(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
求めた個人の免疫傾向または同年齢・同性別の平均からの乖離、および免疫傾向の変化から、癌の発症予測確率または癌の転移予測確率を算出する、請求項1〜3のいずれかに記載の免疫傾向判別・提示システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明の課題は、個人の免疫の傾向やその免疫傾向の変化が癌の発症等と深い相関があるという新しい知見を得たので、それを高い精度や高い定量性をもって算出できるようにした手段を提供することにある。そして究極的には、本発明の目的は、本発明に係る手段によって得られた情報を、疾患、とくに癌の治療や予防の方針、さらには投入すべき薬剤の決定のための有益な情報として役立たせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係る免疫傾向判別・提示システムは、体外に採取した血液の
末梢血単核球(PBMC)に対する抗体反応から、白血球の各成分の構成比を求め、求めた構成比を免疫分析手段に入力し、免疫分析手段において、前記求めた構成比を次の4群((1)〜(4)の4群)に分類し、予め基準データとして免疫分析手段に記録されている多数の健常者の同じ4群の各平均値と比較することにより、その個人の免疫傾向または/および免疫傾向の変化を、自動的に求めて判別・提示することを特徴とするものからなる。
(1)
ヘルパーT細胞(CD4)を含むT細胞(CD3)の合計CD3/4を生後獲得した獲得免疫に関する成分とし、CTL(CD8)を細胞性免疫に関する成分としたときに、CD3/4とCD8の合計構成比率で求められる獲得免疫・細胞性免疫優勢を表す群
(2)B細胞(CD19)を体液性免疫に関する成分としたときに、CD3/4とCD19の合計構成比率で求められる獲得免疫・体液性免疫優勢を表す群
(3)NK細胞(CD3−CD16・CD56+)を生来有している自然免疫に関する成分としたときに、NK細胞とCD8の合計構成比率で求められる自然免疫・細胞性免疫優勢を表す群
(4)NK細胞とCD19の合計構成比率で求められる自然免疫・体液性免疫優勢を表す群
【0005】
本発明は、個人の体から体外に採取された血液中の末梢血単核球(PBMC)に対する抗体反応から、白血球の各種成分の構成比を求め、各血球の構成比から、その個人特有の免疫傾向を調べることができるという知見に基づいている。その傾向は、1−1:自然免疫優勢、1−2:獲得免疫優勢、2−1:細胞性免疫優勢、2−2:体液性免疫優勢の4要素から構成され、個人はそれらの4つの要素の組み合わせから上述の4群(上記(1)〜(4)の4群)に分離される。この4群は、「性別」「年齢別」に「疾患」との関係が異なることから、個人のPBMC検査結果に基づき、(1)健常者が癌疾患にかかる確率、(2)癌罹患者が癌転移する確率を精度高く求めることが可能になる。そして、上記基準データを男女の性別に記録しておく、または/および、上記基準データを年齢別に段階的に記録しておくことにより、求められた個人の免疫傾向または同年齢・同性別の平均からの乖離、および免疫傾向の変化から、癌の発症予測確率または癌の転移予測確率を算出することが可能になる。つまり、求められた結果から、個人別に免疫傾向または/および免疫傾向の変化を、自動的に算出して判別・提示することが可能になる。判別・提示された情報は、個人別に、癌疾患を含む疾患治療手法を決める上で極めて有益な情報となる。一方「単球(CD14)」は癌転移に特異的に機能しており、「単球」の癌転移誘発を制約するものとして、本発明ではB細胞(CD19)に着目し、癌に関する免疫傾向の算出に利用し、求められた結果を、例えば癌の免疫療法の一手段として活用可能な情報として提示する。同時に、従来は個人の免疫傾向が本発明のようには抽出されていなかった為、治験での効果判定は不明確であった薬剤に対しても、本発明は効果的な判定を可能にするものである。
【発明の効果】
【0006】
このように、本発明に係る免疫傾向判別・提示システムによれば、
