特許第5791936号(P5791936)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791936
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】転がり軸受の密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20150917BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   F16C33/78 Z
   F16C19/38
【請求項の数】17
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-82430(P2011-82430)
(22)【出願日】2011年4月4日
(65)【公開番号】特開2012-219817(P2012-219817A)
(43)【公開日】2012年11月12日
【審査請求日】2014年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】清水 康宏
(72)【発明者】
【氏名】小坂 より子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智仁
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 祐基
(72)【発明者】
【氏名】豊田 司
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−000506(JP,U)
【文献】 特開2004−052924(JP,A)
【文献】 特開2008−256160(JP,A)
【文献】 特開2006−207613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体を備えた転がり軸受における、前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置であって、
この密封装置は、
内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定されて前記一方の軌道輪の端部における外径と内径との間に位置する環状のシールケースと、
基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、
前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、
前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設けたことを特徴とする転がり軸受の密封装置。
【請求項2】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体を備えた転がり軸受における、前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置であって、
この密封装置は、
内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定される環状のシールケースと、
基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、
前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、
前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設け、前記環状凹み部を軸受軸心を含む平面で切断して見た断面形状は、前記シールケースの表面に向かうに従って大径となる傾斜状または円弧状とした転がり軸受の密封装置。
【請求項3】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体を備えた転がり軸受における、前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置であって、
この密封装置は、
内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定される環状のシールケースと、
基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、
前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、
前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設け、前記シールケースの前記表面のうち、前記連通孔の端部の外径縁部に丸みを設けた転がり軸受の密封装置。
【請求項4】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体を備えた転がり軸受における、前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置であって、
この密封装置は、
内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定される環状のシールケースと、
基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、
前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、
前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設け、前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記環状凹み部の周囲に、軸受軸方向から見てU字形状の溝を設けた転がり軸受の密封装置。
【請求項5】
請求項4において、前記溝は、外径側に向かうに従って溝断面形状が拡大する溝拡大部を含む転がり軸受の密封装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記シールケースの連通孔に、フィルターを支持して前記連通孔に嵌まり込むフィルター支持部材を設けた転がり軸受の密封装置。
【請求項7】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体を備えた転がり軸受における、前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置であって、
この密封装置は、
内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定される環状のシールケースと、
基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、
