(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した切削液噴射装置では、クーラント供給用ノズルが回転駆動すると共に切削液をツールやワークに供給することで、工作機械のツールやワークに付着した切粉を除去するようになっている。しかしながら、複雑な形状の切粉がツールやワークに絡まったり、引っ掛ったりした場合、切削液噴射装置を含む工作機械の運転を一旦停止し、作業者が切粉を手作業で除去する余分な作業が発生する。そのため、工作機械の連続運転ができず、加工時間の短縮化を図れないという問題が生じる。
【0005】
そこで、このような切粉がツールやワークに絡まったり引っ掛ったりした場合にも、切削液噴射装置及び工作機械を停止しないでこの切粉を除去可能な切削液噴射装置が知られている(例えば、特開平10−118884号公報参照)。この切削液噴射装置の構成は、クーラント供給用ノズルと、クーラント供給用ノズルを回転駆動するモータと、切削液供給用のポンプとを備えている。そして、この切削液噴射装置では、クーラント供給用ノズルが回転駆動すると共にポンプ圧を調整することで、切削液の噴射圧力を調整し、切粉を除去するようになっている。しかしながら、この切削液噴射装置は、切削液の噴射圧力調整のための大掛かりなポンプを必要とし、設備費が嵩みコスト低減が図れないという問題が生じている。
【0006】
図5は、このような従来の切削液噴射装置の一般的な構成を示す概略的なブロック図である。係る切削液噴射装置5は、NC旋盤60からなる工作機械のツール51にクーラント液を兼ねた切削液90(以下単に「切削液90」とする)を供給すると共に、工作機械のツール51に付着した切粉を除去する装置である。そして、この切削液噴射装置5は、切削液90を噴射する切削液噴射ノズル10を回転駆動することで、切削液噴射ノズル先端10aを所定の角度範囲内において一定速度Voで移動させる切削供給装置20と、切削供給装置20に内蔵されたモータの駆動及び切削液90の噴射を制御する制御部30とを有している。なお、ツール51は、ツール保持部50に保持されている。
【0007】
係る切削液噴射装置5は、その切削液噴射ノズル先端10aを所定の角度範囲内において一定速度Voで移動させるようになっているため、切削液をツール51に噴射しても、ツール51で切削したワーク61から生じた形状の複雑な切粉がこのツール51に引っ掛かったまま取り除くことができなくなることがある。
【0008】
本発明の目的は、工作機械のツールやワークに付着した切粉を効率良く除去可能で廉価な切削液噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の切削液噴射装置は、
工作機械によるワークの加工時に該工作機械に備わった工具やワークに切削液を供給する切削液噴射ノズルと、
前記切削液噴射ノズルの噴射角度を調整可能な駆動モータと、
前記駆動モータを制御する制御手段を有する切削液噴射装置において、
前記制御手段は、切粉を除去する切粉除去動作モード制御が可能であ
る切削液噴射装置
であって、
前記切粉除去動作モードは、前記噴射角度の調整範囲内で、前記切削液噴射ノズルの角度移動速度を変化させるようになっており、
工具やワークに切粉が付着したときに、該付着した前記切粉に前記切削液が当たる時点の前記切削液噴射ノズルの噴射角度を速度切換地点とし、該速度切換地点の近傍で前記角度移動速度が変化することを特徴としている。
【0010】
請求項1に係る切削液噴射装置がこのような構成を有することで、作業者の手によらず短時間で、ツールやワークに絡みついた複雑な形状の切粉を一気に払い除く(除去する)ことができる。その結果、ツールやワークが様々な形状を有していたり様々な材質でできていても、係るツールやワークに絡まったり引っ掛ったり付着した切粉を効果的に除去することが可能になる。そのため、特許文献1のように切削液噴射装置を含む工作機械の運転を一旦停止して、作業者が手作業で切粉を除去する面倒な作業が発生せず、工作機械の連続運転が可能となるためワーク加工時間の短縮化を図ることができる。
【0011】
