(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属芯線表面に砥粒がフェノール樹脂を主成分とするレジンボンドを介して固着されてなるレジンボンドワイヤーソーであって、前記レジンボンドを構成する樹脂は、MALDI−TOF−MS法による質量分析によって陽イオンに208(m/z)間隔のフラグメントを示すピークが検出され、TG−DTA法による示差熱分析によって180℃近傍に軟化点に相当するピークが検出されるレジンボンドワイヤーソー。
【背景技術】
【0002】
年々大口径化が進むTFT(薄膜トランジスタ)用途や太陽電池用途のシリコンインゴットの切断において、従来用いられてきた内周刃砥石(IDブレード)では、加工効率や生産性の低下、加工変質層の発生、切断寸法精度等の低下、また大型装置が必要などの問題点が指摘されている。そのため、近年ワイヤーソー(wire saw)を用いた切断加工が活発に行われるようになった。ワイヤーソーは、ワイヤー(wire)を切断用砥粒と共に、被切削物に圧接しながら走行させ切断作業を行うものである。なお、この目的に用いられるワイヤーはソーワイヤーとも称されるが、本願明細書においてはワイヤーソーと称する。ワイヤーソーを用いた切断加工は、シリコンインゴットの大口径化に対応し易く、かつインゴットから1回の切断で1枚のウエハーしか得られない内周刃砥石とは異なり、同時に複数枚のウエハーを作製するマルチ切断が可能である。
【0003】
こうした切断加工で用いられるワイヤーソーには、遊離砥粒式と固定砥粒式がある。遊離砥粒式においては、芯材となるピアノ線などのワイヤーが、ダイヤモンドや炭化珪素などの微細な砥粒を水系スラリーや油などに分散させた砥粒液を塗布して用いられる。この場合、砥粒液を塗布したワイヤーに張力を付加しながら走行させて切断加工を行う。(例えば、特許文献1参照)。その結果、ワイヤーと被切削物との隙間に介在する砥粒によって徐々に切断が行われる。
【0004】
しかし、この方法では、切断界面に砥粒を常に適量供給し続ける必要があり、特にスラリーや油等の粘度が温度等により微妙に変動する結果、厚みバラツキやうねりなどウエハーの品質に関わる管理がことのほか難しい。また、この方法は、砥粒がウエハー切断時に自由に移動することから、ウエハーのみならずワイヤーをも擦ることとなり、断線を伴わずにワイヤー径を小さくすることに限界がある。また、ウエハー表面が自由に移動する砥粒で研磨されるので、光―電気変換効率にかかわる厚い加工変質層(損傷層)が形成される懸念が指摘されている。
【0005】
こうした問題を解決する方法として、ワイヤーにダイヤモンド等を固定した固定砥粒式ワイヤーソーが提案されている。そのダイヤモンドを固定する手段にはレジンボンド法、電着法などがある。
【0006】
電着法は、ニッケルメッキなどによりダイヤモンドをピアノ線へ固定を行うものである(例えば、特許文献2、3参照)。この方法は、ニッケルメッキ液中でピアノ線表面にニッケルを析出させながらダイヤモンドをニッケル膜中に埋設させ、強固に固着させる方法で、強い固着力はインゴットの切断という点からは優れているが、ニッケルメッキの工程でワイヤー径は徐々に太くなる。
【0007】
また、この方法では、メッキ層にダイヤモンドを深く埋め込んで物理的にしっかりと固定することが望まれ、メッキ皮膜の析出量にダイヤモンドの固着力が支配されるため、非常に生産性が悪く、コスト高になるなどの問題点がある。さらには、ワイヤーの線径がニッケルによって太っているため、長尺のワイヤーをプーリー(pulley)に繰り返し巻き取る際には、ワイヤーが疲労破断を起こし易くなることも考えられる。
【0008】
さらに、ワイヤーにダイヤモンド(砥粒)の粒径の5〜40%の厚さのロー材、半田等による金属層を形成し、その金属層の溶融状態において前記のダイヤモンドを付着固化させたことを特徴とする固定砥粒式ワイヤーソーが開示されている(例えば、特許文献4参照)。かかる方法では、金属層を構成する半田等の融点が高いと、金属層の溶融によりワイヤーが過度に加熱され、ワイヤーの焼き戻りが生じ、ワイヤーの引っ張り強度が低下する可能性が高くなり、このため、ワイヤー素材の選択が難しくなる。例えば、比較的低い温度で芯線の焼き戻りによる硬度や引っ張り強さが低下するピアノ線や硬鋼線を芯線として用いることは難しく、その代わりに、ステンレス鋼や、脆化により繰り返し曲げに弱いが同等の引っ張り強度を持つタングステンワイヤー等が用いられている。また、逆に金属層を構成する半田等の融点が低い場合には、ワイヤーソーによるワークの切断加工時の摩擦による発熱で金属層が溶融して砥粒がワイヤーから脱落しやすくなる。
