特許第5791983号(P5791983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5791983樹脂組成物、これを用いたポリイミド金属積層体、及び電子回路用基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791983
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、これを用いたポリイミド金属積層体、及び電子回路用基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20150917BHJP
   C08K 5/5435 20060101ALI20150917BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20150917BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20150917BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C08L79/08 Z
   C08K5/5435
   B32B15/08 P
   B32B27/18 B
   H05K1/03 610N
   H05K1/03 670A
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-150944(P2011-150944)
(22)【出願日】2011年7月7日
(65)【公開番号】特開2013-18806(P2013-18806A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】西浦 克典
(72)【発明者】
【氏名】鳥井田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】高木 斗志彦
(72)【発明者】
【氏名】玉井 正司
(72)【発明者】
【氏名】チャオビン,ハー
(72)【発明者】
【氏名】カイン,イー,ミャー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シャオ
(72)【発明者】
【氏名】シュー,リー
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−322370(JP,A)
【文献】 特開2008−205158(JP,A)
【文献】 特開2008−201978(JP,A)
【文献】 特開2005−105158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 5/00−5/59
B32B 15/00−27/42
H05K 1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させてなる芳香族ポリイミドであって、
前記芳香族ジアミン化合物または前記芳香族テトラカルボン酸二無水物は、芳香環を1つのみ有するか、または単結合で連結している2以上の芳香環を有し、
前記ジアミン化合物と前記テトラカルボン酸二無水物の合計に対する、前記芳香族ジアミン化合物と前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計の割合が70mol%以上であ芳香族ポリイミドと、
(b)シラノール基及びフェニル基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体と
を含んでなる樹脂組成物であり、
誘電正接が、前記(a)芳香族ポリイミドの誘電正接に比べて低い、樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ジアミン化合物が、下記一般式(A−1)で示される化合物であり、
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、下記一般式(B)で示される化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化1】
(一般式(A−1)において、nは1〜3の整数である。)
【化2】
(一般式(B)において、Xはフェニル、ビフェニル、トリフェニルより選ばれる4価の芳香族基である。)
【請求項3】
前記芳香族ジアミン化合物が、p−フェニレンジアミンを含有し、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、ピロメリット酸二無水物を含有し、前記芳香族ジアミン化合物と前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計に対する、p−フェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物の合計の割合が50mol%以上である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ジアミン化合物に含まれる前記芳香族ジアミン化合物以外のジアミン化合物が、その分子内で2以上の芳香環が1以上の原子を介して結合している部位を、少なくとも1以上有する化合物を含み
前記テトラカルボン酸二無水物に含まれる前記芳香族テトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物が、その分子内で2以上の芳香環が1以上の原子を介して結合している部位を、少なくとも1以上有する化合物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
1GHzにおける誘電正接が0.01以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
フィルム状とした際に、空気界面における10点平均粗さ(Rz)が1μm以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
フィルム状とした際に、100〜200℃における熱膨張係数が25ppm/℃以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(b)シラノール基及びフェニル基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体が下記一般式(1−a)で表される化合物である請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【化3】
【請求項9】
難燃剤をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも一方の面上に配置された金属層とを備えたポリイミド金属積層体。
【請求項11】
請求項10に記載のポリイミド金属積層体を備えた電子回路用基板。
【請求項12】
前記絶縁層の厚みが50μm以下のフレキシブル回路基板である請求項11に記載の電子回路用基板。
【請求項13】
(a)芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させてなる芳香族ポリアミド酸であって、
前記芳香族ジアミン化合物または前記芳香族テトラカルボン酸二無水物は、芳香環を1つのみ有するか、または単結合で連結している2以上の芳香環を有し、
前記ジアミン化合物と前記テトラカルボン酸二無水物の合計に対する、前記芳香族ジアミン化合物と前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計の割合が70mol%以上である、芳香族ポリアミド酸と、
(b)シラノール基及びフェニル基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体と、
の混合物を得る工程と、
前記混合物を、前記芳香族ポリアミド酸のイミド化が進行する温度以上に加熱する工程と、を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電正接が低い樹脂組成物、ポリイミド金属積層体、及びそれを用いた電子回路用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミド樹脂は、高い絶縁性を有することから、信頼性が要求される絶縁部材として、回路用基板等の電子機器や電子部品に広く用いられている。また近年、電子機器における電気信号の高周波化に伴い、絶縁部材の低誘電率、低誘電正接化が要求されている。中でも誘電正接は、比誘電率に比べて、伝送特性に対する寄与度が大きく、その低減手法の確立が急がれている。
【0003】
ポリイミド樹脂を低誘電正接化する手法の一つとして、ポリイミド樹脂と誘電正接の低い材料とを複合化する方法が挙げられる。具体的には、極性基を有さないため、その誘電正接が低いポリオレフィン樹脂を、ポリイミド樹脂と複合化することが考えられる。
しかし、極性の高いポリイミドと非極性のポリオレフィン樹脂とは、その極性の差から複合化が容易ではない。複合化した場合には、相分離が生じて樹脂表面の平滑性が低下することや、誘電特性にバラツキが生じることから、電子回路の伝送損失が増大する。そのため、この手法は現実的ではない。
【0004】
また、ポリイミド樹脂を多孔質化し、その空孔によって誘電正接や誘電率を下げる方法が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。しかしながら、ポリイミド樹脂を多孔質化すると、ポリイミド樹脂の機械的強度が著しく低下する。また一般的な製造装置では、ポリイミド樹脂を多孔質化することは難しく、設備投資が必要となる。
【0005】
また近年、ポリイミド樹脂を低誘電率化する手法として、籠状シルセスキオキサン(POSS)をポリイミド樹脂中に導入する手法が、種々の文献で提案されている(例えば非特許文献1〜4)。さらに接着性向上効果等、低誘電率化以外の効果を狙って、ポリイミド樹脂にPOSSを導入することも提案されている(例えば特許文献4、5、及び非特許文献5)。
しかし、これらの方法では、POSSの有するナノ孔により、ポリイミド樹脂単体に比べて比誘電率の低減に成功したとの報告はあるものの、誘電正接の低減に成功したとの報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−201362号公報
【特許文献2】特開2000−154273号公報
【特許文献3】特許第3115215号公報
【特許文献4】特開2002−322370公報
【特許文献5】特開2005−105011公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science, Vol. 99, 2226-2232(2006).
