特許第5791877号(P5791877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5791877正極活物質、この正極活物質の製造方法、及び、正極活物質を用いた非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791877
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】正極活物質、この正極活物質の製造方法、及び、正極活物質を用いた非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20150917BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150917BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20150917BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20150917BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150917BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/36 C
   H01M4/525
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2010-112860(P2010-112860)
(22)【出願日】2010年5月17日
(65)【公開番号】特開2011-96626(P2011-96626A)
(43)【公開日】2011年5月12日
【審査請求日】2013年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2009-227944(P2009-227944)
(32)【優先日】2009年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】ユ デニスヤウワイ
(72)【発明者】
【氏名】柳田 勝功
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−123400(JP,A)
【文献】 特開2002−063904(JP,A)
【文献】 特開2006−164758(JP,A)
【文献】 特開2009−146739(JP,A)
【文献】 特開2009−129721(JP,A)
【文献】 特開2011−060562(JP,A)
【文献】 特開2007−213866(JP,A)
【文献】 特開2010−232001(JP,A)
【文献】 ,Electrochemical and Solid State Letters,2006年,volume 9,A221-A224.
【文献】 Electrochemistry Communications,2009年,volume 11,pp748-751.
【文献】 Journal of the Electrochemical Society,2006年,volume 153,A1186-A1192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Li1+x-sMn1−x−y2-t(0<x<0.33、0<y<0.66、0<s<0.3、0<t<0.15であり、Mはマンガンを除く少なくとも1つの遷移金属である)で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子は、中心部の結晶構造が層状構造を成す一方、表面近傍部においては中心側から表面側にいくにつれて、結晶構造が層状構造からスピネル構造に徐々に変化し、且つ、上記層状構造と上記スピネル構造とにおける上記Mnと上記Mとの比率が同一となっており、
上記化学式中のs及びtの値は、正極活物質粒子の全体における値であって、
上記層状構造を成す中心部が、空間群C2/m、又は、空間群C2/cに属する構造を少なくとも含む、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子は、化学式Li1+x-sMn1−x−p−q−rNiCor2-t(0<x<0.33、0<p<0.5、0<q<0.33、0≦r<0.05、0<p+q+r<0.66、0<s<0.3、0<t<0.15であり、AはZr、またはNbである)で表される、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子のラマン強度比〔I(635)/I(605)〕が、0.6<I(635)/I(605)<1.5に規制される、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の表面上に保護層が形成されている、請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解液とを含む、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷特性等の電池特性を向上させることができる正極活物質、正極活物質の製造方法、及び、正極活物質を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。充放電に伴い、リチウムイオンが正、負極間を移動することにより充放電を行う非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。
【0003】
ここで、上記移動情報端末は、動画再生機能、ゲーム機能といった機能の充実に伴って、更に消費電力が高まる傾向にあり、その駆動電源である非水電解質二次電池には長時間再生や出力改善等を目的として、更なる高容量化や高性能化が強く望まれるところである。加えて、非水電解質二次電池は上記用途のみならず、電動工具やアシスト自転車、更にはHEV等の用途への展開も期待されおり、このような新用途に対応するためにも更なる高容量化や高性能化が強く望まれるところである。
【0004】
ここで、上記非水電解質二次電池の高容量化を図るためは、正極の高容量化が必須である。正極材料として、化学式Li1+xMn1−x−y(Mは少なくとも1つのマンガン以外の遷移金属である)の高リチウム含有遷移金属複合酸化物が提案されており、当該材料は、最大270mAh/gという高い放電容量を示すことが知られている。(下記非特許文献1参照)。しかし、上記酸化物は負荷特性、サイクル特性、及び初期充放電効率等が劣るため、実用的用途が制限されるという問題がある。尚、上記負荷特性は、一般的に、バルク内でのリチウム拡散速度及び粒子表面でのリチウムの挿入、離脱の円滑性に影響されることが知られている。そこで、正極活物質の粒径を小さくして、粒子内での拡散距離を小さくすることにより、負荷特性を向上させることが考えられる。しかし、粒径を小さくすると、正極活物質の充填密度が減少して、エネルギー密度が低下するという新たな課題が発生する。
【0005】
このようなことを考慮して、以下に示す提案が成されている。
(1)高リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面を、Al或いはLiNiPOで被覆したものを正極活物質として用いる提案(下記非特許文献1、2参照)。
(2)層状構造を有する正極活物質の表面を、LiMn等のスピネル構造を有する正極活物質で被覆するような提案(下記特許文献1参照)。
【0006】
(3)正極活物質の表面を改質するために、HNO等の酸を用いて余剰リチウムを活物質から除去すべく、高リチウム含有遷移金属複合酸化物を酸処理する提案(下記非特許文献3参照)。
(4)ニッケル系の正極活物質と(NHSOとを乾式混合した後、700℃で熱処理するような提案(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−129721号公報
【特許文献2】特開2009−146739号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Electrochemical and Solid-State Letters 9(5) A221-A224(2006).
【非特許文献2】Electrochemistry Communications 11 (2009) 748-751.
