特許第5792078号(P5792078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792078
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ワイヤレス通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/40 20150101AFI20150917BHJP
   H04M 1/725 20060101ALI20150917BHJP
   H01Q 1/50 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H04B1/40
   H04M1/725
   H01Q1/50
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-571(P2012-571)
(22)【出願日】2012年1月5日
(65)【公開番号】特開2013-141141(P2013-141141A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100908
【氏名又は名称】アイホン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077584
【弁理士】
【氏名又は名称】守谷 一雄
(74)【代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
(72)【発明者】
【氏名】三好 秀明
【審査官】 佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−162618(JP,A)
【文献】 特開平07−023450(JP,A)
【文献】 特開平02−202202(JP,A)
【文献】 国際公開第01/097323(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第1564896(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/40
H01Q 1/50
H04M 1/725
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの通信端末における端末相互間で無線信号を送受信することによって無線通信を行うワイヤレス通信システムであって、
前記各通信端末には、前記無線通信を行うために当該通信端末の機器に内蔵されるアンテナ(2)と、前記アンテナを経由して前記無線信号の送受信を行うための無線送受信部(3)と、前記無線送受信部への動作電源を供給するための電源部(4)と、前記アンテナ及び前記無線送受信部の間を接続する伝送線路(L1)のライン上に並列接続されスタブ線路を形成するためのスタブ線路形成部(5)とを備え、
前記スタブ線路形成部は、前記スタブ線路の線路長を可変するために切換えられる第1のスイッチング素子群(1S)と、前記第1のスイッチング素子群により線路長が可変される前記スタブ線路を開放又は短絡させるために切換えられる第2のスイッチング素子群(2S)とを有し、
前記各通信端末には、前記電源部から電源供給された前記無線送受信部が前記無線信号を送信する送信状態における反射波電力信号(Pr)及び進行波電力信号(Pf)をそれぞれ検出するための方向性結合器(7)と、前記方向性結合器にて検出された前記反射波電力信号及び前記進行波電力信号を乗算するための演算部(8)と、前記演算部の出力が0ワットとなるように前記スタブ線路形成部を構成する前記第1、第2のスイッチング素子群をそれぞれ制御し、前記アンテナと前記伝送線路とのインピーダンスを整合させるための整合制御部(9)とを備え、
前記方向性結合器は、前記アンテナ及び前記無線送受信部の間に設けられることを特徴とするワイヤレス通信システム。
【請求項2】
前記スタブ線路形成部は、前記伝送路のライン上の波長(λg)に対応する所定の間隔(λg/8)で複数個形成されることを特徴とする請求項1記載のワイヤレス通信システム。
【請求項3】
前記アンテナ及び前記スタブ線路形成部は、同一の基板(10)上にパターン形成され、
前記スタブ線路形成部を構成する前記第1のスイッチング素子群のうち最上流の当該スイッチング素子を、前記アンテナが有する放射パターンの給電点に接続することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のワイヤレス通信システム。
