特許第5792077号(P5792077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5792077硫黄含有材料と接触した表面の腐食およびスケーリングの抑制
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792077
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】硫黄含有材料と接触した表面の腐食およびスケーリングの抑制
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/00 20060101AFI20150917BHJP
   C23G 5/032 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C23F11/00 B
   C23G5/032
【請求項の数】47
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-554146(P2011-554146)
(86)(22)【出願日】2010年3月10日
(65)【公表番号】特表2012-520396(P2012-520396A)
(43)【公表日】2012年9月6日
(86)【国際出願番号】US2010026815
(87)【国際公開番号】WO2010104944
(87)【国際公開日】20100916
【審査請求日】2013年1月29日
(31)【優先権主張番号】PCT/US09/37112
(32)【優先日】2009年3月13日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510078148
【氏名又は名称】グリーン・ソース・エナジー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】GREEN SOURCE ENERGY LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン,リアン−ツェン
(72)【発明者】
【氏名】シャフィー,モハマド・レザ
(72)【発明者】
【氏名】トラス,ジュリアス・マイケル
(72)【発明者】
【氏名】リー,ウィリアム・アーサー・フィッツヒュー
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特表平07−507834(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/122989(WO,A2)
【文献】 特開昭62−167896(JP,A)
【文献】 特開平10−099911(JP,A)
【文献】 特公昭50−034049(JP,B1)
【文献】 米国特許第01344338(US,A)
【文献】 特表2000−510498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00−11/18,
14/00−17/00
C23G 1/00− 5/06
B08B 1/00− 1/04,
5/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄による腐食もしくはスケーリングを抑制するかまたはスケーリングを表面から除去するための処理方法であって、前記方法は、硫黄含有材料によってもたらされる腐食を抑制するステップと、硫黄含有材料によってもたらされる腐食を低減させるステップと、硫黄含有材料によってもたらされるスケーリングを抑制するステップと、硫黄含有材料によってもたらされるスケーリングを低減させるステップと、硫黄含有材料によってもたらされるスケーリングを除去するステップとからなる群から選択され、ここにおいて前記表面は、金属、コンクリート、プラスチック、天然高分子、木材およびガラスの表面からなる群から選択され、前記方法は、ターペンタイン液を含む組成物と前記硫黄含有材料を接触させるステップ、前記表面を前記組成物と接触させるステップ、またはそれらの組合せを含み、ここにおいて前記ターペンタイン液は、α−テルピネオール、β−テルピネオール、β−ピネン、およびp−シメンを含む、方法。
【請求項2】
前記組成物は、天然ターペンタイン、合成ターペンタイン、ミネラルターペンタイン、パイン油、α−ピネン、γ−テルピネオール、テルペン樹脂、α−テルペン、β−テルペン、γ−テルペン、ゲラニオール、3−カレン、ジペンテン(ρ−メンタ−1,8−ジエン)、ノポール、ピナン、2−ピナンヒドロペルオキシド、テルピンヒドラート、2−ピナノール、ジヒドロミセノール、イソボルネオール、ρ−メンタン−8−オール、α−テルピニルアセタート、シトロネロール、ρ−メンタン−8−イルアセタート、7−ヒドロキシジヒドロシトロネラール、メントール、アネトール、カンフェン、アニスアルデヒド、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、イソボルニルアセタート、オシメン、アロオシメン、アロオシメンアルコール、2−メトキシ−2,6−ジメチル−7,8−エポキシオクタン、ショウノウ、シトラール、7−メトキシジヒドロ−シトロネラール、10−ショウノウスルホン酸、シトロネラール、メントン、およびこれらの混合物、からなる群から選択される少なくともいずれかのターペンタイン液をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物は、0.0005%よりも高い前記ターペンタイン液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物は、0.001%よりも高い前記ターペンタイン液を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物は、0.0015%の前記ターペンタイン液を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物は、0.001%〜0.002%の前記硫黄含有材料の量に相当する量である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記腐食の速度は、前記組成物がない状態で前記硫黄含有材料と接触させた場合、前記表面の腐食と比べて、少なくとも2分の1下げられる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記腐食の速度は、前記組成物がない状態で前記硫黄含有材料と接触させた場合、前記表面の腐食と比べて少なくとも3分の1下げられる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記腐食の速度は、前記組成物がない状態で前記硫黄含有材料と接触させた場合、前記表面の腐食と比べて少なくとも4分の1下げられる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記硫黄含有材料は、硫黄含有液、気体、蒸気、固体およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記硫黄含有材料は、元素硫黄、硫黄酸、硫黄塩、有機硫黄化合物、無機硫黄化合物またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記硫黄含有材料から前記ターペンタイン液を分離するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記硫黄含有材料から分離された前記ターペンタイン液を再利用するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記接触させるステップは、前記組成物を前記表面上の層として施すステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記層は前記表面上に直接施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記表面に直接施された前記層は、別の保護層によって覆われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物は、前記表面上に直接施された保護層上にわたって層として施される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記保護層は絶縁層である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物は、液体、固体、薄膜、