【非特許文献2】Chem. Mater., 2003, 15(11), 2261-2265.
【非特許文献3】Macromolecules 2007, 40, 5698-5705.
【非特許文献4】Materials Chemistry and Physics 112(2008)1040-1046.
【非特許文献5】Acta Materialia 57 (2009) 1112-1119.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリイミド樹脂にPOSSを導入した樹脂組成物の誘電正接が低下しない理由として、以下の2つが考えられる。
まず、ポリイミド樹脂にPOSSを導入することによって、ポリイミド主鎖間のパッキング性が低下するためと考えられる。ポリイミド樹脂にPOSSを導入する方法として、ポリイミド主鎖にPOSS骨格を導入したり、ポリイミド主鎖にPOSS骨格をグラフト化する方法が採用されている。これらの方法によれば、POSSの有するナノ孔がポリイミド樹脂内に導入されるため、その誘電正接が低下すると考えられる。しかしながら、POSSは、立体的な構造をしているため、ポリイミド樹脂内に導入すると、ポリイミド主鎖同士のパッキングを阻害する。したがって、樹脂組成物内で、ポリイミド主鎖の運動性が高まってしまい、誘電正接が増大するため、当該樹脂組成物の誘電正接を低下させることができないと考えられる。
【0009】
また、ポリイミド樹脂にPOSSを導入する際、極性の高い官能基が用いられることも一因と考えられる。ポリイミド樹脂とPOSSとは、その相溶性が低い場合があり、これらの相溶性を高めるため、POSSに極性の高い官能基を導入する手法が多数採用されている。しかし、電場において極性基のような分極部位は回転運動するため、樹脂組成物の誘電正接が増大しやすい。またさらに、極性の高い官能基を樹脂組成物内に導入することで、樹脂組成物全体の吸湿性が増大し、樹脂組成物が吸湿した水の影響で誘電正接が増大すると考えられる。
【0010】
このように、これまでの技術では、機械的強度の著しい低下や、相分離による表面平滑性の低下を生じさせることなく、ポリイミド樹脂の低誘電正接化を図ることは困難であった。また、ポリイミド樹脂にPOSSを導入しても、誘電正接は低下しなかった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、誘電正接が低く、かつ表面平滑性の高い樹脂組成物、及びこれを用いた金属積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定の芳香族ポリイミドと、シラノール基及びフェニル基を有する籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体とを含んでなる樹脂組成物が、誘電正接が低く、かつ表面平滑性の高いポリイミドフィルムを形成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、以下に示す樹脂組成物、ポリイミド金属積層体、及び電子回路用基板が提供される。
【0013】
[1](a)芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させてなる芳香族ポリイミドであって、前記ジアミン化合物と前記テトラカルボン酸二無水物の合計に対する、前記芳香族ジアミン化合物と前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計の割合が70mol%以上であり、前記芳香族ジアミン化合物または前記芳香族テトラカルボン酸二無水物は、その分子内で2以上の芳香環が連結している場合には、前記芳香環どうしが単結合で連結している芳香族ポリイミドと、(b)シラノール基及びフェニル基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体とを含んでなる樹脂組成物であり、誘電正接が、前記(a)芳香族ポリイミドの誘電正接に比べて低い、樹脂組成物。
[2]前記芳香族ジアミン化合物が、下記一般式(A−1)で示される化合物であり、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、下記一般式(B)で示される化合物である、[1]に記載の樹脂組成物。
【化1】
(一般式(A−1)において、nは1〜3の整数である。)
【化2】
(一般式(B)において、Xはフェニル、ビフェニル、トリフェニルより選ばれる4価の芳香族基である。)
[3]前記芳香族ジアミン化合物が、p−フェニレンジアミンを含有し、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、ピロメリット酸二無水物を含有し、前記芳香族ジアミン化合物と前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計に対する、p−フェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物の合計の割合が50mol%以上である[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記ジアミン化合物に含まれる前記芳香族ジアミン化合物以外のジアミン化合物が、その分子内で2以上の芳香環が1以上の原子を介して結合している部位を、少なくとも1以上有する化合物からなり、前記テトラカルボン酸二無水物に含まれる前記芳香族テトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物が、その分子内で2以上の芳香環が1以上の原子を介して結合している部位を、少なくとも1以上有する化合物からなる、[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]1GHzにおける誘電正接が0.01以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]フィルム状とした際に、空気界面における10点平均粗さ(Rz)が1μm以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]フィルム状とした際に、100〜200℃における熱膨張係数が25ppm/℃以下である[1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
[8]前記(b)シラノール基及びフェニル基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体が下記一般式(1−a)で表される化合物である[1]〜[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化3】
[9]難燃剤をさらに含む、[1]〜[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
[10]前記[1]〜[9]のいずれかに記載の樹脂組成物からなる絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも一方の面上に配置された金属層とを備えたポリイミド金属積層体。
[11]前記[10]に記載のポリイミド金属積層体を備えた電子回路用基板。
[12]前記絶縁層の厚みが50μm以下のフレキシブル回路基板である[11]に記載の電子回路用基板。
【発明の効果】
【0016】
本発明の樹脂組成物は、誘電正接が低く、フィルムとした際の表面平滑性が高い。このため、本発明の樹脂組成物を用いれば、誘電特性が高いポリイミド金属積層体が得られ、高周波領域において、伝送損失が少ない電子回路用基板を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
1.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、(a)芳香族ポリイミドと、(b)シラノール基及びフェニル基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体を含んでなる。以下、その詳細について説明する。
【0019】
(a)芳香族ポリイミド
本発明の樹脂組成物に含まれる(a)芳香族ポリイミドは、芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる。
