【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
なお、実施例中の記載に使用されている略号の意味を以下に説明する。
DBU=1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカー7−エン
THF=テトラヒドロフラン
DMF=N,N−ジメチルホルムアミド。
【0053】
実施例1 化合物(5)の合成
【0054】
【化15】
【0055】
磁気撹拌子を備えた100mL二口フラスコを窒素置換した。窒素雰囲気下、シアヌル酸(1.20g、9.26mmol)、DMF(8mL)、DBU(0.29mL、1.85mmol)、1,2−ジフェニル−1,2−ジ[p−(4−ブロモブトキシ)フェニル]エテン(587mg、0.926mmol)のDMF(1.5mL)溶液を加えた。その後、70℃で21時間20分撹拌した。低沸点物を減圧留去し、THF(30mL)を加えて、析出する固体を濾過により除いた。濾液を減圧留去し、再びTHF(15mL)を加えて析出物を濾過し、濾液を減圧留去し、黄色固体(800mg)を得た。このうち200mgを用いて次のようにGPC分取を行った。黄色固体をTHF(3mL)に溶解し、0.45μMのメンブレンフィルターで不溶物を取り除いた後にGPC分取(THF溶媒、流速2.50mL/分)することにより、薄黄色固体を40.1mg得た。このうち30.5mgにベンゼン(3mL)を加えて、凍結脱気することにより、化合物(5)(28.3mg)を得た(0.203mmol、収率22%)。
【0056】
本化合物は文献未収載の新規化合物であり、物性値や分光学的データは以下の通りであった。
白色粉末(シス体とトランス体の混合物)、158.1℃(分解)。
1H NMR (DMSO-d
6, 300 MHz) δ 1.64 (br, 16H, OCH
2CH
2 + NCH
2CH
2), 3.66 (br, 8H, NCH
2), 3.87 (br, 8H, OCH
2), 6.65 (AA'BB', J = 8.7 Hz, 4H, ArH), 6.69 (AA'BB', J = 8.7 Hz, 4H, ArH), 6.81 (AA'BB', J = 8.7 Hz, 4H, ArH), 6.85 (AA'BB', J = 8.7 Hz, 4H, ArH), 6.92 ? 6.97 (m, 8H, ArH), 7.06 ? 7.17 (m, 12H, ArH), 11.40 (s, 8H, NH)
13C NMR (75 MHz, DMSO?d
6) δ 24.3 (× 2), 26.1 (× 2), 67.0 (× 2), 113.7 (× 2), 126.3 (× 2), 127.8 (× 2), 127.9 (× 2), 130.8 (× 2), 132.0 (× 2), 135.6 (× 2), 139.3 (× 2), 143.8 (× 2), 148.8 (× 2), 150.0 (× 2), 157.0 (× 2).
高分解能MS (FAB, マトリックス=3?ニトロベンジルアルコール) C
40H
38N
6O
8 ([M]
+) としての計算値 m/z 730.2751, 実測値 730.2740.
【0057】
実施例2 化合物(6)の合成
【0058】
【化16】
【0059】
窒素置換し、磁気撹拌子を備えた50mL二口メスフラスコに、シアヌル酸(1.29g,10.0mmol)、DMF(12mL)、DBU(0.30mL,2.01mmol)および1,1,2,2−テトラキス(4−(2−(2−ブロモエトキシ)エトキシ)フェニル)エテン(0.501g,0.500mmol)のDMF溶液(8mL)を加えた。その後70℃で24時間加熱撹拌した。低沸点物を減圧留去し、THF(30mL)を加えて析出する固体を濾過により除去した。再びTHF(20mL)を加えて、析出する固体を濾過により除去した。再度THF(15mL)を加えて析出物を濾過し、濾液を減圧留去し、黄色固体(785mg)を得た。このうち300mgを用いて次のようにGPC分取を行った。黄色固体をTHF(3mL)に溶解させ、メンブレンフィルターで少量の不溶物を除去した後にGPC分取(流速:2.50mL/分、THF溶媒)を行い、化合物(6)(27.1mg)を得た(0.0227mmol、換算収率12%)。
【0060】
本化合物は文献未収載の新規化合物であり、物性値や分光学的データは以下の通りである。
黄色固体、融点110.4-111.3℃。
1H NMR (THF-d
8, 300 MHz) δ 1.69 (br, 8H, CH
2N), 3.62 (t, J = 6.0 Hz, 8H, ArOCH
2CH
2), 3.70 (t, J = 4.8 Hz, 8H, CH
2CH
2N), 3.92 (t, J = 6.0 Hz, 8H, ArOCH
2), 6.59 (d, J = 8.1 Hz, 8H, ArH), 6.84 (d, J = 8.1 Hz, 8H, ArH), 10.4 (s, 8H, NH)
13C NMR (THF-d
8, 75 MHz) δ 40.4, 68.0, 68.1, 69.7, 114.2, 133.1, 137.7, 139.2, 148.8, 150.4, 158.2
高分解能MS (FAB, マトリックス=3−ニトロベンジルアルコール) C
54H
56N
12O
20 ([M
+])としての計算値 m/z 1192.3734, 実測値1192.3728.
