【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の好ましい第1の態様では、本発明は、哺乳類患者における癌再発のリスクを診断する方法であって、前記患者から取得される生体試料においてマクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の発現を検出することを含み、前記マクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の発現の低下又は減弱は、前記患者における肺癌再発のリスクの増大を示す、方法に関する。好ましくは、本発明による方法は、前記診断に基づく前記癌再発、更に好ましくは転移性再発の予測を更に含む。
【0014】
本発明の好ましい第2の態様では、本発明は、上記のように哺乳類患者における癌再発のリスクを診断する方法であって、マクロH2A1.1の発現に基づいて腫瘍における老化細胞、特に癌細胞の診断を更に含む、方法に関する。
【0015】
本発明の好ましい第3の態様では、本発明は、マクロH2A1.1又はマクロH2A2に特異的な薬剤に対するスクリーニング方法であって、マクロH2A1.1又はマクロH2A2に潜在的に特異的な薬剤とマクロH2A1.1又はマクロH2Aを接触させること、及び前記薬剤が特にマクロH2A1.1又はマクロH2Aと結合するか否かを判断することを含む、方法に関する。
【0016】
本発明の好ましい第4の態様では、本発明は、本発明による、マクロH2A1.1又はマクロH2A2に特異的な薬剤をスクリーニングする方法に従ってスクリーニングされた、診断薬及び/又は治療薬に関する。
【0017】
本発明の好ましい第5の態様では、本発明は、マクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な抗体、若しくはそのマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な断片を製造する方法であって、a)クロマトグラフィカラムに結合されたマクロH2A1.1ドメイン若しくはマクロH2A2ドメインを用いる、抗体を含む血清若しくは細胞培養上清のアフィニティ精製、又はb)マクロH2A1.1ドメイン若しくはマクロH2A2ドメインを用いてsc−Fvファージディスプレイライブラリをスクリーニングすることを含む、方法に関する。
【0018】
本発明の好ましい第6の態様では、本発明は、本発明に記載の診断薬、及び/又は、本発明に記載のマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な抗体若しくはそのマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な断片を、任意選択的に上記のように本発明に記載の方法を行うための追加の補助剤とともに具備する診断キットに関する。
【0019】
本発明の好ましい第7の態様では、本発明は、哺乳類患者の癌を治療する方法であって、上記のように本発明に記載の方法、並びに前記患者における癌再発のリスクが増大していると特定された患者の前記癌の再発、好ましくは転移性再発を治療及び/又は予防することを含む、方法に関する。
【0020】
本発明の好ましい第7の態様では、本発明は、本発明に記載の方法によってスクリーニングされる薬剤、並びに/又は、本発明に記載のマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な抗体、若しくはそのマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な断片、又は癌の予防、治療及び/若しくは診断、特に癌再発、好ましくはその転移性再発の予防、治療及び/若しくは診断のための本発明に記載のキットの使用に関する。
【0021】
本発明は、概して、ヒストンマクロH2A1.1及びマクロH2A2の発現が肺癌再発を予測するという発見に基づき、これらのヒストン変異体を、癌患者の改善されたリスク層別化のための新規な手段として同定する。マクロH2Aアイソフォームは、老化している細胞、すなわち既知の抗腫瘍メカニズムにおいて、発現上昇及び高発現し、マクロH2A1.1を、腫瘍における老化細胞に対する有用なバイオマーカーとして示唆する。マクロH2A1.1は、予後が良好な腫瘍においてより高発現する。
【0022】
さらに、本発明の関連において、マクロH2A1.1発現の予後相関が、癌患者予後を評価するために一般に用いられている増殖マーカーKi−67よりも優れていることが分かった。本発明者らは、マクロH2A1.1及びマクロH2A2の発現と腫瘍増殖率との間に強い負の相関を観察する。低速で増殖する腫瘍は、マクロH2A1.1及びマクロH2A2の高発現を示す傾向があり、一方で臨床的により悪性であることが多い、増殖指数が高い腫瘍は、発現がより低下若しくは減弱しているか、又は更には発現がない。
【0023】