【0009】
レジンボンド法は、例えばフェノール樹脂等の樹脂接着剤とダイヤモンドなどの砥粒の混合物をピアノ線上に浮きダイスを用いるなどしてコーティングしエナメル焼付炉(特許文献4参照)などを用いて加熱処理を施すものである。これにより硬化した樹脂によって、ダイヤモンドを固定する(例えば、特許文献5、6、7参照)。エナメル焼付炉としては熱風乾燥方式が知られている(例えば、特許文献8、9参照)。レジンボンド法は、比較的安価で長尺のワイヤーソーを製作するのに適する。さらに、インゴットの切断中に生ずるワイヤーの振動がフェノール樹脂等の、金属に比較して柔らかい樹脂で吸収される効果があるので、インゴットの切断においてワイヤーソーを高速で走行させることができ、安定した切断を高速で行うことができる。また、薄いウエハーを得ることができる。一方で、樹脂による保持力が低いため、切断中にダイヤモンドが次々に脱落し、切れ味の低下や、ワイヤー径の細りなどを生じ易く、寿命の短い点が欠点として指摘されている。また、熱硬化型の樹脂接着剤を用いる場合には、その硬化を短時間で行うことはできず、かつ高温で行うと、硬化剤や反応に伴う揮発成分の分解で発泡等を伴うトラブルがあるため、ワイヤーソーの製造の高速化が図れないという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、金属芯線表面に砥粒がフェノール樹脂を主成分とするレジンボンドを介して固着されてなるレジンボンドワイヤーソーである。このレジンボンドは、フェノール樹脂を主成分とする接着剤組成物が硬化してなるものである。この接着剤組成物は、ノボラック型フェノール樹脂のほかにレゾール型フェノール樹脂を含むことが好ましい。
【0018】
ノボラック型フェノール樹脂はフェノール、クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール化合物とホルムアルデヒド等のアルデヒドとを酸性触媒の存在下で縮合反応させた樹脂である。レゾール型フェノール樹脂は、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール化合物とホルムアルデヒド等のアルデヒドとを塩基性触媒で縮合させたものである。
【0019】
この接着剤組成物は、さらに、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤を含んでいてもよい。ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤はノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して5〜20重量部含まれることが好ましい。
【0020】
この接着剤組成物がノボラック型フェノール樹脂の硬化剤を含む場合、硬化剤の配合比率がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して20重量部を超えると、硬化時に硬化剤の分解により発生するガスが、硬化後の樹脂に膨れ、亀裂などを発生させることがある。また、硬化剤の配合比率がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して5重量部未満では、レゾール型フェノール樹脂の配合比率が少なめの場合にノボラック樹脂の硬化が不充分になるおそれがある場合がある。このときには、適宜レゾール型フェノール樹脂を適宜添加してもよいが、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤の配合量を、レゾール型フェノール樹脂の配合量に応じて上記の配合比率(5〜20重量部)の範囲で適切に設定することがさらに好ましい。
【0021】
このノボラック型フェノール樹脂の硬化剤としては例えば、ヘキサメチレンテトラミンやメチロールメラミン、メチロール尿素などが挙げられる。なかでもヘキサメチレンテトラミンが樹脂の硬化時間が短い点で好ましい。
【0022】