また、上述した後者の従来技術における切削液の噴出圧調整用ポンプ等の大掛かりな設備を必要としない。また、切削液の流速についても積極的に変化させる必要がなく、切削液の流速管理に必要な流量制御弁やその制御部等の複雑な装置を必要としない。そのため、切削液噴射装置の製造コストの低減を図ることができる。
【0013】
また、請求項
1に係る切削液噴射装置がこのような構成を有することで、切削液噴射ノズルから噴射した切削液の噴射力の大きさや方向が瞬間的に変化する。このため、ツールやワークに絡みついた複雑な形状の切粉を除去することが可能になる。
【0015】
また、請求項
1に係る切削液噴射装置がこのような構成を有することで、ツールやワークに絡まったり引っ掛ったり付着した切粉の位置の近傍で、切削液の噴射力の大きさや方向が瞬間的に変化するため、様々なツールやワークに付着等した切粉をより効率的に除去することができる。
【0016】
また、本発明の請求項
2に係る切削液噴射装置は、請求項
1に記載の切削液噴射装置において、前記切削液噴射ノズルが動作を開始する動作開始地点及び動作を終了する動作終了地点、前記速度切換地点、前記角度移動速度および前記切粉除去動作モードの反復回数は、前記制御手段に予め設定可能であることを特徴としている。
【0017】
請求項
2に係る切削液噴射装置がこのような構成を有することで、ツールやワークの形状や材質に応じて切削液噴射ノズルの移動開始地点及び移動終了地点、速度切換地点を切粉除去に関して最も効果を上げる最適な条件となるように制御手段で簡単に設定できる。また、除去したい切粉の種類や量に合わせて角度移動速度、反復回数を最適な条件となるように制御手段で簡単に設定できる。そのため、様々なツールやワークを変わるがわる使用する際に、切粉除去に伴う条件設定の変更にかかる時間を短縮でき、加工効率を高めて製品の生産性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の請求項
3に係る切削液噴射装置は、請求項
1または2に記載の切削液噴射装置において、前記切削液噴射ノズルの前記動作開始地点から前記速度切換地点までの速度を第1速度とし、前記速度切換地点から前記動作終了地点までの速度を第2速度とし、前記第1速度と前記第2速度は、相対的に異なる速度であることを特徴としている。
【0019】
請求項
3に係る切削液噴射装置がこのような構成を有することで、制御手段において容易に設定することができることに加え、様々な形状や材質のツールやワークに付着等した切粉に対応した切粉の除去が可能になる。
【0020】
また、本発明の請求項
4に係る切削液噴射装置は、請求項
2に記載の切削液噴射装置において、前記切削液噴射ノズルが前記動作終了地点に近づくにつれ、前記切削液噴射ノズルの前記角度移動速度を徐々に減速させることを特徴としている。
【0021】
請求項
4に係る切削液噴射装置がこのような構成を有することで、モータやシステムに過大な負荷が生じることがないためモータやシステムが損傷する危険性を回避できる。
【0022】
また、本発明の請求項
5に係る切削液噴射装置は、請求項
2に記載の切削液噴射装置において、前記切削液噴射ノズルは往復運動が可能であり、前記切粉除去動作モード制御は、往路において前記切削液噴射ノズルが動作終了地点に到達した後に、復路においては、前記往路での動作開始地点を動作終了地点に、前記往路での動作終了地点を動作開始地点に、それぞれ置き換えて、前記切削液噴射ノズルの往復運動を行うことを特徴としている。
【0023】
請求項
5に係る切削液噴射装置がこのような構成を有することで、往路から復路への移行が円滑に行え、より短時間で切粉の除去を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、工作機械のツールやワークに付着した切粉を効率良く除去可能で廉価な切削液噴射装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る切削液噴射装置について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る切削液噴射装置の概略を示す正面図である。
【0027】
