(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金の鋳造においては、効率的に良質の金属鋳塊が得られることから竪型連続鋳造方法(Direct Chill Casting;DC連続鋳造方法)が広く用いられている。この竪型連続鋳造方法によると、溶湯貯留部(溶湯保持炉、樋、タンディッシュ等ともいう)内の溶湯が、スパウト等の注湯通路を通して竪型鋳型に注がれ、ボトムブロックや水冷された鋳型の壁等で熱を奪われて凝固することにより鋳塊を形成することができる。
【0003】
前記竪型連続鋳造方法においては、スパウト等の注湯通路を介して溶湯を鋳型に供給する際に、溶湯詰まりが起こらないこと、内外の温度差及び鋳造開始時の熱ショック等で注湯通路に割れが生じないこと、溶湯汚染が起こりにくいこと等が求められる。このような要求を満たすために、種々の材料又は構造からなるスパウトが提案されている(特開2010−269353号公報、特開平11−090617号公報、特開平09−271913号公報、特開平05−305416号公報、特開平02−229662号公報及び特開平02−229661号公報参照)。
【0004】
しかしながら、アルミの高合金化により、溶湯と耐火物との反応性が高まる一方で、要求品質はますます高まっており、耐火物による溶湯汚染防止のためのより優れた方法が求められている。各種スパウト材料の中でもグラファイトは、溶湯との反応性が低く溶湯汚染が起こり難い点、熱ショックに対する耐性を有する点で優れるとされている。しかし、大気雰囲気下での鋳造においては、前記注湯通路の外周面が大気に曝されることから、グラファイトのような炭素系の材料を使用したスパウト等は大気酸化により劣化するという不都合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、溶湯詰まりが起こり難く、さらに大気雰囲気下での鋳造においても酸化劣化が起こらないアルミニウム又はアルミニウム合金の竪型連続鋳造用のスパウト及び竪型連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた発明は、
アルミニウム又はアルミニウム合金の竪型連続鋳造方法に用いられる円筒状のスパウトであって、
外面側に配設され、酸化物又は窒化物からなる耐火物層と、
少なくとも内面側に配設され、グラファイトからなるグラファイト層と
を備えることを特徴とする。
【0008】
当該スパウトは、内面側(溶湯と接触する部分)にグラファイト層を備えるため、溶湯との反応を抑制でき、溶湯汚染を防止できる。また、前記グラファイト層は地金剥離性にも優れるため、地金付着による溶湯詰まりも起こり難い。さらに、当該スパウトは、大気と接触する外面側を酸化物等からなる耐火物層とすることで、酸化劣化が起こり難い。
【0009】
当該スパウトの先端部分は、前記グラファイト層のみからなることが好ましい。当該スパウト(注湯通路)の竪型鋳型への出口側の先端部分は溶湯流れが激しい。そこで、この先端部分をアルミ溶湯との反応性が低いグラファイト層とすることで注湯通路の耐久性を高めることができる。
【0010】
当該スパウトは、前記耐火物層を有する少なくとも一つの外層部と、前記グラファイト層を有する少なくとも一つの内層部とが着脱可能に設けられていてもよい。このように当該スパウトを外層部と内層部とを着脱可能に設けた構成とすることで、劣化した各スパウトの交換等を容易にすることができ、使用環境等に応じて外層部又は内層部を複数重ねて用いることなどもできる。
【0011】
当該スパウトは、断熱性や2層間の密着性改善、あるいは施工性改善のために、前記耐火物層と前記グラファイト層との間に設けられる中間層をさらに備えていてもよい。
【0012】
前記グラファイトがCIP材からなることが好ましい。CIP材は高い強度や地金剥離性を有するグラファイト層を形成することができる。
【0013】
溶湯貯留部内のアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を円筒状の注湯通路を介して竪型鋳型に注湯する工程