したがって、本発明は、その第1の態様では、哺乳類患者における癌再発のリスクを診断する方法であって、前記患者から取得される生体試料においてマクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の発現を検出することを含み、前記マクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の発現の低下又は減弱は、前記患者における肺癌再発のリスクの増大を示す、方法に関する。好ましくは、発現解析の結果(複数の場合あり)を、適切な装置で表示することができる。本発明の文脈では、マクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の発現の「低下」又は「減弱」とは、再発前の同じ患者か若しくは再発のリスクがない異なる患者、又は健康な患者若しくは患者群からの試料と比較して、マクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の発現が減弱していることを意味するものとする。発現が低下又は減弱を確定する別の方策は、更に後述するように、好ましくはマクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2に特異的な抗体を用いる組織学的スライドにおける染色の欠如である。更に別の方策は、発現マクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2を、試料(複数の場合あり)のマクロH2A1.2の発現と比較することであり、本発明による方法の好ましい実施の形態では、発現は、前記試料及び/又は対照試料におけるマクロH2A1.2の発現に正規化される。この場合もまた、対照試料を、再発前の同じ患者か若しくは再発のリスクがない異なる患者、又は健康な患者若しくは患者群からの試料とすることができる。
【0024】
本発明は、その好ましい実施の形態において、哺乳類患者における癌再発のリスクを診断する方法であって、前記患者から取得される生体試料においてマクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の発現を検出すること、及びマクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の前記発現を対照試料と比較することを含み、前記マクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の発現の低下又は減弱は、前記患者における肺癌再発のリスクの増大を示す、方法に関する。好ましくは、発現解析及び/又は比較の結果(複数の場合あり)を、診断コンピューター等の適切な装置で表示又は出力することができる。
【0025】
本発明による方法のさらなる好ましい実施の形態では、マクロH2A1.1又はマクロH2A2の発現と無病生存期間との相関は、P<0.05、好ましくはP<0.01、より好ましくはP<0.006の重要性を有する。
【0026】
本発明による方法のさらなる好ましい実施の形態は、Ki−67等のさらなる癌マーカーの発現を検出することを更に含む。好ましくは、前記生体試料における前記マクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2の発現が、Ki−67の発現に逆相関する。
【0027】
本発明による方法の更に別の好ましい態様は、本発明による前記診断に基づく前記癌再発の予測工程を更に含む。本明細書で用いる「再発」とは、好ましくは腫瘍組織の発現及び転移等、患者の無病生存期間後の癌(複数の場合あり)のパラメータの臨床症状を指す。予測(又は可能性)は、例えば患者又は患者群の臨床パラメータ、腫瘍のタイプ等のような、さらなるパラメータを含むことも可能である。予測の結果を、好ましくは、適切な装置で表示することができる。
【0028】
本発明による方法を用いて、いかなるタイプの固形癌も診断することができる。したがって、前記癌が、固形癌、肺癌、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、頭頸部癌、前立腺癌、膵臓癌、胃癌、結腸癌、甲状腺癌、食道癌及び脳癌の群から選択される、本発明による方法が好ましい。乳癌又は肺癌の診断方法がより好ましい。
【0029】
本発明によるマーカーの発現の直接又は間接的検出が可能である限り、本発明による方法に対していかなる生体試料を用いることも可能である。したがって、生体試料は、肺腫瘍、乳腺腫瘍、腎臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭頸部腫瘍、前立腺腫瘍、膵臓腫瘍、胃腫瘍、結腸腫瘍、甲状腺腫瘍、食道腫瘍及び脳腫瘍、全血、血清、血漿、尿、リンパ液、脳液、組織試料、並びに組織学的スライド等の調製された組織試料からの細胞群から選択することができる。前記試料が、手術中の患者から採取されるか又は血清試料である、本発明による方法が好ましい。
【0030】
そして、本発明による方法の別の好ましい態様は、マクロH2A1.1の発現に基づく、腫瘍における老化細胞、特に癌細胞の診断又はさらなる診断に関する。マクロH2A1.1が、多数の老化細胞を有していることが知られている齧歯動物の肺腺腫に豊富であるが、老化を克服し制御されない増殖を示す肺癌では、発現低下しているか又は存在していないという発見もまた、これらの結論と一貫し、抗腫瘍メカニズムとしての老化の概念を強調する。したがって、本発明による方法のこの好ましい態様では、発現を用いて、マーカーのマクロH2A1.1の発現に基づいて腫瘍における老化細胞、特に癌細胞の量又は比を概してモニタリングすることができる。老化細胞の量又は比は、患者の再発を示すものとして、化学療養又は放射線等の抗腫瘍治療の成功又は効果をモニタリングするため、又は、癌細胞の数が増大しているか否かを確認するために用いられる、腫瘍細胞の成長に対する指標である。他の老化マーカーを測定することもでき、前記マーカーを測定又は検出する方法は、当業者には既知であり、マーカーのマクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2に対して本明細書に記載した通りである。