【請求項4】
前記各通信端末には、前記電源部から前記無線送受信部への電源供給を遮断するための電源供給遮断部(11)を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち何れか1項記載のワイヤレス通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤレス通信システムに係り、特に、複数の通信端末相互間で無線信号を送受信することで無線通信を行うワイヤレス通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、互いに離れた2箇所の間でワイヤレス信号を送受信することによって無線通信を行うワイヤレスインターホンシステムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このワイヤレスインターホンシステムは、玄関に設置され居住者を呼び出すためのドアホン子機と、ドアホン子機に信号線で接続され住戸内に設置されるワイヤレス中継器と、住戸内に設置されワイヤレス中継器と無線通信することでドアホン子機からの呼び出しに応答するインターホン親機とから構成されている。
【0003】
このように構成されたワイヤレスインターホンシステムは、訪問者がドアホン子機の呼出部で呼出操作すると、呼出信号がワイヤレス中継器からインターホン親機に無線送信される。居住者は、インターホン親機で訪問者からの呼び出しを確認後、通話部で通話操作すると、ワイヤレス中継器を介してドアホン子機とインターホン親機との間で通話路が形成される。この際、通話信号はワイヤレス中継器及びインターホン親機間で無線通信される。
【0004】
【特許文献1】特開2002−199111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、背景技術において説明したワイヤレスインターホンシステムでは、ワイヤレス中継器やインターホン親機の無線通信用のアンテナが内蔵アンテナの場合、周囲環境の影響を受け易くなる難点があった。ここで、周囲環境とは、建物の壁材や金属製家具、また、冷蔵庫、電子レンジ等の大型電化製品やインターホン親機の内部の基板及び部品、さらにはインターホン親機を操作する人等のことを意味する。また、これらインターホン機器の周囲環境の影響の原因が単一ではないので、インターホン機器の設置場所によっては、当該インターホン機器における、内蔵アンテナと、内蔵アンテナ及び送信部を接続する伝送線路とのインピーダンスの不整合を生じて反射波電力が増大する難点があった。即ち、アンテナの入力インピーダンスと、伝送線路の特性インピーダンスとの整合がとれていないと、その境界で反射してしまうので、アンテナに十分な電力が供給されなくなってしまうことになる。
【0006】
このように反射波電力が増大すると、通信が非効率になるばかりでなく、インターホン機器内部における他の回路に悪影響を及ぼすことになる。例えば、反射波のエネルギが、音声回路にノイズ混入したり、データエラーを引き起こしたり、場合によってはシステムリセットをかけてしまうことが考えられ、インターホン動作の品質低下につながることになる。
【0007】
また、現状では周囲環境の影響を受けにくい内蔵アンテナを設計しているが、周囲環境の影響の原因のすべての条件を満たすことは不可能であった。なお、カーナビゲーションでは、受信側において可変容量ダイオードを整合素子として用いてアンテナのインピーダンスの整合制御を行うことは知られているが、送信側は受信側と比較して電力が大きいので、この送信側で可変容量ダイオードを整合素子として用いると、可変容量ダイオードが破損する虞がある。さらに、可変容量ダイオードを整合素子として用いる場合には、アンテナ及び無線送受信部の間を接続する伝送線路上にバイアス電圧を印加しなければならなかった。
また、インピーダンス整合を行うためにディスクリート回路であるLC素子を整合素子として用いることが多いが、マイクロ波帯でLC素子を用いると、自己共振の影響を受けるので、伝送線路を含むアンテナ全体の実効キャパシタンスやインダクタンスが制限される難点があった。
【0008】
このような不具合は特許文献1のワイヤレスインターホンシステムに限らず、複数の通信端末相互間で無線信号を送受信することで無線通信を行うワイヤレス通信システムにおいても生じる。