を有するアルミニウム又はアルミニウム合金の竪型連続鋳造方法であって、
前記注湯通路が、外面側に配設され、酸化物、窒化物又は炭化物からなる耐火物層と、少なくとも内面側に配設され、グラファイトからなるグラファイト層とを備え、
前記注湯工程において、前記注湯通路の外面に表出する耐火物層の下端を、竪型鋳型に注湯された溶湯中に位置させることを特徴とする竪型連続鋳造方法も本発明に含まれる。
【0014】
本発明の竪型連続鋳造方法によれば、注湯通路の内面側(溶湯との接触部分)をグラファイト層とすることで、溶湯との反応を抑制でき、溶湯汚染を防止することができる。また、グラファイト層は地金剥離性にも優れるため、注湯通路内面の地金付着による溶湯詰まりも起こり難い。さらに、注湯通路において大気と接触する外面側を酸化物等からなる耐火物層とすることで、酸化劣化を防止することができる。また、前記注湯通路の外面に表出する耐火物層の下端を溶湯中に位置させることで、グラファイト層が大気に接触することがなくなるため、酸化劣化をより効果的に防止することができる。
【0015】
前記注湯通路として、本発明のスパウトを用いることができる。前記注湯通路として当該スパウト(多層スパウト)を用いることで、前記機能を効果的に発揮することができると共に、この注湯通路の劣化の際の交換を容易に行うことなどができる。
【0016】
前記溶湯貯留部が、底部に酸化物、窒化物又は炭化物からなる円筒状のスリーブを備え、前記注湯通路が、前記耐火物層として前記スリーブと、このスリーブに嵌設される前記グラファイト層としてのグラファイト製スパウトとで構成されていてもよい。前記注湯通路が、前記溶湯貯留部が備えるスリーブと前記グラファイト製スパウトとで構成されているものであっても、溶湯汚染、溶湯詰まり及び前記注湯通路の酸化劣化を十分防止することができる。
【0017】
ここで、「連続」鋳造とは、「全連続」鋳造及び「半連続」鋳造を含む概念である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のスパウト及び竪型連続鋳造方法によれば、溶湯詰まりが起こり難く、さらに大気雰囲気下での鋳造においてもスパウト等の酸化劣化が起こり難い。従って、アルミニウム又はアルミニウム合金の竪型連続鋳造を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の竪型連続鋳造方法及びスパウトの実施形態について、適宜図面を参照しつつ詳説する。
【0021】
<アルミニウム又はアルミニウム合金の竪型連続鋳造方法>
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一の実施形態の竪型連続鋳造方法に用いる竪型連続鋳造装置1の模式図である。竪型連続鋳造装置1は、溶湯貯留部2、この溶湯貯留部2の底部に形成される孔部分に嵌設されるスパウト4、及びこのスパウト4の下方に配置される竪型鋳型5を主に備えている。溶湯貯留部2は、桶やタンディッシュなどの公知のものであり、酸化物、窒化物、炭化物等の耐火物からなる樋状体である。竪型鋳型5は、上下を開放した四角柱形の中空部を有する筒状構造を有している。竪型鋳型5には、内部上方(スパウト4の下端付近)に水平に配設される分流板6、この分流板6の上面を囲うように、かつ供給される溶湯3上に浮上するように設けられる矩形のフロート7、並びに分流板6の下方に昇降自在に設けられるボトムブロック8が備えられている。
【0022】
当該竪型連続鋳造方法においては、まず、竪型連続鋳造装置1の溶湯貯留部2にアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯3を満たし、溶湯貯留部2からスパウト4(注湯通路)を介して竪型鋳型5に溶湯3を供給する。溶湯3は、分流板6に衝突すると共にフロート7を浮揚させ、竪型鋳型5内に広がる。前記溶湯3は竪型鋳型5内に充填されると共に冷却(水冷等)されることで凝固し、鋳塊9となる。溶湯貯留部2から竪型鋳型5に溶湯3を供給しつつ、ボトムブロック8を下方に移動させることで、連続的にアルミニウム又はアルミニウム合金の鋳塊9を得ることができる。