前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、
前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設け、
前記シールケースの連通孔に、フィルターを支持して前記連通孔に嵌まり込むフィルター支持部材を設け、前記フィルター支持部材は、ステンレス鋼または樹脂から成る転がり軸受の密封装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、前記シールケースおよびフィルター支持部材には、防錆被膜処理が施されさらに撥水加工が施されている転がり軸受の密封装置。
【請求項9】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体を備えた転がり軸受における、前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置であって、
この密封装置は、
内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定される環状のシールケースと、
基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、
前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、
前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設け、
前記シールケースの連通孔に、フィルターを支持して前記連通孔に嵌まり込むフィルター支持部材を設け、
前記シールケースの連通孔は、底面中央に貫通孔部を有する底部を有する円筒面状であり、前記フィルター支持部材は、中空円筒形状の二個のフィルターケースの軸方向端部を互いに嵌合させたものであり、一方のフィルターケースの端面と、この端面に対向する他方のフィルターケースの端面との間に、前記フィルターの外周部を挟み込んで支持し、
前記二個のフィルターケースのうち、前記底部側に配置される一方のフィルターケースは、フィルターが設けられる側の端面に座繰りを有し、この座繰りは、前記一方のフィルターケースの円筒孔に連通しこの円筒孔よりも大径で、且つ、他方のフィルターケースの円筒孔の径以下とした転がり軸受の密封装置。
【請求項10】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体を備えた転がり軸受における、前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置であって、
この密封装置は、
内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定される環状のシールケースと、
基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、
前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、
前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設け、
前記シールケースの連通孔に、フィルターを支持して前記連通孔に嵌まり込むフィルター支持部材を設け、
前記シールケースには、前記フィルター支持部材を内蔵し前記連通孔を成すユニットを嵌め込み固定する嵌合部が設けられている転がり軸受の密封装置。
【請求項11】
請求項10において、前記ユニットは軸受側から嵌合部に嵌め込まれ、これら嵌合部およびユニットに、前記ユニットのシールケースの外部側への分離を防ぐいんろう部を設けた転がり軸受の密封装置。
【請求項12】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体を備えた転がり軸受における、前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置であって、
この密封装置は、
内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定される環状のシールケースと、
基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、
前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、
前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設け、
前記シールケースの連通孔に、フィルターを支持して前記連通孔に嵌まり込むフィルター支持部材を設け、
前記シールケースのうち、連通孔の軸方向一端部に樹脂またはステンレス鋼から成る中空略円筒形状の嵌合部材が設けられると共に、連通孔の軸方向他端部にフィルター支持部材が嵌め込まれた転がり軸受の密封装置。
【請求項13】
請求項12において、前記嵌合部材は軸受側から連通孔に嵌め込まれ、シールケースにおける連通孔の軸方向一端部に、前記嵌合部材の軸方向位置を規制する位置規制手段を設けた転がり軸受の密封装置。
【請求項14】
請求項13において、前記嵌合部材がゴム系樹脂から成り、この嵌合部材の端面と、この端面に対向するフィルター支持部材の端面との間に、前記フィルターの外周部を挟み込んで支持した転がり軸受の密封装置。
【請求項15】
請求項13において、前記嵌合部材がゴム系樹脂から成り、前記フィルター支持部材は、軸方向に並ぶ複数のリング状部材を支持し、これらリング状部材の端面間、嵌合部材の端面とこの端面に対向するリング状部材の端面との間、前記フィルター支持部材と対向するリング状部材の端面との間に、それぞれフィルターの外周部を挟み込んで支持した転がり軸受の密封装置。
【請求項16】
請求項13ないし請求項15のいずれか1項において、前記嵌合部材は、シールケースに対し、このシールケースの外部側から着脱自在に設けられる転がり軸受の密封装置。
【請求項17】
請求項16において、前記嵌合部材とフィルター支持部材とが一体に設けられた転がり軸受の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受の密封装置に関し、例えば、圧延機ロールネック用軸受等に適用される技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機ロールネック用軸受として、シール付き4列円すいころ軸受が使用される。このシール付き軸受は、軸受の温度変化により軸受内部が負圧となる場合がある。軸受内部が負圧となったときシールリップ部より軸受内部に空気を吸い込む場合がある。このときにシールリップ付近に水分があると、水分を空気と一緒に軸受内部に吸い込んでしまうことがある。軸受内部に水分が浸入することにより、潤滑剤が劣化し、軸受が短寿命となることがある。
【0003】
