(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術は、回転打撃工具にてねじを締め付ける際に、打撃力が過大となって、ねじの頭をなめたり、ねじの頭が飛んでしまうのを防止するための技術である。
【0007】
しかし、打撃検出後のモータの駆動力の低減が不十分であると、打撃が短時間で繰り返し実行されて、ねじに加わる打撃力を充分抑制できず、ねじの頭を保護するという所期の目的を達成できないことがある。
【0008】
また、この問題を防止するために、打撃検出後のモータの駆動力を低減しすぎると、ハンマがアンビルを乗り上げることができず、打撃によりねじを締め付けることができなくなる。
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、打撃検出後にモータの駆動力を低減するよう構成された回転打撃工具において、打撃検出後に、ねじの締め付け不足を発生させることなく、打撃力を充分低減して、打撃力からねじを保護できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の回転打撃工具には、モータと、打撃機構とが備えられている。
打撃機構は、モータの回転力によって回転するハンマ、ハンマの回転力を受けて回転するアンビル、及び、アンビルに工具要素を装着するための装着部を備え、アンビルに対して外部から所定値以上のトルクが加わると、ハンマがアンビルから外れて空転し、アンビルを回転方向に打撃する。
【0011】
また、モータは、駆動手段によって、外部からの駆動指令に従い駆動され、打撃機構におけるハンマによる打撃は、打撃検出手段により検出される。
そして、打撃検出手段にて打撃が検出されると、制御手段が、駆動手段によるモータの駆動力を通常時の駆動力よりも低減し、モータの回転を低下させるが、この制御手段によるモータの駆動力の制御は、2段階で行われる。
【0012】
すなわち、制御手段は、打撃検出手段にて打撃が検出されると、予め設定された第1制御時間の間、駆動手段によるモータの駆動力を、打撃機構のハンマを空転させるのに必要な最低駆動力よりも低い第1駆動力に設定する。
【0013】
そして、その後、第1制御時間が経過すると、駆動手段によるモータの駆動力を、最低駆動力よりも高く、且つ、通常時の駆動力よりも低い、第2駆動力に設定する。
従って、本発明の回転打撃工具によれば、打撃機構による打撃間隔を、従来装置に比べて、少なくとも第1制御時間以上長くすることができる。
【0014】
つまり、従来装置では、ハンマによる打撃を検出すると、モータの駆動力を通常時よりも低下させるが、その駆動力は、ハンマによる打撃を間欠的に実施させるために、ハンマを空転させるのに要する最低駆動力よりも高くなるように設定される。
【0015】
これに対し、本発明では、ハンマによる打撃検出後、モータの駆動力を2段階に制御し、打撃検出直後には、その駆動力を、最低駆動力よりも低い第1駆動力に設定し、その後、駆動力を、最低駆動力よりも高い第2駆動力に切り換える。
【0016】
このため、本発明によれば、打撃機構による打撃間隔を、従来装置に比べて、少なくとも第1制御時間以上長くし、ハンマによる打撃が短時間で高速に実行されるのを防止することができる。
【0017】
よって、本発明の回転打撃工具によれば、アンビルから工具要素を介して締め付け対象となるねじに加わる打撃力(詳しくは単位時間当たりの打撃力)を低減することができる。
【0018】
また、本発明の回転打撃工具によれば、ハンマによる打撃間隔が長くなるので、使用者は、その打撃回数や打撃によるねじの締め付け状態等から、ねじの締め付け完了を検知して、駆動指令の入力を停止することができる。
【0019】
よって、本発明の回転打撃工具によれば、ハンマによる打撃によってねじを充分締め付けることができると共に、締め付け完了後の打撃によってねじに過大な打撃力が加わり、ねじが損傷するのを抑制できる。
【0020】
なお、制御手段が、駆動手段によるモータの駆動力を第1駆動力から第2駆動力に切り換えると、モータの回転力が増加し、ハンマがアンビルから外れて空転し、アンビルを打撃する。そして、その打撃は、打撃検出手段にて検出される。
【0021】
従って、制御手段は、打撃検出手段にて打撃が検出される度に、上述した手順でモータの駆動力を2段階に切り換えるようにしてもよい。
しかし、この場合、モータの駆動力を第2駆動力に切り換えてからハンマによる打撃が発生するまでの時間は、回転打撃工具の特性や使用条件により変動する。