この接着剤組成物は、さらに、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール化合物を例えば5〜15重量部含んでいてもよい。また、ホルムアルデヒド等のアルデヒドを若干(例えば1重量部以下)含んでいてもよい。さらに、塩基性触媒や水分が少量であれば含まれてもよい。
【0023】
この接着剤組成物は、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂10〜30重量部を含むことにより、硬化により、フェノール樹脂の架橋により緻密な三次元網目構造を得ることができる。これにより、砥粒との強固な接合を実現することができる。レゾール型フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して30重量部を越えて大きい場合は後述のペースト(paste)の粘度が低くなる。このため、レゾール型フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して30重量部を越えて大きい場合は、芯線を高速走行させてペーストを塗布するために適した粘度が得られない。レゾール型フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して10重量部を越えて小さい場合は、接着剤組成物の硬化時の架橋速度が遅くなる。このため、レゾール型フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して10重量部を越えて小さい場合は、芯線を走行させつつペーストを短時間で硬化させることが難しくなり、高性能のレジンボンドワイヤーソーを高速生産できない。ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤を上記の割合で適宜添加することが、ペーストを短時間で硬化させるうえでさらに好ましい。
【0024】
この接着剤組成物には、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部のアミン系シランカップリング剤が配合されることにより、砥粒および芯線と接着剤との接着強度が増大する。アミン系シランカップリング剤の配合比率がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して0.1重量部未満であると、フェノール樹脂とニッケル被覆された砥粒との間の充分な接着力が得られない。このような場合、アミン系シランカップリング剤が上記の配合比率で配合された接着剤組成物を用いて製造されたレジンボンドワイヤーソーに比べてレジンボンドワイヤーソーの切削能力が劣る。アミン系シランカップリング剤の配合比率がノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して5重量部を越えて大きいと、硬化時の熱分解による泡の発生を生じたり、ノボラック型フェノール樹脂の硬化に影響し、フェノール樹脂と砥粒との間に充分な接着力が得られない。このような場合、レジンボンドワイヤーソーの切削能力は小さくなる。
【0025】
アミン系シランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが例示される。
【0026】
本発明のレジンボンドワイヤーソーにおけるレジンボンドを構成する樹脂は、
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂 10〜30重量部
アミン系シランカップリング剤 0.1〜5重量部
を必須成分とする組成物からなることが切削性が良好で長寿命のレジンボンドワイヤーソーを得るうえで好ましい。
【0027】
この接着剤組成物を用いて本発明のレジンボンドワイヤーソーを製造する製造方法は、
前記記載の接着剤組成物と、この接着剤組成物を溶解しペーストの粘度を調整する溶剤と、砥粒と、無機粒子からなるフィラーとを含んでなるペーストを準備する工程と、
さらに金属芯線を準備する工程と、
このペーストをこの金属芯線の表面に塗布する工程と、
塗布されたペーストを赤外線で加熱して前記接着剤組成物に脱水を伴う架橋反応をさせる加熱工程と
を含むレジンボンドワイヤーソーの製造方法である。
【0028】
この加熱工程により、接着剤組成物の脱水縮合が速やかに行なわれ、緻密な三次元架橋構造が形成される。
【0029】
