【実施例】
【0035】
〔第1実施例〕
(実施例1−1)
上記発明を実施するための形態と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、本発明セルA1と称する。
【0036】
(実施例1−2〜1−4)
正極活物質の作製時に、NH
4H
2PO
4の割合を、それぞれ、2質量%、5質量%、10質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルA2〜A4と称する。
【0037】
(実施例2)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NH
4H
2PO
4の代わりにH
3PO
4を用い、且つ、H
3PO
4の割合を5.1質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明セルBと称する。
【0038】
(実施例3−1〜3−3)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NH
4H
2PO
4の代わりに(NH
4)
2HPO
4を用い、且つ、(NH
4)
2HPO
4の割合をそれぞれ、2質量%、5質量%、10質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルC1〜C3と称する。
【0039】
(実施例4−1〜4−4)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NH
4H
2PO
4の代わりに(NH
4)
2SO
4を用い、且つ、(NH
4)
2SO
4の割合をそれぞれ、2質量%、5質量%、10質量%、20質量%とし、しかも、熱処理後に正極活物質粒子を水洗した他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルD1〜D4と称する。
【0040】
(実施例4−5)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NH
4H
2PO
4の代わりに(NH
4)
2SO
4を用い、且つ、(NH
4)
2SO
4の割合を15質量%とし、しかも、熱処理後に正極活物質粒子を水洗した他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルD5と称する。
【0041】
(実施例5−1、5−2)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NH
4H
2PO
4の代わりにクエン酸二アンモニウム〔(NH
4)
2HC
6H
5O
7〕を用い、且つ、クエン酸二アンモニウムの割合をそれぞれ、5質量%、10質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルE1、E2と称する。
【0042】
(実施例6−1、6−2)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、NH
4H
2PO
4の代わりにアスコルビン酸〔C
6H
8O
6〕を用い、且つ、アスコルビン酸の割合をそれぞれ、5質量%、10質量%とした他は、上記実施例1−1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルF1、F2と称する。
【0043】
(比較例1)
正極活物質の作製時に、NH
4H
2PO
4を用いて表面処理を行わない(Li
1.20Mn
0.54Ni
0.13Co
0.13O
2で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子を、そのまま正極活物質として用いる)他は、上記実施例1と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルZと称する。
【0044】
(比較例2−1〜2−3)
正極活物質の作製時に、第1の還元剤として、(NH
4)
2HPO
4の代わりに、(NH
4)
2HPO
4+3LiOHを用いた〔尚、例えば、(NH
4)
2HPO
4が2質量%の本発明セルD1に対応する比較セルY1の場合には、(NH
4)
2HPO
4が2質量%とLiOH.H
2Oが1.9質量%(即ち、(NH
4)
2PO
4とLiOH.H
2Oとのモル比が1:3)となるように添加されている〕他は、それぞれ、上記実施例3−1〜3−3と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、比較セルY1〜Y3と称する。
【0045】
(比較例3)
熱処理温度を、300℃ではなく700℃とした他は、上記実施例1-4と同様にして試験セルを作製した。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルXと称する。
【0046】
(比較例4)
Li
1.20Mn
0.54Ni
0.13Co
0.13O