【0031】
本発明による方法との関連で、マーカーの発現を測定するのを可能にする当業者に既知であるいかなる方法も使用することができる。方法の選択は、発現が核酸及び/又はタンパク質レベルで測定されるか否かと、解析される試料とによって決まる。前記発現を検出することが、特に、本明細書に記載するように、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、すなわち核酸増幅、特にrtPCR、マクロH2A1.1に特異的な抗体若しくはマクロH2A2に特異的な抗体を用いる、免疫組織化学染色(すなわちタンパク質レベル)、及び/又はmRNA解析を含む、本発明による方法が好ましい。
【0032】
そして、本発明の別の好ましい態様は、マクロH2A1.1又はマクロH2A2に特異的な薬剤に対するスクリーニング方法であって、マクロH2A1.1又はマクロH2A2に潜在的に特異的な薬剤とマクロH2A1.1又はマクロH2Aを接触させること、及び前記薬剤が特にマクロH2A1.1又はマクロH2Aと結合するか否かを判断することを含む、方法に関する。スクリーニングの特定の方法は本技術分野において既知であり、例えば、In vitro Methods in Pharmaceutical Research, Academic Press, 1997及び米国特許第5,030,015号において論じられている。潜在的にマクロH2A1.1又はマクロH2A2に特異的な前記薬剤が、化合物ライブラリ、ファージディスプレイライブラリ、特にsc−Fvファージディスプレイライブラリにおいて、又は抗体のライブラリに存在する、本発明によるスクリーニング方法が好ましい。
【0033】
マクロH2A1.1又はマクロH2A2に潜在的に特異的な前記薬剤が診断薬及び/又は治療薬である、本発明によるスクリーニング方法が更に好ましい。すなわち、薬剤を、例えば哺乳類患者における癌再発のリスクを診断するか、若しくは老化細胞の量若しくは比をモニタリングする等、上述したような診断方法で用いることができるか、又は、例えば腫瘍細胞の老化を増大させるために用いることができる治療薬とすることができる。
【0034】
そして、本発明の別の態様は、本発明による方法によってスクリーニングされる、診断薬及び/又は治療薬に関する。この薬剤を、本発明によれば、上述したようにスクリーニングし、かつ前記薬剤を医薬的に許容可能な担体、賦形剤及び/又は安定剤と共に処方する方法を含む、医薬組成物を製造する方法において、医薬組成物内に処方することができる。任意にラベルを有する、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体及び/若しくは組換え抗体、又はそれらの機能的断片から選択される、本発明によるマクロH2A1.1又はマクロH2A2に特異的な抗体である薬剤が好ましい。
【0035】
許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、採用される投薬量及び濃度において受容者に対して非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸等の緩衝剤、アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤、防腐剤(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノールアルコール、ブチルアルコール若しくはベンジルアルコール、メチルパラベン若しくはプロピルパラベン等のアルキルパラベン、カテコール、レソルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノール及びm−クレゾール等)、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン若しくは免疫グロブリン等のタンパク質、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン若しくはリジン等のアミノ酸、単糖類、二糖類及びグルコース、マンノース若しくはデキストリンを含む他の炭水化物、EDTA等のキレート剤、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖類、ナトリウム等の造塩対イオン、金属複合物(例えば、Zn−タンパク質複合物)並びに/又はTWEEN
TM、PLURONICS
TM若しくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン界面活性剤を含む。
【0036】
そして、本発明の別の態様は、上記のように本発明による方法によってスクリーニングされる、診断薬及び/又は治療薬を含む上記のように製造される、医薬組成物又は医薬製剤に関する。
【0037】
