(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カルコゲン元素を、前記11族元素、前記インジウム元素および前記ガリウム元素の少なくとも1種に配位した有機カルコゲン化合物として前記皮膜に含ませる、請求項2に記載の光電変換装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る光電変換装置およびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、図面においては同様な構成および機能を有する部分については同一符号を付しており、下記説明では重複説明を省略する。また、図面は模式的に示したものであり、各図における各種構造のサイズおよび位置関係等は正確に図示されたものではない。
【0013】
<(1)光電変換装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る光電変換装置11の一例を示す斜視図である。
図2は、
図1の光電変換装置11のXZ断面図である。なお、
図1から
図9には、光電変換セル10の配列方向(
図1の図面視左右方向)をX軸方向とする右手系のXYZ座標系を付している。
【0014】
光電変換装置11は、基板1の上に複数の光電変換セル10が並設された構成を有している。
図1では、図示の都合上、2つの光電変換セル10のみが示されているが、実際の光電変換装置11には、図面のX軸方向、或いはさらに図面のY軸方向に、多数の光電変換セル10が平面的に(二次元的に)配列されている。
【0015】
各光電変換セル10は、下部電極層2、第1の半導体層3、第2の半導体層4、上部電極層5、および集電電極7を主に備えている。光電変換装置11では、上部電極層5および集電電極7が設けられた側の主面が受光面となっている。また、光電変換装置11には、第1〜3溝部P1,P2,P3といった3種類の溝部が設けられている。
【0016】
基板1は、複数の光電変換セル10を支持するものであり、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂、または金属等の材料で構成されている。例えば、基板1として、1〜3mm程度の厚さを有する青板ガラス(ソーダライムガラス)が用いられてもよい。
【0017】
下部電極層2は、基板1の一主面の上に設けられた導電層であり、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)または金(Au)等の金属、あるいはこれらの金属の積層構造体からなる。また、下部電極層2は、0.2〜1μm程度の厚さを有し、例えば、スパッタリング法または蒸着法等の公知の薄膜形成方法によって形成される。
【0018】
光吸収層としての第1の半導体層3は、下部電極層2の+Z側の主面(一主面ともいう)の上に設けられた、第1の導電型(ここではp型の導電型)を有する半導体層であり、1〜3μm程度の厚さを有している。第1の半導体層3はI−III−VI族化合物を含む半導体層である。I−III−VI族化合物とは、11族元素(旧IUPAC方式ではI−B族元素ともいう)と、13族元素(III−B族元素ともいう)と、16族元素(VI−B族元素ともいう)とを含んだ化合物である。そして、第1の半導体層3は、少なくとも下部電極層2とは反対側の表面部3a(以下、第1の半導体層3の下部電極層2とは反対側の表面部3aのことを、単に第1の半導体層3の表面部3aともいう)において、13族元素として少なくともインジウム元素(以下、In元素ともいう)およびガリウム元素(以下、Ga元素ともいう)を含むとともに、16族元素として少なくともセレン元素(以下、Se元素ともいう)および硫黄元素(以下、S元素ともいう)を含んでいる。表面部3aに含まれるI−III−VI族化合物としては、例えば、Cu(In,Ga)(Se,S)
2(二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム、CIGSSともいう)等が挙げられる。また、第1の半導体層3は、表面部3a以外の部位3b(以下、第1の半導体層3の表面部3a以外の部位3bのことを、第1の半導体層3の残部3bともいう)においては、S元素は含まれていても、含まれていなくてもよい。この第1の半導体層3の残部3bは、13族元素として少なくともIn元素およびGa元素を含むとともに、16族元素として少なくともSe元素を含んでいる。残部3bに含まれるI−III−VI族化合物としては、Cu(In,Ga)Se