【0022】
このため、制御手段がモータの駆動力を第2駆動力に制御する時間を、予め第2制御時間として設定しておき、打撃検出手段にて最初に打撃が検出された後は、制御手段が、第1駆動力、第1制御時間、第2駆動力、第2制御時間で決まる制御パターンで、モータの駆動力を制御するようにしてもよい。
【0023】
そして、このようにすれば、ハンマによる打撃間隔を一定時間間隔に制御することができるようになる。
次に、請求項2に記載の回転打撃工具においては、打撃検出手段による打撃検出後に、モータの駆動力を第1駆動力に設定して、第1制御時間が経過すると、制御手段は、モータの駆動力を、第2駆動力になるまで所定の変化割合にて漸増させる。
【0024】
このため、請求項2に記載の回転打撃工具によれば、モータの駆動力が第1駆動力から第2駆動力に急変するのを防止し、その駆動力の変更に伴い回転打撃工具に振動が発生するのを抑制できる。
【0025】
次に、請求項3に記載の回転打撃工具には、打撃機構の装着部に装着された工具要素の回転により加工される対象物の厚みを入力するための入力手段が備えられ、制御パラメータ設定手段が、入力手段から入力された対象物の厚みに基づき、制御手段が打撃検出手段による打撃検出後の制御に用いる制御パラメータの少なくとも一つを設定する。
【0026】
ここで、制御手段が打撃検出手段による打撃検出後の制御に用いる制御パラメータは、第1駆動力、第1制御時間、第2駆動力のことであり、上記のように、第2駆動力の継続時間である第2制御時間や、モータの駆動力を第1駆動力から第2駆動力に漸増させる際の変化割合が設定される場合には、これら各パラメータも含まれる。
【0027】
そして、請求項3に記載の回転打撃工具によれば、例えば、対象物が厚く、ねじの締め付けに要する時間が長くなる場合と、対象物が薄く、ねじの締め付けに要する時間が短くなる場合とで、制御パラメータを異なる値に設定できるようになる。
【0028】
よって、請求項3に記載の回転打撃工具によれば、ねじの対象物への締め付けを、対象物の厚みに応じて最適に実施することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、回転打撃工具の一例である充電式インパクトドライバ1に本発明を適用した場合について説明する。
【0031】
図1に示すように、本実施形態の充電式インパクトドライバ1は、工具本体10と、工具本体10に電力を供給するバッテリパック30とにより構成されている。
工具本体10は、後述するモータ4や打撃機構6等が収容されたハウジング2と、ハウジング2の下部(
図1の下側)から突出するように形成されたグリップ部3とにより構成されている。
【0032】
ハウジング2内には、その後部(
図1の左側)にモータ4が収容されていると共に、そのモータ4の前方(
図1の右側)に釣鐘状のハンマケース5が組み付けられており、このハンマケース5内に打撃機構6が収容されている。
【0033】
すなわち、ハンマケース5内には、後端側に中空部が形成されたスピンドル7が同軸で収容されており、ハンマケース5内の後端側に設けられたボールベアリング8が、このスピンドル7の後端外周を軸支している。
【0034】
スピンドル7におけるボールベアリング8の前方部位には、回転軸に対して点対称で軸支された2つの遊星歯車からなる遊星歯車機構9が、ハンマケース5の後端側内周面に形成されたインターナルギヤ11に噛合している。
【0035】
この遊星歯車機構9は、モータ4の出力軸12の先端部に形成されたピニオン13と噛合するものである。
そして、打撃機構6は、スピンドル7と、スピンドル7に外装されたハンマ14と、このハンマ14の前方側で軸支されるアンビル15と、ハンマ14を前方へ付勢するコイルバネ16とから構成される。
【0036】
つまり、ハンマ14は、スピンドル7に対して一体回転可能且つ軸方向へ移動可能に連結されており、コイルバネ16により前方(アンビル15側)に付勢されている。
また、スピンドル7の先端部は、アンビル15の後端に同軸で遊挿されることで回転可能に軸支されている。
【0037】
アンビル15は、ハンマ14による回転力及び打撃力を受けて軸回りに回転するものであり、ハウジング2の先端に設けられた軸受20によって、軸回りに回転自在かつ軸方向に変位不能に支持されている。
【0038】
また、アンビル15の先端部には、ドライバビットやソケットビット等の各種工具ビット(図示略)を装着するためのチャックスリーブ19が設けられている。