【非特許文献3】Journal of The Electrochemical Society 153(6) A1186-A1192(2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(1)の提案の課題
(1)の提案では、サイクル特性をある程度向上させるできるものの、表面にスピネル構造の正極活物質が存在しないので、負荷特性が低下したり、例え向上しても飛躍的な向上は図れない。
【0010】
(2)の提案の課題
(2)の提案では、中心部に配置された層状構造の正極活物質と表面部に配置されたスピネル構造の正極活物質とは構造が異なり、しかも、構造が異なるのみならず、それら正極活物質の組成も異なる。このため、中心部に配置された正極活物質と表面部に配置された正極活物質との間には境界が生じ、この境界によって、正極活物質粒子内でのリチウムの拡散が制限される。したがって、負荷特性を飛躍的に向上させることはできない。
【0011】
(3)の提案の課題
(3)の提案では、正極活物質の表面改質効果により、初期充放電効率を向上させることができるものの、酸により正極活物質の表面が損傷して、サイクル特性が低下する。
【0012】
(4)の提案の課題
(4)の提案では、本発明のようなマンガン系の正極活物質に適用した場合には、正極活物質の構造が異なること、及び、熱処理温度が高いこと等に起因して、放電容量の減少や充放電効率や負荷特性の低下を招来する。
【0013】
そこで本発明は、エネルギー密度が低下するのを抑制しつつ、負荷特性や充放電効率の向上、及び放電容量の増大等の電池諸特性を飛躍的に向上させることができる正極活物質、正極活物質の製造方法、及び、正極活物質を用いた電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、化学式Li1+x-sMn1−x−y2-t(0<x<0.33、0<y<0.66、0<s<0.3、0<t<0.15であり、Mはマンガンを除く少なくとも1つの遷移金属である)で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子を有する正極活物質であって、上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子は、中心部の結晶構造が層状構造を成す一方、表面近傍部においては中心側から表面側にいくにつれて、結晶構造が層状構造からスピネル構造に徐々に変化し、且つ、上記層状構造と上記スピネル構造とにおける上記Mnと上記Mとの比率が同一となっていることを特徴とする。上記化学式中のs及びtの値は、正極活物質粒子の全体における値である。
【0015】
層状構造とスピネル構造とは構造的に互いに適合性があり、同じ酸素配列を有し、リチウム及び遷移金属原子の配列だけが異なる。したがって、上記背景技術の(2)で示したように、層状構造を有する正極活物質の表面を、スピネル構造を有する正極活物質で被覆することが可能となる。但し、層状構造の正極活物質とスピネル構造の正極活物質との間に境界が生じた場合には、正極活物質粒子内でのリチウムの拡散が制限されるので、さほど負荷特性を向上させることはできない。
【0016】
そこで、上記構成の如く、中心部が層状構造を成す一方、表面近傍部においては中心側から表面側にいくにつれて、結晶構造が層状構造からスピネル構造に徐々に変化しているという構成であれば、中心部に配置された正極活物質と表面部に配置された正極活物質との間には明確な境界がなくなり、正極活物質粒子内でのリチウムの拡散が円滑に行われ、且つ、正極活物質粒子におけるリチウムの挿入、離脱が容易となる。加えて、層状構造とスピネル構造とにおけるMnとMと比率(以下、Mn/M比率と称するときがある)が同一であるので、中心部に配置された正極活物質と表面部に配置された正極活物質との間に境界が生じるのを一層抑制できる。これらのことから、上記構成の正極活物質を用いた電池では、負荷特性が飛躍的に向上する。
また、正極活物質の粒径は制限されないので、正極活物質の粒径を小さくすることに起因するエネルギー密度の低下を防止できる。更に、熱処理温度が高いこと等に起因して放電容量が減少したり、充放電効率が低下したりすることも抑制できる。
【0017】
尚、上記正極活物質粒子の径に対する上記層状構造を有する部分の径の割合は、0.6〜0.998であることが望ましい。当該割合が0.998を超えると、正極活物質粒子の表面近傍部で結晶構造がスピネル構造へ十分に変化しないため、負荷特性を十分に向上させることができない場合がある一方、当該割合が0.6未満であると、層状構造を有する部分が小さくなり過ぎて、放電容量が低下したり、充放電効率が100%を越えたりするといった不都合が生じるからである。
また、上記sとtとの値は、正極活物質粒子の全体における値であり、正極活物質粒子の表面に近いほど、sとtとの値が大きくなっている。これは、層状構造からスピネル構造に変化するにしたがい、酸素とリチウムとが抜けていくからである。
【0018】
上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子は、化学式Li1+x-sMn1−x−p
−q―rNiCor2-t(0<x<0.33、0<p<0.5、0<q<0.33、0≦r<0.05、0<p+q+r<0.66、0<s<0.3、0<t<0.15であり、AはZr、またはNbである)で表されることが望ましく、また、上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子のラマン強度比〔I(635)/I(605)〕が、0.6<I(635)/I(605)<1.5に規制されることが望ましい。更に、上記層状構造を成す中心部が、空間群C2/m、又は、空間群C2/cに属する構造を少なくとも含むことが望ましい。これらの構成であれば、正極活物質粒子内でのリチウムの拡散がより円滑に行われ、且つ、正極活物質粒子におけるリチウムの挿入、離脱がより容易となるため、上記作用効果が一層発揮される。
【0019】
上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の表面上に保護層が形成されていることが望ましい。
正極活物質は充放電を繰り返すと、遷移金属が溶出して正極活物質が劣化するため、サイクル特性が低下することがある。しかし、上記の如く粒子の表面上に保護層が形成されていれば、充放電を繰り返した場合であっても遷移金属の溶出を抑制できるので、正極活物質の劣化が抑えられて、サイクル特性が向上する。
【0020】
また、上記目的を達成するために本発明は、化学式Li1+x-sMn1−x−y
2-t(0<x<0.33、0<y<0.66、0<s<0.3、0<t<0.15であり、Mはマンガンを除く少なくとも1つの遷移金属である)で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子を、第1の還元剤を含む水溶液に浸漬する第1ステップと、を有し、上記第1の還元剤がNHPO、(NHHPO、及びHPOから成るリン酸塩群から選択される少なくとも1種、クエン酸ニアンモニウム、アルコルビル酸又は(NHSOであることを特徴とする。
【0021】