【0061】
実施例3 化合物(7)の合成
【0062】
【化17】
【0063】
窒素置換し、磁気撹拌子を備えた30mL二口フラスコに、シアヌル酸(0.855g,6.63mmol)、DMF(12mL)、DBU(0.200mL,1.34mmol)、及び1,2−ジフェニル−1,2−ビス(4−(2−(2−(2−ブロモエトキシ)エトキシ)エトキシ)フェニル)エテン(498mg,0.661mmol)のDMF(8mL)溶液を順次加えた。その後、60℃で3日間加熱撹拌した。その後、反応溶液にトルエン(150mL)を加えて、濾過をし、白色濾物を0.962g得た。この固体にTHF(15mL)を加えて、析出する固体を濾過により除去した。濾液を減圧留去し、再びTHF(5mL)を加えて析出物を濾過し、低沸点物を減圧留去して白色固体(351mg)を得た。このうち、220mgを用いて次のようにGPC分取を行った。白色固体をTHF(3mL)に溶解し、0.45μmメンブレンフィルターで少量の不溶物を取り除いた後にGPC分取(流速:2.50mL/分、THF溶液)を行い、化合物(7)(15.7mg)を得た(0.0185mmol、換算収率4.5%)。
【0064】
本化合物は文献未収載の新規化合物であり、物性値や分光学的データは以下の通りである。
黄色固体(シス体とトランス体の混合物)、融点51.6-65.7℃。
1H NMR (THF-d
8, 300 MHz) δ 1.67 (br, 8H, CH
2N, cis + trans), 3.52-3.59 (m, 24H, ArOCH
2CH
2OCH
2 + ArOCH
2CH
2OCH
2CH
2 + CH
2CH
2N, cis + trans), 3.67 (t, J = 4.5 Hz, 4H, OCH
2CH
2, cis or trans), 3.68 (t, J = 4.5 Hz, 4H, OCH
2CH
2, cis or trans), 3.92 (t, J = 4.5 Hz, 4H, OCH
2, cis or trans), 3.98 (t, J = 4.5 Hz, 4H, OCH
2, trans or cis), 6.58 (AA'BB', J = 9.0 Hz, 4H, ArH, cis or trans), 6.59 (AA'BB', J = 8.7 Hz, 4H, ArH, cis or trans), 6.82 (AA'BB', J = 9.0 Hz, 4H, ArH, cis or trans), 6.83 (AA'BB', J = 8.7 Hz, 4H, ArH, cis or trans), 6.90-7.04 (m, 20H, ArH, cis + trans)
13C NMR (THF-d
8, 75 MHz) δ 26.2 (× 2), 68.0, 68.1, 70.4 (× 2), 70.9 (× 2), 71.4 (× 2), 114.2, 114.3, 126.67, 126.73, 128.1, 128.2, 132.0, 132.1, 133.07, 133.10, 137.00, 137.03, 140.5 (× 2), 145.18, 145.24, 148.9 (× 2), 150.4 (× 2), 158.42, 158.45
高分解能MS (FAB, マトリックス=3−ニトロベンジルアルコール) C
44H
46N
6O
12 ([M]
+)としての計算値m/z 850.3174, 実測値850.3162.