この対策として、転がり軸受に密封装置を設けたものが提案されている(特許文献1)。この密封装置は、シール部材の芯金における径方向途中部位に円形の孔が形成され、この円形の孔の周面に巻込むように延長された弾性シール部材の周壁に弁機構を取付けたものである。
【0004】
前記弾性シール部材の周壁に弁機構を取付けた密封装置では、シール部材の芯金における径方向途中部位に弁機構が取付けられているため、軸受内部のグリースが弁機構に不所望に流れ込み空気の通路を確保できない場合がある。また、弁機構の弁体を交換しようとすると、シール部材全体を交換しなければならず、メンテナンス費用が高くなる等の問題がある。
【0005】
そこで本件出願人は、図21に示すように、軌道輪の端部に環状のシールケース50を固定し、このシールケース50の周面に軸受空間を密封する環状のシール本体51を設けた密封装置を提案している(特願2010−129951)。前記シールケース50に軸受内外に連通する連通孔52を設け、この連通孔52に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルター53(図22)を設けている。
軸受の温度下降時、図22に示すように、軸受外部から前記フィルター53を通して、軸受内部へ空気を透過させるため、軸受空間の空気収縮を抑えることができる。よって軸受内部が負圧となることを防ぐことができる。前記連通孔52に設けたフィルター53を通して軸受内部へ空気を透過させるとき、連通孔52に設けたフィルター53が水分および油分を遮断するため、水分等が軸受内部に吸い込まれることを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4240197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記密封装置では、次のような問題が生じる場合がある。
(1)軸受外部からの浸入水が、遠心力により軸受外径側へ飛散する。
(2)シール本体51つまりオイルシール部表面上の浸入水が、シールケース50に垂落ちる。
(3)シールケース側通気口50hにおいて、この通気口50hの表面張力および吸引力により、浸入水が滞留する。
(4)フィルター支持部材内におけるフィルター表面に浸入水が滞留すると、一方のフィルターケースの通気口54で発生した錆が、フィルター表面に付着し拡大することに起因してフィルター53が目詰まりを起こす。これにより軸受内部の負圧が拡大する場合がある。
【0008】
図23は、密封装置におけるフィルター近傍の拡大断面図である。例えば、フィルターケース55が鋼製の場合、このフィルターケース55の通気口54の内面で錆を生じ、この通気口54の内面に水滴が浸入すること、および、フィルター表面にて毛細管現象で水膜が広がることで錆が広がる。前記通気口54の水滴の蒸発に伴い、フィルター表面に錆が残りフィルター53が目詰まりを起こし、フィルター53が機能しなくなる。
【0009】
この発明の目的は、密封装置の通気口への水分の浸入防止を図り、密封装置のフィルターに錆が残ることを防止できる転がり軸受の密封装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の転がり軸受の密封装置は、内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体を備えた転がり軸受における、前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置であって、この密封装置は、内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定されて前記一方の軌道輪の端部における外径と内径との間に位置する環状のシールケースと、基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設けたことを特徴とする。
【0011】
一般に軸受の運転時等において軸受の温度が上昇すると、密封された軸受空間に存在する空気が膨張しようとする。この場合、軸受外部よりも軸受内部の圧力が高くなる。逆に、軸受の温度が下降すると、軸受空間に存在する空気が収縮する。これにより、軸受外部よりも軸受内部の圧力が低くなる。つまり軸受内部が負圧となる。
【0012】
この構成によると、軸受の温度上昇時、軸受内部において膨張した空気を、シールケースの連通孔に設けたフィルターを通して軸受外部に透過させるため、軸受内部の圧力上昇を起こさないようにできる。軸受の温度下降時、軸受外部から前記フィルターを通して、軸受内部へ空気を透過させるため、軸受空間の空気収縮を抑えることができる。よって軸受内部が負圧となることを防ぐことができる。
密封装置のシールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設けたため、以下の作用効果を奏する。シールケースの表面に水分が垂落ちた場合、環状凹み部に沿って水分が流れ落ちるため、連通孔内部に水分が入り難くなる。これにより、フィルターに水分が滞留することを未然に防止し、フィルター表面に錆が付着することを防止することができる。したがって、フィルターの目詰まりを防止し、軸受内部が負圧となることをより確実に防止することができる。前記連通孔に設けたフィルターを通して軸受内部へ空気を透過させるとき、連通孔に設けたフィルターが水分および油分を遮断するため、水分等が軸受内部に吸い込まれることを防止できる。したがって、軸受内部に水分が浸入することに起因する潤滑剤の劣化を防止し、軸受の長寿命化を図れる。
【0013】
また、軸受空間を密封するシール本体は、基端がシールケースの周面に固定され、先端が内外輪の他方に接する構成であるため、軸受内部で飛散する潤滑剤はシール本体に遮られる。このようにシールケースとシール本体とを径方向に分離した構造にすることで、シールケースの連通孔に、飛散した潤滑剤が流れ込むことを未然に防止できる。したがって、軸受の温度変化に応じて、空気をフィルターを通して軸受内外へ確実に透過させることができるため、軸受内部の圧力変化を起こさないようにできる。また、シール本体を交換することなく、シールケースからフィルターのみを交換することが可能となるため、メンテナンス費用の低減を図れる。
【0014】
前記環状凹み部を軸受軸心を含む平面で切断して見た断面形状は、前記シールケースの表面に向かうに従って大径となる傾斜状または円弧状としても良い。この場合、環状凹み部内に浸入水が滞留し難くなり、水を傾斜状または円弧状の断面に沿ってスムースに排水し易くできる。
前記シールケースの前記表面のうち、前記連通孔の端部の外径縁部に丸みを設けたものとしても良い。この場合、環状凹み部に垂れ落ちた浸入水が連通孔の端部に掛かっても、水滴が球状化し流れ落ち易くなる。これにより、連通孔内部に水分が浸入することを防止し得る。
【0015】