2で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子を、当該遷移金属複合酸化物に対して2質量%の(NH
4)
2SO
4を固体状態で添加し、これらを細かく砕いた後、混合物を700℃で5時間、空気中で熱処理をするという処理を行った(尚、正極活物質の水洗は行っていない)他は、上記実施例4−1と同様にして試験セルを作製した。尚、この試験セルにおける正極活物質は、上述の特許文献2に示した方法と同様の方法で作製したものである。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルWと称する。
【0047】
(比較例5)
Li
1.20Mn
0.54Ni
0.13Co
0.13O
2で表される高リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面処理として、以下に示す酸処理を行った他は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
上記金属複合酸化物から成る正極活物質を、1.2Nの硫酸(H
2SO
4)溶液内にて30分間混合攪拌した(尚、この撹拌中に、酸性溶液のH
+が活物質のLi
+と交換する)。次に溶液を水洗した後、濾過し、更に得られた粉末を300℃で5時間空気中で熱処理した。
このようにして作製した試験セルを、以下、比較セルVと称する。
【0048】
(実験1)
上記本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、D1〜D4、E1、E2、F1、F2及び比較セルZを、下記条件で充放電し、初期放電容量(1サイクル目の放電容量)、下記(1)式で示される初期充放電効率、下記(2)式で示されるサイクル特性、及び、下記(3)式で示される負荷特性を調べたので、その結果を表1に示す。
【0049】
〔初期充放電効率〕
初期充放電効率(%)=
[1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量]×100・・・(1)
〔初期充放電効率における充放電条件〕
・充電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が4.8V(vs.Li/Li
+)になるまで定電流充電するという条件
・放電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li
+)になるまで定電流放電するという条件
【0050】
〔サイクル特性〕
サイクル特性(%)=
[29サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量]×100・・・(2)
【0051】
〔サイクル特性における充放電条件〕
(a)1〜9、11〜19、21〜29サイクル目の充放電条件
・充電条件
100.0mA/gの電流密度で、正極の電位が4.8V(vs.Li/Li
+)になるまで定電流充電するという条件
・放電条件
100.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li
+)になるまで定電流放電するという条件
【0052】
(b)10,20サイクル目の充放電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が4.8V(vs.Li/Li
+)になるまで定電流充電するという条件
・放電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li
+)になるまで定電流放電するという条件
【0053】
〔負荷特性〕
負荷特性(%)=
[2サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量]×100・・・(3)
【0054】
〔負荷特性における充放電条件〕
(a)1サイクル目の充放電条件
・充電条件
20.0mA/gの電流密度で、正極の電位が4.8V(vs.Li/Li
+)になるまで定電流充電するという条件
・放電条件
10.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li
+)になるまで定電流放電するという条件
【0055】
(b)2サイクル目の充放電条件
・充電条件
上記(a)の充電条件と同じ
・放電条件
300.0mA/gの電流密度で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li
+)になるまで定電流放電するという条件
【0056】
【表1】
【0057】
〔負荷特性、初期放電容量、及び、初期充放電効率について〕
