【実施例】
【0033】
キメリズムの突然変異誘発及び解析
記載の方法を実証するため、及びその成功に寄与する組織サンプリングパラメータを推測するために、本発明者らは、
図2に示されるように、ペチュニア・ハイブリダ(Petunia hybrida:ペチュニア)において遺伝的スキームを使用した。赤紫色の花をつけるF1ハイブリッドのペチュニアを近交株W5(act1、AN1::dTph1、rt::dTph3)とM1(act1、AN1、RT)との交雑から産生し、2つの花色遺伝子で劣性対立遺伝子(AN1、rt)を保有する二重ヘテロ遺伝子型が生じた。これらの2つの遺伝子の1つ(AN1)は、花冠におけるアントシアニン色素の産生に必要とされる転写因子である(Spelt et al. 2000)。AN1でのヌル突然変異型により、白色花が生じる。第2の遺伝子(RT)はUDPラムノース:アントシアニン−3−グルコシドラムノシルトランスフェラーゼである。本明細書中で使用される遺伝的バックグラウンドでは、RTのヌル突然変異型が、シアニジン−3−グルコシドの集積の結果として赤色の花をつける(Kroon et al. 1994, Brugliera et al. 1994)。両方の劣性色のマーカーは、それぞれdTph1及びdTph3挿入を保有するトランスポゾン挿入対立遺伝子であることに留意されたい(Spelt et al. 2000, Kroon et al. 1994)。親株とF1ハイブリッドとの両方がdTph1の活性化因子を喪失しており(act1、Stuurman and Kuhlemeier 2005 The Plant Journal Volume 41 Issue 6, Pages 945-955)、dTph3が転位欠損であるため(Kroon et al. 1994)、これらのエレメントの転位は起こらない。F1ハイブリッド種子のエチルメタンスルホン酸(EMS)による突然変異誘発処理の際、得られる植物の幾つかは、AN1又はRTの野生型対立遺伝子において新規の突然変異を保有する。かかる植物はキメラであり、赤紫色の花の背景色に対する白色又は赤色の花冠又は花冠部位の割合によって視覚的に同定され得る。
【0034】
3600個のF1植物集団をEMS処理種子から成長させ、花色に関するセクタリングパターンを、初代の花序のみで視覚的に記録した。二次花序が腋生分裂組織から成長し、それらのがい葉にクローン的に由来するのに対し(Furner and Pumfrey 1992)、初代の花序は胚性茎頂分裂組織にクローン的に由来すると規定される。結果を概略的に
図2に示す。総数19個の突然変異型がAN1及びRTで共に観察された。図に示すように、キメリズムは、大きい領域でのみ起こり(花のほぼ半分)、花序の加齢に従って徐々にキメリズムが消失するという所定のパターンに従っていた。5つの花をつけた後、キメリズムは消失し、植物は、安定して突然変異型の色を獲得するか、又は完全な野生型を発生した。安定した突然変異型及び野生型の数はほぼ等しく、これは胚性頂端分裂組織における2つの不安定な始原細胞(幹細胞)を反映していると思われる。
【0035】
種子で突然変異させた、ペチュニアの大きいF1集団は、初代花序で5番目の花の後に非キメラとして扱うことができることが、これらのデータから結論付けられる。実際、このことは突然変異をDNAスクリーニング法のいずれかによって特異的遺伝子で探査する場合、この段階で又はこの段階の後で、花序組織を節(nodes)からサンプリングすればよいということを示唆している。これらの試料が特定の点突然変異を示す場合、植物は全ての組織、及び続いて発生する枝において突然変異を安定して保有する。
図2から分かるように、サンプリングを、より早い段階、例えば2番目の花の後で行ってもよく、安定した突然変異型として発生する個体を同定する機会としては極めて良好である。
【0036】
サンガーシークエンシングによる突然変異の分子的確認
花色に関する表現型でのスクリーニングがAN1又はRTの遺伝子における突然変異によるものであったことを実証するために、完全に突然変異型のF1個体の5番目の花序節由来の苞葉を、ゲノムDNAの単離及び遺伝子配列の解析のために採取した。RT遺伝子はイントロンを含有せず、約1.5kbのコード配列全体を単一のプライマー対でPCR増幅させる。便宜上、RTのみを詳細に解析し、結果は、類似性によりAN1に適用すると推測される(assumed)。RTに関するプライマーを、W5親ではなくM1親由来の対立遺伝子のみを増幅させるように設計した。この特異性は、2つの親間での天然RT配列多型に基づいており、設計されるオリゴヌクレオチドプライマーを差別化することができた(図示せず)。これにより、W5株に存在していたトランスポゾン挿入対立遺伝子ではなく、M1親由来の排他的なEMS誘導性の対立遺伝子のシークエンシングが可能となった。
【0037】