前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記環状凹み部の周囲に、軸受軸方向から見てU字形状の溝を設けたものとしても良い。この場合、シールケースの表面に垂落ちた水分はU字形状の溝に沿って流れ落ちる。これにより、環状凹み部への浸入水の防止を強化することができる。
前記溝は、外径側に向かうに従って溝断面形状が拡大する溝拡大部を含むものとしても良い。前記溝内に浸入した浸入水は、溝拡大部に円滑に排出され、同溝内に滞留し難くなる。これにより、環状凹み部へ浸入水が垂落ちることをより防止することができる。
【0016】
前記シールケースの連通孔に、フィルターを支持して前記連通孔に嵌まり込むフィルター支持部材を設けたものとしても良い。このようにフィルター支持部材によってフィルターを支持するため、シールケースに対するフィルターの位置決めを容易に行える。
前記シールケースおよびフィルター支持部材には、防錆被膜処理が施されさらに撥水加工が施されているものとしても良い。この場合、シールケースおよびフィルター支持部材の防錆を図り、水分が連通孔内部へ浸入することを防止することができる。
前記フィルター支持部材は、ステンレス鋼または樹脂から成るものとしても良い。この場合、フィルター支持部材に錆が発生することを防止することができる。
【0017】
前記シールケースの連通孔は、底面中央に貫通孔部を有する底部を有する円筒面状であり、前記フィルター支持部材は、中空円筒形状の二個のフィルターケースの軸方向端部を互いに嵌合させたものであり、一方のフィルターケースの端面と、この端面に対向する他方のフィルターケースの端面との間に、前記フィルターの外周部を挟み込んで支持したものとしても良い。このようにフィルターを支持した二個のフィルターケースを含むフィルター支持部材を、連通孔に簡単に嵌め込むことができる。したがって、組立工数の低減を図れ、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0018】
前記二個のフィルターケースのうち、前記底部側に配置される一方のフィルターケースは、フィルターが設けられる側の端面に座繰りを有し、この座繰りは、前記一方のフィルターケースの円筒孔に連通しこの円筒孔よりも大径で、且つ、他方のフィルターケースの円筒孔の径以下としたものとしても良い。フィルターが設けられる側の端面に、前記のような座繰りを設けたため、フィルター表面にて毛細管現象で水膜が生成することを防止し、錆の発生、広がりを防止することができる。
【0019】
前記シールケースには、前記フィルター支持部材を内蔵し前記連通孔を成すユニットを嵌め込み固定する嵌合部が設けられているものとしても良い。この場合、シールケースの嵌合部に、ユニットを着脱自在に設けることが可能となり、フィルターおよびフィルター支持部材の組立、交換性を向上することができる。
前記ユニットは軸受側から嵌合部に嵌め込まれ、これら嵌合部およびユニットに、前記ユニットのシールケースの外部側への分離を防ぐいんろう部を設けたものとしても良い。この場合、シールケースとユニットの嵌め合いは緩み嵌めで良く、ねじ等の螺合手段も不要となる。ユニットは、シールケースの外部側へ分離しないように、いんろう部により軸方向位置が規制される。したがって、シールケースに対するユニットの組立、交換性を向上することができる。
【0020】
前記シールケースのうち、連通孔の軸方向一端部に樹脂またはステンレス鋼から成る中空略円筒形状の嵌合部材が設けられると共に、連通孔の軸方向他端部にフィルター支持部材が嵌め込まれたものとしても良い。嵌合部材を樹脂またはステンレス鋼から成る中空略円筒形状とすることで、この嵌合部材の通気孔での発錆防止を図ることができる。
前記嵌合部材は軸受側から連通孔に嵌め込まれ、シールケースにおける連通孔の軸方向一端部に、前記嵌合部材の軸方向位置を規制する位置規制手段を設けたものとしても良い。嵌合部材を連通孔に嵌め込み、位置規制手段により、シールケースに対する嵌合部材の軸方向位置を容易に規制することができる。これにより、組立工数の低減を図ることができる。
【0021】
前記嵌合部材がゴム系樹脂から成り、この嵌合部材の端面と、この端面に対向するフィルター支持部材の端面との間に、前記フィルターの外周部を挟み込んで支持したものとしても良い。この場合、従来のOリングと蓋部材等を廃止することができ、部品点数の削減とこれに伴う省スペース化を図ることができる。
【0022】
前記嵌合部材がゴム系樹脂から成り、前記フィルター支持部材は、軸方向に並ぶ複数のリング状部材を支持し、これらリング状部材の端面間、嵌合部材の端面とこの端面に対向するリング状部材の端面との間、前記フィルター支持部材と対向するリング状部材の端面との間に、それぞれフィルターの外周部を挟み込んで支持したものであっても良い。このようにフィルターを軸方向に並ぶ多層構造としたため、水分および油分を効果的に遮断することができる。
【0023】
前記嵌合部材は、シールケースに対し、このシールケースの外部側から着脱自在に設けられるものとしても良い。この場合、シールケースに対する嵌合部材の組立、交換性を向上することができる。
前記嵌合部材とフィルター支持部材とが一体に設けられたものとしても良い。この場合、部品点数の低減を図り、密封装置の構造を簡単化することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の転がり軸受の密封装置は、内外輪のいずれか一方の軌道輪の端部に固定されて前記一方の軌道輪の端部における外径と内径との間に位置する環状のシールケースと、基端が前記シールケースの周面に固定され、先端が前記内外輪の他方に接して軸受空間を密封する環状のシール本体とを有し、前記シールケースに軸受内外に連通する連通孔を設け、この連通孔に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルターを設けると共に、前記シールケースのうち、前記連通孔が開口した表面における前記連通孔の周囲に、環状凹み部を設けたため、密封装置の通気口への水分の浸入防止を図り、密封装置のフィルターに錆が残ることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
図2】同転がり軸受の密封装置の断面図である。
図3】同密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図4】同密封装置のシールケースの要部の一側面図である。
図5】(A)は、この発明の他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図、(B)は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図6】(A)は、この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図、(B)は、この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図、(C)は、この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図7】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図8】(A)は、この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図、(B)は、同密封装置を部分的に変更した要部を示す拡大断面図である。