表1に示すように、正極活物質粒子に表面処理がされていない比較セルZでは負荷特性が74.3%であるのに対して、正極活物質粒子に表面処理がされた本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、D1〜D4、E1、E2、F1、F2では、負荷特性が74.8〜83.8%であって、全て比較セルZより大きくなっていることが認められる。また、比較セルZでは初期放電容量が242mAh/g、初期充放電効率が75.9%であるのに対して、本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、D1〜D4、E1、E2、F1、F2では初期放電容量が235.9〜270.4mAh/g、初期充放電効率が75.4〜96.5%であって、比較電池Zと同等かそれ以上となっていることが認められる。したがって、正極活物質を第1の還元剤〔NH
4H
2PO
4、H
3PO
4、(NH
4)
2HPO
4、(NH
4)
2SO
4、クエン酸二アンモニウム、又は、アスコルビン酸〕で処理することによって、負荷特性等が向上することがわかる。
【0058】
このような結果となったのは、
図1及び
図2に示すように、本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、D1〜D4、E1、E2、F1、F2では中心部1が層状構造(
図3に示す構造)を成す一方、最表面部3はスピネル構造(
図4に示す構造)を成し、且つ、表面近傍部2においては中心部1から最表面部3にいくにつれて、結晶構造が層状構造からスピネル構造に徐々に変化しているという構成である。したがって、中心部1に配置された正極活物質と最表面部3に配置された正極活物質との間には明確な境界がなくなり、正極活物質からのリチウムの挿入、離脱が円滑に行われる。これに対して、比較セルZでは、中心部のみならず表面部も層状構造(
図3に示す構造)を成すので、正極活物質からのリチウムの挿入、離脱が円滑に行われないという理由によるものと考えられる。
【0059】
尚、
図3及び
図4において、八面体5は6つの酸素原子によって囲まれている遷移金属(M)を表すものであり、リチウムは
図3及び
図4における八面体の間に存在している。(S.-J.Hwang et al. Electrochem. Solid StateLett. 4, A213(2001)参照)。また、本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3、E1、E2、F1、F2では、
図2に示すように、表面にLi
3PO
4等から成る保護層4が形成される一方、本発明セルD1〜D4では、
図1に示すように、表面に保護層が形成されない構成となっている。
【0060】
また、表1から明らかなように、第1の還元剤の最適範囲は、第1の還元剤の種類により異なり、例えば、第1の還元剤がリン酸塩〔NH
4H
2PO
4、H
3PO
4、(NH
4)
2HPO
4〕であれば、1〜5質量%であることが望ましい(本発明セルA1〜A4、B、C1〜C3参照)。リン酸塩の割合が1質量%未満であると、正極活物質粒子の表面近傍部でスピネル構造へ十分に変化しないため、負荷特性を十分に向上させることができないことがある一方、リン酸塩の割合が5質量%を超えると、正極活物質の表面に形成されるLi
3PO
4の量が多くなり過ぎて、保護層が厚くなり過ぎる結果、初期放電容量が低下するからである。同様の理由により、第1の還元剤がクエン酸二アンモニウム、又は、アスコルビン酸であれば、1〜10質量%であることが望ましい(本発明セルE1、E2、F1、F2参照)。
【0061】
更に、第1の還元剤が硫酸塩〔(NH
4)
2SO
4〕であれば、1〜20質量%であることが望ましい(本発明セルD1〜D4参照)。下限については、上記リン酸塩の場合と同様の理由であるが、上限については硫酸塩特有の理由による。即ち、硫酸塩の割合を20質量%以下に規制するのは、リン酸塩の場合の如く、保護層が厚くなり過ぎという不都合はないが、第1の還元剤の量が20質量%を超えると、層状構造を有する部分が小さくなり過ぎて、放電電位が低下したり、初期充放電効率が100%を越えたりするといった不都合が生じるからである。
【0062】
〔サイクル特性について〕
表1から明らかなように、第1の還元剤として(NH
4)
2SO
4を用いた本発明セルD1〜D4は、本発明セルA1〜A4に比べ、サイクル特性が低下していることが認められる。これは、本発明セルA1〜A4であれば、Li
3PO
4が正極活物質粒子の表面に残留物として生成され(即ち、
図2に示すように、表面にLi
3PO
4等から成る保護層4が形成され)、これが正極活物質粒子を保護する。したがって、正極活物質粒子から遷移金属原子が溶出したり、電解液が分解したりするのが抑制されるので、サイクル特性が向上する。これに対して、本発明セルD1〜D4では、
図1に示すように、正極活物質粒子の表面に保護層が形成されないため、充放電サイクル経過に伴って、正極活物質から遷移金属原子が溶出したり、電解液が分解したりすることがあるため、サイクル特性が若干低下する。但し、本発明セルD1〜D4の正極活物質粒子であっても、第1の還元剤による熱処理を終了した後に、Al
2O
3等で正極活物質粒子の表面を被覆すれば、サイクル特性を向上させることができる。
【0063】
(実験2)