【0009】
本発明は、このような従来の難点を解決するためになされたもので、複数の通信端末相互間で周囲環境の影響を受けることなく安定した状態で高周波無線通信を行うために、各通信端末において、バイアス電圧を印加することなく、而も実効キャパシタンスやインダクタンスが制限されずに、内蔵アンテナと、内蔵アンテナ及び無線送受信部を接続する伝送線路とのインピーダンス整合を行なうことができるワイヤレス通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成する本発明の第1の態様であるワイヤレス通信システムは、少なくとも2つの通信端末における端末相互間で無線信号を送受信することによって無線通信を行うワイヤレス通信システムであって、各通信端末には、無線通信を行うために当該通信端末の機器に内蔵されるアンテナと、アンテナを経由して無線信号の送受信を行うための無線送受信部と、無線送受信部への動作電源を供給するための電源部と、アンテナ及び無線送受信部の間を接続する伝送線路のライン上に並列接続されスタブ線路を形成するためのスタブ線路形成部とを備え、スタブ線路形成部は、スタブ線路の線路長を可変するために切換えられる第1のスイッチング素子群と、第1のスイッチング素子群により線路長が可変されるスタブ線路を開放又は短絡させるために切換えられる第2のスイッチング素子群とを有し、各通信端末には、電源部から電源供給された無線送受信部が無線信号を送信する送信状態における反射波電力信号及び進行波電力信号をそれぞれ検出するための方向性結合器と、方向性結合器にて検出された反射波電力信号及び進行波電力信号を乗算するための演算部と、演算部の出力が0ワットとなるようにスタブ線路形成部を構成する第1、第2のスイッチング素子群をそれぞれ制御し、アンテナと伝送線路とのインピーダンスを整合させるための整合制御部とを備え、方向性結合器はアンテナ及び無線送受信部の間に設けられるものである。
【0011】
このような第1の態様であるワイヤレス通信システムによれば、無線送受信部とアンテナ間を接続する伝送線路のライン上にスタブ線路形成部を並列接続させ、このスタブ線路形成部のスタブ線路の線路長を第群のスイッチング素子群により可変させ、さらに、第1のスイッチング素子群により線路長が可変されたスタブ線路を第2のスイッチング素子群の切換動作により開放又は短絡させることができるので、通信端末の設置された周囲環境に適合させるためのアンテナと伝送線路とのインピーダンス整合を、バイアス電圧を印加することなく、而も実効キャパシタンスやインダクタンスが制限されることなく行なうことでき、方向性結合器により検出した反射波電力信号及び進行波電力信号を演算部で乗算して、整合制御部で演算部の出力が0ワットとなるようにスタブ線路形成部を構成する第1、第2のスイッチング素子群をそれぞれ制御することで、通信端末の設置された周囲環境に適合させるためのアンテナと伝送線路とのインピーダンス整合を効率よく行なうことができるようになる。
【0012】
本発明の第2の態様は第1の態様であるワイヤレス通信システムにおいて、スタブ線路形成部は、伝送路のライン上の波長に対応する所定の間隔で複数個形成されるものである。
【0013】
このような第2の態様であるワイヤレス通信システムによれば、通信端末の設置された周囲環境に適合させるためのアンテナと伝送線路とのインピーダンス整合範囲を拡大することができる。
【0014】
本発明の第3の態様第1の態様又は第2の態様であるワイヤレス通信システムにおいて、アンテナ及びスタブ線路形成部は、同一の基板上にパターン形成され、スタブ線路形成部を構成する第1のスイッチング素子群のうち最上流の当該スイッチング素子を、アンテナが有する放射パターンの給電点に接続するものである。
【0015】
このような第3の態様であるワイヤレス通信システムによれば、アンテナが有する放射パターンの給電点上でアンテナと伝送線路とのインピーダンス整合を行なうことができるので、アンテナから発生する放射を抑えることができ、無線送受信部から伝送線路を介してアンテナに向かう進行波電力信号を効率よくアンテナに供給することができるようになる。
【0016】
本発明の第4の態様第1の態様乃至第3の態様のうち何れか1つの態様であるワイヤレス通信システムにおいて、各通信端末には、電源部から無線送受信部への電源供給を遮断するための電源供給遮断部を備えるものである。