図9】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図10】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図11】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図12】同密封装置の要部の一側面図である。
図13】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図14】同密封装置のシールケースの要部の一側面図である。
図15】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図16】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図17】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図18】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図19】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図20】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図である。
図21】従来例の転がり軸受の密封装置の要部の断面図である。
図22】同密封装置の要部の拡大断面図である。
図23】同密封装置のフィルター近傍の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4と共に説明する。この実施形態に係る転がり軸受は、例えば、圧延機ロールネック用軸受として使用される。この圧延機ロールネック用軸受として、以下の密封装置付きの4列円すいころ軸受が用いられる。
図1に示すように、4列円すいころ軸受は、内輪1,1および外輪2,3,2と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体4と、これら転動体4を円周方向に所定間隔を隔てて各列毎に転動自在に保持する保持器5と、内外輪間の軸受空間を密封する密封装置6,6とを有する。前記転動体4として円すいころが適用される。
【0027】
外輪2,3,2は、軸受軸方向に並べられ、これらの外輪外周面がハウジングHsに嵌合固定される。各外輪2,3,2はいずれも鍔無しの外輪としている。軸方向両側の外輪2,2は、それぞれ単列の軌道面2aを有し、これら軸方向両側の外輪2,2間に設けられる外輪3は、複列(この例では2列)の軌道面3a,3aを有する。軸方向両側の外輪2,2と、軸方向中間の外輪3との間には、間座7,7が設けられている。
【0028】
内輪1,1は、軸受軸方向に並べられ、圧延機のロールネックRnの外周面に嵌合固定される。各内輪1,1は、軸方向中間の中鍔8および軸方向両側の小鍔9,9を有し、小鍔9,9と中鍔8との間に複列(この例では2列)の軌道面1a,1aを有する。各内輪1のうち軸方向外側の軌道面1aと、前記外輪2の単列の軌道面2aとの間に、転動体4が転動自在に設けられる。各内輪1のうち軸方向内側の軌道面1aと、外輪3における複列の軌道面3aの一方との間に、転動体4が転動自在に設けられる。内輪1の内周面には、ロールネックRnの外周面との間に潤滑剤を供給する油溝1bが形成されている。
【0029】
内輪1,1の端面同士を突合せた両端部には、シール部材10が設けられている。内輪1,1の両端部の外周面に環状溝が形成され、この環状溝に、内輪両端部にわたってシール部材10が嵌合固定されている。このシール部材10は、円筒部と立板部とで断面L字形状を成す環状の芯金10aと、この芯金10aの内周面に固定される環状の弾性部材10bとを有する。芯金10aの立板部の側面を、一方の内輪1における、前記環状溝をなす小鍔側面に当接させ、シール部材10の軸方向の位置決めを行っている。前記弾性部材10bは、芯金10aの内周面で弾性変形した状態で前記環状溝に嵌合固定され、軸受内部の潤滑剤が内輪1,1の端面間から軸受外部に漏れるのを防いでいる。
【0030】
密封装置6について説明する。図1に示す軸方向両側の密封装置6,6は、左右対称の同一構造である。よって、図1右側の密封装置6についてのみ説明し、左側の密封装置6の説明を省略する。
図2に示すように、密封装置6は、環状のシールケース11と、環状のシール本体12とを有する。シールケース11には、後述のフィルター16およびフィルター支持部材17が設けられている。
【0031】
前記シールケース11は、この例では外輪2の端部に固定される。外輪2の端部には、シールケース11の外周縁から突出した部分である環状突出部13を嵌合する環状段部2bが形成されている。この環状段部2bは、外輪外周面よりも半径方向内方に小径に形成され、環状段部2bにシールケース11の環状突出部13を嵌合した状態で、シールケース11の外径は外輪外径よりも若干小さくなっている。図3に示すように、シールケース11の外周面には環状溝11aが形成され、この環状溝11aに、ハウジングHsとシールケース11との間をシールするOリング14が嵌め込まれている。
【0032】
前記シールケース11に軸受内外に連通する連通孔15を設け、この連通孔15に、フィルター16を支持して嵌まり込むフィルター支持部材17を設けている。連通孔15は、シールケース11の円周方向1箇所に設けられ、底面中央に貫通孔部18a(通気孔18a)を有する底部18を有する円筒面状である。前記のように外輪2の環状段部2bに、シールケース11の環状突出部13を嵌合して組立てた状態において、前記円筒面状の連通孔15は、外輪2の端面に臨み軸受軸方向に延びる。
【0033】
図3および図4に示すように、シールケース11のうち、連通孔15が開口した表面11bにおける前記連通孔15の周囲に、環状凹み部Khを設けている。すなわち環状凹み部Khは、連通孔15の周囲を例えば機械加工等により円環状に座ぐりを施して成る。この例の環状凹み部Khは、連通孔15と同心に形成される。また、環状凹み部Khを軸受軸心を含む平面で切断して見た断面形状は、任意の円周方向位置で同一の矩形状に形成される。
【0034】
