特許第5791836号(P5791836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5791836沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5791836
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03G 4/00 20060101AFI20150917BHJP
   F01K 27/02 20060101ALI20150917BHJP
   F01K 25/10 20060101ALI20150917BHJP
   F28D 7/12 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   F03G4/00 501
   F03G4/00 531
   F01K27/02 Z
   F01K25/10 R
   F28D7/12
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-28040(P2015-28040)
(22)【出願日】2015年2月16日
【審査請求日】2015年4月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514143002
【氏名又は名称】田原 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100116296
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幹生
(72)【発明者】
【氏名】田原 俊一
【審査官】 佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−103122(JP,A)
【文献】 特開平01−232175(JP,A)
【文献】 特開昭52−122745(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02706308(EP,A1)
【文献】 特開昭60−040787(JP,A)
【文献】 特開2014−084857(JP,A)
【文献】 特開2014−047676(JP,A)
【文献】 特開2011−169188(JP,A)
【文献】 特開2014−156843(JP,A)
【文献】 特開2013−164062(JP,A)
【文献】 特開2011−052621(JP,A)
【文献】 特開2014−227962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 4/00、7/05
F01K 23/00−27/02
F24J 3/08
F28D 1/00−13/00
DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に設けられ地上から水が供給される水注入管と、前記水注入管に接するように地中に設けられ、複数の噴出口を有する蒸気取出管とを備え、前記蒸気取出管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されており、前記水注入管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が前記噴出口を介して地中に存在する蒸気取出管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される沸騰水型地熱交換器であって、前記蒸気取出管が前記水注入管の内側に配置され、前記蒸気取出管の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなるように前記蒸気取出管が形成されており、前記水注入管に供給される水の水位を低くすることによって、前記水注入管の上部に空気層が形成されることによる断熱部が、地表面に近い低温地帯に接する領域に対して設けられていることを特徴とする沸騰水型地熱交換器。
【請求項2】
前記蒸気取出管の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって段階的に小さくなっていることを特徴とする請求項1記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項3】
前記蒸気取出管の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって連続的に小さくなっていることを特徴とする請求項1記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項4】
前記水注入管に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されていることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項5】
少なくとも1つの前記水注入管と少なくとも1つの前記蒸気取出管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の地熱井に対して挿入されて構成され、前記蒸気取出管の出口が並列に接続されて、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えていることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項6】