【0020】
(a)芳香族ポリイミドは、その構造からポリイミド主鎖のパッキング性が高い。したがって、立体的な構造を有する後述の(b)籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体を混合するにも関わらず、その誘電正接を低いものとすることができる。
【0021】
また上記芳香族ポリイミドは、2以上の芳香環の間に含まれる、ヘテロ原子等の極性基の量が少なく、分極部位が少ない。このため、樹脂組成物の誘電正接を増大させることが少なく、さらに、樹脂組成物の吸湿性を低く抑えることができるため、吸湿に伴う誘電正接の増大も生じ難い。したがって、本発明の樹脂組成物の誘電正接を非常に低いものとできる。
【0022】
(a)芳香族ポリイミドの調製に用いる芳香族ジアミン化合物としては、芳香環を有するジアミン化合物である。ただし、その分子内で2以上の芳香環が連結している場合には、芳香環どうしが単結合で連結する。また、芳香族ポリイミドのパッキング性の観点から、上記芳香環は置換基を有さないことが好ましい。芳香族ジアミン化合物の例は、下記一般式(A)で表される。
【化4】
上記一般式(A)において、nは1〜3の整数である。
【0023】
このような芳香族ジアミン化合物としては、例えばm−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン;1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン等のビス(アミノフェニル)ベンゼン等が挙げられる。これらの芳香族ジアミン化合物は、一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
上記の中でも、得られる芳香族ポリイミドのパッキング性の観点から、芳香族ジアミン化合物として、下記一般式(A−1)で表される化合物を使用することが好ましい。さらには、p−フェニレンジアミンを使用することが好ましい。
【化5】
上記一般式(A−1)において、nは1〜3の整数である。
【0025】
(a)芳香族ポリイミドの調製に用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物とは、芳香環を有するテトラカルボン酸二無水物である。ただし、分子内で2以上の芳香環が連結している場合には、芳香環どうしが単結合で連結する。また、芳香族ポリイミドのパッキング性の観点から、上記芳香環は置換基を有さないことが好ましい。このような芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば下記一般式(B)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0026】
【化6】
上記一般式(B)において、Xはフェニル、ビフェニル、トリフェニルより選ばれる4価の芳香族基である。
【0027】
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物の例として、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
中でもピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が、得られる芳香族ポリイミドのパッキング性の観点から好ましい。さらには、ピロメリット酸二無水物を用いることが好ましい。
【0029】
前記芳香族ジアミン化合物が、p−フェニレンジアミンを含有し、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、ピロメリット酸二無水物を含有し、前記芳香族ジアミン化合物と前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計に対する、p−フェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物の合計の割合が50mol%以上であること好ましく、60mol%以上がより好ましい。これら化合物は、芳香環を1つのみ有しており、芳香環を複数有する化合物に比べて、構造がフラットでパッキングしやすいため、最も誘電正接が低下する。
【0030】
(a)芳香族ポリイミドの調製に用いるジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物との合計に対する、芳香族ジアミン化合物および芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計の割合は70mol%以上である。ジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の全てが、それぞれ芳香族ジアミン化合物および芳香族テトラカルボン酸二無水物であってもよい。
【0031】
しかしながら、(a)芳香族ポリイミドの柔軟性を得るためには、ジアミン化合物の一部を芳香族ジアミン化合物以外の「他のジアミン化合物」としたり、テトラカルボン酸二無水物の一部を芳香族テトラカルボン酸二無水物以外の「他のテトラカルボン酸二無水物」としたりすることが好ましい。「他のジアミン化合物」および「他のテトラカルボン酸二無水物」の合計は、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物との合計に対して、30mol%以下であることが好ましい。
【0032】
(a)芳香族ポリイミドの調製に用いる他のジアミン化合物の例には、脂環式構造を有するジアミン化合物、または芳香環を有するジアミン化合物が挙げられる。芳香環を有するジアミン化合物としては、例えばその分子内で2以上の芳香環が1以上の原子を介して結合している部位を、1以上含むジアミン化合物が挙げられる。なお、2以上の芳香環を結合する原子は、ヘテロ原子であってもよい。
【0033】
本発明では特に、「他のジアミン化合物」が、芳香環を有するジアミン化合物からなり、「他のジアミン化合物」として脂環式構造を有するジアミン化合物を含有しないことが、ポリイミドのパッキング性の観点等から好ましい。
【0034】
「他のジアミン化合物」の具体例としては、下記のジアミン化合物(上記芳香族ジアミン化合物を除く)が挙げられる。
【0035】
脂環式構造を有するジアミン化合物の例としては、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノメチルシクロヘキサン、1,3-ジアミノメチルシクロヘキサン、1,2-ジアミノメチルシクロヘキサン、1,2-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,3-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン等を挙げることができる。なかでも、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン等のシクロヘキサンジアミンが好ましい。これらの脂環式構造を有するジアミン化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
芳香環を有するジアミン化合物の例としては、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル等のジアミノジフェニルエーテル;3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド等のジアミノジフェニルスルフィド;3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、3,4'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン等のジアミノジフェニルスルホン;3,3'-ジアミノベンゾフェノン等のジアミノベンゾフェノン;3,3'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン等のジアミノジフェニルメタン;
【0037】