ペーストは走行する芯線に例えば、細径ノズルからペーストを押し出して芯線に塗布するディスペンサー(シリンジ)法、あるいは、浮きダイス法などにより金属芯線の表面に連続塗布することができる。ペーストの塗布量は砥粒の集中度が50〜120となるように設定されることが好ましい。集中度はワイヤーソー外面の投影面積に占める砥粒の面積の割合を指標とする値であり、本明細書においては、全投影面積に占める砥粒の投影面積が15%であるときに集中度を100とする。例えば、全投影面積に占める砥粒の投影面積が30%であるときには集中度は200であり、全投影面積に占める砥粒の投影面積が7.5%であるときには集中度は50であるとする。
【0030】
走行する芯線にペーストを連続的に塗布する場合、ペーストの粘度は接着剤組成物に溶剤を加えて3〜6Pa・s(パスカル・秒)に調整されることが適切で均一な塗布量を得るうえで好ましい。例えば、溶剤は、接着剤組成物100重量部に対して100〜200重量部の範囲で設定されることが好ましい。ペーストの粘度を調整する溶剤としてはとくに限定されないが、o−,m−,p−の異性体の中でも、反応性の点から低沸点のo−クレゾールが好ましい。
【0031】
本発明において用いられる砥粒としては固定砥粒式ワイヤーソー用の砥粒であれば特に限定されないが、ダイヤモンド砥粒、立方晶系BN砥粒、アルミナ砥粒、炭化珪素砥粒などが例示される。
【0032】
なかでも、ダイヤモンド砥粒は熱伝導率が極めて高いので、短時間の加熱において、砥粒への照射の影の部分もすみやかに温度上昇する。これにより均一な固着にかかわる化学反応がすみやかに行われる点でダイヤモンド砥粒の使用が好ましい。砥粒のサイズは目的に応じて、あるいは芯線径に応じて選択されるが、カーフロス(切断代)の少ないシリコンインゴットの切断という点からは、数ミクロン〜25ミクロンであることが好ましい。さらに、本発明において用いられる砥粒としては、銅を除く(銅が不純物として微量でも残留する場合には、銀電極などの焼付け処理工程でシリコンのバンドギャップ内に深いレベルを作ってしまうため太陽電池として使用する場合は発電効率が低下する)ニッケルやチタンなどの金属で被覆されたダイヤモンドであってもよい。ニッケルで被覆されたダイヤモンドを用いた場合、本発明により得られたレジンボンドワイヤーソーは、ニッケルなどの電気めっき(電着)によるダイヤモンド砥粒固定ワイヤーソーと比較して、そりやソーマーク(saw mark)が少なく、極めて平滑な面をもつたシリコンウエハーを得るスライシング(slicing)を実現できる。
【0033】
砥粒は、スライシング時に発生するシリコン屑による目詰まりを避けるため、前述の集中度と言われる尺度で、適宜芯線上に分散して固着されることが必要である。さらに、本発明では、砥粒は接着剤組成物100重量部に対して50〜120重量部配合されることが好ましい。
【0034】
本発明において用いられる芯線としては、鋼線が好ましく用いられる。線径は特に限定されないが0.3〜0.05mmのものが好ましい。鋼線には、高炭素鋼や中炭素低合金鋼などの熱処理バネ鋼による線材、硬鋼線、ピアノ線やステンレス線、冷間圧延鋼線やオイルテンパー線などの加工バネ鋼による線材、低合金鋼、中合金鋼や高合金鋼、マルエージング鋼などの高靭性・高疲労強度の鋼線材が挙げられる。
【0035】
走行する芯線にペーストを連続的に塗布し、ペーストが塗布された芯線を走行させつつ連続的に加熱することにより、塗布されたペーストが加熱されて硬化する。この加熱は塗布されたペーストに赤外線を照射することにより行う。従来のエナメル炉などにより熱風加熱する場合には、ペーストの外表面から熱硬化が起こり、表皮膜ができる結果脱水縮合反応により生成した水が内部に閉じ込められ、この水の気体化にともない接着剤に発泡が生じやすい。これに対して、ペーストをランプ等を用いて赤外線で加熱する場合は、波長1μm程度の近赤外線が水に対して効率よく吸収されるため、短時間で脱水反応が行われ架橋重合が完成する。また、水が励起されて短時間で蒸発するので、接着剤に発泡が生じにくい。この赤外線は波長0.7〜2.5μmの近赤外線の帯域で1または複数のスペクトルのピークを有するものであることが好ましい。なかでも波長約1μm(0.9〜1.3μmの範囲)の近赤外線による加熱が、接着剤組成物の脱水と架橋を促進させかつ脱水反応により生成した水の気体化にともなう接着剤の発泡を抑制して硬化後の接着剤の発泡体化が防止できるうえで好ましい。