前記地熱井は、既存の設備に付帯するものであることを特徴とする請求項に記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項7】
請求項1からのいずれかに記載の沸騰水型地熱交換器を用いて発電を行うことを特徴とする沸騰水型地熱発電装置。
【請求項8】
前記発電は、バイナリー方式によるものであることを特徴とする請求項記載の沸騰水型地熱発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱エネルギーを効率よく取り出すことが可能な沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地熱エネルギーを利用して発電する地熱発電は、高温のマグマ層を熱源とするものであり、半永久的な熱エネルギーとすることができるとともに、発電の過程において温室効果ガスを発生しないことから、化石燃料の代替手段として近年注目されている。
【0003】
従来の地熱発電は、地熱帯をボーリングし、地熱帯に存在する自然の蒸気や熱水を自然の圧力を利用して取り出し発電を行っている。そのため、取り出された蒸気と熱水には、地熱帯特有の硫黄その他の不純物が多量に含まれている。この不純物はスケールとなって、熱井戸や配管類、あるいはタービン等に付着する。スケールが付着すると、経年的に発電出力が減少し長期間の使用が困難となる。
【0004】
このスケールによる問題を解決するために、地上から水を送り、地熱帯から供給される熱によって加熱して熱水を取り出す方式を採用した技術が、特許文献1に記載されている。
【0005】
特許文献1に記載された技術は、地下に設置された地熱交換器で取出した高圧単相流を、地上に設置された気水分離器で蒸気として取出す方法のものであり、スケールによる問題を解決しつつ地熱を有効利用できる点で大きな効果を有するものである。
【0006】
地熱交換に関してはさらに、以下のような問題点が考えられる。第一に、地下に送り込まれる水と、地熱の供給を得て取り出される熱水の、配管内における圧損のため、高圧ポンプの動力を大きくしなければならす、ポンプ動力を低く抑えて発電効率を上げるためには、地熱交換器の径を大きくする必要があるという問題点がある。
【0007】
第二に、特許文献1による利点の一つに、既存の抗井のリプレイスがあるが、地熱交換器の径が制限されることによって、リプレイスが適用される抗井が限定されるという問題点がある。既存抗井のリプレイスの他に、地熱探査用抗井、休止中の抗井のリプレイス等を検討する場合においても、地熱交換器の径の大きさが障害となりうる。
【0008】
特許文献2には、地熱発電システムのエネルギー効率を高め、ポンプ等のコスト増を抑制することにより、発電単価を低減することを解決課題として、液体を地上から地熱帯まで下降させて該液体に前記地熱帯で熱を吸収させ、熱を吸収した前記液体を前記地熱帯から上昇させる途中で該液体の圧力を飽和蒸気圧以下に減圧させる地熱発電用の蒸気発生方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−52621号公報
【特許文献2】特開2014−227962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載の技術によると、熱を吸収した液体を地熱帯から上昇させる途中で、液体の圧力を飽和蒸気圧以下に減圧させているため、加圧熱水を上昇させる場合と比較すると、地熱交換器を出ていく熱水と送り込まれる水および地下低温地帯との間で、熱の受け渡しが行われ、熱ロスが発生するという問題点はある程度改善される。
【0011】
しかし、高温の蒸気は、送り込まれる水や地下低温地帯の近くを通って取り出される構造であるため、高温の蒸気と、送り込まれる水や地下低温地帯との熱交換を可能な限り抑制することが求められている。
【0012】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、取出される高温の蒸気と、送り込まれる水や地下低温地帯との熱交換を可能な限り抑制することができ、配管の軽量化が可能な沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するために、本発明の沸騰水型地熱交換器は、地中に設けられ地上から水が供給される水注入管と、前記水注入管に接するように地中に設けられ、複数の噴出口を有する蒸気取出管とを備え、前記蒸気取出管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されており、前記水注入管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が前記噴出口を介して地中に存在する蒸気取出管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される沸騰水型地熱交換器であって、前記蒸気取出管が前記水注入管の内側に配置され、前記蒸気取出管の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなるように前記蒸気取出管が形成されていることを特徴とする。
【0014】
水注入管に供給された水は、水注入管下部において、地上からの深さにほぼ比例した高温圧力水となる。蒸気取出管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されているため、高温圧力水はその水圧によって蒸気取出管に設けられた噴出口を介して蒸気取出管へ噴出し、減圧された蒸気取出管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される。