上記比較セルY1〜Y3を充放電し、初期放電容量、初期充放電効率、及び負荷特性を調べたので、その結果を表2に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率と負荷特性との算出方法は上記実験1と同様である。また、比較のために、上記本発明セルC1〜C3の結果についても、表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
上記表2から明らかなように、本発明セルC1〜C3及び比較セルY1〜Y3において、第1の還元剤の濃度が同じセル同士で比較すると(例えば、本発明セルC1と比較セルY1とで比較すると)、本発明セルC1〜C3は比較セルY1〜Y3に比べて、負荷特性と初期充放電効率とが優れ、しかも、初期放電容量も大きくなっていることが認められる。両者とも(NH
4)
2HPO
4で処理されているにも関わらず本発明セルC1〜C3が比較セルY1〜Y3に比べて電池諸特性に優れるのは以下の理由によるものと考えられる。
【0066】
上述の如く、本発明セルC1〜C3では、(NH
4)
2HPO
4の分解時に、リチウムと酸素とが正極活物質から引き抜かれ、正極活物質粒子の表面にスピネル層が生成される。これに対して、比較セルY1〜Y3では、1モルの(NH
4)
2HPO
4に対してLiOHが3モル添加されているため、アニール時にはLiOHが(NH
4)
2HPO
4と反応して粒子表面にLi
3PO
4層が生成される結果、正極活物質粒子の表面にスピネル層が生成されないという理由によるものと考えられる。これらのことから、正極活物質の負荷特性等を向上するには、正極活物質の表面にスピネル層を設けることが必須であることがわかる。
【0067】
(実験3)
上記比較セルXを充放電し、初期放電容量及び初期充放電効率を調べたので、その結果を表3に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率の算出方法は上記実験1と同様である。また、比較のために、上記本発明セルA4の結果についても、表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
上記表3から明らかなように、本発明セルA4は比較セルXに比比べて、初期充放電効率に優れ、しかも、初期放電容量も大きくなっていることが認められる。したがって、熱処理温度を余り高くすると、本発明の効果が得られないことがわかる。これは、熱処理温度を余り高くすると、正極活物質粒子への酸素吸収を促すことによるものと考えられる。尚、最適温度については、後述の実験5に示す。
【0070】
(実験4)
上記比較セルWを充放電し、初期放電容量及び初期充放電効率を調べたので、その結果を表4に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率の算出方法は上記実験1と同様である。また、比較のために、上記本発明セルD1の結果についても、表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
前述の特許文献2で示した方法と同一の方法で正極活物質を作製した(但し、特許文献2で用いた正極活物質はニッケル系のもの)比較セルWは、本発明セルD1に比べて、初期充放電効率に劣り、しかも、初期放電容量が小さくなっていることが認められる。したがって、ニッケル系の正極活物質にとって優れた表面処理方法(端的に述べると、正極活物質と(NH
4)
2SO
4とを乾式混合した後、700℃で熱処理する方法)を単純にマンガン系の正極活物質に適用しても、電池特性の向上を図ることはできない。
【0073】
(実験5)
上記実験3、4の結果を考慮して、本発明における熱処理温度の最適範囲について調べた。実験は、第1の還元剤としてそれぞれ、10質量%の(NH
4)
2HPO
4(本発明セルC3で使用)、10質量%の(NH
4)
2SO
4(本発明セルD3で使用)を用い、上記正極活物質粒子のTGA(熱重量分析)を行った。尚、具体的には、5℃/分で温度上昇させつつ、質量変化率を調べた。
【0074】
図5から明らかなように、両者とも200℃以上で質量が大きく変化しているということから、反応が生じるためには200℃以上であることが必要であり、特に、250℃以上であることが望ましいことがわかる。但し、
図5には示していないが、500℃を超えると正極活物質粒子への酸素吸収を促し、放電容量が著しく低下するので、500℃以下であることが必要であり、特に、400℃以下であることが望ましい。以上のことから、本発明における熱処理温度は200℃以上500℃以下であることが必要であり、特に、250℃以上400℃以下であることが望ましい。
【0075】
(実験6)
上記本発明セルD4に用いられる正極活物質粒子と比較セルZに用いられる正極活物質粒子とのXRD測定(線源はCuKα、測定範囲2θ=10°〜80°)を行なったので、そのXRDパターンを
図6に示す。
【0076】
本発明セルD4では36.7°付近にピーク(