このような第4の態様であるワイヤレス通信システムによれば、使用していない通信端末が使用している他の通信端末への電波干渉を防ぐことができると共に、システムの消費電力を削減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のワイヤレス通信システムによれば、複数の通信端末相互間で周囲環境の影響を受けることなく安定した状態で高周波無線通信を行うために、各通信端末において、バイアス電圧を印加することなく、而も実効キャパシタンスやインダクタンスが制限されずに、内蔵アンテナと、内蔵アンテナ及び無線送受信部を接続する伝送線路とのインピーダンス整合を行なうことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のワイヤレス通信システムにおける好ましい実施の形態例を示す図で、(A)はシステム構成図、(B)は通信端末のブロック図、(C)は(B)の部分詳細図である。
図2】本発明のワイヤレス通信システムにおける他の好ましい実施の形態例を示す通信端末のブロック図である。
図3】本発明のワイヤレス通信システムにおける他の好ましい実施の形態例を示す通信端末のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のワイヤレス通信システムを実施するための形態例について、図面を参照して説明する。
このようなワイヤレス通信システムは図1(A)に示すように、2つの通信端末1、1における端末相互間で無線信号RSを送受信することによって無線通信を行なうものである。なお、図1(A)では通信端末1は2台しか図示されていないが、本発明のワイヤレス通信システムでは3台以上でも構わない。
【0020】
各通信端末1には図1(B)に示すように、無線通信を行うために当該通信端末1の機器に内蔵されるアンテナ2と、アンテナ2を経由して無線信号RSの送受信を行うための無線送受信部3と、無線送受信部3への動作電源を供給するための電源部4と、アンテナ2及び無線送受信部3の間を接続する伝送線路L1のライン上に並列接続されスタブ線路を形成するためのスタブ線路形成部5とを備えている。
【0021】
また、各通信端末1には、無線送受信部3からの無線信号RSを所定の電気信号に変換すると共に、送信情報信号を生成するIC等の信号生成部(図示せず)から送出された所定の電気信号を無線信号RSに変換する信号処理部6も備え、電源部4はこの信号処理部6にも動作電源を供給する。
【0022】
スタブ線路形成部5は図1(C)に示すように、スタブ線路の線路長を可変するために切換えられる第1のスイッチング素子群1Sと、第1のスイッチング素子群1Sにより線路長が可変されるスタブ線路を開放又は短絡させるために切換えられる第2のスイッチング素子群2Sとを有している。
【0023】
なお、図1(C)においては、第1のスイッチング素子群1Sは、スイッチング素子1S1、スイッチング素子1S2、スイッチング素子1S3及びスイッチング素子1S4の4つで構成され、第2のスイッチング素子群2Sは、スイッチング素子2S1、スイッチング素子2S2、スイッチング素子2S3、スイッチング素子2S4及びスイッチング素子2S5の5つで構成されている。したがって、第1のスイッチング素子群1Sの設置数がnとすると、第2のスイッチング素子群2Sの設置数はn+1とすることで、第1のスイッチング素子群1Sでタブ線路の線路長を可変することができ、第2のスイッチング素子群2Sで第1のスイッチング素子群1Sにより線路長が可変されるスタブ線路を開放又は短絡させることができる。
このような各スイッチング素子1S1、1S2、1S3、1S4、2S1、2S2、2S3、2S4、2S5は、コモン接点、第1の切換接点及び第2の切換接点を有し、スイッチ制御信号によって制御され、コモン接点に第1の切換接点あるいは第2の切換接点を繋ぐことができる。
【0024】
スイッチング素子1S1のコモン接点には伝送線路L1に接続されているスタブ線路lが接続され、スイッチング素子1S1の第1の切換接点にはスタブ線路lの一方端が接続され、スタブ線路lの他方端にはスイッチング素子1S2のコモン接点が接続され、スイッチング素子1S2の第1の切換接点にはスタブ線路lの一方端が接続され、スタブ線路lの他方端にはスイッチング素子1S3のコモン接点が接続され、スイッチング素子1S3の第1の切換接点にはスタブ線路lの一方端が接続され、スタブ線路lの他方端にはスイッチング素子1S4のコモン接点が接続され、スイッチング素子1S4の第1の切換接点にはスタブ線路lの一方端が接続されている。