2(二セレン化銅インジウム・ガリウム、CIGSともいう)やCIGSS等が挙げられる。つまり、第1の半導体層3は、全体がCIGSSを含む層であってもよく、あるいは表面部3aがCIGSSを含むとともに残部3bがCIGSを含む層であってもよい。
【0019】
また、第1の半導体層3は、表面部3aにおいて、In元素とGa元素との合計原子数に対するGa元素の相対原子数比Ga/(In+Ga)およびS元素の相対原子数比S/(In+Ga)が、下部電極層2から離れるに従って増加している。このような構成により、第2の半導体層4とpn接合を行なう第1の半導体層3の表面部3aにおいて、伝導帯を高エネルギー側へシフトさせるとともに価電子帯を低エネルギー側へシフトさせてバンドギャップを大きくすることができるため、pn接合性を良好にして界面再結合を抑制することができるとともに、開放電圧を大きくすることができる。その結果、光電変換装置11の光電変換効率を高めることができる。第1の半導体層3の厚み方向の組成分布は、例えば
図3に示すように表わされる。なお、第1の半導体層3の厚み方向の組成分布は、種々の元素分析法によって測定できる。例えば、Ga元素およびS元素については、第1の半導体層3をスパッタリング法等によって厚み方向に削りながらX線電子分光分析法(XPS)で元素分析したり、あるいは第1の半導体層3の断面を、透過電子顕微鏡(TEM)を用いたエネルギー分散型X線分析法(EDS)で元素分析したりすることによって測定できる。また、酸素元素については、第1の半導体層3をスパッタリング法等によって厚み方向に削りながら2次イオン質量分析法(SIMS)で元素分析することによって測定できる。
【0020】
このようなGa元素の相対原子数比およびS元素の相対原子数比が下部電極層2から離れるに従って増加している第1の半導体層3の表面部3aの厚みは、第1の半導体層3の全体の厚みの0.15〜0.5倍程度であればよい。また、第1の半導体層3の表面部3aにおけるIn元素とGa元素との合計原子数に対するGa元素の相対原子数比は、表面部3aにおける第2の半導体層4側の部位(第1の半導体層3と第2の半導体層4との界面付近)においては0.1〜0.5であり、表面部3aにおける下部電極層2側の部位(
図3の場合は、Ga元素の相対原子数比が極小となる部位)においては0.05〜0.4であればよい。また、第1の半導体層3の表面部3aにおけるIn元素とGa元素との合計原子数に対するS元素の相対原子数比は、表面部3aにおける第2の半導体層4側の部位(第1の半導体層3と第2の半導体層4との界面付近)においては0.05〜1であり、表面部3aにおける下部電極層2側の部位(
図3の場合は、Ga元素の相対原子数比が極小となる部位)においては0〜0.05であればよい。
【0021】
また、第1の半導体層3は、さらに残部3bにおいて、In元素とGa元素との合計原子数に対するGa元素の相対原子数比が、下部電極層2に近づくに従って増加していてもよい。このような構成により、電荷移動をより良好にすることができ、光電変換装置11の光電変換効率がより高くなる。このような残部3bの組成分布は、例えば
図3に示すように表わされる。
【0022】
このような第1の半導体層3の残部3bにおけるIn元素とGa元素との合計原子数に対するGa元素の相対原子数比は、残部3bにおける第2の半導体層4側の部位(
図3の場合はGa元素の相対原子数比が極小となる部位)においては0.05〜0.4であり、残部3bにおける下部電極層2側の部位(第1の半導体層3と下部電極層2との界面付近)においては0.1〜0.7であればよい。
【0023】
また、第1の半導体層3は、少なくとも表面部3aにおいて酸素元素をさらに含んでいてもよい。これにより、酸素元素が第1の半導体層3の格子欠陥に入り、電荷の再結合を低減することができる。その結果、光電変換装置11の光電変換効率がより高くなる。表面部3aにおける単位体積当たりに含まれる酸素の原子数は、10
18〜10
22atms/cm
3程度であればよい。また、表面部3aにおいて、酸素元素の含有量は、Ga元素およびS元素と同様に下部電極層2から離れるに従って増加していてもよい。つまり、Ga元素とS元素の増加に伴って酸素元素も増加している。このような構成により、Ga元素やS元素の含有率が高まるにつれて生じやすい欠陥に対し、Ga元素やS元素の含有率に応じた最適な酸素量を供給することで、キャリア再結合に起因した効率低下を抑制できる。酸素元素の厚み方向における各部位での含有量(原子数)は、例えば各部位におけるS元素の5〜30%程度であってもよい。