図6矢符A参照)を有するのに対して、比較セルZでは36.7°付近にピークが存在していないことから、本発明セルD4ではスピネル部分が存在することがわかる。但し、スピネル部分は粒子表面近傍部分にのみ存在するため、36.7°付近のピーク強度はさほど高くなっていない。
【0077】
ここで、正極活物質粒子の中心部分の構造分析ため、XRDパターンから格子定数を計算した。ピークの位置を空間群R3−m構造にフィットした結果を表5に示す。表5から明らかなように、本発明セルD2、D3、D4と比較セルZとに用いられる正極活物質粒子の格子定数は同じであるため、正極活物質粒子の中心部分は第1の還元剤による処理によって影響を受けない(即ち、正極活物質粒子の中心部分は層状構造である)ことがわかる。
【0078】
【表5】
【0079】
(実験7)
上記本発明セルD2〜D4に用いられる正極活物質粒子と比較セルZに用いられる正極活物質粒子とのラマン分光測定を行なったので、その結果を表6に示す。ラマン分光測定は物質にレーザーを照射し、散乱される光を分光器によって観測する分析法であり、活物質の表面状態を確認できる。第1の還元剤による処理により活物質粒子の表面状態は変化することがわかる。605cm
-1のピーク〔以下、I(605)と表示することがある〕は層状構造に由来するものであり、635cm
-1のピーク〔以下、I(635)と表示することがある〕はスピネル構造に由来する。層状構造とスピネル構造との割合はラマンの強度比からわかる。
表6から明らかなように、第1の還元剤による処理を行った本発明セルD2〜D4は、第1の還元剤による処理を行っていない比較セルZに比べて、ラマン強度比〔I(635)/I(605)〕が高くなっていることが認められる。また、第1の還元剤の割合が多くなるにしたがって、ラマン強度比が高くなっていることも認められる(D4>D3>D2)。したがって、本発明セルD2〜D4においては、活物質粒子の表面側にスピネル構造が存在することが証明でき、また、第1の還元剤の割合が多くなる程、スピネル構造の割合が増加することがわかる。尚、本発明者らが検討したところ、特に、0.6<I(635)/I(605)<1.5の範囲において、層状構造とスピネル構造との割合は最適となることがわかった。
【0080】
【表6】
【0081】
(実験8)
上記本発明セル
D3〜D4に用いられる正極活物質粒子と比較セルZに用いられる正極活物質粒子との元素分析を、誘導結合プラズマ法(ICP)で行なったので、その結果を
図7に示す。尚、酸素の量は、ICP測定に用いた正極活物質の全量から、ICP測定によって得られたリチウム量と遷移金属量とを減算することにより算出した。
図7から明らかなように、第1の還元剤による処理により、正極活物質からリチウムと酸素とが、モル比で2:1の割合で、が引き抜かれていることがわかる。
また、上記本発明セル
D3〜D4に用いられる正極活物質粒子と比較セルZに用いられる正極活物質粒子とにおける、リチウムの量と、遷移金属の量と、酸素の量との割合を表7に示す。比較セルZに用いられる正極活物質粒子(全て層状構造であって、スピネル構造を有していない正極活物質)の酸素と遷移金属との割合は2.58対1である。一方、理論上、スピネル構造における酸素と遷移金属の割合は2対1である。したがって、第1の還元剤による処理により酸素/遷移金属の割合が低下する本発明セル
D3〜D4では、正極活物質にスピネル構造が存在することがわかる。
【0082】
【表7】
【0083】
(実験9)
前記非特許文献1で示した発明(余剰リチウムを活物質から除去することにより活物質の初期サイクル特性を向上させることを目的とするものであり、活物質表面を改質するための高リチウム含有遷移金属複合酸化物を酸処理する方法)と本発明との違いを明らかにするために、本発明セルD3に用いられた正極活物質粒子と比較セルVに用いられた正極活物質粒子とのサイクリック・ボルタメトリー分析を行ったので、その結果を
図8に示す。
【0084】
図8から明らかなように、両者のプロファイルを比較すると、2.5〜3.0V(vs.Li/Li
+)間で酸化還元ピークが明確に異なっていることから、両正極活物質が異なっていることは明らかである。これは、比較セルVに用いられた正極活物質では、酸処理中に溶液からの水素イオンが活物質中のリチウムイオンと交換した後、吸蔵水がアニールによって除去されるのに対して、本発明セルD3に用いられた正極活物質では水素イオンは活物質に取り込まれないことに起因するものと考えられる。
【0085】
尚、付言すれば、本発明セルC3に用いられた正極活物質を作製する際に用いられる第1の還元剤〔(NH
4)
2HPO
4〕はpH8.1であって酸性ではない。したがって、本発明に記載のスピネル層を生成するには、酸性条件であることが必須ではない。
【0086】
〔第2実施例〕
(実施例1〜3)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li
1.16Mn
0.5Co
0.17Ni
0.17O
2を用いた他は、上記第1実施例の実施例4−1〜4−3と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルG1〜G3と称する。