7個の赤色の花をつけるF1突然変異型全てにおいて、RTコード領域全体の従来のサンガーシークエンシングを、細菌プラスミドベクターにクローン化したPCR産物で行った。突然変異型F1植物それぞれに関して、20個の独立した組み換えプラスミドにおけるRT産物をシークエンシグした。この解析により、1つを除いて全てのF1植物で点突然変異が明らかにされた。これらの突然変異の種類及び位置を
図3に示す。
【0038】
しかしながら、全てのF1植物において、20個の組み換えプラスミド全てが突然変異を示したわけではなく、1つの植物当たりの突然変異による挿入頻度は3〜6に及ぶ。これは、サンプリングした組織が突然変異型の対立遺伝子に関して遺伝型がホモ型ではなかったことを示している。植物の表現型がホモ型であった場合、F1突然変異型は、植物体の組織原基盤である、3つのクローン細胞層L1、L2、L3の1つに突然変異を保有する周縁キメラであった。L1層は花冠の表皮を構成し、アントシアニン色素沈着は表皮に限定されることが知られている(参考文献)。このため、解析したRT突然変異型は、完全に突然変異型のL1層を含有していたが、L2及びL3層は野生型であった。
【0039】
表現型によるF1突然変異型の選択により周縁キメラが同定され、点突然変異が予測遺伝子で見出されると結論付けられた。このため、遺伝型による突然変異スクリーニングを3600個のF1植物全てで行い、個々の植物1つの初代花序の4番目の花節を超えた少なくとも2つの連続した花節で特定の突然変異が見出される場合、その植物は、3つの細胞層L1、L2又はL3の(少なくとも)1つにおいて安定した周縁キメラである。
【0040】
ハイスループットシークエンシングにより突然変異型が正しく同定される
本発明がハイスループットモードでの特異的遺伝子における突然変異のF1選択を可能にすることをさらに実証するために、454 Life Sciencesのシークエンシング技術(Margulies et al. 2005)を使用して、個々の植物の大きな集合においてRTアンプリコン配列を解析した。総数3600個のEMS突然変異F1ハイブリッドから採取した1440個の植物の部分集合を温室内で格子状に配置した。格子は、35個の座標(x1〜x9、y1〜y10、z1〜z16)を有する三座標軸(x、y、z=行、ブロック、列)から成っており、個々の植物の総数は、9×10×16=1440個であった。格子におけるそれぞれの植物は、3つの軸それぞれにおける1つの座標の特有の(x、y、z)組合せに対応する。この群の1440個の植物では、2つの周縁RT突然変異型(
図3のm2及びm17)が含まれ、特有の既知の位置に位置していた(m2=X10、Y2、Z8;m17=X1、Y1、Z2)。これらの突然変異型はRT遺伝子の199塩基対セグメント内にEMS誘導性の点突然変異を含有するものとして選択され、これはGS−FLX Genome Sequencer(Roche, 454 Life Sciences)の平均解読長内であった。
【0041】
格子における1440個の植物全ての花序における4番目、5番目及び6番目の花節における苞葉から組織サンプリングを行った。4番目の花節はブロックを表し、5番目の花節は行を表し、6番目の花節は列を表していた。それぞれの植物及びそれぞれの試料で等量の組織を採取することに注意した。組織試料をそれらの座標に従ってプールし、9+10+16=35個の組織プールを得た。これらのプールした組織をホモジナイズした後、ゲノムDNAを抽出した。これにより、1440個の植物全てが35個のDNA試料で表された。したがってプーリングのレベルは、1つの行当たり1440/9=160個の植物、1つのブロック当たり1440/10=144個の植物、及び1つの列当たり1440/16=90個の植物に対応している。
【0042】
これらの35個のDNA試料のそれぞれの中で、RT遺伝子の特異的な199bpセグメント(
図4)を、RT特異的プライマーを使用するPCRによって増幅した。これらのプライマーは、特異的な5塩基のヌクレオチド配列(以下タグと呼ぶ)によって5’末端で伸長し、格子における35個の座標それぞれがタグの異なる配列によって規定された。プライマーは、M1親に由来するRT対立遺伝子のみを増幅するように設計し、このRT対立遺伝子は表現型によるスクリーニングによって同定されたEMS誘導性の点突然変異を保有しているとされる。得られる35個のPCR産物集合は、DNA試料を構成していた個々の植物由来の産物の混合物である。35個のPCR産物全てをプールし、GS−FLX Genome Analyzer(Roche)でシークエンシングして、総数549646個の個々の配列解読を得た。個々の解読は、RT特異的な増幅プライマーの配列の直前に座標特異的な5’タグを保有するので、格子の35個の単一座標の1つを割り当てることができる。特定の配列変異型(すなわちEMS誘導性の点突然変異)により、3つの座標軸(例えばx1、y1、z1)の特有の組合せが生じる場合、この変異型を個々の植物1つに対する実際の(true)点突然変異として割り当てることができる。ペチュニアのこの特定の実施例において、4番目の花序節を超えた組織からDNA試料を採取していれば、1つだけ(又は稀に2つの)座標で生じる他の突然変異は全てシークエンシングエラーであるといえる。