本発明の一実施形態に係る切削液噴射装置1は、工作機械の一つであるNC旋盤60に装着されたツール51にクーラント液を兼ねた切削液90(以下単に「切削液90」とする)を供給すると共に、NC旋盤60のツール51に付着した切粉65を除去する装置である。そして、この切削液噴射装置1は、切削液90を噴射する切削液噴射ノズル10及び切削液噴射ノズル10の向きを変えるモータ21を有し切削液噴射ノズル10の切削液噴射ノズル先端10aを所定の角度範囲内で移動させる切削液供給装置20と、モータ21の駆動及び動作モードの切り換え並びに切削液90の噴射を制御する制御部30とを有している。そして、制御部30は、モータ21のモータ駆動回路31、モータ制御部32、及び工作機械制御部33を有している。
【0028】
切削液噴射ノズル10は、その基端が切削液供給装置20を介してここでは図示しない切削液供給源に繋がっており、切削液供給装置20から供給された切削液90をツール51に噴射するようになっている。そして、モータ21の駆動に伴って切削液噴射ノズル10が所定の角度範囲内でその向きを変え、これにあわせて切削液噴射ノズル先端10aが所定の角度移動速度で移動するようになっている。なお、本実施形態及び後述する好適な実施例では、切削液噴射ノズル先端10aにおける速度を本発明における角度移動速度として扱う。また、切削液噴射ノズル先端10aにおける角度移動速度Vは、モータ21によって回転駆動される切削液噴射ノズル10の角速度をω、切削液噴射ノズル10の回転中心から切削液噴射ノズル先端10aまでの距離をrとすると、V=ω×rで表される。
【0029】
モータ21は、切削液噴射装置1の筐体内部に搭載され、制御部30からの指令信号及び供給電力によって駆動するようになっている。そして、本実施形態ではDCモータを使用している。なお、本実施形態におけるDCモータはブラシ付きモータであってもブラシレスモータであっても良い。一方、本実施形態のようなDCモータを用いる代わりにサーボモータやステッピングモータ等を使用しても良い。
【0030】
制御部30は、モータ21に駆動電力を供給するモータ駆動回路31と、モータ駆動回路31に駆動制御信号を送ってモータ21の駆動を制御するモータ制御部32と、切削液供給モードに基いてNC旋盤60の動作制御を行うと共に、切削液供給モードと切粉除去動作モードの切り換えと、切粉除去動作モードにおける切削液噴出の制御を行う工作機械制御部33を有している。なお、
図1においては、工作機械制御部33のうち、本発明を実施する機能を有する一部のみを表示している。ここで、切削液供給モードとは、切削液噴射ノズル10が、静止している状態若しくは一定の速度で所定の角度範囲内を往復運動している状態において、切削液噴射ノズル10から切削液90を噴射させるモードをいい、切粉除去動作モードとは、ツールやワークに絡まったり引っ掛ったり付着した切粉をツールやワークから効率的に除去するモードをいう。切粉除去動作モードの動作原理については後述する。
【0031】
そして、モータ制御部32には、
図3に示すような予め切削液噴射ノズル先端10aの動作開始地点及び動作終了地点、速度切換地点、第1速度(V1)及び第2速度(V2)、切粉除去動作モードにおける切削液噴射ノズル10の反復回数等の切粉除去に必要な各種設定値を記憶するメモリが備わっている。なお、ここでいう第1速度(V1)及び第2速度(V2)は切削液噴射ノズル先端10aの角度移動速度をいう。また、モータ制御部32は、モータ21の回転数(切削液噴射ノズル10の所定の角速度での回転)の制御も行うようになっている。一方、工作機械制御部33には、NC旋盤60の操作に必要な制御の他に、切削液供給モードと切粉除去動作モードに関する動作モードの選択信号、それぞれのモードの開始や終了の指令信号をモータ制御部32に送るようになっている。
【0032】
続いて、本実施形態に係る切削液噴射装置1の切粉除去動作モードの動作原理をフローチャートに基いて説明をする。
図2は、
図1に示した切削液噴射装置1の切粉除去動作モードの動作説明をするフローチャートである。なお、切粉除去動作モードに基づく動作を行なうに先立ち、モータ制御部32のメモリには予め上述した各種設定値、即ち動作開始地点、動作終了地点、速度切換地点、角度移動速度などの設定値や後に説明する本実施形態の好適な実施例におけるテーブル値を入力しておく。
【0033】