末梢血単核球(PBMC)に対する抗体反応から白血球の各成分の構成比を求め、求めた構成比を免疫分析手段に入力して特定の4群に分類し、各群について健常者の平均値と比較することにより、その個人の免疫傾向と免疫傾向の変化を自動的に求めて判別・提示することができるようにしたので、免疫傾向と相関の高い癌の発症確率や転移確率を精度良く予測できるようになる。この予測データは、治療や予防の方針、さらには投薬方針を決める上で極めて有益な情報になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】多数の母集団における男女の年齢構成分布図である。
【
図2】表3に示した各指標を使用して行った主成分分析のグラフである。
【
図3】男性の第一主成分と第二主成分の分析のグラフである。
【
図4】女性の第一主成分と第二主成分の分析のグラフである。
【
図5】男性の主成分得点の5歳毎の分析グラフである。
【
図6】女性の主成分得点の5歳毎の分析グラフである。
【
図7】男性の第二主成分と第三主成分の分析のグラフである。
【
図8】女性の第二主成分と第三主成分の分析のグラフである。
【
図9】男性の主成分得点の5歳毎の分析グラフである。
【
図10】女性の主成分得点の5歳毎の分析グラフである。
【
図11】
図5の主成分得点を回転して求めた主成分得点の5歳毎の分析グラフである。
【
図12】
図6の主成分得点を回転して求めた主成分得点の5歳毎の分析グラフである。
【
図13】
図7の主成分得点を回転して求めた主成分得点の5歳毎の分析グラフである。
【
図14】
図8の主成分得点を回転して求めた主成分得点の5歳毎の分析グラフである。
【
図17】サンプル数を増加させた男性の主成分分析グラフである。
【
図18】サンプル数を増加させた女性の主成分分析グラフである。
【
図19】サンプル数を増加させた男性の主成分得点分析グラフである
【
図20】サンプル数を増加させた女性の主成分得点分析グラフである
【
図21】健常者のデータも使用した男性の主成分分析グラフである。
【
図22】健常者のデータも使用した女性の主成分分析グラフである。
【
図23】部位分類を追加した場合の男性の分析グラフである。
【
図24】部位分類を追加した場合の女性の分析グラフである。
【
図29】PBMCパターン分類群とPBMC各要素群の集約例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明に係る免疫傾向判別・提示システムにおいては、まず、体外に採取した血液の
末梢血単核球(PBMC)に対する抗体反応から、白血球の各成分の構成比が求められる。PBMC (Peripheral Blood Mononuclear Cell:末梢血単核球)に対する抗体としては市販されているもの(例えば、表1に掲げたもの)を使用すればよいが、表1に示したものと同等のものでも使用可能である。なお、表1中、メーカー名のBDはベクトン・ディッキンソン社、DAKOはDAKO社を意味している。
【0010】
次に、抗体染色されたPBMCをサイトメトリー(例えばベクトン・ディッキンソン社製サイトメトリー、「BD FACSCalibur HG フローサイトメーター」等)にかけ、血球成分構成比を算出する。その結果、例えば「表2」に示すような白血球の各成分の構成比が求められる。
【0012】
上記のように求められた構成比のうち、本発明では、表3に示す項目の各指標を使用する。
【0014】
多数の母集団における男女の年齢構成分布(
図1)において、表3に示した各指標を使用して、
図2に示すように、主成分分析を行う。
図2に示すように、第一主成分及び第二主成分では、「年齢」と直交する要素として、男女ともに「NK細胞」「CD3/4細胞」が分離される。
【0015】
上記のように求められた各指標を使用し、性別の主成分分析を行うと、主成分負荷量の第一主成分及び第二主成分では、「年齢」と直交する要素として、「NK細胞」「CD3/4細胞」が分離される(男性は
図3、女性は
図4)。
【0016】
上記のように性別の主成分分析を行い、主成分得点の5歳毎の第一主成分及び第二主成分についてみると、「年齢」と直交する要素として、「NK細胞」「CD3/4細胞」が分離される(男性は
図5、女性は
図6)。
【0017】
このように、表3に示された各指標を使用し、