【0065】
実施例4 化合物(8)の合成
【0066】
【化18】
【0067】
窒素置換し、磁気撹拌子を備えた30mL三口ナスフラスコに、シアヌル酸(0.480g,3.72mmol)、DMF(2mL)、DBU(0.111mL,0.742mmol)を加えた。その後1,2−ジフェニル−1,2−ビス(4−(2−(2−ブロモエトキシ)エトキシ)フェニル)エテン(0.247g,0.371mmol)のDMF(3mL)溶液を加え、70℃で24時間撹拌した。低沸点物を減圧留去し、THF(10mL)を加え、析出した固体を濾過により除去した。濾液を減圧留去し、再度THF(5mL)を加えて析出物を濾過し、濾液を減圧留去し、白黄色固体(0.713g)を得た。このうち、0.300gを用いて次のようにGPC分取を行った。白黄色固体をTHF(3mL)に溶解し、0.45μmメンブレンフィルターで少量の不溶物を取り除いた後にGPC分取(流速:2.50mL/分、THF溶液)を行い、化合物(8)(59.5mg)を得た(0.0780mmol、換算収率36.1%)。
【0068】
本化合物は文献未収載の新規化合物であり、物性値や分光学的データは以下の通りである。
黄色固体(シス体とトランス体の混合物)、106.0℃(分解)。
1H NMR (acetone-d
6, 300 MHz) δ 3.67 (t, J = 6.3 Hz, 4H, CH
2N, cis or trans), 3.71 (t, J = 6.0 Hz, 4H, CH
2N, cis or trans), 3.77 (t, J = 4.2 Hz, 4H, ArOCH
2CH
2, cis or trans), 3.80 (t, J = 3.6 Hz, 4H, ArOCH
2CH
2, cis or trans), 3.69-4.05 (m, 16H, CH
2CH
2N + ArOCH
2, cis + trans), 6.69 (AA'BB', J = 8.7 Hz, 8H, ArH, cis + trans), 6.91 (AA'BB', J = 8.7 Hz, 8H, ArH, cis + trans), 6.99-7.15 (m, 20H, ArH, cis + trans), 10.3 (brs, 8H, NH, cis + trans)
13C NMR (acetone-d
6, 75 MHz) δ 40.3, 40.4, 67.68 (× 2), 67.72 (× 2), 69.5 (× 2), 114.1, 114.2, 126.7, 126.8, 128.1, 128.2, 131.69, 131.72, 132.8, 132.9, 136.8, 136.9, 140.3 (× 2), 144.8, 144.9, 148.5, 148.6, 150.16, 150.19, 157.99, 158.01
高分解能MS (FAB, マトリックス=3−ニトロベンジルアルコール) C
40H
38N
6O
10 ([M]
+)としての計算値 m/z 762.2649, 実測値762.2644.
【0069】
実施例5〜10
アセトニトリルに化合物(5)を10μMの濃度で溶解し、ここにメラミンをその濃度が1μM(実施例5)、5μM(実施例6)、7.7μM(実施例7)、10μM(実施例8)、15μM(実施例9)、又は20μM(実施例10)となるように加えた。
各溶液を超音波照射によって混合しながら、励起波長350nmにて蛍光スペクトルを測定した。
図1に、メラミン添加後の超音波照射時間(横軸)に対して、波長500nmにおける蛍光強度(励起波長:350nm)(縦軸)を示した図を示す。
図1に示す通り、メラミン濃度が1μM(実施例5)では、5時間経過後も蛍光強度の増大は認められなかったが、5μM以上(実施例6〜10)では1.5時間以上の超音波照射で蛍光強度の著しい増大が認められ、その傾向はメラミンが高濃度であるほど著しくなった。なお、実施例7のメラミン濃度7.7μMは米国食品医薬品局の定めた幼児用粉ミルク中に許容される最大メラミン濃度1ppmに相当し、この一連の実施例は、それより低濃度のメラミン(例えば実施例6)であっても、時間をかけることで、メラミンが検出可能であることを示している。
【0070】
実施例11〜25