このような方法であれば、上述した正極活物質を製造することができる。具体的には、高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子に上記第1の還元剤が付着した状態で熱処理すると、第1の還元剤が分解し、この分解している間に、リチウムと酸素とがバルク材料から引き抜かれ、適度な加熱により粒子表面がスピネル構造へ変化する。この場合、リチウムと酸素とは正極活物質粒子の表面近傍部のみで引き抜かれ、特に、正極活物質粒子の最表面で多く引き抜かれる。したがって、正極活物質粒子の表面近傍部では、中心側から表面側にいくにつれて、結晶構造が層状構造からスピネル構造に徐々に変化し、両構造間に明確な境界が生じることはない。この結果、正極活物質粒子内でのリチウムの拡散が円滑に行われ、且つ、正極活物質粒子におけるリチウムの挿入、離脱が容易となるので、負荷特性が向上する。また、このような製造方法であれば、正極活物質からリチウムが一部除去されるので、初期充放電効率を100%近い値に向上させることができる。更に、リチウムと酸素原子とがバルク材料から引き抜かれて表面がスピネル構造へ変化するだけなので、第1の還元剤の反応によって、正極活物質表面近傍における金属イオン量が変化することはない(即ち、正極活物質粒子の何れの部位においても、上記Mn/M比率は同一となる)。
尚、熱処理温度を200〜500℃に規制するのは、200℃未満であれば、上述した第1の還元剤の分解が生じない一方、500℃を超えると、正極活物質粒子への酸素吸収を促し、放電容量が低下するからである。
【0023】
上記第2ステップにおける熱処理の温度範囲が250〜400℃であることが望ましい。
熱処理温度をこのように規制すれば、第1の還元剤の分解反応がより円滑に生じると共に、正極活物質粒子への酸素吸収が一層抑制されて、放電容量の低下をより十分に抑えることができるからである。
【0024】
上記第1の還元剤がNHPO、(NHHPO、及びHPOから成るリン酸塩群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、特に、上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の総量に対する上記第1の還元剤の量が、1〜5質量%であることが望ましい。
上記構成の如く第1の還元剤としてリン酸塩が用いられたときには、LiPOが正極活物質粒子の表面に残留物として生成されるが、このLiPOは水溶性ではないため、容易に取り除くことはできない。したがって、LiPOは正極活物質粒子の表面で保護層としての働きを発揮するということから、充放電を繰り返し行っても、正極活物質から遷移金属原子が溶出するのを抑制でき、その結果サイクル特性が向上する。但し、高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の総量に対する第1の還元剤の量(以下、単に、第1の還元剤の量と称するときがある)が5質量%を超えると、LiPOの残存量が多くなり過ぎて、正極活物質の割合が低下することと、保護層が厚くなり過ぎる結果、放電容量が低下することがある。一方、第1の還元剤の量が1質量%未満であると、正極活物質粒子の表面近傍部でスピネル構造へ十分に変化しないため、負荷特性を十分に向上させることができない場合がある。したがって、リン酸塩を第1の還元剤として用いる場合には、第1の還元剤の量は1〜5質量%に規制するのが望ましい。
【0025】
上記第1の還元剤がクエン酸二アンモニウム又はアスコルビル酸であることが望ましく、特に、上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の総量に対する上記第1の還元剤の量が、1〜10質量%であることが望ましい。
このように第1の還元剤の量を規制するのは、第1の還元剤として上記リン酸塩を用いた場合の理由と同様の理由である。
【0026】
上記第1の還元剤が(NHSOであることが望ましく、特に、上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の総量に対する上記第1の還元剤の量が、1〜20質量%であることが望ましい。
第1の還元剤の量を1質量%以上に規制するのは、第1の還元剤として上記リン酸塩を用いた場合の理由と同様の理由である。一方、第1の還元剤の量を20質量%以下に規制するのは、第1の還元剤として上記リン酸塩を用いた場合の理由とは異なる。(NHSOを第1の還元剤として用いる場合には、LiSOが粒子表面に残留物として生成されるが、この残留物は水溶性であるので、容易に除去できる。したがって、保護層が厚くなり過ぎて放電容量が低下するといった不都合はない。しかしながら、上限を規定するのは、第1の還元剤の量が20質量%を超えると、反応量が多くなり過ぎて、層状構造を有する部分が小さくなり過ぎる結果、放電電位が低下したり、初期充放電効率が100%を越えたりするといった不都合が生じうるという理由による。
【0027】
上記第2ステップ終了後に、第2の還元剤を用いて、上記高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の表面に保護層を形成する第3ステップを有することが望ましく、上記第2の還元剤が(NHHPO、又はHBOであることが望ましい。
このような構成であれば、第1の還元剤としてリン酸塩を用いた場合と同様、正極活物質から遷移金属原子が溶出することを防ぐことができるので、サイクル特性が向上する。尚、上記第2の還元剤が(NHHPOである場合には、LiPOで表される保護層が形成され、上記第2の還元剤がHBOである場合にはBで表される保護層が形成される。
【0028】
上述した何れかの正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解液とを含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、エネルギー密度が低下するのを抑制しつつ、負荷特性や充放電効率の向上、及び放電容量の増大等を図ることができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の正極活物質粒子の構造を示す説明図である。
図2】本発明の正極活物質粒子の他の例にかかる構造を示す説明図である。
図3】層状構造を示すための説明図である。
図4】スピネル構造を示すための説明図である。
図5】第1の還元剤として10%の(NHHPOを用いて第一ステップの処理を行った正極活物質粒子と、第1の還元剤として10%(NHSOを用いて第一ステップの処理を行った正極活物質粒子とのTGA(熱重量分析)結果を示すグラフである。
図6】上記本発明セルD4に用いられた正極活物質粒子と比較セルZに用いられた正極活物質粒子とのXRD測定結果を示すグラフである。
図7】上記本発明セルD2〜D5及び比較セルZにおける酸素含有量とリチウム含有量との関係を示すグラフである。
図8】本発明セルD3に用いられた正極活物質粒子と比較セルVに用いられた正極活物質粒子とのサイクリック・ボルタメトリー分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、この発明に係る非水電解質二次電池を、図1図4に基づいて説明する。尚、この発明における非水電解質二次電池は、下記の形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0032】