【0087】
(比較例)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li
1.16Mn
0.5Co
0.17Ni
0.17O
2を用いた他は、上記第1実施例の比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較セルUと称する。
【0088】
(実験)
上記本発明セルG1〜G3及び比較セルUを充放電し、初期放電容量、初期充放電効率、及び負荷特性を調べたので、その結果を表8に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率と負荷特性との算出方法は上記第1実施例の実験1と同様である。
【0089】
【表8】
【0090】
表8から明らかなように、本発明セルG1〜G3は比較セルUに比べて、初期放電容量が大きく、初期充放電効率が高く、しかも負荷特性が向上していることが認められる。
【0091】
〔第3実施例〕
(実施例1〜3)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li
1.13Mn
0.47Co
0.2Ni
0.2O
2を用いた他は、上記第1実施例の実施例4−1〜4−3と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルH1〜H3と称する。
【0092】
(比較例)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li
1.13Mn
0.47Co
0.2Ni
0.2O
2を用いた他は、上記第1実施例の比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較セルTと称する。
【0093】
(実験)
上記本発明セルH1〜H3及び比較セルTを充放電し、初期放電容量、初期充放電効率、及び負荷特性を調べたので、その結果を表9に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率と負荷特性との算出方法は上記第1実施例の実験1と同様である。
【0094】
【表9】
【0095】
表9から明らかなように、本発明セルH1〜H3は比較セルTに比べて、初期放電容量が大きく、初期充放電効率が高く、しかも負荷特性が向上していることが認められる。
【0096】
〔第4実施例〕
(実施例1)
前記第2のステップ(熱処理ステップ)の終了後に、第2の還元剤としての2質量%の(NH
4)
2HPO
4を付着させて80℃で乾燥させ、その後300℃で5時間熱処理を行った(第3ステップ)他は、上記第1実施例の実施例4−3と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明セルI1と称する。
【0097】
(実施例2)
第2の還元剤として、2質量%のH
3BO
3を用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明セルI2と称する。
【0098】
(実施例3、4)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li
1.20Mn
0.54Co
0.13Ni
0.13O
2に0.5%のMgがドープされたもの(Li
1.20Mn
0.53Co
0.13Ni
0.13Mg
0.01O
2)を用いた他は、それぞれ、上記第1実施例の実施例4−3、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルJ1、J2と称する。
【0099】
(実施例5〜7)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li
1.20Mn
0.54Co
0.13Ni
0.13O
2に0.5%のZrがドープされたもの(Li
1.20Mn
0.53Co
0.13Ni
0.13Zr
0.01O
2)を用いた他は、それぞれ、上記第1実施例の実施例4−3、上記実施例1、上記実施例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルK1〜K3と称する。
【0100】
(実施例8、9)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、Li
1.20Mn
0.54Co
0.13Ni
0.13O
2に0.5%のNbがドープされたもの(Li
1.20Mn
0.53Co
0.13Ni
0.13Nb
0.01O
2)を用いた他は、それぞれ、上記第1実施例の実施例4−3、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明セルL1、L2と称する。
【0101】
(比較例1〜3)
高リチウム含有遷移金属複合酸化物として、それぞれ、Li
1.20Mn
0.53Co
0.13Ni
0.13Mg
0.01O
2、Li