そして、本発明の別の態様は、マクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な抗体、若しくはそのマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な断片を製造する方法であって、a)クロマトグラフィカラムに結合されたマクロH2A1.1ドメイン若しくはマクロH2A2ドメインを用いる、抗体を含む血清をアフィニティ精製する工程、又はb)マクロH2A1.1ドメイン若しくはマクロH2A2ドメインを用いてsc−Fvファージディスプレイライブラリをスクリーニングする工程を含む、方法に関する。これらの方法のそれぞれの詳細は、当業者には既知であり、本明細書に記載するように、例えば、a)の場合は、マクロH2A1.1ドメイン又はマクロH2A2ドメインに対して特異的な抗体を含むウサギ血清を使用し、又はb)の場合は組換えマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2ドメインを使用する。
【0038】
したがって、本発明の別の態様は、本発明による方法によって製造される、マクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な抗体、又はsc−Fv断片等、そのマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な断片に関する。好ましくは、本発明による前記マクロH2A1.1又はマクロH2A2に特異的な抗体は、任意にラベルを有する、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体及び/又は組換え抗体から選択される。本発明の文脈では、「マクロH2A1.1又は(若しくは)マクロH2A2に特異的な」とは、抗体が、マクロH2A1.1又はマクロH2A2のマクロドメインのエピトープと特異的に結合し、解析される試料内の他の抗原と交差反応性又は実質的な交差反応性を示さないことを意味するものとする。
【0039】
そして、本発明の更に別の態様は、本発明に記載の診断薬、及び/又は、本発明に記載のマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な抗体、若しくはそのマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な断片を、任意選択的に本発明に記載の方法を行うための追加の補助剤とともに具備する診断キットに関する。本キットは、好ましくは、本発明による方法を実行するために必要な化学物質、染料、緩衝剤等を含む。本キットはまた、解析のためのDNA又はタンパク質のチップ又はマイクロアレイとともに、診断の結果を表示及び解釈するためにマニュアル及びソフトウェア及び機械も含むことができる。
【0040】
そして、本発明の更に別の態様は、哺乳類患者の癌を治療する方法であって、本発明に記載の方法、並びに前記患者における癌再発のリスクが増大していると特定された患者の前記癌の再発を治療及び/又は予防することを含む、方法に関する。本明細書で用いる「治療(treatment)」は、治療的処置(therapeutic treatment)及び予防的(prophylactic又はpreventative)手段の両方を指し、目的は、標的となる病理学的状態又は疾患、特に癌再発を防止するか又は遅らせる(低下させる)ことである。治療を必要としている人には、すでに疾患がある人と、疾患がある傾向のある人又は疾患を予防すべき人とが含まれる。治療は、補助治療と治療未経験者の一次(first line)治療との両方を含むことができ、治療を、化学療法及び/又は放射線等の他の抗癌方策と組み合わせることができる。
【0041】
前記治療が、その治療を必要としている前記患者に、好ましくは上記のような医薬組成物の形態である、上述したように本発明の方法によってスクリーニングされる薬剤を投与することを含む、本発明による哺乳類患者の癌を治療する方法が好ましい。好ましい薬剤は、上述したような小型化学分子若しくは抗体又はそれらの断片である。
【0042】
本発明による哺乳類患者の癌を治療する方法であって、マクロH2A1.1の発現に基づいて、前記治療に応じて腫瘍における老化細胞、特に癌細胞の量及び/又は比をモニタリングすることを更に含む、方法が更に好ましい。マクロH2A1.1が、多数の老化細胞を有していることが知られている齧歯動物の肺腺腫に豊富であるが、老化を克服し制御されない増殖を示す肺癌では、発現低下しているか又は存在していないという発見もまた、これらの結論と一貫し、抗腫瘍メカニズムとしての老化の概念を強調する。したがって、本発明による方法のこの好ましい実施の形態では、発現を用いて、マーカーのマクロH2A1.1の発現に基づいて腫瘍における老化細胞、特に癌細胞の量又は比を概してモニタリングすることができる。老化細胞の量又は比は、患者の再発を示すものとして、化学療養又は放射線等の抗腫瘍治療の成功又は効果をモニタリングするため、又は癌細胞の数が増大しているか否かを確認するために用いられる、腫瘍細胞の成長に対する指標である。他の老化マーカーを測定することもでき、前記マーカーを測定又は検出する方法は、当業者には既知であり、マーカーのマクロH2A1.1及び/又はマクロH2A2に対して本明細書に記載した通りである。