凝縮物、エーロゾル化された気体もしくは蒸気、ゲル、またはそれらの組合せとして前記表面に施される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物は塗料または被膜として前記表面に施される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物は、化学気相蒸着、化学溶液析出、スピンオン、エアロゾル堆積、浸漬、陽極酸化、電気泳動堆積、熱蒸着、光蒸着、プラズマ蒸着、スパッタリング、蒸発、分子線蒸着、物理気相蒸着またはそれらの組合せによって施される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記硫黄含有材料は、1ppm〜10,000ppmの前記ターペンタイン液と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記硫黄含有材料は、10ppm〜1,000ppmの前記ターペンタイン液と接触させられる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記硫黄含有材料は、50ppm〜500ppmの前記ターペンタイン液と接触させられる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ターペンタイン液と前記硫黄含有材料との比は1:10〜10:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記ターペンタイン液と前記硫黄含有材料との比は1:1以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記比は3:1〜5:1である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記硫黄含有材料は炭化水素含有材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記硫黄含有材料は非炭化水素含有材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
必要時に表面からスケールを除去する方法であって、
a)前記表面からスケールを機械的に除去するステップと、
b)有効量のスケール除去ターペンタイン液を含む組成物と前記表面を接触させるステップとを含み、
ここにおいて前記表面は、金属、コンクリート、プラスチック、天然高分子、木材およびガラスの表面からなる群から選択され、前記スケール除去ターペンタイン液は、α−テルピネオール、β−テルピネオール、β−ピネン、およびp−シメンを含む、方法。
【請求項31】
腐食性表面の腐食を抑制する方法であって、前記表面は、硫黄含有材料との反応によってもたらされる腐食を被りやすく、前記方法は、ターペンタイン液を含む組成物と前記硫黄含有材料を接触させるステップ、前記表面を前記組成物と接触させるステップまたはそれらの組合せを含み、ここにおいて前記表面は、金属、コンクリート、プラスチック、天然高分子、木材およびガラスの表面からなる群から選択され、前記スケール除去ターペンタイン液は、α−テルピネオール、β−テルピネオール、β−ピネン、およびp−シメンを含む、方法。
【請求項32】
前記腐食は、ピッチング腐食、全体的または均一な腐食、クリープ腐食、応力腐食、ふくれ、気相腐食、隙間腐食、溶接腐食、および微生物による腐食からなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記接触させるステップは、硫黄含有材料と前記表面との反応前または反応中に行なわれる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
スケールが表面上に蓄積することを抑制するかまたは低減させる方法であって、前記表面は、硫黄含有材料との接触によってもたらされるスケールの蓄積を被りやすく、前記方法は、ターペンタイン液を含む組成物で前記硫黄含有材料を処理するステップ、前記表面を前記組成物と接触させるステップ、または、それらの組合せを含み、前記スケール除去ターペンタイン液は、α−テルピネオール、β−テルピネオール、β−ピネン、およびp−シメンを含む、方法。
【請求項35】
前記表面からスケールを機械的に除去するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記硫黄含有材料は、1ppm〜10,000ppmの前記ターペンタイン液と接触させられる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記硫黄含有材料は、10ppm〜1,000ppmの前記ターペンタイン液と接触させられる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記硫黄含有材料は、50ppm〜500ppmの前記ターペンタイン液と接触させられる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ターペンタイン液と前記硫黄含有材料との比は1:10〜10:1である、請求項34に記載の方法。
【請求項40】
前記ターペンタイン液と前記硫黄含有材料との比は1:1以上である、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
前記比は3:1〜5:1である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記表面への硫黄の付着を低減させるステップを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項43】
前記硫黄含有材料における硫黄の集塊を低減させるステップを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記硫黄含有材料は非炭化水素含有材料である、請求項34に記載の方法。
【請求項45】
前記硫黄含有材料は炭化水素含有材料である、請求項34に記載の方法。
【請求項46】
表面上の腐食もしくはスケーリングを抑制するかもしくは低減させるか、または表面からスケーリングを除去するための組成物であって、本質的に、有効量のα−テルピネオール、β−テルピネオール、β−ピネンおよびp−シメンの組合せからなり、前記表面は、金属、コンクリート、プラスチック、天然高分子、木材およびガラスの表面からなる群から選択される、組成物。
【請求項47】
硫黄による腐食またはスケーリングを抑制するか、低減させるか、または表面から除去するための処理方法であって、前記表面はスケーリングを被りやすいか、または、前記表面は、硫黄含有材料との接触によってもたらされる腐食を被りやすく、前記方法は、
a)ターペンタイン液を含む組成物と前記硫黄含有材料を接触させるステップを含み、前記ターペンタイン液は、10%未満の酸を含むか、実質的に水、硫黄化合物、硫黄酸および/もしくは硫黄塩を含まず、
前記方法はさらに、
b)前記表面を前記組成物と接触させるステップ、または、
c)ステップa)とステップb)との組合せであるステップ、を含み、
ここにおいて前記表面は、金属、コンクリート、プラスチック、天然高分子、木材およびガラスの表面からなる群から選択され、前記ターペンタイン液は、α−テルピネオール、β−テルピネオール、β−ピネンおよびp−シメンを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、硫黄含有材料と接触した表面上の腐食およびスケーリングを抑制し、低減させ、防止し、かつ除去する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
水または水溶液がある状態で元素硫黄が金属と積極的に反応することは実験研究および実地試験から公知である。元素硫黄によって引起こされる金属に対する加速作用により、結果として、ピッチング、応力亀裂および質量損失腐食が起こる。米国における腐食防止戦略(Corrosion Costs and Preventive Strategies)と題された連邦道路管理局(Federal Highway Administration)の研究によれば、1998年における米国での腐食にかかる推定される年間の直接費用の合計は、約2760億ドル(米国の国内総生産の約3.1%に相当)であった。
【0003】
元素硫黄は強い酸化剤であり、ぬれた鋼表面に付着すると腐食を引起こす。元素硫黄は、酸素がHSと混ざると発生し得るか、または自然に生成され得る。元素硫黄によって引起こされる腐食を有効に防ぐ保護する抑制剤は、あったとしても、ほとんど市販されていない。