先ず、水酸化リチウム(LiOH)と、Mn塩、Co塩及びNi塩とを所望の化学量論比となるように混合して共沈法によって作製したMn、Co、及びNi混合水酸化物を、ペレット成型し、空気中900℃で24時間焼成することにより、Li1.20Mn0.54Ni0.13Co0.13で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子を得た。次に、この複合酸化物粒子の総量に対するNHPO(第1の還元剤)の割合(以下、単に、NHPOの割合と称することがある。また、後述する他の第1の還元剤を用いた場合も同様である。)が1質量%となるように、複合酸化物粒子を、NHPO水溶液に浸漬することにより、複合酸化物粒子の表面に、第1の還元剤としてのNHPOを付着させて80℃で乾燥させた(第1ステップ)。次いで、複合酸化物粒子の表面にNHPOが付着したものを300℃で5時間熱処理した(第2ステップ)。
【0033】
しかる後、上記処理が行われた正極活物質としての高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とが質量比で80:10:10の割合となるようにこれらを混合し、更にNMP溶液を適量加え粘度調整することにより正極スラリーを調製した。次いで、この正極スラリーを所定の厚さとなるようにアルミニウム箔上にコーターにより塗布した後、ホットプレートを用いて80℃で乾燥させることにより正極を作製した。
【0034】
上記正極とリチウム金属から成る負極とをセパレーターを介して配置して電極体を作製した後、この電極体と電解液とを電池外装体内に配置し、封口することにより試験セルを作製した。尚、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とが体積比で3:7の割合で混合された混合溶媒に、リチウム塩としてのLiPF(六フッ化リン酸リチウム)を1モル/リットルの割合で添加したものを用いた。
【実施例】
【0035】
〔第1実施例〕
(実施例1−1)
上記発明を実施するための形態と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、本発明セルA1と称する。
【0036】
(実施例1−2〜1−4)
正極活物質の作製時に、NHPOの割合を、それぞれ、2質量%、5質量%、10質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルA2〜A4と称する。
【0037】
(実施例2)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NHPOの代わりにHPOを用い、且つ、HPOの割合を5.1質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明セルBと称する。
【0038】
(実施例3−1〜3−3)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NHPOの代わりに(NHHPOを用い、且つ、(NHHPOの割合をそれぞれ、2質量%、5質量%、10質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルC1〜C3と称する。
【0039】
(実施例4−1〜4−4)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NHPOの代わりに(NHSOを用い、且つ、(NHSOの割合をそれぞれ、2質量%、5質量%、10質量%、20質量%とし、しかも、熱処理後に正極活物質粒子を水洗した他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルD1〜D4と称する。
【0040】
(実施例4−5)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NHPOの代わりに(NHSOを用い、且つ、(NHSOの割合を15質量%とし、しかも、熱処理後に正極活物質粒子を水洗した他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルD5と称する。
【0041】
(実施例5−1、5−2)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NHPOの代わりにクエン酸二アンモニウム〔(NHHC〕を用い、且つ、クエン酸二アンモニウムの割合をそれぞれ、5質量%、10質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルE1、E2と称する。
【0042】
(実施例6−1、6−2)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NHPOの代わりにアスコルビン酸〔C〕を用い、且つ、アスコルビン酸の割合をそれぞれ、5質量%、10質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルF1、F2と称する。
【0043】
(比較例1)
正極活物質の作製時に、NHPOを用いて表面処理を行わない(Li1.20Mn0.54Ni0.13Co0.13で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子を、そのまま正極活物質として用いる)他は、上記実施例1と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルZと称する。
【0044】
(比較例2−1〜2−3)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、(NHHPOの代わりに、(NHHPO+3LiOHを用いた〔尚、例えば、(NHHPOが2質量%の本発明セルD1に対応する比較セルY1の場合には、(NHHPOが2質量%とLiOH.HOが1.9質量%(即ち、(NHPOとLiOH.HOとのモル比が1:3)となるように添加されている〕他は、それぞれ、上記実施例3−1〜3−3と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、比較セルY1〜Y3と称する。
【0045】
(比較例3)
熱処理温度を、300℃ではなく700℃とした他は、上記実施例1-4と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルXと称する。
【0046】
(比較例4)
Li1.20Mn0.54Ni0.13Co0.13で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子を、当該遷移金属複合酸化物に対して2質量%の(NHSOを固体状態で添加し、これらを細かく砕いた後、混合物を700℃で5時間、空気中で熱処理をするという処理を行った(尚、正極活物質の水洗は行っていない)他は、上記実施例4−1と同様にして試験セルを作製した。尚、この試験セルにおける正極活物質は、上述の特許文献2に示した方法と同様の方法で作製したものである。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルWと称する。
【0047】
(比較例5)