本実施形態に係る切削液噴射装置1のモードを切削液供給モードから切粉除去動作モードへ切り換えると、切粉除去機能動作を開始する(ステップS10)。次いで、モータ21を駆動して切削液噴射ノズル先端10aを動作開始地点まで既定の角度移動速度で移動させる(ステップS11)。次いで、モータ制御部32のメモリに予め設定した角度移動速度(切削液噴射ノズル先端10aが低速で向きを変える第1速度V1及び高速で向きを変える第2速度V2)をモータ制御部32の制御回路に読み込ませる(ステップS12)。そして、切削液噴射ノズル先端10aが、一定量の切削液を噴射させながら低速で向きを変える第1速度V1にて移動するようにモータ駆動を開始する(ステップS13)。次いで、切削液噴射ノズル先端10aが速度切換地点Pcに到達したか否かを判断する(ステップS14)。ここで、切削液噴射ノズル先端10aが速度切換地点Pcに到達していない場合は、切削液噴射ノズル先端10aが低速の第1速度V1を維持しながら移動するようにモータ21の駆動動作を継続する(ステップS15)。一方、切削液噴射ノズル先端10aが速度切換地点Pcに到達した場合は、切削液噴射ノズル先端10aが高速である第2速度V2で移動するようにモータ21の回転数を上げてモータ駆動を行う(ステップS16)。これによって、切削液噴射ノズル先端10aが高速の角度移動速度V2で移動することになる。これら切削液噴射ノズル10の移動中においても、一定量の切削液を切削液噴射ノズル先端10aからツール51に噴射し続ける。次いで、切削液噴射ノズル先端10aが動作終了地点に到達したか否かを判断する(ステップS17)。ここで、切削液噴射ノズル先端10aが動作終了地点に到達していない場合は、切削液噴射ノズル先端10aが高速である第2速度V2で移動するようにモータ21の回転数を変えることなくモータ駆動を継続する(ステップS18)。一方、切削液噴射ノズル先端10aが動作終了地点に到達した場合は、モータ21の駆動を停止し、切削液噴射ノズル先端10aの一方向への移動ルーチンが終了する(ステップS19)。
【0034】
続いて、本実施形態に係る切削液噴射ノズル10の実際の動作の一形態を説明する。
図3は、
図1に示した切削液噴射装置1の切粉除去動作モードの動作説明を行うための図である。
図3(a)は、ノズル先端の移動開始地点(
図3(a)において点線で示すノズル10の先端の位置Ps)から移動終了地点(
図3(a)において実線で示すノズル10の先端の位置Pe)への動きを説明する説明図であり、切削液噴射ノズル10の往路の動きを示している。また、
図3(b)は、ノズル先端の移動開始地点(
図3(b)において点線で示すノズル10の先端の位置Ps)から移動終了地点(
図3(b)において実線で示すノズル10の先端の位置Pe)への動きを説明する説明図であり、切削液噴射ノズル10の復路の動きを示している。
【0035】
NC旋盤60に備わるチャック62に把持されたワーク61は、チャック62の回転運動に伴い回転する。また、NC旋盤60に備わるツール保持部50に支持されたツール51は、回転するワーク61に押し付けられてワーク61を所望の形状に切削加工する。このワーク加工工程において、ツール51に細かい切粉や形状の複雑な切粉65が付着する。なお、細かい切粉は加工中ツール51に供給される切削液90によって除去されるが、形状が複雑であるが故にツール51に引っ掛った切粉65は、加工中切削液90をツール51に勢い良く当ててもツール51に付着したままとなることがある。
【0036】
本実施形態においては、ワーク61の加工作業が所定回数(所定時間)行われると、切削液供給モードから切粉除去動作モードに自動的に移行するように工作機械制御部33が制御している(オートマチックモード切り換え)。一方、切削液供給モードと切粉除去動作モードの切り換えをワーク61の加工作業を或る程度行い、切粉65がツール51に或る程度付着したころを見計らって、又は切粉65の付着を作業者の目視により確認することで、切削液供給モードから切粉除去動作モードに切り換える(マニュアルモード切り換え制御を行なう)ことも可能である。なお、
図3においては、このモード切り換えに伴い二点鎖線で示すワーク61をNC旋盤60のチャック62から外しているが、ワーク61をチャック62に付けたまま、上述したオートマチックモード切り換えやマニュアルモード切り換えを行っても良い。
