(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791941
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】外壁補修工事用安全装置および該装置を使用した外壁補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 5/00 20060101AFI20150917BHJP
E04G 21/32 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
E04G5/00 301C
E04G21/32 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-87963(P2011-87963)
(22)【出願日】2011年4月12日
(65)【公開番号】特開2012-219548(P2012-219548A)
(43)【公開日】2012年11月12日
【審査請求日】2014年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】505116057
【氏名又は名称】株式会社クリーンクロックス
(74)【代理人】
【識別番号】100104330
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】黒川 清
【審査官】
五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3167834(JP,U)
【文献】
特開2006−138116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 5/00
E04G 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の外壁を改修する際に用いられる外壁補修工事用安全装置であって、
一対の板によって形成された本体を備え、
前記各板が、建築物側に位置する建築物側長辺、足場側に位置する足場側長辺、及び該長辺と直交する対向した一対の短辺をもつ細長い矩形形状を有し、前記各板の一方の短辺同士が、蝶番により折り畳み可能に連結されており、
前記各板の上面を被覆するように配置されたシートを更に備え、前記シートが、前記板の上面、前記各板の蝶番で連結されている短辺と反対側の短辺から横方向外方に延びる第1部分、及び前記足場側長辺から手前側に延びる第2部分を有するT形の形状に形成されており、
前記シートで被覆された板の上面の前記建築物側長辺の側に把手が取り付けられていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記各板に、足場側長辺から手前側に延びる複数の部分をそれぞれ設けることにより、前記各部分間に空所が形成されていることを特徴とする請求項1に記載された装置。
【請求項3】
前記シートの前記足場側長辺から手前側に延びる部分に、外壁材の破片を入れるための折り畳み式の破片投入袋が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された装置。
【請求項4】
外壁補修工事を行う建築物の外壁の前面に、建築物の外壁面から足場までの距離がWよりも小さくなるように足場を配置する段階と、
前記請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された外壁補修工事用安全装置を準備する段階と、
外壁材を剥がそうとする高さにおける足場の床部分において、前記板の建築物側長辺が建築物の外壁に接し、足場側長辺が足場床面に接するようにして、前記把手に手をかけて安全装置を建築物の外壁と足場床面との間の空間に配置する段階と、
前記シートの第1部分および第2部分を立てて足場柱材に固定することにより、底面が傾斜し三方が前記第1部分及び第2部分で囲まれた空間を形成する段階と、
を含むことを特徴とする外壁補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、建築物の外壁を改修する際における外壁補修工事に用いる安全装置および外壁補修方法に関する。より詳細には、本発明は、外壁補修工事における作業の手間を軽減し、安全な作業を可能とし、作業時間と作業コストを減少させる外壁補修工事用安全装置および外壁補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古い建築物における外壁補修工事は、一般的に、外壁の周囲に組んだ足場の上に作業者が載って、タイル等の古い外壁材を剥がした後、新しい外壁材を外壁に貼る等して施工することによって行われる。この際、外壁から剥がした古い外壁材は、足場の上に一旦落としておき、その後、清掃することによって処理していたが、このような作業方法では、外壁材を剥がす際に撤去材が誤って地上に落下しないように足場の周囲に安全ネットを張りめぐらさなければならず、作業に手間と時間がかかるとともに、作業コストを増大させる一因ともなる等の種々の不都合がある。