実施例5〜10と同様に、化合物(5)を10μMの濃度で溶解したアセトニトリル溶液に対して、濃度が1μM(0.13ppm相当:実施例11)、2μM(0.26ppm相当:実施例12)、3μM(0.39ppm相当:実施例13)、5μM(0.65ppm相当:実施例14)、7.7μM(1.0ppm相当:実施例15)、10μM(1.3ppm相当:実施例16)、15μM(1.9ppm相当:実施例17)、20μM(2.6ppm相当:実施例18)、50μM(6.5ppm相当:実施例19)、100μM(13ppm相当:実施例20)、200μM(26ppm相当:実施例21)、1540μM(200ppm相当:実施例22)、7700μM(1000ppm相当:実施例23)、23100μM(3000ppm相当:実施例24)又は46200μM(6000ppm相当:実施例25)となるようにメラミンを加えて、3時間超音波照射し、その後蛍光スペクトルを測定した。
図2に、メラミン濃度(対数目盛、横軸)に対して、波長500nmにおける蛍光強度(励起波長:350nm)(縦軸)をプロットした図を示す。また、
図3には、実施例11〜18及び実施例25の、波長370nmから600nmの蛍光スペクトル(励起波長350nm)を示す。
図2において点線で示す1ppmの濃度は、米国食品医薬品局の定めた幼児用粉ミルク中に許容される最大メラミン濃度であり、メラミン濃度7.7μMに相当する。
図2に示すように、1ppm(7.7μM)の前後(5〜20μM)でちょうど蛍光強度の立ち上がりが観測されており、米国食品医薬品局の許容基準によくマッチした検出感度であるとする結果が得られた。また、それより遙かに高濃度のメラミンを含む場合であっても、メラミンのない場合に比べて極めて大きな蛍光強度を示しており、本発明の検出方法が広い範囲のメラミン濃度に対応する検出能力を持っていることが確認された。
【0071】
実施例26〜31
メラミンを1ppm含む検体を以下のように調製した。市販品の調製粉乳(明治ほほえみらくらくキューブ、(株)明治)を調乳方法に従い、粉乳(1ブロック)を蒸留水(40mL)に溶解した。ここにメラミン(4.00mg、0.317μmol)を加えて、30分間超音波を照射した。その後、このうち2.0mLを量りとり、アセトニトリル(78mL)を加えて抽出操作を行った。アセトニトリルに不溶な白色沈殿物が析出するため、3000rpmで30分間遠心分離し、無色の上澄み液(2.0mL)を0.45μmのメンブレンフィルターを用いて濾過し、メラミンを含む調製粉乳抽出アセトニトリル溶液を得た。濾液を減圧留去した後、ここに化合物(5)の濃度が100μMとなるようにアセトニトリルに溶解したストックソリューション(0.50mL)およびアセトニトリル(4.5mL)を加えて3時間超音波照射することにより、メラミンを1ppm含む検体を得た。この検体をIIIとする。
同様の方法で、メラミンを10ppm、300ppm、又は3000ppm含む検体を得た。これらの検体をそれぞれIV、V、VIとする。なお、対照試料として、メラミンを含まないサンプルI、IIも同様の手順にて準備した。準備した6種の検体の詳細は以下のとおりである。
【表1】
こうして得られた各検体の蛍光スペクトルを測定し(励起波長:350nm)、また、検体I〜IVに365nmのUVランプで光照射して蛍光を観測し、写真撮影した。
図4に蛍光スペクトルを、
図5に蛍光観察の結果を示す。
図4に示すように、メラミン濃度が1ppm(検体III)であっても蛍光強度の増大が観測され、また
図5の写真に示すように、目視でも容易に判定可能であるとする結果が得られた。また、多量のメラミンを含む場合(検体IV〜VI)であっても、メラミンのない場合に比べて著しい蛍光強度の増大が認められ、本発明の検出方法が、広い濃度範囲のメラミンの検出が可能であることを示している。
【0072】
実施例32〜35
アセトニトリル−水(1:1)混合溶媒に、化合物(5)を10μMの濃度で溶解し、ここにメラミンを、それぞれ濃度が0μM(実施例32)、500μM(実施例33)、1000μM(実施例34)又は5000μM(実施例35)となるように加えた試料を用意し、これらの蛍光スペクトルを測定した(励起波長:350nm)。得られた結果を
図6に示す。