【0024】
第2の半導体層4は、第1の半導体層3の一主面の上に設けられた半導体層である。この第2の半導体層4は、第1の半導体層3の導電型とは異なる導電型(ここではn型の導電型)を有している。第1の半導体層3と第2の半導体層4との接合によって、第1の半導体層3で光電変換されて生じた正負のキャリアが良好に分離される。なお、導電型が異なる半導体とは、主要な伝導担体(キャリア)が異なる半導体のことである。また、上記のように第1の半導体層3の導電型がp型である場合には、第2の半導体層4の導電型は、n型でなくi型であっても良い。さらに、第1の半導体層3の導電型がn型またはi型であり、第2の半導体層4の導電型がp型である態様も有り得る。
【0025】
第2の半導体層4は、例えば、硫化カドミウム(CdS)、硫化インジウム(In
2S
3)、硫化亜鉛(ZnS)、酸化亜鉛(ZnO)、セレン化インジウム(In
2Se
3)、In(OH,S)、(Zn,In)(Se,OH)、および(Zn,Mg)O等の化合物半導体によって構成されている。そして、電流の損失が低減される観点から言えば、第2の半導体層4は、1Ω・cm以上の抵抗率を有するものとすることができる。なお、第2の半導体層4は、例えばケミカルバスデポジション(CBD)法等で形成される。
【0026】
また、第2の半導体層4は、第1の半導体層3の一主面の法線方向に厚さを有する。この厚さは、例えば10〜200nmに設定される。
【0027】
上部電極層5は、第2の半導体層4の上に設けられた透明導電膜であり、第1の半導体層3において生じた電荷を取り出す電極である。上部電極層5は、第2の半導体層4よりも低い抵抗率を有する物質によって構成されている。上部電極層5には、いわゆる窓層と呼ばれるものも含まれ、この窓層に加えてさらに透明導電膜が設けられる場合には、これらが一体の上部電極層5とみなされてもよい。
【0028】
上部電極層5は、禁制帯幅が広く且つ透明で低抵抗の材料を主に含んでいる。このような材料としては、例えば、ZnO、In
2O
3およびSnO
2等の金属酸化物半導体等が採用され得る。これらの金属酸化物半導体には、Al、B、Ga、InおよびF等のうちの何れかの元素が含まれても良い。このような元素が含まれた金属酸化物半導体の具体例としては、例えば、AZO(Aluminum Zinc Oxide)、GZO(Gallium Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ITO(Indium Tin Oxide)、FTO(Fluorine tin Oxide)等がある。
【0029】
上部電極層5は、スパッタリング法、蒸着法、または化学的気相成長(CVD)法等によって、0.05〜3μmの厚さを有するように形成される。ここで、第1の半導体層3から電荷が良好に取り出される観点から言えば、上部電極層5は、1Ω・cm未満の抵抗率と、50Ω/□以下のシート抵抗とを有するものとすることができる。
【0030】
第2の半導体層4および上部電極層5は、第1の半導体層3が吸収する光の波長領域に対して光を透過させ易い性質(光透過性ともいう)を有する素材によって構成され得る。これにより、第2の半導体層4と上部電極層5とが設けられることで生じる、第1の半導体層3における光の吸収効率の低下が低減される。
【0031】
また、光透過性が高められると同時に、光反射のロスが防止される効果と光散乱効果とが高められ、さらに光電変換によって生じた電流が良好に伝送される観点から言えば、上部電極層5は、0.05〜0.5μmの厚さとなるようにすることができる。さらに、上部電極層5と第2の半導体層4との界面で光反射のロスが低減される観点から言えば、上部電極層5と第2の半導体層4との間で絶対屈折率が略同一となるようにすることができる。
【0032】
集電電極7は、Y軸方向に離間して設けられ、それぞれがX軸方向に延在している。集電電極7は、導電性を有する電極であり、例えば、銀(Ag)等の金属からなる。
【0033】
集電電極7は、第1の半導体層3において発生して上部電極層5において取り出された電荷を集電する役割を担う。集電電極7が設けられれば、上部電極層5の薄層化が可能となる。