【0003】
このような現状に鑑みて、本発明者は、古い建築物の外壁補修工事における手間を軽減し、作業時間と作業コストを減少させる安全な外壁補修工事用安全シュート及び外壁補修方法を提案した(特許文献1〜4参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3446958号公報
【特許文献2】特許第4360494号公報
【特許文献3】特許第4640949号公報
【特許文献4】特開2008−267020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の外壁補修工事用安全シュートおよび外壁補修方法は、幸いにして好評を博しているが、これらの安全シュート及び補修方法は、足場に設置するのに手間がかかるという不都合があった。そこで、本発明者は、足場に容易に設置することができる外壁補修工事用安全装置および外壁補修方法を新たに開発した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1に記載の外壁補修工事用安全装置は、一対の板によって形成された本体を備え、前記各板が、建築物側に位置する建築物側長辺、足場側に位置する足場側長辺、及び該長辺と直交する
対向した一対の短辺をもつ細長い矩形形状を有し、前記各板の一方の短辺同士が、蝶番により折り畳み可能に連結されており、前記各板の上面を被覆するように配置されたシートを更に備え、前記シートが、前記板の上面、前記各板の蝶番で連結されている短辺と反対側の短辺から横方向外方に延びる第1部分、及び前記足場側長辺から手前側に延びる第2部分を有するT形の形状に形成されており、前記シートで被覆された板の上面の前記建築物側長辺の側に把手が取り付けられていることを特徴とするものである。
【0007】
本願請求項2に記載の外壁補修工事用安全装置は、前記請求項1の装置において、前記各板に、足場側長辺から手前側に延びる複数の部分をそれぞれ設けることにより、前記各部分間に空所が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本願請求項3に記載の外壁補修工事用安全装置は、前記請求項1又は2の装置において、前記シートの前記足場側長辺から手前側に延びる部分に、外壁材の破片を入れるための折り畳み式の破片投入袋が配置されていることを特徴とするものである。
【0009】
本願請求項4に記載の外壁補修方法は、外壁補修工事を行う建築物の外壁の前面に、建築物の外壁面から足場までの距離がWよりも小さくなるように足場を配置する段階と、前記請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された外壁補修工事用安全装置を準備する段階と、外壁材を剥がそうとする高さにおける足場の床部分において、前記板の建築物側長辺が建築物の外壁に接し、足場側長辺が足場床面に接するようにして、前記把手に手をかけて安全装置を建築物の外壁と足場床面との間の空間に配置する段階と、前記シートの第1部分および第2部分を立てて足場柱材に固定することにより、底面が傾斜し三方が前記第1部分及び第2部分で囲まれた空間を形成する段階とを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各板をひらき把手をもって一方の長辺が建築物の外壁に接し、他方の長辺が足場床面に接するようにすればよいので、設置が極めて容易であり、足場の周囲に安全ネットを張りめぐらす従来の方法と比較すると、手間と時間が大幅に削減されるとともに、作業コストを減少させることができる。また、破片投入袋を保有しているので、剥がした撤去材を誤って落下させることなく、安全な作業環境を提供することができる。さらに、本発明の安全装置は、折り畳み可能に形成されているので、持ち運びが容易であり、大きな保管スペースも必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る外壁補修工事用安全装置(以下「安全装置」という)について詳細に説明する。
図1は、安全装置の斜視図、
図2は、安全装置の主要な構成要素を分解して示した斜視図である。
図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る安全装置は、一対の板12、14によって形成された本体を備えている。