【0023】
当該竪型連続鋳造方法に用いられるアルミニウム又はアルミニウム合金としては、純度99%以上の1000系(純アルミニウム系)、アルミ銅マグネシウム合金である2000系、アルミマンガン合金である3000系、アルミシリコン合金である4000系、アルミマグネシウム合金である5000系、アルミマグネシウムシリコン合金である6000系等が挙げられる。
【0024】
スパウト4は、注湯通路であり、円筒形状を有する。このスパウト4の上部分の径は、上方向に向かってやや拡大するよう形成されている。このような形状であることで、溶湯貯留部2に形成されている孔部分に嵌め込んで固定することができる。
【0025】
スパウト4は、外面側に配設される耐火物層4aと、内面側に配設されるグラファイト層4bとを備える層構造体(多層スパウト)である。このように、スパウト4の外側(大気との接触部分)を耐火物層4aとすることで、スパウト4(グラファイト層4b)の酸化劣化を防止することができる。また、スパウト4の内側(溶湯3との接触部分)をグラファイト層4bとすることで、溶湯3との反応が起こり難いため溶湯汚染を防止することができる。加えて、前記グラファイト層4bは地金剥離性にも優れるため溶湯詰まりを防止することができる。
【0026】
前記耐火物層4aは、酸化物又は窒化物からなる。この酸化物又は窒化物としては、一般にアルミニウム又はアルミニウム合金の鋳造に用いられる耐火物として用いられる化合物であれば特に限定されないが、例えばAl
2O
3、SiO
2、窒化珪素、CaO・SiO
2、ZrO
2、Al
2O
3・SiO
2、MgO、MgO・SiO等が挙げられる。これらのうち、酸化物が好ましく、具体的にはAl
2O
3、SiO
2、CaO・SiO
2がより好ましい。なお、前記耐火物層4aは、前記酸化物又は窒化物を主成分として含んでいればよく、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を含んでいてもよい。
【0027】
前記グラファイト層4bは、グラファイトからなる。このグラファイトとしては、例えばCIP材、押出材、モールド材等が挙げられる。これらのうち、緻密性が高く強度に優れ、地金剥離性にも優れる観点からCIP材が好ましい。なお、前記グラファイト層4bは、グラファイトを主成分として含んでいればよく、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分(例えば、バインダー成分等)を含んでいてもよい。
【0028】
前記スパウト4の竪型鋳型5への出口側先端部分4x(下端部分)は、グラファイト層4bからなる構造となっている。グラファイト層4bは強度に優れるため、溶湯流れの激しい前記出口側先端部分4x(下端部分)をグラファイト層4bで形成することでスパウト4の耐久性を向上させることができる。なお、
図1の形状とは異なり、耐火物層の先端(下端)の高さとグラファイト層の先端(下端)の高さとが等しい、すなわち、先端部分(下端部分)が耐火物層とグラファイト層との2層構造となっていてもよい。
【0029】
注湯の際、前記スパウト4における外面に表出する耐火物層4aの下端4yは、竪型鋳型5に注湯された溶湯3中に位置している。すなわち、竪型鋳型5中の溶湯3の表面(湯境部分)はグラファイト層4bではなく、耐火物層4aと接することとなる。このようにすることで、注湯工程においてグラファイト層4bが大気に接触することを防止でき、スパウト4の酸化劣化を効果的に防止することができる。なお、耐火物層4aの下端が溶湯3の表面に達しない場合は、グラファイト層4bが大気と接触するため、スパウト4の酸化劣化が生じる。
【0030】
前記スパウト4における耐火物層4aの平均厚みとしては、特に限定されないが、1mm以上30mmが好ましく、3mm以上20mm以下がより好ましい。また、前記グラファイト層4bの平均厚みとしては、1mm以上30mmが好ましく、3mm以上20mm以下がより好ましい。前記スパウト4における耐火物層4a及びグラファイト層4bの厚みを前記範囲とすることで、溶湯汚染、溶湯詰まり及び酸化劣化等を効果的に防止することができる。