【0004】
電子製品上でSnPb HASL(錫−鉛アンチホットエア・レベラー処理(Stannum Lead AntiHot Air Solder Leveling)を用いず、より多くのImAg(侵食銀)による表面仕上げを用いる傾向により、結果として、これらの電子製品が高湿度の高硫黄環境に晒されたときに腐食損傷が起こった。結果として生じるクリープ腐食成分は、主としてCuSである。このCuSは、半田マスクの端縁の下方にある銅のガルバニック駆動作用(galvanic driven attack)によって生じる。電子機器製造業者は、開発途上国において、タイヤ燃焼工場、製紙工場、肥料工場および汚染地域における硫黄腐食のせいで製品の信頼性問題に直面しているか、またはまもなく直面することになるだろう。この新しい予想外の障害のメカニズムは、上述の用途において製品に障害が生じないことを確実にするよう制限することのできる管理されたプロセスを必要とする。
【0005】
腐食に対処する従来の方法には、保護有機被膜、セメント、犠牲陽極、さまざまな抑制剤の陰極保護、および腐食されやすい表面のための耐食性金属による噴霧塗装が含まれていた。これらの方法は、腐食速度を低下させるのにさまざまに有効であったが、費用および安全性が一定ではないという問題もあった。たとえば、イミダゾリンベースの抑制剤は、元素硫黄によって引起こされる局所的な作用の加速を制御するには効果がないことが証明されているが、クロム酸塩およびヒドラジンは、発癌性があるものの腐食を抑制するには有効である。
【0006】
固体、半固体、液体または蒸気の状態である硫黄含有材料と接触する腐食性表面上の腐食を抑制することは極めて困難であることが判明した。この困難さは、一部には、これらの材料が、元素硫黄、硫黄化合物、ならびに塩、酸および腐食性ガスなどの他の腐食性要素を含有しており、これらが腐食性表面と接触すると電子が放出され、これらの電子自体が、電気化学反応時に正電荷のイオンになってしまうことに起因している可能性がある。この反応が局所的に集中すると、孔または亀裂が形成されるが、この反応はまた、広範囲にわたって広がって全体的な腐食をもたらす可能性がある。
【0007】
化学由来物および生物由来物は、腐食を誘引する硫黄の反応に関与していると考えられている。化学由来物からの硫黄の生成は、酸化還元電位およびpHによって左右されるが、硫黄細菌などの細菌は、生物由来物から硫黄を形成することに関与している。
【0008】
特に水性環境においては表面に微生物が付着し、その上に膜を形成して腐食に影響を及ぼすことが広く認識されている。硫黄による腐食を引起こす微生物は、Halothiobacillus neapolitanus、Thiobacillus ferroxidans Acidothiobacillus thiooxidans、Ferrobacillus ferrooxidans、Thiobacillus thiooxidans、Thiobacillus thioparus、Thiobacillus concretivorus、DesulfovibrioおよびDesulfotomaculum、Sphaerotilus、Gallionella、Leptothrix、Crenothrix、ClonothrixおよびSiderocapsaを含む。微生物は、表面における電気化学条件を変化させ、これにより局所的な腐食を引起こし、全体的な腐食の速度を変化させる可能性がある。いくつかの微生物は硫酸塩を減らし、硫化水素を生成させるかまたはHSガスを酸化させて固形の硫黄を生じさせる。これは腐食に繋がる可能性がある。いくつかの細菌は、表面上に酸および他の腐食性化合物を作り出し、これがさらなる腐食につながる。微生物による腐食は、金属表面に加えて、プラスチック、コンクリートおよび他の多くの材料にも起こり得る。硫黄細菌を抑制するために界面活性剤を使用する場合、それがより長期間にわたる場合には効果的でないことが判明した。というのも、使用して1年以内に点検整備が必要となるからである(KudoおよびYuno、世界地熱会議議事録(Proceedings World Geothermal Congress);2000年)。
【0009】
硫黄または硫黄化合物によって引起こされるかまたはパイプの内面に付着する腐食生成物からもたらされるスケールが形成されると、熱を伝える能力が低下したり、流体を流動させるための圧力がさらに低下したりする。また、液体中、たとえば水中にカルシウムおよびマグネシウムのイオンなどの他の不純物が存在する場合、スケールまたは多量の沈殿物が形成され、これにより表面が汚れてしまう。スケールは水経路に沿って表面に付着する沈殿物の集まりである。不浸透性のスケールが蓄積してできた固体層は、ときに、流れを完全に遮断するパイプおよびチューブに裏張りされ得る(line)。金属硫酸塩、たとえば硫酸バリウムおよび硫酸カルシウムは、最も残留性の高いスケールを形成する。これにより、パイプ、ボイラー、精製設備、製造配管、タンク、バルブなどの金属壁からの機械的な除去のために、しばしば運転を停止させなければならなくなる。ボイラーにおいては、スケールは、結果として、伝熱の低下、燃料使用量の増加、パイプの詰まりおよび局所的な過熱をもたらし、これによってボイラーが破損する可能性がある。生産工程においては、スケールの蓄積により出力が低下し、ポンプ、タービンおよびプロペラならびにエンジンに圧力がかかってしまい、最終的にスケール除去のためにシステム停止が必要となる。このように、直接的な除去費用に加えて、設備が損傷し、効率が低下し、製造が遅延してしまうという点で、スケーリングの間接的な費用が膨大になってしまう。このため、スケーリングを可能な限り防止するかまたは低減させることが好ましい。
【0010】
スケールを抑制するか低減させるかまたは除去するための試みの第1のアプローチとして、しばしば、化学的処理が行なわれる。これは、従来の機械的方法が効果的でない場合、または展開させるのに費用がかかる場合にはより有利になる。従来の化学的技術では、アルカリ塩、酸、抑制剤、たとえば燐酸塩化合物、キレート溶液および分散剤と基板とを接触させる。このような方法では効果がないことが多く、ときには危険であるかまたは非実用的となる傾向がある。しばしば、スケールが十分に除去もしくは抑制されないか、または、処理を必要とするシステムと化学物質との適合性がない。塩酸は多くの場合スケール処理のための第1の選択肢であるが、酸性反応により生成される副生物が、スケール沈殿物を再形成するための優れた開始剤となる。さらに、酸のスケール除去の際に、システムを停止させ、排水し、酸洗浄し、すすぎ、廃水して引上げなければならない。エチレンジアミン四酢酸(EDTA:Ethylenediamenetetraacetic acid)といったキレート化剤も、一般に、化学量論的に金属イオンを封鎖するのに用いられる。しかしながら、EDTAは塩酸よりもゆっくりとしているため、スケールの形成を防ぐためには化学量論的処理を有意に集中させる必要がある。化学的処理に不利点があるため、スケーリングを除去するかまたは減らすためにこの化学的処理を用いずに機械的技術を優先させるか、またはこの化学的処理を機械的技術と組合せてきた。
【0011】
スケール除去のための初期の機械的技術は、振動させてスケールを剥がすための爆発物を含んでいたが、これでは基板が破損してしまうことが多く、スケールが効果的に除去されなかった。最近の機械的技術は、ショットブラスト、吹付け加工、水噴射、加圧エアブラスト、研削、ミリング、インパクト鍜造および衝撃波を含む。これらの工具は、スケーリングを被った基板表面に十分に接近させる必要があり、露出した壁のスケールを完全に除去するのにあまり効果的ではない。表面上の残留するスケールによって新しいスケールの成長が促進され、スケール抑制処理がより困難になってしまう。さらに、このような方法、特に研磨剤は基板表面を傷つける可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の技術では、スケールおよび腐食が安全かつに効果的に防止、低減または除去されなかった。硫黄および他の腐食分子の堆積を防止することによって、ならびに/または腐食性表面から硫黄および他の腐食分子を除去することによって腐食性表面の腐食を抑制する方法および組成物が必要とされる。基板および環境に対して損害を及ぼさず、より効果的で迅速なスケール防止、スケール低減およびスケール除去技術も必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