なお、モータ4の出力軸12、スピンドル7、ハンマ14、アンビル15、及びチャックスリーブ19は、いずれも同軸状となるように配置されている。
【0039】
また、ハンマ14の前端面には、アンビル15に打撃力を与えるための2つの打撃突部17,17が周方向に180°の間隔を隔てて突設されている。
一方、アンビル15には、その後端側に、ハンマ14の各打撃突部17,17が当接可能に構成された2つの打撃アーム18,18が周方向に180°の間隔を隔てて形成されている。
【0040】
そして、ハンマ14がコイルバネ16の付勢力でスピンドル7の前端側に付勢・保持されることで、そのハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18に当接するようになる。
【0041】
この状態で、モータ4の回転力により遊星歯車機構9を介してスピンドル7が回転すると、ハンマ14がスピンドル7と共に回転し、そのハンマ14の回転力が打撃突部17,17と打撃アーム18,18とを介してアンビル15に伝達される。
【0042】
これにより、アンビル15の先端に装着されたドライバビット等が回転し、ねじ締めが可能となる。
そして、ねじが所定位置まで締め付けられることにより、アンビル15に対して外部から所定値以上のトルクが加わると、そのアンビル15に対するハンマ14の回転力(トルク)も所定値以上になる。
【0043】
これにより、ハンマ14がコイルバネ16の付勢力に抗して後方に変位し、ハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18を乗り越えるようになる。つまり、ハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18から一旦外れ、空転する。
【0044】
このようにハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18を乗り越えると、ハンマ14は、スピンドル7と共に回転しつつコイルバネ16の付勢力で再び前方へ変位し、ハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18を回転方向に打撃する。
【0045】
従って、本実施形態の充電式インパクトドライバ1においては、アンビル15に対して所定値以上のトルクが加わる毎に、そのアンビル15に対してハンマ14による打撃が繰り返し行われる。そして、このようにハンマ14の打撃力がアンビル15に間欠的に加えられることにより、ねじを高トルクで増し締めすることができる。
【0046】
次に、グリップ部3は、作業者が当該充電式インパクトドライバ1を使用する際に把持する部分であり、その上方にトリガスイッチ21が設けられている。
このトリガスイッチ21は、作業者により引き操作されるトリガ21aと、このトリガ21aの引き操作によりオン・オフされるとともにこのトリガ21aの操作量(引き量)に応じて抵抗値が変化するように構成されたスイッチ本体部21bとを備えている。
【0047】
また、トリガスイッチ21の上側(ハウジング2の下端側)には、モータ4の回転方向を正転方向(本実施形態では、工具の後端側から前方を見た状態で右回り方向)又は逆転方向(正転方向とは逆の回転方向)の何れか一方に切り替えるための正逆切替スイッチ22が設けられている。
【0048】
更に、ハウジング2の下部前方には、トリガ21aが引き操作されたときに当該充電式インパクトドライバ1の前方を光で照射するための照明LED23が設けられている。
また、グリップ部3における前方下部には、ねじを固定する対象物の板厚等、充電式インパクトドライバ1における各種設定値や、バッテリパック30内のバッテリ29の残量等を表示すると共に、各種設定値の変更を受け付けるための操作・表示パネル24が設けられている。
【0049】
また、グリップ部3の下端には、バッテリ29を収容したバッテリパック30が、着脱自在に装着されている。このバッテリパック30は、装着時にはグリップ部3の下端に対してその前方側から後方側へとスライドさせることにより装着される。
【0050】
バッテリパック30に収容されたバッテリ29は、本実施形態では、例えばリチウムイオン2次電池など、繰り返し充電可能な2次電池である。
また、モータ4は、本実施形態では、U,V,W各相の電機子巻線を備えた3相ブラシレスモータにて構成されている。そして、モータ4には、モータ4の回転位置を検出するホールIC50(