【0031】
前記スパウト4の径としては、特に限定されないが、内径を外径の60%以上とすることが好ましく、70%以上とすることがより好ましい。前記スパウト4の内径と外径との比率を前記範囲とすることで、溶湯詰まりを効果的に抑制することができると共に、取扱性も高めることができる。
【0032】
(第二の実施形態)
図2は、第二の実施形態の竪型連続鋳造方法に用いられる竪型連続鋳造装置11を示す。図示しない他の部分は第一の実施形態と同様である。竪型連続鋳造装置11の使用方法(鋳造方法)も、
図1の竪型連続鋳造装置1と同様である。
【0033】
竪型連続鋳造装置11は、溶湯貯留部12及びグラファイト製スパウト14を主に備える。
【0034】
溶湯貯留部12は底部に形成された円筒状のスリーブ13を備える。スリーブ13は、底部から下方向に延出するように形成されている。スリーブ13は、酸化物又は窒化物からなる耐火物層からなる単層構造体である。
【0035】
グラファイト製スパウト14は、前記スリーブ13に嵌設されている。このグラファイト製スパウト14は、グラファイト層からなる単層構造体である。グラファイト製スパウト14は円筒状であり、この上端縁は外側に広がった構造を有している。
【0036】
この竪型連続鋳造装置11においては、前記スリーブ13とグラファイト製スパウト14とで注湯通路を構成している。アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯3は、溶湯貯留部12からグラファイト製スパウト14が嵌め込まれたスリーブ13(注湯通路)を介して竪型鋳型に注入される。
【0037】
前記スリーブ13は、上述のように酸化物等からなる耐火物層によって形成されている。そのため、スリーブ13は大気と接触しても酸化劣化が起こらない。さらに、溶湯3と接触する部分にはグラファイト製スパウト14が嵌め込まれているため、溶湯3とグラファイト製スパウト14の内面との反応が起こり難く溶湯汚染を防止することができる。
【0038】
前記グラファイト製スパウト14の竪型鋳型への出口側先端部14xは、前記スリーブ13の先端より下方に位置している。このようにすることで、注湯通路の先端部分がグラファイト製スパウト14(グラファイト層)のみとなり、溶湯流れの激しい前記出口側先端部分の耐久性を向上させることができる。また、前記スリーブ13の前記出口側先端部13y(注湯通路の外面に表出する耐火物層の下端)は、竪型鋳型に注湯された溶湯3中に位置させている。このようにすることで、グラファイト製スパウト14が大気に接触することがないため、グラファイト製スパウト14の酸化劣化を防止することができる。
【0039】
(第三の実施形態)
図3は、第三の実施形態の竪型連続鋳造方法に用いられる竪型連続鋳造装置21である。図示しない他の部分は第一の実施形態と同様である。竪型連続鋳造装置21の使用方法(鋳造方法)も、
図1の竪型連続鋳造装置1と同様である。
【0040】
竪型連続鋳造装置21は、溶湯貯留部2及びスパウト24を主に備える。溶湯貯留部2は、
図1の竪型連続鋳造装置1のものと同様であるので説明を省略する。
【0041】
スパウト24は、外層部24aと内層部24bとからなる多層スパウトである。外層部24a及び内層部24bは略同一形状であり、共に円筒状である。外層部24a及び内層部24bの上端縁は外側に広がった構造を有している。また、外層部24aと内層部24bとは着脱可能に設けられている。
【0042】
外層部24aは、酸化物又は窒化物からなる耐火物層によって形成されている。内層部24bは、外層部24aに嵌設されている。内層部24bは、グラファイト層からなるグラファイト製スパウトである。すなわち、スパウト24においては、酸化物等からなる外層部24a(耐火物層)が外面側に配設され、グラファイトからなる内層部24b(グラファイト層)が内面側に配設されている。外層部24aと内層部24bとは、単に重ねられているだけであってもよいし、接着剤等により接合されていてもよい。