この発明の一実施態様に従うと、この発明は、腐食性表面または材料の腐食の速度を低下させるかまたは腐食を抑制するための組成物および方法を提供する。硫黄含有材料と接触する表面、たとえば、変圧器、パイプ、タンク、ポンプ、配水システム、廃水および下水の分配および処理設備、電子機器、半導体、木材、パルプ、製紙工場、油田電子機器、煙道ガススタック、導体および伝送線、選鉱、湿式製錬作業、金属抽出工程、ならびに金属浄化作業では、腐食および/またはスケーリングを引起こす傾向がある。このような表面が被る腐食およびスケーリングを低減させることによって、コストが大幅に削減される。
【0014】
この発明においては、腐食が起こるのを減らすか、防止するかまたは抑制するのに、ターペンタイン液を含有する組成物が用いられる。一実施態様においては、腐食性材料が本発明の組成物で処理される。別の実施態様においては、組成物が、腐食性表面と接触する硫黄含有材料に加えられる。さらに別の実施態様においては、腐食性材料が組成物で処理され、この組成物が硫黄含有材料に加えられ、腐食性表面と接触してさらなる保護をもたらす。この発明は、硫黄および硫黄化合物に対するターペンタイン液の非常に強い物理化学的親和性を利用する。
【0015】
別の実施態様においては、この発明の方法によってスケール除去、スケール抑制、汚染抑制および/または汚染低減が達成される。ターペンタイン液を含む組成物を用いて、スケーリングを低減させ、抑制し、および/または表面から除去する。スケールの付着した表面もしくはスケールの付着しやすい如何なる表面も組成物で処理され、および/または、スケールの付着した表面もしくはスケールの付着しやすい表面と接触する材料にこの組成物が加えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】腐食試験のための複合的な隙間アセンブリの詳細を示す図であり、図1Aは、搭載されたテストクーポンを示し、図1Bは隙間ワッシャの拡大図を示す。
図2】基準試験から得られたテストクーポン01および02を示す図であり、図2Aは、化学的に洗浄された後のクーポンであり、図2Bは、基準溶液から取出されたクーポンである。
図3】基準テストクーポンの隙間作用を65倍に拡大した図であり、図3Aはテストクーポン02の正面を示し、図3Bはテストクーポン02の後部を示す。
図4】抑制剤テストクーポンの隙間作用を65倍に拡大した図であり、図4Aは抑制剤IIで処理されたテストクーポンの正面および後部を示し、図4Bは、抑制剤Iで処理されたテストクーポンの正面および後部を示し、図4Cは、抑制剤IIIで処理されたテストクーポンの正面および後部を示す。
図5】テストからの除去後(図5A)および洗浄後(図5B)の14日目の基準クーポンを示し、図5Cは、試験後14日目の、ピッチングを呈する基準クーポンを10倍に拡大して示し、図5Dは、試験後14日目の、(円で囲まれた)エッジの作用を示す基準クーポンを10倍に拡大して示す図である。
図6】テストからの除去後(図6A)および洗浄後(図6B)の14日目の抑制剤Iのクーポンを示す図であり、図6Cおよび図6Dは、試験後14日目の、初期のピッチングを呈する基準クーポンを10倍に拡大して示す図である。
図7】テストからの除去後(図7A)および洗浄後(図7B)の14日目の抑制剤IIのクーポンを示す図であり、図7Cおよび図7Dは、試験後14日目の、初期のピッチングを呈する基準クーポンを10倍に拡大して示す図である。
図8】抑制剤と硫黄とのモル比を3:1として14日テストした後の基準(図8A)、抑制剤I(図8B)、および抑制剤II(図8C)のそれぞれの腐食生成物についての(100倍に拡大された)SEM像を示す図である。
図9】固体の元素硫黄の試験における制約なしのテストクーポンを示す図であり、図9Aは、試験前の硫黄片を含むテストクーポンを示し、図9Bは上部を示し、図9Cは、試験後のクーポンの底を示し、図9Dは、制約なしのクーポン上のピッチングの拡大図である。
図10】固体の元素硫黄の試験における制約ありのテストクーポンを示す図であり、図10Aは、抑制剤Iの試験前における硫黄片を含むテストクーポンを示し、図10Bは、試験後における抑制剤Iのクーポンの上部を示し、図10Cはその底部を示し、図10Dは、抑制剤IIの試験前における硫黄片を含むテストクーポンを示し、図10Eは、試験後における抑制剤IIのクーポンの上部を示し、図10Fはその底部を示す。
図11】硫黄表面の付着および集塊試験を示す図であり、図11Aは、混合前における抑制剤を含まない試験ボトルを示し、図11Bは、混合後における抑制剤を含まない試験ボトルを示し、図11Cは、混合前における抑制剤Iを含む試験ボトルを示し、図11Dは、混合後における抑制剤Iを含む試験ボトルを示し、図11Eは、混合前における抑制剤IIを含む試験ボトルを示し、図11Fは、混合後における抑制剤IIを含む試験ボトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
一局面においては、この発明は、硫黄含有材料が接触する腐食性表面上の腐食の低減、防止および/または抑制のための、容易に導入可能な組成物に関する。
【0018】
一実施態様に従うと、元素硫黄および硫黄化合物を含有するものを含む硫黄含有材料によって引起こされる腐食を抑制するか、低減させるかまたは防止するステップを含む方法が提供される。この発明は、ピッチング腐食、全体的または均一な腐食、クリープ腐食、応力腐食、ふくれ、気相腐食、隙間腐食、溶接腐食、および微生物による腐食を含むがこれらに限定されないあらゆるタイプの腐食を抑制する。この明細書中で用いられる場合、硫黄含有材料は、元素硫黄、または、硫黄化合物、たとえば硫化水素、硫酸塩、硫黄含有塩および酸、硫化物、二硫化物、メルカプタン、チオフェン、およびベンゾチオフェンを含む如何なる材料をも含む。硫黄含有材料の例は、廃水、地下水、下水、パルプ水、冷却液、気体および固体を含む炭化水素含有材料、非炭化水素含有材料を含むが、これらに限定されない。一実施態様においては、炭化水素含有材料は天然または合成の炭化水素含有材料であり得る。天然の炭化水素含有材料のいくつかの例として、石炭、原油、タール、タールサンド、オイルシェール、オイルサンド、天然ガス、石油ガス、天然ビチューメン、天然ケロゲン、天然アスファルトおよび天然アスファルテンが挙げられる。天然の炭化水素含有材料は天然の形成物から得ることができる。
【0019】
多くのさまざまな表面、特に金属、たとえば鋼、アルミニウムおよび銅などの表面は腐食する傾向がある。しかしながら、複合材、コンクリート、プラスチック、天然高分子、木材およびガラスの表面も腐食する傾向がある。
【0020】
別の実施態様においては、この発明は、微生物の作用によって引起こされる腐食を抑制するか、低減させるかまたは防止する。
【0021】
腐食を抑制するか、低減させるかまたは防止するには、硫黄含有材料を施し、硫黄含有材料が腐食性表面と接触する前または接触している間に、硫黄含有材料をこの発明の腐食抑制組成物と接触させるステップが含まれる。いくつかの実施態様においては、腐食抑制組成物にとっては硫黄含有材料の粘度を高めることが好ましい。腐食抑制組成物は、ある量のターペンタイン液、たとえばテルピネオール、を含むか、本質的に当該ターペンタイン液からなるか、または当該ターペンタイン液からなる。天然物を源として得られるターペンタインは概してある量のテルペンを含有する。一実施態様においては、ターペンタイン液は、α−テルピネオールを含む。任意には、腐食性表面は、硫黄含有材料と接触する前、接触している間、または接触した後に本発明の腐食抑制組成物と接触させてもよい。たとえば、腐食抑制組成物は、海上用途では、たとえば、船舶、ボート、運送用コンテナ、民間船および軍用船の熱気室、港および洋上での建築物などで用いられてもよく、また、航空宇宙用途では、たとえば、飛行機およびヘリコプタのフレームおよび構成要素、軍用および民間用ジェット機の排気部品およびジェットエンジンのタービンブレードなどで用いられてもよく、煙道および排気用煙突では、たとえば、発電所の煙道壁、発電所におけるガスタービンブレード、パイプ、タンク、ボイラー、ヒータなどで用いられてもよく、電子機器用途では、たとえば配線、電子機器または半導体上などで用いられてもよい。
【0022】
本発明の方法および組成物はまた、たとえば、硫黄含有化合物に接触するパイプライン、タンカ、ケーシング、フィッシングツールまたはドリルビットおよび他の表面によって、炭化水素含有材料の移送、穿孔、ダウンホール作業、探査、炭化水素生成、貯蔵、処理、または生成中に適用される。
【0023】
さらなる実施態様においては、ターペンタイン液は、腐食抑制を維持するよう、硫黄含有材料から分離、再利用および/または再使用することができる。
【0024】