1.20Mn
0.53Co
0.13Ni
0.13Zr
0.01O
2、Li
1.20Mn
0.53Co
0.13Ni
0.13Nb
0.01O
2を用いた他は、上記第1実施例の比較例と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、比較セルS、R、Qと称する。
【0102】
(実験)
上記本発明セルI1、I2、J1、J2、K1〜K3、L1、L2及び比較セルS、R、Qを充放電し、初期放電容量、初期充放電効率、負荷特性、及びサイクル特性を調べたので、その結果を表10に示す。尚、充放電条件及び初期充放電効率と負荷特性との算出方法は上記第1実施例の実験1と同様である。
【0103】
【表10】
【0104】
(1)Mg、Zr、Nbが添加されていない正極活物質を用いた場合
表10から明らかなように、第3ステップを施していない(第2の還元剤による処理を行っていない)本発明セルD3や、第3ステップを施した(第2の還元剤による処理を行った)本発明セルI1、I2は、比較セルZに比べて、初期放電容量が大きく、初期充放電効率や負荷特性が向上し、更にサイクル特性も向上していることが認められる。但し、第3ステップを施した本発明セルI1、I2と、第3ステップを施していない本発明セルD3とは、サイクル特性が略同等であることがわかる。
【0105】
(2)Mg、Zr、Nbが添加された正極活物質を用いた場合
表10から明らかなように、第3ステップを施していない本発明セルJ1、K1、L1や、第3ステップを施した本発明セルJ2、K2、K3、L2は、比較セルS、R、Qに比べて、初期放電容量が大きく、初期充放電効率や負荷特性が向上していることが認められる。しかし、サイクル特性については、第3ステップを施していない本発明セルJ1、K1、L1は、比較セルS、R、Qに比べて低下していることが認められる一方、第3ステップを施した本発明セルJ2、K2、K3、L2は、比較セルS、R、Qに比べて向上していることが認められる。これは、第2の還元剤による処理を行うことにより、正極活物質の表面に保護層が形成され、これによって、正極活物質から遷移金属原子が溶出するのを抑止できることに起因すると考えられる。
【0106】
(その他の事項)
(1)第1ステップに用いる第1の還元剤としては、上記NH
4H
2PO
4等に限定するものではなく、NH
4NO
3、NH
4HCO
3、NH
4Cl、上記(NH
4)
2HPO
4等以外のアンモニウム系化合物、及び、乳酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等の有機酸を用いても良い。また、第1の還元剤として、2以上の還元剤を混合して用いても良く、更に、一の還元剤を用いて熱処理を行った後、他の還元剤を用いて熱処理を行う(複数回の表面処理を行う)ことも可能である。
(2)高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子のBET比表面積や粒径は限定されるものではなく、如何なるBET比表面積や粒径のものであっても本発明を適用できる。
【0107】
(3)本発明で用いる非水電解質の溶媒としては、上記ECやDECに限定されるものではなく、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、プロピレンカーボネート(PC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、メチル−2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート(FMEC)等如何なるものであっても良い。また、電解質としては、上記LiPF
6に限定されるものではなく、LiAsF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3等如何なるものであっても良い。
(4)本発明の高リチウム含有遷移金属複合酸化物としては、Nb、Zr、Mo、Ti、Mg等がドープされたものを用いても良い。
【0108】
(5)本発明の第1ステップでは、高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子に、第1の還元剤を乾式で混ぜても良い。
(6)高リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子は、空間群R3−mに属する構造を含んでも良い。この場合は、空間群C2/mと空間群R3−mとの複合体、又は空間群C2/cと空間群R3−mの複合体となる。
(7)第3ステップで用いる第2の還元剤としては、上記NH
4H
2PO
4とH
3BO
3に限定するものではなく、(NH
4)
2HPO
4、Al(OH)
3、Al(NO
3),Mg(OH)
2、Ti(OCH
3)
4、Zr(OC
2H
5)
4等の化合物を用いても良い。また、上記保護層の形成方法は第2の還元剤を用いる方法に限定するものではなく、正極活物質の表面に保護層を、機械的に形成する方法であっても良い。