図3に示すように、フィルター支持部材17は、中空円筒形状の二個のフィルターケース19,20の軸方向端部を互いに嵌合させたものである。フィルターケース19,20は、例えば、炭素鋼等の金属を削り加工して製作される。これらフィルターケース19,20の軸方向端部には、いんろう状嵌合部21が設けられ、このいんろう状嵌合部21は、一方のフィルターケース19の軸方向端部の被嵌合部19bと、他方のフィルターケース20の軸方向端部の嵌合部20aとでなる。前記被嵌合部19bに嵌合部20aが締嵌めにより嵌合可能に構成されている。このいんろう状嵌合部21により、二個のフィルターケース19,20が芯合わせされて径方向にがたつくことなく結合可能となっている。
【0035】
図3左側のフィルターケース20のうち、嵌合部20aのない軸方向端部、つまり嵌合部20aとは逆側の軸方向端部には、軸方向から見て一文字状に延びる通気溝SLが気体通路として形成されている。フィルターケース20の前記軸方向端部を、例えば、機械加工することで前記通気溝SLが形成される。連通孔15に、フィルターケース19,20が嵌り込み、外輪2にシールケース11が組立てられた状態で、シールケース11の凹み部23と、通気溝SLとが連通する。図3の例では、通気溝SLの長手方向が軸受直径方向に延びるようにフィルターケース20が配置されているが、通気溝SLはこの方向だけに限定されるものではない。例えば、通気溝SLを軸方向から見て十字または放射状に形成することにより、通気溝の角度にかかわらずシールケース11の凹み部23と通気することができる。この場合、密封装置6の組立工数の低減を図れる。
【0036】
前記二個のフィルターケース19,20を結合させた状態において、一方のフィルターケース19の端面と、この端面に対向する他方のフィルターケース20の端面との間に、フィルター16の外周部を挟み込んで支持している。このフィルター16は、気体を透過可能で水分および油分を遮断するものである。
【0037】
シールケース11の連通孔15の底部18にOリング22を設け、このOリング22の弾性力により、シールケース11の連通孔15の底部と、外輪2の端面との間に、結合した二個のフィルターケース19,20を挟み込んでいる。これらフィルターケース19,20のうち、Oリング22に接するフィルターケース19の接触面19aを、底部18に向かうに従って小径となるテーパー形状としている。このテーパー形状の接触面19aにOリング22が押圧されることで、底部18の外周隅とフィルターケース19の外周面との環状隙間からの浸水を防止し得る。
フィルターケース19の中空孔19hは、フィルターケース20の中空孔20hよりも小径に形成されている。二個のフィルターケース19,20が前記いんろう状嵌合部21により互いに結合されることで、これらフィルターケース19,20の中空孔19h,20hも同心となる。
【0038】
シールケース11には凹み部23が設けられている。この凹み部23は、外輪2の端面との間で、軸受外部から軸受内部に気体を導入可能な気体導入路を構成する。シールケース11の凹み部23は、外輪2の端面に臨む一側面の内周側で環状に凹む環状段差を成し、前記通気溝SLを通して中空孔20hに連通する。シールケース11を外輪2の端部に固定する前の工程において、シールケース11の連通孔15に、Oリング22、フィルター16およびフィルター支持部材17を嵌め込んだ状態では、フィルターケース20の先端が軸方向に所定距離だけ連通孔15から突出している。シールケース11を外輪2の端部に固定した状態では、フィルターケース19のテーパー形状の接触面19aにOリング22が押圧されて弾性変形する。このOリング22の弾性力により、底部18の外周隅とフィルターケース19の外周面との環状隙間からの浸水を防止し得ると共に、シールケース11に対する、二個のフィルターケース19,20およびフィルター16のがたつきを抑え得る。
【0039】
図2に示すように、シールケース11の内周面には、環状のシール本体12が固着されている。シール本体12は、基端がシールケース11の内周面に固定され、先端が内輪1の外周面1cに接して軸受空間を密封する。このシール本体12は、芯金24と、弾性シール25と、コイルばね26とを有する。芯金24は、シールケース11の内周面に固定される円筒部24aと、この円筒部24aの軸方向先端縁部から径方向内方に延びる立板部24bと、この立板部24bの内径側端に繋がり内径側に向かうに従って軸方向内方に傾斜する傾斜部24cと、この傾斜部24cの内径側端に繋がる接続部24dとを有する。接続部24dに、弾性シール25の基部が固着されている。
【0040】
弾性シール25の基部に、主リップ25mと副リップ25sとが軸方向外内に二股に分岐して繋がっている。主リップ25mの外周面にコイルばね26が設けられ、このコイルばね26のばね力により主リップ25mを内輪1の外周面1cに付勢する。これにより軸受内部への異物の侵入防止、および軸受内部の潤滑剤の流出防止を図っている。副リップ25sの先端は、内輪1の外周面1cに非接触で所定の径方向隙間を形成する。主リップ25mと副リップ25sと内輪1の外周面1cとで囲まれた環状空間27に、前記径方向隙間を通って軸受内部の潤滑剤が溜められる。なお前記環状空間27に予め潤滑剤を貯留しておいても良い。環状空間27に溜められる潤滑剤により主リップ25mの摩耗防止が図られる。
【0041】
図2に示すように、シール本体12の円筒部24aの一部には、前記気体導入路と軸受空間とを連通するスリット28を設けている。このスリット28は、円筒部24aにおける外輪2の端面に臨む部分に円周方向1箇所設けている。ただし、スリット28を円周方向2箇所以上設けても良い。また、シールケース11における凹み部23の形成位置によっては、円筒部24aの軸方向中間位置等にスリット28を設けることも可能である。
【0042】
以上説明した転がり軸受の密封装置6によると、軸受の温度上昇時、軸受内部において膨張した空気を、スリット28、凹み部23、通気溝SL、中空孔20h、フィルター16、中空孔19h、通気孔18aを通して軸受外部に透過させる。このため、軸受内部の圧力上昇を起こさないようにできる。軸受の温度下降時、軸受外部から、通気孔18a、中空孔19h、フィルター16、中空孔20h、通気溝SL、凹み部23、スリット28を通して、軸受内部へ空気を透過させる。このため、軸受空間の空気収縮を抑えることができる。よって、軸受内部が負圧となることを防ぐことができる。
【0043】
密封装置6のシールケース11のうち、連通孔15が開口した表面11bにおける前記連通孔15の周囲に、環状凹み部Khを設けたため、以下の作用効果を奏する。シールケース11の表面11bに水分が垂落ちた場合、環状凹み部Khに沿って水分が流れ落ちるため、連通孔内部に水分が入り難くなる。これにより、フィルター16に水分が滞留することを未然に防止し、フィルター表面に錆が付着することを防止することができる。したがって、フィルター16の目詰まりを防止し、軸受内部が負圧となることをより確実に防止することができる。前記連通孔15に設けたフィルター16を通して軸受内部へ空気を透過させるとき、連通孔15に設けたフィルター16が水分および油分を遮断するため、水分等が軸受内部に吸い込まれることを防止できる。したがって、軸受内部に水分が浸入することに起因する潤滑剤の劣化を防止し、軸受の長寿命化を図れる。