2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン等のビス(アミノフェニル)プロパン;2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等のビス(アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン;3,3'-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4'-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホキシド等のジアミノジフェニルスルホキシド;1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン等のビス(アミノフェノキシ)ベンゼン;
【0038】
1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン等のビス(アミノフェニルスルフィド)ベンゼン;1,3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン等のビス(アミノフェニルスルホン)ベンゼン;1,3-ビス(3-アミノベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンジル)ベンゼン等のビス(アミノベンジル)ベンゼン;1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン等のビス(アミノフェノキシベンゾイル)ベンゼン;
【0039】
3,3'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等のビス(アミノフェノキシ)ビフェニル;ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル;ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン;ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド;ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン;
【0040】
ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕メタン;2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン;2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン;
【0041】
9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-エチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-エチル-4-アミノフェニル)フルオレン等のビス(アミノフェニル)フルオレン;9,9-ビス(4-アミノフェニル)-1-メチルフルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)-2-メチルフルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)-3-メチルフルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)-4-メチルフルオレン等のビス(アミノフェニル)メチルフルオレン等を挙げることができる。
【0042】
なかでも、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル及び4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルが、得られるポリイミドの柔軟性等の観点から好ましい。これらの芳香環を有するジアミン化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
(a)芳香族ポリイミドの調製に用いる他のテトラカルボン酸二無水物の例には、脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物、または芳香環を有するテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。芳香環を有するテトラカルボン酸二無水物の例として、その分子内で2以上の芳香環が1以上の原子を介して結合している部位を、1以上含むテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。なお、2以上の芳香環を結合する原子は、ヘテロ原子であってもよい。
【0044】
本発明では特に、「他のテトラカルボン酸二無水物」は芳香環を有するテトラカルボン酸二無水物からなり、「他のテトラカルボン酸二無水物」として脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物を含有しないことが、ポリイミドのパッキング性の観点等から好ましい。
「他のテトラカルボン酸二無水物」の具体例としては、下記のテトラカルボン酸二無水物(上記芳香族テトラカルボン酸二無水物を除く)が挙げられる。
【0045】
他のテトラカルボン酸二無水物としては、芳香環を有するテトラカルボン酸二無水物が好ましく、芳香環を有するテトラカルボン酸二無水物の例としては、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス〔(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物等を挙げることができる。これらの芳香環を有するテトラカルボン酸二無水物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体
本発明の樹脂組成物に含まれる、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体は、シラノール基及びフェニル基を有する。部分開裂構造体とは、籠状のシルセスキオキサンの一部のケイ素(Si)−酸素(O)結合が開裂してできたケイ素化合物である。
【0047】
より具体的には、一般式[XSiO3/2(nは6〜14の整数を示す)で表される籠状のシルセスキオキサンの一部のケイ素(Si)−酸素(O)結合が開裂してできた、一般式[XSiO3/2n−m(O1/2H)2+m(nは6〜14の整数を示し、mは0又は1を示す)で表わされるケイ素化合物である。
【0048】
(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体としては、一般式[XSiO3/2(O1/2H)で表されるトリシラノール体(下記一般式(1))、一般式[XSiO3/2(O1/2H)で表されるトリシラノール体(下記一般式(4))、一般式[XSiO3/211(O1/2H)で表されるトリシラノール体(下記一般式(5))、一般式[XSiO3/2(O1/2H)で表されるジシラノール体(下記一般式(2)及び(3))が更に好ましく、一般式[XSiO3/2(O1/2H)で表されるトリシラノール体(下記一般式(1))が特に好ましい。なお、下記一般式(1)〜(5)中、同一のケイ素原子(Si)に結合している「X」と「OH」は、相互の位置を交換してもよい。これらのシルセスキオキサンの部分開裂構造体は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
【化7】
【0050】
一般式(1)〜(5)中のXは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜20アリール基である。ただし、少なくとも1つ以上のXが、フェニル基である。Xとしてフェニル基を有することにより、上述の(a)芳香族ポリイミドとの相溶性が良好となる。
【0051】
「炭素数1〜20のアルキル基」の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、i-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、i-ヘキシル基、n-ヘプチル基、i-ヘプチル基、n-オクチル基、i-オクチル基、n-ノニル基、i-ノニル基、n-デシル基、i-デシル基、n-ウンデシル基、i-ウンデシル基、n-ドデシル基、i-ドデシル基等を挙げることができる。
【0052】
「炭素数6〜20のシクロアルキル基」の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0053】