【0025】
また、スイッチング素子1S1の第2の切換接点にはスイッチング素子2S1のコモン接点が接続され、このスイッチング素子2S2の第1の切換接点はグランドに接続され先端が短絡することになりショートスタブとして機能し、スイッチング素子2S1の第2の切換接点はオープンで先端が開放することになりオープンスタブとして機能する。スイッチング素子1S2の第2の切換接点にはスイッチング素子2S2のコモン接点が接続され、このスイッチング素子2S2の第1の切換接点はグランドに接続され先端が短絡することになりショートスタブとして機能し、スイッチング素子2S2の第2の切換接点はオープンで先端が開放することになりオープンスタブとして機能する。スイッチング素子1S3の第2の切換接点にはスイッチング素子2S3のコモン接点が接続され、このスイッチング素子2S3の第1の切換接点はグランドに接続され先端が短絡することになりショートスタブとして機能し、スイッチング素子2S3の第2の切換接点はオープンで先端が開放することになりオープンスタブとして機能する。スイッチング素子1S4の第2の切換接点にはスイッチング素子2S4のコモン接点が接続され、このスイッチング素子2S4の第1の切換接点はグランドに接続され先端が短絡することになりショートスタブとして機能し、スイッチング素子2S4の第2の切換接点はオープンで先端が開放することになりオープンスタブとして機能する。
【0026】
さらに、スタブ線路lの他方端にはスイッチング素子2S5のコモン接点が接続され、このスイッチング素子2S5の第1の切換接点はグランドに接続され先端が短絡することになりショートスタブとして機能し、スイッチング素子2S5の第2の切換接点はオープンで先端が開放することになりオープンスタブとして機能する。
【0027】
また、各通信端末1には図1(C)に示すように、電源部4から電源供給された無線送受信部3が無線信号を送信する送信状態における反射波電力信号Pr及び進行波電力信号Pfをそれぞれ検出するための方向性結合器7と、方向性結合器7にて検出された反射波電力信号Pr及び進行波電力信号Pfを乗算するための演算部8と、演算部8の出力が0ワットとなるようにスタブ線路形成部5を構成する第1のスイッチング素子群1S及び第2のスイッチング素子群2Sをそれぞれ制御し、アンテナ2と伝送線路L1とのインピーダンスを整合させるための整合制御部9とを備えてもよい。
【0028】
方向性結合器7は双方向性結合器で、アンテナ4及び無線送受信部3の間に設けられるものである。したがって、方向性結合器7は、無線送受信部3からアンテナ2へと伝送線路L1を伝播する進行波電力信号Pfと、進行波電力信号Pfと逆方向に伝送線路L1を伝播する反射波電力信号Prとを個別に同時に取り出すことができる。なお、演算部8としてはミキサが好ましい。図1(C)においては、スタブ線路形成部5によるインピーダンスマッチングの結果を有効活用するために、スタブ線路lと伝送線路L1との接続点と、無線送受信部3との間に設けられている。
【0029】
整合制御部9は、第1のスイッチング素子群1S及び第2のスイッチング素子群2Sをそれぞれ制御するために、第1のスイッチング素子群1Sの各スイッチング素子1S1、1S2、1S3、1S4それぞれに接続される第1の制御ラインL2が接続され、第2のスイッチング素子群2Sの各スイッチング素子2S1、2S2、2S3、2S4、2S5それぞれに接続される第2の制御ラインL3が接続されている。したがって、第1の制御ラインL2には、第1のスイッチング素子群1Sの各スイッチング素子1S1、1S2、1S3、1S4それぞれを制御するための第1のスイッチ制御信号が整合制御部9から伝送され、第2の制御ラインL3には、第2のスイッチング素子群2Sの各スイッチング素子2S1、2S2、2S3、2S4、2S5それぞれを制御するための第2のスイッチ制御信号が整合制御部9から伝送される。
【0030】
このように構成されたワイヤレス通信システムにおける通信端末1のアンテナ調整について説明する。なお、第1のスイッチング素子群1Sの各スイッチング素子1S1、1S2、1S3、1S4は、それぞれ対応する第1のスイッチ制御信号CS1が整合制御部9から伝送されてこない場合にはコモン接点と第1の切換接点とを繋いでおり、また、第2のスイッチング素子群2Sの各スイッチング素子2S1、2S2、2S3、2S4、2S5は、それぞれ対応する第2のスイッチ制御信号CS2が整合制御部9から伝送されてこない場合にはコモン接点と第1の切換接点とを繋いでいるものとする。