Li1.20Mn0.54Ni0.13Co0.13で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面処理として、以下に示す酸処理を行った他は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
上記金属複合酸化物から成る正極活物質を、1.2Nの硫酸(HSO)溶液内にて30分間混合攪拌した(尚、この撹拌中に、酸性溶液のHが活物質のLiと交換する)。次に溶液を水洗した後、濾過し、更に得られた粉末を300℃で5時間空気中で熱処理した。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルVと称する。
【0048】
(実験1)
上記本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、D1〜D4、E1、E2、F1、F2及び比較セルZを、下記条件で充放電し、初期放電容量(1サイクル目の放電容量)、下記(1)式で示される初期充放電効率、下記(2)式で示されるサイクル特性、及び、下記(3)式で示される負荷特性を調べたので、その結果を表1に示す。
【0049】
〔初期充放電効率〕
初期充放電効率(%)=
[1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量]×100・・・(1)
〔初期充放電効率における充放電条件〕
・充電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が4.8V(vs.Li/Li)になるまで定電流充電するという条件
・放電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)になるまで定電流放電するという条件
【0050】
〔サイクル特性〕
サイクル特性(%)=
[29サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量]×100・・・(2)
【0051】
〔サイクル特性における充放電条件〕
(a)1〜9、11〜19、21〜29サイクル目の充放電条件
・充電条件
100.0mA/gの電流密度で、正極の電位が4.8V(vs.Li/Li)になるまで定電流充電するという条件
・放電条件
100.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)になるまで定電流放電するという条件
【0052】
(b)10,20サイクル目の充放電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が4.8V(vs.Li/Li)になるまで定電流充電するという条件
・放電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)になるまで定電流放電するという条件
【0053】
〔負荷特性〕
負荷特性(%)=
[2サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量]×100・・・(3)
【0054】
〔負荷特性における充放電条件〕
(a)1サイクル目の充放電条件
・充電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が4.8V(vs.Li/Li)になるまで定電流充電するという条件
・放電条件
10.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)になるまで定電流放電するという条件
【0055】
(b)2サイクル目の充放電条件
・充電条件
上記(a)の充電条件と同じ
・放電条件
300.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)になるまで定電流放電するという条件
【0056】
【表1】
【0057】
〔負荷特性、初期放電容量、及び、初期充放電効率について〕
表1に示すように、正極活物質粒子に表面処理がされていない比較セルZでは負荷特性が74.3%であるのに対して、正極活物質粒子に表面処理がされた本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、D1〜D4、E1、E2、F1、F2では、負荷特性が74.8〜83.8%であって、全て比較セルZより大きくなっていることが認められる。また、比較セルZでは初期放電容量が242mAh/g、初期充放電効率が75.9%であるのに対して、本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、D1〜D4、E1、E2、F1、F2では初期放電容量が235.9〜270.4mAh/g、初期充放電効率が75.4〜96.5%であって、比較電池Zと同等かそれ以上となっていることが認められる。したがって、正極活物質を第1の還元剤〔NHPO、HPO、(NHHPO、(NHSO、クエン酸二アンモニウム、又は、アスコルビン酸〕で処理することによって、負荷特性等が向上することがわかる。
【0058】
このような結果となったのは、図1及び図2に示すように、本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、D1〜D4、E1、E2、F1、F2では中心部1が層状構造(図3に示す構造)を成す一方、最表面部3はスピネル構造(図4に示す構造)を成し、且つ、表面近傍部2においては中心部1から最表面部3にいくにつれて、結晶構造が層状構造からスピネル構造に徐々に変化しているという構成である。したがって、中心部1に配置された正極活物質と最表面部3に配置された正極活物質との間には明確な境界がなくなり、正極活物質からのリチウムの挿入、離脱が円滑に行われる。これに対して、比較セルZでは、中心部のみならず表面部も層状構造(図3に示す構造)を成すので、正極活物質からのリチウムの挿入、離脱が円滑に行われないという理由によるものと考えられる。
【0059】
尚、図3及び図4において、八面体5は6つの酸素原子によって囲まれている遷移金属(M)を表すものであり、リチウムは図3及び図4における八面体の間に存在している。(S.-J.Hwang et al. Electrochem. Solid StateLett. 4, A213(2001)参照)。また、本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、E1、E2、F1、F2では、図2に示すように、表面にLiPO等から成る保護層4が形成される一方、本発明セルD1〜D4では、図1に示すように、表面に保護層が形成されない構成となっている。
【0060】
また、表1から明らかなように、第1の還元剤の最適範囲は、第1の還元剤の種類により異なり、例えば、第1の還元剤がリン酸塩〔NHPO、HPO、(NHHPO〕であれば、1〜5質量%であることが望ましい(本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3参照)。リン酸塩の割合が1質量%未満であると、正極活物質粒子の表面近傍部でスピネル構造へ十分に変化しないため、負荷特性を十分に向上させることができないことがある一方、リン酸塩の割合が5質量%を超えると、正極活物質の表面に形成されるLiPOの量が多くなり過ぎて、保護層が厚くなり過ぎる結果、初期放電容量が低下するからである。同様の理由により、第1の還元剤がクエン酸二アンモニウム、又は、アスコルビン酸であれば、1〜10質量%であることが望ましい(本発明セルE1、E2、F1、F2参照)。