【0043】
格子の所定の位置に含まれていた既知の配列を有する3つのRT突然変異型に関して(m1、m2及びm17、
図3)、これらの特定のヌクレオチド突然変異を、突然変異型塩基を含んでいた12個の塩基配列ストリングの完全な適合を求めることによって配列のデータセットにおいて探査した。これらの探査は、順(5’→3’)方向及び逆相補(3’→5’)方向の両方で行った。続いて、突然変異型塩基を含有していた配列解読の中で、5塩基タグを同定し計測した。
図5から分かるように、これらの植物の位置は、(x、y、z)座標の特有の組合せによって容易に同定することができ、ここで突然変異が、任意の他の座標よりも非常に高い頻度で発生した。これらのデータは、安定した突然変異型植物を、表現型による選択をせずに、総数1440個の植物から正しく同定することができることを示している。植物のこの数は増やすことができる。
【0044】
材料及び方法
EMS突然変異誘発
(W5×M1)F1ハイブリッドのペチュニアの乾燥種子(およそ5000個の種子)360mgを、10mlの試験管中の0.5%(v/v)エチルメタンスルホン酸(EMS、Sigma-Aldrich)5mlに浸漬させ、十分に混合した。種子を室温で14時間EMS溶液中に置いた。それから種子を、水10mlで10回十分に洗浄し、土の上に播種した。苗木が2つの第一本葉をつけた後、苗木を40ポット(8×5)トレーに移し、2008年1月に温室内で三次元格子状に配置した。苗木を24℃で明期16時間で成長させた。
【0045】
RT突然変異型のキメラ植物のサンガーシークエンシング
個々の植物の5番目の花の下にある苞葉組織を採取した。全ゲノムDNAをQiagenのDNeasy植物ミニキットを使用して単離した。完全なRTコード配列を、それぞれRT遺伝子の5’及び3’非コードリーダー及びトレーラーに位置しているプライマー08A281及び08A282を使用してPCR増幅した(表1を参照されたい)。反応液は、総量50μlで、25pmolの各プライマー、0.2mMのdNTP、1×PCR緩衝液、50ngのゲノムDNA、1ユニットのAmpliTaq Gold DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems)から成っていた。熱サイクルは、最初の95℃で10分間の後に、95℃で30秒、55℃で60秒、72℃で60秒を35サイクル、その後最終伸長を72℃で6分行った。産物をアガロースゲル電気泳動での単一バンドとして確認し、細菌プラスミドベクターでクローン化した。標準的なサンガー連鎖ターミネータ法を利用して、20個の無作為にピックアップしたコロニー由来の組み換えプラスミドを自動キャピラリシーケンサを使用してシークエンシングした。同じ塩基変化が20個の配列集合で3回以上起こった場合、EMS誘導性の突然変異(SNP)を表していた。
【0046】
GS FLXシークエンシング法によるハイスループット突然変異検出
植物を温室内の厳密に保持された位置に保った。4番目、5番目又は6番目の花の下にある苞葉を個々の植物それぞれで採取し、このシステムにおける35個の座標に従ってプールした。苞葉組織の35個のプール全てを液体窒素中でホモジナイズし、−80℃で保存した。QiagenのDNeasy植物ミニキットを使用する全ゲノムDNAの単離のために組織粉末試料を採取した。RT遺伝子の単一セグメントのPCR増幅を、表1に列挙されるプライマーを使用して行った。35個の座標それぞれで、それぞれの座標がPCR産物の両方の末端上で単一タグによって特定されるように、同じ5塩基タグを保有する1対のフォワードプライマー及びリバースプライマーを使用した。反応は、総量25μlで、30ngのゲノムDNA、0.5mMのdNTP、25pmolの各プライマー、1ユニットのAmpliTaqDNAポリメラーゼ(Applied Biosystems)を用いて実施した。熱サイクルは、最初の95℃で5分間、その後94℃で30秒、65℃で30秒、72℃で30秒を35サイクル行った。PCR産物を、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製し、アガロースゲル電気泳動の後単一バンドとして確認した。
【0047】
25℃で15分間、総量40μlで1mMのdNTPの存在下において0.5ユニットのKlenow酵素と共にインキュベーションすることにより、35個のPCR産物全てを平滑末端化させた(blunt)。最終濃度が10mMになるまでEDTAを添加し、その後72℃で20分間加熱することによって反応を停止させた。それから試料をQIAquick PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製し、10mMのTris(pH=8.5)中に溶出した。続いて35個の平滑末端化した産物全てを、37℃で30分間、総量40μlで0.25mMのATPの存在下で20ユニットのT4ポリヌクレオチドキナーゼと共にインキュベーションことにより5’リン酸化させ、その後QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製し、10mMのTris(pH=8.5)中に溶出した。