【0043】
内層部24bの下方先端は、外層部24aの下方先端より下に位置している。すなわち、スパウト24の下側先端部分は、内層部24b(グラファイト層)からなっている。
【0044】
溶湯3は、溶湯貯留部2からスパウト24(注湯通路)を介して竪型鋳型に注湯される。その際、溶湯3が接触するスパウト24の内面はグラファイト製の内層部24bであるため、溶湯3との反応が起こり難く溶湯汚染を防止することができる。また、グラファイト製の内層部24bは地金剥離性にも優れるため溶湯詰まりを抑制することができる。さらに、大気と接触する外側に位置する外層部24aは、酸化物等の耐火物層から形成されているため、当該スパウト24は酸化劣化し難い。また、このようにスパウト24を外層部24aと内層部24bとを着脱可能に設けた構成とすることで、劣化した外層部24a又は内層部24bの交換等を容易にすることができる。
【0045】
<スパウト>
本発明のスパウトは、アルミニウム又はアルミニウム合金の竪型連続鋳造方法に用いられる円筒状のスパウトであって、外面側に配設され、酸化物又は窒化物からなる耐火物層と、少なくとも内面側に配設され、グラファイトからなるグラファイト層とを備えることを特徴とする。当該スパウトは、内面側(溶湯と接触する部分)がグラファイト層であるため、溶湯との反応を抑制でき、溶湯汚染を防止できる。また、前記グラファイト層は地金剥離性にも優れるため、地金付着による溶湯詰まりも起こり難い。さらに、当該スパウトは、外面側(大気と接触する外側部分)が酸化物等からなる耐火物層であるため、酸化劣化が起こり難い。
【0046】
当該スパウトとしては、前記第一実施形態及び第三実施形態の竪型連続鋳造方法において用いられるスパウト4やスパウト24等が挙げられる。これらの各スパウトについては、上述した竪型連続鋳造方法における各スパウトの説明を適用できる。
【0047】
当該スパウトの製造方法は特に限定されないが、例えば、(1)原料を2層となるように配合し成形する方法、(2)押出成形法等により各層(耐火物層及びグラファイト層)を形成し、重ね合わせる方法、(3)耐火物層からなる従来の単層のスパウトの内面側にグラファイトを塗布する方法、(4)グラファイト層からなる従来の単層のスパウトの外面側に酸化物等の耐火物を塗布する方法等を挙げることができる。
【0048】
なお、(3)の場合、下側先端部分においては外面側にまでグラファイトを塗布してもよい。また、(4)の場合、下側先端部分においては、耐火物を塗布せずに、グラファイトを露出させておいてもよい。このようにすることで、先端部分がグラファイト層のみからなるスパウトを得ることができる。
【0049】
(その他の実施形態)
本発明のスパウト及び竪型連続鋳造方法は前記実施形態に限定されない。例えば、当該スパウト(多層スパウト)として、グラファイト層と耐火物層との間に中間層を備えるものを用いてもよい。このような中間層としては、例えばグラファイト製離型材、モルタル状酸化物、布、紙等からなる層が挙げられる。このような中間層を備えることで、この中間層の材質等に応じ、当該スパウトの断熱性、密着性、耐久性等を向上させることができる。例えば、低密度又は多孔質状の中間層を備えることで、断熱性を高めることができる。また、複数の外層部又は内層部を重ね合わせた、合計3つ以上の単層スパウトからなる多層スパウトを用いることもできる。耐火性、断熱性等の求められる特性や使用環境等に応じて、スパウトの数を適宜調整すればよい。また、外層部又は内層部が多層構造であってもよい。
【0050】
また、当該竪型連続鋳造方法に用いる竪型連続鋳造装置としては、前記実施形態のフロートを用いて溶湯の注湯速度を調節する方式のものに限定されず、フロートの代わりに、スパウト内に上下に移動自在なコントロールピン(ストッパー)を設けて溶湯の注湯速度を調節する方式の竪型連続鋳造装置を用いることもできる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0052】