図2参照)が設けられている。
【0051】
また、グリップ部3の内部には、バッテリパック30から電力供給を受けて、モータ4を駆動制御するモータ駆動装置40(
図2参照)が設けられている。
このモータ駆動装置40には、
図2に示すように、駆動回路42、ゲート回路44、制御回路46、及び、レギュレータ48が設けられている。
【0052】
駆動回路42は、バッテリ29から電源供給を受けて、モータ4の各相巻線に電流を流すためのものであり、本実施形態では、6つのスイッチング素子Q1〜Q6からなる3相フルブリッジ回路として構成されている。なお、各スイッチング素子Q1〜Q6は、本実施形態ではMOSFETである。
【0053】
駆動回路42において、3つのスイッチング素子Q1〜Q3は、モータ4の各端子U,V,Wと、バッテリ29の正極側に接続された電源ラインとの間に、いわゆるハイサイドスイッチとして設けられている。
【0054】
また、他の3つのスイッチング素子Q4〜Q6は、モータ4の各端子U,V,Wと、バッテリ29の負極側に接続されたグランドラインとの間に、いわゆるローサイドスイッチとして設けられている。
【0055】
また、ゲート回路44は、制御回路46から出力された制御信号に従い、駆動回路42内の各スイッチング素子Q1〜Q6をオン/オフさせることで、モータ4の各相巻線に電流を流し、モータ4を回転させるものである。
【0056】
次に、制御回路46は、CPU、ROM、RAM等を中心とするマイクロコンピュータ(マイコン)にて構成されている。そして、制御回路46には、上述したトリガスイッチ21(詳しくはスイッチ本体部21b)、正逆切替スイッチ22、照明LED23、操作・表示パネル24が接続されている。
【0057】
また、モータ駆動装置40において、駆動回路42からバッテリ29の負極側に至る通電経路には、モータ4に流れた電流を検出するための電流検出用抵抗54が設けられている。そして、この電流検出用抵抗54の両端電圧(詳しくはバッテリ29の負極側とは反対側の電圧)は、電流検出信号として制御回路46に入力される。
【0058】
また、モータ駆動装置40には、バッテリ29からの供給電圧(バッテリ電圧)を検出するバッテリ電圧検出部52、ハンマ14による打撃を検出する打撃検出部60も設けられている。そして、制御回路46には、これら各検出部52、60からの検出信号、及び、モータ4に設けられたホールIC50からの検出信号も入力される。
【0059】
なお、ホールIC50は、モータ4の各相に対応して配置される3つのホール素子を備え、モータ4の所定回転角度毎に回転検出信号を発生する周知のものである。
また、打撃検出部60は、ハンマ14の打撃突部17がアンビル15の打撃アーム18を打撃することにより発生する打撃音又は振動を検出する打撃検出素子を備え、この打撃検出素子からの検出信号をノイズ除去用のフィルタを介して、制御回路46に入力する。
【0060】
次に、制御回路46は、トリガスイッチ21が操作されると、ホールIC50からの回転検出信号に基づきモータ4の回転位置及び回転速度を求め、正逆切替スイッチ22からの回転方向設定信号に従い、モータ4を所定の回転方向に駆動する。
【0061】
また、制御回路46は、モータ4の駆動時には、トリガスイッチ21の操作量(引き量)に応じてモータ4の目標回転速度を設定する。
そして、制御回路46は、モータ4の回転速度が目標回転速度となるよう、駆動回路42を構成する各スイッチング素子Q1〜Q6の駆動デューティ比を設定し、その駆動デューティ比に応じた制御信号をゲート回路44に出力することで、モータ4の回転速度を制御する。
【0062】
また、制御回路46は、こうしたモータ4駆動のための駆動制御とは別に、モータ駆動時に照明LED23を点灯させる制御や、操作・表示パネル24からの操作指令に従い、対象物の板厚等、各種設定値の表示及び更新を行う表示更新処理も実行する。
【0063】
なお、レギュレータ48は、バッテリ29から電源供給を受けて、制御回路46を動作させるのに必要な一定の電源電圧Vcc(例えば、直流5V)を生成するものであり、制御回路46は、レギュレータ48から電源電圧Vccが供給されることにより動作する。
【0064】
次に、制御回路46にて実行される各種制御処理の内、モータ4を正転方向に回転させて、チャックスリーブ19に装着されたドライバビット等の工具要素にてねじを対象物に固定する際に実行される、ねじ締め制御処理について、
図3〜
図5に示すフローチャートに沿って説明する。