【0034】
集電電極7および上部電極層5によって集電された電荷は、第2溝部P2に設けられた接続導体6を通じて、隣の光電変換セル10に伝達される。接続導体6は、例えば、
図2に示すように集電電極7のY軸方向への延在部分によって構成されている。これにより、光電変換装置11においては、隣り合う光電変換セル10の一方の下部電極層2と、他方の集電電極7とが、第2溝部P2に設けられた接続導体6を介して電気的に直列に接続されている。なお、接続導体6は、これに限定されず、上部電極層5の延在部分によって構成されていてもよい。
【0035】
集電電極5は、良好な導電性が確保されつつ、第1の半導体層3への光の入射量を左右する受光面積の低下が最小限にとどめられるように、50〜400μmの幅を有するものとすることができる。
【0036】
<(2)光電変換装置の製造方法>
図4から
図9は、光電変換装置11の製造途中の様子をそれぞれ模式的に示す断面図である。なお、
図4から
図9で示される各断面図は、
図2で示された断面に対応する部分の製造途中の様子を示す。
【0037】
まず、
図4に示すように、洗浄された基板1の略全面に、スパッタリング法等を用いて、Mo等からなる下部電極層2を成膜する。そして、下部電極層2の上面のうちのY方向に沿った直線状の形成対象位置からその直下の基板1の上面にかけて、第1溝部P1を形成する。第1溝部P1は、例えば、YAGレーザー等によるレーザー光を走査しつつ形成対象位置に照射することで溝加工を行なう、レーザースクライブ加工によって形成することができる。
図5は、第1溝部P1を形成した後の状態を示す図である。
【0038】
第1溝部P1を形成した後、下部電極層2の上に、11族元素およびIn元素を含むとともに少なくとも下部電極層2とは反対側の表面領域(以下、皮膜の下部電極層2とは反対側の表面領域のことを単に皮膜の表面領域ともいう)にGa元素を含む皮膜を作製する。そして、この皮膜をS元素を含む雰囲気で加熱して硫化した後、Se元素を含む雰囲気で加熱して皮膜をセレン化する。これにより、第1の半導体層3の表面部3aにおけるGa元素およびS元素の含有率を容易に制御することが可能となり、下部電極層2とは反対側の表面部3aにおいて、In元素とGa元素との合計原子数に対するGa元素の相対原子数比およびS元素の相対原子数比が、下部電極層2から離れるに従って増加している第1の半導体層3を容易に、かつ安定して作製することができる。
【0039】
これは以下の理由によると考えられる。11族元素、In元素およびGa元素を含む皮膜をセレン化する場合は、Ga元素よりもIn元素の方がセレン化物の結晶を生じやすい傾向がある。そのため、雰囲気中のSe元素との反応が生じやすい皮膜の表面部において、In元素とSe元素とが反応して結晶化するとともに、反応性の低いGa元素は下部電極層2側に移動する傾向がある。よって、第1の半導体層3の表面部3aにおいて、In元素とGa元素との合計原子数に対するGa元素の相対原子数比は、低くなり易い。その結果、開放電圧が小さくなって光電変換効率を十分に高めることが困難である。一方、上記のように少なくとも表面部にGa元素を含む皮膜を形成し、この皮膜を硫化した後にセレン化すると、まず、硫化においては、In元素よりもGa元素の方が硫化物の結晶を生じやすい傾向がある。そのため、雰囲気中のS元素との反応が生じやすい皮膜の表面部において、Ga元素とS元素とが反応して結晶化するとともに、反応性の低いIn元素は下部電極層2側に移動する。そして、この皮膜をセレン化することにより、表面部3aにおいてGa元素およびS元素の相対原子数比が下部電極層2から離れるに従って高くなる構成を有する第1の半導体層3を容易に作製することが可能となる。
【0040】
なお、皮膜中の11族元素、In元素およびGa元素の各元素は、すべて均一に皮膜中に混在していてもよいが、複数の元素がそれぞれ別々の層に存在した状態(特定の元素が皮膜の厚み方向の一部分だけに存在する状態)であってもよい。これは、数μm〜数10μm程度の厚みの皮膜であれば、複数の元素がそれぞれ別々の層に存在していたとしても、皮膜を加熱処理する際に、各元素が拡散し合うことによって、各元素同士が反応し合うことができるためである。
【0041】
皮膜は、11族元素、In元素およびGa元素のうち、いずれか1種または複数種を含む原料を用いて作製することができる。具体的には、上記原料を含む原料溶液を塗布することによって、あるいはスパッタリング法や蒸着法等によって、皮膜を形成することができる。皮膜は複数層から成る積層体であってもよい。
