特許第5792206号(P5792206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792206
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】縫合した多軸の布帛
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/00 20060101AFI20150917BHJP
   D03D 13/00 20060101ALI20150917BHJP
   D03D 25/00 20060101ALI20150917BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20150917BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20150917BHJP
   D04H 3/10 20120101ALI20150917BHJP
【FI】
   D03D1/00 A
   D03D13/00
   D03D25/00
   D03D15/00 A
   B32B5/26
   D04H3/10
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-557493(P2012-557493)
(86)(22)【出願日】2011年3月11日
(65)【公表番号】特表2013-522486(P2013-522486A)
(43)【公表日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】EP2011053657
(87)【国際公開番号】WO2011113751
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2014年2月17日
(31)【優先権主張番号】10002869.5
(32)【優先日】2010年3月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508322897
【氏名又は名称】トウホウ テナックス ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Toho Tenax Europe GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ロニー ヴォカッツ
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−019202(JP,A)
【文献】 特開2004−160927(JP,A)
【文献】 特開2010−155460(JP,A)
【文献】 特開2003−20542(JP,A)
【文献】 国際公開第01/063033(WO,A1)
【文献】 特開2009−61655(JP,A)
【文献】 特開2004−174775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00−27/18
B32B 1/00−43/00
D04H 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層内において互いに平行に、かつ互いに接触するように隣り合って配置されたマルチフィラメント補強糸の、上下に配置された少なくとも2つの層からなる多軸の布帛であって、1つの層内及び隣接する層内の補強糸が、互いに平行に延びる、互いにステッチ幅wでもって間隔を置いた縫い糸により互いに結合されて、互いに固定されており、該縫い糸がステッチ長sを有するループを形成しており、該縫い糸によって前記布帛の零度方向が規定され、前記層の補強糸が、前記布帛の零度方向に関して対称的に配置されており、かつ前記補強糸の延在方向に関して、前記零度方向に対して角度αを形成し、該角度αが90°及び0°に等しくない多軸の布帛において、
前記縫い糸は、10〜35dtexの範囲の繊度を有し、かつ
前記縫い糸のステッチ長sは、前記ステッチ幅及び補強糸の角度αに基づいて下記関係式(I)及び(II)を充足することを特徴とする、多軸の布帛。
【数1】
及び
【数2】
ここで、
w=ステッチ幅(mm)
0.9≦B≦1.1及び
n=0.5;1;1.5;2;3又は4
であり、前記角度αは、補強糸が前記零度方向に対して90°及び0°とは異なる角度を有する、多軸布帛の平面図で見て第1の層の補強糸が配置されている、前記零度方向に対する角度αを示す。
【請求項2】
前記零度方向に対する角度αの値は、15°〜75°の範囲にある、請求項1記載の多軸の布帛。
【請求項3】
前記布帛はさらに、補強糸が前記零度方向に対して0°の角度を形成するマルチフィラメント補強糸の層及び/又は補強糸が前記零度方向に対して90°の角度を形成する層を有している、請求項1又は2記載の多軸の布帛。
【請求項4】
前記縫い糸は、室温で≧50%の破断伸びを有している、請求項1からまでのいずれか1項記載の多軸の布帛。
【請求項5】
前記縫い糸は、10〜30dtexの範囲の繊度を有している、請求項1からまでのいずれか1項記載の多軸の布帛。
【請求項6】
前記縫い糸は、ポリエステル、ポリアミド若しくはポリヒドロキシエーテル又はこれらのポリマーのコポリマーからなるマルチフィラメント糸である、請求項1からまでのいずれか1項記載の多軸の布帛。