【0065】
図3に示すように、このねじ締め制御処理では、まず、S110(Sはステップを表す)にて、所定の基準時間が経過したか否かを判断する。
そして、所定の基準時間が経過していなければ、再度S110の処理を実行することにより、基準時間が経過するのを待ち、基準時間が経過すると、S120の速度指令設定処理、S130の板厚設定処理、S140の打撃検出処理、及び、S150のモータ制御処理、を順次実行し、再度S110に移行する。
【0066】
つまり、ねじ締め制御処理では、S120〜S150の一連の制御処理を、所定の基準時間毎に、周期的に実行する。
ここで、S120の速度指令設定処理では、トリガスイッチ21の操作量(引き量)に基づき、その操作量に対応したモータ4の目標回転速度を設定する。
【0067】
また、S130の板厚設定処理では、操作・表示パネル24を介して使用者により設定された対象物の板厚を、制御回路46内のメモリ(ROM若しくは不揮発性RAM)から読み込み、その読み込んだ板厚に基づき、モータ4の駆動制御に用いる各種制御パラメータを設定する。
【0068】
なお、この制御パラメータには、後述する打撃検出後モータ制御処理で用いられる制御パラメータ、詳しくは、駆動デューティ比の最小値Dmin 及び最大値Dmax 、駆動デューティ比の単位時間当たりの増加分である傾き値△D、第1制御時間及び第2制御時間、が含まれる。
【0069】
また、S140の打撃検出処理では、打撃検出部60から入力される検出信号に基づき、ねじの頭が対象物に当接(着座)したことを検知し、その旨を表す着座フラグFiを、オン状態にセットする。
【0070】
そして、S150のモータ制御処理では、トリガスイッチ21が操作されているとき、モータ4を駆動制御すると共に、その制御を、着座フラグFiがセットされているか否かによって切り換える。
【0071】
次に、S150のモータ制御処理は、
図4に示す手順で実行される。
すなわち、S150のモータ制御処理では、まず、S210にて、トリガスイッチ21(詳しくはスイッチ本体部21b)がオン状態であるか否かを判断することにより、トリガスイッチ21が使用者により操作されているか否かを判断する。
【0072】
そして、トリガスイッチ21がオフ状態であり、使用者により操作されていなければ、S220に移行して、S130の板厚設定処理で設定された各種制御パラメータを読み込み、当該モータ制御処理を終了する。
【0073】
一方、S210にて、トリガスイッチ21がオン状態であり、使用者により操作されていると判断されると、S230に移行して、着座フラグFiがセットされているか否か(つまりオン状態であるか否か)を判断する。
【0074】
そして、S230にて、着座フラグFiがセットされていないと判断されると、S240に移行し、打撃検出前モータ制御処理を実行した後、当該モータ制御処理を終了する。
なお、この打撃検出前モータ制御処理では、ホールIC50からの回転検出信号に基づき算出されるモータ4の回転速度を、S120にて設定された目標回転速度に制御するのに必要な駆動デューティ比を算出し、その駆動デューティ比とモータ4の回転位置とに基づき制御信号を生成して、ゲート回路44に出力する、といった手順で実行される。
【0075】
つまり、S240では、生成した制御信号により、ゲート回路44を介して、駆動回路42内の各スイッチング素子Q1〜Q6をオン/オフさせることで、モータ4を、トリガスイッチ21の引き量に応じた回転速度で回転させる。
【0076】
次に、S230にて、着座フラグFiがセットされていると判断されると、S250に移行し、打撃検出後モータ制御処理を実行した後、当該モータ制御処理を終了する。
ここで、打撃検出後モータ制御処理は、モータ4の駆動力を制御するのに用いられる駆動デューティ比を、打撃検出前モータ制御処理での駆動デューティ比よりも小さい値に設定することで、モータ4の回転速度を打撃検出前よりも低下させるための処理である。
【0077】
そして、本実施形態において、この打撃検出後モータ制御処理では、
図6に示すように、
(1)モータ4の駆動力がハンマ14を空転させるのに要する駆動力よりも小さくなるよう、モータ4の駆動デューティ比(duty)を一旦最小値Dmin まで低下させ(時点t0)、
(2)その状態が一定の第1制御時間経過すると(時点t1)、モータ4の駆動デューティ比(duty)を一定の変化率(傾き値△D)にて徐々に増加(漸増)させ、