【0042】
11族元素、In元素およびGa元素の各元素は、それぞれ皮膜中に化合物の状態、合金の状態、および単体の状態のいずれの状態で存在していてもよい。雰囲気中のS元素との反応性を高め、生成する第1の半導体層3の表面部におけるGa元素の相対原子数比をより容易に高くできるという観点からは、上記各元素は、有機配位子が配位した有機錯体の状態で皮膜中に存在していてもよい。特に、反応性を高くして、結晶性を高めるという観点からは、上記有機錯体として、11族元素、In元素およびGa元素の少なくとも1種に、有機配位子として有機カルコゲン化合物が配位したものを用いてもよい。
【0043】
有機カルコゲン化合物とは、カルコゲン元素を含む有機化合物であり、炭素元素とカルコゲン元素との共有結合を有する有機化合物である。なお、カルコゲン元素としては、Se元素またはS元素を使用することができる。有機カルコゲン化合物としては、例えば、チオールや、スルフィド、ジスルフィド、セレノール、セレニド、ジセレニド等を用いることができる。有機カルコゲン化合物が配位した有機錯体の具体例としては、Cu元素やAg元素等の11族元素に有機カルコゲン化合物が配位した有機錯体、In元素に有機カルコゲン化合物が配位した有機錯体、Ga元素に有機カルコゲン化合物が配位した有機錯体、または、有機カルコゲン化合物が11族元素および13族元素の両方に配位して1つの分子中に11族元素と13族元素とカルコゲン元素とを有する単一源有機錯体(特許文献2参照)等を用いることができる。
【0044】
以上のような、11族元素、In元素およびGa元素のいずれかを含む有機錯体を、ピリジンやアニリン等の有機溶媒に溶解して原料溶液とする。そして、この原料溶液を、例えば、スピンコータ、スクリーン印刷、ディッピング、スプレー、ダイコータ等によって第1の電極層2上に膜状に被着し、溶媒を乾燥によって除去することにより、皮膜を形成することができる。なお、皮膜は、上記皮膜形成工程を繰り返すことによって、複数層の積層体としてもよい。
【0045】
そして、作製した皮膜を、S元素が硫黄蒸気または硫化水素等として含まれている雰囲気において、300〜650℃で10〜120分加熱して硫化を行なう。その後、この皮膜を、Se元素がセレン蒸気またはセレン化水素として含まれている雰囲気において400〜650℃で10〜120分加熱してセレン化を行なう。このような加熱工程における硫化の段階では、雰囲気中のS元素によって特に皮膜中のGa元素の硫化が進行しやすくなり、表面部のGa元素およびS元素の比率が増加する。そして、続くセレン化工程における段階では、皮膜の硫化が完了していない内部や下部において、セレン化が進行し、Ga元素が下部電極層2側へ移動しやすくなる。一方、表面部の硫化時に反応したGa元素は、セレン化時における移動はほとんどない。その結果、表面部3aにおいて、In元素とGa元素との合計原子数に対するGa元素の相対原子数比およびS元素の相対原子数比が、下部電極層2から離れるに従って増加した第1の半導体層3を得ることができる。なお、皮膜の硫化の際には第1の半導体層3の結晶化温度である400℃以上の温度にして加熱すると、皮膜の硫化が良好に行なわれ、その後のセレン化においてもGa元素およびS元素の濃度分布をより良好に維持できる。
【0046】
以上のように硫化およびセレン化の条件を調整することによって、第1の半導体層3中のS元素の濃度分布、Ga元素の濃度分布を容易に変えることができる。例えば、硫化の際の加熱温度を高くするほど、あるいは加熱時間を長くするほど、第1の半導体層3中の表面部3aの厚みが厚くなったり、第1の半導体層3の表面部3aにおけるGa元素またはS元素の相対原子数比の変化率が大きくなったりする(すなわち、
図3のグラフの表面部におけるGa元素の分布の傾きまたはS元素の分布の傾きが大きくなる)傾向がある。また、セレン化の際の加熱温度を高くするほど、あるいは加熱時間を長くするほど、第1の半導体層の残部3bにおけるGa元素の相対原子数比の変化率が大きくなる(すなわち、
図3のグラフの残部におけるGa元素の分布の傾きが大きくなる)傾向がある。
【0047】