【0031】
通信端末1の信号処理部6及び無線送受信部3に電源部4から動作電源を供給後、アンテナ2を調整するために、信号生成部から所定の電気信号を信号処理部6に送出すると、信号処理部6は所定の電気信号を無線信号RSに変換して、伝送線路L1に伝送する。この際、方向性結合器7が、無線送受信部3が無線信号RSを送信する送信状態における反射波電力信号Pr及び進行波電力信号Pfをそれぞれ検出し、演算部8に出力する。演算部8は、方向性結合器7にて検出された反射波電力信号Pr及び進行波電力信号Pfを乗算して整合制御部9に出力する。整合制御部9は、演算部8の出力が0ワットとなるようにスタブ線路形成部5を構成する第1のスイッチング素子群1S及び第2のスイッチング素子群2Sをそれぞれ制御し、アンテナ2と伝送線路L1とのインピーダンスを整合させる。
【0032】
この整合制御部9による整合制御を具体的に説明すると、整合制御部9は演算部8の出力結果に基づき、第1のスイッチング素子群1Sの該当スイッチング素子に第1の制御ラインL2を介して第1のスイッチ制御信号を送出し、また、第2のスイッチング素子群2Sの該当スイッチング素子に第2の制御ラインL3を介して第2のスイッチ制御信号を送出する。
【0033】
例えば、第2のスイッチング素子群2Sのスイッチング素子2S3をオープンスタブとして機能させたい場合には、整合制御部9が、第1のスイッチング素子群1Sのスイッチング素子1S3に対応する第1のスイッチ制御信号を送出して、スイッチング素子1S3のコモン接点と第2の切換接点とを繋ぎ、さらに、第2のスイッチング素子群2Sのスイッチング素子2S4に対応する第2のスイッチ制御信号を送出して、スイッチング素子2S4のコモン接点と第2の切換接点とを繋げばよい。なお、第2のスイッチング素子群2Sのスイッチング素子2S5をショートスタブとして機能させたい場合には、整合制御部9が何れのスイッチ制御信号も送出しなければよい。
【0034】
ここで、伝送線路L1の特性インピーダンスをZとすると、インピーダンスZは次式で求めることができる。
【0035】
まず、スタブ線路が先端開放の場合には、
Z=jZcotβl
但し、β=2π/λgで、lはスタブ線路の線路長を含む伝送線路L1の線路長、λgは伝送線路中の波長である。
この場合の伝送線路を含むアンテナ全体のキャパシタンス成分は、
l<λg/4
で調整される。
また、この場合の伝送線路を含むアンテナ全体のインダクタンス成分は、
λg/4<l<λg/2
で調整される。
【0036】
次に、スタブ線路が先端短絡の場合には、
Z=−Ztanβl
但し、β=2π/λgで、lはスタブ線路の線路長を含む伝送線路L1の線路長、λgは伝送線路中の波長である。
この場合の伝送線路を含むアンテナ全体のキャパシタンス成分は、
λg/4<l<λg/2
で調整される。
また、この場合の伝送線路を含むアンテナ全体のインダクタンス成分は、
l<λg/4
で調整される。
【0037】
したがって、スタブ線路の線路長を含む伝送線路L1の線路長lと、スタブ線路の先端の状態(開放、短絡)を変化させることで、インダクタンス成分やキャパシタンス成分を制限されることなく作り出すことができ、また、その変化をワイヤレス通信システムでよく用いられるマイクロ波帯においてもLC素子より大きくすることが可能になる。
【0038】
このように、方向性結合器7により検出した反射波電力信号Pr及び進行波電力信号Pfを演算部8で乗算して、整合制御部9で演算部8の出力が0ワットとなるようにスタブ線路形成部5を構成する第1のスイッチング素子群1S及び第2のスイッチング素子群2Sをそれぞれ制御することで、通信端末1の設置された周囲環境に適合させるためのアンテナ2と伝送線路L1とのインピーダンス整合を効率よく行なうことができるようになる。
【0039】