【0012】
板12は、対向した一対の長辺12a、12b(長辺12aは、建築物側に位置するため「建築物側長辺」、長辺12bは、足場側に位置するため「足場側長辺」という)及び該長辺12a、12bと直交する対向した一対の短辺12c、12dをもつ細長い矩形形状を有している(長辺間の距離をWとする)。板14も、板12と同様に、対向した一対の長辺14a、14b(長辺14aは、建築物側に位置するため「建築物側長辺」、長辺14bは、足場側に位置するため「足場側長辺」という)及び該長辺14a、14bと直交する対向した一対の短辺14c、14dをもつ細長い矩形形状を有している(長辺間の距離をWとする)。
【0013】
板12と板14は、短辺12dと短辺14dとを蝶番16で連結することによって、折り畳み可能に連結されている。
【0014】
安全装置10はまた、一対の板12、14の上面(
図1および
図2に示される面)を被覆するように配置されたシート20を備えており、シート20は、止め具22によって板12、14に固定されている。シート20は、
図2に最もよく示されるように、板12、14の上面を完全に被覆する他、短辺12c、14cから横方向外方に延びる第1部分20aを有するとともに、足場側長辺12b、14bから(
図2で見て)手前側に延びる第2部分20bを有しており、全体としてT形の形状に形成されている。なお、シート20は、適当な織布又は不織布材料で形成されている。
【0015】
シート20で被覆された板12、14の上面には、建築物側長辺12a、14aの側に把手24が取り付けられている。
【0016】
板12には、足場側長辺12bから(
図2で見て)手前側に延びる部分12e
1 、12e
2 、12e
3 、12e
4 が設けられている。この結果、部分12e
1 と部分12e
2 との間、部分12e
2 と部分12e
3 との間、部分12e
3 と部分12e
4 との間にはそれぞれ、空所が形成されることとなる。板14にも、板12と同様に、足場側長辺14bから(
図2で見て)手前側に延びる部分14e
1 、14e
2 、14e
3 、14e
4 が設けられている。この結果、部分14e
1 と部分14e
2 との間、部分14e
2 と部分14e
3との間、部分14e
3 と部分14e
4 との間にはそれぞれ、空所が形成されることとなる。なお、板12、14と部分12e
1 〜12e
4 、部分14e
1 〜14e
4 は一体のものとして形成するのがよい。
【0017】
板12、14には、足場側長辺12b、14bの側に、付属板18a、18b、18cが蝶番18a1、18b1、18c1によって回動可能に取り付けられている。これにより、必要に応じて、付属板18a、18b、18cを立てたり(
図1参照)、倒したりする(
図4(b)参照)ことができる。
【0018】
シート20の手前側に延びる第2部分20bの下面には、補修工事に際して剥がした外壁材の破片を入れるための破片投入袋20cが配置されている(
図5(a)参照)。破片投入袋20cは、シート20と同様の織布又は不織布材料を用いて、折り畳み可能に形成されている(
図5(c)参照)。
【0019】
シート20の端部には、シート取付具20dが取り付けられている。シート取付具20dは、
図6(c)に示されるように、シート20と同じ材料で形成され、先端に面ファスナが配置された長片部材である。
図6(b)は、シート20が足場柱材や付属板18aに取り付けられている状態を示した図である。
【0020】
板12、14には、安全装置10を持ち運ぶ際に使用する持ち運び用チェーン26がそれぞれ装着されている。また、板12には、折り畳み保持用チェーン28(
図3(a)参照)が装着されており、板12、14を折り畳んだ状態で折り畳み保持用チェーン28の先端を板14に設けられた折り畳み保持用チェーン留め具28a(
図3(b)参照)に引っ掛けることにより、折り畳み状態を保持することができるようになっている。
【0021】
次に、主として
図5〜
図7を参照して、以上のように構成された外壁補修工事用安全装置10の使用について説明する。
図5(a)は、安全装置10において付属板18a〜18cおよびシート20の第1及び第2部分20a〜20cを立てて使用できるようにした状態を示した斜視図、
図5(b)は、
図5(a)の状態を反対側(すなわち、建築物側)から見た斜視図である。また、
図6(a)は、安全装置10を作業個所に設置した状態を示した斜視図、
図7(a)は、
図6(a)の状態の平面図、
図7(b)は、
図6(a)の状態の側面図である。
【0022】