図6に示すように、メラミンの濃度が1000μM(631ppm)で蛍光強度が増加しはじめ、5000μMでは著しく高くなり、高濃度のメラミンを検出できるとする結果が得られた。
【0073】
実施例36及び37
THFに化合物(5)を10μMの濃度で溶解し、メラミンをその濃度が500μMとなるように加えた試料(実施例36)、及び、対照データとして、メラミンを加えない試料(実施例37)を用意し、励起波長350nmで励起した際の蛍光スペクトルを測定した。得られた結果を
図7に示す。
図7に示すように、溶媒がTHFの場合においてもメラミンの存在により蛍光が著しく強くなるとする結果が得られた。
【0074】
実施例38〜44
エタノールに化合物(5)を100μMの濃度で溶解し、ここにメラミンを、それぞれ濃度が0ppm(実施例38)、1ppm(実施例39)、2ppm(実施例40)、4ppm(実施例41)、6ppm(実施例42)、8ppm(実施例43)、又は10ppm(実施例44)になるように加えた試料を用意し、2時間超音波照射後に蛍光スペクトルを測定した(励起波長350nm)。得られた結果を
図8に示す。
図8に示すように、溶媒がエタノールの場合においてもメラミンの存在で蛍光が著しく強くなるとする結果が得られた。
【0075】
実施例45〜51
エチレングリコールジメチルエーテルに化合物(5)を100μMの濃度で溶解し、ここにメラミンを、それぞれ濃度が0ppm(実施例45)、1ppm(実施例46)、2ppm(実施例47)、4ppm(実施例48)、6ppm(実施例49)、8ppm(実施例50)、又は10ppm(実施例51)になるように加えた試料を用意し、2時間超音波照射後に蛍光スペクトルを測定した(励起波長350nm)。得られた結果を
図9に示す。
図9に示すように、溶媒がエチレングリコールジメチルエーテルの場合においてもメラミンの存在で蛍光が著しく強くなるとする結果が得られた。
【0076】
実施例52〜55
アセトンに化合物(5)を10μMの濃度で溶解し、ここにメラミンを0ppm(実施例52)とした試料、またはメラミンを1ppmを加えた試料を2時間、超音波照射(実施例53)、撹拌(実施例54)あるいは静置(実施例55)し、蛍光スペクトルを測定した(励起波長350nm)。得られた結果を
図10に示す。
図10に示すように、溶媒としてアセトンを用いた場合でも、静置又は撹拌によってメラミンの存在で蛍光が著しく強くなるとする結果が得られた。
【0077】
実施例56及び57
化合物(5)(3.65mg,5.00μmol)をアセトン(25mL)に溶解し、200μMの溶液を調製した。また市販品の調製粉乳(明治ほほえみらくらくキューブ、(株)明治)(1.35g)にメラミン(0.103g:10ppmに相当)を添加し、次いでアセトン(5mL)を加え、3分間激しく撹拌した。上澄み溶液を、脱脂綿を詰めたパスツールピペットで濾過し、この濾液(2.0mL)に先に調製した化合物(5)の溶液を2.0mL加え、室温で3時間静置した後に蛍光スペクトルを測定し、またUV光(365nm)照射下での写真を撮影した(実施例56)。なお、対照試料として、メラミンを含まないサンプルも同様に作成し、蛍光スペクトル測定及び写真撮影を行った(実施例57)。得られた結果を
図11(蛍光スペクトル)及び
図12(UV光照射下の写真)に示す。
図11に示すように、メラミンが混入した粉ミルクのサンプルでは、蛍光強度の著しい増加が観測され、また
図12に示すように目視によっても青色蛍光が観測されることから、アセトン中でも調製粉乳に混入したメラミンの検出が出来るとする結果が得られた。
【0078】
参考例1〜7
メラミンと類似構造を持つアンメリン(参考例3)、アンメリド(参考例4)、ウラシル(参考例5)、シトシン(参考例6)、チミン(参考例7)について、それぞれの濃度が100μMとなるように化合物(5)の10μMアセトニトリル溶液に加え、3時間超音波を照射した。同様に、アンメリン、アンメリド、ウラシル、シトシン、チミン、メラミンのいずれをも加えないブランクの試料(参考例1)、および、メラミンを加えた試料(参考例2)も調製したが、メラミンについてはその濃度が10μMとなるように加えた。これらの試料について蛍光スペクトルを測定(励起波長:350nm)し、また、UV光(365nm)照射下での写真を撮影した。