【請求項7】
前記マルチフィラメント補強糸は、炭素繊維糸、ガラス繊維糸又はアラミド糸又は高延伸UHMW‐ポリエチレン糸である、請求項1からまでのいずれか1項記載の多軸の布帛。
【請求項8】
前記少なくとも2つの層上及び/又は前記少なくとも2つの層間にフリースが配置されている、請求項1からまでのいずれか1項記載の多軸の布帛。
【請求項9】
前記フリースは、5〜25g/mの範囲の単位面積当たり質量を有している、請求項記載の多軸の布帛。
【請求項10】
前記フリースは、それぞれ異なる溶融温度を有する熱可塑性のポリマー成分からなる、請求項又は記載の多軸の布帛。
【請求項11】
低い方の溶融温度を有するポリマー成分は、80〜135℃の範囲の溶融温度を有している、請求項10記載の多軸の布帛。
【請求項12】
高い方の溶融温度を有するポリマー成分は、140〜250℃の範囲の溶融温度を有している、請求項10又は11記載の多軸の布帛。
【請求項13】
複合材料構成部材を製造するためのプリフォームにおいて、請求項1から12までのいずれか1項記載の多軸の布帛を備えることを特徴とする、複合材料構成部材を製造するためのプリフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層内において互いに平行に、かつ互いに接触するように隣り合って配置されたマルチフィラメント補強糸の、上下に配置された少なくとも2つの層からなる多軸の布帛であって、1つの層内及び隣接する層内の補強糸が、互いに平行に延びる、互いにステッチ幅wでもって間隔を置いた縫い糸により互いに結合されて、互いに固定されており、縫い糸がステッチ長sを有するループを形成しており、縫い糸によって布帛の零度方向が規定され、層の補強糸が、布帛の零度方向に関して対称的に配置されており、かつ補強糸の延在方向に関して、零度方向に対して角度αを形成する、多軸の布帛に関する。
【0002】
多軸の布帛(Multiaxiale Gelege)又は多軸布帛(Multiaxialgelege)は、以前より市場において公知である。多軸布帛とは、上下にあるいは重ね合わせに配置された複数の糸層からなる構造体と解される。糸層は、互いに平行に配置された補強糸の群よりなる。上下に配置された糸層は、相並んで配置されて互いに平行に延びる、ループ(Masche)を形成する多数のステッチ糸又は縫い糸若しくは編み糸を介して互いに結合されて、互いに固定され得る。こうして多軸の布帛は、安定化される。縫い糸又は編み糸は、多軸布帛の零度方向を形成する。
【0003】
糸層は、上下に敷設されており、このとき、層の補強糸は、互いに平行に配向されているか、又は交互に交差するように配向されている。角度は、略任意に設定可能である。しかし、多軸布帛において一般的には、0°、90°、+又は−25°、+又は−30°、+又は−45°、+又は−60°の角度が設定され、構造は、零度方向に対して対称的な構造が生じるように選択される。この種の多軸の布帛は、例えば、一般的な経編機又はステッチボンド機を用いて製造される。
【0004】
多軸布帛により製造される繊維複合構成部材は、構成部材の負荷方向から導入される力に直接抗して作用し、これにより高い強度を提供するのに、特に好適である。繊維密度及び繊維角度に関して多軸布帛内で、構成部材に生じる負荷方向に適合させることで、低い比重が可能になる。
【0005】
多軸の布帛は、その構造に基づいて、複雑な構造の製造のために特に使用される。多軸布帛は、マトリックス材料なしに型内に敷設され、例えば変形加工のために高温下で型の輪郭に合わせて賦型される。冷却後、安定な、いわゆる「プリフォーム」が得られる。プリフォームには、次に、複合構成部材の製造のために必要なマトリックス材料が、インフュージョン(Infusion)又はインジェクション(Injektion)を介して、場合によっては真空を利用しつつ供給される。公知の方法は、ここでは、いわゆるLM法(Liquid Molding)又はこれと類似の方法、例えばRTM法(Resin Transfer Molding)、VARTM法(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding)、RFI法(Resin Film Infusion)、LRI法(Liquid Resin Infusion)又はRIFT法(Resin Infusion Flexible Tooling)である。
【0006】
プリフォームにとって、一方では、層内の繊維及び個々の繊維層が十分な程度で互いに固定されていることが重要である。他方、必要な三次元の変形に関して、多軸の布帛の良好なドレープ性が必要である。最後に、変形加工されてプリフォームを形成する多軸布帛に、上述の方法を介して供給されるマトリックス樹脂が良好に滲入可能であることも重要である。
【0007】
多軸の布帛及びその製造方法は、例えばDE10252671C1号明細書、DE19913647B4号明細書、DE202004007601U1号明細書、EP0361796A1号明細書又はUS6890476B3号明細書に記載されている。DE102005033107B3号明細書によれば、まず、個々のマットを、一方向に配置された繊維又は繊維束から製造する。繊維又は繊維束は、結合糸によりループ内に収められ、すべての結合糸は、1つの糸あるいは1つの糸束のみを包囲し、固定する。第2の工程において、こうして製造したマットの複数の層を、互いに異なる角度で重ね合わせ、互いに結合する。