【0061】
更に、第1の還元剤が硫酸塩〔(NHSO〕であれば、1〜20質量%であることが望ましい(本発明セルD1〜D4参照)。下限については、上記リン酸塩の場合と同様の理由であるが、上限については硫酸塩特有の理由による。即ち、硫酸塩の割合を20質量%以下に規制するのは、リン酸塩の場合の如く、保護層が厚くなり過ぎという不都合はないが、第1の還元剤の量が20質量%を超えると、層状構造を有する部分が小さくなり過ぎて、放電電位が低下したり、初期充放電効率が100%を越えたりするといった不都合が生じるからである。
【0062】
〔サイクル特性について〕
表1から明らかなように、第1の還元剤として(NHSOを用いた本発明セルD1〜D4は、本発明セルA1〜A4に比べ、サイクル特性が低下していることが認められる。これは、本発明セルA1〜A4であれば、LiPOが正極活物質粒子の表面に残留物として生成され(即ち、図2に示すように、表面にLiPO等から成る保護層4が形成され)、これが正極活物質粒子を保護する。したがって、正極活物質粒子から遷移金属原子が溶出したり、電解液が分解したりするのが抑制されるので、サイクル特性が向上する。これに対して、本発明セルD1〜D4では、図1に示すように、正極活物質粒子の表面に保護層が形成されないため、充放電サイクル経過に伴って、正極活物質から遷移金属原子が溶出したり、電解液が分解したりすることがあるため、サイクル特性が若干低下する。但し、本発明セルD1〜D4の正極活物質粒子であっても、第1の還元剤による熱処理を終了した後に、Al等で正極活物質粒子の表面を被覆すれば、サイクル特性を向上させることができる。
【0063】
(実験2)
上記比較セルY1〜Y3を充放電し、初期放電容量、初期充放電効率、及び負荷特性を調べたので、その結果を表2に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率と負荷特性との算出方法は上記実験1と同様である。また、比較のために、上記本発明セルC1〜C3の結果についても、表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
上記表2から明らかなように、本発明セルC1〜C3及び比較セルY1〜Y3において、第1の還元剤の濃度が同じセル同士で比較すると(例えば、本発明セルC1と比較セルY1とで比較すると)、本発明セルC1〜C3は比較セルY1〜Y3に比べて、負荷特性と初期充放電効率とが優れ、しかも、初期放電容量も大きくなっていることが認められる。両者とも(NHHPOで処理されているにも関わらず本発明セルC1〜C3が比較セルY1〜Y3に比べて電池諸特性に優れるのは以下の理由によるものと考えられる。
【0066】
上述の如く、本発明セルC1〜C3では、(NHHPOの分解時に、リチウムと酸素とが正極活物質から引き抜かれ、正極活物質粒子の表面にスピネル層が生成される。これに対して、比較セルY1〜Y3では、1モルの(NHHPOに対してLiOHが3モル添加されているため、アニール時にはLiOHが(NHHPOと反応して粒子表面にLiPO層が生成される結果、正極活物質粒子の表面にスピネル層が生成されないという理由によるものと考えられる。これらのことから、正極活物質の負荷特性等を向上するには、正極活物質の表面にスピネル層を設けることが必須であることがわかる。
【0067】
(実験3)
上記比較セルXを充放電し、初期放電容量及び初期充放電効率を調べたので、その結果を表3に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率の算出方法は上記実験1と同様である。また、比較のために、上記本発明セルA4の結果についても、表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
上記表3から明らかなように、本発明セルA4は比較セルXに比比べて、初期充放電効率に優れ、しかも、初期放電容量も大きくなっていることが認められる。したがって、熱処理温度を余り高くすると、本発明の効果が得られないことがわかる。これは、熱処理温度を余り高くすると、正極活物質粒子への酸素吸収を促すことによるものと考えられる。尚、最適温度については、後述の実験5に示す。
【0070】
(実験4)
上記比較セルWを充放電し、初期放電容量及び初期充放電効率を調べたので、その結果を表4に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率の算出方法は上記実験1と同様である。また、比較のために、上記本発明セルD1の結果についても、表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
前述の特許文献2で示した方法と同一の方法で正極活物質を作製した(但し、特許文献2で用いた正極活物質はニッケル系のもの)比較セルWは、本発明セルD1に比べて、初期充放電効率に劣り、しかも、初期放電容量が小さくなっていることが認められる。したがって、ニッケル系の正極活物質にとって優れた表面処理方法(端的に述べると、正極活物質と(NHSOとを乾式混合した後、700℃で熱処理する方法)を単純にマンガン系の正極活物質に適用しても、電池特性の向上を図ることはできない。
【0073】
(実験5)
上記実験3、4の結果を考慮して、本発明における熱処理温度の最適範囲について調べた。実験は、第1の還元剤としてそれぞれ、10質量%の(NHHPO(本発明セルC3で使用)、10質量%の(NHSO(本発明セルD3で使用)を用い、上記正極活物質粒子のTGA(熱重量分析)を行った。尚、具体的には、5℃/分で温度上昇させつつ、質量変化率を調べた。
【0074】
図5から明らかなように、両者とも200℃以上で質量が大きく変化しているということから、反応が生じるためには200℃以上であることが必要であり、特に、250℃以上であることが望ましいことがわかる。但し、図5には示していないが、500℃を超えると正極活物質粒子への酸素吸収を促し、放電容量が著しく低下するので、500℃以下であることが必要であり、特に、400℃以下であることが望ましい。以上のことから、本発明における熱処理温度は200℃以上500℃以下であることが必要であり、特に、250℃以上400℃以下であることが望ましい。
【0075】
(実験6)
上記本発明セルD4に用いられる正極活物質粒子と比較セルZに用いられる正極活物質粒子とのXRD測定(線源はCuKα、測定範囲2θ=10°〜80°)を行なったので、そのXRDパターンを図6に示す。
【0076】
本発明セルD4では36.7°付近にピーク(図6矢符A参照)を有するのに対して、比較セルZでは36.7°付近にピークが存在していないことから、本発明セルD4ではスピネル部分が存在することがわかる。但し、スピネル部分は粒子表面近傍部分にのみ存在するため、36.7°付近のピーク強度はさほど高くなっていない。
【0077】
ここで、正極活物質粒子の中心部分の構造分析ため、XRDパターンから格子定数を計算した。ピークの位置を空間群R3−m構造にフィットした結果を表5に示す。表5から明らかなように、本発明セルD2、D3、D4と比較セルZとに用いられる正極活物質粒子の格子定数は同じであるため、正極活物質粒子の中心部分は第1の還元剤による処理によって影響を受けない(即ち、正極活物質粒子の中心部分は層状構造である)ことがわかる。