【0043】
本発明によって治療される癌を、固形癌、肺癌、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、頭頸部癌、前立腺癌、膵臓癌、胃癌、結腸癌、甲状腺癌、骨癌、食道癌及び脳癌から選択することができ、好ましくは乳癌及び/又は肺癌である。示す癌はまた、その転移形態も含む。
【0044】
そして、本発明の更に別の態様は、本発明による方法によってスクリーニングされる薬剤、並びに/又は、本発明によるマクロH2A1.1若しくはマクロH2A2に特異的な抗体、若しくはそのマクロH2A1.1若しくはマクロH2A1に特異的な断片、又は、癌の予防、治療及び/若しくは診断のため、特に癌再発、特に乳癌及び/若しくは肺癌再発の予防、治療及び/若しくは診断のための、若しくは癌の予防、治療及び/若しくは診断のため、特に癌再発、特に乳癌及び/若しくは肺癌再発の予防、治療及び/若しくは診断のための薬物の製造のための、本発明によるキットの使用に関する。
【0045】
前記癌は、固形癌、肺癌、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、頭頸部癌、前立腺癌、膵臓癌、胃癌、結腸癌、甲状腺癌、骨癌、食道癌及び脳癌の群から選択され、好ましくは乳癌及び/又は肺癌である、本発明に記載の使用が好ましい。示す癌はまた、その転移形態も含む。
【0046】
ヒストンは、別個の細胞タイプにおいて同様のレベルで存在するものと想定されることが多い。ヘテロクロマチンのヒストン変異体マクロH2Aは、いくつかの分子及び細胞の構造的特徴では特異である。構造レベルにおいて、マクロH2Aは、大型C末端伸長、マクロドメイン、およそ25kDaの球状モジュールを有し、マクロH2A1.1の場合、特異性の高いADPリボースを結合する(Kustatscher他、2005)。さらに、すべての脊椎動物で観察されるマクロH2Aと、小分子を結合することができない、マクロH2A1.2として知られるマクロH2A1に対する第2のスプライス変異体とに対する2つの遺伝子がある。ここで、本発明者らは、すべてのマクロH2Aアイソフォーム(マクロH2A1.1、マクロH2A1.2及びマクロH2A2)に対してポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を開発し、これらの抗体を用いて、培養された細胞においてかつin vivoでマクロH2Aヒストンの細胞局在化及び存在量を研究した。本発明者らは、マクロH2Aが、複製老化した一次線維芽細胞において発現上昇することが分かった。さらに、ヒトの癌においてマクロH2A1.1の発現とKi−67との間の強い負の相関がある。急速に細胞分裂する腫瘍(増殖マーカーKi−67の高発現によってマークされる)は、低レベルのマクロH2A1.1を表し、分裂指数の低い腫瘍は、ヒストンが豊富である。両発見は、マクロH2A1.1が、細胞の分化の程度に相関し、細胞周期から出た細胞をマークするということを論じている。
【0047】
マクロH2A1.1が、多数の老化細胞を有していることが知られている齧歯動物の肺腺腫に豊富であるが、老化を克服し制御されない増殖を示す肺癌では、発現低下しているか又は存在していないという発見もまた、これらの結論と一貫し、抗腫瘍メカニズムとしての老化の概念を強調する。有意に、本発明者らは、マクロH2A1.1レベルが、肺癌における腫瘍再発のリスクに対して優れた予測因子であることが分かる。本発明者らが解析することができる明確な数の患者では、マクロH2A1.1レベルは、一般的な増殖マーカーであるKi−67との相関に対して統計的に優れていることが分かった(マクロH2A1.1の場合はP=0.0058、Ki−67の場合はP=0.07983)。
【0048】
乳癌組織アレイに対する現時点で利用可能な患者情報は、マクロH2A1.1レベルと臨床転帰との相関を評価するには不十分である。肺腫瘍からのデータに基づいて、マクロH2A1.1は、乳癌においても有用な予後バイオマーカーであるように見える。さらなる検査により、他の癌におけるその有用性が明らかになる。
【0049】
細胞老化中のマクロH2A1.1遺伝子産物の発現上昇及び発癌におけるその役割を確認するメカニズムは、未だ解明されていない。予備的証拠は、mRNAレベルが老化中は変化しないことを示唆し、転写後プロセスはマクロH2A1.1の発現上昇を考慮することができることを示唆する。
【0050】
無病生存期間と共にマクロH2A1.1発現を統計的に支持されて観察することにより、癌、特に肺癌患者における再発のリスクの改善された層別化の可能性が広がり、その観察を、より大きい患者集団で繰り返すべきである。将来の研究は、マクロH2A1.1発現上昇がヒトの腫瘍における老化細胞の一般的な特徴であるか否かと、高いマクロH2A1.1染色が、概して腫瘍細胞における細胞分化の程度を反映するか否かとについてさらなる洞察を提供するであろう。本発明の新たなツールは、ハイリスク型の癌、特に乳癌又は肺癌患者の特定を改善し、したがって、予後が厳しい癌において治療方策のより優れた標的化を可能にする。
【0051】
ここで、本発明を、添付図面を参照して以下の実施例で、ただしそれに限定されずに、更に説明する。本発明の目的で、本明細書に列挙するすべての参照文献は、その全体が参照により本明細書に援用される。