まず最初に、外壁補修工事を行う建築物の外壁の前面に足場を配置する。その際、建築物の外壁面から足場までの距離W
0 (
図7(b)参照)が板12、14の長辺間の距離Wよりも小さくなる(すなわち、W
0 <W)ように、足場を設置する。そして、外壁材(例えば、タイル)を剥がそうとする高さにおける足場の床部分において、建築物側長辺12aが建築物の外壁に接し、足場側長辺12bが足場床面に接するようにして、把手24に手をかけて安全装置10を建築物の外壁と足場床面との間の空間に配置する。すると、上述のように、W
0 <Wであるので、安全装置10は斜めに傾斜した状態になるため、落下することがない。なお、その際、板12、14の足場側長辺12b、14bに設けられた部分12e
1 〜12e
4 、14e
1 〜14e
4 間に形成された空所に足場柱材が位置するように安全装置10を配置すると、安全装置10の横方向の移動が拘束されて安全性が高まる。次いで、付属板18a〜18cおよびシート20の第1、第2部分20a〜20cを立ててシート取付具20dで足場柱材などに固定する(
図6(a)参照)。これにより、底面が傾斜し三方が付属板18a〜18cおよびシート20の第1、第2部分20a〜20cで囲まれた空間が形成されることとなる。このような状態で外壁補修工事を行うと、剥がした外壁材が建築物と外壁との間の隙間から落下するのを防止することができる。そして、外壁材を剥がすと、シート20の下面に設けられた破片投入袋20cに入れることができるので、安全を確保しつつ迅速に補修工事を行うことができる。
【0023】
外壁補修工事が終了すると、シート取付具20dを外し、破片投入袋20cを折り畳む。そして、付属板18a〜18cを倒した後、把手24を持って板12、14を取外して折り畳み、折り畳み保持用チェーン28の先端を折り畳み保持用チェーン留め具28aに引っ掛け、持ち運び用チェーン26を肩にかけ下面用把手24aを持って次の工事箇所に安全装置10を運ぶ。
【0024】
図8(a)は、横方向に連続して延長している足場床板に安全装置10を設置した状態を示した図、
図8(b)は、足場床板がL形になっている箇所に安全装置10を設置した状態を示した図である。板12、14の突出部12e
1 〜12e
4 、14e
1 〜14e
4間の凹所を利用することにより、足場の形態に応じて安全装置10を配置することができる。
【0025】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0026】
例えば、図示されている板12、14の寸法、付属板18a〜18cや突出部12e
1〜12e
4 、14e
1 〜14e
4 の基数および寸法、シート20の形状などは例示的なものであり、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の好ましい実施の形態に係る安全装置の斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、
図1の安全装置の平面図、
図3(b)は、
図1の安全装置の底面図である(図面の明瞭化のため、シートは図示されていない)。
【
図4】
図4(a)は、
図1の安全装置を折り畳んだ状態を示した斜視図、
図4(b)は、付属板が倒された状態を示した安全装置の斜視図である。
【
図5】
図5(a)は、
図1の安全装置においてシートを立ち上げた状態を示した斜視図、
図5(b)は、
図1の安全装置においてシートを立ち上げた状態を示した別の斜視図、
図5(c)は、破片投入袋を示した模式図である。
【
図6】
図6 (a)は、
図1の安全装置の使用状態を示した斜視図、
図6(b)は、
図6 (a)の部分6bの拡大図、
図6(c)は、シート取付具を示した拡大図である。
【
図7】
図7(a)は、
図1の安全装置の使用状態を示した平面図、
図7(b)は、
図1の安全装置の使用状態を示した側面図である。
【
図8】足場の形態に応じて配置された安全装置を示した図である(図面の明瞭化のため、シートは図示されていない)。
【符号の説明】
【0028】
10 外壁補修工事用安全装置
12 板
12a 建築物側長辺
12b 足場側長辺
12c、12d 短辺
12e
1 〜12e
4 突出部
14 板
14a 建築物側長辺
14b 足場側長辺
14c、14d 短辺
14e
1 〜14e
4 突出部
16 蝶番
18a、18b、18c 付属板
18a
1 、18b
1 、18c
1 蝶番
20 シート
20a 横方向外方に延びる第1部分
20b 手前側に延びる第2部分
20c 破片投入袋
20d シート取付具
22 止め具
24 把手
24a 下面用把手
26 持ち運び用チェーン
28 折り畳み保持用チェーン
28a 折り畳み保持用チェーン留め具