(3)駆動デューティ比(duty)が最大値Dmax に達すると(時点t2)、駆動デューティ比(duty)を最大値Dmax に保持し、
(4)駆動デューティ比(duty)の最大値Dmax での保持時間が、一定の第2制御時間に達すると(時点t3)、モータ4の駆動デューティ比(duty)を再度最小値Dmin まで低下させる、
といった手順で、モータ4の駆動デューティ比(duty)を、大小2段階で周期的に切り換える。
【0078】
つまり、S140の打撃検出処理にて、ハンマ14による打撃が検出されると、その後、使用者がトリガスイッチ21(詳しくはトリガ21a)の操作を継続している間は、打撃が繰り返し発生することになり、その間隔が短いと、ねじに加わる打撃力が過大となって、ねじが損傷することがある。
【0079】
そこで、本実施形態では、
図6に示すように、打撃検出後モータ制御処理にて、モータ4の駆動デューティ比(duty)を2段階に周期的に切り換えることで、打撃の発生間隔を長くし、ねじの締め付け時にねじに加わる打撃力を抑えるのである。
【0080】
なお、打撃検出後モータ制御処理は、モータ4の駆動力を、打撃検出前モータ制御処理よりも低減して、ハンマ14による打撃力を抑制する制御であることから、打撃検出後モータ制御処理で用いられる駆動デューティ比の最大値Dmax には、打撃検出前モータ制御処理で用いられる駆動デューティ比よりも小さい値が設定される。
【0081】
以下、このように駆動デューティ比(duty)を切り換えるために実行される打撃検出後モータ制御処理を、
図5に示すフローチャートに沿って説明する。
図5に示すように、打撃検出後モータ制御処理が開始されると、まずS310にて、第2制御実行フラグF2がクリアされているか否かを判断し、第2制御実行フラグF2がクリアされていれば、S320に移行して、第1制御完了フラグF1がクリアされているか否かを判断する。
【0082】
なお、第1制御完了フラグF1及び第2制御実行フラグF2は、S140の打撃検出処理で着座フラグFiがセットされるまでは、初期値であるクリア状態に設定されるフラグである。
【0083】
そして、第1制御完了フラグF1は、当該打撃検出後モータ制御処理にて、モータ4の駆動デューティ比を最小値Dmin に設定する第1制御開始後、第1制御時間が経過したとき(
図6に示す時点t1)にセットされ、その後、モータ4の駆動デューティ比を最大値Dmax に設定する第2制御が開始されて、第2制御時間が経過したとき(
図6に示す時点t3)にクリアされる。
【0084】
また、第2制御実行フラグF2は、当該打撃検出後モータ制御処理にて、モータ4の駆動デューティ比を最大値Dmax に設定する第2制御が開始されたとき(
図6に示す時点t2)にセットされ、その後、第2制御時間が経過して、第2制御が終了されるとき(
図6に示す時点t3)にクリアされる。
【0085】
次に、S320にて、第1制御完了フラグF1がクリアされていると判断されると、S330に移行して、計時用カウンタCtの値が、第1制御時間に対応した第1カウント値Cset1を越えたか否かを判断することで、第1制御時間が経過したか否かを判断する。
【0086】
そして、S330にて、第1制御時間は経過していないと判断されると、S340に移行して、モータ4の駆動デューティ比(duty)に最小値Dmin を設定し、続くS350にて、計時用カウンタCtの値をインクリメント(+1)した後、S360のモータ駆動処理に移行する。
【0087】
また、S330にて、第1制御時間が経過したと判断されると、S370に移行して、第1制御完了フラグF1をセットし、S360のモータ駆動処理に移行する。
次に、S320にて、第1制御完了フラグF1はセットされていると判断されると、S380に移行し、駆動デューティ比(duty)は、最大値Dmax よりも小さいか否かを判断する。
【0088】
そして、S320にて、駆動デューティ比(duty)は最大値Dmax よりも小さいと判断されると、S390に移行して、駆動デューティ比(duty)に、上述した傾き値△Dを加算することで、駆動デューティ比(duty)を更新し、S360のモータ駆動処理に移行する。
【0089】
また、S320にて、駆動デューティ比(duty)は最大値Dmax 以上であると判断されると、S400に移行して、駆動デューティ比(duty)に、最大値Dmax を設定する。
そして、続くS410では、計時用カウンタCtをクリアし、続くS420にて、第2制御実行フラグF2をセットし、S360のモータ駆動処理に移行する。