【0008】
EP1352118A1号明細書は、補強繊維の層を溶融可能な縫い糸によりまとめた多軸の布帛を開示している。溶融可能な糸の使用は、EP1352118A1号明細書の一実施の形態において、縫い糸の溶融温度を上回る温度での多軸の布帛の変形時に層相互の移動を図るとともに、溶融温度を下回る温度への続いての冷却時に形状の安定化を図る。その結果、縫い目は、その位置(in−situ)での結合手段として機能する。縫い糸内の応力は、EP1352118A1号明細書の記載によれば、まず、布帛内の通路域の形成に至らしめ、結果として、マトリックス樹脂のより良好な浸潤につながる。その後、縫い糸の溶融温度を上回る温度への布帛構造の加熱は、結果として、縫い糸における応力解消につながり、その結果として、補強糸の波打ちの減少につながる。布帛中の縫い糸の割合は、EP1352118A1号明細書によれば、好ましくは0.5〜10質量%の範囲である。
【0009】
しばしば、熱可塑性のポリマー、例えばポリアミド又はポリエステルからなる縫い糸が使用される。熱可塑性のポリマーからなる縫い糸は、例えばEP1057605B1号明細書に開示されている。US6890476B1号明細書の記載によれば、そこで使用される糸は、約70dtexの繊度を有している。WO98/10128号パンフレットは、互いに縫い糸を介して縫合又は編成されている補強繊維の、上下に角度をなして敷設された複数の層からなる多軸の布帛を開示している。WO98/10128号パンフレットは、縫い糸のループ鎖(Maschenkette)が、25.4mm幅(=1インチ)当たり例えば5列のピッチと、約3.2〜約6.4mm(1/8〜1/4インチ)の範囲のステッチ幅とを有する多軸布帛を開示している。その際に使用される縫い糸は、少なくとも約80dtexの繊度を有している。US4857379B1号明細書においても、例えば編みプロセス又は織りプロセスを用いて補強糸を結合するために、例えばポリエステルからなる糸が使用される。この糸は、50〜3300dtexの繊度を有している。
【0010】
DE19802135号明細書は、例えば防弾用途のための多軸布帛に関する。この多軸布帛において、それぞれ互いに平行に配置された経糸及び緯糸の、上下に配置された層は、結合糸により互いに結合されている。DE19802135号明細書に示された多軸布帛において、互いに平行な糸は、互いに間隔を有しており、結合糸により形成されたループは、それぞれ、経糸あるいは緯糸に巻き付く。使用される結合糸について、140〜930dtexの範囲の繊度が指定されている。WO2005/028724号パンフレットに開示される多軸布帛においても、互いに一方向あるいは平行に配置された高強度の補強糸の複数の層は、これらの補強糸間に編み込まれ個々の補強糸に巻き付く結合糸によって結合されている。層内において補強糸は、互いに間隔を置いている。結合糸として、例えば75デニールの番手(タイター)を有するポリビニルアルコールからなる糸か、又は1120デニールの番手を有するポリウレタンをベースとするエラストマー糸が使用される。
【0011】
一部においては、ランダム繊維マット若しくはランダム繊維フリース又は短繊維布帛若しくは短繊維マットも、補強繊維からなる糸層間に、例えば布帛の含浸性を改善するか、又は例えば衝撃強さを改善するために、敷設される。この種のマット状の中間層を有する多軸の布帛は、例えばDE3535272C2号明細書、EP0323571A1号明細書又はUS2008/0289743A1号明細書に開示されている。
【0012】
結果として、現在の多軸布帛は、十分に良好なドレープ性を有していることができ、マトリックス樹脂との含浸性も満足の行くものであることが判っている。多軸布帛によって製造された構成部材においても、曲げ強さ又は引張り強さに関する良好な特性値レベルが達成される。しかしながら、これらの構成部材は、しばしば、圧縮負荷及び衝撃負荷に際しては、不十分な特性値レベルを示す。
【0013】
圧縮負荷時及び衝撃負荷時の不十分な機械的強度の欠点は、激甚であり、従来、材料の上述のような比較的良好な適性にもかかわらず、特に複雑な構成部材用には、既に長らく確立されたいわゆるプリプレグ技術が採用されて、その比較的長い所要時間並びに比較的高い製造手間あるいは製造コストが甘受されるほどである。
【0014】
それゆえ、特に圧縮負荷時及び衝撃負荷時の構成部材又は材料における特性の改善に至る多軸の布帛への需要がある。
【0015】
それゆえ、本発明の課題は、圧縮負荷時及び/又は衝撃負荷時の特性を改善した繊維複合構成部材を製造可能な多軸の布帛を提供することである。
【0016】
上記課題は、層内において互いに平行に、かつ互いに接触するように隣り合って配置されたマルチフィラメント補強糸の、上下に配置された少なくとも2つの層からなる多軸の布帛であって、1つの層内及び隣接する層内の補強糸が、互いに平行に延び、互いにステッチ幅wでもって間隔を置いた、ループを形成する縫い糸により互いに結合されて、互いに固定されており、縫い糸がステッチ長sを有するループを形成しており、縫い糸によって布帛の零度方向が規定され、層の補強糸が、布帛の零度方向に関して対称的に配置されており、かつ補強糸の延在方向に関して、零度方向に対して角度αを形成し、角度αが90°及び0°に等しくない、多軸の布帛において、縫い糸は、10〜35dtexの範囲の番手を有していることを特徴とする、多軸の布帛により解決される。