図13の上段に波長500nmでの各試料の蛍光強度を、
図13の下段に各試料の蛍光の写真を示す。
図13に示すように、メラミン以外は波長500nm付近の青色蛍光は実質的にほとんど観測されず、本発明の検出方法がメラミンを特異的に検出できるとする結果が得られた。
尚、上記の化合物の構造は以下の通りである。
【化19】
【0079】
実施例58〜62
THFに、化合物(6)を10μMの濃度で溶解し、ここにメラミンを、それぞれ濃度が0μM(実施例58)、10μM(実施例59)、20μM(実施例60)、50μM(実施例61)、又は100μM(実施例62)となるように加えた試料を用意し、3時間超音波照射後に蛍光スペクトルを測定した(励起波長350nm)。得られた結果を
図14に示す。
図14に示すように、化合物(6)を用いた場合においてもメラミンの存在で蛍光が著しく強くなるとする結果が得られた。
【0080】
実施例63〜69
アセトニトリルに、化合物(7)を10μMの濃度で溶解し、ここにメラミンを、それぞれ濃度が0ppm(実施例63)、1ppm(実施例64)、10ppm(実施例65)、20ppm(実施例66)、30ppm(実施例67)、40ppm(実施例68)、又は50ppm(実施例69)となるように加えた試料を用意し、3時間超音波照射後に蛍光スペクトルを測定した(励起波長350nm)。得られた結果を
図15に示す。
図15に示すように、化合物(7)を用いた場合においてもメラミンの存在で蛍光が著しく強くなるとする結果が得られた。
【0081】
実施例70〜76
アセトンに、化合物(8)を10μMの濃度で溶解し、ここにメラミンを、それぞれ濃度が0ppm(実施例70)、1ppm(実施例71)、2ppm(実施例72)、3ppm(実施例73)、4ppm(実施例74)、5ppm(実施例75)、又は10ppm(実施例76)となるようにを加えた試料を用意し、これを3時間静置した後、蛍光スペクトルを測定した(励起波長350nm)。得られた結果を
図16に示す。
図16に示すように、アセトン中で化合物(8)を用いた場合においてもメラミンの存在で蛍光が著しく強くなるとする結果が得られた。
【0082】
実施例77〜83
アセトニトリルに、化合物(8)を10μMの濃度で溶解し、ここにメラミンを、それぞれ濃度が0ppm(実施例77)、1ppm(実施例78)、2ppm(実施例79)、3ppm(実施例80)、4ppm(実施例81)、5ppm(実施例82)、又は10ppm(実施例83)となるように加えた試料を用意し、3時間超音波照射後に蛍光スペクトルを測定した(励起波長350nm)。得られた結果を
図17に示す。
図17に示すように、アセトニトリル中で化合物(8)を用いた場合においてもメラミンの存在で蛍光が著しく強くなるとする結果が得られた。
【0083】
実施例84
化合物(5)を用い、以下の方法1又は2に示す方法により試験片を作製し、メンブラン上でメラミンを検出する実験を行った。メンブランとしては、標準ろ紙(アドバンテック社製 No.2、サイズ:6Φあるいは5mm×5mm)、低蛍光ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride;PVDF)メンブラン(GEヘルスケア社製、Hybond−LFP、サイズ:6Φ)、ナイロンメンブラン(ワットマン社(現:GEヘルスケア社)製、Nytran N、サイズ:6Φ)、酵素漂白コーヒーフィルタ((株)カリタ製、サイズ:6Φ)を使用した。
<方法1>
各濃度のメラミンのエタノール溶液をメンブランにパスツールピペット(又はマイクロピペット)で2滴(1滴≒10μL)スポット付着させた後、メンブランを乾燥させた。この操作を5回繰り返し、メンブラン上に合計10滴分のメラミンの溶液をスポット付着させた。次いで、メラミンの溶液をスポット付着させた上記メンブランに、化合物(5)のエタノール溶液(100μM)をパスツールピペットで2滴滴下し、バイアル(高さ5.5cm、底の直径1.6cm)中で蓋をして静置、又はメンブランをスライドガラスに載せ、そのまま静置した。
<方法2>