「炭素数2〜20のアルケニル基」の具体例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキセニルエチル基、ノルボルネニルエチル基等を挙げることができる。
【0054】
「炭素数7〜20のアラルキル基」の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、2-メチルベンジル基、3-メチルベンジル基、4-メチルベンジル基、2,6-ジメチルベンジル基、2,4-ジメチルベンジル基、2,5-ジメチルベンジル基、2-エチルベンジル基、3-エチルベンジル基、4-エチルベンジル基、2-メチルフェネチル基、3-メチルフェネチル基、4-メチルフェネチル基、2-プロピルベンジル基、3-プロピルベンジル基、4-プロピルベンジル基、2-エチル-6-メチルベンジル基、2-エチル-5-メチルベンジル基、2-エチル-4-メチルベンジル基、6-エチル-2-メチルベンジル基、5-エチル-2-メチルベンジル基、4-エチル-2-メチルベンジル基、2,6-ジメチルフェネチル基、2,5-ジメチルフェネチル基、2,4-ジメチルフェネチル基、2-エチルフェネチル基、3-エチルフェネチル基、4-エチルフェネチル基、2,6-ジエチルベンジル基、2,5-ジエチルベンジル基、2,4-ジエチルベンジル基、2-エチル-6-メチルフェネチル基、2-エチル-5-メチルフェネチル基、2-エチル-4-メチルフェネチル基、6-エチル-2-メチルフェネチル基、5-エチル-2-メチルフェネチル基、4-エチル-2-メチルフェネチル基、2,6-ジエチルフェネチル基、2,5-ジエチルフェネチル基、2,4-ジエチルフェネチル基等を挙げることができる。
【0055】
「炭素数6〜20アリール基」の具体例としては、フェニル基、炭素数1〜14(好ましくは炭素数1〜8)のアルキル基で一置換又は複数置換されたフェニル基等を挙げることができる。
【0056】
一般式(1)〜(5)中のXとしては、エチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、イソブチル基、又はイソオクチル基が好ましく、全てのXがフェニル基であることがより好ましい。
【0057】
また、下記一般式(1−a)に示される、上記一般式(1)の全てのXがフェニル基である化合物が特に好ましい。
【化8】
【0058】
なお、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体は、シラノール基同士の縮合反応により形成される、2量体以上の多量体を使用してもよく、一般式(1)〜(5)で表される単量体と組み合わせて使用してもよい。
【0059】
一般的に、シルセスキオキサン(非開裂構造体)とポリイミドとの複合材料を調製しようとする場合、ポリイミドに対するシルセスキオキサンの分散性が低く、ポリイミド中にシルセスキオキサンを均一に分散させることが困難である。これに対して、本発明において用いる(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体は、上述の(a)芳香族ポリイミド中への分散性が高い。
【0060】
(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体は、上記シルセスキオキサンの一部のケイ素(Si)−酸素(O)共有結合が開裂してなり、その分子構造中にシラノール基を有する。さらに、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体はフェニル基を有する。シラノール基及びフェニル基によって、上述の(a)芳香族ポリイミドに対する分散性が向上するものと推測される。
【0061】
また、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体は、シルセスキオキサンのケイ素(Si)−酸素(O)共有結合の一部のみが開裂した化合物であるため、シルセスキオキサンに特有のナノサイズレベルの空隙が保持されている。このため、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体を含む本発明の樹脂組成物は、誘電正接が低い。また、本発明の樹脂組成物は、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体が比較的均一に分散しているため、表面平滑性が高く、電子回路用基板として使用した場合に伝送損失を低減可能であるといった顕著な効果を示す。
【0062】
本発明の樹脂組成物に含有される(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体の量は、(a)ポリイミド100重量部に対して、10〜300重量部であることが好ましく、30〜200重量部であることが更に好ましい。
【0063】
(c)その他の成分
本発明の樹脂組成物には、(a)芳香族ポリイミド、(b)シルセスキオキサン部分開裂構造体以外に、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、フィラー、難燃剤、熱安定剤、酸化安定剤、及び耐光安定剤等の各種添加剤を挙げることができる。
【0064】
難燃剤の例には、有機ハロゲン系難燃剤;有機ハロゲン系難燃剤と、酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、及び酸化鉄からなる群より選ばれる一種以上との組み合わせ;有機リン系難燃剤とシリコーン化合物との組み合わせ;赤燐等の無機燐;オルガノポリシロキサンと有機金属化合物との組み合わせ;ヒンダードアミン系難燃剤;水酸化マグネシウム、アルミナ、硼酸カルシウム、及び低融点ガラス等の無機系難燃剤等が含まれる。これらの難燃剤は、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
有機ハロゲン系難燃剤の例には、ハロゲン化ビスフェノール化合物、ハロゲン化エポキシ化合物、及びハロゲン化トリアジン化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種類の化合物が含まれる。樹脂の難燃性を効果的に高める点で、有機ハロゲン系難燃剤に含まれるハロゲン原子は、臭素と塩素の少なくとも一方であることが好ましい。このようなハロゲン化ビスフェノール化合物の例には、テトラブロモビスフェノールA、ジブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、ジクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールF、ジブロモビスフェノールF、テトラクロロビスフェノールF、ジクロロビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールS、ジブロモビスフェノールS、テトラクロロビスフェノールS、及びジクロロビスフェノールS等が含まれる。
【0066】
有機リン系難燃剤は、ホスフェート化合物とホスファゼン化合物の少なくとも一方であることが好ましい。ホスフェート化合物の例には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシリルジフェニルホスフェート、トリルジキシリルホスフェート、トリス(ノリルフェニル)ホスフェート、及び(2−エチルヘキシル)ジフェニルホスフェート等のリン酸エステル;レゾルシノールジフェニルホスフェート、及びハイドロキノンジフェニルホスフェート等の水酸基含有リン酸エステル;レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール−Sビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシリルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジトリルホスフェート)、ビフェノール−Aビス(ジキシリルホスフェート)、及びビスフェノール−Sビス(ジキシリルホスフェート)等の縮合リン酸エステル化合物;トリラウリルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、及びトリトリルホスフィンオキシド等のホスフィン又はホスフィンオキシド化合物等が含まれる。