なお、上記の硫化工程およびセレン化工程においては、それぞれ多段階の加熱工程を行なってもよい。例えば、硫化工程において、300〜450℃で硫化を行なった後、500〜600℃で硫化を行なってよい。同様に、セレン化工程において、350〜450℃でセレン化を行なった後、500〜600℃でセレン化を行なってよい。このように多段階で加熱を行なうことによって、Ga元素の相対原子数比およびS元素の相対原子数比の制御をより容易に行なうことが可能になる。さらに、セレン化工程において、500〜600℃でセレン化を行なった後、450℃〜550℃でセレン化を行なってもよい。
【0048】
また、上記の硫化工程において、雰囲気中に酸素を、例えば分圧比で1〜100ppmv含めてもよい。これにより、表面部に酸素元素を、Ga元素やS元素と同様に、下部電極層2から離れるに従って増加するように含めることができる。その結果、Ga元素やS元素の含有率が高まるにつれて生じやすい欠陥に対し、Ga元素やS元素の含有率に応じた最適な酸素量を供給することで、キャリア再結合に起因した効率低下を抑制できる。
【0049】
また、上記の皮膜を作製した後、この皮膜を硫化する前に、皮膜を、カルコゲン元素を含まない雰囲気中で、例えば50〜350℃で加熱して、皮膜中の有機成分を熱分解しておいてもよい。これにより、第1の半導体層3中に有機成分が残存するのを低減でき、第1の半導体層3の光電変換効率をより高めることができる。特に、この皮膜中の有機成分を熱分解する際に、雰囲気中に水蒸気や酸素等の酸化性ガスを、分圧比で50〜300ppmv程度含有させておいてもよい。これにより、第1の半導体層3中に酸素元素を含有させることができる。その結果、酸素元素が第1の半導体層3の格子欠陥に入ることによって、電荷の再結合を低減することができる。
【0050】
また、上記の皮膜中にSe元素を含めておいてもよい。これにより、生成する第1の半導体層3においてSe元素不足が生じるのを有効に低減できる。また、皮膜を、S元素を含む雰囲気で加熱して硫化する際に、硫化の程度を制御しやすくなり、表面部におけるS元素の濃度分布を所望のものとしやすくなる。
【0051】
皮膜中にSe元素を含める方法としては、上述したように有機カルコゲン化合物として有機セレン化合物を用いればよい。あるいは、上記皮膜をS元素雰囲気で加熱する前にSe雰囲気で加熱して、皮膜が完全にはセレン化されない程度にセレン化を行なってもよい。
【0052】
第2の半導体層4は、溶液成長法(CBD法ともいう)によって形成することができる。例えば、酢酸カドミウムとチオ尿素とをアンモニア水に溶解し、これに第1の半導体層3の形成まで行なった基板1を浸漬することで、第1の半導体層3の上にCdSを含む第2の半導体層4を形成することができる。
【0053】
上部電極層5は、例えば、Snが含まれた酸化インジウム(ITO)等を主成分とする透明導電膜であり、スパッタリング法、蒸着法またはCVD法等で形成することができる。
図7は、第2の半導体層4および上部電極層5を形成した後の状態を示す図である。
【0054】
上部電極層5を形成した後、上部電極層5の上面のうちのY方向に沿った直線状の形成対象位置からその直下の下部電極層2の上面にかけて、第2溝部P2を形成する。第2溝部P2は、例えば、スクライブ針を用いたメカニカルスクライビング加工によって形成することができる。
図8は、第2溝部P2を形成した後の状態を示す図である。第2溝部P2は、第1溝部P1よりも若干X方向(図中では+X方向)にずれた位置に形成する。
【0055】
第2溝部P2を形成した後、集電電極7および接続導体6を形成する。集電電極7および接続導体6については、例えば、Ag等の金属粉を樹脂バインダー等に分散した導電性を有するペースト(導電ペーストともいう)を所望のパターンを描くように印刷し、これを加熱することで形成できる。
図9は、集電電極7および接続導体6を形成した後の状態を示す図である。
【0056】
集電電極7および接続導体6を形成した後、上部電極層5の上面のうちの直線状の形成対象位置からその直下の下部電極層2の上面にかけて、第3溝部P3を形成する。第3溝部P3の幅は、例えば40〜1000μm程度とすることができる。また、第3溝部P3は、第2溝部P2と同様に、メカニカルスクライビング加工によって形成することができる。このようにして、第3溝部P3の形成によって、
図1および
図2に示した光電変換装置11を製作したことになる。
【0057】
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良などが可能である。