【0036】
また、赤外線は、接着剤組成物の硬化の化学反応を効果的に促進し、熱風などによる加熱により樹脂を硬化させる場合に比べ、高速で硬化反応が行われ分子の均一な高次構造が得られる。この結果として、硬化後の樹脂に、MALDI−TOF−MS法による質量分析によって陽イオンに208(m/z)間隔のフラグメントを示すピークが検出される。また、示差熱分析(DTA)法によって180℃近傍に軟化点に相当する明確なピークが検出される。なお、このピークの温度は示差熱分析時の昇温速度等の測定条件により若干異なってくる場合もあり、約175℃〜約182℃の範囲にある。このような示差熱分析におけるピークの発現は208(m/z)間隔のフラグメントを示すピークとともに分子の均一な高次構造を反映している。さらには、分子の均一な高次構造により、硬化後のレジンボンドは硬度の高いものとなり、砥粒が強固にワイヤーに保持される。これにより、切削性能が優れたワイヤーソーが得られる。
【0037】
ペーストが塗布された芯線の走行中に、塗布されたペーストを赤外線照射により加熱する方法としては、
図1に示すような方式が挙げられる。この方式では半筒型の凹面鏡2と赤外線を発光する発光体4を用いる。この方式は、ペーストが塗布された芯線3を凹面鏡2の長手方向(図面視で紙面に直交方向)に走行させつつ、凹面鏡2の長手方向に平行して線状に配置された発光体4からの放射光が芯線の走行路に約10mmφの大きさに集光されるように半筒型の凹面鏡2を配置するものである。符号8は凹面鏡2の反射面である。凹面鏡2と発光体4は対になって芯線の走行路を対称中心として複数個組み合わせて配置されてもよい。発光体4としては、赤外線ランプを用いることが短時間で効率的な加熱を行ううえで好ましい。
【0038】
集光部6の長さは発光体4や凹面鏡2のサイズや個数によって決まる。集光部6を加熱ゾーンとすることにより、ペーストが塗布された芯線の走行中に、塗布されたペーストを赤外線照射により加熱することができる。加熱ゾーンは赤外線ランプを用いて構成することができる。赤外線ランプを用いた場合、集光部6の長さは例えば400〜1000mmとすることができる。加熱ゾーンは複数の赤外線ランプを芯線の走行方向に直列に配して形成してもよい。
【0039】
発光体4としては、近赤外線の帯域に発光スペクトルのピークを有する赤外線ランプの使用が好ましい。好ましい赤外線ランプとしては、例えば、キセノンショートアークランプ(Short−arc Xenon Lamp)や、石英ガラス管にタングステンフィラメントを封じ込んだ棒状ランプが挙げられる。
【0040】
ところで、短時間に加熱するゾーンを走行するワイヤーソーの受けた温度を正確に把握することは極めて難しい。そこで、加熱されると芯線が焼き戻され、破断強度が低下することを目処として、芯線自身の破断強度の>95%が確保できる温度を外部設定することとする。かかる加熱方式により、ペーストが塗布された芯線を走行速度1000〜2000mm/sec(秒)という高速下で接着剤の硬化を発泡させることなく短時間で行うことができる。ちなみに、1.0mm径のシース型熱電対で計測すると、集光部分6の温度は500〜800℃であることが好ましいとしてランプ出力を制御することになる。
【0041】
赤外線による加熱の方法は、赤外線レーザーを対象物に照射する方法であってもよい。
【0042】
なお、このペーストには無機粒子からなるフィラー(filler)が配合される。フィラーは接着剤組成物100重量部に対して20〜100重量部配合されることが好ましい。フィラーは30〜60重量部配合されることがさらに好ましい。フィラーとしては微粒(2〜3μm程度)のダイヤモンドを用いてもよいが、様々な形状や硬さをもった無機材料を用いることができる。一例として、炭化珪素粒が用いられる。フィラーの混入は、樹脂の熱膨張・収縮を抑制しインゴット切断中の砥粒の脱落を減少させる効果がある。
【0043】
前述の赤外線加熱により加熱されたワイヤー(ペーストが塗布された芯線)を再加熱するほうが、より安定した性能を有するレジンボンドワイヤーソーを得ることができる。この再加熱は、前述の赤外線加熱による短時間の硬化により膨張・収縮を繰り返す樹脂層や芯線が受けた熱歪みを除去する目的で行われる。前述の赤外線加熱において接着剤が不完全な硬化のまま、ワイヤー(ペーストが塗布された芯線)を一定の張力、例えば10N程度でボビンに巻取り、該巻取り体を再加熱した場合は、ワイヤー同士が膠着して、解繊が不能になり、無理に解繊すると接着剤が剥がれるなどのトラブルが発生する。従って、原則的には赤外線加熱において、接着剤組成物の硬化がほぼ完了することが好ましい。上記再加熱によって、ワイヤーソーの破断応力や赤外線加熱において硬化した接着剤組成物の分子構造はほとんど変化することはない。