さらに別の実施態様においては、腐食抑制組成物は、表面の別の保護層の上および/または下の層として適用することができる。たとえば、腐食性の金属表面を保護するために、腐食抑制組成物を、化学酸化層の上にわたってまたは化学酸化層の下に施すことができる。別の実施態様においては、腐食抑制組成物は、基板上の絶縁層の上および/または絶縁層の下の層として施されてもよい。絶縁層の例には、酸化物、窒化物およびポリマーが含まれるがこれらに限定されない。
【0025】
この発明は、硫黄含有材料に腐食抑制組成物を加えることによって腐食を大幅に低減させるための方法を提供する。硫黄含有材料を腐食抑制組成物と混合わせると、腐食抑制液がない状態で硫黄含有材料と接触させた場合、これらの表面の腐食と比べて、混合物と接触した腐食性表面の腐食速度が実質的に低下する。一実施態様においては、腐食抑制組成物は、安定したスルホン化成分を生成しない。別の実施態様においては、硫黄はターペンタイン液には溜まらない。
【0026】
いくつかの実施態様においては、組成物は、少なくとも約0.0001〜0.002体積%の腐食抑制組成物を含むか、本質的に当該腐食抑制組成物からなるか、または、当該腐食抑制組成物からなる。別の実施態様においては、組成物は、少なくとも約0.0005体積%の腐食抑制組成物を含むか、本質的に当該腐食抑制組成物からなるか、または、当該腐食抑制組成物からなる。さらなる実施態様においては、組成物は、少なくとも約0.001体積%の腐食抑制組成物を含むか、本質的に当該腐食抑制組成物からなるか、または、当該腐食抑制組成物からなる。さらなる実施態様においては、組成物は、少なくとも約0.0015体積パーセントの腐食抑制組成物を含むか、本質的に当該腐食抑制組成物からなるか、または、当該腐食抑制組成物からなる。さらなる実施態様においては、組成物は、少なくとも約0.001〜0.002体積%の腐食抑制組成物を含むか、本質的に当該腐食抑制組成物からなるか、または、当該腐食抑制組成物からなる。別の実施態様においては、組成物は、少なくとも約0.01〜10体積%の腐食抑制組成物を含むか、本質的に当該腐食抑制組成物からなるか、または、当該腐食抑制組成物からなる。さらなる実施態様においては、組成物は、少なくとも約0.1〜5体積%の腐食抑制組成物を含むか、本質的に当該腐食抑制組成物からなるか、または、当該腐食抑制組成物からなる。さらに別の実施態様においては、組成物は、少なくとも約0.5〜2体積%の腐食抑制組成物を含むか、本質的に当該腐食抑制組成物からなるか、または、当該腐食抑制組成物からなる。さらなる実施態様においては、組成物は、少なくとも約1体積%の腐食抑制組成物を含むか、本質的に当該腐食抑制組成物からなるか、または、当該腐食抑制組成物からなる。
【0027】
さらなる実施態様においては、腐食抑制組成物がない状態で硫黄含有材料と接触させた場合、腐食の速度は、表面の腐食と比べて少なくとも約2分の1低下する。この実施態様においては、当該方法は、活性成分として作用する有効量のターペンタイン液を用いて、少なくとも2分の1程度、腐食を低減させる。
【0028】
別の実施態様においては、腐食の速度が少なくとも約3分の1低下する。さらなる実施態様においては、腐食抑制組成物がない状態で硫黄含有材料と接触させた場合、腐食の速度は、表面の腐食と比べて少なくとも約4分の1低下する。
【0029】
いくつかの実施態様においては、ターペンタイン液は、天然ターペンタイン、合成ターペンタイン、ミネラルターペンタイン、パイン油、α−ピネン、β−ピネン、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、それらのポリマー、およびそれらの混合物から選択される。他のいくつかの実施態様においては、ターペンタイン液は、ゲラニオール、3−カレン、ジペンテン(ρ−メンタ−1,8−ジエン)、ノポール、ピナン、2−ピナンヒドロペルオキシド、テルピンヒドラート、2−ピナノール、ジヒドロミセノール、イソボルネオール、ρ−メンタン−8−オール、α−テルピニルアセタート、シトロネロール、ρ−メンタン−8−イルアセタート、7−ヒドロキシジヒドロシトロネラール、メントール、およびそれらの混合物から選択される。他の実施態様においては、ターペンタイン液は、アネトール、カンフェン、−シメン、アニスアルデヒド、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン,イソボルニルアセタート、オシメン、アロオシメン、アロオシメンアルコール、2−メトキシ−2,6−ジメチル−7,8−エポキシオクタン,ショウノウ、シトラール、7−メトキシジヒドロ−シトロネラール、10−ショウノウスルホン酸、シトロネラール、メントン、およびそれらの混合物から選択される。
【0030】
腐食抑制組成物は、液体組成物として用いられ得るか、または、霧状にされ、エアゾル化されて気相において用いられ得るか、または、固体、薄膜、凝縮物、微粒子もしくはゲルとして適用され得る。一実施態様においては、組成物は、物理的プロセスまたは化学的プロセスによって液相または気相中の分子化合物または原子化合物を制御しつつ凝縮させて堆積させてもよい。組成物は、所望の状態で組成物を安定化するための適切な付加的成分を含み得る。たとえば、組成物は、塗料または被覆成分を含んでいてもよく、基板に塗布、被覆または噴霧されてもよい。如何なる化学析出技術が用いられてもよく、たとえば、スピンオンによる液相中での化学溶液析出(CSD:Chemical Solution Deposition)、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)による気相中でのエアロゾル堆積、浸漬、電気化学蒸着(ECD:electrochemical Deposition)、陽極酸化または電気泳動堆積、さらには、熱蒸着、プラズマ蒸着および/または光蒸着が挙げられる。如何なる物理堆積技術が用いられてもよく、たとえば、物理気相蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)、スパッタリング、蒸発、および/または分子線蒸着(MBD:Molecular Beam Deposition)が挙げられる。
【0031】
本発明の別の実施態様は、硫黄含有材料および/または腐食性表面を、以下ターペンタイン液の混合物と称されるターペンタイン液混合物と接触させるステップを含む。ターペンタイン液の混合物は、α−テルピネオール、β−テルピネオール、β−ピネン、およびp−シメンを含む。一実施態様においては、多成分のターペンタイン液は、少なくとも約30%のα−テルピネオールと、少なくとも約15%のβ−テルピネオールとを含む。別の実施態様においては、ターペンタイン液の混合物は、約40%〜60%のα−テルピネオール、約30〜40%のβ−テルピネオール、約5%〜20%のβ−ピネン、および約0%〜10%のp−シメンを含む。別の実施態様においては、ターペンタイン液の混合物は、約50%のα−テルピネオール、約35%のβ−テルピネオール、約10%のβ−ピネン、および約5%のp−シメンを含む。代替的な実施態様においては、ターペンタイン液の混合物は、約40%〜60%のα−テルピネオール、約30%〜40%のα−ピネン、約5〜20%のβ−ピネン、および約0%〜10%のp−シメンを含む。別の実施態様においては、ターペンタイン液の混合物は、約50%のα−テルピネオール、約35%のα−ピネン、約10%のβ−ピネン、また約5%のp−シメンを含む。
【0032】
いくつかの実施態様においては、硫黄含有材料に加えられるターペンタイン液の量は、約1ppm〜約10000ppm、または約10ppm〜約1000ppmの範囲である。別の実施態様においては、ターペンタイン液と硫黄含有材料との比は、約50ppm〜約500ppmの範囲である。好ましくは、約100ppmのターペンタイン液が用いられる。他の実施態様においては、ターペンタイン液と硫黄含有材料中の硫黄との比は、約1:10〜約10:1の範囲、好ましくは約1:1以上、さらにより好ましくは約3:1以上の範囲であり得る。他の実施態様においては、この比は、約4:1または5:1以上であり得る。硫黄の量は測定または推定されてもよく、元素硫黄と、金属硫酸塩、硫化物、亜硫酸塩、硫黄含有ガス、ならびに硫黄塩および酸を含むがこれらに限定されない硫黄化合物とを指し得る。
【0033】
いくつかの実施態様においては、腐食性表面の腐食速度は少なくとも約20%〜40%低下させることができる。好ましい実施態様においては、腐食速度は、少なくとも約30%、50%または75%低下させられる。
【0034】