【0017】
多軸の布帛内の縫い糸の番手が、本発明において要求される範囲内にあると、特に圧縮負荷に対する安定性が明らかに改善されることが判った。このような細い縫い糸は、これまで、多軸の布帛において使用されてこなかった。驚くべきことに、本発明において要求される繊度を有する縫い糸を多軸の布帛において使用したことにより、この布帛から製造される複合材料の安定性の明らかな改善が達成されることが判った。このことは、個々の糸層の糸パターンが公知の多軸布帛に対して明らかに均質化していることに起因する。特に、補強糸のフィラメントが従来技術の布帛と比較してより直線的に延びることを確認した。好ましくは、縫い糸は、10〜30dtexの範囲の番手を有しており、特に好ましくは15〜25dtexの範囲の番手を有している。低番手の糸の使用は、せいぜいのところ、例えば繊維工業用途の編み物の製造時、例えばジャケット等の衣服のためのバイエラスティックな固定芯地の製造時の編み糸としての使用が公知であるにすぎない。この種の固定芯地は、例えばDE9306255U1号明細書に記載されている。DE9306255U1号明細書では、しかしながら、編み糸が、基礎となる布帛の経糸及び緯糸に巻き付いている。このことは、WO2006/055785号パンフレットの自動車用拘束システム(エアバッグ)のための布帛にも当てはまる。この公知の布帛では、経糸方向に位置する糸の層と、緯糸方向に位置する糸の層とが、低番手の編み糸により互いに結合されている。
【0018】
本発明に係る布帛の、マルチフィラメント補強糸から形成される個々の層は、通常の方法及び装置により製造され、上下に、零度方向に対して所定の角度をなして敷設可能である。この分野における公知の機械は、LIBA機又はKarl Mayer機である。これにより、補強糸も、互いに接触して位置しているように、すなわち実質的に間隙なしに隣り合って位置しているように、互いに層内に位置決めされる。
【0019】
しかし、本発明に係る多軸布帛の層が、マルチフィラメント補強糸の前製作された一方向織物からなることも可能である。この一方向織物の場合、それぞれの層を形成する、互いに平行に配置された補強糸は、補強糸に対して実質的に直交方向に延在する目の粗い結合糸からなる経糸により互いに結合される。この種の一方向織物は、例えばEP0193479B1号明細書又はEP0672776号明細書に記載されている。両刊行物の、これについての開示を本明細書に引用する。
【0020】
補強繊維あるいは補強糸としては、一般に繊維複合技術の分野において使用される繊維あるいは糸が考えられる。好ましくは、本発明に係る多軸布帛において使用されるマルチフィラメント補強糸は、炭素繊維糸、ガラス繊維糸若しくはアラミド糸又は高倍率で伸ばされた高延伸超高分子量‐ポリエチレン糸(hochverstrecktes UHMW−Polyethylengarn)である。特に好ましくは、炭素繊維糸である。
【0021】
本発明に係る布帛は、対称の層構造を有する。このことは、本発明に係る多軸布帛内の、補強糸が零度方向に対して正の角度αを形成する層の数と、補強糸が零度方向に対して、正の角度αに対する相補的な負の角度αを形成する層の数とが同じであることを意味している。本発明に係る多軸布帛は、例えば+45°、−45°、+45°及び−45°の層を有する構造を有していてよい。一般的には、多軸布帛の場合、±20°〜約±80°の範囲の角度αが見受けられる。典型的な角度αは、±25°、±30°、±45°及び±60°である。本発明に係る布帛の好ましい態様において、零度方向に対する角度αの値は、15°〜75°の範囲にある。
【0022】
例えば後々の構成部材における広範な負荷方向も考慮に入れて、本発明に係る多軸布帛は、好ましくは、補強糸が零度方向に対して0°の角度を形成するマルチフィラメント補強糸の層及び/又は補強糸が零度方向に対して90°の角度を形成する層も有していてよい。この0°あるいは90°の層は、好ましくは、角度αで配向された層間にある。しかし、例えば以下の配向の層順序を有する構造、すなわち90°、+30°、−30°、0°、−30°、+30°、90°を有する構造、すなわち、外側の層が90°の層から形成されている構造も可能である。
【0023】
本発明に係る多軸布帛により製造される複合材料構成部材の圧縮負荷及び/又は衝撃負荷に対する強度に関して、驚くべきことに、縫い糸のステッチ長sが、本発明に係る多軸の布帛におけるステッチ幅w及び補強糸の角度αに基づいて下記関係式(I)及び(II)を充足する:
【数1】
及び
【数2】
と、特に良好な強度レベルが達成されることを確認した。
【0024】
その際、乗数Bは、0.9≦B≦1.1の範囲の値を取り、nは、0.5,1,1.5,2,3又は4の値を取ることができる。これに伴い、w・|tanα|/2.3の小さな値のためにも、ステッチ長sは、等式(I)により要求される範囲内にある。なお、ステッチ幅w、すなわち縫い糸間の間隔は、mm単位で表示されている。
【0025】
角度αは、多軸布帛の平面図で見て、零度方向に対して90°及び0°とは異なる角度を有する第1の層の補強糸の、零度方向に対する角度αと解される。多軸布帛の最上位の単層又は複層の補強糸が零度方向に対して90°又は0°の角度を有している場合は、この層又はこれらの層の下位に配置されていて、その補強糸が90°又は0°以外の角度を有している第1の層を考慮すべきである。