【0015】
蒸気取出管の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなるように蒸気取出管が形成されていることにより、地表に近い低温領域に近づくにつれて、蒸気単相流が蒸気取出管内を上昇する際の速度が増大し通過時間が短縮される。蒸気が上昇する際の流速は、蒸気取出管の径の二乗に反比例して増大し、蒸気が上昇するに要する通過時間は、蒸気取出管の径の二乗に比例して短くなる。さらに、外管である水注入管との接触面積は、蒸気取出管の径に比例して小さくなることから、外管である水注入管との間で熱交換される熱量は、内管である蒸気取出管の径の三乗に比例して減少するため、蒸気単相流が低温領域を通過する際の熱損失を低減することができる。
【0016】
また、外管である水注入管を設置した後で、内管である蒸気取出管を取り付ける場合には、蒸気取出管の径が地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなっていることにより、地熱帯側下方の径と同一の径で蒸気取出管を形成する場合と比べて、蒸気取出管の重量を軽くすることができ、工事の際の利便性を高めることができる。
【0017】
蒸気取出管内での蒸気は、圧力勾配があるタービンへ移動したのち、タービン内で膨張してタービンを回す動力となる。タービンを出た蒸気は復水器にて水に戻り、再び水注入管に送り込まれる。循環する水量はタービンが必要とする蒸気量に等しいため、循環水量は非常に少なくて済む。この過程を繰り返すことにより、効率的に連続して地熱を取り出すことができる。
このような方式により地熱交換を行うことにより、低温地帯を通過する際に生じる熱ロスが小さく、管表面を通る際の摩擦による管ロスが小さく、循環させる水の量を削減することができる熱交換が可能となる。
【0018】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、前記蒸気取出管の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって段階的に小さくなっている構造とすることができる。
【0019】
また、本発明の沸騰水型地熱交換器においては、前記蒸気取出管の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって連続的に小さくなっている構造とすることができる。
【0020】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、前記水注入管に供給される水の水位を低くすることによって、前記水注入管の上部に空気層が形成されることによる断熱部が、地表面に近い低温地帯に接する領域に対して設けられている構造とすることができる。
【0021】
対象となる地熱層によっては、地中に設置する地熱交換器に供給する水圧が大きすぎる場合があり、この水圧を下げる必要性がある場合、水注入管の水位を下げることで地熱交換器内の圧力調整が可能である。これによって水注入管の上部には空気層が形成されることになり、断熱性の高い空気層によって断熱効果を得ることができる。特に、抗井の高温地帯の深度が大きい場合、水注入管に供給する水の水位を低くすることで、地表面に近い低温地帯に接する水注入管に空気層を形成することができる。
【0022】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、前記水注入管に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されている構成とすることができる。
【0023】
大容量の発電を行う場合には、循環水量が大きくなることにより、外管部の損失水頭が大きくなるが、水注入管に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されている構成とすることにより、損失水頭分を補うことができ、自然水圧による場合よりも大きな圧力が得られるため、大容量の発電を実現することが可能となる。また、水注入管に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されている構成とすることにより、蒸気圧力を高くすることができるため、未利用の全国の高温度の地熱帯に本発明の沸騰水型地熱交換器を広く適用することができる。
【0024】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、少なくとも1つの前記水注入管と少なくとも1つの前記蒸気取出管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の地熱井に対して挿入されて構成され、前記蒸気取出管の出口が並列に接続されて、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えている構成とすることができる。
【0025】
ボーリングする場所によって、温度・圧力ともそれぞれ異なるため、発電に利用した場合に、地熱井1つに対する発電出力がそれぞれ違うこととなる。そのため、複数の地熱井に対して、挿入管の蒸気取出管の出口を並列につなぎ、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気を合計して採集することで、タービン・復水器・発電機・変圧器等の容量を大きく設計することができ、発電所全体の効率がアップするという利点がある。また、蒸気ヘッダーを配置することにより、採集された蒸気の圧力の均一化を図ることができる。