[実施例1]
グラファイトCIPを用いて約15mm×15mm×100mmの棒状サンプルを作成した。大気接触部分(上面から約60mm)及び湯境部分(前記大気接触部分の下の約20mm)の表面にアルミナセメントを塗布し、溶湯浸漬部分(前記湯境部分の下の約20mm)はグラファイトCIPとした。
大気雰囲気下(雰囲気制御なし)において、アルミニウム合金(3004系)約3kgを電気炉で溶解し、約800℃に保持した状態で、前記棒状サンプルの先端約30mmの溶湯浸漬部分を溶湯に浸漬し、2時間保持した後、サンプルを溶湯から引き上げて一旦冷却し、さらに2時間同様の浸漬試験を行った。このとき、溶湯に浸漬されている部分は注湯通路(スパウト)内側の通湯部分を、大気に出ている部分は注湯通路(スパウト)外側の部分を模擬している。試験後前記棒状サンプルを溶湯から引き上げて冷却した後、表面状態及び地金剥離性を評価した。
【0053】
[実施例2〜4]
表1に記載の材料からなる溶湯浸漬部分、湯境部分及び大気接触部分の各部分を有する棒状サンプルを作成して用い、表1に記載の種類のアルミニウム合金を用いた以外は実施例1と同様に操作し、各棒状サンプルの地金剥離性及び表面状態を評価した。
【0054】
[実施例5〜7]
表1に記載の湯境部分及び大気接触部分の材料を用いて約15mm×15mm×100mmの棒状サンプルを作成し、溶湯浸漬部分(下面から約20mm)の表面にグラファイト塗布材を塗布した。各棒状サンプルについて、表1に記載の種のアルミニウム合金を用い、実施例1と同様に操作して表面状態及び地金剥離性を評価した。
【0055】
[比較例1]
CaO・SiO
2系耐火物を用いて約15mm×15mm×100mmの棒状サンプルを作成し、溶湯浸漬部分及び湯境部分(下面から約40mm)の表面にグラファイト塗布材を塗布した。この棒状サンプルについて実施例1と同様に操作し、表面状態及び地金剥離性を評価した。
【0056】
[比較例2]
グラファイトCIPを用いて約15mm×15mm×100mmの棒状サンプルを作成し、大気接触部分(上面から約60mm)の表面にアルミナセメントを塗布した。この棒状サンプルについて実施例1と同様に操作し、表面状態及び地金剥離性を評価した。
【0057】
[比較例3〜6]
表1に記載の材料を用いて約15mm×15mm×100mmの棒状サンプルを作成した。各棒状サンプルについて、表1に記載のアルミニウム合金を用い、実施例1と同様に操作して表面状態及び地金剥離性を評価した。
【0058】
<評価>
[地金剥離性]
各棒状サンプルにおける地金剥離性を下記基準により評価した。
A:剥離性良好、付着なし。
B:剥離性問題なし。
C1:部分的に剥離地金側に耐火物が付着。
C2:湯境付近の脆弱部で地金付着。
D:全体に耐火物と地金が付着し、剥離困難。
【0059】
[表面状態]
湯境部分又は大気接触部分の表面状態を下記基準により評価した。
A:問題なし。
B:湯境付近が変色。
C:湯境付近のグラファイトが脆化
D:湯境付近のグラファイト塗布材が一部劣化脱落。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示す通り、溶湯浸漬部がグラファイトであり、かつ大気接触部分が酸化物である実施例1〜7においては十分な地金剥離性を有し、大気露出部の変色・劣化等がなく良好な結果となった。グラファイトの材質に関しては、押出や塗布材のものに比べCIP材を用いた方が地金剥離性に優れていた。なお、湯境部分がグラファイトである比較例1〜3においては、湯境付近でグラファイト塗布材が一部劣化脱落したり、湯境直上付近の加熱部分が脆化しており、さらにこの脆化部分には地金が付着し地金剥離性が不十分であった。溶湯浸漬部が酸化物である比較例4〜6においては、部分的に地金が付着して剥離困難であるか、又は剥離地金側に耐火物が付着し、地金剥離性が不十分であった。また、比較例4〜6は、溶湯との接触部分において一部が変色しており、比較例5が最も変色の程度が大きかった。