本発明の一実施態様においては、腐食抑制組成物は、α−テルピネオールを含み得るかまたはα−テルピネオール自体であり得る天然ターペンタイン、合成ターペンタインもしくはミネラルターペンタインを含むか、本質的に天然ターペンタイン、合成ターペンタインもしくはミネラルターペンタインからなるか、または天然ターペンタイン、合成ターペンタインもしくはミネラルターペンタインからなる。
【0035】
いくつかの実施態様においては、腐食抑制組成物は、約2℃〜約300℃の範囲内の温度で用いることができる。いくつかの実施態様においては、処理すべき硫黄含有材料および/または腐食性表面は、約300℃未満の温度、約120℃未満の温度、60℃未満の温度または室温で、ターペンタイン液と接触させられる。いくつか他の実施態様においては、保護すべき腐食性材料は、1つ以上のターペンタイン液に浸漬され得るか、1つ以上のターペンタイン液でコーティングされ得るか、1つ以上のターペンタイン液を噴霧され得るか、または1つ以上のターペンタイン液で覆われ得る。
【0036】
この発明では、従来の腐食およびスケール抑制および除去技術で被った環境上、経済上および実用上の不利点が回避される。現在まで、化学的方法および機械的方法を用いてさまざまな度合いで成功を収めてきた。しかしながら、これらの公知の溶媒配合物の各々には、この発明の1つ以上の実施態様で克服されるいくつかの欠点があるかもしれない。一実施態様においては、再生可能で「環境に優しく(green)」、発癌性化学物質および汚染化学物質を含まない、この発明に従った腐食抑制液が自然に得られる。さらに、硫黄含有材料によって腐食性表面の腐食を防ぐためにこの発明の腐食抑制組成物を用いることにより、腐食を抑制するための他の公知の技術に伴う経済的かつ環境的な損害が回避される。
【0037】
この発明の一局面に従うと、二次的な成分をターペンタイン液に加えることができる。本発明の或る局面に従うと、二次的な成分は、2,4ジアミノ−6−メルカプト塩、トリアゾール、たとえばトシル(totyl)−トリアゾールおよびベンゾ−トリアゾール、ジベンゾジスルフィド、バナジウム化合物、多流化アンモニウム、オリゴキノリニウム金属酸化物塩、ヘキシルアミン、および、この明細書中に引用によって援用されている米国特許第6,328,943号に開示される処理化合物、希釈剤、たとえば、低級脂肪族アルコール、アルカン、芳香族、脂肪族アミン、芳香族アミン、二硫化炭素、デカント油、ライトサイクルオイルおよびナフサ、ならびに緩衝剤、のうち少なくとも1つから選択され得る。
【0038】
この明細書中で用いられる場合、低級脂肪族アルコールは、2〜12個の炭素原子間の第一級、第二級および第三級の一価および多価アルコールを指す。この明細書中で用いられる場合、アルカンは、5〜22個の炭素原子間の直鎖アルカンおよび分枝鎖アルカンを指す。この明細書中で用いられる場合、芳香族は、単環式化合物、複素環式化合物および多環式化合物を指す。この明細書中で用いられる場合、脂肪族アミンは、1〜15個の炭素原子間のアルキル置換基を有する第一級アミン、第二級アミンおよび第三級アミンを指す。いくつかの実施態様においては、ベンゼン、ナフタレン、トルエンまたはそれらの組合せが用いられる。別の実施態様においては、上述の低級脂肪族アルコールが用いられてもよい。一実施態様においては、溶媒は、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン、テトラリン、トリエチルアミン、アニリン、二硫化炭素およびこれらの混合物から選択される。
【0039】
発明を実行するための具体的な実施態様
一実施態様においては、この発明は、硫黄による腐食を抑制するための、または表面からスケーリングを除去するための処理方法を提供する。本発明の方法は、硫黄含有材料によってもたらされる腐食を抑制し、硫黄含有材料によってもたらされる腐食を低減させ、硫黄含有材料によってもたらされるスケーリングを抑制し、硫黄含有材料によってもたらされるスケーリングを低減させ、かつ硫黄含有材料によってもたらされるスケーリングを除去するステップを含む。当該方法は、ターペンタイン液を含むか、本質的にターペンタイン液からなるかまたはターペンタイン液からなる組成物と硫黄含有材料を接触させるステップを含む。さらなる実施態様においては、本発明の方法は、表面を本発明の組成物と接触させるステップを含む。さらに別の実施態様においては、本発明の方法は、ターペンタイン液を含むか、本質的にターペンタイン液からなるかまたはターペンタイン液からなる組成物と硫黄含有材料および表面を接触させるステップを含む。
【0040】
ターペンタイン液は、天然ターペンタイン、合成ターペンタイン、ミネラルターペンタイン、パイン油、α−ピネン、β−ピネン、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルペン樹脂、α−テルペン、β−テルペン、γ−テルペン、ゲラニオール、3−カレン、ジペンテン(ρ−メンタ−1,8−ジエン)、ノポール、ピナン、2−ピナンヒドロペルオキシド、テルピンヒドラート、2−ピナノール、ジヒドロミセノール、イソボルネオール、ρ−メンタン−8−オール、α−テルピニルアセタート、シトロネロール、ρ−メンタン−8−イルアセタート、7−ヒドロキシジヒドロシトロネラール、メントール、アネトール、カンフェン、−シメン、アニスアルデヒド、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、イソボルニルアセタート、オシメン、アロオシメン、アロオシメンアルコール、2−メトキシ−2,6−ジメチル−7,8−エポキシオクタン、ショウノウ、シトラール、7−メトキシジヒドロ−シトロネラール、10−ショウノウスルホン酸、シトロネラール、メントン、およびそれらの混合物を含み得るか、本質的にこれらからなり得るか、またはこれらからなり得る。
【0041】
ターペンタイン液が、腐食および/またはスケーリングの実質的にすべてを抑制するための本質的に活性な成分である場合、ならびに、組成物中の他の成分が、腐食および/またはスケーリングの抑制に際して本質的に不活性または非活性である場合、腐食抑制および/またはスケール抑制組成物は、本質的にターペンタイン液からなると言われている。このため、いくつかの実施態様においては、この発明の基本的かつ新奇な特徴は、本質的に、他の活性的な腐食抑制成分を除いたターペンタイン液からなる組成物を含む。
【0042】
いくつかの実施態様においては、本発明の組成物は実質的に無酸性であるか、または、当該方法は、実質的に無酸性のターペンタイン液と上記表面または硫黄含有材料を接触させるステップを含む。実質的に無酸性の組成物は約10%未満の酸を含む。好ましい実施態様においては、実質的に無酸性の組成物は約5%未満の酸を含む。さらにより好ましい実施態様においては、実質的に無酸性の組成物は約3%未満の酸を含む。さらにより好ましい実施態様においては、実質的に無酸性の組成物は約1%未満の酸を含む。実質的に無酸性の組成物を用いることによって、この発明は、酸と硫黄との接触によって生成される副生物から新たなスケーリングおよび腐食を引起こすという、酸含有組成物に付随する問題を回避する。
【0043】
別の実施態様においては、本発明の組成物は実質的に非水性であるか、または、当該方法は、上記表面または硫黄含有材料を実質的に非水性のターペンタイン液と接触させるステップを含む。好ましい実施態様においては、ターペンタイン液は非水性である。実質的に非水性の組成物を用いることにより、この発明は、水と硫黄との接触によって生成される副生物から新しいスケーリングおよび腐食を引起こすという、水性組成物に付随する問題を回避する。
【0044】
さらに別の実施態様においては、本発明は、本質的にターペンタイン液からなる組成物、すなわち、実質的に非水性および/または実質的に無酸性のターペンタイン液である組成物、を用いるステップを含む。実質的に硫黄を含まない組成物を用いることにより、この発明は、既存の耐腐食および/または耐スケーリングの組成物中に含まれる硫黄との反応により新しいスケーリングおよび腐食を引起こすという、硫黄含有組成物に付随する問題を回避する。
【0045】
一実施態様においては、この発明の組成物は、硫黄化合物、酸または塩を実質的に含まない。さらなる実施態様においては、本発明は、本質的に硫黄を含まないターペンタイン液からなる組成物、すなわち、実質的に非水性および/または実質的に無酸性のターペンタイン液であり実質的に硫黄化合物、酸または塩を含まない組成物、を用いる。このため、これらの実施態様においては、この発明は、腐食および/またはスケーリング処理用の硫黄含有組成物、酸性組成物および/または水性組成物に付随する欠点および無効性を回避する。
【0046】