図2に示した性別の主成分分析を行うと、主成分負荷量の第二主成分及び第三主成分では、「NK細胞」「CD3/4細胞」と直交する成分として、 「 CD8(Th1、CTL、細胞性免疫)、CD19(Th2、B細胞、体液性免疫)」が抽出される(男性は
図7、女性は
図8)。
【0018】
このように求められた主成分得点の第二主成分及び第三主成分では、5歳毎の主成分得点が年齢とは無相関な傾向を示す(男性は
図9、女性は
図10)。
【0019】
また、このように求められた、主成分得点の5歳毎の第一主成分及び第二主成分は「年齢」と直交する。これは、「NK細胞」は「自然免疫優勢」として、また「CD3/4細胞」は「獲得免疫優勢」として、生来個人が保有する免疫傾向と解釈される。
【0020】
また、
図5、
図6で求められた主成分は、
図7、
図8で求められた第二主成分及び第三主成分と直交すること、また上記のように求められた主成分得点が年齢とは無相関な傾向であることから、 「 CD8(Th1、CTL、細胞性免疫)、CD19(Th2、B細胞、体液性免疫)」は生来の個人の免疫性向と解釈できる。
【0021】
図5、
図6で求められた主成分得点を、回転することにより「NK優勢」と「CD3/4優勢」を分離し、主成分得点から、「NK優勢」と「CD3/4優勢」の構成比を求める。その結果、「NK優勢」は男性44%、女性45%、「CD3/4優勢」は男性56%、女性55%と求められた(男性は
図11、女性は
図12)。
【0022】
図7、
図8で求められた主成分得点を、回転することにより「CD8優勢」と「CD19優勢」を分離し、主成分得点から、「CD8優勢」と「CD19優勢」の構成比を求める。その結果、「CD8優勢」は男性45%、女性49%、「CD19優勢」は男性55%、女性51%と求められた(男性は
図13、女性は
図14)。
【0023】
図11、
図12で求められた主成分得点から、「NK優勢」と「CD3/4優勢」を分離し、「NK優勢」及び「CD3/4優勢」の変数を追加する。同様に
図11、
図12で求められた「判定NK優勢」と「判定CD3/4優勢」の変数を追加する。
【0024】
図13、
図14で求められた主成分得点から、「CD8優勢」と「CD19優勢」を分離し、「CD8優勢」及び「CD19優勢」の変数を追加する。同様に
図13、
図14で求められた「判定CD8優勢」と「判定CD19優勢」の変数を追加する。
【0025】
このように追加されたデータの主成分分析から、「NK優勢」「CD3/4優勢」「CD8優勢」「CD19優勢」は、「NK・CD8優勢」「NK・CD19優勢」「CD3/4・CD8優勢」「CD3/4・CD19優勢」の4群に分離できる。またその男女構成比は表4の通りである。
【0027】
上記のように追加された群別データから、個人の免疫特性4群の予測モデルを作成し、各群予測値最大のスコアーを所属群と推定する。一方、
図11〜
図14から判定された所属群データと並行して解析を行い、この所属群推定値の精度を求める(男性は
図15、女性は
図16)。この結果、予測モデルが十分使用可能であることが判明した。尚、このモデルはサンプルが増加することにより精度を高めることが出来る(男性は
図17、女性は
図18)。また、主成分得点においても、4群が明確に分離されていることが確認できる(男性は
図19、女性は
図20)。
【0028】
一方、癌罹患者のPBMCデータと、健常者のPBMCデータを使用し、前述と同様の主成分分析、つまり、表3に示された指標を用いた主成分分析を行う。この結果、癌患者においても、健常者と同様の免疫特性が抽出できる(男性は
図21、女性は
図22)。
【0029】
上記の如く、癌罹患者も健常者と同様の免疫傾向が抽出出来たため、前述の如く求められた予測モデルを適応し、癌罹患者の群別予測値を求め、最大値を所属群として、群変数を追加する。また癌転移者については、「転移あり」の変数を追加する。
【0030】
癌罹患者の癌原発部位及び転移先部位について、表5に示すような部位大分類及び表6に示すような部位小分類を変数として追加する。そして、前述と同様の表3に示された指標を用いた主成分分析を行う。この結果、男性と女性とは、癌の部位構造に大きな差異が見られる。男性では「消化器」「呼吸器」部位が主となるに対して、女性では「生殖器」「消化器」を主たる部位となっている(男性は