【0044】
再加熱は100〜200℃、1〜5時間行われることが好ましい。また、この再加熱に時間をかけたとしても、再加熱は多数の巻取り体を一度にまとめて処理できるのでレジンボンドワイヤーソーの生産工程全体としては生産性が大きく低下することはない。このように、ワイヤーの高速加熱と巻取り体の再加熱とを組み合わせ効率的に生産することによりレジンボンドワイヤーソーの生産性を向上させることができる。
【0045】
本発明のレジンボンドワイヤーソーは、従来法で作製されたレジンボンドワイヤーソーに比べて切り込み深さが大きい。この切り込み深さは、所定形状の切断対象のピースをワイヤーソーに押しつけて、ワイヤーソーを往復運動させてそのワイヤーソーが切断するまで切り込んでいったときの切り込み深さをいう。このときのワイヤーソーの切断は砥粒の脱落により主に惹起されるものである。従って、このことから、本発明のレジンボンドワイヤーソーは、砥粒の芯線への固着強度が飛躍的に向上しており、長寿命であるといえる。また、本発明のレジンボンドワイヤーソーは、砥粒の芯線への固着強度が高いので、多数のウエハーを切り出したときのウエハーの反り、うねり、また平坦度の指標となる厚みばらつき(厚み方向に測定した高さの最大値と最小値の差;TTV)のいずれをとっても従来法で作製されたレジンボンドワイヤーソーに比べて25%以上優れた小さな数値を示す。さらに、本発明のレジンボンドワイヤーソーにより、面粗度の指標となるRaやRyの値が20%程度小さな平滑なシリコンウエハーを得ることができる。さらに、本発明のレジンボンドワイヤーソーにより、表面の加工変質層(損傷層)の薄いウエハーを得ることができる。加えて、ウエハーの3点曲げ応力の測定結果からは、加工変質層を原因とする破壊の起点が少ないために高い曲げ強度のウエハーを得ることができる。
【0046】
本発明のレジンボンドワイヤーソーの切削性能は以下の実験例により確認される。
【0048】
以下に示す配合のレジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物を用い、以下に示すペーストの配合比率でペーストを調整し、以下に示すワイヤーソーの生産ラインによりレジンボンドワイヤーソーを製造した。
【0049】
[実施例1]
・レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物の配合比率
ノボラック型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRP−5417)80重量部
内訳 ノボラック型フェノール樹脂((C
6H
6・CH
2O)
n)
86重量%、フェノール5重量%、ヘキサメチレンテトラミン
9重量%
レゾール型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRL−131)20重量部
内訳 レゾール型フェノール樹脂((C
6H
6・CH
2O)
n)80
重量%、フェノール5.9重量%、ホルムアルデヒド0.6重
量%、NaOH1.2重量%、水分12.2重量%、その他の
助剤0.1重量%
アミン系シランカップリング剤(商品名:サイラエースS330)1重量部
・ペーストの配合比率
接着剤組成物 100重量部
ニッケルが被覆されたダイヤモンド砥粒(平均粒径:10〜20μm)80重量部
フィラー(炭化珪素粉末;#8000) 50重量部
溶剤(o−クレゾール) 150重量部
・ワイヤーソーの生産ライン
芯線繰出し機→塗布装置→加熱装置→巻取り機・・・→再加熱炉
芯線繰出し機:巻き取られた形状の芯線を繰り出す通常の繰出し機である。
塗布装置:ウォータージェット形状のダイスにより芯線表面に均質にペーストを塗布
した。
加熱装置:ペーストが塗布された芯線を加熱する装置である。この装置として、透明
石英ガラス管にタングステンフィラメントを封じ込んだ棒状ランプを用いた
アルバック理工株式会社製の赤外線ゴールドイメージ炉:型式RHL−E4
