2→ピストン18→ドライブプレート19→コイルスプリング21→出力プレート20→タービンハブ13の経路を介してトランスミッションの入力シャフト15に伝達される。
【0053】
ロックアップ装置6では、前述の経路で動力が伝達されるとともに、エンジンから入力される回転速度変動が複数のコイルスプリング21の作動によって吸収、減衰される。
【0054】
[ダイナミックダンパ7の動作]
出力プレート20の回転によって、出力プレート20に固定されたダイナミックダンパ7が作動し、このダイナミックダンパ7の作用によってエンジンの回転速度変動が抑制される。すなわち、ベースプレート28の回転と、イナーシャリング29,30及び蓋部材31,32の回転とは、コイルスプリング44の作用によって位相にズレが生じる。具体的には、所定のエンジン回転数において、イナーシャリング29,30及び蓋部材31,32は、ベースプレート28の回転速度変動を打ち消す位相で変動する。この位相のズレによって、トランスミッションの回転速度変動を吸収することができる。
【0055】
ここで、図7は、エンジン回転数(周波数)と、ダイナミックダンパ7の捩じり角度(ベースプレート28とイナーシャリング29,30及び蓋部材31,32との相対角度)及びトランスミッション側に伝達されるトルク変動(回転速度変動)と、の関係を示している。図7に示すように、ダイナミックダンパ7においては、エンジン回転数が低い領域で、捩じり角度は比較的小さいθ1となる。また、エンジン回転数が高い領域で、捩じり角度は、より大きいθ2となる。
【0056】
図7において、Fqaは、ベースプレート28とイナーシャリング29,30及び蓋部材31,32とが逆相に振動し、出力プレート20の振動が最も低くなる共振周波数(固有振動数)である。また、Fqbは、イナーシャリング29,30及び蓋部材31,32がベースプレート28の振動を増幅させるピークの周波数である。
【0057】
図7の特性Aで示すように、ダイナミックダンパ7を出力プレート20に装着した場合、周波数Fqaでは減衰が抑えられる。しかし、低回転数域と高回転数域の2ヶ所にトルク変動のピークPL,PHが現れる。ここで、低回転数域のピークPLは、ロックアップしない回転数域にあるため、問題にならない。
【0058】
一方、高回転数域のピークPHについては、常用回転数域に現れるので、このピークPHを抑えるか、あるいは常用回転数域より高回転数側に移動させることが重要である。
【0059】
そこで、本実施形態では、ダイナミックダンパ7の捩じり角度が小さい領域では小さいヒステリシストルクを発生し、捩じり角度が大きい領域では、より大きいヒステリシストルクが発生するようにしている。このため、本実施形態では、エンジン回転数が低く、ダイナミックダンパ7の捩じり角度が小さい領域においてトルク変動を抑えつつ、捩じり角度が大きい領域ではピークPHを低く抑えることができる。この場合の特性Bを一点鎖線で示している。
【0060】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0061】
(a)前記実施形態では、ダイナミックダンパ7の捩じり特性を1段特性にしたが、ダイナミックダンパの捩じり特性を2段以上の特性にしてもよい。
【0062】
この場合の例を図8に示している。図8に示す弾性連結部54は、スプリング収容部28bに収容された大小のコイルスプリング44a,44bから構成されている。大コイルスプリング44aはスプリング収容部28bの円周方向長さとほぼ同じ長さを有している。したがって、大コイルスプリング44aの両端部はベースプレート28のスプリング収容部28b及びイナーシャリング29,30のスプリング収容部29b,30bの円周方向端部に当接している。また、小コイルスプリング44bは、大コイルスプリング44aの内部に配置され、大コイルスプリング44aの長さより短く設定されている。このため、小コイルスプリング44bは、大コイルスプリング44aが作動した後、遅れて作動することになる。
【0063】
また、この実施形態では、ベースプレート28の突出部28aが1対の摩擦プレート41間に進入するタイミングと、弾性連結部54の小コイルスプリング44bが作動を開始するタイミングと、を一致させている。
【0064】
この図8に示す実施形態のダイナミックダンパの捩じり特性を図9に示している。