【0048】
3Dプール由来の平滑末端化したリン酸化増幅産物を、Margulies et al.(2005)によって記載されたように、454 Life Sciencesの技術を使用してGS−FLXシーケンサ(Roche)でハイスループットシークエンシングを行った。35個のPCR産物全てを、25℃で4時間、総量12μlで、1×リガーゼ緩衝液(Roche Life Sciences、GS DNAライブラリ調製キット)、0.1μlのアダプタ(Roche Life Sciences、GS DNAライブラリ調製キット)及び1WeissユニットのT4 DNAリガーゼにおいてPCR産物50ngをインキュベーションすることにより、454 Life Sciencesのアダプタ配列に別々にライゲーションした。続いて、ライゲーションした産物を、標準的なPCR増幅プライマー(Roche Life Sciences、GS DNAライブラリ調製キット)を使用してPCR増幅した。熱サイクルは、総量25μlで、4μlのライゲーションミックス、0.5mMのdNTP、25pmolの各プライマー、1ユニットのAmpliTaq DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems)を用いて行った。熱サイクルは、最初の72℃で60秒、95℃で5分、その後94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒を25サイクル行った。増幅産物をアガロースゲル電気泳動で解析し、1つの最終試料にプールした。それからこの試料を、製造業者の取扱説明書に従ってGS−FLX装置(Roche Life Sciences)を使用してプロセシング及びシークエンシングした。
【0049】
配列出力の中で突然変異を検出するために、生の配列(549646個の解読)を、突然変異型m2及びm17に存在するSNP突然変異の存在に関して探査した。ストリング「m2フォワード」:GGTTTAGTTCAG[配列番号1]及び「m2リバース」:CTGAACTAAACC[配列番号2]、並びに「m17フォワード」:GGTGACCAGATT[配列番号3]及び「m17リバース」:AATCTGGTGACC[配列番号4]に対する100%適合を同定することによって探査を行った。これらのストリングに適合した解読を、座標同定のためにこれらの5’タグの配列に従って分類し、計測した。それから
図5のように計測値を表示した。
【0050】
参考資料
Spelt C, Quattrocchio F, MoI JN, Koes R. (2000) Anthocyanini of petunia encodes a basic helix-loop-helix protein that directly activates transcription of structural anthocyanin genes. Plant Cell 12(9): 1619-32.
Brugliera F, Holton TA, Stevenson TW, Farcy E, Lu CY, Cornish EC. (1994) Isolation and characterization of a cDNA clone corresponding to the Rt locus of Petunia hybrida. Plant J. 5(1):81-92.
Kroon J, Souer E, de Graaff A, Xue Y, MoI J, Koes R. (1994) Cloning and structural analysis of the anthocyanin pigmentation locus Rt of Petunia hybrida: characterization of insertion sequences in two mutant alleles. Plant J. 5(1):69-80.
Furner I. J., Pumfrey J. E. (1992) Cell fate in the shoot apical meristem of Arabidopsis thaliana. Development 115, 755-764
Margulies M, Egholm M, Altman WE, Attiya S, Bader JS, et al. (2005) Genome sequencing in microfabricated high-density picolitre reactors. Nature 437:376-80
【0051】
【表1-1】
【0052】
【表1-2】