図23、女性は
図24)。このことは、PBMCから癌に関するモデルを作成する場合、男女間では異なった手順を必要とすることを意味する。
【0033】
上記のような男性の癌罹患者(「転移あり」、「転移なし」区分含む)及び健常者のPBMCを使用して、前述と同様の表3に示された指標を用いた主成分分析を実施する。
図25、
図26に示すように、健常者」及び「癌罹患者」の第一、第二主成分では、「NK優勢」「CD3/4優勢」は同様に抽出され、年齢とは無相関となっている。即ち「NK優勢」「CD3/4優勢」での生来の免疫傾向は健常者、癌罹患者ともに同じパターンを有し、「癌罹患」とは無相関の要因と結論出来る。一方、「転移あり」は、 「NK優勢」「CD3/4優勢」 成分とは直交した、「CD14」の成分と重なる。
【0034】
同様に、上記のような女性の癌罹患者(「転移あり」、「転移なし」区分含む)及び健常者のPBMCを使用して、前述と同様の表3に示された指標を用いた主成分分析を実施する。
図27、
図28に示すように、「健常者」及び「癌罹患者」の第一、第二主成分では、「NK優勢」「CD3/4優勢」は同様に抽出され、年齢とは無相関となっている。即ち「NK優勢」「CD3/4優勢」での生来の免疫傾向は健常者、癌罹患者ともに同じパターンを有し、「癌罹患」とは無相関の要因と結論出来る。一方、「健常者」は「CD3/4CD19優勢」群と「NKCD8優勢群」に分離され、かつ「NKCD8優勢群」は「癌罹患・転移」群に近い関係を有する。即ち、上述の如く男性では「CD14」が転移要因として抽出されるが、女性では「NKCD8優勢」群が「癌罹患・転移」率が高いことを意味する。
【0035】
以上、モデル作成例を示した。PBMCパターン分類群とPBMC各要素群の集約例を
図29に示す。これらの手法は統計的な解析手法として、コンピュータを用いて求められるものであるが、遺伝子工学等で見失いがちなマクロな観点からの疾患把握と対処手法を求めることを特徴としている。
【0036】
ここで、「マクロな観点からの疾患把握と対処手法」とは、疾患は「個人の場での恒常性維持の均衡が崩れた状態」であり、個人個人全て異なっていることを前提としている。即ち、「疾患」は個人の外部に何らかの客観的な状態で記述できるものではなく、「個人」の場の特異な現象として捉える。疾患のプロセス研究は必要であるが、プロセスは全て異なった「個人」の場で発症するのであって、本発明では個人の「場」という特殊性をベースに予測・対処可能にすることを特徴とする。
【0037】
上記のような手法から、個人は生来の免疫傾向を有し、例えば癌であれば4つのパターンから、表7の特徴が示される。即ち「癌に罹患し易い傾向」と「癌発症後の転移し易い傾向」がまずマクロで規定される。そして、本発明では、このマクロ的な規定から次いで細かな予測モデルを構築していくことを特徴とする。
【0039】
また、上記のような手法から、個人は生来の免疫傾向を有し、治療にはマクロ的な個人の免疫傾向のパターンに適した治療方法が効果的であることが分かる。本発明では、生来の免疫パターンに適合した手法で治療を行うための有益な情報を判別・提示できることを特徴とする。
【0040】
また、上記のような手法から、個人は生来の免疫傾向を有し、投薬される薬剤に対して反応が異なることが分かる。従来は何らかの「疾患」という現象を仮定し、「疾患」名に応じた同じ投薬がなされて来た。しかし、個人の恒常性維持の生来の特性に合わせた投薬を行えば効果が高いと期待される。同様に治験も免疫パターン毎に行えば、その効果検証が容易になり、かつ、今まで見過ごされて来た治験の発見につながる。
【0041】
また、上記のような手法から、個人別のPBMCの変化を判別し、予測される疾患(癌を含む)を求め、最も効果的な予防情報を自動的に算出できるとともに、有益な指導情報を提示することが可能になる。
【0042】
さらに、上記のような手法から、「免疫パターンと高い相関を有する疾患」と「免疫パターンに特異ではない一般的な疾患」を区分することもできる。これは生来の免疫パターン特性に依存する疾患が存在することを意味し、罹患し易い疾患予防を事前に自覚することができる。また、治療に対しても、表8に示すような傾向の情報を提示することができ、その傾向に応じた効率的な治療を可能にする。