【0026】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、前記地熱井は、既存の設備に付帯するものであることとすることができる。
【0027】
既存の設備に付帯する空の地熱井や休止中の地熱井に対して、水注入管と蒸気取出管とが組み合わされて構成される挿入管を挿入して用いることにより、新たにボーリングを行うことなく、熱水によるエネルギーを取出すことができる。特に、蒸気単相流として地中から取出すことにより、挿入管の径を小さくすることができるため、使用できる地熱井の自由度が高まる。
【0028】
本発明の沸騰水型地熱発電装置は、本発明の沸騰水型地熱交換器を用いて発電を行うことを特徴とする。
また、本発明の沸騰水型地熱発電装置は、前記発電をバイナリー方式によって行うことができる。
【0029】
本発明の沸騰水型地熱交換器は、配管内における圧損や熱ロスの発生を抑制し、地中に埋設される管の径を小さくすることを可能とし、循環させる水の量を削減することができ、熱交換効率に優れたものであるため、この地熱交換器を用いることによって、既存の設備に付帯する地熱井を有効に利用して、効率の良い地熱発電を行うことができるため、利便性の高い地熱発電装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、取出される高温の蒸気と、送り込まれる水や地下低温地帯との熱交換を可能な限り抑制することができ、配管の軽量化が可能な沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第一実施形態に係る沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置を示す図である。
図2】本発明の第二実施形態に係る沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置を示す図である。
図3】本発明の沸騰水型地熱交換器をバイナリー方式の発電に適用した沸騰水型地熱発電装置の構成を示す図である。
図4】水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧する実施形態に係る沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置を、その実施形態に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置を図1に示す。
【0033】
図1において、地熱交換器1は、地中に設けられて地上から水が供給される水注入管2と、水注入管2に接するように地中に設けられた蒸気取出管3とを備えている。図1においては、水注入管2を地熱帯4側に近い外管とし、蒸気取出管3を水注入管2の内側に設けた内管とした2重管構造としている。
【0034】
蒸気取出管3には、その下部領域に、複数の噴出口5が設けられており、水注入管2と蒸気取出管3とは、この噴出口5によって開口状態となっている。すなわち、噴出口5は、水注入管2と蒸気取出管3との境界に設けられている。蒸気取出管3はタービン6に接続されており、蒸気取出管3内の圧力は、タービン6が必要とする圧力近くに減圧されている。
【0035】
水注入管2に自然の落差を利用して供給された水は、水注入管2の底部付近において、地上からの深さにほぼ比例した圧力が加えられ、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となる。蒸気取出管3内は減圧されているため、この圧力差を利用して、高温圧力水は矢印で示すように、噴出口5から噴霧状態で蒸気取出管3内へ噴き出し、タービン6が必要とする圧力と、水注入管2の底部との圧力差を利用して気化して蒸気単相流に変換される。地下にて生成された蒸気単相流は、蒸気取出管3とタービン6との圧力差でタービン6へ移動したのち、タービン6内で膨張してタービン6を回す動力となる。この動力によって発電機7により発電がなされる。
【0036】
タービン6を出た蒸気はその後、復水器8にて冷却水9により冷却されて水に戻り、再び水注入管2に供給される。循環する水量はタービン6が必要とする蒸気量に等しいため、循環させる水量は非常に少なくて済む。この過程を繰り返すことによって、連続して地熱を取り出す。必要に応じて、補給水11は水処理装置10を介して補給水槽12から補給される。補給水の水位は、補給水調節弁13によって調節される。蒸気取出管3とタービン6との間には、蒸気ヘッダー18と蒸気調節弁15とが設けられている。その他、圧力調節弁17が設けられている。
【0037】
蒸気ヘッダー18は、複数の地熱井から生産された蒸気をまとめて、単機のタービン6に供給するような場合に用いられるもので、これにより、圧力を均一化させることができる。なお、蒸気ヘッダー18は、自然水圧による本実施形態の他、後述する、水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧する実施形態においても用いることができる。
【0038】
タービン6や発電機7等の主要機器の事故または送電系統の事故が起こった場合には、発電機7の遮断器が作動するが、この場合は、地熱交換器1内の圧力が急激に上昇することを防ぐため、緊急減圧弁16を作動させて、地熱交換器1内の急激な圧力上昇を防ぐことができる。通常の発電機の負荷変動には、地熱交換器1が自動的に対応することができる。発電機負荷が増えた場合には、地熱交換器1内部の圧力が下がるため、蒸気発生量が増える。発電機負荷が減少した場合は、地熱交換器1内部の圧力が上昇するため蒸気発生量が減少する。このように一連の自動発電量制御機能が備わっていることも一つの特徴である。