【0026】
繊維画像、すなわち、多軸布帛の層内のマルチフィラメント補強糸の繊維あるいはフィラメントの延びを検査すると、条件(I)及び(II)を遵守したとき、繊維の極めて均一な延びが、糸の波打ちの明らかな軽減及び糸束間の間隙の発生の明らかな減少を伴って生じることが確認された。加えて、糸束又は繊維ストランドの延びに沿って、縫い糸が繊維ストランドを、繊維ストランドの幅にわたってできる限りそれぞれ異なる位置において刺し通すことは、決定的である。条件(I)及び(II)により規定される範囲外のステッチ長及びステッチ幅に関する一般的に設定される値においては、補強糸の延在に沿った縫い糸の刺通部が実質的に同じ繊維あるいはフィラメント間、あるいは繊維ストランドあるいは補強糸の同じ領域間に発生することが観察され得る。これにより、糸の延びにおけるはっきりとした波打ち、及びフィラメント間の間隙の形成が生じる。
【0027】
全体的に、本発明に係る低番手の縫い糸の使用時及び上記条件(I)及び(II)の遵守時、補強糸の層の平面図で見て、布帛内の縫い糸の刺通箇所により惹起される繊維変向(うねり角(Ondulationswinkel)ともいう)が約25%まで低減可能であることが確認された。同時に、発生するうねり面、すなわちフィラメント又は糸が変向を示す面積あるいは領域は、約40%縮小可能であるとともに、これにより、樹脂成分を増大させ構成部材の強度を低減させる領域を結果として伴う繊維間の空間は、明らかに減少可能である。
【0028】
同時に、本発明に係る多軸布帛をベースとする複合ラミネートの顕微鏡写真を参照すると、本発明に係る低番手の縫い糸の使用により、驚くべきことに、補強糸の層に対して垂直かつ補強糸に対して平行な観察方向で見て、補強糸の延びの明らかな均質化が達成されることが確認し得る。こうして、23dtexの番手を有する縫い糸の使用時、補強糸のフィラメントの略直線状の延びが得られる。本発明において要求される範囲外の番手を有する縫い糸の使用時、既に、48dtexの番手で、複合ラミネートの上述の横断面で見て、すべてのフィラメントが、補強糸の層の厚さのオーダにある変動振幅を伴う著しく荒れた波形の延びを示す。
【0029】
その際、ステッチ長は、2mm〜4mmの範囲にあることができる。4mmを上回るステッチ長では、本発明に係る多軸布帛の十分な安定性は、もはや保証されていない。これに対して、2mmを下回ると、布帛内に著しく多数の欠陥箇所が発生する。さらに、多軸布帛の製造の経済性も著しく損なわれる。
【0030】
縫い糸として、本発明において要求される繊度を有している限りにおいて、一般的に糸布帛の製造のために使用される糸が考慮の対象となる。好ましくは、縫い糸はマルチフィラメント糸である。好ましくは、縫い糸は、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリアクリル、ポリヒドロキシエーテルからなるか、又はこれらのポリマーのコポリマーからなる。特に好ましくは、縫い糸は、ポリエステル、ポリアミド若しくはポリヒドロキシエーテル又はこれらのポリマーのコポリマーからなるマルチフィラメント糸である。その際、後々の樹脂インジェクションの際に、例えば樹脂インジェクション温度を上回るが、使用される樹脂の硬化温度を下回る温度で溶融する縫い糸が使用可能である。糸は、硬化温度自体で溶融可能であってもよい。縫い糸は、マトリックス樹脂内で例えばインジェクション中又はその硬化中に溶解可能な縫い糸であってもよい。この種の縫い糸は、例えばDE19925588号明細書、EP1057605号明細書又はUS6890476号明細書に記載されている。これらの刊行物の、これについての開示を本明細書に引用する。
【0031】
縫い糸が、室温で≧50%の破断伸びを有していると、有利である。高い破断伸びにより、本発明に係る多軸布帛の改善されたドレープ性が達成される。これにより、より複雑な構造あるいは構成部材も実現可能である。本発明の枠内で、縫い糸には、縫うことを介して本発明に係る多軸布帛に供給されず、その他のループを形成する繊維工業プロセス、例えば特に編みプロセスを介して多軸布帛に供給される糸も含まれる。縫い糸が多軸の布帛の層を互いに結合するループは、多軸布帛において一般的な結合タイプ、例えばトリコットステッチ結合(Trikotbindung)又はフリンジステッチ結合(Fransenbindung)若しくはチェーンステッチ結合を有していてよい。好ましくはフリンジステッチ結合である。
【0032】
本発明に係る多軸の布帛の好ましい形態では、補強糸の少なくとも2つの層上及び/又は少なくとも2つの層間に、すなわち、少なくとも2つの補強層上及び/又は少なくとも2つの補強層間に、フリースが配置されており、補強糸の層に縫い糸により結合されている。フリースは、無配向の短繊維又はステープルファイバからなる繊維工業上の面状構造物であってよいか、又は固定、例えば温度制御及び圧力下で固定されなければならない、無端フィラメントからなるランダムフリースであってよい。後者の場合、フィラメントは、接触点において溶融して、フリースを形成する。補強層間でのフリースの使用の利点は、特に、より良好なドレープ性及び/又はマトリックス樹脂に対する多軸布帛のより良好な浸潤性にある。フリースは、例えばガラスフリース又は炭素繊維からなるフリースであってよい。
【0033】