10−N(加熱長265mm、最大出力4kw)を3個直列で用いた。
なお、保護管として、ランプ波長の透過性の高い透明石英ガラス管を用いた。
図2にこの棒状ランプのエネルギー分光分布を示す。
巻取り機:ワイヤーソーをボビンに巻取る通常の巻き取り機である。
芯線:ピアノ鋼線(線径;120μm、 破断強度;〜42N)
芯線の走行速度:1200mm/sec
ペーストの塗布量:0.01g/m
赤外線ゴールドイメージ炉:R熱電対計測により720〜750℃となるようPID制御
(実温度は、ワイヤーソーの破断強度が>40 Nに相当の温度)。
再加熱炉:巻取り機でボビンに巻取ったワイヤーソー(接着剤、砥粒付き)を収納し、
加熱する対流式加熱炉。
再加熱炉における加熱:180℃×2時間
【0050】
[実施例2]
レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物の配合比率を
ノボラック型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRP−5417)85重量部
レゾール型フェノール樹脂組成物(商品名:ショウノール BRL−131)15重量部
アミン系シランカップリング剤(商品名:サイラエースS330) 1重量部
ペーストの配合比率
接着剤組成物 100重量部
ニッケルが被覆されたダイヤモンド砥粒(平均粒径:10〜20μm) 80重量部
フィラー(炭化珪素粉末;#8000) 50重量部
溶剤(o−クレゾール) 170重量部
としたほかは、実施例1と同様にしてレジンボンドワイヤーソーを製造した。
【0051】
[比較例1]
レジンボンドワイヤーソー用の接着剤組成物として市販のノボラック型フェノール樹脂組成物(住友ベークライト社製)を用い、加熱装置としてエナメルの焼き付けに用いる竪型焼き付け炉を用いたほかは実施例1と同様にしてワイヤーソーを得た。この竪型焼き付け炉で、炉温300℃、加熱時間20分の加熱を行なった。この竪型焼き付け炉では、炉芯管(アルミナ)内を循環する加熱空気(熱対流)により芯線が加熱されるタイプで発熱体はニクロム線。
【0052】
実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)、実施例2で得られたレジンボンドワイヤーソー(a2)の切削性能を、比較例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(b)と比較した。
切削性能試験
1cm×1cm×2mmの多結晶シリコンピースを水平に張られたワイヤの上方にセットし、ピースを下降移動させて切削し切削深さを測定した。
切削条件
ワイヤー運動:振幅80mm、速度400mm/min(分)の往復動
切削時間:断線まで
ピースの下降速度:0.9mm/min(分)
表1に切削性能試験の結果を示す。表2に試験後のワイヤの砥粒残存率を示す
【0055】
表1から、実施例1、2で得られたレジンボンドワイヤーソーの切削深さが比較例1で得られたレジンボンドワイヤーソーに比べて格段に深いという結果が得られた。また、表2から、砥粒残存率についても実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソーが比較例1で得られたレジンボンドワイヤーソーに比べて格段に大きいという結果が得られた。
【0056】
この差異の理由を調べるため硬化させた樹脂の硬度を調べる次の実験を行った。
【0057】
[実験例2]
ケース1:実施例1で用いた樹脂組成物を加熱硬化させた。(加熱条件:15℃/hrで180℃まで昇温し180℃で2hr保持)
ケース2:比較例1で用いたノボラック型フェノール樹脂組成物をケース1と同じ加熱条件で加熱硬化させた。
【0058】
得られた硬化物の硬度のロックウエル硬さを、明石製作所製の硬度計(ATK−F3000;1/4"鋼球使用、荷重100kgf)を用いて計測した結果を表3に示す。
【0060】
表3は、実施例1で用いた樹脂組成物(ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂の混合物)を硬化してなる硬化物はノボラック型フェノール樹脂を硬化してなる硬化物に比べて硬いことを示しており、このことが本発明のワイヤーソーが切削性(表1、2)に優れている理由のひとつと言える。
【0061】
[分析]