【0037】
切粉除去動作モードに移行すると、モータ制御部32からの信号に基づいてモータ駆動回路31がモータ21を駆動し、切削液噴射ノズル先端10aを動作開始地点Psに移動させる(
図2におけるステップS11に相当)。なお、
図3(a)に示す往路の動作においては、動作開始地点Psは、切削液噴射ノズル先端10aがツール51の先端側に向く位置をいい、ノズル動作終了地点Peは、切削液噴射ノズル先端10aがツール51の基端側(ツール保持部50に把持されている側)に向く位置をいう。また、速度切換地点Pcは、切削液90がツール51の長手方向中央部に付着している切粉に当たるように切削液噴射ノズル先端10aが向く位置をいう。
【0038】
この切削液噴射ノズル先端10aの
図3(a)に示す往路の移動においては、ノズル動作開始地点Psからこの速度切換地点Pcまで切削液噴射ノズル先端10aを低速の第1速度V1で移動させる。これは、
図2のステップS13〜S15に相当する。ここでノズル先端10aが速度切換地点Pcに達したときノズル先端10aの角度移動速度を高速のV2に変更する。そして、速度切換地点Pcからノズル動作終了地点Peまで高速の第2速度V2で切削液噴射ノズル先端10aを移動させる。これは、
図2のステップS16〜S18に相当する。速度切換地点Pcにおける切削液噴射ノズル先端10aの角度移動速度については間断なく(途切れることなく)変化させる。このようにして、切削液噴射ノズル先端10aを、一定量の切削液90を噴射させたまま動作開始地点Psから動作終了地点Peまで連続的に移動させ、切削液噴射ノズル先端10aが動作終了地点Peに達したら、モータ駆動操作を停止して切削液噴射ノズル先端10aの往路の移動を終了する。これは、
図2(a)におけるステップS17及びS18に相当する。上述したルーチンでは、
図2に示すフローチャートは、この動作開始地点Psから動作終了地点Peまでの切削液噴射ノズルの一方向(往路)の動作に対応している。
【0039】
続いて、復路の移動動作において説明する。切削液噴射ノズル先端10aが動作終了地点Peに到達すると、動作終了地点Peを動作開始地点Psに置き換える。したがって、
図3(b)に示す復路の動作においては、往路とは反対に、動作開始地点Psは、切削液噴射ノズル先端10aがツール51の基端側に向く位置になり、動作終了地点Peは、切削液噴射ノズル先端10aがツール51の先端側に向く位置になる。また、速度切換地点Pcは、往路と同様に、切削液90がツール51の長手方向中央部に付着している切粉に当たるように切削液噴射ノズル先端10aが向く位置になる。なお、復路においては、往路の動作開始地点Psと動作終了地点Peを置き換えて、上述した往路の動作と同様の動作制御を行うことになるため、復路の動作原理の説明は省略する。
【0040】
そして、復路の動作において、切削液噴射ノズル先端10aが動作終了地点Peに到達すると、再度、動作終了地点Peを動作開始地点Psに置き換え、切削液噴射ノズル先端10aの往路の移動動作を開始する。
【0041】
このようにして、一定量の切削液90をツール51に噴射させながら、切削液噴射ノズル先端10aを動作開始地点Psから動作終了地点Peまで移動させる往復運動が、制御部30で設定された回数だけ行われることになる。
【0042】
なお、本実施形態の場合、上述したようにこの切削液噴射ノズル先端10aの往路及び復路の動きの際には、切削液噴射ノズル先端10aから噴射される切削液90は常に一定量となっている。
【0043】
次に、本実施形態の作用について、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態に係る切削液噴射ノズルの第1の動作特性を示す図である。なお、切粉除去動作モードにおける動作に加えて、比較のために切削液供給モードの動作についても破線で示している(
図9、
図10も同様)。本実施形態に係る切削液噴射装置1が上述のような構成を有することで、