【0078】
【表5】
【0079】
(実験7)
上記本発明セルD2〜D4に用いられる正極活物質粒子と比較セルZに用いられる正極活物質粒子とのラマン分光測定を行なったので、その結果を表6に示す。ラマン分光測定は物質にレーザーを照射し、散乱される光を分光器によって観測する分析法であり、活物質の表面状態を確認できる。第1の還元剤による処理により活物質粒子の表面状態は変化することがわかる。605cm-1のピーク〔以下、I(605)と表示することがある〕は層状構造に由来するものであり、635cm-1のピーク〔以下、I(635)と表示することがある〕はスピネル構造に由来する。層状構造とスピネル構造との割合はラマンの強度比からわかる。
表6から明らかなように、第1の還元剤による処理を行った本発明セルD2〜D4は、第1の還元剤による処理を行っていない比較セルZに比べて、ラマン強度比〔I(635)/I(605)〕が高くなっていることが認められる。また、第1の還元剤の割合が多くなるにしたがって、ラマン強度比が高くなっていることも認められる(D4>D3>D2)。したがって、本発明セルD2〜D4においては、活物質粒子の表面側にスピネル構造が存在することが証明でき、また、第1の還元剤の割合が多くなる程、スピネル構造の割合が増加することがわかる。尚、本発明者らが検討したところ、特に、0.6<I(635)/I(605)<1.5の範囲において、層状構造とスピネル構造との割合は最適となることがわかった。
【0080】
【表6】
【0081】
(実験8)
上記本発明セルD3〜D4に用いられる正極活物質粒子と比較セルZに用いられる正極活物質粒子との元素分析を、誘導結合プラズマ法(ICP)で行なったので、その結果を図7に示す。尚、酸素の量は、ICP測定に用いた正極活物質の全量から、ICP測定によって得られたリチウム量と遷移金属量とを減算することにより算出した。図7から明らかなように、第1の還元剤による処理により、正極活物質からリチウムと酸素とが、モル比で2:1の割合で、が引き抜かれていることがわかる。
また、上記本発明セルD3〜D4に用いられる正極活物質粒子と比較セルZに用いられる正極活物質粒子とにおける、リチウムの量と、遷移金属の量と、酸素の量との割合を表7に示す。比較セルZに用いられる正極活物質粒子(全て層状構造であって、スピネル構造を有していない正極活物質)の酸素と遷移金属との割合は2.58対1である。一方、理論上、スピネル構造における酸素と遷移金属の割合は2対1である。したがって、第1の還元剤による処理により酸素/遷移金属の割合が低下する本発明セルD3〜D4では、正極活物質にスピネル構造が存在することがわかる。
【0082】
【表7】
【0083】
(実験9)
前記非特許文献1で示した発明(余剰リチウムを活物質から除去することにより活物質の初期サイクル特性を向上させることを目的とするものであり、活物質表面を改質するための高リチウム含有遷移金属複合酸化物を酸処理する方法)と本発明との違いを明らかにするために、本発明セルD3に用いられた正極活物質粒子と比較セルVに用いられた正極活物質粒子とのサイクリック・ボルタメトリー分析を行ったので、その結果を図8に示す。
【0084】
図8から明らかなように、両者のプロファイルを比較すると、2.5〜3.0V(vs.Li/Li)間で酸化還元ピークが明確に異なっていることから、両正極活物質が異なっていることは明らかである。これは、比較セルVに用いられた正極活物質では、酸処理中に溶液からの水素イオンが活物質中のリチウムイオンと交換した後、吸蔵水がアニールによって除去されるのに対して、本発明セルD3に用いられた正極活物質では水素イオンは活物質に取り込まれないことに起因するものと考えられる。
【0085】
尚、付言すれば、本発明セルC3に用いられた正極活物質を作製する際に用いられる第1の還元剤〔(NHHPO〕はpH8.1であって酸性ではない。したがって、本発明に記載のスピネル層を生成するには、酸性条件であることが必須ではない。
【0086】
〔第2実施例〕
(実施例1〜3)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li1.16Mn0.5Co0.17Ni0.17を用いた他は、上記第1実施例の実施例4−1〜4−3と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルG1〜G3と称する。
【0087】
(比較例)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li1.16Mn0.5Co0.17Ni0.17を用いた他は、上記第1実施例の比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較セルUと称する。
【0088】
(実験)
上記本発明セルG1〜G3及び比較セルUを充放電し、初期放電容量、初期充放電効率、及び負荷特性を調べたので、その結果を表8に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率と負荷特性との算出方法は上記第1実施例の実験1と同様である。
【0089】
【表8】
【0090】
表8から明らかなように、本発明セルG1〜G3は比較セルUに比べて、初期放電容量が大きく、初期充放電効率が高く、しかも負荷特性が向上していることが認められる。
【0091】
〔第3実施例〕
(実施例1〜3)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li1.13Mn0.47Co0.2Ni0.2を用いた他は、上記第1実施例の実施例4−1〜4−3と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルH1〜H3と称する。
【0092】
(比較例)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li1.13Mn0.47Co0.2Ni0.2を用いた他は、上記第1実施例の比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較セルTと称する。
【0093】
(実験)
上記本発明セルH1〜H3及び比較セルTを充放電し、初期放電容量、初期充放電効率、及び負荷特性を調べたので、その結果を表9に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率と負荷特性との算出方法は上記第1実施例の実験1と同様である。
【0094】
【表9】
【0095】
表9から明らかなように、本発明セルH1〜H3は比較セルTに比べて、初期放電容量が大きく、初期充放電効率が高く、しかも負荷特性が向上していることが認められる。
【0096】
〔第4実施例〕
(実施例1)
前記第2のステップ(熱処理ステップ)の終了後に、第2の還元剤としての2質量%の(NHHPOを付着させて80℃で乾燥させ、その後300℃で5時間熱処理を行った(第3ステップ)他は、上記第1実施例の実施例4−3と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明セルI1と称する。