実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)及び比較例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(b)から樹脂硬化物を採取し、網状分子構造と物性を調べた。
【0062】
分子構造
MALDI−TOF−MS法により質量分析を行った。
(MALDI:マトリックス支援レーザー脱離イオン化法、TOF−MS:飛行時間型質量分析法)
使用機器: 島津製作所製AXIMA−CFR
+(SHMAZU)
分析モード:リニアモード 陽イオン、陰イオン検出
真空度:10
−5Pa以下
マトリックス:2,5−ジヒドロキシ安息香酸
レーザー波長:337nm(窒素レーザー)
【0063】
測定結果
図3〜
図6にMALDI−TOF−MS法による質量分析の測定チャートを示す。
図3は比較例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(b)から採取した樹脂硬化物の陽イオン検出チャート、
図4は実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)から採取した樹脂硬化物の陽イオン検出チャート、
図5は比較例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(b)から採取した樹脂硬化物の陰イオン検出チャート、
図6は実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)から採取した樹脂硬化物の陰イオン検出チャートである。
【0064】
図4に示すチャートには208(m/z)間隔のフラグメントを示すピーク(矢印)が検出された。この208(m/z)間隔のフラグメントは下記構造式(構造単位;C
14H
12O
2:212)において、
【0065】
【化1】
芳香環を含む4つの部位で架橋が開裂(フラグメントイオン)した結果生じたものと推測され、実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)から採取した樹脂硬化物中に下記構造
【0066】
【化2】
が反復フラグメントとして網状高分子構造に規則正しく配列することを示している。
【0067】
図3、
図5、
図6には一定間隔のフラグメントを示すピーク(矢印)は検出されなかった。比較例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(b)から採取した樹脂硬化物には化1で示す構造が有為には存在していないと思われる。
【0068】
図3〜
図6に関する上述の結果からみて、208(m/z)間隔のフラグメントを示す分子構造は、本発明の接着剤組成物と近赤外線を含む赤外線を照射したことによりもたらされるものと思われる。
【0069】
示差熱分析
実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)及び比較例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(b)から樹脂硬化物の下記条件で測定した示差熱分析チャートを
図7に示す。
使用装置:TG8120(Rigaku)
昇温速度:10℃/min(分)
雰囲気:N
2ガスフロー
標準物質:アルミナ(Al
2O
3)
試料重量:約10mg
【0070】
図7から、実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)から採取した樹脂硬化物のチャートには175〜180℃の範囲内において明確な軟化点のピークが検出されたのに対して、比較例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(b)から採取した樹脂硬化物には190℃付近に小さな軟化点のピークがみられるにすぎなかった。このことは、(b)から採取した樹脂硬化物の分子の高次構造が不均一で構造変化をともなう転移が明確に発現しなかったためと思われる。また、分子の高次構造が不均一であることが樹脂の硬度に影響し表3に示す硬度の差が生じたものと思われる。従って、実施例1で得られたレジンボンドワイヤーソー(a1)は上述の208(m/z)間隔のフラグメントによりもたらされた一定の構造単位をベースにした高次構造物であり、このことが硬度の高さとして顕れたものと思われる。