【0044】
軸受空間を密封するシール本体12は、基端がシールケース11の内周面に固定され、先端が内輪1の外周面1cに接する構成であるため、軸受内部で飛散する潤滑剤はシール本体12に遮られる。このようにシールケース11とシール本体12とを径方向に分離した構造にすることで、シールケース11の連通孔15に、飛散した潤滑剤が流れ込むことを未然に防止できる。したがって、軸受の温度変化に応じて、空気をフィルター16を通して軸受内外へ確実に透過させることができるため、軸受内部の圧力変化を起こさないようにできる。また、シール本体12を交換することなく、シールケース11からフィルター支持部材17のみを交換することが可能となるため、メンテナンス費用の低減を図れる。
【0045】
フィルター支持部材17は、フィルター16を支持して連通孔15に嵌まり込む構成としたため、シールケース11に対するフィルター16の位置決めを容易に行える。フィルター支持部材17は、中空円筒形状の二個のフィルターケース19,20の軸方向端部を互いに嵌合させたものであり、一方のフィルターケース19の端面と、この端面に対向する他方のフィルターケース20の端面との間に、フィルター16の外周部を挟み込んで支持する。このようにフィルター16を支持した二個のフィルターケース19,20からなるフィルター支持部材17を、連通孔15に簡単に嵌め込むことができる。したがって、組立工数の低減を図れ、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0046】
軸受内部の空気は、気体導入路、およびシールケース11の連通孔15に設けたフィルター16等を通じて軸受外部と通じている。シールケース11の連通孔15を設けた周方向位置のみに、空気導入路を設けても良いが、この場合、例えば、シール本体12のスリット28と空気導入路の周方向位置とを円周方向に位置合わせして組立てる必要がある。
この構成によると、気体導入路を凹み部23としてシールケース11の全周に設けたため、前述の円周方向の位置合わせを行う必要がなくなり、組立工数の低減を図れる。
【0047】
この発明の他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。同一の構成からは同一の作用効果を奏する。
【0048】
シールケース11の環状凹み部Khを軸受軸心を含む平面で切断して見た断面形状は、図5(A)に示すように、シールケース11の表面11bに向かうに従って大径となる円すい状としても良いし、図5(B)に示すように、シールケース11の表面11bに向かうに従って大径となる円弧状としても良い。これら環状凹み部Khについても、第1の実施形態と同様に、連通孔15の周囲を例えば機械加工等により円環状に座ぐりを施して成る。
図5(A),(B)の構成によると、環状凹み部Kh内に浸入水が滞留し難くなり、水を傾斜状または円弧状の断面に沿ってスムースに排水し易くできる。
【0049】
図6(A)に示すように、第1の実施形態に係る断面矩形状の環状凹み部Khを複数(この例では2個)設けても良い。これら環状凹み部Kh,Khは、径方向に所定間隔を空けて同心に形成されている。また、図6(B)に示すように、図5(A)の断面円すい状の環状凹み部Khを複数設けても良いし、図6(C)に示すように、断面円弧状の環状凹み部Khを複数設けても良い。このように環状凹み部Khを複数設けた場合、連通孔15が開口した表面11bを伝って流れる水の量は、連通孔15から径方向に離隔した環状凹み部Khから、連通孔15に向かうに従って次第に減少していく。これにより、連通孔内部に水分が浸入することをより確実に防止し得る。
【0050】
図7に示すように、シールケース11の表面11bのうち、連通孔15の端部の外径縁部に丸み、いわゆる丸面取り11baを設けたものとしても良い。この場合、環状凹み部Khに垂れ落ちた浸入水が連通孔15の端部に掛かっても、水滴が丸面取り11baにて球状化し流れ落ち易くなる。これにより、連通孔内部に水分が浸入することを防止し得る。
【0051】
図8(A)に示すように、二個のフィルターケース19,20のうち、底部側に配置される一方のフィルターケース19は、フィルター16が設けられる側の端面に座繰り19zを有し、この座繰り19zは、前記一方のフィルターケース19の中空孔19h(円筒孔19h)に連通しこの中空孔19hよりも大径で、且つ、他方のフィルターケース20の中空孔20hの径以下としたものであっても良い。座繰り19zと中空孔19hとは、中空孔19h側に向かうに従って小径となるテーパ状の孔19tにより連通している。フィルター16が設けられる側の端面に、前記のような座繰り19zを設けたため、フィルター表面にて毛細管現象で水膜が生成することを防止し、錆の発生、広がりを防止することができる。なお、座繰り19zが中空孔20hの径よりも大径の場合、中空孔20hと座繰り19zとの段差部に水膜が生成するおそれがある。また座繰り19zが中空孔19h以下の小径の場合、中空孔19hからフィルター16に流入する空気の流れを阻害し、軸受内部へ空気を円滑に透過させることができないおそれがある。
【0052】
図8(B)に示すように、前記座繰り19zに代えて、中空孔19h側に向かうに従って小径となるテーパ状の孔19mをフィルターケース19に設け、このテーパ状の孔19mを中空孔19hに連通するようにしても良い。この場合にも、テーパ状の孔19mにより、フィルター表面にて毛細管現象で水膜が生成することを防止し、錆の発生、広がりを防止することができる。
【0053】
図9に示すように、シールケース11には、フィルター支持部材17を内蔵し連通孔15を成すユニット29を嵌め込み固定する嵌合部30が設けられた構成としても良い。このユニット29は、前記嵌合部30に嵌め込まれる円筒部31と、この円筒部31の一端に設けられ軸受外部に臨むフランジ部32とを有する。シールケース11において、嵌合部30にテーパ孔33を介して環状段差部34が設けられている。フランジ部32の根元部と円筒部31との隅部にOリング35が配置され、フランジ部32を前記環状段差部34に当接させることで、Oリング35がテーパ孔33の接触面に押圧され弾性変形する。これにより、シールケース11の嵌合部30とユニット29との間からの浸水を防止し得る。
【0054】
また、嵌合部30に対し、ユニット29の円筒部31を締まり嵌めまたはねじによる螺合により固定している。前記ねじによる螺合の場合、ユニット29のフランジ部32のある一端部に、締め付け用凹部36を円周方向複数箇所設けている。これら締め付け用凹部36に図示外の工具を嵌め込み、この工具を用いてユニット29を回転させて嵌合部30に容易に螺合させることが可能となる。これら複数の締め付け用凹部36を設けた場合、シールケース11の表面に垂落ちた水分が、締め付け用凹部36に沿って流れ落ちるため、連通孔内部にさらに水分が入り難くなる。