化合物(5)のエタノール溶液(100μM)をパスツールピペット(又はマイクロピペット)でメンブランに2滴(1滴≒10μL)滴下し、メンブランを乾燥させた。次いで、各濃度のメラミンのエタノール溶液をパスツールピペット(又はマイクロピペット)を用いてメンブランに2滴(1滴≒10μL)スポット付着させ、そのまま静置した。メンブランの種類に応じて、メラミンのエタノール溶液をさらにスポット付着させた後、乾燥させる工程を1〜4回繰り返した。繰り返し操作の最終回においては、乾燥させずに、メンブランをスライドガラスに載せ、そのまま静置した。
また、上記方法に準じて、溶媒としてエタノールに代えてアセトンを使用する場合には、まず化合物(5)のアセトン溶液(100μM)をメンブランに滴下し、乾燥させた。次いで、メラミンのアセトン溶液をスポット付着させ、乾燥させる工程を全5回行った(メンブラン上に合計10滴のメラミンのアセトン溶液を滴下したことになる)。その後、メンブランをスライドガラスに載せ、乾いたメンブランを濡らすために、エタノールをパスツールピペット(又はマイクロピペット)で1滴滴下し、そのまま静置した。
なお、<方法1>および<方法2>のいずれの場合も、メラミン濃度が0ppmの対照試料として、メラミン溶液をメンブランにスポット付着させずに化合物(5)のエタノール溶液のみをスポット付着させた試験片を作製した。
【0084】
以上の<方法1>あるいは<方法2>で作製した試験片に、365nmのUV光を照射し、試験片の蛍光観測、又はUV光照射下での写真を撮影し、さらに撮影したデジタル写真を用いてデータの画像解析(ImageJを使用)により蛍光の強度を数値化し、メラミンの検出実験を行った。
【0085】
次に、調製粉乳に混入させたメラミンの検出実験を行った。典型例として、調製粉乳に10ppmのメラミンを混入させた検体をエタノールを用いて調製する方法を以下に記す。
乳児用調製粉乳(1.35g)にメラミン(0.101mg)を添加し、次いでエタノール(10mL)を加え、室温で5分間撹拌した。得られた上澄み溶液を、綿を詰めたパスツールピペットを用いてろ過し、ろ液を検体として用いた。この検体と、化合物(5)(100μM)のエタノール溶液を用い、前述の<方法2>と同じ操作を行い、試験片を作製した。
なお、アセトンを溶液の溶媒とした用いた場合、アセトンの気化が早く乾いた状態ではメラミンの有無にかかわらず蛍光が観測されるため、調製粉乳のアセトン溶液のろ液をスポット付着させた後、メンブランにエタノールを1滴スポット付着させたものを試験片として用いた。
また、メラミン0ppmの対照試料として、調製粉乳にメラミンを混入させず先と同様にろ過したろ液を用いた。
【0086】
実施例85
方法1を用いて、メラミン検出における各メンブランの効果と、各種メラミン濃度に対する蛍光強度の変化を経時的に調べた。使用したメンブランは、標準ろ紙とPVDFメンブランである。各メンブランに、0又は10ppmのメラミン溶液を用いて方法1によって作製した試験片をバイアル中に3時間静置し、365nmのUV光を照射して写真を撮影した。得られた結果を
図18と19に示す。
ろ紙を使用した場合(
図18)、メラミン0ppmの試験片でろ紙自体の蛍光が観測されるものの、10ppmのメラミン溶液をスポット付着させた試験片がより明るく蛍光を示していることから容易に識別でき、メラミンを検出可能であるとする結果が得られた。同様に、PVDFメンブランを用いた場合(
図19)においても、10ppmのメラミン溶液をスポット付着させた試験片がより強く蛍光を示しており、メラミンを検出可能であるとする結果が得られた。
両メンブランを比較すると、PVDFメンブランの方がバックグランドの蛍光(0ppm)が殆どなく、メラミンの検出において検出感度が優れていると言える。そこで、さらに、PVDFメンブランを用いて、メラミン溶液の濃度を変化させた場合の検出限界について検討した。0ppm、1ppm、10ppm、50ppm、100ppm又は1000ppmのメラミン溶液を用い、方法1にてPVDFメンブランにスポット付着させた試験片を用意し、それらをバイアル中に3時間静置した後、365nmのUV光を照射して蛍光観察を行った。得られた結果を
図20に示す。
図20から明らかなように、1ppm以上のメラミン溶液を用いて作製した試験片の蛍光が目視により確認でき、メラミンが検出可能であるとする結果が得られた。