また、無線送受信部3とアンテナ2間を接続する伝送線路L1のライン上にスタブ線路形成部5を並列接続させ、このスタブ線路形成部5のスタブ線路の線路長を第1のスイッチング素子群1Sにより可変させ、さらに、第1のスイッチング素子群1Sにより線路長が可変されたスタブ線路を第2のスイッチング素子群2Sの切換動作により開放又は短絡させることができるので、通信端末1の設置された周囲環境に適合させるためのアンテナ2と伝送線路L1とのインピーダンス整合を、バイアス電圧を印加することなく、而も実効キャパシタンスやインダクタンスが制限されることなく行なうことできる。したがって、アンテナの給電点において無線送受信部側に反射することなく、アンテナに十分電力を供給することができるようになる。
【0040】
なお、上述した実施例においてはスタブ線路形成部5を1個だけ形成していたが、これに限らず、図2に示すように、伝送路L1のライン上の波長λgに対応する所定の間隔λg/8で3個形成させてもよい。所定の間隔をλg/8に設定するのは、定在波電圧が小さい場合においてもインピーダンス整合の制御が容易になるからである。なお、図2においては、アンテナ、無線送受信部、方向性結合器、演算部及び整合制御部は図1のものと同一なので、同一符号を付して説明を省略する。また、図2においては、スタブ線路形成部5は3個形成されているので、第1のスタブ線路形成部を5A、第2のスタブ線路形成部を5B、第3のスタブ線路形成部を5Cと付している。なお、スタブ線路形成部の数は3個に限らず、定在波電圧が小さい場合においてもインピーダンス整合の制御が容易なλg/8の間隔でスタブ線路形成部を配置させるので、定在波電圧の大きさに応じてインピーダンス整合の制御が可能な4個以上でもよい。
【0041】
また、アンテナ2及びスタブ線路形成部5は図3に示すように、同一の基板10上にパターン形成され、スタブ線路形成部5を構成する第1のスイッチング素子群1Sのうち最上流の当該スイッチング素子1S1を、アンテナ2が有する放射パターンの給電点FPに接続するものでもよい。なお、図3においては、アンテナ、無線送受信部、スタブ線路形成部、方向性結合器、演算部及び整合制御部は図1のものと同一なので、同一符号を付して説明を省略する。
【0042】
アンテナ2及びスタブ線路形成部5を同一の基板10上にパターン形成するには、マイクロストリップラインやストリップラインが好ましく、基板10としてはFR−4(Flame Retardant Type4)基板が好ましい。使用周波数を3GHz帯とした場合、FR−4基板での実効波長λgは4.5cm程度となるので、スタブ線路の線路長を含む伝送線路L1の線路長lの最大幅はλg/2は2cm程度で済むことになる。
【0043】
このようにアンテナ2及びスタブ線路形成部5を同一の基板10上にパターン形成することで、アンテナ2が有する放射パターンの給電点FP上でアンテナ2と伝送線路L1とのインピーダンス整合を行なうことができるので、アンテナ2から発生する放射を抑えることができ、無線送受信部3から伝送線路L1を介してアンテナ2に向かう進行波電力信号Pfを効率よくアンテナ2に供給することができるようになる。
【0044】
また、各通信端末2には図1(B)に示すように、電源部4から無線送受信部3への電源供給を遮断するための電源供給遮断部11を備えるとよい。
このような電源供給遮断部11を備えることで、使用していない通信端末2が使用している他の通信端末2への電波干渉を防ぐことができると共に、システムの消費電力を削減することができる。
【0045】
なお、スイッチング素子としては、上述したような各スイッチング素子1S1、1S2、1S3、1S4、2S1、2S2、2S3、2S4、2S5としていたが、これに限らず、スタブ線路形成部5のスタブ線路の線路長を第1のスイッチング素子群1Sにより可変させ、さらに、第1のスイッチング素子群1Sにより線路長が可変されたスタブ線路を第2のスイッチング素子群2Sの切換動作により開放又は短絡させることができれば、FETスイッチでもよい。
【0046】
このようなワイヤレス通信システムは、互いに離れた2箇所の間でワイヤレス信号を送受信することによって無線通信を行うワイヤレスインターホンシステムの建物内に設置されるインターホン親機に好適である。
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0047】
1……通信端末
2……アンテナ
3……無線送受信部
4……電源部
5……スタブ線路形成部
1S……第1のスイッチ素子群
2S……第2のスイッチ素子群
7……方向性結合器
8……演算部
9……整合制御部
10……基板
11……電源遮断部
L1……伝送線路
Pr……反射波電力信号
Pf……進行波電力信号
図1
図2
図3