この明細書中で用いられる場合、「非活性(non-active)」という語は、成分が、腐食および/またはスケーリングを抑制するための有効活性量中には存在しないことを意味するものとする。
【0047】
一実施態様においては、本発明の方法は、ターペンタイン液がない状態で同じ硫黄含有材料と接触させた場合に、同じ表面の腐食と比べて、硫黄含有材料と接触させた腐食性表面の腐食速度を実質的に低下させる。
【0048】
この明細書中で用いられる場合、「実質的に低下させる(substantially reduces)」という表現は、組成物と接触していない状態で上記硫黄含有材料と接触させた場合に、上記表面の腐食と比べて、腐食の速度が少なくとも約2分の1下げられることを意味するものとする。組成物と接触していない状態で上記硫黄含有材料と接触させた場合、上記表面の腐食と比べて、好ましくは、腐食の速度は少なくとも約3分の1下げられ、さらにより好ましくは、腐食の速度は少なくとも約4分の1下げられる。
【0049】
一実施態様においては、ターペンタイン液は、α−テルピネオール、β−テルピネオール、β−ピネン、p−シメンまたはこれらの組合せを含む。好ましい実施態様においては、ターペンタイン液は、約40%〜60%のα−テルピネオール、約30%〜40%のβ−テルピネオール、約5%〜20%のβ−ピネン、約0%〜10%のp−シメンを含む。別の好ましい実施態様においては、ターペンタイン液は、約40%〜60%のα−テルピネオールまたはβ−テルピネオール、約5%〜40%のα−ピネンまたはβ−ピネン、および約0%〜20%のp−シメンを含む。
【0050】
いくつかの実施態様においては、保護すべき腐食性表面と接触する硫黄含有材料は、硫黄含有液、気体、蒸気、固体またはこれらの組合せである。このような硫黄含有材料は、元素硫黄、硫黄酸、硫黄塩、有機硫黄化合物、無機硫黄化合物またはこれらの組合せを含み得る。
【0051】
本発明の別の実施態様においては、本発明の方法は、硫黄含有材料からターペンタイン液を分離するためのさらなるステップを含む。好ましい実施態様においては、分離されたターペンタイン液は再利用される。
【0052】
本発明の方法の一実施態様においては、組成物は腐食性表面上の層として施される。いくつかの実施態様においては、当該層は、上記表面上に直接施される。他の実施態様においては、当該層は、腐食性表面に直接施され、次いで、別の保護層によって覆われる。別の実施態様においては、組成物は、腐食性表面上に直接施された保護層上にわたる層として施される。一実施態様においては、本発明の組成物の層の上および/または下に施される保護層は絶縁層である。
【0053】
いくつかの実施態様においては、本発明は、必要時に表面、たとえばスケールが蓄積しがちな表面またはスケールが蓄積した表面、からスケールを除去する方法を提供する。本発明の方法は、表面から既存のスケールを機械的に除去するステップと、有効量のスケール除去ターペンタイン液を含有する組成物と表面を接触させるステップとを含む。ターペンタイン液は、天然ターペンタイン、合成ターペンタイン、ミネラルターペンタイン、パイン油、α−ピネン、β−ピネン、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、それらのポリマー、およびそれらの混合物のうち少なくとも1つを含む。いくつかの他の実施態様においては、ターペンタイン液は、ゲラニオール、3−カレン、ジペンテン(ρ−メンタ−1,8−ジエン)、ノポール、ピナン、2−ピナンヒドロペルオキシド、テルピンヒドラート、2−ピナノール、ジヒドロミセノール、イソボルネオール、ρ−メンタン−8−オール、α−テルピニルアセタート、シトロネロール、ρ−メンタン−8−イルアセタート、7−ヒドロキシジヒドロシトロネラール、メントール、およびそれらの混合物から選択される。他の実施態様においては、ターペンタイン液は、アネトール、カンフェン、−シメン、アニスアルデヒド、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、イソボルニルアセタート、オシメン、アロオシメン、アロオシメンアルコール、2−メトキシ−2,6−ジメチル−7,8−エポキシオクタン、ショウノウ、シトラール、7−メトキシジヒドロ−シトロネラール、10−ショウノウスルホン酸、シトロネラール、メントン、およびそれらの混合物から選択される。好ましくは、スケール除去ターペンタイン液は、α−テルピネオール、β−テルピネオール、β−ピネン、p−シメンまたはそれらの組合せを含む。さらにより好ましくは、ターペンタイン液は、約40%〜60%のα−テルピネオール、約30%〜40%のβ−テルピネオール、約5%〜20%のβ−ピネン、約0%〜10%のp−シメンを含む。さらにより好ましくは、ターペンタイン液は、約40%〜60%のα−テルピネオールまたはβ−テルピネオール、約5%〜40%のα−ピネンまたはβ−ピネン、および約0%〜20%のp−シメンを含む。
【0054】
本発明の方法は、硫黄含有材料との反応によってもたらされる腐食を受けやすい腐食性表面の腐食を抑制するための有利な技術を提供する。この技術は、ターペンタイン液を含有する組成物と硫黄含有材料を接触させるステップ、組成物と腐食性表面を接触させるステップ、または、本発明の組成物と表面および硫黄含有材料を接触させるステップを含む。ピッチング腐食、全体的または均一な腐食、クリープ腐食、応力腐食、ふくれ、気相腐食、隙間腐食、溶接腐食、および微生物による腐食を含む如何なるタイプの腐食も、本発明の方法によって抑制され得る。
【0055】
ここでクレームされている方法で処理することのできる腐食性表面は、金属表面、コンクリート表面、複合材表面、プラスチック表面、天然高分子表面、木材表面およびガラス表面を含む。
【0056】
一実施態様においては、本発明の方法では、硫黄含有材料と表面との反応前および/または反応中に処理されるべき表面を接触させる。
【0057】
本発明の方法はまた、スケールが蓄積しやすい表面上にスケールが蓄積するのを抑制する、および/または低減させる。このスケールの蓄積は、硫黄含有材料ならびに/または他のイオンおよび鉱物のスケールとの接触によってもたらされる可能性がある。当該方法では、ターペンタイン液を含有する組成物でスケール誘引材料を処理するか、組成物と表面を接触させるか、または、材料および表面を組成物と接触させる。一実施態様においては、スケールは、如何なる材料中の硫黄または硫黄化合物との接触によってももたらされる可能性があり、さらに、スケールは、腐食の生成物として生じるか、またはスケールの付着しやすい表面に硫黄および他の沈殿物が付着することによって生じる可能性がある。このため、いくつかの実施態様においては、本発明の方法を用いることにより、腐食の起こる前に表面上にスケールが生成されるのを抑制することおよび/または低減させることができる。スケールの原因となる硫黄は、非炭化水素含有材料、炭化水素含有材料およびこれらの混合物を含む如何なる材料中にも見いだすことができるだろう。
【0058】
本発明の方法はまた、本発明の組成物を用いた処理前、処理中または処理後に、上記表面から機械的にスケールを除去するステップを含み得る。本発明の方法では、本発明の組成物がない状態でスケールの蓄積しやすい表面に硫黄が付着するのが緩和される。さらに、当該方法では、硫黄含有材料中の硫黄の集塊が低減される。
【0059】
作用例
【実施例1】
【0060】
例1
シミュレートされた硫黄含有環境でAPI X−65炭素鋼の腐食速度に対する腐食抑制剤の作用を調べた。この環境は、NaSが500ppmであり、酢酸を用いてpHが4.8に調整されたASTM置換海水であった。適用可能な試験の各々において、100ppmの濃度の抑制剤を用いた。基準溶液も調べた。すべての試験において試験温度は100°Fであった。2週間攪拌させたガラス反応ケトル試験を用いて、全体的な腐食速度を決定し、さまざまな腐食抑制剤のあるサワー環境とさまざまな腐食抑制剤のないサワー環境とにおいて局所的な腐食の形成を調べた。
【0061】
鋼のテストクーポンの化学分析を表1に示す(重量%)。
【0062】
【表1】
【0063】
鋼のテストクーポンの物理的特性は次のとおりであった。
引張強度、KSI:86.32
降伏強度、KSI:76.24
伸度、2インチ%:37.0
置換海水の化学組成を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