図6に示すように切削液噴射ノズル先端10aの角度移動速度が速度切換地点Pcにおいて、低速の第1速度V1から高速の第2速度V2に瞬間的に変化するように加速する。これに伴い、切削液噴射ノズル10からの噴射した切削液90の噴射力の大きさ及び方向が急激に変化するため、様々なツール51に絡みついた切粉65を一気に払い除くことができる。その結果、ツール51が様々な形状を有していたり様々な材質でできていても、係るツール51に絡まったり引っ掛ったり付着した複雑な形状の切粉65を除去することができる。そのため、特許文献1のように工作機械や切削液噴射装置を一旦停止して、作業者が手作業で切粉65を除去する面倒な作業が発生せず、工作機械の連続運転が可能となるためワーク加工時間の短縮化を図ることができる。
【0044】
また、上述した後者の従来技術における切削液90の噴出圧調整用ポンプ等の大掛かりな設備を必要としない。また、切削液90の流速の管理が不要であるため、切削液90の流速管理に必要な流量制御弁やその制御部等の複雑な装置を設ける必要はない。そのため、切削液噴射装置1の製造コストの低減を図ることができる。
【0045】
なお、本実施形態では速度切換地点Pcを切削液90がツール51の長手方向中央部に当たる位置を切削液噴射ノズル先端10aの位置として設定しているが、切粉65の付着位置に合わせて位置を適宜変更しても良い。
【0046】
続いて、本実施形態に係る好適な一実施例の動作原理を、
図2とは異なるフローチャートに基いて説明をする。なお、この好適な一実施例は、モータ21にステッピングモータを用いた場合の実施例である。
図4は、本実施形態に係る好適な一実施例の動作説明をするフローチャートである。
【0047】
切粉除去機能動作を開始すると(ステップS20)、ステッピングモータ21を駆動して切削液噴射ノズル先端10aを動作開始地点Psまで既定の角度移動速度で移動させる(ステップS21)。次いで、予め設定したステッピングモータ駆動用のテーブル値及びこれに対応する具体的なパルス数をモータ制御部32のメモリからモータ制御回路に読み込ませて(ステップS22)、切削液噴射ノズル先端10aがテーブル値に基く角度移動速度になるようにモータ駆動を開始してモータ21を駆動させる(ステップS23、ステップS24)。この際、テーブル値は2段階から構成され、その前半はステッピングモータ21を低速で回転させて切削液噴射ノズル10が低速の角度移動速度V1で移動するようになっている。そして、テーブル値の後半は、ステッピングモータ21を高速で回転させて切削液噴射ノズル10が高速の角度移動速度V2で移動するようになっている。なお、テーブル値の切り換え箇所は、切削液噴射ノズル10の速度切換地点Pcに対応している。
【0048】
次いで、最終テーブル値まで動作が完了したか否か判断する(ステップS25)。ここで、最終テーブル値まで動作が完了していない場合は、切削液噴射ノズル先端10aがテーブル値に基く角度移動速度になるようにモータ21は駆動を継続する(ステップS26)。一方、最終テーブル値まで動作が完了した場合は、モータ21の動作を停止し、切削液噴射ノズル先端10aの一方向への移動ルーチンが終了する(ステップS27)。
【0049】
続いて、上述した実施例の実際の動作の一形態をテーブル値に具体的な値を当てはめて説明する。なお、この値は発明の理解の容易化を図るために簡略化した値となっている。
【0050】
本実施例においては、モータ制御部32のメモリに上述したテーブル値として1〜10の値が記憶されている。10個のテーブル値について、テーブル値1乃至5まではステッピングモータの駆動パルスが10Hzに設定され、テーブル値6乃至10まではステッピングモータの駆動パルス100Hzに設定されている。このようにしてテーブル値1乃至5までは低速の速度V1で切削液噴射ノズル先端10aを移動させ、テーブル値6乃至10までは高速の速度V2でノズルを移動させるようになっている。また、テーブル値1が動作開始地点Psに、テーブル値10がノズル動作終了地点Peに、テーブル値5から6に切り換わる地点が速度切換地点Pcにそれぞれ対応するようになっている。
【0051】