【0039】
蒸気取出管3の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなるように、蒸気取出管3が形成されている。図1においては、その第一実施形態として、蒸気取出管3の径が、地熱帯側下方から地表側上方に向かって段階的に小さくなっている構造のものを示している。高温域である地熱帯4領域の部分の径に対して、中温域25領域の部分の径を小さくし、低温域26領域の部分の径をさらに小さくしている。なお、図1に示すものは一例であって、径が減少する箇所の数はここに示すものに限定されない。
【0040】
また、図2においては、その第二実施形態として、蒸気取出管3の径が、地熱帯側下方から地表側上方に向かって連続的に小さくなっている構造のものを示している。図2では、高温域である地熱帯4から中温域25を経て低温域26に至るまでの径の減少の割合が一定であり、一定の傾きで直線的に減少するものを例示しているが、径の減少の割合は一定でなくてもよく、曲線的に減少するものであってもよい。さらに、径の段階的な減少と連続的な減少とを組み合わせてもよい。
【0041】
蒸気取出管3の径が、地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなるように蒸気取出管3が形成されていることにより、地表に近い低温領域に近づくにつれて、蒸気単相流が蒸気取出管3内を上昇する際の速度が増大し通過時間が短縮される。外管である水注入管2との間で熱交換される熱量は、内管である蒸気取出管3の径の三乗に比例して減少するため、蒸気単相流が低温領域を通過する際の熱損失を低減することができる。
【0042】
また、外管である水注入管2を設置した後で、内管である蒸気取出管3を取り付ける場合には、蒸気取出管3の径が地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなっていることにより、地熱帯側下方の径と同一の径で蒸気取出管3を形成する場合と比べて、蒸気取出管3の重量を軽くすることができ、工事の際の利便性を高めることができる。
【0043】
このように、本発明の沸騰水型地熱交換器では、水注入管2に自然の落差を利用して供給された水は、下降して周囲の地熱帯4から加熱されるため、水注入管2下部においては、高温の圧力水となっている。この高温・高圧水を、水注入管2下部から噴出口5を介して蒸気取出管3へ噴霧状態で噴き出す。蒸気取出管3下部では、タービン6が必要とする圧力より少し高めの飽和圧力と、水注入管2底部との圧力差を利用して気化させる。蒸気取出管3上部での圧力は、タービン6が必要とする圧力より少し高く設定されており、タービン6の負荷である発電機7の負荷とつりあって、ほぼ自動的に一定の圧力を維持することができる。水注入管2下部とタービン6との圧力差は非常に大きいため、タービン6が必要とする圧力・流量の蒸気を、連続して生産することが可能となる。蒸気はタービン6を出た後、復水器8で冷却されて水に戻り、再び水注入管2に送り込まれるが、循環する水量はタービン6が必要とする蒸気量に等しいため、循環水量は非常に少なく、水注入管2上部への給水には加圧ポンプは必須ではない。
【0044】
本発明においては、高度処理された水を水注入管2の最下部まで、自然の圧力を利用して送り込むことで、圧力勾配が形成される。蒸気取出管3上部における圧力は、タービン6が必要とする入口圧であり、蒸気取出管3内部および配管類の圧損はこれより一桁少ない数値であるため、理論上抗井の深さは、タービン6が必要とする圧力分があればよく、地熱帯の高温地区での適用が可能である。
【0045】
抗井の高温地帯の深度が大きい場合、水注入管2に供給する高度処理水の水位を低くすることにより、地表面に近い低温地帯26に接する水注入管2には空気層19が形成されるため、これにより断熱効果を向上することができる。また、水注入管2下部における高温地帯と接する面は、熱伝導特性に優れた材質のものを使用して、地熱を吸収しやすいようにする。
【0046】
蒸気取出管3の下部領域に設けられる、複数の噴出口5は、小径の穴をあけることによって形成されるが、その口径、数および流速は、発電容量、抗井の温度および深さにより個別に設計される。その一例として、水注入管2の径を165.2mm、蒸気取出管3の径を89.1mmとしたときに、2mm径の噴出口5を100個設けることができる。
【0047】
地熱交換器1は、少なくとも1つの水注入管2と少なくとも1つの蒸気取出管3とが組み合わされてなる挿入管が、複数の地熱井に対して挿入されて構成され、蒸気取出管3の出口が並列に接続されて、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダー18を備えている構成とすることができる。
【0048】
1つの地熱井に対して1つの挿入管を挿入して使用することも可能であるが、ボーリングする場所によって、温度・圧力ともそれぞれ異なるため、発電に利用した場合に、地熱井1つに対する発電出力がそれぞれ違うこととなる。そのため、複数の地熱井に対して、挿入管の蒸気取出管3の出口を並列につなぎ、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気を合計して採集することで、タービン・復水器・発電機・変圧器等の容量を大きく設計することができ、発電所全体の効率がアップするという利点がある。また、蒸気ヘッダー18を配置することにより、採集された蒸気の圧力の均一化を図ることができ、圧力が均一化された蒸気を単機のタービンに供給することができる。