好ましくは、フリースは、熱可塑性のポリマー材料からなる。この種のフリースは、既述した通り、例えばDE3535272C2号明細書、EP0323571A1号明細書、US2007/0202762A1号明細書又はUS2008/0289743A1号明細書に開示されている。熱可塑性のポリマー材料の適当な選択時、フリースは、衝撃強さを向上させる作用因子として機能することができ、衝撃強さを向上させる別の手段をマトリックス材料自体に加える必要は、もはやない。このフリースは、マトリックス材料による多軸布帛の浸潤中、なおも十分な強度を有し、続いてのプレス時及び/又は硬化温度で溶融することが望ましい。それゆえ、好ましくは、フリースを形成する熱可塑性のポリマー材料は、80〜250℃の範囲にある溶融温度を有している。エポキシ樹脂がマトリックス材料として使用される用例では、ポリアミドからなるフリースが実証されている。
【0034】
その際、フリースが、それぞれ異なる溶融温度を有する2つの熱可塑性のポリマー成分、すなわち相対的に高い溶融温度を有する第1のポリマー成分と、相対的に低い溶融温度を有する第2のポリマー成分とを有すると、有利である。その際、フリースは、それぞれ異なる溶融温度を有する単一成分繊維(Monokomponentenfaser)の混合物からなることができる。つまり、フリースは、ハイブリッドフリース(Hybridvlies)であってよい。しかし、フリースは、二成分繊維(Bikomponentenfaser)、例えば芯鞘型繊維(Kern−Mantel Faser)からなっていてもよい。この場合、繊維の芯材は、相対的に高い温度で溶融するポリマーから形成され、鞘材は、相対的に低い温度で溶融するポリマーから形成されている。このようなハイブリッドフリース又は二成分フリースを有する本発明に係る多軸布帛をプリフォームに加工する際、すなわち、多軸布帛を変形加工する際、低温で溶融するフリース成分の融点を上回るが、高温で溶融するフリース成分の融点は下回る温度での変形加工中の適当な熱供給時、良好な変形性が達成され、冷却後、変形された布帛の良好な安定化及び固定が達成可能である。二成分繊維からなるフリースと同様、フリースは、例えば第2のポリマー成分からなる繊維のランダム配向層から形成されていてもよい。この場合、第1のポリマー成分は、例えばスプレー又はコーティングにより第2のポリマー成分の繊維上に被着される。コーティングは、例えば第1のポリマー成分の分散液又は溶液による含浸を介して実施可能である。この場合、含浸後、分散液の液体成分あるいは溶媒は除去される。同様に、第2のポリマー成分の繊維から形成されるフリースが、第1のポリマー成分を、第2のポリマー成分の繊維間に沈積された微細な粒子の形態で含むことも可能である。
【0035】
本発明に係る多軸布帛の有利な態様において、フリースを形成する、高い方の溶融温度を有する第1のポリマー成分は、140〜250℃の範囲の溶融温度を有している。同様に、低い方の溶融温度を有する第2のポリマー成分は、80〜135℃の範囲の溶融温度を有していると、有利である。
【0036】
別の有利な態様において、フリースは、少なくとも部分的にマトリックス材料内に溶解可能なポリマー材料から形成されている。特に好ましくは、ポリマー材料は、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂又はベンゾオキサジン樹脂内に溶解可能である。この種のフリースは、例えばUS2006/0252334号明細書又はEP1705269号明細書に記載されている。殊に好ましいのは、ポリヒドロキシエーテルからなるフリースである。これは、ポリヒドロキシエーテルが、マトリックス樹脂内に溶解可能であり、硬化時にマトリックス樹脂と架橋して1つの均質なマトリックスを形成するからである。
【0037】
やはり好ましい態様において、フリースは、相対的に高い溶融温度を有する第1の熱可塑性のポリマー成分と、相対的に低い溶融温度を有する第2の熱可塑性のポリマー成分とから形成され、第2のポリマー成分は、少なくとも部分的にマトリックス材料内に溶解可能である。特に好ましくは、低温で溶融する第2のポリマー成分は、エポキシ樹脂内に溶解可能である。好ましくは、このフリースは、ハイブリッドフリース、すなわち、それぞれ異なる溶融温度を有する単一成分繊維の混合物からなるフリースである。好ましくは、高い方の溶融温度を有する第1のポリマー成分は、140〜250℃の範囲の溶融温度を有している。このような温度において、フリースの、第1のポリマー成分からなる部分は、一般にマトリックス樹脂のインジェクション時に支配する温度を上回って初めて溶融する。これにより、第1のポリマー成分は、樹脂インジェクション温度ではまだ溶融しないので、この段階における多軸布帛の良好な形状不変性を保証する。
【0038】
特に好ましくは、第1のポリマー成分は、ポリアミドホモポリマー若しくはポリアミドコポリマー又はポリアミドホモポリマー及び/若しくはポリアミドコポリマーからなる混合物である。特に、ポリアミドホモポリマー又はポリアミドコポリマーは、ポリアミド6、ポリアミド6.6、ポリアミド6.12、ポリアミド4.6、ポリアミド11、ポリアミド12、又はポリアミド6/12をベースとするコポリマーである。
【0039】