【0090】
次に、S310にて、第2制御実行フラグF2はセットされていると判断されると、S430に移行し、計時用カウンタCtの値が、第2制御時間に対応した第2カウント値Cset2を越えたか否かを判断することで、第1制御時間が経過したか否かを判断する。
【0091】
そして、S430にて、第2制御時間は経過していないと判断されると、S440に移行して、モータ4の駆動デューティ比(duty)に最大値Dmax を設定し、続くS450にて、計時用カウンタCtの値をインクリメント(+1)した後、S360のモータ駆動処理に移行する。
【0092】
また、S430にて、第2制御時間が経過したと判断されると、S460に移行して、モータ4の駆動デューティ比(duty)に最小値Dmin を設定し、続くS470にて、計時用カウンタCtをクリアし、S480にて、第1制御完了フラグF1及び第2制御実行フラグF2をクリアし、S360のモータ駆動処理に移行する。
【0093】
そして、S360のモータ駆動処理では、上記のように設定若しくは更新される駆動デューティ比(duty)と、モータ4の回転位置とに基づき制御信号を生成して、ゲート回路44に出力することで、モータ4を、駆動デューティ比(duty)に対応した駆動力で駆動する。
【0094】
この結果、S140の打撃検出処理にて、ハンマ14による打撃が検出されて、着座フラグFiがオン状態にセットされると、その後、使用者がトリガスイッチ21の操作を中止するか、その操作を抑制することにより、着座フラグFiがオフ状態になるまで、モータ4の駆動力が、
図6に示した駆動デューティ比(duty)に応じて周期的に変化することになる。
【0095】
そして、このように駆動デューティ比(duty)が変化する一周期の間で、少なくとも第1制御時間の間は、モータ4の駆動力(換言すればモータ4の回転力)を、ハンマ14を空転させるのに要する最低駆動力よりも小さい駆動力に制御する、第1制御を実行する。
【0096】
従って、本実施形態の充電式インパクトドライバ1において、ハンマ14による打撃間隔は、上記第1制御を実行しない従来装置に比べて、少なくとも第1制御時間以上長くなり、ハンマ14による打撃が短時間で高速に実行されるのを防止できる。
【0097】
よって、本実施形態の充電式インパクトドライバ1によれば、工具要素であるドライバビットを介してねじを対象物に締め付け固定する際に、ねじに加わる打撃力(詳しくは単位時間当たりの打撃力)を低減することができる。
【0098】
また、本実施形態の充電式インパクトドライバ1によれば、ハンマ14による打撃間隔を長くすることができるので、使用者は、打撃1回毎に打撃を確認できるようになり、その打撃回数や打撃によるねじの締め付け状態等から、ねじの締め付け完了を検知して、トリガスイッチ21の操作を中止することができる。
【0099】
このため、本実施形態の充電式インパクトドライバ1によれば、ハンマ14による打撃によってねじを充分締め付けることができると共に、締め付け完了後の打撃によってねじに過大な打撃力が加わり、ねじが損傷するのを抑制できる。
【0100】
また、本実施形態の充電式インパクトドライバ1においては、ハンマ14による打撃検出後のモータ4の駆動デューティ比(duty)の変化パターンを、駆動デューティ比の最小値Dmin 、最大値Dmax 、傾き値△D、第1制御時間、及び、第2制御時間からなる5つの制御パラメータにて設定する。
【0101】
従って、本実施形態の充電式インパクトドライバ1によれば、ハンマ14による打撃間隔を、これら制御パラメータにて、任意に設定することができる。
そして、特に、本実施形態では、制御回路46にて実行されるS130の板厚設定処理にて、上記5つの制御パラメータを、操作・表示パネル24を介して使用者により設定された対象物の板厚に応じて、自動設定するようにされている。
【0102】
このため、使用者は、板厚の設定により、ねじの締め付け時に発生する打撃の発生パターンを適宜変更することができる。
よって、本実施形態によれば、使用者による充電式インパクトドライバ1の使い勝手を向上することもできる。
【0103】
なお、本実施形態において、チャックスリーブ19は、本発明の装着部に相当し、操作・表示パネル24は、本発明の入力手段に相当し、駆動回路42は、本発明の駆動手段に相当し、打撃検出部60は、本発明の打撃検出手段に相当し、制御回路46は、本発明の制御手段及び制御パラメータ設定手段に相当する。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