【0067】
ホスファゼン化合物の例には、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-エチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-プロピルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4-ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4−ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4-ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4-ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-メタクリルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、及びトリフェノキシトリス(4-アクリルフェノキシ)シクロトリホスファゼン等が含まれる。
【0068】
熱安定剤や酸化安定剤の例には、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品名「イルガノックス」や商品名「イルガフォス」等が含まれる。耐光安定剤の例には、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品名「TINUVIN」や商品名「CHIMASSORB」等が含まれる。
【0069】
(d)樹脂組成物の物性
本発明の樹脂組成物の誘電正接は、その樹脂組成物中に含まれる(a)芳香族ポリイミドの誘電正接と比較して低い。樹脂組成物の誘電正接が、(a)芳香族ポリイミドの誘電正接より低いとは、樹脂組成物の誘電正接が、(a)芳香族ポリイミドの誘電正接より0.0001以上低いことを意味し、0.0005以上低いことが好ましく、0.001以上低いことがさらに好ましい。
【0070】
誘電正接は、摂動型空洞共振器法により、温度23℃、相対湿度60%、測定周波数1GHzで測定される値(tanδ)である。
【0071】
また、本発明の樹脂組成物の1GHzにおける誘電正接は、0.01以下であることが好ましく、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.007以下である。樹脂組成物の誘電正接を0.01以下とすることにより、本発明の樹脂組成物を絶縁材料として、種々の電子機器や電子部品に用いることが可能となる。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、フィルム状とした場合の100〜200℃における熱膨張係数が25ppm/℃以下であることが好ましく、より好ましくは20ppm/℃以下、さらに好ましくは15ppm/℃以下である。このように、本発明の樹脂組成物からなるフィルム(ポリイミドフィルム)の熱膨張係数は小さいため、例えば銅(熱膨張係数:約17ppm/℃)等の金属からなる金属層と積層体を構成した場合に、熱膨張差に基づく反りや歪みが生じ難く、温度安定性に優れている。なお、樹脂組成物をフィルムとした場合の熱膨張係数の下限値については特に限定されないが、通常は5ppm/℃程度である。上記熱膨張係数は、熱分析装置を使用し、乾燥空気雰囲気下、100〜200℃の範囲で測定される。上記熱膨張係数は、(a)芳香族ポリイミドの骨格や、(a)芳香族ポリイミドと(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体が有する官能基によって調整することができる。
【0073】
本発明の樹脂組成物は、(a)芳香族ポリイミド中に(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体が比較的均一に分散しているため、フィルム状とした際の表面平滑性が高い。具体的には、本発明の樹脂組成物をフィルム状とした際に、このフィルムの空気界面における10点平均粗さ(Rz)を、1μm以下とすることができ、より好ましくは0.5μm以下とする。フィルムとした際の10点平均粗さを1μm以下とすることにより、電気信号の伝送損失の小さい電子回路用基板に適用することができる。
【0074】
フィルムの空気界面における10点平均粗さ(Rz)は、JIS B−0601に規定される方法により測定され、カットオフ値0.20mm、測定長さ2.0mmとし、フィルムの幅方向に向かって測定して得られる値である。
【0075】
(e)樹脂組成物の製造方法
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に制限されないが、例えば、芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とを溶剤中で反応させてポリアミド酸ワニスとする。このポリアミド酸ワニスと、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体と、必要に応じて、その他の成分とを混合して加熱し、ポリアミド酸をポリイミド化することにより得られる。
【0076】
ポリアミド酸を調製する際に反応させる、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とのモル比(仕込み比)は、M1:M2=0.900〜0.999:1.00(M1:テトラカルボン酸二無水物成分のモル数、M2:ジアミン化合物のモル数)とすることが好ましい。これにより、得られるポリアミド酸の主鎖をアミン末端とすることができる。なお、M1:M2は0.92〜0.995:1.00とすることが更に好ましく、0.95〜0.995:1.00とすることが特に好ましく、0.97〜0.995:1.00とすることが特に好ましい。
【0077】
ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを溶媒中で反応させてもよい。溶媒の種類は特に限定されないが、ポリイミド酸やポリアミド酸を調製するために用いるモノマー等を溶解可能な溶媒が好ましく、非プロトン性極性溶媒が更に好ましく、非プロトン性アミド系溶媒が特に好ましい。非プロトン性アミド系溶媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等を挙げることができる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
また、必要に応じて、上記の非プロトン性アミド系溶媒以外の「その他の溶媒」を用いることもできる。「その他の溶媒」の具体例としては、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、o-クロロトルエン、m-クロロトルエン、p-クロロトルエン、o-ブロモトルエン、m-ブロモトルエン、p-ブロモトルエン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等を挙げることができる。
【0079】
ポリアミド酸ワニスに含有される溶媒の量は、樹脂固形分(ポリアミド酸)の濃度が1〜40重量%となる量であることが好ましく、10〜30重量%となる量であることが更に好ましい。
【0080】
また、ポリアミド酸ワニスと、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体と、必要に応じてその他の成分とを混合する方法としては、ポリアミド酸中に(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体を均一に分散させることが可能な方法であれば特に制限はなく、一般的な混練機を用いて混練することができる。
【0081】
ポリアミド酸のポリイミド化方法についても特に制限はない。例えば、上述のポリアミド酸と(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体との混合物をガラス基板等の表面に塗布して薄膜状とした後、加熱して、イミド化(閉環)させるとともに溶媒を除去すること等によって作製することができる。加熱温度は、イミド化が進行する温度以上とすればよいが、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体の融点以上に加熱することが好ましく、具体的には250〜400℃とすることが好ましい。(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体を融点以上に加熱することで、シラノール基同士が反応し、シリカ結合を形成するため、樹脂組成物の誘電正接を低減することができる。