やはり、このフリース内の第2のポリマー成分は、80〜135℃の範囲の溶融温度を有していると、有利である。しかし、同時に、第2のポリマー成分は、説明したように、マトリックス材料内に溶解可能であることが望ましい。それゆえ、第2のポリマー成分は、特に好ましくは、特にエポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂又はベンゾオキサジン樹脂内に、既に本発明に係る多軸布帛へのマトリックス樹脂の浸潤中、すなわち、例えばレジンインフュージョン(樹脂注入)プロセス中に、完全に樹脂系内に溶解して、その後、マトリックス樹脂とともにマトリックス樹脂系を形成するポリヒドロキシエーテルである。これに対して、第1のポリマー成分は、マトリックス系内に溶解せず、レジンインフュージョンプロセス中にも、レジンインフュージョンプロセス後及びマトリックス系の硬化後にも、独自の相として存続する。
【0040】
その際、フリースが、20〜40質量%の割合の第1のポリマー成分と、60〜80質量%の割合の第2のポリマー成分とを含んでいると、本発明に係る多軸布帛により製造される複合構成部材の特性に関して、特にその衝撃強さ及びマトリックス含有量に関して有利である。全体的に、本発明に係る多軸の布帛内に存在するフリースが、5〜25g/mの範囲の単位面積当たり質量、特に好ましくは6〜20g/mの範囲の単位面積当たり質量を有していると、有利である。
【0041】
本発明に係る多軸の布帛は、良好なドレープ性及び良好な樹脂透過性の点で優れている。さらに、本発明に係る多軸の布帛は、圧縮負荷に対して高い安定性と、衝撃負荷に対して高い許容性とを有する構成部材の製造を可能にする。それゆえ、本発明に係る多軸の布帛は、特に、いわゆるプリフォームを製造するのに適している。プリフォームからは、より複雑な繊維複合構成部材が製造される。それゆえ、本発明は、特に、本発明に係る多軸の布帛を含む繊維複合構成部材を製造するためのプリフォームにも関する。
【0042】
以下に、本発明について図面及び例を参照しながら詳細に説明する。本発明の範囲は、これらの例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】縫合した多軸の布帛のセグメントを撮影した拡大平面図である。
図2】縫合した多軸の布帛の図1に示したセグメントの概略平面図(陰画)である。
【0044】
図1及び図2は、多軸の布帛のセグメントを撮影した平面図を示している。両図からは、多軸布帛の最上位の層が看取可能である。ただし、図2は、図1に示したセグメントを、より良好な描写性のために陰画として示している。すなわち、図1において白色に見える領域は、図2において黒色に見え、図1において黒色に見える領域は、図2において白色に見える。最上位の層からは、図中、左から右に延びている、互いに平行に並んで配置され、互いに接して位置する炭素繊維フィラメント糸1が看取可能である。炭素繊維フィラメント糸1は、縫い糸あるいはステッチ糸2により互いに結合されているとともに、図面には示されていない、その下側に位置する層と結合されている。図1及び図2で見て、多軸布帛の図示のセグメントは、平面内で45°回転させてあるので、縫い糸は、0°方向ではなく、45°の角度で延びている。
【0045】
これにより、縫い糸に対して45°の角度αで配置された炭素繊維糸は、図1及び図2で見て左から右に延びている。ループの形成(フリンジステッチ結合)により、縫い糸2は、炭素繊維フィラメント糸1を所定の間隔を置いて刺し貫いている。この間隔は、ステッチ長sに相当する。縫い糸2は、互いに間隔w(ステッチ幅ともいう)を置いている。
【0046】
多軸布帛のそれぞれの層を縫い糸2が貫く結果、間隙3が炭素繊維糸1のフィラメント間に生じ、繊維の変向が発生する。この変向から開き角δを求める。炭素繊維糸のフィラメント間の繊維の変向により、フィラメント間に空間が生じる。空間の、観察平面内における二次元の延在を、本発明の枠内で、うねり面Aと称呼する。これらの空間において、後々の構成部材における樹脂の割合の増加と、構成部材の強度の低下とが生じる。
【0047】
例1及び2
炭素繊維をベースとする多軸の布帛を多軸設備(型式「Cut&Lay」Carbon、Karl Mayer Textilmaschinenfabrik GmbH社)において製造した。このために、まず、134g/mの単位面積当たり質量を有する個別層を、互いに平行に並置されて互いに接触する炭素繊維糸(Tenax‐E IMS65 E23 24k 830tex;Toho Tenax Europe GmbH社)から製造した。この個別層を2層、下位の層が多軸の布帛の生産方向に関して+45°の角度αを有し、上位の層が−45°の角度αを有するように、上下に重置した。こうして上下に配置した個別層を、縫い糸を用いて互いにフリンジステッチ結合で編成した。使用した縫い糸は、例1では、コポリアミドからなり、23dtexの繊度を有している。例2では、35dtexの繊度を有するポリエステルからなる縫い糸を使用した。ステッチ長sは2.6mm、ステッチ幅wは5mmである。
【0048】
こうして製造した布帛の品質を評価するために、720dpiの解像度を有する校正した反射型スキャナ(Auflicht−Scanner)を用いて、布帛の表面を撮影し、ソフトウェアとしてAnalysis Auto5(オリンパス社)を用いて光学的な画像評価により評価した。評価は、図2に示した概略図に応じて、縫い糸を刺し通すことにより惹起され開き角δにより示された繊維変向に関して、かつこの繊維変向により生じたうねり面Aに関して実施した。得られた結果を表1に示す。