例えば、上記実施形態では、ハンマ14による打撃を検出した後は、モータ4の駆動デューティ比を、
図6に示す変化パターンにて変化させるものとして説明したが、例えば、第2制御時間は、打撃検出部60からの検出信号にて打撃を検出する迄の時間としてもよい。つまり、第2制御時間は、必ずしも一定時間となるように計時する必要はない。
【0105】
また、上記実施形態では、ハンマ14による打撃検出後の制御パラメータである、最小値Dmin 、最大値Dmax 、傾き値△D、第1制御時間、及び、第2制御時間を、全て、対象物の板厚に応じて設定するものとして説明した。しかし、対象物の板厚に応じて設定する制御パラメータは、これら5つの制御パラメータの中から選択される一つ若しくは複数の制御パラメータにしてもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、その制御パラメータとして、傾き値△Dを設定することで、第1制御時間の経過後、駆動デューティ比(duty)を最小値Dmin から最大値Dmax へ徐々に増加させるものとして説明したが、駆動デューティ比(duty)は、最小値Dmin から最大値Dmax へ直ぐ変更するようにしてもよい。
【0107】
また次に、上記実施形態では、打撃検出部60に、打撃音若しくは振動を検出する打撃検出素子を設け、その打撃検出素子からの打撃音の検出信号、若しくは、振動の検出信号から、打撃を検出するものとして説明した。
【0108】
しかし、制御回路46にて打撃を検出する際には、電流検出用抵抗54から入力される電流検出信号、バッテリ電圧検出部52から入力される電圧検出信号、或いは、ホールIC50から入力される回転検出信号、を用いるようにしてもよい。
【0109】
つまり、ハンマ14がアンビル15を打撃する際には、外部からアンビル15に加わるトルクが上昇することにより、モータ4に加わる負荷が増加し、その後、ハンマが空転することによりモータ4に加わる負荷が低下する。
【0110】
このため、モータ4には回転変動が生じ、この回転変動により、モータ4に流れる電流、モータ4に印加されるバッテリ電圧、及び、モータ4の回転速度が変化する。従って、制御回路46は、これら各パラメータの変化に基づき、打撃を検出するようにしてもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、制御回路46はマイコンにて構成されるものとして説明したが、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuits)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブル・ロジック・デバイスで構成してもよい。
【0112】
また、制御回路46が実行する各種制御処理は、制御回路46を構成するCPUがプログラムを実行することにより実現されるが、このプログラムは、制御回路46内のメモリ(ROM若しくは不揮発性RAM)に書き込まれていてもよく、制御回路46からデータを読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。
【0113】
なお、記録媒体としては、持ち運び可能な半導体メモリ(例えばUSBメモリ、メモリカード(登録商標)など)を使用することができる。
また、本発明は、上記実施形態の充電式インパクトドライバ1に限定されるものではなく、モータにより駆動される打撃機構を備えた回転打撃工具であれば適用することができる。
【0114】
また、上記実施形態では、モータ4は、3相ブラシレスモータにて構成されるものとして説明したが、打撃機構6を回転駆動可能なモータであればよい。
つまり、例えば、本発明の回転打撃工具は、バッテリ式ものに限らず、コードを介して電力の供給を受けるものに適用されてもよいし、交流モータによって工具要素を回転駆動させるように構成されたものであってもよい。
【0115】
また、駆動回路42を構成する各スイッチング素子Q1〜Q6は、MOSFET以外のスイッチング素子(例えば、バイポーラトランジスタなど)であってもよい。
また、上記実施形態では、バッテリ29がリチウムイオン二次電池であるものとして説明したが、これはあくまでも一例であり、例えばニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム蓄電池など、他の二次電池であってもよい。