【0082】
またポリアミド酸のイミド化は、通常、大気圧条件下で行えばよいが、加圧条件下でも行ってもよい。また、ポリアミド酸をイミド化させる際の雰囲気は特に制限されないが、通常、空気、窒素、ヘリウム、ネオン、又はアルゴン雰囲気等であり、好ましくは不活性気体の窒素又はアルゴン雰囲気でイミド化させる。
【0083】
本発明の樹脂組成物の形状は特に制限されず、樹脂組成物の用途等に応じて適宜選択され、上述の方法によれば、フィルム状とすることができるがこれに限定されない。フィルム状とすることにより、後述の金属積層体における絶縁層等として用いることが可能となる。
【0084】
2.ポリイミド金属積層体及び電子回路用基板
本発明のポリイミド積層体は、前述の樹脂組成物からなる絶縁層と、この絶縁層の少なくとも一方の面上に配置された金属層(導体層)とを備える。なお、金属層は絶縁層の両面上に配置されていてもよく、複数の絶縁層を備えてもよい。本発明のポリイミド金属積層体は、誘電正接が低く、耐熱性の高い樹脂組成物からなる、表面平滑性の高い絶縁層を備えている。このため、本発明のポリイミド金属積層体は、各種の電子回路用基板、特に高周波回路用基板として好ましく用いられる。
【0085】
金属層を構成する金属の具体例としては、銅、アルミニウム、ニッケル、金、銀、及びステンレス等を挙げることができる。なかでも、導電性が高い等の観点から銅が好ましい。金属層の厚みは特に限定されないが、通常、2〜150μm、好ましくは3〜50μmである。また、絶縁層の厚みについても特に限定されないが、通常、5〜100μm、好ましくは10〜50μmである。
【0086】
本発明のポリイミド金属積層板は、例えば以下に示す(1)〜(3)等の方法によって製造することができる。
(1)前述の樹脂組成物からなるフィルムと、金属箔とを熱圧着する方法
(2)前述の樹脂組成物からなるフィルムの表面上に、金属層をスパッタ、蒸着等により形成する方法
(3)前述のポリアミド酸ワニスと、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体と、必要に応じてその他の成分とを混合した混合物を、金属箔の表面上に塗布した後、加熱してポリアミド酸をイミド化してポリイミドフィルムを形成する方法
【0087】
なお、上記(1)の方法における熱圧着温度は、樹脂組成物に含まれるポリイミドと金属箔との組み合わせにもよるが、ポリイミドのガラス転移温度以上とすることが好ましく、具体的には130〜400℃程度とすることが好ましい。
【0088】
本発明の電子回路用基板は、高耐熱性であるとともに、低誘電率である絶縁層を有する。このため、本発明の電子回路用基板は、高周波回路を有する電子部品、例えば携帯電話機の内蔵アンテナ、自動車の車載レーダのアンテナ、家庭用の高速無線通信等の高周波を用いた種々のアプリケーションに幅広く適用できる。
また特に、絶縁層の厚みを50μm以下とすることにより、フレキシブル回路基板とすることができ、上記各種用途に、広く適用可能である。
【実施例】
【0089】
次に、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
1.使用した各種成分(略称)
(1)ポリアミド酸の構成成分
(1−1)ジアミン化合物
CHDA:トランス1,4−ジアミノシクロヘキサン
mBP :4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル
PDA :p−フェニレンジアミン
ODA :4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
【0091】
(1−2)テトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
【0092】
(2)シルセスキオキサン及びその部分開裂構造体(POSS)
SO1458(ハイブリッドプラスチック社製):下記一般式(1)で表される化合物(X=フェニル基)
SO1450(ハイブリッドプラスチック社製):下記一般式(1)で表される化合物(X=i-ブチル基)
MS0840(ハイブリッドプラスチック社製):一般式[XSiO3/2で表される化合物(X=フェニル基)
【0093】
【化9】
【0094】
(3)溶媒
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
NMP :N−メチル−2−ピロリドン
【0095】
2.ポリアミド酸の調製
(ポリアミド酸Aの調製)
撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、溶媒として261.0gのDMAcを加え、これに20.44gのODAと、16.12gのmBPとをさらに加えて、20〜30℃で撹拌して溶解させた。次いで、30.84gのPMDAを加え、11.0gのDMAcでフラスコ内部に付着した原料を洗い落とし、50〜60℃に加熱し約1時間撹拌を行った。その後、0.44gのPMDAをさらに加えて、60℃に温度を保ちながら約4時間撹拌を行い、ポリアミド酸A1のワニスを得た。
【0096】
一方、別の撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、溶媒として263.0gのNMPを加え、19.62gのPDAを加えて、20〜30℃で撹拌して溶解させた。その後、37.0gのBPDA、11.06gのPMDAをさらに加え、10.0gのNMPにてフラスコ内部に付着した原料を洗い落とし、50〜60℃に加熱し約4時間撹拌を行い、ポリアミド酸A2のワニスを得た。
【0097】
そして、別の撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、前述のポリアミド酸A2のワニスとポリアミド酸A1のワニスとを、(A2):(A1)=93:7の重量比で混合し、50〜60℃に加熱して約4時間撹拌を行い、ポリアミド酸Aのワニスを得た。得られたポリアミド酸Aのワニスは、ポリアミド酸Aの含有率が20重量%であり、25℃でのE型粘度は30000mPa・sであった。ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物の合計に対する、請求項1記載の芳香族ジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計の割合は、97mol%である。
【0098】
(ポリアミド酸Bの調製)
撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、20.55gのPDAと、溶媒としての301gのNMPとを装入し、溶液の温度を50℃に昇温してPDAが溶解するまで撹拌した。溶液の温度を室温まで下げた後、55.34gのBPDAを約30分かけて投入し、129gのNMPをさらに加えて、20時間攪拌してポリアミド酸Bのワニスを得た。ポリアミド酸Bの固形分の含有率が15重量%であり、対数粘度は1.3dl/gであった。ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物の合計に対する、請求項1記載の芳香族ジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計の割合は、100mol%である。
【0099】
(ポリアミド酸Cの調製)
撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、24.03gのODAと、溶媒として139.5gのDMAcを装入し、ODAが溶解するまで撹拌した。次いで、この溶液に、25.78gのPMDAを約30分かけて投入し、さらに103.7gのDMAcを加えて、20時間攪拌してポリアミド酸Cのワニスを得た。ポリアミド酸Cの固形分の含有量が17重量%であり、対数粘度は1.2dl/gであった。ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物の合計に対する、請求項1記載の芳香族ジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計の割合は、49.6mol%である。