【0049】
比較例1及び2
例1と同様に行った。しかし、比較例1では、48dtexの番手を有するポリエステル縫い糸を使用し、比較例2では、75dtexの番手を有するポリエステル縫い糸を使用した。縫い糸を刺し通すことにより惹起され開き角δにより示された繊維変向についての結果、及びこの繊維変向により生じたうねり面Aについての結果も、表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
例3及び4
縫い糸の繊度の相違がラミネートの機械的な特性に及ぼす影響を見るために、例1において説明したように、布帛(タイプ1)を、134g/mの単位面積当たり質量を有する、互いに平行に並置されて互いに接触する炭素繊維糸(Tenax‐E IMS65 E23 24k 830tex;Toho Tenax Europe GmbH社)からなる、+45°及び−45°に配向された2つの個別層から製造した。同様に、−45°及び+45°に個別層を配向した布帛を形成した(タイプ2)。タイプ1及びタイプ2の布帛の個別層を、それぞれ、23dtex(例3)あるいは35dtex(例4)の繊度を有する縫い糸により、例1において説明したように、互いに縫合した。
【0052】
ラミネートを製造するために、それぞれ、+45°/−45°の配向を有する布帛(タイプ1)の層と、この層に対して対称的な、−45°/+45°の配向を有する布帛(タイプ2)の層とを重ね合わせることにより組み合わせて、4つの個別層からなる1つのスタックを形成した。この工程を繰り返し、上下に配置されたそれぞれ4つの個別層からなる計8つのスタックを積み上げた。その結果、全体スタックは、計32の層を有している。この工程を介して、23dtexの太さの縫い糸により互いに縫合した層を有するスタック(例3)と、35dtexの太さの縫い糸により互いに縫合した層を有するスタック(例4)とを製造した。
【0053】
こうして製造したスタックを、レジンインフュージョン法を介してさらに加工して、ラミネートを形成した。樹脂系として、Hexcel社の、180℃で硬化するエポキシ系HexFlow RTM6を使用した。インフュージョン及び硬化後に4.0mmの総厚さを有し、60体積%の繊維体積含有率を有するラミネートを製造した。
【0054】
ラミネートを45°回転させて、炭素繊維を0°及び90°に配向した。このように置いたラミネートから、DIN EN 6036‐IIに基づいて検体を製造した。検体の辺は、ラミネート中の炭素繊維の方向で延びている。すなわち、検体内の繊維配向は、90°/0°である。こうして製造した検体に関して、DIN EN 6036に基づき、Zwick Z250の型式の検査機械を用いて、圧縮強さを求めた。結果は表2にまとめてある。
【0055】
さらに、このラミネートについて、個別層の平面の延在に対して垂直であって、炭素繊維の0°配向に対して平行な断面の顕微鏡写真を撮影した。顕微鏡写真は表3にまとめてある。23dtex及び35dtexの縫い糸を使用した場合、0°配向の炭素繊維の良好な直線性(顕微鏡写真には、明るい線として看取可能)が生じることが判る。すなわち、炭素繊維は、直線からの逸脱を有しないか、又は仮に逸脱していたとしても僅かである。
【0056】
比較例3
例3と同様に行った。しかし、+45°/−45°の配向を有する布帛(タイプ1)及びこれに対して対称的な−45°/+45°の配向を有する布帛(タイプ2)を製造するために、比較例3では、48dtexの番手を有する縫い糸を使用した。結果を表2に示した。
【0057】
比較例3のラミネートについても、個別層の平面の延在に対して垂直であって、炭素繊維の0°配向に対して平行な断面の顕微鏡写真を撮影した。比較例3の顕微鏡写真も表3に看取可能である。比較例3のラミネートに関して、48dtexの縫い糸を使用した場合、比較的粗い画像となる。0°配向の炭素繊維(顕微鏡写真中、明るい線として看取可能)は、顕著に波形の延び、すなわち、一部において、直線状の延びからの明瞭な逸脱を示している。比較的太い縫い糸により、個別層の延在に対して垂直な炭素繊維のうねりが生じる。炭素繊維の直線状の延びからのこの種の逸脱は、圧縮強さの低下の原因となる場合がある。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
例5乃至7
例1あるいは3と同様に行った。23dtexの繊度の縫い糸を使用した。5mmのステッチ幅wを維持したまま、ステッチ長を変更した。ステッチ長sは、3.1mm(例5)、2.5mm(例6)及び2.2mm(例7)に設定した。
【0061】
圧縮強さに関して得られた値が、23dtexの番手を有する低番手の縫い糸を用いたため、総じて高いレベルにあることが判る。しかし、布帛の製造時、2.5mmのステッチ幅に設定した例6のラミネートは、最も低い圧縮強さを有している。ここで、5mmのステッチ幅が2.5mmのステッチ長のちょうど2倍に当たること、つまり、ステッチ幅がステッチ長の整数倍であることに注意すべきである。このことは、炭素繊維が+45°又は−45°の角度で配向されている場合、縫い糸が同一の炭素繊維糸をその長さに沿って、その幅にわたって常に同じ箇所で刺し通す、高いリスクが生じることを結果として伴う。これにより、全長にわたっての炭素繊維糸の裂開と、繊維配向方向での圧縮負荷時の力伝達経路の減少とが生じる場合がある。
【0062】
【表4】
図1
図2