【0065】
この例では、ベースプレート28とイナーシャリング29,30及び蓋部材31,32との間に相対回転が生じると、図9に示すように、低捩じり角度領域θlでは、まず大コイルスプリング44aのみが圧縮され、低剛性の捩じり特性(1段目の捩じり特性)によってダイナミックダンパが作動する。この場合は、イナーシャリング29,30及び蓋部材31,32はベースプレート28に対して、機械的摩擦のみによる比較的小さい低ヒステリシストルクHlで相対回転し、効果的に回転速度変動を抑えることができる。
【0066】
そして、より大きい回転変動が生じてベースプレート28とイナーシャリング29,30及び蓋部材31,32との間に、さらに大きな相対回転が生じると(高捩じり角度領域θh)、大コイルスプリング44aに加えて小コイルスプリング44bも圧縮されることになる。このため、1段目の捩じり特性に比較して高い剛性の捩じり特性(2段目の捩じり特性)でダイナミックダンパが作動する。
【0067】
しかも、この高捩じり角度領域θhでは、ベースプレート28の突出部28aが1対の摩擦プレート41の間に侵入し、低ヒステリシストルクHlに比較して大きい高ヒステリシストルクHhが発生することになる。
【0068】
このような実施形態でも、2段目の高ヒステリシストルクが有効に作用して、エンジン回転数が高い領域において、出力軸に伝達されるトルク変動を抑えることができる。このため、常用回転数の全域にわたってトルク変動を抑えることができる。
【0069】
(b)可変ヒステリシストルク発生部の構成が前記実施形態に限定されない。図10に他の実施形態による可変ヒステリシストルク発生部53を示している。この可変ヒステリシストルク発生部53は、前記実施形態と同様に、1対の摩擦プレート51が1対のイナーシャリング29,30の互いに対向する側面に設けられている。そして、1対の摩擦プレート51は、互いに対向する面が傾斜面51aとなっている。より具体的には、1対の摩擦プレート51の対向する面は、ベースプレート28の突出部28aから離れるにしたがって間隔が狭くなるように傾斜している。
【0070】
このような実施形態では、イナーシャリング29,30の振れが大きくなるにしたがってヒステリシストルクが大きくなる。したがって、前記同様に、エンジン回転数が高い領域において、出力軸に伝達されるトルク変動を抑えることができ、常用回転数の全域にわたってトルク変動を抑えることができる。
【0071】
(c)前記実施形態では、クラッチ部をピストン及び摩擦部材で構成したが、複数のクラッチプレートを有する多板型のクラッチ部にしてもよい。
【0072】
(d)前記実施形態では、ダイナミックダンパを出力側の部材に装着したが、他の部材に装着してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 トルクコンバータ
2 フロントカバー
4 タービン
6 ロックアップ装置
7 ダイナミックダンパ
8 トルクコンバータ本体
20 出力プレート(出力側部材)
21 コイルスプリング
28 ベースプレート
28a 突出部
28b スプリング収容部
29,30 イナーシャリング
29b,30b スプリング収容部
31,32 蓋部材
33,53 可変ヒステリシストルク発生部
34,44 弾性連結部
44 コイルスプリング
【要約】      (修正有)
【課題】ダイナミックダンパを有する流体式動力伝達装置において、簡単な構成で、常用回転数域の全域にわたって安定して高い減衰性能を得る。
【解決手段】この装置は、フロントカバー2と、トルクコンバータ本体8と、ロックアップ装置6と、ダイナミックダンパ7と、を備えている。ダイナミックダンパ7は、ロックアップ装置6の出力プレート20に固定されている。ダイナミックダンパ7は、ベースプレートと、イナーシャリング及び蓋部材を含む慣性体と、弾性ユニットと、を有している。ベースプレートは出力プレート20に固定されている。慣性体はベースプレートと相対回転可能である。弾性ユニットは、ベースプレートと慣性体との相対回転角度差に応じて可変のヒステリシストルクを発生可能であり、ベースプレートと慣性体とを回転方向に弾性的に連結する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10