この切削液噴射ノズル先端10aの往路の移動中において、動作開始地点Psから速度切換地点Pcまでは、ステッピングモータの駆動パルスを10Hzに設定しテーブル値1乃至5に基づいて、切削液噴射ノズル先端10aを低速の第1速度V1で移動させる。そして、速度切換地点Pcからノズル動作終了地点Peまでは、ステッピングモータの駆動パルスを100Hzに設定しテーブル値6乃至10に基づいて、高速の第2速度V2で切削液噴射ノズル先端10aを移動させる。なお、速度切換地点Pcにおける切削液噴射ノズル先端10aの角度移動速度については間断なく変化させる。このようにして切削液噴射ノズル先端10aからツール51に切削液90を噴射しながら切削液噴射ノズル10aは動作開始地点Psから動作終了地点Peまで移動することになる。なお、
図4に示すフローチャートは、この動作開始地点Psから動作終了地点Peまでの切削液噴射ノズル10の一方向の動作を示している。
【0052】
次に、切削液噴射ノズル先端10aが動作終了地点Peに到達すると動作終了地点Peを動作開始地点Psに置き換え、切削液噴射ノズル先端10aの複路の移動動作を開始する。なお、復路においては、往路の動作開始地点Psと動作終了地点Peを置き換えて、上述した往路の動作と同様の動作制御を行うことになるため、復路の動作原理の説明は省略する。
【0053】
このようにして、上述した実施形態と同様に切削液噴射ノズル先端10aが往復運動することになる。これによって、上述した実施形態と同等の作用効果、即ち、切削液噴射ノズル先端10aの角度移動速度が速度切換地点Pcにおいて瞬間的に加速し、切削液噴射ノズル10からの噴射した切削液90の噴射力の大きさ及び方向が急激に変化することで、ツール51に絡まったり引っ掛ったり付着した複雑な形状の切粉65を一気に払い除く(除去する)ことができる。
【0054】
また、本実施例の場合、動作開始地点及び動作終了地点、速度切換地点の具体的位置は、モータ制御部32のメモリに記憶されたテーブル値に基いて設定されている。そのため、上述の効果に加えて、プログラムの変更で動作開始地点及び動作終了地点、速度切換地点を簡単に変更できる。その結果、除去したい切粉65の位置に合わせて切削液噴射ノズル先端10aの動作開始地点及び動作終了地点、速度切換地点を簡単に設定でき、切粉65を除去することができる。
【0055】
続いて、本実施形態に係る切削液噴射ノズルの別異の動作特性について、
図7から
図11を用いて説明する。
図7から
図11は、本実施形態に係る切削液噴射ノズルの第2から第6の動作特性を示す図である。
【0056】
図7に示すように、切削液噴射ノズル10の往復運動に伴って、この速度切換地点を異なる位置、即ち、Pc1からPc2、そしてPc2からPc3へと徐々に遷移するように設定しても良い。このように設定することにより、切粉65が切削液90の噴出力により最初の付着位置からずれた場合であっても、切削液噴射ノズル先端10aが切粉65の存在する位置に追随するため、切粉65を短時間で除去することが可能になる。また、ツール51の形状や材質に応じて、切削液噴射ノズル先端10aの速度切換地点を切粉除去に関して最も効果を上げる最適な条件となるようにモータ制御部32で簡単に設定することができる。
【0057】
なお、
図7では、速度切換地点のみを切粉65の位置に合わせて変更している場合を示しているが、
図8に示すように、切粉の位置に合わせて動作開始地点や動作終了地点を変更しても良い。これにより、切削液噴射ノズル10の往復運動時間の短縮が図れ、ツール51の形状や材質のみならず切粉65の形状や引っ掛かり具合に応じて、切粉65のより好適な除去が可能になる。このように、除去したい切粉65の量に合わせて、第1速度V1及び第2速度V2、反復回数を最適な条件となるようにモータ制御部32で簡単に設定できるため、多様な状況に対応した切粉65の除去が可能になる。
【0058】
また、以上の実施例では、往路から復路あるいは復路から往路に移行する場合に、動作終了地点Peにおいて瞬時に切り換わっているが、
図9に示すように、動作終了地点Peに近づくにつれ徐々に減速し動作終了地点Peで一旦停止した後に、移行する制御を行うことも可能である。切削液噴射ノズル10を、往路から復路あるいは復路から往路に移行させる場合は、モータ21の回転方向を反対方向に回転させる必要があるが、モータ21を急激に反対方向に回転させると、モータやシステムに過大な負荷がかかり故障の原因につながる。そこで、以上のような構成にすることにより、モータやシステムに過大な負荷をかけることなく、切削液噴射ノズル10を往復運動させることが可能になるため、モータやシステムの耐久性に優れるという利点を有する。