この構成によると、例えば、シールケース11を外輪2に固定したまま、シールケース11の嵌合部30に、ユニット29を着脱自在に設けることが可能となり、フィルターお16よびフィルター支持部材17の組立、交換性を向上することができる。
【0055】
図10に示すように、ユニット29Aは軸受側から嵌合部30に嵌め込まれ、これら嵌合部30およびユニット29Aに、前記ユニット29Aのシールケース11の外部側への分離を防ぐいんろう部37を設けた構成としても良い。この場合、ユニット29Aとシールケース11の嵌め合いは緩み嵌めで良く、ねじも不要となるため、シールケース11に対するユニット29Aの組立性を向上することができる。
【0056】
図11は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部を示す拡大断面図であり、図12は同密封装置の要部の一側面図である。シールケース11のうち、連通孔15が開口した表面11bにおける環状凹み部Khの周囲に、軸受軸方向から見てU字形状の溝Umを設けたものとしても良い。この場合、シールケース11の表面11bに垂落ちた水分はU字形状の溝Umに沿って流れ落ちる。これにより、環状凹み部Khへの浸入水の防止を強化することができる。
図14図13の密封装置の要部の一側面図である。図13および図14に示すように、溝Umは、外径側に向かうに従って溝断面形状が拡大する溝拡大部Umaを含むものとしても良い。前記溝Um内に浸入した浸入水は、溝拡大部Umaに円滑に排出され、同溝Um内に滞留し難くなる。これにより、環状凹み部Khへ浸入水が垂落ちることをより防止することができる。
【0057】
図15に示すように、シールケース11のうち、連通孔15の軸方向一端部に樹脂またはステンレス鋼から成る中空略円筒形状の嵌合部材38が設けられると共に、連通孔15の軸方向他端部にフィルター支持部材17が嵌め込まれた構成としても良い。前記嵌合部材38の軸方向一端および他端には、それぞれフランジ部38a,38aが設けられ、嵌合部材38はシールケース11に対し軸方向両側への移動が規制されている。嵌合部材38を樹脂またはステンレス鋼から成る中空略円筒形状とすることで、この嵌合部材38の通気孔18aでの発錆防止を図ることができる。
【0058】
図16の例では、嵌合部材38Aは軸受側から連通孔15に嵌め込まれ、シールケース11の軸方向一端部に、嵌合部材38Aの軸方向位置を規制する位置規制手段39を設けている。具体的には、シールケース11の連通孔15の軸方向一端部に、他の部分よりも小径となる小径部11cを設けている。この小径部11bの段部を位置規制手段39とし、同段部に、嵌合部材38Aのフランジ部38Aaを当接させることで、嵌合部材38Aの軸方向位置を規制している。このため、シールケース11に対する嵌合部材38Aの軸方向位置を容易に規制することができ、これにより、密封装置の組立工数の低減を図ることができる。
【0059】
図17に示すように、嵌合部材38Aがゴム系樹脂から成り、この嵌合部材38Aの端面と、この端面に対向するフィルター支持部材17Aの端面との間に、フィルター16の外周部を挟み込んで支持したものとしても良い。この場合、Oリングと蓋部材等を廃止することができ、部品点数の削減とこれに伴う省スペース化を図ることができる。
【0060】
図18に示すように、嵌合部材38Aがゴム系樹脂から成り、フィルター支持部材17Bは、軸方向に並ぶ複数のリング状部材40を支持し、これらリング状部材40の端面間、嵌合部材38Aの端面とこの端面に対向するリング状部材40の端面との間、前記フィルター支持部材17Bと対向するリング状部材40の端面との間に、それぞれフィルター16の外周部を挟み込んで支持したものであっても良い。このようにフィルター16を軸方向に並ぶ多層構造としたため、水分および油分を効果的に遮断することができる。
【0061】
図19に示すように、嵌合部材38Bを外部側から着脱可能にした構造としても良い。この嵌合部材38Bは、ゴム系樹脂から成るパッキン機能付き通気蓋である。シールケース11の連通孔15の軸方向一端部に、他の部分よりも小径となる小径部40を設けている。この小径部40の段部に、嵌合部材38Bの段面38Baを係合させると共に、嵌合部材38Bのばね収容孔41に収容された圧縮コイルばねからなるばね部材42の付勢力により、前記段面38Baが段部に押圧されている。嵌合部材38Bのばね収容孔41は外部側に開口され、ばね部材42は、ばね収容孔41における底部側の大径孔部に設けられる。嵌合部材38Bは弾性変形されて外部側から連通孔15に嵌め込まれ、この嵌合部材38Bの軸方向一端部が連通孔15の段部に当接される。
【0062】
この当接状態において、嵌合部材38Bのばね収容孔41の大径孔部にばね部材42を設けることにより、嵌合部材38Bの外部側への抜け止めと、シールケース11との密封性を持たせている。この嵌合部材38Bのうち、通気孔18aを成す通気口部分38Bbを外部側へ引っ張ることで、ばね部材42の付勢力に抗してこの嵌合部材38Bをシールケース11から分離し得る。したがって、シールケース11を外輪に固定したまま、嵌合部材38B、フィルター16、およびフィルター支持部材17Aを外部側から組立、および交換することができる。
【0063】
前記嵌合部材38Bとフィルター支持部材17Aとを、図20に示すように一体化した機構としても良い。フィルター16は同機構の軸受側から挿入され、さらにリング状スペーサを連通孔15に挿入することで、フィルター16が固定される。その他図19と同一構成となっている。この場合にもシールケース11を外輪に固定したまま、嵌合部材38B、フィルター16を外部側から組立、および交換することができる。
【0064】
各実施形態において、シールケースおよびフィルター支持部材のいずれか一方または両方には、防錆被膜処理が施されさらに撥水加工が施されていても良い。この場合、防錆被膜処理が施された部材の防錆を図り、水分が連通孔内部へ浸入することを防止することができる。
気体導入路を構成する凹み部23を、シールケースに設けているが、図3の構成に代えて、凹み部23を、外輪の端面に設けても良いし、シールケースおよび外輪の端面の両方に設けても良い。
前記いずれかの密封装置を、単列の円すいころ軸受、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、自動調心ころ軸受に適用することも可能である。また、転がり軸受を、圧延機ロールネック用以外の軸受として使用しても良い。
【符号の説明】
【0065】
1…内輪
2,3…外輪
4…転動体
6…密封装置
11…シールケース
12…シール本体
15…連通孔
17…フィルター支持部材
18…底部
19,20…フィルターケース
29…ユニット
37…いんろう部
38…嵌合部材
39…位置規制手段
Kh…環状凹み部
Um…溝
Uma…溝拡大部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23