次に、上記の各種濃度のメラミン溶液を用いて作製した試験片における蛍光強度の経時変化を静置直後からのUV光照射下での写真のデータの画像解析により算出した。得られた結果を
図21に示す。
図21に示すように、メラミン濃度が10ppm以上の試験片では、数分から数十分以内で蛍光強度の増加が観察された。一方、メラミン濃度が1ppmの試験片では、1時間以上経過してようやく蛍光強度が増加しているものの、120分程度経過後であれば十分に蛍光強度の増加を観察することができた。
【0087】
実施例86
方法2を用いて、メラミン検出における各メンブランの効果を調べた。使用したメンブランは、PVDFメンブラン、ナイロンメンブラン、及びコーヒーフィルタ(酵素漂白)である。メラミン溶液として濃度を0ppm、1ppm又は10ppmに調製したものを用いて各メンブランに滴下(10滴)した試験片を作製し、1分経過した試験片に365nmのUV光を照射して写真を撮影した。得られた結果を
図22(PVDFメンブラン)、
図23(ナイロンメンブラン)、
図24(コーヒーフィルタ)に示す。
図22〜
図24に示すように、いずれの試験片においても、10ppmのメラミン溶液をスポット付着させた試験片が蛍光を示していることがはっきりと確認でき、メラミンを検出することができた。特にPVDFメンブランを用いた試験片(
図22)では、メラミン濃度が1ppmであっても、方法1と同様にはっきりとメラミンを検出することができた。
【0088】
次に、検体としてメラミンを混入させた調製粉乳を用いた場合においても、上記と同様にメラミンを検出できるかどうかをPVDFメンブランを用いて試験した。方法2に従って調製した、調製粉乳に0ppm、1ppm、5ppm又は10ppmの濃度でメラミンを混入させた検体をスポット付着(10滴)させて試験片を作製し、1分経過時に365nmのUV光を照射して写真を撮影した。得られた結果を
図25に示す。
図25に示すように、5ppm及び10ppmのメラミン溶液をスポット付着させた試験片が蛍光を示し明るく観測されることから、調製粉乳に混入したメラミンを検出可能であるとする結果が得られた。
【0089】
さらに、上記試験において検出限界を調べるために、調製粉乳の滴下数を変化させて試験を行った。調製粉乳に混入した10ppmのメラミン溶液のスポット数を計0滴、2滴、4滴、6滴又は8滴としてPVDFメンブランにスポット付着させて試験片を作製し、1分経過後に365nmのUV光を照射して写真を撮影した。得られた結果を
図26に示す。
図26に示すように、4滴以上の10ppmメラミン溶液をスポット付着させた試験片が蛍光を示し明るく観測されていることから、調製粉乳に混入したメラミンを検出可能であるとする結果が得られた。
【0090】
実施例87
方法2において、PVDFメンブランと、エタノールの代りにアセトンを抽出溶媒として用いた0ppm、1ppm又は10ppmのメラミン溶液を用いて試験片を作製し、その後、アセトンの気化により乾燥した表面を濡らすためにエタノールをスポット付着させた。
図27に、エタノールのスポット直後に365nmのUV光照射下で撮影した写真を示す。
図27に示すように、1ppm又は10ppmメラミン溶液をスポット付着させた試験片が蛍光を示していることからアセトンを溶媒として用いた場合でもメラミンを検出可能であるとする結果が得られた。
【0091】
次に、同様にして、メラミンを混入させた調製粉乳におけるメラミン検出を検討した。方法2に従って調製した、調製粉乳に0ppm、1ppm、5ppm又は10ppmの濃度でメラミンを混入させた検体をPVDFメンブランにスポット付着(10滴)させて試験片を作製し、乾燥した表面を濡らすため、試験片表面にエタノールをスポット付着させた。
図28に、エタノールのスポット直後に365nmのUV光照射下で撮影した写真を示す。
図28に示すように、1ppm、5ppm及び10ppmメラミン溶液をスポット付着させた試験片が蛍光を示していることから調製粉乳に混入したメラミンを、アセトンを用いても検出可能であるとする結果が得られた。
【0092】
以上のように、メンブランを用いたメラミン検出系では、実施例5〜83と比較して、短時間(数分から数十分)で、しかも容易にメラミンを検出することができた。