【0049】
例えば、3つの地熱井を使用する場合、それぞれの地熱井での熱出力を発電機出力に換算して、1号井500kW、2号井400kW、3号井600kWである場合、3ユニット独立で発電システムを構築するより、これらを合計して、1号井+2号井+3号井=1500kWの1ユニットとして設計すれば、全体の出力は同じでも、タービン・復水器・発電機・変圧器の容量を大きく設計することができ、電気機器の効率は容量によってアップするため、発電に利用した場合には発電所全体の効率がアップすることになる。また、工事費等の建設費を格段に安くすることができる。
【0050】
また、地熱交換器1は、新設の地熱井を用いることができる他、既存の設備、例えば、既存の地熱発電所に付帯する地熱井であって、空の地熱井や休止中の地熱井に対して、水注入管2と蒸気取出管3とが組み合わされて構成される挿入管を挿入して用いることができる。特に、蒸気単相流として地中から取出すことにより、挿入管の径を小さくすることができるため、使用できる地熱井の自由度が高まり、既存の地熱井の有効利用を促進することができる。
【0051】
このように、休坑井を含む既存の坑井をリプレイスすることで、環境アセスに要する時間を大幅に短縮することができ、開発コストを大きく削減することができる。また、従来型の地熱発電で必要な補充坑が不要である。さらに、地熱流体を一切用いないため、スケール腐食は通常の水配管・機器と同レベルになり、一般の工業装置のメンテナンス頻度で済むという利便性があるとともに、温泉源枯渇の懸念は払しょくされ、環境問題は劇的に緩和される。
【0052】
本発明の沸騰水型地熱交換器は、地下で蒸気が生成されるため、通常地上に設置される圧力容器である蒸気発生器は不要である。そのため、蒸気発生器の建設費用が不要であり、システム全体の制御をより簡易な設計とすることができる。また、蒸気発生器を設置する必要がないため、圧力容器の取り扱い技術者が不要であり、保守要員の削減を図ることで運転コスト削減に供することができる。
【0053】
また、本発明の沸騰水型地熱交換器は、地下水を圧送するための加圧ポンプは必須ではなくなるため、加圧ポンプの設置に要する費用を削減することができる。さらに、システム全体の制御をより簡易な設計とすることができる。さらに、蒸気発生器は不要であり、加圧ポンプは必須ではないため、地上設備を設置する用地を少なくすることができる。地熱帯は国立公園内に多く存在しており、発電設備の建設にあたっての環境負荷を軽減することが可能である。
【0054】
本発明では、既存の発電用、温泉用を問わず、坑井の最深部地帯に一定の熱があることを条件として、地上から坑井の最深部へ水を供給することによって、坑井の再生を行うことが可能である。この場合には、水を供給する管は、通常の配管で十分である。
【0055】
図3に、本発明の沸騰水型地熱交換器をバイナリー方式の発電に適用した沸騰水型地熱発電装置の構成を示す。
図3において、地熱交換器1の機能は図1に基づいて説明したものと同様であり、地熱交換器1の蒸気取出管3から取り出された蒸気単相流は、蒸発器20に送られ、低沸点媒体を加熱する。加熱された低沸点媒体は、低沸点媒体蒸気となってタービン6へ移動して、タービン6を回す動力となる。この動力によって発電機7により発電がなされる。
【0056】
タービン6を出た低沸点媒体蒸気はその後、凝縮器21にて冷却水により冷却されて低沸点媒体に戻り、蒸発器20に送られる。この繰り返しにより、継続的に発電がなされる。必要に応じて、補給水11は水処理装置10を介して補給水槽12から補給される。補給水の水位は、補給水調節弁13によって調節される。蒸気取出管3とタービン6との間には、蒸気ヘッダー18と蒸気調節弁15とが設けられている。
なお、図3においては、図1に示す実施形態の地熱交換器1を用いたものを示しているが、図2に示す実施形態の地熱交換器1を用いてバイナリー発電を行うこともできる。
【0057】
上記の説明は、自然水圧による実施形態に関するものであるが、水注入管2に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されている構成とすることもできる。
【0058】
大容量の発電を行う場合には、循環水量が大きくなることにより、外管部の損失水頭が大きくなるが、水注入管2に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されている構成とすることにより、損失水頭分を補うことができ、自然水圧による場合よりも大きな圧力が得られるため、大容量の発電を実現することが可能となる。また、水注入管2に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されている構成とすることにより、蒸気圧力を高くすることができるため、未利用の全国の高温度の地熱帯に本発明の沸騰水型地熱交換器を広く適用することができる。
【0059】
以下に、水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧する実施形態について説明する。
図4に、この実施形態に係る沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置を示す。
【0060】