腐食試験を1リットルのガラス反応ケトル中で行なった。PTFE担体(図1Aを参照)および隙間ワッシャ(図1Bを参照)を用いてテストクーポンを搭載した。隙間ワッシャは、統計的に分析することができるクーポン上に隙間を作り出す。試験液(ASTM置換海水)は、ガラス反応ケトル内において最低16時間にわたってNで脱気され、次いで、移送前に100°Fに加熱された。PTFEに搭載された試料および(適用可能であれば)さまざまな腐食抑制剤を反応ケトルに配置し、1時間にわたってNでパージした。NaSは、脱気された試験液と混ぜ合わせることによって液化させることが可能であり、次いで、溶液を実際に移送する前に溶液移送ラインに注入された。試験液を反応ケトルから押出して、ガス圧力を用いてクーポンを含有する容器に注入した。次いで、容器を100°Fに加熱した。酸素汚染を防ぐために、試験中、反応ケトルを介してNをゆっくりと泡立たせた。試験の期間は14日であった。試験後、クーポンをISO 9226に従って洗浄し、腐食速度を決定した。局所的な腐食(ピッチングおよび/または隙間腐食)についてクーポンを調べた。
【0066】
基準溶液の結果
基準溶液で試験されたテストクーポンは隙間腐食および局所的な腐食を呈した(図2および3を参照)。
【0067】
これらのテストクーポンについての腐食速度データを表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
抑制剤の結果
3つの異なる抑制剤組成物(I〜III)で試験されたテストクーポンは、基準サンプルと比較して腐食速度が著しく低下していた。抑制剤Iは、50%のα−テルピネオール、30%のβ−ピネン、10%のα−ピネン、および10%のパラシメンを含んだ。抑制剤IIは、50%のα−テルピネオール、10%のβ−ピネン、10%のα−ピネンおよび30%のパラシメンを含んだ。抑制剤IIIは、40%のα−テルピネオール、30%のβ−ピネン、10%のα−ピネン、および20%のパラシメンを含んだ。ここで、平均腐食速度は、0.28(抑制剤II)mpy、0.24(抑制剤I)mpyおよび0.09(抑制剤III)mpyであった(図4A図4Cを参照)。記録された腐食速度は、各々のテストクーポン上で観察された隙間作用の量と完全に一致する。
【実施例2】
【0070】
例2
シミュレートされた元素硫黄含有環境におけるAISI 1018炭素鋼の腐食速度に対する腐食抑制剤の作用を調べた。この環境は、元素硫黄が1.6g/L(0.05mol/l)で追加された蒸留水であった。適用可能な試験の各々において約0.15molの各抑制剤を用いた(抑制剤と硫黄とについて3:1のモル比)。基準溶液も調べた。試験温度はすべての試験において300°Fであった。腐食試験は、PTFEで裏打ちされた(PTFE lined)ステンレス鋼の1リットルのオートクレーブにおいて行なった。隙間ワッシャは用いなかった。
【0071】
鋼テストクーポンの化学分析を表4に示す(重量%)。
【0072】
【表4】
【0073】
基準溶液の結果
基準溶液で試験されたテストクーポンは、エッジおよびピッチング作用を示す広範囲な腐食を呈した(図5を参照)。これらの基準テストクーポンについての腐食速度データを表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
抑制剤の結果
抑制剤組成物で試験されたテストクーポンは、基準サンプルと比べて腐食速度が著しく低下していた。ここで、平均腐食速度は、抑制剤Iについては20.61mpy(図6を参照)、抑制剤IIについては12.90mpy(図7を参照)であった。
【0076】
14日にわたる3:1の抑制剤と硫黄とのモル比環境の各々における試験後のクーポン表面の電子顕微鏡画像を走査する(図8を参照)。基準クーポンは、多量の腐食生成物を含んでいた(図8Aを参照)。抑制剤Iのクーポンは、いくつかの区域により重い堆積物を含む比較的滑らかな腐食生成物を含んでいた(図8Bを参照)。抑制剤IIのクーポンは、ほんのわずかな区域により重い堆積物を含む滑らかな腐食生成物を含んでいた(図8Cを参照)。
【0077】
表6は、3つのテストクーポンについての腐食生成物の組成分析を示す(原子%)。
【0078】
【表6】
【0079】
促進腐食試験においては、試験期間は、絶対的な腐食速度に著しい影響を及ぼす。大抵の一般的な腐食メカニズムでは、腐食速度が時間とともに漸近的に低下する。これにより、長期試験よりも短期試験の方がより高い腐食速度を呈するように人為的に見せかける。このため、絶対的な腐食速度とは無関係に、各々の期間にわたって基準試験を実行して、比較を可能にする。
【0080】
これらの試験においては、抑制剤はピッチングを防止するのに有効であった。ピッチングの場合、全体的な腐食速度は、作用の深さほどには重要ではない。作用の深さが大きい場合、全体的な腐食速度が適度なものであってもパイプが故障する可能性がある。本発明の腐食抑制組成物は、元素硫黄によってもたらされる作用の深さを緩和するのに有効であった。
【実施例3】
【0081】
例3
硫黄含有環境におけるAISI 1018炭素鋼の局所的な腐食の形成に対する腐食抑制剤の作用を調べた。試験ではコロイド硫黄(0.4g)を用いた。硫黄を溶かして、各クーポン用に約3片の硫黄を形成した。次いで、水平に取付けられた鋼クーポンの各々の上に3つの硫黄片を配置した。制約ありの試験(inhibited tests)の場合、約1時間にわたって硫黄片を純粋な抑制剤に晒した。試験環境は、140°F(60℃)に加熱する前に106psigの総圧力に対して86psigのHSおよび20psiのCOを染込ませた脱気された置換海水であった。試験は、硫黄を晒さない基準試験と、硫黄を抑制剤に晒す2つの試験とを含む。腐食試験は、1リットルのステンレス鋼オートクレーブにおいて行なった。クーポンは、PTFE担体を用いてオートクレーブの底から離れるよう懸濁された。制約なしの試験ではゆっくりと攪拌を行なったが、制約ありの試験では攪拌は行なわなかった。試験期間は6日であった。クーポンを晒した後、このクーポンをオートクレーブから取出して撮影した。クーポンを洗浄し、腐食速度および局所的な腐食について判断した。
【0082】
鋼テストクーポンの化学分析を表7に示す(重量%)。
【0083】
【表7】
【0084】
基準溶液の結果
基準溶液で試験されたテストクーポンは、制約のないクーポン上の3つの硫黄片位置のうちの1つにおいてピッチングを呈した(図9A図9Cを参照)。硫黄は攪拌によって他の2つの位置で剥がれる可能性がある。最大のピッチング深さは24ミルであり、ピッチングが形成されている区域の拡大図を図9Dに示す。6日間の試験中のピッチング率が一年間にわたって一定であれば、作用の深さは1402ミル、またはほぼ1.5インチとなるだろう。これは、遊離硫黄によって金属上に起こる可能性のある広範囲な損傷を示す。クーポンの表面上にわたる全体的な腐食速度は26mpyであった。
【0085】
抑制剤の結果
抑制剤と接触させた硫黄片で試験されたテストクーポンでは、ピッチング腐食は見られなかった。硫黄が最初に配置されたサンプルの上にはいくつかの模様があった。図10A図10Cは抑制剤Iのクーポンを示し、図10D図10Fは洗浄後の抑制剤IIのクーポンを示す。この溶液は攪拌されなかった。クーポンの底にある点は恐らくは気泡によるものだろう。クーポンの表面上にわたる全体的な腐食速度は、抑制剤Iのクーポンの場合11mpyであり、抑制剤IIのクーポンの場合19mpyであった。硫黄片はいずれも、攪拌がなくても、試験の終わりにクーポン表面上に残留しなかった。これは、抑制剤が金属表面への硫黄の付着を防ぐことを証明している。
【実施例4】
【0086】
例4
この試験は、遊離硫黄の表面付着と、さらに、抑制剤が硫黄を塊にする程度とを決定するために行なわれた。粉末状の硫黄(1g)を、室温で6ozのボトル内の100mLの蒸留水に加えた(図11A)。抑制剤を1000ppmで注入し、ボトルを激しく50回振った。振る前(図11A図11C図11E)および振った後(図11B図11D図11F)に写真を撮り、硫黄の分散性に対する抑制剤の作用を記録した(図11C図11Fを参照)。
【0087】
ガラス容器の側面への硫黄の付着は、制約のある試験で著しく低減された。これは、抑制剤がガラスの表面から硫黄を隔離させていることを示す。これは、遊離硫黄とガラスまたはシリカとの間の極性が低下したことを示している。さらに、硫黄は抑制剤がある状態では塊にならなかった。
【0088】
この発明の他の実施態様は、この明細書を検討し、この明細書中に開示される発明およびその同等例を実施することにより、当業者にとって明らかになるだろう。この発明の真の範囲および精神は添付の特許請求の範囲およびその同等例によって示されており、明細書および例は単に例示的なものとしてみなされるよう意図されたものである。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図11