【0097】
(実施例2)
第2の還元剤として、2質量%のHBOを用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明セルI2と称する。
【0098】
(実施例3、4)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li1.20Mn0.54Co0.13Ni0.13に0.5%のMgがドープされたもの(Li1.20Mn0.53Co0.13Ni0.13Mg0.01)を用いた他は、それぞれ、上記第1実施例の実施例4−3、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルJ1、J2と称する。
【0099】
(実施例5〜7)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li1.20Mn0.54Co0.13Ni0.13に0.5%のZrがドープされたもの(Li1.20Mn0.53Co0.13Ni0.13Zr0.01)を用いた他は、それぞれ、上記第1実施例の実施例4−3、上記実施例1、上記実施例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルK1〜K3と称する。
【0100】
(実施例8、9)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li1.20Mn0.54Co0.13Ni0.13に0.5%のNbがドープされたもの(Li1.20Mn0.53Co0.13Ni0.13Nb0.01)を用いた他は、それぞれ、上記第1実施例の実施例4−3、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルL1、L2と称する。
【0101】
(比較例1〜3)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、それぞれ、Li1.20Mn0.53Co0.13Ni0.13Mg0.01、Li1.20Mn0.53Co0.13Ni0.13Zr0.01、Li1.20Mn0.53Co0.13Ni0.13Nb0.01を用いた他は、上記第1実施例の比較例と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、比較セルS、R、Qと称する。
【0102】
(実験)
上記本発明セルI1、I2、J1、J2、K1〜K3、L1、L2及び比較セルS、R、Qを充放電し、初期放電容量、初期充放電効率、負荷特性、及びサイクル特性を調べたので、その結果を表10に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率と負荷特性との算出方法は上記第1実施例の実験1と同様である。
【0103】
【表10】
【0104】
(1)Mg、Zr、Nbが添加されていない正極活物質を用いた場合
表10から明らかなように、第3ステップを施していない(第2の還元剤による処理を行っていない)本発明セルD3や、第3ステップを施した(第2の還元剤による処理を行った)本発明セルI1、I2は、比較セルZに比べて、初期放電容量が大きく、初期充放電効率や負荷特性が向上し、更にサイクル特性も向上していることが認められる。但し、第3ステップを施した本発明セルI1、I2と、第3ステップを施していない本発明セルD3とは、サイクル特性が略同等であることがわかる。
【0105】
(2)Mg、Zr、Nbが添加された正極活物質を用いた場合
表10から明らかなように、第3ステップを施していない本発明セルJ1、K1、L1や、第3ステップを施した本発明セルJ2、K2、K3、L2は、比較セルS、R、Qに比べて、初期放電容量が大きく、初期充放電効率や負荷特性が向上していることが認められる。しかし、サイクル特性については、第3ステップを施していない本発明セルJ1、K1、L1は、比較セルS、R、Qに比べて低下していることが認められる一方、第3ステップを施した本発明セルJ2、K2、K3、L2は、比較セルS、R、Qに比べて向上していることが認められる。これは、第2の還元剤による処理を行うことにより、正極活物質の表面に保護層が形成され、これによって、正極活物質から遷移金属原子が溶出するのを抑止できることに起因すると考えられる。
【0106】
(その他の事項)
(1)第1ステップに用いる第1の還元剤としては、上記NHPO等に限定するものではなく、NHNO、NHHCO、NHCl、上記(NHHPO等以外のアンモニウム系化合物、及び、乳酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等の有機酸を用いても良い。また、第1の還元剤として、2以上の還元剤を混合して用いても良く、更に、一の還元剤を用いて熱処理を行った後、他の還元剤を用いて熱処理を行う(複数回の表面処理を行う)ことも可能である。
(2)高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子のBET比表面積や粒径は限定されるものではなく、如何なるBET比表面積や粒径のものであっても本発明を適用できる。
【0107】
(3)本発明で用いる非水電解質の溶媒としては、上記ECやDECに限定されるものではなく、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、プロピレンカーボネート(PC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、メチル−2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート(FMEC)等如何なるものであっても良い。また、電解質としては、上記LiPFに限定されるものではなく、LiAsF、LiBF、LiCFSO等如何なるものであっても良い。
(4)本発明の高リチウム含有遷移金属複合酸化物としては、Nb、Zr、Mo、Ti、Mg等がドープされたものを用いても良い。
【0108】
(5)本発明の第1ステップでは、高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子に、第1の還元剤を乾式で混ぜても良い。
(6)高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子は、空間群R3−mに属する構造を含んでも良い。この場合は、空間群C2/mと空間群R3−mとの複合体、又は空間群C2/cと空間群R3−mの複合体となる。
(7)第3ステップで用いる第2の還元剤としては、上記NHPOとHBOに限定するものではなく、(NHHPO、Al(OH)、Al(NO),Mg(OH)、Ti(OCH、Zr(OC等の化合物を用いても良い。また、上記保護層の形成方法は第2の還元剤を用いる方法に限定するものではなく、正極活物質の表面に保護層を、機械的に形成する方法であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源等に適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1:中心部
2:表面近傍部
3:最表面部
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