図4において、地熱交換器1は、地中に設けられて地上から水が供給される水注入管2と、水注入管2に接するように地中に設けられた蒸気取出管3とを備えている。水注入管2を地熱帯4側に近い外管とし、蒸気取出管3を水注入管2の内側に設けた内管とした2重管構造としている。
【0061】
蒸気取出管3には、その下部領域に、複数の噴出口5が設けられており、水注入管2と蒸気取出管3とは、この噴出口5によって開口状態となっている。すなわち、噴出口5は、水注入管2と蒸気取出管3との境界に設けられている。蒸気取出管3はタービン6に接続されており、蒸気取出管3内の圧力は、タービン6が必要とする圧力近くに減圧されている。
【0062】
水注入管2に供給される水に加圧するための加圧ポンプ31が地上に配置されている。水注入管2に供給される水は、地上にて加圧ポンプ31によって加圧されるため、水注入管2の下部においては、この加圧による圧力と、地上からの深さにほぼ比例した圧力を合計した加圧水となる。
【0063】
蒸気取出管3の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなるように、蒸気取出管3が形成されている。図4においては、蒸気取出管3の径が、地熱帯側下方から地表側上方に向かって段階的に小さくなっている構造のものを示しているが、蒸気取出管3の径が、地熱帯側下方から地表側上方に向かって連続的に小さくなっている構造のものを用いることもできる。
【0064】
この加圧水に対して、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となる。蒸気取出管3内は減圧されているため、この圧力差を利用して、高温圧力水は矢印で示すように、噴出口5から噴霧状態で蒸気取出管3内へ噴き出し、タービン6が必要とする圧力と、水注入管2の底部との圧力差を利用して気化して蒸気単相流に変換される。地下にて生成された蒸気単相流は、蒸気取出管3とタービン6との圧力差でタービン6へ移動したのち、タービン6内で膨張してタービン6を回す動力となる。この動力によって発電機7により発電がなされる。
【0065】
タービン6を出た蒸気はその後、復水器8にて冷却水9により冷却されて水に戻り、再び水注入管2に供給される。循環する水量はタービン6が必要とする蒸気量に等しいため、循環させる水量は非常に少なくて済む。この過程を繰り返すことによって、連続して地熱を取り出す。必要に応じて、補給水11は水処理装置10を介して補給水槽12から補給される。復水器8と補給水槽12との間には引き抜きポンプ30が設けられている。補給水の水位は、補給水調節弁13によって調節される。蒸気取出管3とタービン6との間には、蒸気ヘッダー18と蒸気調節弁15とが設けられている。その他、圧力調節弁17が設けられている。
【0066】
上述したように、本発明においては、蒸気取出管の径が、地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなるように蒸気取出管が形成されていることにより、地表に近い低温領域に近づくにつれて、蒸気単相流が蒸気取出管内を上昇する際の速度が増大し通過時間が短縮され、蒸気単相流が低温領域を通過する際の熱損失が低減される点に大きな特徴があり、これによる大きな利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、配管内における圧損や熱ロスの発生を抑制し、地中に埋設される管の径を小さくすることを可能とし、循環させる水の量を削減することができ、熱交換効率に優れた沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置として広く利用することができる。特に、既存の坑井を有効利用できることや、発電設備の建設にあたっての環境負荷を軽減できる点等において顕著な優位性があり、原子力発電所の事故により、原子力に多くを依存していた我が国のエネルギー政策が根本から見直すことを余儀なくされている現状を考慮すると、産業上の利用に大きく寄与するものである。
【符号の説明】
【0068】
1 地熱交換器
2 水注入管
3 蒸気取出管
4 地熱帯
5 噴出口
6 タービン
7 発電機
8 復水器
9 冷却水
10 水処理装置
11 補給水
12 補給水槽
13 補給水調節弁
15 蒸気調節弁
16 緊急減圧弁
17 圧力調節弁
18 蒸気ヘッダー
19 空気層
20 蒸発器
21 凝縮器
25 中温域
26 低温域
30 引き抜きポンプ
31 加圧ポンプ
【要約】
【課題】取出される高温の蒸気と、送り込まれる水や地下低温地帯との熱交換を可能な限り抑制することができ、配管の軽量化が可能な沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置を提供する。
【解決手段】地熱交換器1は、地中に設けられて地上から水が供給される水注入管2と、水注入管2に接するように地中に設けられた蒸気取出管3とを備えている。蒸気取出管3には、その下部領域に複数の噴出口5が設けられ、蒸気取出管3内の圧力は、タービン6が必要とする圧力近くに減圧されている。蒸気取出管3の径は、地熱帯側下方から地表側上方に向かって小さくなるように、蒸気取出管3が形成されている。水注入管2に供給された水は、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となり、噴出口5から噴霧状態で蒸気取出管3内へ噴き出し、蒸気単相流に変換されて、発電機7により発電がなされる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4