【0100】
(ポリアミド酸Dの調製)
撹拌機及び窒素導入管を備えた反応容器中にCHDA(14.84g)を入れ、NMP341gに溶解した後、撹拌しながらBPDAの粉末37.87gを添加して白色の懸濁液を得た。得られた懸濁液をオイルバスにて100℃で12分間激しく撹拌することで、容器中の固形分が溶解し、透明な粘稠液体を得た。反応容器をオイルバスから外した後、NMPを85g添加し、室温で10時間撹拌することにより、ポリアミド酸Dのワニスを得た。ポリアミド酸固形分Dの固形分の含有率は11重量%であり、対数粘度は1.50dl/gであった。ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物の合計に対する、請求項1記載の芳香族ジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計の割合は、49.8mol%である。
【0101】
3.ポリイミドフィルムの作製
(実施例1)
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸Aのワニスと、SO1458とを、ポリアミド酸固形分100重量部に対してSO1458が100重量部となるように投入した。更に、ポリアミド酸組成物の固形分の含有率が20重量%になるように、NMPを400重量部添加した。これらを、混練機を用いて混ぜ合わせることにより、ポリアミド酸組成物を調製した。
調製したポリアミド酸組成物を、ガラス板上に、乾燥膜厚が約30μmとなるようにベーカーアプリケーターで塗布した。塗布膜の温度をイナートオーブンで、窒素雰囲気下、300℃まで2時間かけて昇温し、更に300℃で2時間加熱してイミド化させた。塗膜が形成されたガラス板を約40℃の水に浸漬し、塗膜をガラス板から剥離して厚さ約30μmのポリイミドフィルム(本発明の樹脂組成物からなるフィルム)を得た。
【0102】
(実施例2)
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸Aのワニスと、SO1458及び難燃剤(株式会社 伏見製薬所製 ラビトルFP−300)とを、ポリアミド酸固形分100重量部に対してSO1458及び難燃剤がそれぞれ36重量部、18重量部となるように投入した。更に、ポリアミド酸組成物の固形分の含有率が20重量%になるように、NMPを216重量部添加した。これらを混練機を用いて混ぜ合わせることにより、ポリアミド酸組成物を調製した。これを、実施例1と同様の方法でイミド化してポリイミドフィルム(本発明の樹脂組成物からなるフィルム)を得た。
【0103】
(実施例3)
ポリアミド酸ワニスをポリアミド酸Aからポリアミド酸Bに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム(本発明の樹脂組成物からなるフィルム)を得た。
【0104】
(比較例1)
ポリアミド酸ワニスをポリアミド酸Aからポリアミド酸Cに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0105】
(比較例2)
ポリアミド酸ワニスをポリアミド酸Aからポリアミド酸Dに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0106】
(比較例3)
SO1458を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0107】
(比較例4)
SO1458を添加しなかったこと以外は、実施例3と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0108】
(比較例5)
SO1458を添加しなかったこと以外は、比較例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0109】
(比較例6)
SO1458を添加しなかったこと以外は、比較例2と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0110】
(比較例7)
SO1458をSO1450に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0111】
(比較例8)
SO1458をMS0840に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0112】
4.各種物性値の測定
実施例及び比較例で作製したポリイミドフィルムの熱膨張係数、表面粗さ(10点平均粗さ(Rz))及び誘電正接の測定結果を表1に示す。また、これらの物性値の測定方法を以下に示す。
【0113】
(1)熱膨張係数
熱分析装置(商品名「TMA50シリーズ」、島津製作所社製)を使用し、乾燥空気雰囲気下、100〜200℃の範囲でポリイミドフィルムの熱膨張係数(ppm/K)を測定した。
【0114】
(2)表面粗さ(10点平均粗さ(Rz))
触針式表面形状測定装置(商品名「DEKTAK3」、日本真空技術社製)を使用し、ポリイミドフィルムの10点平均粗さ(Rz)を計測した。測定条件は、測定長2mm、測定速度8mm/分、ハイパスフィルター200μmとした。
【0115】
(3)誘電正接
摂動型空洞共振器法(測定装置:ベクトルネットワークアナライザAnritsu37225C)を用いて、温度23℃、相対湿度60%、測定周波数1GHzにおけるポリイミドフィルムの誘電正接(tanδ)を測定及び算出した。
【0116】
【表1】
【0117】
(a)ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物の合計に対する、上記芳香族ジアミン化合物と上記芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計の割合が、70mol%である芳香族ポリイミドと、(b)シラノール基及びフェニル基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体を含んでなる樹脂組成物である実施例1〜3は、対応する(a)芳香族ポリイミドのみからなるポリイミドフィルム(比較例3及び4)と比較して誘電正接が低く、さらにその絶対値が特に低かった。
【0118】
また、フェニル基の代わりにイソブチル基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体を用いた比較例7や、シラノール基を有さない非開裂の籠状のシルセスキオキサンを用いた比較例8では、同種の(a)芳香族ポリイミドのみからなる実施例3より誘電正接が高くなるという結果が得られた。
【0119】
また、シラノール基及びフェニル基を有する籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体を含む例(実施例1〜3、及び比較例1、2)では、当該シルセスキオキサンを含まない場合(比較例3〜6)と比較して、表面粗さがほぼ変化していないのに対し、イソブチル基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体を用いた比較例7や、シラノール基を有さない非開裂の籠状のシルセスキオキサンを用いた比較例8では、表面粗さが粗くなった。これは、シラノール基及びフェニル基を有する籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体のシラノール基及びフェニル基が、ポリイミドに対して親和性が高いためと考えられる。
【0120】
なお、比較例7及び8のような、表面平滑性が低い樹脂組成物は、誘電特性のバラツキが生じやすく、回路基板として使用する場合、伝送損失増大の原因となる。これに対し、表面平滑性が高く、誘電正接が著しく低い、実施例1〜3の樹脂組成物は、回路基板等に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の樹脂組成物は、誘電正接が低く、表面平滑性が高いため、各種の電子回路用基板、特に高周波回路用基板を構成するための材料として好適である。また、本発明の電子回路用基板は、携帯電話機の内蔵アンテナ、自動車の車載レーダのアンテナ、家庭用の高速無線通信等の高周波を用いた種々のアプリケーションに幅広く適用できる。