【0059】
また、以上においては、速度切換地点Pcにおいて、低速から高速に切換を行っているが、
図10に示すように、速度切換地点Pcの近傍においてモータ21の回転数を急に上昇させて、切削液噴射ノズル先端10aの角度移動速度を瞬間的に速くし、その後、往路と復路の切り換え地点(動作開始地点Ps又は動作終了地点Pe)に至るまで徐々に低速になるように設定することも可能である。このように設定することにより、切粉65が付着している位置の近傍で切削液噴射ノズル10aが瞬間的に加速されるため、これに伴い切削液噴射ノズル10から噴射した切削液90の噴射力の大きさや方向も瞬間的に変化する。このため、切削液90の噴射力が速度切換地点Pcの近傍において瞬間的に増大し、ツールやワークに絡み付いたり付着した切粉をより効果的に払い除く(除去する)ことが可能になる。さらに、速度切換地点Pcの近傍以外の箇所では、徐々に減速されながら動作開始地点Ps又は動作終了地点Peに到達するため、往路から復路あるいは復路から往路に移行する場合に、モータ21が急に反対方向に回転することによる過負荷の影響を受けることがない。
【0060】
また、上述の実施形態及びその好適な実施例では、切粉除去動作モードの動作開始地点から動作終了地点までの動き、即ち往路又は復路の動きにおいては、切削液噴射ノズル先端10aは連続的に移動するようになっているが、
図11に示すように、切粉65の種類によっては、切削液噴射ノズル先端10aの速度切換地点Pcで切削液噴射ノズル10が一旦停止するようにしても良い。このようにすることにより、切削液噴射ノズル10の向きを切粉65の位置に合わせて切削液90を噴出することができるため、切粉65を効率的に除去することができ、上述した実施形態及びその好適な実施例と同等の作用効果を発揮することができる。
【0061】
なお、本発明の適用範囲は、動作開始地点から速度切換地点を一定の低速で移動し、そして速度切換地点から動作終了地点までを一定の高速で移動する場合に限られない。即ち、本発明の適用範囲として低速から徐々に高速になるように設定することも、それとは逆に、高速から徐々に低速になるように設定することも可能である。これにより、ツールやワーク、切粉の種類及び切粉の付着状況などに応じた多様な切粉の除去が可能になる。
【0062】
さらに、上述の実施形態及びその好適な実施例では、除去する切粉の対象をNC旋盤のツールに付着した切粉で説明したが、上述の形態に限定されずフライス盤やボール盤等の工作機械のツールや加工対象となるワークに付着した切粉も除去できることは言うまでもない。
【0063】
なお、切削液噴射ノズルの動作開始地点及び動作終了地点は本実施形態及びその好適な一実施例に限定されないことは言うまでもない。具体的には、特に切粉65が引っ掛ったり、付着し易いワーク61の場合、切削液噴射ノズルの移動開始地点及び移動終了地点の少なくとも何れか一方を加工すべきワーク上に設定することで、ワーク加工後にワーク61をチャックに装着したまま切粉除去動作モードに移行させ、ツール51に引っ掛ったり付着した切粉65のみならずワーク61に付着した切粉65を効率的に除去するようにしても良い。従って、上述した実施形態及びその好適な実施例では、ツール51に引っ掛ったり付着したりした切粉65の除去のみについて説明したが、これらの説明において切粉除去動作モードの切削液90の噴射対象をツール51とワーク61又はワーク61のみ置き換えても、本発明の作用を発揮することが可能になる。
【0064】
また、上述の実施形態及びその好適な実施例では、切削液噴射ノズル10から切削液90が常に供給されるようになっているが、例えば往路だけ切削液90を供給したり、復路だけ切削液90を供給したりしても良い。これによって、ツール51やワーク61が特別な形状や材質からなり、切粉のツール51に対する引っ掛かり具合が通常の切粉65の引っ掛かり具合と異なる場合、このような切削液90の噴射方法によって特殊な切粉の除去が可能になる。
【0065】
また、上述の実施形態で紹介した各構成要素の形状や寸法、数値、材質はあくまで例示的なもので、本発明の範囲を逸脱しない限り、様々な形状や寸法、数値、材質を適宜選択できることは言うまでもない。